説明

光触媒酸化タングステン薄膜

【課題】高速成膜にて安価に成膜された光触媒酸化タングステン薄膜を提供する。
【解決手段】ガスフロースパッタリングにより、加熱基板16上に成膜された光触媒酸化タングステン薄膜と成膜後に焼成されてなる酸化タングステン薄膜は、優れた可視光応答光触媒活性を示す。従来のスパッタリングより圧力が2桁程度高く、ターゲット15表面をアルゴンガスの強制流が流れ、ターゲット表面に酸素ガスが拡散してくるのを防ぎ、常にフレッシュなメタル状態に維持しつつスパッタリングし、スパッタ粒子をアルゴンの強制流にて基板上まで輸送し、基板上で酸素ガスにより酸化させることが可能である。これにより十分な酸素を導入しても通常のスパッタリングのように酸化物モードになって成膜速度が低下することはなく、酸化タングステン薄膜の高速成膜が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化タングステン(WO)薄膜に係り、特に、ガスフロースパッタリングによる高速成膜で形成された可視光応答光触媒機能を有する酸化タングステン薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化タングステンは優れた光触媒材料であり、その有機物分解機能や超親水性などの機能により、脱臭、水浄化、防汚、セルフクリーニング(自己浄化)、抗菌、抗ウィルス、抗カビ、殺菌など様々な分野への適用が試みられている。特に結晶性の酸化タングステンは可視光にて触媒活性を示す可視光応答性を有することから、屋外のみならず屋内での使用についても期待される。
【0003】
酸化タングステンを光触媒材料に適用する場合、単独で使用されることは稀であり、通常は何らかの基材表面に薄膜状に固定化されて使用される。この際、スパッタリングは、あらゆる基材表面に密着力良く酸化タングステン薄膜を形成することが可能である等の特長を有し、酸化タングステン薄膜の形成方法として優れている。
【0004】
しかしながら、通常のスパッタリング(DCマグネトロンスパッタリング)で、Wターゲットを用い、酸素を導入しながら行う反応性スパッタリングにおいて透明な酸化タングステン薄膜を形成するには、いわゆる酸化物モードでの成膜となり、成膜速度が10nm/min程度と極めて低速な成膜となってしまう。このような低速の成膜速度では工業的に使用に耐えるものではない。
【0005】
また、従来のスパッタリングでは成膜速度が遅いこと以外に、基板を600℃程度あるいはそれ以上に加熱しながら成膜した場合にのみ可視光応答性を示し、低温で成膜した後に後焼成をした場合には可視光応答性を示さないことも、製造方法に制限がかかる点で問題である。
【0006】
このように、通常のスパッタリングによる酸化タングステン薄膜の形成では、成膜速度が遅い;基板を600℃程度あるいはそれ以上に加熱しながら成膜した場合にのみ可視光応答性を示し、低温で成膜した後に後焼成をした場合には可視光応答性を示さない;といった欠点があるが、更に、通常のスパッタリングでは、真空チャンバー内を高真空状態に排気するために大掛かりな排気装置や高機能の制御機器が必要となるため、高額な設備を必要とするという欠点もある。
【0007】
このような通常のスパッタリングに対して、ガスフロースパッタリングが知られており、本出願人は先に、ガスフロースパッタリングを、固体高分子型燃料電池用電極の触媒層や、色素増感型太陽電池用半導体電極層の形成に応用する技術を提案している(特許文献1〜3)。
【0008】
ガスフロースパッタリングは、比較的高い圧力下でスパッタリングを行い、スパッタ粒子をAr等のガスの強制流により成膜対象基材まで輸送して堆積させる方法である。このガスフロースパッタリングは高真空排気が不要であることから、従来の通常のスパッタリングのような大掛かりな排気装置を用いることなく、メカニカルなポンプ排気で成膜することが可能であり、従って安価な設備で実施できる。しかも、ガスフロースパッタリングは、通常のスパッタリングの10〜1000倍の高速成膜が可能である。更に、ターゲット背面に磁石を必要としないために、ターゲット背面に磁石を必要とする通常のスパッタリングではターゲットの利用効率が20〜30%程度であるのに対して、ガスフロースパッタリングではターゲットの利用効率が90%以上と非常に高い。従って、ガスフロースパッタリングによれば、設備費の低減、成膜時間の短縮、ターゲット利用効率の向上により、成膜コストを大幅に低減することが可能となる。
【特許文献1】特願2004−319592号
【特許文献2】特願2004−319548号
【特許文献3】特願2004−319598号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の如く、光触媒材料としての酸化タングステン薄膜の成膜に当たり、従来採用されているスパッタリングでは、成膜速度が遅い;基板を600℃程度あるいはそれ以上に加熱しながら成膜した場合にのみ可視光応答性を示し、低温で成膜した後に後焼成をした場合には可視光応答性を示さない;高額な設備を必要とし、ターゲットの利用効率も悪く、成膜コストが高くつく;といった欠点があり、従来、高速成膜にて光触媒活性を有する酸化タングステン薄膜を安価に製造する方法は提供されていなかった。
【0010】
従って、本発明は、高速成膜にて安価に成膜された光触媒酸化タングステン薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ガスフロースパッタリングを採用することにより、酸化タングステン薄膜を高速成膜にて安価に成膜することができること、更には基板を加熱しながら成膜する場合と成膜された酸化タングステン薄膜を後焼成する場合のいずれにおいても、優れた可視光応答光触媒活性を有する酸化タングステン薄膜を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0013】
請求項1の酸化タングステン薄膜は、ガスフロースパッタリングにより成膜されてなることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2の酸化タングステン薄膜は、請求項1において、ターゲットとして金属タングステンを用い、酸素ガスを導入する反応性スパッタリングで成膜されてなることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3の酸化タングステン薄膜は、請求項1又は2において、加熱基材上に成膜され、アズデポジッションで光触媒活性を示すことを特徴とするものである。
【0016】
請求項4の酸化タングステン薄膜は、請求項3において、基材として、ガラス板、金属板、金属箔又はセラミックス板を用いたことを特徴とするものである。
【0017】
請求項5の酸化タングステン薄膜は、請求項1ないし4のいずれか1項において、ガスフロースパッタリングにおける成膜圧力が5〜200Paであることを特徴とするものである。
【0018】
請求項6の酸化タングステン薄膜は、請求項1ないし5のいずれか1項において、アルゴンガスと酸素ガスとを別々に導入するガスフロースパッタリングにより成膜されてなることを特徴とするものである。
【0019】
請求項7の酸化タングステン薄膜は、請求項1ないし6のいずれか1項において、矩形ターゲットを向き合わせる形に配置したカソード構造を有するガスフロースパッタリング装置で成膜されてなることを特徴とするものである。
【0020】
請求項8の酸化タングステン薄膜は、請求項1ないし7のいずれか1項において、ガスフロースパッタリングにより100nm/min以上の成膜速度で成膜されてなることを特徴とするものである。
【0021】
請求項9の酸化タングステン薄膜は、請求項1ないし8のいずれか1項において、ガスフロースパッタリングによる成膜後、焼成されてなることを特徴とするものである。
【0022】
請求項10の酸化タングステン薄膜は、請求項9において、焼成条件が400〜900℃であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
ガスフロースパッタリングは、比較的高い圧力下でスパッタリングを行い、スパッタ粒子をガスの強制流により成膜対象基板まで輸送して堆積させる方法である。このガスフロースパッタリングは、高真空排気が不要であることから、従来の通常のスパッタリングのような大掛かりな排気装置を用いることなく、メカニカルなポンプ排気で成膜することが可能であり、従って、安価な設備で実施できる。しかも、ガスフロースパッタリングは、通常のスパッタリングの10〜1000倍の高速成膜が可能である上に、ターゲットの利用効率も高い。従って、本発明によれば、ガスフロースパッタリングを採用することによる設備費の低減、成膜時間の短縮、成膜効率の向上により、酸化タングステン薄膜を安価に成膜することが可能となる。しかも、ガスフロースパッタリングでは、DCマグネトロンスパッタリングと異なり、ターゲットの背面に磁石を必要としない。従って、ターゲットの利用効率が90%以上と非常に高く、低コスト化に有利である。(DCマグネトロンスパッタリング:20〜30%)
しかも、ガスフロースパッタリングであれば、基材加熱を行う場合の他に、基板を加熱せずに成膜した後に焼成を行う場合であっても、光触媒活性の高い酸化タングステン薄膜を成膜することができる。また、成膜された酸化タングステン薄膜の基材に対する密着性も良好であるため、高品質の酸化タングステン薄膜を製造することができる。
【0024】
なお、本発明による効果が得られる作用機構の詳細は次の通りである。
【0025】
通常のスパッタリング法では、Wターゲットを用いて酸化タングステンを成膜する際に、酸素をある程度導入した時点でターゲット表面が酸化されて、成膜される薄膜は透明な酸化タングステン薄膜となるが、成膜速度も非常に遅くなってしまう。一方で、ガスフロースパッタリングでは圧力が2桁程度高く、ターゲット表面をアルゴンガスの強制流が流れ、ターゲット表面に酸素ガスが拡散してくるのを防ぎ、ターゲット表面を酸化させることなく常にフレッシュなメタル状態に維持しつつスパッタリングし、スパッタ粒子をアルゴンの強制流にて基板上まで輸送し、基板上で酸素ガスにより酸化させることが可能である。これにより十分な酸素を導入しても通常のスパッタリングのように酸化物モードになって成膜速度が低下することはなく、酸化タングステン薄膜の高速成膜が可能となる。高速成膜のレベルとしては、通常のDCマグネトロンスパッタリング法を用いた場合と比較して、酸化タングステン薄膜の密度が同一でないことや成膜圧力などの条件により成膜速度が変化するために単純に比較することはできないが、同一電力密度を印加した場合には20倍以上の成膜速度が得られる。例えば4W/cmの電力印加にて、DCマグネトロンスパッタリング法では約9nm/min、ガスフロースパッタリングでは約200nm/minの成膜速度が可能である。
【0026】
また、導入する酸素量やその他の条件により触媒活性の高さが異なるが、ガスフロースパッタリングでは酸素導入量により急激に成膜速度が低下するなどのモードの変化もなく、良好な光触媒活性を有する条件を容易に見つけ出すことができる。酸素導入量が多いほど光触媒活性は高い傾向にあるが、極度の酸素導入量増大はターゲット表面でのアーキングを誘発するため、これらの問題が生じない範囲で酸素流量は適宜変更することができる。
【0027】
このようにガスフロースパッタ法では可視光応答光触媒活性を有する酸化タングステンの高速成膜ができることが特徴であるが、更にはガスフロースパッタ法にて作製した酸化タングステン薄膜は、基板加熱によるアズテポ結晶化以外に、後焼成による結晶化プロセスであっても良好な可視光応答光触媒活性を示すという発明を得た。この理由については現在明らかとなっていないが、ガスフロースパッタ成膜された酸化タングステン薄膜には、後の焼成プロセスで結晶の核となるためのナノ結晶が形成されている可能性が考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本発明の酸化タングステン薄膜の実施の形態を詳細に説明する。
【0029】
まず、図1を参照して、本発明で採用するガスフロースパッタリングによる成膜方法について説明する。
【0030】
図1(a)は、本発明の実施に好適なガスフロースパッタリング装置の概略的な構成を示す模式図であり、図1(b)は、図1(a)のターゲット及びバックプレート構成を示す斜視図である。
【0031】
ガスフロースパッタリング装置では、スパッタガス導入口11からチャンバー20内にアルゴン等の希ガス等を導入し、DC電源等の電源12に接続されたアノード13及びカソードとなるターゲット15間での放電で発生したプラズマによりターゲット15をスパッタリングし、はじき飛ばされたスパッタ粒子をアルゴン等の希ガス等の強制流にて基板16まで輸送し堆積させる。なお、図示例において、基板16はホルダー17に支持されており、基板16の近傍には反応性ガスの導入口18が配置されており、反応性スパッタリングリングを行うことが可能である。14は水冷バッキングプレートである。
【0032】
本発明においては、このようなガスフロースパッタリング装置を用いて、酸化タングステン薄膜を成膜する。
【0033】
ガスフロースパッタリングによる酸化タングステン薄膜の成膜は、金属Wをターゲットとし、酸素ガスを導入しながら行う反応性スパッタリングにより行う。
【0034】
用いるターゲットの形状には特に制限はなく、円筒形のターゲットや矩形板状のターゲットなど任意の形状のターゲットを用いることができるが、加工費が安いことから、矩形板状のターゲットを用い、これらを図1のように向かい合わせた方式とすることが好ましい。また、ガスフロースパッタリングは、図1に示す如く、酸素ガスとアルゴンガスとを別々に導入して行うことが高速成膜及び安定放電の点で好ましく、また、この方式では、基材を搬送しながら連続的に成膜したり、シート状基材を一方のロールから送り出して他方のロールに巻き取るようにして成膜して、ターゲット長さを長くすることで容易に成膜効率を高めることができる。
【0035】
基材としては耐熱性基材が用いられ、例えば、ガラス板、金属板、金属箔、又はセラミックス板等を用いることができる。ここで、金属板、金属箔の金属としては、Al,Cu,Au,Fe,Ni等、或いはこれらを含む合金(例えばSUS)等が挙げられる。また、セラミックスとしてはジルコニア、アルミナ、イットリア、炭化珪素、窒化珪素等が挙げられる。
【0036】
成膜時に基材加熱を行うことにより、成膜される薄膜が結晶性薄膜になる。ここで、加熱温度は400〜900℃であることが好ましく、特に500〜800℃であることが好ましい。400℃未満であると十分に結晶化されない。900℃より高いと、使用可能な基板が制限される、加熱機構が高コストなものが必要になる等の問題が生じる。
【0037】
成膜時に基材加熱を行わず、非加熱基材で成膜した薄膜は、アズデポジッションの状態(薄膜に対して後焼成などの後処理を施さない、成膜直後の状態)において、アモルファス薄膜である。この非加熱基材で成膜した薄膜を焼成することにより、結晶性薄膜になる。この焼成条件としては、焼成温度が400〜900℃特に500〜800℃であることが好ましい。400℃未満であると十分に結晶化されない。900℃より高いと、使用可能な基板が制限される、加熱機構が高コストなものが必要になる等の問題が生じる。
【0038】
なお、成膜に用いる基材には、必要に応じて珪素(Si)の酸化物、窒化物、酸窒化物等の下地層を形成しても良い。
【0039】
ガスフロースパッタリング時の成膜圧力は、高過ぎると成膜速度が低下し、またアークが起きやすく不安定になり、低過ぎると放電電圧が高くなり、放電維持が困難であることから、5〜200Pa、特に10〜120Paであることが好ましい。
【0040】
その他のガスフロースパッタリング条件、例えば酸素ガス流量やアルゴンガス流量、投入電力、ターゲット基材間距離等は装置型式により異なるため、一概に数値を挙げることはできないが、図1のような型式の装置であれば、通常
電力密度:1〜25W/cm
アルゴンガス流量:0.5〜30SLM
酸素ガス流量:5〜120sccm
ターゲット基材間距離:5〜15cm
といった条件を採用することができる。
【0041】
ここで、高い成膜速度と放電安定性、形成される酸化タングステン薄膜の光触媒活性に応じて、これらの条件を設定する。
【0042】
本発明によれば成膜速度100nm/min以上の高速成膜が可能である。なお、ここで成膜速度とは1分間に成長する膜の厚みの値である。
【0043】
このようにして得られる酸化タングステン薄膜は、基材無加熱成膜後に焼成した状態で、後述の実施例の項に挙げたアセトアルデヒドの分解活性評価試験において、120分の可視光照射で10ppm以上好ましくは15ppm以上の濃度低下となるような触媒活性を示す。
【0044】
また、基板加熱成膜後の状態で、実施例の項に挙げたアセトアルデヒドの分解活性評価試験において、120分の可視光照射で15ppm以上好ましくは20ppm以上の濃度低下となるような触媒活性を示す。
【0045】
また、前述の如く、ガスフロースパッタリング成膜によれば、酸素欠陥が極めて少ない、化学量論比に近い酸化タングステンが形成可能であることから、本発明によれば、WOでxが3又は3に近い酸化タングステン薄膜を成膜することができる。
【0046】
このような本発明の光触媒酸化タングステン薄膜は、その優れた光触媒活性に基く有機物分解や超親水性などの機能により、脱臭、水浄化、防汚、セルフクリーニング(自己浄化)、抗菌、抗ウィルス、抗カビ、殺菌など様々な分野への適用が可能である。
【実施例】
【0047】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
なお、以下の実施例及び比較例では、成膜された酸化タングステン薄膜の光触媒活性を、アセトアルデヒドの分解活性を調べることにより評価したが、これは、次の理由による。即ち、光触媒の機能として親水性の評価も広く行われているが、アセトアルデヒドを分解できない程度の光触媒活性の低い試料であっても、可視光照射により接触角5度以下の超親水を示す場合があるため、より高い光触媒活性が必要なアセトアルデヒドの分解活性を以下の方法で調べることにより、光触媒活性を評価した。
【0049】
[アセトアルデヒドの分解活性評価法]
密閉された容積400ccの石英ガラス容器中に5cm角のアルカリフリーガラス基板上に垂直投影面積で25cmの面積に成膜された酸化タングステン薄膜を設置し、石英ガラス容器に濃度約60ppmとなるようにアセトアルデヒドを充填し、可視光を照射する前に1時間ほど暗所に設置し、アセトアルデヒド濃度の変化を計測して内容物の漏れが無いことを確認する。その後、可視光を照射し、照射時間に対するアセトアルデヒド濃度の変化を計測した。なお、可視光照射には中心波長450nmのキセノンランプ(HAYASHI社製「LA−250Xeキセノンランプ」)を用いて1.0mW/cmの光強度でサンプルに照射し、アセトアルデヒド濃度は、容器内の気相をマイクロシリンジで1ml抜き取り、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製「GC−14B」)を用いて計測した。
【0050】
説明の便宜上まず、比較例を挙げる。
【0051】
比較例1
通常のDCマグネトロンパルススパッタ装置を用い、真空チャンバーに、基板としてアルカリフリーガラスをセットし、荒引きポンプ(ロータリーポンプ+メカニカルブースターポンプ)で1×10−1Paまで排気した後、ターボ分子ポンプで5×10−4Paまで排気し、次いで以下の条件で酸化物モードでの酸化タングステン薄膜の成膜を行った。
【0052】
・ターゲット:φ75mmの金属タングステン
・カソード形状:円形マグネトロン、基板と平行に対面して設置
・基板位置:ターゲットと基板との距離100mm
成膜圧力:5Pa
基板の加熱温度:600℃
酸素ガス流量:100sccm
Arガス流量:0sccm
投入電力:180W
投入電力密度:4W/cm
成膜速度:9nm/min
膜厚:500nm
【0053】
形成された酸化タングステン薄膜のアセトアルデヒドの分解活性評価結果を図2に示した。
【0054】
図2より、形成された酸化タングステン薄膜はアセトアルデヒドの分解活性を示すものの、成膜速度は9nm/minと超低速であった。
【0055】
比較例2
基板加熱を行わないこと以外は比較例1と同様にして酸化タングステン薄膜を成膜し、その後600℃で1時間の後焼成を行った。
【0056】
形成された酸化タングステン薄膜のアセトアルデヒドの分解活性評価結果を図3に示した。図3より、形成された酸化タングステン薄膜はアセトアルデヒドの分解活性を示さないことが確認された。
【0057】
実施例1
図1に示すガスフロースパッタ装置を用い、チャンバー内に、基板としてアルカリフリーガラスをセットし、荒引きポンプ(ロータリーポンプ+メカニカルブースターポンプ)で1×10−1Paまで排気した後、以下の条件で酸化タングステン薄膜を成膜した。
【0058】
・ターゲット:80mm×160mm×6mmのWターゲット
・カソード形状:平行平板対向型(上記ターゲットを2枚使用、距離30mm)
・基板位置:カソード端部と基材間距離105mm
基板加熱温度:600℃
成膜圧力:70Pa
酸素ガス(反応性ガス)流量:50sccm
Arガス(強制流)流量:5SLM
投入電力:1.0kW
投入電力密度:3.9W/cm
成膜速度:220nm/min
膜厚:500nm
【0059】
形成された酸化タングステン薄膜のアセトアルデヒドの分解活性評価結果を図4に示した。図4より、形成された酸化タングステン薄膜は220nm/minと超高速成膜ながらアセトアルデヒドの分解活性を示すことが確認された。
【0060】
実施例2
基板加熱を行わなかった以外は実施例1と同様にして酸化タングステン薄膜を成膜した。その後、この酸化タングステン薄膜を大気中600℃で1時間焼成した。
【0061】
形成された酸化タングステン薄膜のアセトアルデヒドの分解活性評価結果を図5に示した。図5より、形成された酸化タングステン薄膜はアセトアルデヒドの分解活性を示すことが確認された。
【0062】
比較例1,2及び実施例1,2の結果(図2〜図4)をまとめたものを図6に示した。これらの結果から、ガスフロースパッタリング法による光触媒酸化タングステン薄膜の形成について、酸化タングステンの高速成膜が可能であり、また、成膜された酸化タングステン薄膜は、基板加熱成膜あるいは後焼成のいずれの方法によっても優れた可視光応答光触媒活性(アセトアルデヒドの分解活性)を有することが明らかとなった。ガスフロースパッタ法が安価な設備で構成できることや、成膜速度が早い事、ターゲット利用効率が高いことから低コストに光触媒薄膜を作製することが可能であり、またWOはTiOにはない可視光応答性を有することから屋内使用などにも有望である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1(a)は、本発明の実施に好適なガスフロースパッタリング装置の概略的な構成を示す模式図であり、図1(b)は、図1(a)のターゲット及びバックプレート構成を示す斜視図である。
【図2】比較例1で成膜された酸化タングステン薄膜のアセトアルデヒド分解活性の測定結果を示す図である。
【図3】比較例2で成膜された酸化タングステン薄膜のアセトアルデヒド分解活性の測定結果を示す図である。
【図4】実施例1で成膜された酸化タングステン薄膜のアセトアルデヒド分解活性の測定結果を示す図である。
【図5】実施例2で成膜された酸化タングステン薄膜のアセトアルデヒド分解活性の測定結果を示す図である。
【図6】比較例1,2及び実施例1,2で成膜された酸化タングステン薄膜のアセトアルデヒド分解活性の測定結果の総てを載せた図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスフロースパッタリングにより成膜されてなることを特徴とする酸化タングステン薄膜。
【請求項2】
請求項1において、ターゲットとして金属タングステンを用い、酸素ガスを導入する反応性スパッタリングで成膜されてなることを特徴とする酸化タングステン薄膜。
【請求項3】
請求項1又は2において、加熱基材上に成膜され、アズデポジッションで光触媒活性を示すことを特徴とする酸化タングステン薄膜。
【請求項4】
請求項3において、基材として、ガラス板、金属板、金属箔又はセラミックス板を用いたことを特徴とする酸化タングステン薄膜。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、ガスフロースパッタリングにおける成膜圧力が5〜200Paであることを特徴とする酸化タングステン薄膜。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、アルゴンガスと酸素ガスとを別々に導入するガスフロースパッタリングにより成膜されてなることを特徴とする酸化タングステン薄膜。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、矩形ターゲットを向き合わせる形に配置したカソード構造を有するガスフロースパッタリング装置で成膜されてなることを特徴とする酸化タングステン薄膜。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、ガスフロースパッタリングにより100nm/min以上の成膜速度で成膜されてなることを特徴とする酸化タングステン薄膜。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、ガスフロースパッタリングによる成膜後、焼成されてなることを特徴とする酸化タングステン薄膜。
【請求項10】
請求項9において、焼成条件が400〜900℃であることを特徴とする酸化タングステン薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−106342(P2008−106342A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292876(P2006−292876)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】