光断層画像化装置
【課題】 生体組織が水分を多く含む物質に覆われている場合であっても、生体組織の所望の深度までの光断層画像を高精度に取得する。
【解決手段】 低コヒーレンス光Lを射出する光源2を用いて光トモグラフィー計測を行うときに、中心波長λcが0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にある低コヒーレンス光Lを用いる。
【解決手段】 低コヒーレンス光Lを射出する光源2を用いて光トモグラフィー計測を行うときに、中心波長λcが0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にある低コヒーレンス光Lを用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OCT(Optical Coherence Tomography)計測により光断層画像を取得する光断層画像化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織の断層画像を取得する際に低コヒーレンス光による光干渉を用いた光断層画像取得装置が用いられることがある。この光断層画像取得装置の一例として、光源から射出された低コヒーレンス光を測定光と参照光とに分割した後、測定光が測定対象に照射されたときの反射光と参照光とを合波し、反射光と参照光との干渉光の強度に基づいて断層画像を取得する方法がある。この光断層画像化装置においては、たとえば参照光を反射するミラーを移動させることにより、参照光の光路長を変更させて測定対象内の測定深さを変更し、測定対象の断層画像を取得するようになっている。しかし、ミラーを移動させるという機械的な手段を用いて測定する深さ位置を変えているため、データの収集に時間を要するという問題がある。
【0003】
そこで、高速に断層画像を取得する方法として 上述した参照光の光路長の変更を行うことなく断層画像を取得する方法が提案されている(たとえば特許文献1参照)。特許文献1に示すいわゆるSD−OCT(Spectral Domain OCT)装置においては、マイケルソン型干渉計を用いて、光源から低コヒーレンス光を射出して測定光と参照光とに分割した後、測定対象に測定光が照射されたときの反射光と参照光との干渉光を各周波数成分に分解したチャンネルドスペクトルをフーリエ解析することにより、深さ方向の走査を行わずに断層画像を取得するようになっている。
【0004】
ところで、OCT装置は内視鏡への応用を目指してさらに研究開発が進められている。OCT装置の光源波長としては、主に0.8μm帯が用いられている。これは生体における吸収特性を主に考慮した結果、選択された波長である。しかしながら、近年、OCT装置では、生体内部の後方散乱反射光を検出するため、散乱特性も計測深度を律束することが明らかにされた。生体組織での主な散乱はレーリー散乱であり、レーリー散乱では散乱強度は波長の4乗に逆比例する。OCT信号を取得する際の全損失は、吸収損失と散乱損失の和である。このような生体組織における光の全損失を考慮して、全損失が最小となる波長帯域である、1.3μm帯の光を光源波長として用いている。このため、眼科用のOCT装置が実用化された後、内視鏡応用のOCT装置においては、光源波長として1.3μm帯の光を用いた研究開発が進められている。
【特許文献1】特開平11−325849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、内視鏡へOCT装置を応用する場合、被測定部の多くは水分を多く含む物質に覆われている。例えば被測定部が胃壁であれば、胃液や胃粘膜に覆われているし、被測定部が大腸壁であれば、粘液や腸粘膜に覆われている。また、被測定部が膀胱壁であれば尿あるいは測定のために用いる生理食塩水等に覆われている。これらの水分を多く含む物質に覆われている被測定部においては、水による吸収の影響が大きいため、1.3μm帯の光を用いた場合・所望の深度までの光断層画像が取得できない、あるいは取得した断層画像の信頼度が低下するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、生体組織が水分を多く含む物質に覆われている場合であっても、生体組織の所望の深度までの光断層画像を高精度に取得することのできる光断層画像化装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光断層画像化装置は、水分を多く含む物質に覆われた測定対象の断層画像を取得する光断層画像化装置において、低コヒーレンス光を射出する光源と、光源から射出された低コヒーレンス光を測定光と参照光とに分割する光分割手段と、測定光が測定対象に照射されたときの該測定対象からの反射光と参照光とを合波する合波手段と、合波手段により合波された反射光と参照光との干渉光の周波数および強度に基づいて、測定対象の各深さ位置における反射光の強度を検出する干渉光検出手段と、干渉光検出手段により検出された各深さ位置における干渉光の強度を用いて測定対象の断層画像を取得する画像取得手段とを有し、低コヒーレンス光の中心波長が、0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にあることを特徴とするものである。
【0008】
なお、「水分を多く含む物質」とは、組成の50%以上が水分である物質を意味し、具体的には胃液や粘液等の体液や、尿あるいは検査用の生理食塩水等である。また「測定対象」は、水分を多く含む物質に覆われたものであればなんでもよく、たとえば生体組織あるいは生体から切除された組織等が挙げられる。また、被測定部は、厚さ1mm以上の水分を多く含む物質に覆われているものであってもよい。
【0009】
なお、干渉光検出手段は、干渉光を検出することができるものであればその種類は問わないが、0.90μm以上かつ1.15μmの波長帯域の光を検出することができるたとえばInGaAs系の光検出器を有するものであることが好ましい。
【0010】
また、低コヒーレンス光の中心波長λcは、0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にあればよいが、1.05μm以下の範囲にあることが好ましい。
【0011】
なお、光源は、低コヒーレンス光を射出するものであればなんでもよく、たとえばYb系パルスレーザ、Nd系パルスレーザ、Ti系パルスレーザ、スーパールミネッセンスダイオード、近赤外蛍光色素を含有する発光体等を有するものであってもよい。なお、Yb系パルスレーザとしては、Yb:YAGレーザ、Yb:GlassレーザあるいはYb系ファイバレーザ等を使用することができる。また、Nd系パルスレーザとしては、Nd:YAGレーザ、Nd:GlassレーザあるいはNd系ファイバレーザ等を使用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光断層画像化装置によれば、中心波長が、0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にあることにより、生体組織が水分を多く含む物質により覆われている場合であっても、水分により測定光が損失することなく生体組織の所望の深度までの光断層画像を高精度に取得することができるようになる。
【0013】
なお、干渉光検出手段がInGaAs系の光検出器を有するものであれば、レーザ光の中心波長が1.0μm前後の場合であっても、確実に干渉光の検出を行うことができる。
【0014】
さらに、レーザ光の中心波長λcが、1.05μm以下の範囲にあれば、光の全損失が小さくなり、取得できる光断層画像の深度が一層深くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の光断層画像化装置の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の光断層画像化装置の好ましい実施の形態を示す構成図である。光断層画像化装置1は、OCT(Optical Coherence Tomography)計測により厚さ約1mmの粘液や粘膜等の水分を多く含む(たとえば50%以上)により覆われた測定対象Sの光断層画像を取得するものであって、低コヒーレンス光Lを射出する光源2と、光源2から射出された低コヒーレンス光Lを測定光L1と参照光L2とに分割する光分割手段3と、測定光L1が測定対象Sに照射されたときの測定対象Sからの反射光L3と参照光L2とを合波する合波手段5と、合波手段5により合波された反射光L3と参照光L2との干渉光L4の周波数および強度に基づいて、測定対象Sの各深さ位置zにおける反射光L3の強度を検出する干渉光検出手段6と、干渉光検出手段6により検出された各深さ位置における干渉光L4の強度を用いて測定対象Sの断層画像を取得する画像取得手段7とを有している。
【0016】
ここで、光源2は、図2に示すように、波長1.03μmのパルスレーザ光(以下パルス光と記載)を射出するパルス光源部101と、パルス光源部110から射出されたパルス光のパルス幅を圧縮するパルス圧縮部102と、反射光L3のスペクトル形状がガウス分布となるように成形するスペクトル成形部116とを備えている。
【0017】
パルス光源部101は、中心波長1.03μmでスペクトル幅が約20nmの低コヒーレンス光を射出するモード同期Yb添加ファイバレーザであり、Yb添加ファイバ103と、該Yb添加ファイバ103に導入される980nmの励起光を射出する励起用半導体レーザ104と、該励起光を導光するファイバ105と、励起光をYb添加ファイバ1103へ導入するファイバカプラ106と、過飽和吸収ミラーである全反射ミラー107と、パルス光を後段のパルス圧縮部102へ導入する光コネクタ108とから構成されている。なおYb添加ファイバ103の出射端側には出力ミラーとなるファイバブラッググレーティング109が形成されている。
【0018】
パルス圧縮部102は、図3に示すように、負分散特性を有する零分散ファイバ111および零分散ファイバ111でパルス圧縮されたパルス光をスペクトル成形部116へ導入する光コネクタ112とから構成されている。一般に、パルスレーザから射出され、パルス幅がfsオーダーとなる超短パルス光では、自己位相変調効果により、図4に示すように、パルス時間波形中の長波長成分3が先に進み短波長成分2が後になっている。このような超短パルス光を負分散特性を有するファイバで伝搬させると、パルス幅が圧縮される。また、超短パルス光においては、不確定性の関係から、パルス幅が狭まると、スペクトル幅が広がる。このため、パルス光源部101から射出され、パルス圧縮部102においてパルス圧縮されたパルスのスペクトル幅は図11に実線で示すように広帯域となる。
【0019】
スペクトル成形部116は、光コネクタ113と、パルス圧縮部102から出力された広帯域光のスペクトル形状が図5に点線で示すようなガウス分布となるように測定光L1を成形するガウス分布成形フィルター114と、成形された低コヒーレンスLをファイバ結合光学系20へ導入する光コネクタ115とから構成されている。したがって、光源10からは、たとえば中心波長1.1μmでコヒーレンス長が約2μm、スペクトル幅(FWHN)が約200nmの広帯域な低コヒーレンス光Lが射出される。
【0020】
図1の光分割手段3はたとえばビームスプリッタからなっており、光源2から射出された低コヒーレンス光Lの一部を透過させ、測定光L1として測定対象Sに照射させるようになっている。同時に、光源2から射出された低コヒーレンス光Lの一部を反射させ、参照光L2として反射部材4に入射させるようになっている。なお、このビームスプリッタは合波手段5としても機能するものであって、後述する反射光L3と参照光L2とを合波するようになっている。
【0021】
反射部材4はたとえばミラーからなり、光分割手段3により分割された参照光L2を合波手段5(ビームスプリッタ)側に反射するようになっている。ここで、反射部材4は、光分割手段3により分割された参照光L2の光路長が、測定対象Sの基準点に照射される測定光L1の光路長に等しくなるように配置されている。なお、図7において、基準点はたとえば測定対象Sの表面に位置するようになっている。したがって、測定対象Sの基準点Zrefよりも深い位置z1において反射した反射光L3の光路長は参照光L2の光路長よりも長くなる。
【0022】
図1の合波手段5は、光分割手段3としても機能するビームスプリッタからなり、反射部材4により反射された参照光L2と測定対象Sからの反射光L3とを合波し干渉光検出手段6側に射出するようになっている。
【0023】
干渉光検出手段6は、合波手段5により合波された反射光L3と参照光L2との干渉光L4の周波数および強度に基づいて、測定対象Sの各深さ位置zにおける反射光L3の強度を検出するものであって、図6に示すように、複数の波長帯域を有する干渉光L4を各波長帯域毎に分光する分光手段6aと、分光手段6aにより分光された各波長帯域干渉光L4毎に設けられた光検出手段6bとを有している。この分光手段6aとしては様々な公知の技術を用いることができ、たとえば回折格子等により構成されている。そして、画像取得手段7は、各深さ位置zにおける反射光L3の強度を用いて測定対象Sの断層画像を取得するようになっている。
【0024】
ここで干渉光検出手段6および画像取得手段7における干渉光L4の検出および画像の生成について説明する。まず、一般的なコヒーレンス関数とスペクトラムとの関係について説明する。光波の波動関数を以下のように定義する。
【数1】
【数2】
ここで、νT(V)はその絶対値の2乗がパワースペクトラムになるような周波数毎の振幅を示す。このとき、波動関数の自己相関は、
【数3】
となる。ここで、*は複素共役を意味する。光波の自己相関関数は、パワースペクトラムS(ν)(通常観測するスペクトラム)をフーリエ変換したものであることがわかる。
【0025】
複数の低コヒーレンス光源を重ねた場合の関係を考察すると、上記の波動関数を2つ独立に以下のように定義する。
【数4】
【0026】
このときの、波動関数の自己相関は、以下のようになる。
【数5】
【0027】
ここで、2つの光源はインコヒーレントであるため、式(6)の第3項と第4項との積分の結果は0となる。すなわち、ν1T(V)とν2T(V)とは独立で位相がランダムなため、積分すると0になる。したがって、
【数6】
となり、各光源の和のパワースペクトラムのフーリエ変換が合成光波の自己相関に等しくなる。
【0028】
上記考察の下、光波の自己相関関数を具体的に展開する。いま光源2のパワースペクトラムを
【数7】
とする。なお、中心周波数ν0、スペクトル半値全幅Δνのガウス分布とする。一般に、
【数8】
の関係があるため、自己相関波形V(x)は、
【数9】
となり、ガウス関数を波数k0で変調したものになる。実際の光路差の半分がOCTでの深さ情報となり、このガウス関数の半値全幅の半分をコヒーレンス長と呼んでいるため、
【数10】
を用いて(Fはフーリエ変換)、
【数11】
となる。
【0029】
また、複数の光源の合成によるコヒーレンス関数は式(10)を独立的に加算すればよいため、
【数12】
で与えられる。ここで、kiは、i番目の光源の中心波数、Δkiはi番目の光源の半値全波数、Aiはi番目の光源の重みを意味する。
【0030】
以上の考察を基に、生体組織等の測定対象Sの反射情報をR(τ)とすると、光源からの波動V(r)T(t)に対する反射の波動は、
【数13】
【数14】
で表すことができる。したがって、干渉光波の自己相関は以下のようになる。
【数15】
【0031】
ここで、第4項は無視でき、第3項はt+τ→tの置換を行うことにより、マイナス時間の積分となり、実際では0となる。
したがって、
【数16】
となる。式(17)を時間領域で考えると、光源自身の自己相関と測定対象Sの反射情報に光源自身の自己相関関数(コヒーレンス関数)を畳み込み積分した波形が観測されることになる。
【0032】
また、スペクトル領域で考えると、式(17)をフーリエ変換の形式で標記して、
【数17】
となる。なお、式(18)において、畳み込み積分のフーリエ変換は自明として省略している。これにより、図8(a)に示すような、光源2のスペクトルに反射情報の関数がフーリエ変換されたものが加えられたものを観測することができる。干渉光検出手段6において図8(a)のように検出された干渉光L4を画像取得手段7において周波数解析することにより、図8(b)に示すような深さ位置zにおける反射情報を取得することができる。
【0033】
このように、スペクトル干渉を用いて断層画像を取得することにより、反射光L3と参照光L2との光路長を変更することにより測定する深さ位置を変更するOCT装置のように機械的な可動部が不要となり、断層画像の取得を高速に行うことができる。
【0034】
なお、図1に示すように、測定対象Sを矢印X方向および矢印Y方向に移動する走査ステージ10を設けることにより、測定対象SのXY断面、XZ断面、YZ断面を取得することができる。あるいは、測定対象Sを移動させることなく、測定光L1を矢印X方向および矢印Y方向に走査させるようにしてもよい。
【0035】
ここで、光源2は、中心波長λcが、0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にあるレーザ光Lを射出するようになっている。レーザ光Lの中心波長λcを、0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にしたのは以下の理由による。
【0036】
OCT装置を内視鏡へ応用する際、OCT装置の光源波長としては、主に0.8μm帯が用いられてきた。これは生体における吸収特性を主に考慮した結果、選択された波長である。図9は、水、血液、メラニンおよび表皮の光の吸収係数および水の吸収係数を示すものである。開発当初においては、0.8μm帯の光が、生体の透過率が高く、そのために計測深度が深くなり、OCT装置には最も適していると考えられた。
【0037】
しかしながら、近年、OCT装置では、生体内部の後方散乱反射光を検出するため、散乱特性も計測深度を律束することが明らかにされた。生体組織での主な散乱はレーリー散乱であり、レーリー散乱では散乱強度は波長の4乗に逆比例する。OCT信号を取得する際の全損失は、吸収損失と散乱損失の和である。
【0038】
このような生体組織における光の全損失を考慮して、全損失が最小となる波長帯域である、1.3μm帯の光を光源波長として用いている。このため、眼科用のOCT装置が実用化された後、内視鏡応用のOCT装置においては、光源波長として1.3μm帯の光を用いた研究開発が進められている。
【0039】
しかし、内視鏡へOCT装置を応用する場合、被測定部の多くは水分を多く含む物質に覆われている。例えば被測定部が胃壁であれば、胃液に覆われているし、被測定部が大腸壁であれば、粘液に覆われている。また、被測定部が膀胱壁であれば、尿あるいは測定のために用いる生理食塩水等に覆われている。これらの水分を多く含む物質に覆われている被測定部においては、水による吸収の影響が大きいため、光の全損失が最小となる波長帯域が1.3μm帯ではない場合があり、所望の深度までの光断層画像が取得できない、あるいは取得した断層画像の信頼度が低下するおそれがある。
【0040】
そこで、光源2が水分を多く含む物資に覆われた生体組織に対して最適な中心波長帯である0.9μm以上かつ1.15μm以下の中心波長λcのレーザ光Lを射出することにより、生体組織が水分を多く含む物質により覆われている場合であっても、測定対象Sである生体組織の所望の深度までの光断層画像を高精度に取得することができる。具体的には、図10は、水分を多く含む物質に覆われた生体組織における光の損失を説明する模式図である。図10中の点線は、水分を多く含む物質に覆われた生体組織における散乱損失を示すものであり、破線は水分を多く含む物質に覆われた生体組織における吸収損失を示すものである。また、実線は水分を多く含む物質に覆われた生体組織における全損失を示すものである。この図10から、水分を多く含む物質に覆われた生体組織においては、光の全損失が少ない波長帯域は1.0μmを中心とする波長帯域であることがわかる。
【0041】
よって、水分を多く含む物資に覆われた生体組織に対して最適な中心波長帯である0.9μm以上かつ1.15μm以下の中心波長λcのレーザ光Lを射出することにより、生体組織が水分を多く含む物質により覆われている場合であっても、生体組織の所望の深度までの光断層画像を高精度に取得することができるようになる。さらに、レーザ光Lの中心波長λcが、1.05μm以下の範囲にあれば、測定光L1の全損失が小さくなり、取得できる光断層画像の深度が一層深くすることができる。
【0042】
なお、レーザ光Lの中心波長λcが0.9μm以上かつ1.15μm以下の場合、干渉光検出手段6がInGaAs系の光検出器を有するものであることが好ましい。これにより、図11のInGaAs系の光検出器の感度特性が示すように、波長帯域が0.9μm以上かつ1.15μmの干渉光を確実に検出することができる。
【0043】
本発明の実施の形態は、上記実施の形態に限定されない。たとえば、図1における光断層画像化装置において、低コヒーレンス光L、測定光L1、参照光L2、反射光L3、干渉光L4はそれぞれ大気中もしくは真空中を伝搬している場合について例示しているが、公知技術に示されているような光ファイバ中を伝搬させるようにしてもよい。この場合、光分割手段3および合波手段5はたとえば光ファイバカプラ等により実現されることになる。
【0044】
また、図1の光源2は、低コヒーレンス光を射出するものであればなんでもよく、たとえばYb系パルスレーザ、Nd系パルスレーザ、Ti系パルスレーザ、スーパールミネッセンスダイオード、近赤外蛍光色素を含有する発光体等を有するものであってもよい。なお、Yb系パルスレーザとしては、Yb:YAGレーザ、Yb:GlassレーザあるいはYb系ファイバレーザ等を使用することができる。また、Nd系パルスレーザとしては、Nd:YAGレーザ、Nd:GlassレーザあるいはNd系ファイバレーザ等を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の光断層画像化装置の好ましい実施の形態を示す模式図
【図2】図1の光源の一例を示す構成図
【図3】零分散ファイバにおける波長分散の説明図
【図4】パルス光における波長分布の説明図
【図5】低コヒーレンス光におけるスペクトル強度の説明図
【図6】図1の干渉光検出手段の構成例を示す模式図
【図7】測定光が測定対象に照射される様子を示す模式図
【図8】干渉光検出手段および画像生成手段において観測される反射強度を示すグラフ
【図9】吸収特性の説明図
【図10】生体組織における損失の説明図
【図11】光検出器の感度特性の説明図
【符号の説明】
【0046】
1 光断層画像化装置
2 光源
3 光分割手段
5 合波手段
6 干渉光検出手段
7 画像取得手段
L 低コヒーレンス光
L2 参照光
L1 測定光
L2 参照光
L3 反射光
S 測定対象
λc 中心波長
Δλ スペクトル半値全幅
【技術分野】
【0001】
本発明は、OCT(Optical Coherence Tomography)計測により光断層画像を取得する光断層画像化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織の断層画像を取得する際に低コヒーレンス光による光干渉を用いた光断層画像取得装置が用いられることがある。この光断層画像取得装置の一例として、光源から射出された低コヒーレンス光を測定光と参照光とに分割した後、測定光が測定対象に照射されたときの反射光と参照光とを合波し、反射光と参照光との干渉光の強度に基づいて断層画像を取得する方法がある。この光断層画像化装置においては、たとえば参照光を反射するミラーを移動させることにより、参照光の光路長を変更させて測定対象内の測定深さを変更し、測定対象の断層画像を取得するようになっている。しかし、ミラーを移動させるという機械的な手段を用いて測定する深さ位置を変えているため、データの収集に時間を要するという問題がある。
【0003】
そこで、高速に断層画像を取得する方法として 上述した参照光の光路長の変更を行うことなく断層画像を取得する方法が提案されている(たとえば特許文献1参照)。特許文献1に示すいわゆるSD−OCT(Spectral Domain OCT)装置においては、マイケルソン型干渉計を用いて、光源から低コヒーレンス光を射出して測定光と参照光とに分割した後、測定対象に測定光が照射されたときの反射光と参照光との干渉光を各周波数成分に分解したチャンネルドスペクトルをフーリエ解析することにより、深さ方向の走査を行わずに断層画像を取得するようになっている。
【0004】
ところで、OCT装置は内視鏡への応用を目指してさらに研究開発が進められている。OCT装置の光源波長としては、主に0.8μm帯が用いられている。これは生体における吸収特性を主に考慮した結果、選択された波長である。しかしながら、近年、OCT装置では、生体内部の後方散乱反射光を検出するため、散乱特性も計測深度を律束することが明らかにされた。生体組織での主な散乱はレーリー散乱であり、レーリー散乱では散乱強度は波長の4乗に逆比例する。OCT信号を取得する際の全損失は、吸収損失と散乱損失の和である。このような生体組織における光の全損失を考慮して、全損失が最小となる波長帯域である、1.3μm帯の光を光源波長として用いている。このため、眼科用のOCT装置が実用化された後、内視鏡応用のOCT装置においては、光源波長として1.3μm帯の光を用いた研究開発が進められている。
【特許文献1】特開平11−325849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、内視鏡へOCT装置を応用する場合、被測定部の多くは水分を多く含む物質に覆われている。例えば被測定部が胃壁であれば、胃液や胃粘膜に覆われているし、被測定部が大腸壁であれば、粘液や腸粘膜に覆われている。また、被測定部が膀胱壁であれば尿あるいは測定のために用いる生理食塩水等に覆われている。これらの水分を多く含む物質に覆われている被測定部においては、水による吸収の影響が大きいため、1.3μm帯の光を用いた場合・所望の深度までの光断層画像が取得できない、あるいは取得した断層画像の信頼度が低下するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、生体組織が水分を多く含む物質に覆われている場合であっても、生体組織の所望の深度までの光断層画像を高精度に取得することのできる光断層画像化装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光断層画像化装置は、水分を多く含む物質に覆われた測定対象の断層画像を取得する光断層画像化装置において、低コヒーレンス光を射出する光源と、光源から射出された低コヒーレンス光を測定光と参照光とに分割する光分割手段と、測定光が測定対象に照射されたときの該測定対象からの反射光と参照光とを合波する合波手段と、合波手段により合波された反射光と参照光との干渉光の周波数および強度に基づいて、測定対象の各深さ位置における反射光の強度を検出する干渉光検出手段と、干渉光検出手段により検出された各深さ位置における干渉光の強度を用いて測定対象の断層画像を取得する画像取得手段とを有し、低コヒーレンス光の中心波長が、0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にあることを特徴とするものである。
【0008】
なお、「水分を多く含む物質」とは、組成の50%以上が水分である物質を意味し、具体的には胃液や粘液等の体液や、尿あるいは検査用の生理食塩水等である。また「測定対象」は、水分を多く含む物質に覆われたものであればなんでもよく、たとえば生体組織あるいは生体から切除された組織等が挙げられる。また、被測定部は、厚さ1mm以上の水分を多く含む物質に覆われているものであってもよい。
【0009】
なお、干渉光検出手段は、干渉光を検出することができるものであればその種類は問わないが、0.90μm以上かつ1.15μmの波長帯域の光を検出することができるたとえばInGaAs系の光検出器を有するものであることが好ましい。
【0010】
また、低コヒーレンス光の中心波長λcは、0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にあればよいが、1.05μm以下の範囲にあることが好ましい。
【0011】
なお、光源は、低コヒーレンス光を射出するものであればなんでもよく、たとえばYb系パルスレーザ、Nd系パルスレーザ、Ti系パルスレーザ、スーパールミネッセンスダイオード、近赤外蛍光色素を含有する発光体等を有するものであってもよい。なお、Yb系パルスレーザとしては、Yb:YAGレーザ、Yb:GlassレーザあるいはYb系ファイバレーザ等を使用することができる。また、Nd系パルスレーザとしては、Nd:YAGレーザ、Nd:GlassレーザあるいはNd系ファイバレーザ等を使用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光断層画像化装置によれば、中心波長が、0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にあることにより、生体組織が水分を多く含む物質により覆われている場合であっても、水分により測定光が損失することなく生体組織の所望の深度までの光断層画像を高精度に取得することができるようになる。
【0013】
なお、干渉光検出手段がInGaAs系の光検出器を有するものであれば、レーザ光の中心波長が1.0μm前後の場合であっても、確実に干渉光の検出を行うことができる。
【0014】
さらに、レーザ光の中心波長λcが、1.05μm以下の範囲にあれば、光の全損失が小さくなり、取得できる光断層画像の深度が一層深くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の光断層画像化装置の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の光断層画像化装置の好ましい実施の形態を示す構成図である。光断層画像化装置1は、OCT(Optical Coherence Tomography)計測により厚さ約1mmの粘液や粘膜等の水分を多く含む(たとえば50%以上)により覆われた測定対象Sの光断層画像を取得するものであって、低コヒーレンス光Lを射出する光源2と、光源2から射出された低コヒーレンス光Lを測定光L1と参照光L2とに分割する光分割手段3と、測定光L1が測定対象Sに照射されたときの測定対象Sからの反射光L3と参照光L2とを合波する合波手段5と、合波手段5により合波された反射光L3と参照光L2との干渉光L4の周波数および強度に基づいて、測定対象Sの各深さ位置zにおける反射光L3の強度を検出する干渉光検出手段6と、干渉光検出手段6により検出された各深さ位置における干渉光L4の強度を用いて測定対象Sの断層画像を取得する画像取得手段7とを有している。
【0016】
ここで、光源2は、図2に示すように、波長1.03μmのパルスレーザ光(以下パルス光と記載)を射出するパルス光源部101と、パルス光源部110から射出されたパルス光のパルス幅を圧縮するパルス圧縮部102と、反射光L3のスペクトル形状がガウス分布となるように成形するスペクトル成形部116とを備えている。
【0017】
パルス光源部101は、中心波長1.03μmでスペクトル幅が約20nmの低コヒーレンス光を射出するモード同期Yb添加ファイバレーザであり、Yb添加ファイバ103と、該Yb添加ファイバ103に導入される980nmの励起光を射出する励起用半導体レーザ104と、該励起光を導光するファイバ105と、励起光をYb添加ファイバ1103へ導入するファイバカプラ106と、過飽和吸収ミラーである全反射ミラー107と、パルス光を後段のパルス圧縮部102へ導入する光コネクタ108とから構成されている。なおYb添加ファイバ103の出射端側には出力ミラーとなるファイバブラッググレーティング109が形成されている。
【0018】
パルス圧縮部102は、図3に示すように、負分散特性を有する零分散ファイバ111および零分散ファイバ111でパルス圧縮されたパルス光をスペクトル成形部116へ導入する光コネクタ112とから構成されている。一般に、パルスレーザから射出され、パルス幅がfsオーダーとなる超短パルス光では、自己位相変調効果により、図4に示すように、パルス時間波形中の長波長成分3が先に進み短波長成分2が後になっている。このような超短パルス光を負分散特性を有するファイバで伝搬させると、パルス幅が圧縮される。また、超短パルス光においては、不確定性の関係から、パルス幅が狭まると、スペクトル幅が広がる。このため、パルス光源部101から射出され、パルス圧縮部102においてパルス圧縮されたパルスのスペクトル幅は図11に実線で示すように広帯域となる。
【0019】
スペクトル成形部116は、光コネクタ113と、パルス圧縮部102から出力された広帯域光のスペクトル形状が図5に点線で示すようなガウス分布となるように測定光L1を成形するガウス分布成形フィルター114と、成形された低コヒーレンスLをファイバ結合光学系20へ導入する光コネクタ115とから構成されている。したがって、光源10からは、たとえば中心波長1.1μmでコヒーレンス長が約2μm、スペクトル幅(FWHN)が約200nmの広帯域な低コヒーレンス光Lが射出される。
【0020】
図1の光分割手段3はたとえばビームスプリッタからなっており、光源2から射出された低コヒーレンス光Lの一部を透過させ、測定光L1として測定対象Sに照射させるようになっている。同時に、光源2から射出された低コヒーレンス光Lの一部を反射させ、参照光L2として反射部材4に入射させるようになっている。なお、このビームスプリッタは合波手段5としても機能するものであって、後述する反射光L3と参照光L2とを合波するようになっている。
【0021】
反射部材4はたとえばミラーからなり、光分割手段3により分割された参照光L2を合波手段5(ビームスプリッタ)側に反射するようになっている。ここで、反射部材4は、光分割手段3により分割された参照光L2の光路長が、測定対象Sの基準点に照射される測定光L1の光路長に等しくなるように配置されている。なお、図7において、基準点はたとえば測定対象Sの表面に位置するようになっている。したがって、測定対象Sの基準点Zrefよりも深い位置z1において反射した反射光L3の光路長は参照光L2の光路長よりも長くなる。
【0022】
図1の合波手段5は、光分割手段3としても機能するビームスプリッタからなり、反射部材4により反射された参照光L2と測定対象Sからの反射光L3とを合波し干渉光検出手段6側に射出するようになっている。
【0023】
干渉光検出手段6は、合波手段5により合波された反射光L3と参照光L2との干渉光L4の周波数および強度に基づいて、測定対象Sの各深さ位置zにおける反射光L3の強度を検出するものであって、図6に示すように、複数の波長帯域を有する干渉光L4を各波長帯域毎に分光する分光手段6aと、分光手段6aにより分光された各波長帯域干渉光L4毎に設けられた光検出手段6bとを有している。この分光手段6aとしては様々な公知の技術を用いることができ、たとえば回折格子等により構成されている。そして、画像取得手段7は、各深さ位置zにおける反射光L3の強度を用いて測定対象Sの断層画像を取得するようになっている。
【0024】
ここで干渉光検出手段6および画像取得手段7における干渉光L4の検出および画像の生成について説明する。まず、一般的なコヒーレンス関数とスペクトラムとの関係について説明する。光波の波動関数を以下のように定義する。
【数1】
【数2】
ここで、νT(V)はその絶対値の2乗がパワースペクトラムになるような周波数毎の振幅を示す。このとき、波動関数の自己相関は、
【数3】
となる。ここで、*は複素共役を意味する。光波の自己相関関数は、パワースペクトラムS(ν)(通常観測するスペクトラム)をフーリエ変換したものであることがわかる。
【0025】
複数の低コヒーレンス光源を重ねた場合の関係を考察すると、上記の波動関数を2つ独立に以下のように定義する。
【数4】
【0026】
このときの、波動関数の自己相関は、以下のようになる。
【数5】
【0027】
ここで、2つの光源はインコヒーレントであるため、式(6)の第3項と第4項との積分の結果は0となる。すなわち、ν1T(V)とν2T(V)とは独立で位相がランダムなため、積分すると0になる。したがって、
【数6】
となり、各光源の和のパワースペクトラムのフーリエ変換が合成光波の自己相関に等しくなる。
【0028】
上記考察の下、光波の自己相関関数を具体的に展開する。いま光源2のパワースペクトラムを
【数7】
とする。なお、中心周波数ν0、スペクトル半値全幅Δνのガウス分布とする。一般に、
【数8】
の関係があるため、自己相関波形V(x)は、
【数9】
となり、ガウス関数を波数k0で変調したものになる。実際の光路差の半分がOCTでの深さ情報となり、このガウス関数の半値全幅の半分をコヒーレンス長と呼んでいるため、
【数10】
を用いて(Fはフーリエ変換)、
【数11】
となる。
【0029】
また、複数の光源の合成によるコヒーレンス関数は式(10)を独立的に加算すればよいため、
【数12】
で与えられる。ここで、kiは、i番目の光源の中心波数、Δkiはi番目の光源の半値全波数、Aiはi番目の光源の重みを意味する。
【0030】
以上の考察を基に、生体組織等の測定対象Sの反射情報をR(τ)とすると、光源からの波動V(r)T(t)に対する反射の波動は、
【数13】
【数14】
で表すことができる。したがって、干渉光波の自己相関は以下のようになる。
【数15】
【0031】
ここで、第4項は無視でき、第3項はt+τ→tの置換を行うことにより、マイナス時間の積分となり、実際では0となる。
したがって、
【数16】
となる。式(17)を時間領域で考えると、光源自身の自己相関と測定対象Sの反射情報に光源自身の自己相関関数(コヒーレンス関数)を畳み込み積分した波形が観測されることになる。
【0032】
また、スペクトル領域で考えると、式(17)をフーリエ変換の形式で標記して、
【数17】
となる。なお、式(18)において、畳み込み積分のフーリエ変換は自明として省略している。これにより、図8(a)に示すような、光源2のスペクトルに反射情報の関数がフーリエ変換されたものが加えられたものを観測することができる。干渉光検出手段6において図8(a)のように検出された干渉光L4を画像取得手段7において周波数解析することにより、図8(b)に示すような深さ位置zにおける反射情報を取得することができる。
【0033】
このように、スペクトル干渉を用いて断層画像を取得することにより、反射光L3と参照光L2との光路長を変更することにより測定する深さ位置を変更するOCT装置のように機械的な可動部が不要となり、断層画像の取得を高速に行うことができる。
【0034】
なお、図1に示すように、測定対象Sを矢印X方向および矢印Y方向に移動する走査ステージ10を設けることにより、測定対象SのXY断面、XZ断面、YZ断面を取得することができる。あるいは、測定対象Sを移動させることなく、測定光L1を矢印X方向および矢印Y方向に走査させるようにしてもよい。
【0035】
ここで、光源2は、中心波長λcが、0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にあるレーザ光Lを射出するようになっている。レーザ光Lの中心波長λcを、0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にしたのは以下の理由による。
【0036】
OCT装置を内視鏡へ応用する際、OCT装置の光源波長としては、主に0.8μm帯が用いられてきた。これは生体における吸収特性を主に考慮した結果、選択された波長である。図9は、水、血液、メラニンおよび表皮の光の吸収係数および水の吸収係数を示すものである。開発当初においては、0.8μm帯の光が、生体の透過率が高く、そのために計測深度が深くなり、OCT装置には最も適していると考えられた。
【0037】
しかしながら、近年、OCT装置では、生体内部の後方散乱反射光を検出するため、散乱特性も計測深度を律束することが明らかにされた。生体組織での主な散乱はレーリー散乱であり、レーリー散乱では散乱強度は波長の4乗に逆比例する。OCT信号を取得する際の全損失は、吸収損失と散乱損失の和である。
【0038】
このような生体組織における光の全損失を考慮して、全損失が最小となる波長帯域である、1.3μm帯の光を光源波長として用いている。このため、眼科用のOCT装置が実用化された後、内視鏡応用のOCT装置においては、光源波長として1.3μm帯の光を用いた研究開発が進められている。
【0039】
しかし、内視鏡へOCT装置を応用する場合、被測定部の多くは水分を多く含む物質に覆われている。例えば被測定部が胃壁であれば、胃液に覆われているし、被測定部が大腸壁であれば、粘液に覆われている。また、被測定部が膀胱壁であれば、尿あるいは測定のために用いる生理食塩水等に覆われている。これらの水分を多く含む物質に覆われている被測定部においては、水による吸収の影響が大きいため、光の全損失が最小となる波長帯域が1.3μm帯ではない場合があり、所望の深度までの光断層画像が取得できない、あるいは取得した断層画像の信頼度が低下するおそれがある。
【0040】
そこで、光源2が水分を多く含む物資に覆われた生体組織に対して最適な中心波長帯である0.9μm以上かつ1.15μm以下の中心波長λcのレーザ光Lを射出することにより、生体組織が水分を多く含む物質により覆われている場合であっても、測定対象Sである生体組織の所望の深度までの光断層画像を高精度に取得することができる。具体的には、図10は、水分を多く含む物質に覆われた生体組織における光の損失を説明する模式図である。図10中の点線は、水分を多く含む物質に覆われた生体組織における散乱損失を示すものであり、破線は水分を多く含む物質に覆われた生体組織における吸収損失を示すものである。また、実線は水分を多く含む物質に覆われた生体組織における全損失を示すものである。この図10から、水分を多く含む物質に覆われた生体組織においては、光の全損失が少ない波長帯域は1.0μmを中心とする波長帯域であることがわかる。
【0041】
よって、水分を多く含む物資に覆われた生体組織に対して最適な中心波長帯である0.9μm以上かつ1.15μm以下の中心波長λcのレーザ光Lを射出することにより、生体組織が水分を多く含む物質により覆われている場合であっても、生体組織の所望の深度までの光断層画像を高精度に取得することができるようになる。さらに、レーザ光Lの中心波長λcが、1.05μm以下の範囲にあれば、測定光L1の全損失が小さくなり、取得できる光断層画像の深度が一層深くすることができる。
【0042】
なお、レーザ光Lの中心波長λcが0.9μm以上かつ1.15μm以下の場合、干渉光検出手段6がInGaAs系の光検出器を有するものであることが好ましい。これにより、図11のInGaAs系の光検出器の感度特性が示すように、波長帯域が0.9μm以上かつ1.15μmの干渉光を確実に検出することができる。
【0043】
本発明の実施の形態は、上記実施の形態に限定されない。たとえば、図1における光断層画像化装置において、低コヒーレンス光L、測定光L1、参照光L2、反射光L3、干渉光L4はそれぞれ大気中もしくは真空中を伝搬している場合について例示しているが、公知技術に示されているような光ファイバ中を伝搬させるようにしてもよい。この場合、光分割手段3および合波手段5はたとえば光ファイバカプラ等により実現されることになる。
【0044】
また、図1の光源2は、低コヒーレンス光を射出するものであればなんでもよく、たとえばYb系パルスレーザ、Nd系パルスレーザ、Ti系パルスレーザ、スーパールミネッセンスダイオード、近赤外蛍光色素を含有する発光体等を有するものであってもよい。なお、Yb系パルスレーザとしては、Yb:YAGレーザ、Yb:GlassレーザあるいはYb系ファイバレーザ等を使用することができる。また、Nd系パルスレーザとしては、Nd:YAGレーザ、Nd:GlassレーザあるいはNd系ファイバレーザ等を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の光断層画像化装置の好ましい実施の形態を示す模式図
【図2】図1の光源の一例を示す構成図
【図3】零分散ファイバにおける波長分散の説明図
【図4】パルス光における波長分布の説明図
【図5】低コヒーレンス光におけるスペクトル強度の説明図
【図6】図1の干渉光検出手段の構成例を示す模式図
【図7】測定光が測定対象に照射される様子を示す模式図
【図8】干渉光検出手段および画像生成手段において観測される反射強度を示すグラフ
【図9】吸収特性の説明図
【図10】生体組織における損失の説明図
【図11】光検出器の感度特性の説明図
【符号の説明】
【0046】
1 光断層画像化装置
2 光源
3 光分割手段
5 合波手段
6 干渉光検出手段
7 画像取得手段
L 低コヒーレンス光
L2 参照光
L1 測定光
L2 参照光
L3 反射光
S 測定対象
λc 中心波長
Δλ スペクトル半値全幅
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を多く含む物質に覆われた測定対象の断層画像を取得する光断層画像化装置において、
低コヒーレンス光を射出する光源と、
該光源から射出された前記低コヒーレンス光を測定光と参照光とに分割する光分割手段と、
前記測定光が前記測定対象に照射されたときの該測定対象からの反射光と前記参照光とを合波する合波手段と、
該合波手段により合波された前記反射光と前記参照光との干渉光の周波数および強度に基づいて、前記測定対象の各深さ位置における前記反射光の強度を検出する干渉光検出手段と、
該干渉光検出手段により検出された前記各深さ位置における前記干渉光の強度を用いて前記測定対象の断層画像を取得する画像取得手段と
を有し、
前記低コヒーレンス光の中心波長が、0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にあることを特徴とする光断層画像化装置。
【請求項2】
前記干渉光検出手段がInGaAs系の光検出器を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の光断層画像化装置。
【請求項3】
前記低コヒーレンス光の中心波長が、1.05μm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の光断層画像化装置。
【請求項4】
前記光源が、Yb系パルスレーザを有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項2記載の光断層画像化装置。
【請求項5】
前記光源が、Nd系パルスレーザを有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の光断層画像化装置。
【請求項6】
前記光源が、Ti系パルスレーザを有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の光断層画像化装置。
【請求項7】
前記光源が、スーパールミネッセントダイオードを有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の光断層画像化装置。
【請求項1】
水分を多く含む物質に覆われた測定対象の断層画像を取得する光断層画像化装置において、
低コヒーレンス光を射出する光源と、
該光源から射出された前記低コヒーレンス光を測定光と参照光とに分割する光分割手段と、
前記測定光が前記測定対象に照射されたときの該測定対象からの反射光と前記参照光とを合波する合波手段と、
該合波手段により合波された前記反射光と前記参照光との干渉光の周波数および強度に基づいて、前記測定対象の各深さ位置における前記反射光の強度を検出する干渉光検出手段と、
該干渉光検出手段により検出された前記各深さ位置における前記干渉光の強度を用いて前記測定対象の断層画像を取得する画像取得手段と
を有し、
前記低コヒーレンス光の中心波長が、0.90μm以上かつ1.15μm以下の範囲にあることを特徴とする光断層画像化装置。
【請求項2】
前記干渉光検出手段がInGaAs系の光検出器を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の光断層画像化装置。
【請求項3】
前記低コヒーレンス光の中心波長が、1.05μm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の光断層画像化装置。
【請求項4】
前記光源が、Yb系パルスレーザを有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項2記載の光断層画像化装置。
【請求項5】
前記光源が、Nd系パルスレーザを有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の光断層画像化装置。
【請求項6】
前記光源が、Ti系パルスレーザを有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の光断層画像化装置。
【請求項7】
前記光源が、スーパールミネッセントダイオードを有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の光断層画像化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−267071(P2006−267071A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−89996(P2005−89996)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【復代理人】
【識別番号】100134245
【弁理士】
【氏名又は名称】本澤 大樹
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【復代理人】
【識別番号】100134245
【弁理士】
【氏名又は名称】本澤 大樹
【Fターム(参考)】
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