説明

光硬化型ハードコート剤および光硬化型ハードコート剤からなるハードコート膜を備えた樹脂成形体

【課題】
溶剤での希釈を必要としない程度の低粘度のコーティング剤であり、かつハードコート膜の帯電防止性、耐擦傷性が十分に高い、乾燥工程が不要な光硬化型ハードコート剤を提供する。
【解決手段】
アンチモン複酸化物コロイド粒子、親水性官能基を有する光硬化性モノマーおよび光重合開始剤を含有し、光硬化性を有しない揮発性成分を実質的に含まないことを特徴とする光硬化型ハードコート剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック表面へ帯電防止性、耐擦傷性を付与する光硬化型ハードコート剤および光硬化型ハードコート剤からなるハードコート膜を備えた樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、数多くのプラスチックが家電業界や自動車業界など多方面に利用されている。プラスチックは加工性、透明性などに加え、軽量で安価であるなど様々な特長を有しているが、ガラスなどの材料に比べて柔らかく、表面に傷が付きやすいなどの欠点を抱えている。また、プラスチックは通常疎水性の材料であるため帯電しやすいという特性を有し、材料表面に塵埃が吸着しやすくなったり、帯電が電撃、引火等の原因となったりするなど、特に電子材料分野では製品使用上の大きな障害となっている。これらの欠点を改良するために、プラスチック表面にハードコート材料をコーティングし、プラスチックの持つ透明性や軽量性などの利点を損なうことなく表面の耐擦傷性、帯電防止性などを改善する技術が用いられている。
【0003】
このハードコート材料として、従来からシリコン系塗料、アクリル系塗料、メラミン系塗料などの熱硬化型のハードコート材料が用いられている。これらの中でも、紫外線などの光を用いて簡便に硬化が可能なアクリル系塗料が、硬化時間やコスト的に有利であり、現在のハードコート材料の中で主流となりつつある。
【0004】
しかし、アクリル系塗料は一般的にシリコン系塗料と比べて耐擦傷性や耐摩耗性などに劣るとされ、これまで様々な手法でその改善が試みられてきた。例えば、特許文献1では、分子中に少なくとも2個以上の(メタ)アクリル基を有する紫外線硬化性多官能(メタ)アクリレートと末端に共重合可能な不飽和二重結合を有する化合物および/またはスチレン−アクリル系重合体を配合する方法が提案され、特許文献2では、コロイダルシリカの表面をメタクリロキシシランで修飾した粒子とアクリレートとの組成物をハードコート材料として用いる方法を提案している。これらの公知技術を用いることにより、優れた耐擦傷性を有するアクリル系塗料を開発することができた。
【0005】
確かに上記の公知技術を用いることによりアクリル系塗料の耐擦傷性を向上させることができたが、アクリル系塗料自体の粘度が非常に高くなり、塗布可能なコーティング性を付与するためには溶剤を用いて希釈し、塗液の粘度を下げてから使用する必要があった。溶剤で希釈せずに使用できる可能な粘度のアクリル系塗料であれば耐擦傷性が不足しており、また十分な耐擦傷性を付与するためには粘度上昇を伴うために溶剤での希釈が必要であったため、それら2つを両立したアクリル系塗料、すなわち溶剤での希釈を必要としない程度の低粘度のコーティング剤であり、かつ耐擦傷性が十分に高いアクリル系塗料が望まれていた。
【0006】
一方、帯電防止性を改善するための手法として、帯電防止剤等をプラスチック材料へ練り込んだり、あるいはプラスチック材料成型品の表面へ塗布したりする方法が一般的に知られている。だが、帯電防止剤等をプラスチック材料へ練り込む方法では、プラスチック材料への相溶性が悪化するなど未だ種々の難点が報告されており、プラスチック材料成型品の表面へ塗布する方法では、低湿時において効果が十分に得られなかったり、成型品への塗布後の塗膜乾燥工程や塗布成型品の延伸や熱セット、加熱成型を施す際の加熱、摩擦、洗浄等で帯電防止効果が消失したりし、その耐久性が不十分なものが多く、耐久性の良い帯電防止方法の開発が望まれていた。
【0007】
上記課題の解決策として、特許文献3ではリン酸エステルを添加した帯電防止剤が、特許文献4ではフッ素化合物を添加した相溶性バランスの良い帯電防止剤が提案されているが、これらの帯電防止剤を塗布した製品も耐湿試験等の長期耐久試験を実施すると、塗膜の機械的強度、帯電防止性能の持続性などのバランスが崩れたものとなり、所望とする特性を備えた帯電防止剤というには未だ解決すべき点があった。
【0008】
上述した耐擦傷性と帯電防止性の課題を解決する方法として、例えば特許文献5〜7の方法があり、いずれも優れた耐擦傷性と帯電防止性を備えたアクリル系のコーティング膜を実現するものであったが、塗液の粘度上昇を抑えるために溶剤の添加が必須であった。すなわち、溶媒での希釈を必要としない程度の低粘度のコーティング剤であり、かつ耐擦傷性、帯電防止性を備えたアクリル系塗料は存在せず、それらを全て具備したアクリル系塗料が強く望まれていた。
【特許文献1】特開平9−48934号公報
【特許文献2】特開昭62−21815号公報
【特許文献3】特開昭63−6064号公報
【特許文献4】特開平2−186598号公報
【特許文献5】特開平5−28534号公報
【特許文献6】特許第3756551号公報
【特許文献7】特開2005−310201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を改善し、光硬化が可能なアクリル系塗料であり、優れた耐擦傷性と帯電防止性、溶剤での希釈が不要なハンドリング性の全てを備えた光硬化型ハードコート剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ね、アンチモン複酸化物が少なくとも表面の一部に露出したコロイド粒子を、親水性官能基を有する光硬化性モノマー中に分散させることにより、実質的に溶剤を含まず、優れた耐擦傷性と帯電防止性、ハンドリング性の全てを備えた光硬化型ハードコート剤を見いだした。
【0011】
すなわち、本発明は、
〔1〕アンチモン複酸化物が少なくとも表面の一部に露出したコロイド粒子、親水性官能基を有する光硬化性モノマーおよび光重合開始剤を含有し、光硬化性を有しない揮発性成分を実質的に含まないことを特徴とする光硬化型ハードコート剤。
〔2〕前記アンチモン複酸化物が少なくとも表面の一部に露出したコロイド粒子が、前記光硬化型ハードコート剤の総量に対して30重量%以上50重量%以下の範囲で含有されている〔1〕に記載の光硬化型ハードコート剤。
〔3〕前記アンチモン複酸化物が少なくとも表面の一部に露出したコロイド粒子の平均一次粒径が100nm以下である〔1〕または〔2〕に記載の光硬化型ハードコート剤。
〔4〕前記アンチモン複酸化物がアンチモン酸亜鉛である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の光硬化型ハードコート剤。
〔5〕前記親水性官能基を有する光硬化性モノマーが、アクリル基またはメタクリル基を有する〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の光硬化型ハードコート剤。
〔6〕前記親水性官能基が、水酸基である〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の光硬化型ハードコート剤。
〔7〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の光硬化型ハードコート剤を塗布後光硬化してなるハードコート膜を備えた樹脂成形体。
により構成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、優れた耐擦傷性と帯電防止性、溶剤での希釈が不要なハンドリング性の全てを備えた、光硬化可能なアクリル系ハードコート剤を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、アンチモン複酸化物が少なくとも表面の一部に露出したコロイド粒子、親水性官能基を有する光硬化性モノマーおよび光重合開始剤を含有し、光硬化性を有しない揮発性成分を実質的に含まないことを特徴とする光硬化型ハードコート剤である。
【0014】
本発明で用いられるアンチモン複酸化物が少なくとも表面の一部に露出したコロイド粒子において、「少なくとも表面の一部に露出した」とは、例えば、アンチモン複酸化物がモノマーと化学的に結合したり、ポリマー等によって覆われたりして、アンチモン複酸化物の表面が完全に覆われた状態でなく、帯電防止性を発現すると考えられるアンチモン複酸化物が、コロイド粒子表面の少なくとも一部に露出している状態であることを示す。アンチモン複酸化物の表面が完全に覆われた状態であると、帯電防止性を発現するアンチモン複酸化物の表面が有機物からなるポリマーの結合ネットワークに組み込まれてしまうために、有効な帯電防止性を発現できないのだと推測される。
【0015】
例えば、本発明者らが特願2006−299897において明らかにした、アンチモン複酸化物の表面を、光硬化性官能基を有する有機シラン化合物によって修飾したコロイド粒子を用いると、ハードコート膜の耐擦傷性向上には大きく寄与するが、有効な帯電防止性は発現しないことが判明した。
【0016】
したがって、優れた帯電防止性を発現するため、アンチモン複酸化物コロイド粒子の表面を修飾せず、アンチモン複酸化物がコロイド粒子表面の全部に露出した、そのままの状態で光硬化型ハードコート剤に含有させることが、帯電防止性を向上させる観点からは好ましい。
【0017】
また、本発明の光硬化型ハードコート剤において、表面修飾されていないアンチモン複酸化物コロイド粒子と、先述の、表面修飾されたアンチモン複酸化物コロイド粒子との両方を含有させると、ハードコート剤の分散性が悪化したり、得られる帯電防止性能が低下したりする恐れがあり好ましくない。
【0018】
本発明で用いられるアンチモン複酸化物コロイド粒子とは、酸化アンチモンと、必要に応じて例えば酸化亜鉛などのそれ以外の金属酸化物とを複合させたコロイド粒子であり、酸化アンチモン単独のコロイド粒子であっても、酸化アンチモンとその他の金属化合物との複合コロイドであっても良い。
【0019】
本発明のアンチモン複酸化物コロイド粒子を例示すると、特開平6−219743号公報または特開平11−189416号公報に記載されている方法で得られる無水アンチモン酸亜鉛粒子などが挙げられる。さらに、市販されているアンチモン複酸化物ゾルに含まれるアンチモン複酸化物コロイド粒子も好ましく使用することが可能であり、この場合は例えば、日産化学工業株式会社製メタノール分散アンチモン複酸化物ゾル「セルナックス(登録商標)」や触媒化成工業株式会社製五酸化アンチモン粒子系分散液「ELCOM(登録商標)」などを使用することができる。
【0020】
本発明の光硬化型ハードコート剤に含まれる上記アンチモン複酸化物コロイド粒子の含有量は特に限定されず、要求されるハードコート膜の帯電防止性や耐擦傷性などの特性に応じて調節することができるが、帯電防止性、耐擦傷性ともにアンチモン複酸化物コロイド粒子の含有量を上げるほどそれらの性能を向上させることができるため、含有量がなるべく高い方が好ましい。だが、アンチモン複酸化物コロイド粒子の含有量を上げすぎると、塗液の分散性が悪化したり粘度上昇しすぎたりするため取り扱いが難しくなり、さらには形成したハードコート膜の光透過性が損なわれる恐れがあるため好ましくない。上記観点から、アンチモン複酸化物コロイド粒子の含有量は、光硬化型ハードコート剤の総量に対して30重量%以上50重量%以下の範囲で含有されていることが好ましく、より好ましくは40重量%以上50重量%以下の範囲である。アンチモン複酸化物コロイド粒子の含有量が光硬化型ハードコート剤の総量に対して30%未満であれば、形成したハードコート膜の耐擦傷性が十分でなかったり、得られる帯電防止効果が小さかったりし、逆に50重量%を超えると、塗液の分散性が低下し、形成したハードコート膜が相分離を起こしたりするなどの外観不良が発生しやすい。
【0021】
また、アンチモン複酸化物コロイド粒子の平均一次粒径は、特に制限されないが、上限については、大きくなりすぎると形成される膜の表面平滑性を損なう恐れがあることに加え、光透過性が損なわれるために特に光学用途の材料に適用する場合に大きく影響を与えてしまう。また、適用する材料が光ディスクである場合は、記録・再生のためのレーザー光の波長の1/2未満であれば特に制限はない。また、下限については、公知の方法で製造されるアンチモン複酸化物コロイド粒子の粒径であれば特に制限されず、例えば市販されているアンチモン複酸化物コロイド粒子の中で平均一次粒径が小さいものとしては、日産化学工業株式会社製のメタノール分散アンチモン複酸化物ゾル「セルナックス(登録商標)CX−Z693M−F」があり、その平均一次粒径は15nmである。これらの事情を鑑み、好ましい無機微粒子の平均一次粒径は100nm以下であり、さらに好ましくは15nm以上50nm以下である。
【0022】
本発明で用いられる光硬化性モノマーとは、光硬化性官能基、すなわち、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基など活性光のエネルギーによって励起される官能基を有し、その集合体が重合反応をして硬化性ポリマーを形成するモノマーのことを言う。ここで言う光硬化性官能基としては、上記に挙げた官能基のように活性光によって励起されるものであれば特に制限はされないが、反応性等の観点からアクリル基もしくはメタクリル基を選択することが好ましい。
【0023】
上記光硬化性モノマーは、モノマー中に光硬化性官能基を1つ以上有していればよく、光硬化性官能基を2つ以上有していてもよい。光硬化性モノマーを例示すると、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ベンジル、シクロヘキシルアクリレート、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸セチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸n−ステアリル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸3−メトキシブチル、エトキシジエチレングリコールアクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリルアクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジアクリレート、1,9−ノナンジオールアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アクリル変性ジペンタエリスリトールのアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、ε−カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールのアクリレート、2−プロペノイックアシッド[2≡〔1,1−ジメチル−2−〔(1−オキソ−2−プロペニル)オキシ〕エチル〕−5−エチル−1,3−ジオキサン−5−イル]メチルエステル、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、無水フタル酸−アクリル酸2−ヒドロキシプロピル付加物、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、N,N,N−トリメチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピル)アンモニウムクロライド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、アクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N≡ジメチルアクリルアミドなど単官能、多官能のアクリレートおよび、上記のアクリル基をメタクリル基に置き換えた単官能、多官能の化合物、またスチレン、ジビニルベンゼン、p−t−ブトキシスチレン、p−アセトキシスチレン、p−(1−エトキシ)スチレン、2−t−ブトキシ−6−ビニルナフタレン、p−クロロスチレン、p−スチレンスルホン酸ソーダ、酢酸ビニル、塩化ビニル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチンエチレングリコールモノビニルエーテル、N−ビニル−2−ピロリドンなどを挙げることができる。
【0024】
本発明の光硬化型ハードコート剤においては、上記の光硬化性モノマーに親水性官能基が導入された、親水性官能基を有する光硬化性モノマーが含まれる。親水性官能基を有する光硬化性モノマーとしては、1分子内に水酸基、アミノ基、スルホン酸基などの親水性官能基と、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基などの光硬化性官能基とを両方有するものであれば特に制限されないが、親水性官能基として水酸基を有する化合物、中でも2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、メタクリル酸4−ヒドロキシブチルが好ましく用いられる。
【0025】
本発明の光硬化型ハードコート剤においては、さらに親水性官能基を含まない光硬化性モノマーを含んでもよい。
【0026】
これら光硬化性官能基を励起させるのに用いられる光は、紫外線、電子線、あるいはガンマ線などである。また、これらの線源としては、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプや加速電子などが使用できる。
【0027】
本発明において用いられる光重合開始剤としては、光硬化性官能基がビニル基、アクリル基またはメタクリル基である場合は、ラジカル反応開始剤を使用する。ラジカル反応開始剤を使用することにより、上記官能基の不飽和二重結合による付加反応が起こって光硬化性官能基同士の連結が起こり、結果として光硬化性モノマー同士の重合が進行する。
【0028】
ラジカル反応開始剤としては従来から光重合開始剤として使用されているものが使用可能であり、例えば、フェニルケトン類、フォスフィンオキサイド類、アミノベンゾエート類、チオキサントン類等が挙げられる。
【0029】
フェニルケトン類の具体例として、例えば、アントラキノン、ベンゾフェノン、アセトフェノン等が挙げられる。
【0030】
フォスフィンオキサイド類の具体例として、例えば、2、4、6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0031】
アミノベンゾエート類の具体例として、例えば、2−ベンジル2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等が挙げられる。
【0032】
チオキサントン類の具体例として、例えば、2、4−ジエチルチオキサトン等が挙げられる。
【0033】
上記ラジカル反応開始剤の中でもフェニルケトン類、フォスフィンオキサイド類およびアミノベンゾエート類が好ましく、より好ましくはフェニルケトン類、特にアントラキノンまたはベンゾフェノンである。安価かつ高速度で硬化膜を形成できるためである。
【0034】
光硬化性官能基がエポキシ基である場合は、光重合開始剤としてイオン開裂剤を使用する。イオン開裂剤を使用することにより、エポキシ環の開環による付加反応が起こってエポキシ基同士の連結が起こり、結果として光硬化性モノマー同士の重合が進行する。
【0035】
イオン開裂剤としては従来からエポキシ環のイオン開裂剤として使用されているものが使用可能であり、例えば、ルイス酸アリルジアゾニウム塩、ジアリルヨ−ドニウム塩等が使用可能である。ルイス酸アリルジアゾニウム塩を用いると、カチオン反応の硬化過程で被膜を形成し、硬い膜を素早く得ることができる。また、重合過程がイオン反応であるため、酸素による反応阻害がなく、放置するだけでも完全硬化が進行するため、未硬化の問題はなくなる。
【0036】
ルイス酸アリルジアゾニウム塩はルイス酸を発生させ、Sb、SnまたはFeのいずれか1種ならびにIおよびFを含むものであり、例えば、一般式;
[R(C)]ISbF
(式中、Rは炭素原子数10〜14の1価炭化水素基、特にアルキル基である)で表される化合物が挙げられる。
【0037】
反応開始剤の含有量は特に制限されず、塗布される光硬化型ハードコート剤の総量に対して1〜4重量%、特に2〜3重量%が好ましい。
【0038】
本発明においては、光硬化型ハードコート剤の中に光硬化性を有しない揮発性成分を実質的に含んでいないことを特徴とする。光硬化性を有しない揮発性成分とは、従来技術において塗液(ハードコート剤)の粘度を下げるために用いる溶剤のことであり、コロイド状の無機微粒子が分散している水やアルコールなどの各種溶媒等が含まれるが、揮発性を有し、光硬化性官能基を分子内に持たないものであれば特に制限されない。
【0039】
ここで、実質的に含まないとは、意図して含有させないという意味であって、例えば空気中に含まれる水分をハードコート剤が吸湿してしまった場合などは、それによってハードコート剤の塗布可能なコーティング性が付与されるものではないため、その水分は実質的に含まないこととする。また、光硬化型ハードコート剤を製造する過程において、揮発性の溶剤を留去する工程があった場合、その揮発性の溶剤を完全に留去することを目的としてその工程を行うものであるが、完全に留去しきれなかった揮発性の溶剤が若干量含まれていたとしても、それによってハードコート剤の塗布可能なコーティング性が付与されるものではないため、その光硬化型ハードコート剤は光硬化性官能基を有しない揮発性成分を実質的に含まないこととする。
【0040】
膜の形成方法としてはマイクログラビアコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、カーテンフローコーティング、ロールフローコーティング、スプレーコーティング、流し塗り法などを用いてコーティングすることができるが、本発明のハードコート剤を適用する基材に応じて最適な方法を決定するべきである。そして、本発明においては、基材上にハードコート剤を塗布した後、紫外線、電子線、ガンマ線などを照射するのみで硬化を完了させることができ、光照射前、光照射後の乾燥工程を必要としない。
【0041】
本発明のハードコート剤には、フッ素含有モノマー、フッ素含有ポリエーテル化合物など、公知の防汚剤や防汚成分を適宜含有させることで、ハードコート塗膜に防汚性(撥油、撥水性)および表面の潤滑性を付与することができる。
【0042】
上記の方法によって形成されたハードコート膜の膜厚は、0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。0.5μm未満であれば耐擦傷性を満足させることが難しく、また10μmを超えるとクラックや反りを生じやすくなる。
【0043】
ハードコート膜の測定方法としては、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた断面観察法、繰り返し反射干渉法、X線光電子分光分析法など公知の方法を用いることができる。
【0044】
本発明の光硬化型ハードコート剤には、必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱重合防止剤などの安定剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、顔料、分散剤、防曇剤などの界面活性剤類、潤滑性付与剤、スリッピング剤を適宜配合して用いてもよい。
【0045】
本発明の光硬化型ハードコート剤は、種々の樹脂成形体に適用可能である。樹脂成形体の形状としては、フィルム、シート、光ディスクなどディスク状の樹脂成形体、レンズなどが挙げられ、樹脂の素材としてはポリエステル、塩化ビニル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0046】
上記適用樹脂が光ディスクにおいては、本発明の光硬化型ハードコート剤を適用する基材がいかなる構成をとっていても構わないが、例えばディスクの表面に反射、記録、誘電などの各種機能を発揮する層が形成され、さらにその表面にシリコン樹脂またはアクリル樹脂などを重合させてなる光硬化性の保護膜が形成され、さらにその保護膜上に形成することも可能である。本発明の光硬化型ハードコート剤を光ディスク表面に適用することにより、光ディスク表面の耐擦傷性を向上させるなどの効果を付与し、より実用性に優れた光ディスクを提供することができる。
【0047】
上記の光ディスクとしては、例えばコンパクトディスク(登録商標)やデジタル・バーサタイル・ディスク、ブルーレイ・ディスクなど記録、再生用の各種ディスクが挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、硬化後のハードコート膜の評価は次の方法で行った。
【0049】
1.外観
目視にて観察し、透明でありクラックや白濁などの不良が無いものを○とした。
【0050】
2.耐擦傷性
#0000スチールウール(日本スチールウール株式会社製;商品名「ボンスター(登録商標)」)で200gの荷重をかけ、硬化膜の表面を10往復擦って目視にて傷のつき具合を判定した。判定基準は次の通りである。
○・・・擦った範囲に全く傷が認められない
△・・・上記範囲内に1〜10本傷がついた
×・・・上記範囲内に無数の傷がついた
3.密着性
ナイフを用いて被膜面に1mm間隔に切れ目を入れ、マス目を100個形成する。次に、その上へセロファン粘着テープ(ニチバン株式会社製;商品名「セロテープ(登録商標)」)を強く押しつけた後、表面から90度方向へ素早く引っ張り剥がし、目視でコート膜に剥離が全く確認できないものを○とした。
【0051】
4.帯電防止性
高抵抗率計(三菱化学株式会社製「Hiresta(登録商標)−UP MCP−HT450」)を用いて、温度25℃、湿度50%RHの条件下で、印加電圧1000Vにて硬化膜の表面抵抗値を測定した。
【0052】
(実施例1)
(1)光硬化型ハードコート剤の調製
容量200mlのナス型フラスコにメタノール分散アンチモン酸亜鉛ゾル(日産化学工業株式会社製;商品名「セルナックス(登録商標)CX−Z610M−F2」固形分濃度60重量%、平均一次粒径15nm)(組成物A1)を20.83g、およびアクリル酸2−ヒドロキシエチル(組成物B)を12.50g加え、室温下にて100rpmで30分撹拌を続けて良く混合させた後、ロータリーエバポレーターを用いて水浴下にて1時間かけて混合物中の揮発性成分を留去した。その後、光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製;商品名「IRGACURE(登録商標)184」)(組成物C)を0.75g、レベリング剤としてシリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製;商品名「SRX−298」)(組成物D)を0.08g加え、常温および遮光にした状態にて200rpmで1時間撹拌し良く混合させ、光硬化型ハードコート剤を得た。
【0053】
(2)光硬化型ハードコート膜の形成
直径12cm、厚さ2mmにカットしたアクリル基盤(住友化学株式会社製;商品名「スミペックス(登録商標)」)の表面にスピンコート法により、(1)で調製した光硬化型ハードコート剤を厚さ2μmとなるように塗布し、その後高圧水銀灯1灯(120W/cm)を備えたコンベア式UV照射装置に、5m/minの速度で1度通してUV照射(積算光量約150mJ/cm2)を行い、光硬化型ハードコート膜を表面に設けたアクリル基盤を得た。
【0054】
(実施例2、3)
光硬化型ハードコート剤の調製に用いた各組成物等の重量を表1に示した重量に変更した以外は、全て実施例1と同様にして光硬化型ハードコート剤の調製、光硬化型ハードコート膜の形成を行った。
【0055】
【表1】

【0056】
(比較例1)
(1)光硬化型ハードコート剤の調製
撹拌装置を備えた容量200mlのナス型フラスコにγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製;商品名「KBM−5103」)(組成物E)8.87gを入れ、100rpmで撹拌しながら20℃を保ったまま約30分かけて0.05規定に調製した塩酸水溶液2.05gを滴下した。滴下終了後約30分撹拌を続け、次にメタノール分散アンチモン酸亜鉛ゾル(日産化学工業株式会社製;商品名「セルナックス(登録商標)CX−Z610M−F2」固形分濃度60重量%、平均一次粒径15nm)(組成物A1)を20.83g加え、200rpmで撹拌しながら80℃を保ったまま2時間撹拌を続けた後、室温下にて1時間撹拌を続けた。続いてアクリル酸2−ヒドロキシエチル(組成物B)を6.25g加え、室温下にて100rpmで30分撹拌を続けて良く混合させた後、ロータリーエバポレーターを用いて水浴下にて1時間かけて混合物中の揮発性成分を留去した。その後、光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製;商品名「IRGACURE(登録商標)184」)(組成物C)を0.75g、レベリング剤としてシリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製;商品名「SRX−298」)(組成物D)を0.08g加え、常温および遮光にした状態にて200rpmで1時間撹拌し良く混合させ、光硬化型ハードコート剤を得た。
【0057】
(2)光硬化型ハードコート膜の形成
(1)で得られた光硬化型ハードコート剤につき、実施例1と同様にして光硬化型ハードコート膜の形成を行った。
【0058】
(比較例2)
比較例1における組成物A1の代わりにメタノール分散シリカゾル(触媒化成工業株式会社製;商品名「OSCAL(登録商標)−1132」固形分濃度30重量%、平均一次粒径12nm)(組成物A2)を用い、さらに光硬化型ハードコート剤の調製に用いた各組成物等の重量を表1に示した重量に変更した以外は、全て比較例1と同様にして光硬化型ハードコート剤の調製、光硬化型ハードコート膜の形成を行った。
【0059】
(比較例3)
実施例1における組成物A1の代わりに組成物A2を用い、さらに光硬化型ハードコート剤の調製に用いた各組成物の重量を表1に示した重量に変更した以外は、全て実施例1と同様にして光硬化型ハードコート剤の調製、光硬化型ハードコート膜の形成を行った。
【0060】
(比較例4)
実施例1における組成物A1の代わりにジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製;商品名「KAYARAD(登録商標)DPHA」)(化合物F)を用い、さらに光硬化型ハードコート剤の調製に用いた各組成物の重量を表1に示した重量に変更した以外は、全て実施例1と同様にして光硬化型ハードコート剤の調製、光硬化型ハードコート膜の形成を行った。
【0061】
得られたハードコート膜の評価結果(実施例1〜3、比較例1〜4)を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示した通り、実施例1〜3で得られたハードコート膜は、外観性、耐擦傷性、アクリル基材との密着性が良好であったほか、極めて低い表面抵抗値を示し、優れた帯電防止性を有していることが分かった。
それに対し、比較例1〜4では表面抵抗値が高い値を示し、十分な帯電防止性を得ることができなかった。特に、比較例1においては、実施例1〜3と同様に組成物A1を使用したにも関わらず、十分な帯電防止性を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の光硬化型ハードコート剤は、紫外線などの活性光を用いて短時間で硬化させることができ、また溶剤希釈工程を必要とせず、簡便かつ安価に、優れた帯電防止性、耐擦傷性のハードコート膜を提供することができる。そのため、光ディスクなど数多くの樹脂成形体に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチモン複酸化物が少なくとも表面の一部に露出したコロイド粒子、親水性官能基を有する光硬化性モノマーおよび光重合開始剤を含有し、光硬化性を有しない揮発性成分を実質的に含まないことを特徴とする光硬化型ハードコート剤。
【請求項2】
前記アンチモン複酸化物が少なくとも表面の一部に露出したコロイド粒子が、前記光硬化型ハードコート剤の総量に対して30重量%以上50重量%以下の範囲で含有されている請求項1に記載の光硬化型ハードコート剤。
【請求項3】
前記アンチモン複酸化物が少なくとも表面の一部に露出したコロイド粒子の平均一次粒径が100nm以下である請求項1または2に記載の光硬化型ハードコート剤。
【請求項4】
前記アンチモン複酸化物がアンチモン酸亜鉛である請求項1〜3のいずれかに記載の光硬化型ハードコート剤。
【請求項5】
前記親水性官能基を有する光硬化性モノマーが、アクリル基またはメタクリル基を有する請求項1〜4のいずれかに記載の光硬化型ハードコート剤。
【請求項6】
前記親水性官能基が、水酸基である請求項1〜5のいずれかに記載の光硬化型ハードコート剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光硬化型ハードコート剤を塗布後光硬化してなるハードコート膜を備えた樹脂成形体。

【公開番号】特開2008−143999(P2008−143999A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331489(P2006−331489)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】