説明

光散乱素子、光散乱装置、照明装置及び網膜走査型画像表示装置

【課題】入射したコヒーレント光を散乱し、その散乱されたコヒーレント光により生ずるスペックルパタンを変化させるための光散乱素子は、光散乱部と振動付与部とが分離しているために、素子全体が大型化した。
【解決手段】光散乱素子1は、圧電体2と、交番電圧を入力して圧電体2に振動を生じさせる電極3a、3bと、圧電体2の表面又は表面近傍に形成され、入射したコヒーレント光を散乱する光散乱面4とを備え、圧電体2をコヒーレント光の光路中に挿入し、圧電体2を振動させることにより、散乱されたコヒーレント光により生ずるスペックルパタンに変化を生じさせる光散乱素子とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光源等のコヒーレント光を用いて画像等を形成する際に生ずるスペックルノイズを除去する光散乱素子及びこれを用いた光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置等の光源として、レーザ光源が使用されてきている。レーザ光源は色純度が高く、演色性の高い鮮やかな画像を形成することができる。また、近年特にレーザダイオードの高輝度化、長寿命化が進んでいる。投影装置等に用いられてきた水銀ランプ等と比較して、レーザダイオードは小型軽量であり、照明装置や映像装置への適用が好適である。
【0003】
一方、レーザ光を光源として画像表示を行う場合に、スペックルノイズが問題となる。レーザ光はコヒーレント光であって干渉性が高い。このため、スクリーン等の散乱面で各方向に散乱した光が相互に干渉し、ある空間的分布を持った細かい明暗の斑点を生じる。これがスペックルパタンであり、この状態で画像提示を行うと、前記斑点状スペックルパタンが画像に重畳されて画像品質を著しく低下させる。
【0004】
このスペックルノイズを防止するために、レーザ光源と画像形成用の空間変調器の間の光路中に光散乱素子を挿入し、この光散乱素子を外力により高速に振動させて散乱方向をさまざまに変えてやることでスペックルパタンを平均化し、スペックルコントラストを低減させる試みが多くなされている。
【0005】
図12は、この種の画像表示装置を示すブロック図である(特許文献1を参照)。半導体レーザ100から出射されたコヒーレント光は、コリメータレンズ101により導かれて光散乱素子であるビーム整形素子102に入射する。入射したコヒーレント光はビーム整形素子102により散乱されて液晶表示装置等からなる空間変調素子104に照射される。ここで、ビーム整形素子102は、加振手段103により振動が加えられるように構成されている。ビーム整形素子102は、ポリエステル、ポリカーボネイトなどの合成樹脂が用いられ、加振手段103は、圧電体、ボイスコイル、超音波モータなどが用いられている。また、ビーム整形素子102は散乱面を有し、入射するコヒーレント光を所定の強度分布に配光させる。この散乱面を加振手段103により、例えば30Hz以上の周波数で振動させる。これにより、空間変調素子104により変調された画像光は、その後図示しない光学系を経て被照射面に至るが、被照射面においてスペックルパタンが平均化され、画像品質の劣化を抑える構成としている。
【0006】
図13は、レーザ光のスペックルノイズを除去するためのスペックル除去手段のブロック図である(特許文献2を参照)。レーザ光源105から出射されたコヒーレント光は拡散素子107に入射して拡散され、拡散光108として出射される。拡散素子107の周囲を覆うように配置された外力発生手段106は、拡散素子107に振動を与えることができる。拡散素子107は、2枚の基板間に、透光性の液体からなる分散媒とこの分散媒中に分散された微粒子からなる分散質とを挟持するセルから構成されている。外力発生手段106は、この拡散素子107に微小振動を与え、この微小振動によりレーザ光のコヒーレンシーを低下させることで、スペックルノイズを低減化するように構成されている。
【0007】
拡散素子107のセル内の分散質として、例えばTiBaOなどの誘電分極を起こす微粒子や、金属、硫化物等の電気泳動微粒子を使用する。あるいは、拡散素子107を液晶セルとし、外力発生手段は液晶セルに印加する電界としている。また、拡散素子107のセル内の分散質を磁性体微粒子とし、外力発生手段106を誘導コイルとしている。
【特許文献1】特開2004−138669号公報
【特許文献2】特開平11−218726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2においては、光拡散素子であるビーム整形素子102や拡散素子107の他に、拡散素子107に振動を生じさせるためのボイスコイル、超音波モータ、あるいは、拡散素子107の周囲を囲むようにして配置した電極や、誘導コイルを必要とし、そのために、拡散素子の外形が大きくなり、また、部品点数も増加して、装置全体が大型化するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては上記課題を解決するために以下の手段を講じた。
【0010】
請求項1に係る発明においては、入射したコヒーレント光を散乱し、その散乱されたコヒーレント光により生ずるスペックルパタンを変化させる光散乱素子であって、圧電体と、交番電圧を入力して前記圧電体に振動を生じさせる電極と、前記圧電体の表面又は表面近傍に形成され、前記入射したコヒーレント光を散乱する光拡散面とを備え、前記圧電体を前記コヒーレント光の光路中に挿入し、前記電極に交番電圧を入力することにより、前記散乱されたコヒーレント光により生ずるスペックルパタンに変化を生じさせる光散乱素子とした。
【0011】
請求項2に係る発明においては、前記圧電体は、前記コヒーレント光を透過する透光性圧電体であることを特徴とする請求項1に記載の光拡散素子とした。
【0012】
請求項3に係る発明においては、前記電極は、前記コヒーレント光の光路に対して略垂直方向に電界を生じさせるように配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光散乱素子とした。
【0013】
請求項4に係る発明においては、前記電極は、前記コヒーレント光の光路と略同一方向に電界を生じさせるように配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光散乱素子とした。
【0014】
請求項5に係る発明においては、前記圧電体は、前記電極に交番電圧を入力することにより共振振動を生ずることを特徴とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光散乱素子とした。
【0015】
請求項6に係る発明においては、前記電極は、前記コヒーレント光の光路中に形成された透光性電極であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光散乱素子とした。
【0016】
請求項7に係る発明においては、前記圧電体は、PLZTからなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光散乱素子とした。
【0017】
請求項8に係る発明においては、前記圧電体は、高分子材料からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光散乱素子とした。
【0018】
請求項9に係る発明においては、請求項1〜8のいずれか1項に記載した光散乱素子と、前記光散乱素子を駆動するための駆動回路とを備えた光散乱装置とした。
【0019】
請求項10に係る発明においては、請求項1〜8のいずれか1項に記載した光散乱素子と、前記光散乱素子にコヒーレント光を照射するための光源と、前記光散乱素子を駆動する駆動回路とを備えた照明装置とした。
【0020】
請求項11に係る発明においては、請求項1〜8のいずれか1項に記載した光散乱素子と、前記光散乱素子を駆動する駆動回路と、コヒーレント光を発光する光源と、画像を生成するための光走査系とを備える網膜走査型画像表示装置とした。
【発明の効果】
【0021】
請求項1、9〜11に係る光散乱素子、光散乱装置、照明装置、画像表示装置では、圧電体に電極を形成すると共に圧電体の表面又は表面近傍に光拡散面を形成し、この圧電体をコヒーレント光の光路中に挿入したときに、上記電極に交番電圧が印加されることにより生じる圧電体の振動を上記光拡散面に伝達して該散乱面に起因するスペックルパタンに変化を生じさせることができる。これにより、光散乱素子に加振手段等の外部素子を取り付けることなく光散乱面に振動を伝達することができるので、スペックルノイズ低減素子としての光散乱素子を軽量かつコンパクトに構成することができる、という利点を有する。
【0022】
請求項2に係る光散乱素子は、圧電体をコヒーレント光が透過する透光性圧電体とした。これにより、光散乱面を備える透光性圧電体自体が振動するので、他に加振手段等を設ける必要がなく、軽量かつコンパクトに光散乱素子を構成することができる、という利点を有する。
【0023】
請求項3に係る光散乱素子は、圧電体に形成した電極がコヒーレント光の光路に対して略垂直方向に電界を生じさせるように配置されるようにした。これにより、光路に直交する面内に圧電体の伸縮運動を生じさせることができる、という利点を有する。
【0024】
請求項4に係る光散乱素子は、圧電体に形成した電極がコヒーレント光の光路と略同一方向に電界を生じさせるように配置されるようにした。これにより、圧電体に高電界を印加することができるようになり、駆動電圧を低下させることができる、という利点を有する。
【0025】
請求項5に係る光散乱素子は、電極に印加される交番電圧により圧電体が共振振動を行うようにした。これにより、圧電体の振幅が大きくなり、光散乱面に大振幅の振動を生じさせることができるので、スペックルパタンを数多く変化させ平均を多く取ることができる、という利点を有する。
【0026】
請求項6に係る光散乱素子は、電極がコヒーレント光の光路中に形成された透光性電極とした。これにより、コヒーレント光の光路中に電極を形成することが可能となり、電極の設計自由度を大きくとることができるという利点を有する。
【0027】
請求項7に係る光散乱素子は、圧電体をPLZTから形成した。これにより、圧電体を誘電率の大きな透光性強誘電性圧電体とすることができ、光散乱面に大振幅の振動を与えることができる、という利点を有する。
【0028】
請求項8に係る光散乱素子は、圧電体を高分子材料からなる材料とした。これにより、光散乱素子を軽量に且つ任意の形状に形成することができる、という利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
【0030】
<光散乱素子の第1実施形態>
図1は、本発明に係る光散乱素子1の第1実施形態を表し、図1(a)が斜視図であり、図1(b)が断面図である。図1に示すように、透光性の板状の圧電体2の上下端面には金属膜からなる電極3a、3bが対向するように形成されている。圧電体2は、電極3aの下部に形成した支持部10により支持されている。圧電体2の表面には光散乱面4が形成されており、圧電体2と共にコヒーレント光7の光路に挿入されている。なお、支持部10は電極3aの下部に設けるほかに、圧電体2の側端部を支持するようにしてもよい。また、駆動回路5は電極3a、3bに対して交番電圧を印加することができ、光散乱素子1と駆動回路5とを備えて光散乱装置を構成している。
【0031】
圧電体2の表面には光散乱面4が形成されているので、入射したコヒーレント光7は光軸8に対して所定の配光特性を持つ散乱光9として出射される。駆動回路5により電極3a、3bに交番電圧を印加することにより、圧電体2の内部には光軸8の方向に対して略直交する方向に電界が生じる。この電界により圧電体2は光軸8の方向に対して垂直面内にて振動する。光散乱面4は圧電体2の表面に形成されているので、光散乱面4が振動する。よって、人間の目の応答時間よりも短いある時間幅内に、ある特定の空間を通過して前記散乱面に入ってくる光は、前記散乱面のさまざまな異なる箇所を通過したのち、後段の光学系を経て観察者によって観察される。従って、最終的に観察者の目で観察されるべく瞳孔を通過した光は、観察者の網膜上で時間平均され、平均に寄与した光の状態数に応じてスペックルコントラストが低下する。このため、重畳するスペックルノイズが低減され、画像品質が向上する。
【0032】
圧電体2として、透光性セラミックス、透光性単結晶、高分子材料を使用することができる。透光性セラミックスとしてPLZT(鉛:Pb−ランタン:La−ジルコン:Zr−チタン:Ti系酸化物)を使用することができる。透光性単結晶としてLiNbO3単結晶、高分子材料としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用することができる。PLZTを使用する場合には、ZrとTi比を略65対35とし、Pdに対するLa濃度を略7%〜9%の範囲とすれば透光性を有する。圧電体2は1辺を5mm〜20mm、厚さ100μm〜3mmの矩形形状とする。また、矩形形状の他に、円形や楕円形としてもよい。
【0033】
電極3a、3bとして金属電極や導電ペースト等を使用することができる。電極3a、3bの配置は、上下の端面の他に、左右の端面に形成することができる。また、コヒーレント光7が照射されない光散乱面4やその反対側表面に形成することができる。また、光散乱面4は、フォトリソグラフィ工程及びエッチング工程により圧電体2の表面に凹凸を形成することにより形成することができる。また、サンドブラスト等により表面に粗面処理を施してもよい。また、表面が凹凸形状の光散乱面4を有する透光性材料を貼り付けてもよい。また、光散乱面4は、圧電体2に対してコヒーレント光が入射する入射側の他に、散乱光9が出射する出射側に設けることができる。
【0034】
また、電極を圧電体2の上下の端部に形成することの他に、圧電体2の左右の端部に形成してもよいし、上下及び左右の各端部に形成してもよい。電極3a、3bに駆動回路5から交番電圧を印加することにより、圧電体2は印加電界方向に伸縮運動を行う。これにより、光散乱面4も振動する。駆動回路5から与える交番電圧の周波数は、30Hz以上とする。30Hz以上とすることにより、スペックルパタンが30Hz以上の周期で変化する。従って、通常の状態(例えば極端な暗所でない)においてはおおよそその人間の網膜に存在する感光体の応答時間(以下、単に目の応答時間という)は30Hzよりも遅いため、観察者は時間平均されたスペックルパタンを観察することになり、提示画質低下が緩和される。尚、後述する画像表示装置等で実施する場合は、垂直同期信号等が得られ、垂直同期信号は30Hzや60Hz(25Hzや50Hzの場合もある)なので、垂直同期信号に基づいて振動させてもよい。
【0035】
また、駆動回路5が与える周波数を圧電体2が共振する共振周波数とすることができる。圧電体2を共振振動させることにより、同じ時間内に光散乱面4に対してより大きな変位を与えることができる。これにより、目の応答時間内に観察者の網膜上にて重ね合わせられ時間平均される光の状態が数多く作り出せる。その結果、スペックルノイズを効果的に低減させることができる。
【0036】
<光散乱素子の第2実施形態>
図2は、本発明に係る光散乱素子1の第2実施形態を表し、図2(a)がその斜視図であり、図2(b)がその断面図である。同一の部分又は同一の機能を有する部分は同一の符号を付した。
【0037】
図2(a)において、圧電体の入射側及び出射側の表面には透光性電極11a、11bが形成されている。コヒーレント光7が出射される出射側の圧電体2の表面には光散乱面4が形成され、その上に透光性電極11bが形成されている。圧電体2は支持部10により支持されている。透光性電極11a、11bは、ITO(インジウム−スズ酸化物)を使用している。ITOは電子ビーム蒸着法により堆積することができる。透光性電極11a、11bとしてITOの他に、酸化スズや酸化亜鉛を使用することができる。なお、光散乱素子1と透光性電極11a、11bに交番電圧を与える駆動回路5とを含めて光散乱装置としている。
【0038】
駆動回路5から透光性電極11a、11bに交番電圧を印加することにより、圧電体2にはコヒーレント光7の光軸8と略同じ方向に電界を生じさせている。圧電体2の板厚は、圧電体2の対向する端面間の距離よりも小さいので、同じ印加電圧で圧電体2に高電界を与えることができる。従って、上記実施形態1と比較して、駆動電圧を低下することができる。透光性電極11a、11bに交番電圧を印加することにより、圧電体2は振動し、光散乱面4も振動する。その結果、散乱光9には振動成分が含まれることになり、結像される画像面において光の位相差が変動する。その結果、目の応答時間内に観察者の網膜上にて重ね合わせられ時間平均される光の状態が数多く作り出せる。その結果、スペックルノイズを効果的に低減させることができる。
【0039】
<光散乱素子の第3実施形態>
図3は、本発明に係る光散乱素子1の第3実施形態を表し、図3(a)がその斜視図であり、図3(b)がその平面図である。同一の部分又は同一の機能を有する部分は同一の符号を付した。
【0040】
図3(a)、図3(b)において、光散乱素子1は、透光性の圧電体2と、圧電体2の入射光側に形成された櫛歯状の形状を有する櫛歯電極13a、13bと、圧電体2の出射光側に形成された光散乱面4とから構成されている。また、図3(a)では省略しているが、圧電体2は支持部10bにより支持されている。櫛歯電極13aの櫛の部分と、櫛歯電極13bの櫛の部分は互いに噛み合うように配置されている。また、光散乱素子1と、櫛歯電極13a、13bに交番電圧を印加するための駆動回路5とを含めて光散乱装置が構成されている。さらに、作製の際の分極工程においても、櫛歯電極を利用するので、分極方向が電極の各ストライプ間で交互に反転した構成としている。
【0041】
駆動回路5から交番電圧を印加することにより、櫛歯電極13aと対向する櫛歯電極13bとの間の圧電体2に電界を生じさせることができる。この電界はコヒーレント光の光軸8の方向に直交する方向を向いている。同様に、光散乱面4側にも同一の電極を形成して駆動回路5から同様に交番電圧を印加すれば、光軸8に直行する方向により効果的に電界を生じさせることができる。櫛歯電極13aと13bとの間の距離を適切に設定することにより、光軸8と直交する方向に低電圧で高電界を生じさせることができる。これにより、圧電体2を低電圧で振動させることができる。櫛歯電極13a、13bは、ITOなどの透明電極でも、金属などの不透明電極であってもよい。その他は上記第1実施形態又は第2実施形態と同様なので、説明を省略する。
【0042】
<光散乱素子の第4実施形態>
図4は、本発明に係る光散乱素子1の第4実施形態を表す断面図である。同一の部分又は同一の機能を有する部分は同一の符号を付した。
【0043】
光散乱素子1は、透光性の圧電体2と、この圧電体2を挟むようにして形成されている透光性電極11a、11bと、コヒーレント光7の出射側に貼り付けられた透光性の光散乱板14により構成されている。光散乱板14の出射側には光散乱面15が形成されている。光散乱板14は透光性の合成樹脂からなり、光散乱面15は射出成形により形成している。光散乱板14の材料としては、ポリカーボネイト、アクリル樹脂等を使用することができる。このようにすれば、圧電体2の表面を所定形状の凹凸面とするエッチング工程を省くことができるので、光散乱面15を比較的容易に形成することができる。図示しない駆動回路により透光性電極11a、11bに交番電圧を印加して圧電体2を振動させることにより、光散乱面15にその振動を伝達することができる。その他は、実施形態2と同様なので、説明を省略する。
【0044】
<光散乱素子の第5実施形態>
図5は、本発明に係る光散乱素子1の第5実施形態を表す断面図である。同一の部分又は同一の機能を有する部分は同一の符号を付した。図5において、光散乱素子1の圧電体として、透光性の高分子材料であるポリフッ化ビニリデン(以下PVDFという)を使用した。PVDF16の中には光拡散粒子17を分散させている。PVDF16の両表面にはITOなどからなる透光性電極11a、11bが形成されている。光拡散粒子17として、PVDFと屈折率を異にする透光性材料や硫酸バリウムなどの白色顔料を使用することができる。入射したコヒーレント光7はPVDF16と光拡散粒子17との界面で散乱され、散乱光9として出射される。光散乱粒子として、金粒子等の金属、ポリスチレン等の高分子材料粒子等を使用することができる。また、前記拡散粒子として、径の小さな気泡を混入することで屈折率差のあるマイクロ散乱粒子として利用してもよい。
【0045】
透光性電極11a、11b間に交番電圧を与えることによりPVDFは振動し、これに伴い光拡散粒子17も振動する。その結果、目の応答時間内に観察者の網膜上にて重ね合わせられ時間平均される光の状態が数多く作り出せる。その結果、スペックルノイズを効果的に低減させることができる。
【0046】
<光散乱素子の第6実施形態>
図6は、透明基板19の上に圧電体薄膜18を形成した光散乱素子1の第6実施形態の断面図である。同一の部分又は同一の機能を有する部分は同一の符号を付した。図6において、透明基板19の入射側の表面には透光性電極11bが形成され、その上に透光性の圧電体薄膜18が積層され、その上に透光性電極11aが形成されている。透明基板19のコヒーレント光出射側の表面には、光散乱面15が形成された光散乱板14が貼り付けられている。透光性電極11a、11b間に交番電圧を印加することにより、透明基板19は振動し、この振動が光散乱面15に伝達される。その結果、散乱光9により形成されるスペックルパタンを変動させて、結像された画像の品質を向上させることができる。なお、透明基板19は、ガラスや高分子材料を使用することができる。光散乱板14やその他に構成は、既に説明した上記第4実施形態と同様であり、説明を省略する。
【0047】
<光散乱素子の第7実施形態>
図7は、本発明に係る光散乱素子20の第7実施形態を表す断面図である。同一の部分又は同一の機能を有する部分は同一の符号を付した。図7において、光散乱素子20は、表面に凹凸状の形状が形成されている圧電体21と、圧電体21の下面及び上面に形成されている電極24a、24bとにより構成されている。光散乱素子20は、支持部10cにより支持されている。電極24a、24bはアルミニュウム等の金属を使用した。圧電体21の上面は光を高効率で拡散させるための機械的面粗さを持った粗面が形成されているために、その上に形成したアルミニュウム等の金属もしくは非金属薄膜からなる電極24bは反射型の光散乱面23となる。即ち、斜めの角度で入射する入射コヒーレント光25は、光散乱面23により散乱され、散乱光26として出射される。なお、光散乱素子20と電極24a、24bに交番電圧を与える駆動回路5とを含めて光散乱装置を構成している。
【0048】
ここで、圧電体21は光を透過しない材料を使用することができる。例えばPZT(Pb−Zr−Ti)系圧電体やチタン酸バリウム系圧電体等を使用することができる。また、圧電体21は板状に限らずブロック状の形状とすることができる。圧電体21の透過率を考慮する必要がないからである。また、電極24a、24bを圧電体21の上下面に形成しているが、これに代えて、圧電体21の側面部に一対の電極を設置してもよい。
【0049】
駆動回路5から電極24a、24bに交番電圧が印加されると、圧電体21が振動し、その上に形成される光散乱面23も振動する。これにより、目の応答時間内に観察者の網膜上にて重ね合わせられ時間平均される光の状態が数多く作り出せる。その結果、スペックルノイズを効果的に低減させることができる。
【0050】
<照明装置の実施形態>
図8は、本発明に係る照明装置30を表すブロック図である。同一の部分又は同一の機能を有する部分について同一の符号を付した。照明装置30は、半導体レーザダイオードからなる光源32と、光源32から出射されたコヒーレント光を略平行光に変換するコリメータレンズ33と、コリメータレンズ33からコヒーレント光を集光する第1フライアイレンズ34と、第1フライアイレンズ34の焦点近傍に配置した光散乱素子1と、光散乱素子1からの散乱光を略平行光に変換する第2フライアイレンズ35と、光散乱素子1に交番電圧を与える駆動回路5とから構成されている。第1フライアイレンズ34及び第2フライアイレンズ35は、多数の微小レンズが平面的に配列されている。光散乱素子1は、上記第1実施形態〜第6実施形態において説明した圧電体2の表面又は表面近傍に光散乱面4が形成されたものを使用している。そして、光散乱素子1の圧電体2はコヒーレント光の光軸8方向の光路に挿入されている。
【0051】
光源32から照射されたコヒーレント光は第1フライアイレンズ34により光散乱素子1の光散乱面4において焦点を結ぶ。光散乱面4に入射したコヒーレント光は所定の配光特性で散乱されて散乱光が出射される。第2フライアイレンズ35は、光散乱素子1から散乱された光を再び略平行光に変換して投射する。駆動回路5から交番電圧を光散乱素子1の圧電体2に与えることにより、光散乱面4が振動する。その結果、散乱されるコヒーレント光に微小振動を与えることができる。光散乱素子1がコヒーレント光の焦点位置に配置されて振動するので、目の応答時間内に観察者の網膜上にて重ね合わせられ時間平均される光の状態が数多く作り出せる。その結果、スペックルノイズを効果的に低減させることができる。
【0052】
なお、上記照明装置30において、第1フライアイレンズ34及び第2フライアイレンズ35に代えて、コンデンサレンズ等の通常のレンズを使用することができる。また、光源32として、赤色、緑色及び青色の半導体レーザを用いて白色光からなる照明装置30とすることができる。これらの照明装置は、例えば液晶表示素子やマイクロミラーレンズを使用した画像表示装置に使用することができる。また、例えば顕微鏡の光源として使用することができる。
【0053】
<画像形成装置の実施形態>
図9は、図8に示した照明装置30を用いた画像投影装置31のブロック図である。同一の部分及び同一の機能を有する部分は同一の符号を付した。図9において、照明装置30から出射した光は液晶表示素子からなる光変調素子36に照射される。光変調素子36は入射光を画像光に変換し、投影レンズ系37に出射される。画像光は投影レンズ系37によりスクリーン38に拡大投射され、可視化される。光源としてレーザ光のようなコヒーレント光を用いると、投影される画像にスペックルノイズが混じり画像品質が悪化するが、圧電体2により光散乱面4を振動させることにより目の応答時間内に観察者の網膜上にて重ね合わせられ時間平均される光の状態が数多く作り出せる。その結果、スペックルノイズを効果的に低減させることができる。
【0054】
なお、光変調素子36として透過型液晶表示素子を使用しているが、これを反射型液晶表示素子や多数のマイクロミラーを用いたDMD(Digital Micromirror Device)を使用することもできる。光源に、赤色レーザ、緑色レーザ及び青色レーザを用いることにより、彩度の高い美しい画像を投影することができる。もちろん白色レーザとカラーホイール・DMDの組み合わせを用いても、良好な品質の画像を提示することができる。
【0055】
<網膜走査型画像表示装置の実施形態>
図10は、本発明に係る網膜走査型画像表示装置の実施形態を表すブロック図であり、上記光散乱素子1を用いている。同一の部分又は同一の機能有する部分は同一の部号を付した。
【0056】
図10において、網膜走査型表示装置40は観察者の眼球58の網膜60上に映像を直接結像する。青色の光を発光するBレーザ47、緑色の光を発光するGレーザ48及び赤色に光を発光するRレーザ49から出射した映像光はコリメート光学系50により平行光となり、ダイクロイックミラー51により合成され、結合光学系52により集光されて光ファイバー59内に入射される。光ファイバー59から出射した映像光は第2のコリメート光学系53を介して光走査素子62のミラー部67に照射される。ミラー部67は水平走査駆動回路54により駆動されて揺動振動し、反射光を水平走査する。水平走査された映像光は第1のリレー光学系55を介してガルバノミラー61に照射される。ガルバノミラー61は磁界により鏡面が揺動して反射光を垂直方向に走査する。ガルバノミラー61から反射した映像光は第2のリレー光学系を構成する第1レンズ63a及び第2レンズ63bを介して眼球58の網膜60の上に結像される。第1レンズ63a及び第2レンズ63bの間には、上記第1実施形態〜第6実施形態において説明した光散乱素子1が挿入されている。光散乱素子1には、交番電圧を供給するための光散乱素子駆動回路64が接続されている。なお、以上の構成において、水平走査駆動回路54、光走査素子62、垂直走査駆動回路56及びガルバノミラー61が光走査系を構成している。
【0057】
映像信号供給回路43は映像信号を入力して青(B)色、緑(G)色及び赤(R)色に対応する画像信号をBレーザ駆動回路44、Gレーザ駆動回路45及びRレーザ駆動回路46のそれぞれに出力する。Bレーザ47はBレーザ駆動回路44からの駆動信号に基づいて光強度が変調されたB色のレーザ光を出射する。Gレーザ48及びRレーザ49も同様に各画像信号に基づいて光強度が変調された各色のレーザ光を出射する。
【0058】
映像信号供給回路43は画像信号に同期した水平同期信号及び垂直同期信号を水平走査駆動回路54及び垂直走査駆動回路56に出力する。水平走査駆動回路54は光走査素子62に駆動信号を出力してミラー部67を揺動振動させる。この場合の揺動はミラー部67の共振振動に基づく。フォトセンサー65は水平走査駆動回路54により水平走査された光の一部を受光して電気信号に変換し、BD信号検出回路57に出力する。BD信号検出回路57は水平走査のタイミングを検出して映像信号供給回路43にタイミング信号を出力し、映像信号供給回路43は入力したタイミング信号により映像信号の開始タイミングを正確に決定する。
【0059】
なお、上記網膜走査型表示装置40において、光散乱素子1を第2のリレー光学系に設置したが、これに変えて第1のリレー光学系55の近傍、第2のコリメート光学系53の近傍等に設置することができる。本実施形態において光散乱素子1は射出瞳径を拡大する機能を有する。そして、光散乱素子駆動回路64により光散乱素子1を振動させることにより、網膜60に投影される虚像のスペックルパタンを平均化して、画像品質を向上させることができる。
【0060】
<光散乱素子の製造方法>
図11(a)〜図11(f)は、光散乱素子1の製造方法を説明するための説明図であり、圧電体板71の断面図により表している。
【0061】
図11(a)に示すように、まずPLZTセラミック等からなる圧電体基板71を用意する。PLZTセラミックを使用する場合には、Zr対Ti組成比を略65対35、Pbに対するLaの組成比を略100対7〜9とする。これにより透明な強誘電体を得ることができる。圧電体板71は、厚さを100μm〜数mmとし、1辺の長さ又は直径を10mm〜100mmの四角形又は円形のウエハーとする。表面は研磨して平坦化する。次に、図11(b)に示すように、スピンコーター等によりレジストからなる感光性樹脂膜72を塗布する。次に、感光性樹脂膜72にホログラフィの手法により散乱面のパターンを露光形成する。次に、感光性樹脂膜72を現像し、図11(c)に示すように、感光性樹脂膜72の表面に凹凸形状を形成する。次に、この表面にDRIE(Deep Reactive Ion Etching)処理を施して、圧電体板71の表面をエッチングする。次に、図11(d)に示すように、感光性樹脂膜72をアッシング等により除去して圧電体板71の表面を露出させて、圧電体板71の表面に光散乱面74を形成する。
【0062】
次に、図11(e)に示すように、圧電体板71の上面及び下面に、ITOからなる透光性電極75、76を堆積する。ITOを真空スパッタリング法又は電子ビーム蒸着法により厚さ数10nm〜0.1μm程度堆積する。次に、図11(f)に示すように、ダイシング装置を用いて分割する。
【0063】
分割後に、分極処理を行う。分極処理は、図11(e)に示すダイシング前に行ってもよいし、ダイシングにより分割後に行ってもよい。分極処理は、形成した透光性電極75、76を直流電源77に接続し、圧電体板71をキュリー温度以上に加熱して、直流電圧を所定の時間印加し、分極を誘起する。そののち、電圧をかけたままキュリー温度以下に冷却する。これにより、圧電体板71を一様に分極処理することができ、室温においても分極状態を維持することが可能となる。
【0064】
なお、光散乱素子20の第7実施形態の場合には、上記圧電体板71として透光性を必要としない。従って、TiBaO3やPZTなどの圧電材料を使用することができる。また、透光性電極75、76に代えて、金属電極や導電ペースト等を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る光散乱素子の斜視図及び断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る光散乱素子の斜視図及び断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る光散乱素子の斜視図及び断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る光散乱素子の断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る光散乱素子の断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る光散乱素子の断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る光散乱素子の断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る照明装置のブロック図である。
【図9】本発明の実施形態に係る画像表示装置のブロック図である。
【図10】本発明の実施形態に係る網膜走査型画像表示装置のブロック図である。
【図11】本発明に光散乱素子の製造方法を説明するための説明図である。
【図12】従来公知の画像表示措置のブロック図である。
【図13】従来公知の拡散素子の断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 光散乱素子
2 圧電体
3a、3b 電極
4 光散乱面
5 駆動回路
6 電界方向
7 コヒーレント光
8 光軸
9 散乱光
10 支持部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射したコヒーレント光を散乱し、その散乱されたコヒーレント光により生ずるスペックルパタンを変化させる光散乱素子であって、
圧電体と、交番電圧を入力して前記圧電体に振動を生じさせる電極と、前記圧電体の表面又は表面近傍に形成され、前記入射したコヒーレント光を散乱する光拡散面とを備え、
前記圧電体を前記コヒーレント光の光路中に挿入し、前記電極に交番電圧を入力することにより、前記散乱されたコヒーレント光により生ずるスペックルパタンに変化を生じさせる光散乱素子。
【請求項2】
前記圧電体は、前記コヒーレント光を透過する透光性圧電体であることを特徴とする請求項1に記載の光拡散素子。
【請求項3】
前記電極は、前記コヒーレント光の光路に対して略垂直方向に電界を生じさせるように配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光散乱素子。
【請求項4】
前記電極は、前記コヒーレント光の光路と略同一方向に電界を生じさせるように配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光散乱素子。
【請求項5】
前記圧電体は、前記電極に交番電圧を入力することにより共振振動を生ずることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光散乱素子。
【請求項6】
前記電極は、前記コヒーレント光の光路中に形成された透光性電極であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光散乱素子。
【請求項7】
前記圧電体は、PLZTからなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光散乱素子。
【請求項8】
前記圧電体は、高分子材料からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光散乱素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載した光散乱素子と、前記光散乱素子を駆動するための駆動回路とを備えた光散乱装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載した光散乱素子と、前記光散乱素子にコヒーレント光を照射するための光源と、前記光散乱素子を駆動する駆動回路とを備えた照明装置。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載した光散乱素子と、前記光散乱素子を駆動する駆動回路と、コヒーレント光を発光する光源と、画像を生成するための光走査系とを備える網膜走査型画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−191512(P2008−191512A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27344(P2007−27344)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】