説明

光導波路型デバイス、温度計測装置および温度計測方法

【課題】高精度に温度を計測する際に好適に用いられ得る光導波路型デバイスを提供する。
【解決手段】光導波路型デバイス10は、基板100上に光導波路111〜114が形成されていて、光導波路111と光導波路112とが光カプラ121および光カプラ122それぞれにおいて光結合されていて第1マッハツェンダ干渉計を構成し、光導波路113と光導波路114とが光カプラ123および光カプラ124それぞれにおいて光結合されていて第2マッハツェンダ干渉計を構成している。光導波路112の一部区間112Bのコアの屈折率の温度依存性は、光導波路111および光導波路112の他の光導波路部分112A,112Cと異なる。光導波路114の一部区間114Bのコアの屈折率の温度依存性は、光導波路113および光導波路114の他の光導波路部分114A,114Cと異なる。区間112Bの長さと区間114Bの長さとは互いに異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度を計測する装置および方法、ならびに、この温度計測に用いられる光導波路型デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ等の光導波路を用いた温度計測技術として例えば特許文献1,2に開示されたものが知られている。特許文献1に開示された技術は、終端部に無反射処理を施した光ファイバの一端に光を入射させ、その光ファイバにおいて生じる後方散乱光のうち特定波長の光パワーを検出することで、その光ファイバにおける長手方法の温度分布を計測するものである。また、特許文献2に開示された技術は、測定対象からの放射光を光ファイバにより導光し、その導光した放射光のうちの互いに異なる2つの波長帯それぞれにおいて光パワーを検出して、これら2つの光パワーに基づいて測定対象の温度を計測するものである。
【特許文献1】特許第2724246号公報
【特許文献2】特許第3325700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの文献に記載された温度計測技術は、何れも、比較的広い温度範囲で温度を計測することができるものの、精度が悪い。本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、高精度に温度を計測することができる温度計測装置および温度計測方法、ならびに、これらの装置または方法において好適に用いられ得る光導波路型デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る光導波路型デバイスは、基板上に第1光導波路,第2光導波路,第3光導波路および第4光導波路が形成され、第1光導波路と第2光導波路とが第1光カプラおよび第2光カプラそれぞれにおいて光結合されて第1のマッハツェンダ干渉計を構成し、第1光カプラと第2光カプラとの間において第2光導波路の一部区間(長さL)のコアの屈折率の温度依存性が他の光導波路部分と異なり、第3光導波路と第4光導波路とが第3光カプラおよび第4光カプラそれぞれにおいて光結合されて第2のマッハツェンダ干渉計を構成し、第3光カプラと第4光カプラとの間において第4光導波路の一部区間(長さL、ただし、L≠L)のコアの屈折率の温度依存性が他の光導波路部分と異なる、ことを特徴とする。
【0005】
本発明に係る光導波路型デバイスでは、第1光導波路および第2光導波路の何れか一方の一端に光が入射すると、第1マッハツェンダ干渉計を経て第1光導波路および第2光導波路それぞれの他端から光が出射されるが、第2光導波路の一部区間のコアの屈折率の温度依存性が他の光導波路部分と異なることから、そのときの各々の光透過特性は温度により変化する。同様に、第3光導波路および第4光導波路の何れか一方の一端に光が入射すると、第2マッハツェンダ干渉計を経て第3光導波路および第4光導波路それぞれの他端から光が出射されるが、第4光導波路の一部区間のコアの屈折率の温度依存性が他の光導波路部分と異なることから、そのときの各々の光透過特性も温度により変化する。さらに、第2光導波路の一部区間の長さLと第4光導波路の一部区間の長さLとは互いに異なるので、第1マッハツェンダ干渉計および第2マッハツェンダ干渉計それぞれにおける光透過特性は互いに異なる。このような光導波路型デバイスの特性を利用することで、高精度に温度を計測することが可能となる。
【0006】
本発明に係る光導波路型デバイスは、第2光導波路の一部区間および第4光導波路の一部区間それぞれのコアが液体からなるのが好適である。第2光導波路の一部区間および第4光導波路の一部区間それぞれにおいて、コア部分に液体を注入出する為の少なくとも2つの注入出孔が、コアからオーバークラッドを貫通して上面まで設けられているのが好適である。また、第2光導波路の一部区間および第4光導波路の一部区間それぞれにおいて、オーバークラッド上の各々の注入出孔の開口部の周囲に液溜まりが設けられているのが好適である。
【0007】
本発明に係る温度計測装置は、(1) 上記の本発明に係る光導波路型デバイスと、(2) 光を出力する光源部と、(3) 光源部から出力された光を光導波路型デバイスの第1光導波路および第2光導波路の何れか一方の一端に入射させるとともに、光源部から出力された光を光導波路型デバイスの第3光導波路および第4光導波路の何れか一方の一端に入射させる入射光学系と、(4) 光導波路型デバイスの第1光導波路,第2光導波路,第3光導波路および第4光導波路それぞれの他端から出射される光のパワーを検出する検出部と、(5) 光導波路型デバイスの第1光導波路,第2光導波路,第3光導波路および第4光導波路それぞれの他端から検出部へ光を導く出射光学系と、(6) 検出部による検出結果に基づいて光導波路型デバイスの温度を求める解析部と、を備えることを特徴とする。また、入射光学系および出射光学系それぞれが、光導波路型デバイスに対して光を入出射する光ファイバを含むのが好適である。
【0008】
本発明に係る温度計測方法は、(1) 上記の本発明に係る光導波路型デバイスを用い、(2) 第1光導波路および第2光導波路の何れか一方の一端に光を入射させて、第1マッハツェンダ干渉計を経て第1光導波路の他端から出射する光のパワーPを検出するとともに、第1マッハツェンダ干渉計を経て第2光導波路の他端から出射する光のパワーPを検出し、(3) 第3光導波路および第4光導波路の何れか一方の一端に光を入射させて、第2マッハツェンダ干渉計を経て第3光導波路の他端から出射する光のパワーPを検出するとともに、第2マッハツェンダ干渉計を経て第4光導波路の他端から出射する光のパワーPを検出し、(4) これら4つの光パワーP〜Pに基づいて光導波路型デバイスの温度を計測することを特徴とする。また、光ファイバを用いて光導波路型デバイスに対して光を入出射するのが好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高精度に温度を計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る温度計測装置1の構成図である。この図に示される温度計測装置1は、光導波路型デバイス10、光源部20、検出部30、解析部40、入射用光ファイバ51,53および出射用光ファイバ61〜64を備える。
【0012】
光導波路型デバイス10は、基板100上に第1光導波路111,第2光導波路112,第3光導波路113および第4光導波路114が形成されたものである。第1光導波路111と第2光導波路112とは、各々の光路の途中の2箇所において互いに光結合し得る間隔になっていて第1光カプラ121および第2光カプラ122を構成している。すなわち、第1光導波路111と第2光導波路112とは、第1光カプラ121および第2光カプラ122それぞれにおいて光結合されていて、第1のマッハツェンダ干渉計を構成している。また、第3光導波路113と第4光導波路114とは、各々の光路の途中の2箇所において互いに光結合し得る間隔になっていて第3光カプラ123および第4光カプラ124を構成している。すなわち、第3光導波路113と第4光導波路114とは、第3光カプラ123および第4光カプラ124それぞれにおいて光結合されていて、第2のマッハツェンダ干渉計を構成している。
【0013】
光源部20は、光導波路型デバイス10の第1光導波路111および第3光導波路113それぞれの一端(入射端)に入射させるべき光を出力する。光ファイバ51は、光源部20から出力された光を一端に入射し、その一端に入射した光を他端まで導光し、その他端から光を出射して光導波路型デバイス10の第1光導波路111の入射端に入射させる。また、光ファイバ53は、光源部20から出力された光を一端に入射し、その一端に入射した光を他端まで導光し、その他端から光を出射して光導波路型デバイス10の第3光導波路113の入射端に入射させる。
【0014】
検出部30は、光導波路型デバイス10の第1光導波路111,第2光導波路112,第3光導波路113および第4光導波路114それぞれの他端(出射端)から出射される光のパワーを検出する。光ファイバ61は、光導波路型デバイス10の第1光導波路111の出射端から出射された光を一端に入射し、その一端に入射した光を他端まで導光し、その他端から光を出射して検出部30の受光素子に入射させる。光ファイバ62は、光導波路型デバイス10の第2光導波路112の出射端から出射された光を一端に入射し、その一端に入射した光を他端まで導光し、その他端から光を出射して検出部30の受光素子に入射させる。光ファイバ63は、光導波路型デバイス10の第3光導波路113の出射端から出射された光を一端に入射し、その一端に入射した光を他端まで導光し、その他端から光を出射して検出部30の受光素子に入射させる。また、光ファイバ64は、光導波路型デバイス10の第4光導波路114の出射端から出射された光を一端に入射し、その一端に入射した光を他端まで導光し、その他端から光を出射して検出部30の受光素子に入射させる。
【0015】
解析部40は、光源部20から出射され光導波路型デバイス10の第1光導波路111の入射端に入射された光のパワーP1,in、および、光源部20から出射され光導波路型デバイス10の第3光導波路113の入射端に入射された光のパワーP3,inを入力する。また、解析部40は、光導波路型デバイス10の第1光導波路111の出射端から出射され検出部30により検出された光のパワーP1,out、光導波路型デバイス10の第2光導波路112の出射端から出射され検出部30により検出された光のパワーP2,out、光導波路型デバイス10の第3光導波路113の出射端から出射され検出部30により検出された光のパワーP3,out、および、光導波路型デバイス10の第4光導波路114の出射端から出射され検出部30により検出された光のパワーP4,outを入力する。
【0016】
さらに、解析部40は、入力光パワーP1,inおよび出力光パワーP1,outに基づいて第1光導波路111の入射端から第1光導波路111の出射端までの光の透過損失αを求め、入力光パワーP1,inおよび出力光パワーP2,outに基づいて第1光導波路111の入射端から第2光導波路112の出射端までの光の透過損失αを求め、入力光パワーP3,inおよび出力光パワーP3,outに基づいて第3光導波路113の入射端から第3光導波路113の出射端までの光の透過損失αを求め、また、入力光パワーP3,inおよび出力光パワーP4,outに基づいて第3光導波路113の入射端から第4光導波路114の出射端までの光の透過損失αを求める。そして、解析部40は、上記の透過損失α〜αに基づいて、光導波路型デバイス10の温度を求める。
【0017】
なお、光ファイバ51,52,61〜64については、例えば8芯の光ファイバテープ心線を用いることができる。このようなテープファイバを用いると、各光ファイバの局所的な曲げなどによって各光ファイバの損失が変動したとしても、6本の光ファイバにほぼ同じ変動が加わることになる。
【0018】
図2は、本実施形態に係る光導波路型デバイス10の平面図である。光導波路型デバイス10は、基板100上に第1光導波路111,第2光導波路112,第3光導波路113および第4光導波路114が形成されていて、第1光導波路111と第2光導波路112とが第1光カプラ121および第2光カプラ122それぞれにおいて光結合されていて第1のマッハツェンダ干渉計を構成し、また、第3光導波路113と第4光導波路114とが第3光カプラ123および第4光カプラ124それぞれにおいて光結合されていて第2のマッハツェンダ干渉計を構成している。
【0019】
さらに、第1マッハツェンダ干渉計において第1光カプラ121と第2光カプラ122との間で、第2光導波路112の一部区間112Bのコアの屈折率の温度依存性は、第1光導波路111および第2光導波路112の他の光導波路部分112A,112Cと異なる。また、第2マッハツェンダ干渉計において第3光カプラ123と第4光カプラ124との間で、第4光導波路114の一部区間114Bのコアの屈折率の温度依存性は、第3光導波路113および第4光導波路114の他の光導波路部分114A,114Cと異なる。また、第2光導波路112の一部区間112Bの長さLと、第4光導波路114の一部区間114Bの長さLとは、互いに異なる(L≠L)。
【0020】
このような光導波路型デバイス10は、好適には、第2光導波路112の一部区間112Bおよび第4光導波路114の一部区間114Bを除く部分については、石英ガラスを主成分として、各々のコアに屈折率上昇材(例えばGeO)が添加されたものである。一方、第2光導波路112の一部区間112Bおよび第4光導波路114の一部区間114Bそれぞれのコアは液体からなるのが好適である。
【0021】
図3は、本実施形態に係る光導波路型デバイス10における各所の光導波路の断面図である。同図(a)は、第2光導波路112の一部区間112Bおよび第4光導波路114の一部区間114Bを除く各所の光導波路(代表例として第1光導波路111)の断面図を示す。この図に示されるように、基板100の上に矩形断面のコアが形成され、これらの上にオーバークラッド130が形成されて、光導波路が構成されている。これら各領域は石英ガラスを主成分とする。
【0022】
同図(b)は、第2光導波路112の一部区間112Bまたは第4光導波路114の一部区間114Bにおける両端近傍を除く各所(代表例として第2光導波路112の一部区間112B)の断面図(図2中のA−A’断面)を示す。この図に示されるように、基板100の上に矩形断面のコアが設けられ、これらの上にオーバークラッド130が形成されて、第2光導波路112の一部区間112Bおよび第4光導波路114の一部区間114Bそれぞれが構成されている。基板100およびオーバークラッド130は石英ガラスを主成分する。一方、コアが設けられるべき領域は空洞とされていて、その空洞に液体が注入されてコアとなっている。
【0023】
同図(c)は、第2光導波路112の一部区間112Bまたは第4光導波路114の一部区間114Bにおける端部(代表例として第2光導波路112の一部区間112Bの端部)の断面図(図2中のB−B’断面)を示す。この図に示されるように、第2光導波路112の一部区間112Bの両端部それぞれにおいて、コア部分に液体を注入出する為の注入出孔112Dが、コアからオーバークラッド130を貫通して上面まで設けられている。また、オーバークラッド130上の各注入出孔112Dの開口部の周囲に液溜まり140が設けられている。第4光導波路114の一部区間114Bの両端部についても同様である。同図(d)は、同図(c)の変形例である。この図に示される断面では、第2光導波路112の一部区間112Bの液体部分は、第2光導波路112のコア断面の一部となっている。
【0024】
次に、光導波路型デバイス10の製造方法の一例を説明する。図4は、本実施形態に係る光導波路型デバイス10の製造方法を説明する工程図である。この図は、特に、第1光導波路111および第2光導波路112について製造方法を示している。
【0025】
初めに、石英ガラスからなる基板100を用意し、プラズマCVD、FHDまたはスパッタ等の方法で、コアとなるべき所定厚のGe添加石英ガラス膜110を基板100上に堆積する(同図(a))。1回目のフォトリソグラフィーとリアクティブイオンエッチングで、このGe添加石英ガラス膜110を所定幅および所定高になるように加工する(同図(b))。この上に更に、プラズマCVDまたはFHDにより、所定厚の第1オーバークラッド131を堆積する(図4(c))。
【0026】
さらに、2回目のフォトリソグラフィーとリアクティブイオンエッチングで、第2光導波路112の一部区間112Bとなるべき部分に所定幅および所定深さの溝115を掘る(図4(d))。これにプラズマCVDで所定厚の第2オーバークラッド132を堆積し、溝上部を塞いで空洞116とする(図4(e))。第1オーバークラッド131および第2オーバークラッド132は、前述のオーバークラッド130となる。
【0027】
3回目のフォトリソグラフィーとリアクティブイオンエッチングで、所定直径で空洞116まで貫通する深さの液入出孔117を形成する(図4(f))。オーバークラッド132上面の液入出孔117の開口の周囲にフィルム140を貼り付け、空洞116の両端に相当する部分に針で穴を開けてフィルム140を貫通させ、所定直径の液溜まりを形成する(図4(g))。最終工程の液溜まりは、フォトリソグラフィーとリアクティブイオンエッチングで、オーバークラッドガラスを加工して形成することもできる。液入出孔の周りに液入出孔の片側から液を入れ、液入出孔の他端まで液を到達させる。
【0028】
次に、本実施形態に係る温度計測装置1および光導波路型デバイス10の具体的構成および動作の一例について説明する。基板100およびオーバークラッド130それぞれは石英ガラスからなる。第1光導波路111および第3光導波路113それぞれは、Geが添加された石英ガラスからなる。第2光導波路112については、一部区間112Bがインデックスマッチングオイルからなり、その他の区間がGe添加石英ガラスからなる。第4光導波路114については、一部区間114Bがインデックスマッチングオイルからなり、その他の区間がGe添加石英ガラスからなる。
【0029】
純石英ガラスの屈折率は1.444である。Ge添加石英ガラスコアの屈折率は1.447である。インデックスマッチングオイルの屈折率は1.45である。なお、これらの屈折率は、何れも、温度25℃で波長1.55μmにおける値である。Ge添加石英ガラスおよび石英ガラスそれぞれの屈折率の温度依存性は8×10−6℃である。インデックスマッチングオイルの屈折率の温度依存性は−0.0002/℃である。
【0030】
光導波路111〜114それぞれのコアの断面形状は、7.5μm×7.5μmの正方形である。光導波路111〜114それぞれの曲線部分の最小曲率半径は2.5mmである。光カプラ121〜124ぞれぞれの波長1.55μmにおける分岐比は1:1である。第1光カプラ121と第2光カプラ122との間における第1光導波路111および第2光導波路112それぞれの直線部分の長さは5mmである。第3光カプラ123と第4光カプラ124との間における第3光導波路113および第4光導波路114それぞれの直線部分の長さは5mmである。第2光導波路112の一部区間112Bの長さLは0.5mmであり、第4光導波路114の一部区間114Bの長さLは5mmである。
【0031】
インデックスマッチングオイルの部分の断面形状も7.5μm×7.5μmの正方形である。インデックスマッチングオイル部の両端には、オーバークラッド130上面からオーバークラッド130を貫通してコアに至るまで注入出孔が設けられ、その開口部の周囲に液溜まりが設けられており、液体の出入りが可能となっている。この貫通構造および液溜まりとにより、例えば光導波路型デバイス10の周囲の温度変化によってインデックスマッチングオイルの体積が変化しても、インデックスマッチングオイルに気泡が混入することを防止できる。
【0032】
このように構成される光導波路型デバイス10を用いて、図1に示されるような温度計測装置1を構成する。光源部20は、波長1.55μmのレーザ光を出力する半導体レーザ素子を含む。また、検出部30は受光素子としてフォトダイオードを含む。
【0033】
光源部20から出力された波長1.55μmのレーザ光は、光ファイバ51により導かれて光導波路型デバイス10の第1光導波路111の入射端に入射するとともに、光ファイバ53により導かれて光導波路型デバイス10の第3光導波路113の入射端に入射する。光導波路型デバイス10の第1光導波路111の入射端に入射した光は、第1マッハツェンダ干渉計を経て、第1光導波路111の出射端および第2光導波路112の出射端それぞれから出力される。光導波路型デバイス10の第3光導波路113の入射端に入射した光は、第2マッハツェンダ干渉計を経て、第3光導波路113の出射端および第4光導波路114の出射端それぞれから出力される。
【0034】
第1光導波路111の出射端から出力された光は、光ファイバ61により導かれて、検出部30によりパワーが検出される。第2光導波路112の出射端から出力された光は、光ファイバ62により導かれて、検出部30によりパワーが検出される。第3光導波路113の出射端から出力された光は、光ファイバ63により導かれて、検出部30によりパワーが検出される。また、第4光導波路114の出射端から出力された光は、光ファイバ64により導かれて、検出部30によりパワーが検出される。
【0035】
そして、解析部40により、第1光導波路111の入射端に入射された光のパワーP1,in、第3光導波路113の入射端に入射された光のパワーP3,in、第1光導波路111の出射端から出射された光のパワーP1,out、第2光導波路112の出射端から出射された光のパワーP2,out、第3光導波路113の出射端から出射された光のパワーP3,out、および、第4光導波路114の出射端から出射された光のパワーP4,outに基づいて、第1光導波路111の入射端から第1光導波路111の出射端までの光の透過損失α、第1光導波路111の入射端から第2光導波路112の出射端までの光の透過損失α、第3光導波路113の入射端から第3光導波路113の出射端までの光の透過損失α、および、第3光導波路113の入射端から第4光導波路114の出射端までの光の透過損失αが求められ、さらに、これら透過損失α〜αに基づいて光導波路型デバイス10の温度が求められる。
【0036】
図5は、本実施形態に係る光導波路型デバイス10における透過損失α,αそれぞれの温度依存性を示すグラフである。また、図6は、本実施形態に係る光導波路型デバイス10における透過損失α,αそれぞれの温度依存性を示すグラフである。なお、これらの関係は、あらかじめ温度のわかった炉などを用いて測定しておく。
【0037】
温度を測定したい場所に光導波路型デバイス10を設置して温度計測を行う。この場所の温度が40℃〜50℃の範囲にあることは、他の簡易な温度計によってわかっている。例えば、透過損失αが6.2dBであって透過損失αが1.4dBであるとき、温度が43.3℃であることがわかる。更にこの同じ温度状態で透過損失αが1.3dBであって透過損失αが6.3dBであるとすると、温度が43.25℃であることがわかる。光出力測定の精度が±0.2dB程度の光学測定系を用いたとき、この温度範囲で曲線の接線の傾きの大きい透過損失αの値を用いれば、温度の測定精度は±0.006℃程度となる。
【0038】
マッハツェンダ干渉計では、同じ値の光出力を与える温度は、図5,図6からわかるように周期的にめぐってくる。ひとつのマッハツェンダ干渉計を用いただけでは、どの温度領域を測定しているのかわからない。
【0039】
すなわち、光導波路デバイス10で、αが6.2dB、αが1.4dBという値を示すのは、図5からわかるように、43.3℃付近の他、37℃付近(図5、点A)、25℃付近(図5、点B)など複数ある。測定している温度が25℃か37℃か43℃かは、他の簡易な温度計によっても、十分計測することができる。その値を知った上で、αとαから、より正確な温度を知ることができる。
【0040】
光導波路デバイス10で、αが1.3dB、αが6.3dBという値を示すのは、図6からわかるように、43.25℃の他、42.6℃付近(図6、点C)、41.3℃付近(図6、点D)、40.6℃付近(図6、点E)など複数ある。αとαとの値から、測定温度範囲が43.3℃近辺であることがわかっているので、αとαとから、計測対象の温度が43.25℃と判定することができる。
【0041】
光出力の測定精度が±0.2dB程度の光学測定系を用いるとすると、マッハツェンダ干渉計の一部区間の長さが長いほど、ある目的の温度付近においては、温度変化に対する損失変化が大きくなるので、温度に対して感度の良い、すなわち、より精度の高い温度計測が可能となる。
【0042】
一方、一部区間が長いほど、温度変化に対する損失変化の周期は短くなる。同じ「αとα」または「αとα」を与える温度の間隔が小さくなる。したがって、第1マッハツェンダ干渉計の一部区間の長さは、同じ「αとα」を与える温度周期が他の簡易な温度計で測定できる温度精度よりも小さくならないように、設定するのが好ましい。このとき、一部区間が長すぎてはいけない。同様に、第2マッハツェンダ干渉計の一部区間の長さは、同じ「αとα」を与える温度周期が、第1マッハツェンダ干渉計で測定できる温度精度よりも小さくなりすぎないように設定するのが好ましい。このとき、一部区間が長すぎてはいけない。
【0043】
第1マッハツェンダ干渉計は、α、αの温度変化の周期が5〜10℃程度となるように一部区間の長さを設定し、第2マッハツェンダ干渉計は、一部区間の長さが第1マッハツェンダ干渉計の5〜20倍程度となるように設定するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態に係る温度計測装置1の構成図である。
【図2】本実施形態に係る光導波路型デバイス10の平面図である。
【図3】本実施形態に係る光導波路型デバイス10における各所の光導波路の断面図である。
【図4】本実施形態に係る光導波路型デバイス10の製造方法を説明する工程図である。
【図5】本実施形態に係る光導波路型デバイス10における透過損失α,αそれぞれの温度依存性を示すグラフである。
【図6】本実施形態に係る光導波路型デバイス10における透過損失α,αそれぞれの温度依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
1…温度計測装置、10…光導波路型デバイス、20…光源部、30…検出部、40…解析部、51,53…入射用光ファイバ、61〜64…出射用光ファイバ、100…基板、111…第1光導波路、112…第2光導波路、113…第3光導波路、114…第4光導波路、121…第1光カプラ、122…第2光カプラ、123…第3光カプラ、124…第4光カプラ、130…オーバークラッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1光導波路,第2光導波路,第3光導波路および第4光導波路が形成され、
前記第1光導波路と前記第2光導波路とが第1光カプラおよび第2光カプラそれぞれにおいて光結合されて第1のマッハツェンダ干渉計を構成し、
前記第1光カプラと前記第2光カプラとの間において前記第2光導波路の一部区間(長さL)のコアの屈折率の温度依存性が他の光導波路部分と異なり、
前記第3光導波路と前記第4光導波路とが第3光カプラおよび第4光カプラそれぞれにおいて光結合されて第2のマッハツェンダ干渉計を構成し、
前記第3光カプラと前記第4光カプラとの間において前記第4光導波路の一部区間(長さL、ただし、L≠L)のコアの屈折率の温度依存性が他の光導波路部分と異なる、
ことを特徴とする光導波路型デバイス。
【請求項2】
前記第2光導波路の前記一部区間および前記第4光導波路の前記一部区間それぞれのコアが液体からなることを特徴とする請求項1記載の光導波路型デバイス。
【請求項3】
前記第2光導波路の前記一部区間および前記第4光導波路の前記一部区間それぞれにおいて、コア部分に液体を注入出する為の少なくとも2つの注入出孔が、コアからオーバークラッドを貫通して上面まで設けられている、ことを特徴とする請求項2記載の光導波路型デバイス。
【請求項4】
前記第2光導波路の前記一部区間および前記第4光導波路の前記一部区間それぞれにおいて、オーバークラッド上の各々の注入出孔の開口部の周囲に液溜まりが設けられている、ことを特徴とする請求項3記載の光導波路型デバイス。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の光導波路型デバイスと、
光を出力する光源部と、
前記光源部から出力された光を前記光導波路型デバイスの前記第1光導波路および前記第2光導波路の何れか一方の一端に入射させるとともに、前記光源部から出力された光を前記光導波路型デバイスの前記第3光導波路および前記第4光導波路の何れか一方の一端に入射させる入射光学系と、
前記光導波路型デバイスの前記第1光導波路,前記第2光導波路,前記第3光導波路および前記第4光導波路それぞれの他端から出射される光のパワーを検出する検出部と、
前記光導波路型デバイスの前記第1光導波路,前記第2光導波路,前記第3光導波路および前記第4光導波路それぞれの他端から前記検出部へ光を導く出射光学系と、
前記検出部による検出結果に基づいて前記光導波路型デバイスの温度を求める解析部と、
を備えることを特徴とする温度計測装置。
【請求項6】
前記入射光学系および前記出射光学系それぞれが、前記光導波路型デバイスに対して光を入出射する光ファイバを含む、ことを特徴とする請求項5記載の温度計測装置。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか1項に記載の光導波路型デバイスを用い、
前記第1光導波路および前記第2光導波路の何れか一方の一端に光を入射させて、前記第1マッハツェンダ干渉計を経て前記第1光導波路の他端から出射する光のパワーPを検出するとともに、前記第1マッハツェンダ干渉計を経て前記第2光導波路の他端から出射する光のパワーPを検出し、
前記第3光導波路および前記第4光導波路の何れか一方の一端に光を入射させて、前記第2マッハツェンダ干渉計を経て前記第3光導波路の他端から出射する光のパワーPを検出するとともに、前記第2マッハツェンダ干渉計を経て前記第4光導波路の他端から出射する光のパワーPを検出し、
これら4つの光パワーP〜Pに基づいて前記光導波路型デバイスの温度を計測する、
ことを特徴とする温度計測方法。
【請求項8】
光ファイバを用いて前記光導波路型デバイスに対して光を入出射することを特徴とする請求項7記載の温度計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−170918(P2007−170918A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366855(P2005−366855)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】