説明

光記録媒体及び記録再生方法

【課題】従来のものに比べて同程度の記憶容量を確保しつつ、一層簡易な構造で製造プロセス数が少なく安価に製造することができる光記録媒体およびその記録再生方法を提供する。また、ランドグルーブ記録に匹敵する記録密度を有しつつ、ランドグルーブ記録の有する欠点を解消した新規な構造の光記録媒体およびその記録再生方法を提供する。
【解決手段】光記録媒体10へビーム21を照射し、光記録媒体10の記録層18,16,14に情報の記録あるいは再生する記録再生方法において、記録層18,16,14は、第一の記録領域S5,S4,S3および第二の記録領域S0,S1,S2を有し、ビーム21は、第一の記録領域S5,S4,S3に対して記録層18,16,14の一方側(上側)から集光し、且つ、第二の記録領域S0,S1,S2に対して記録層18,16,14の他方側(下側)から集光する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体及び記録再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マルチメディア(multi media)化に対応して、大量のデータを高密度で記録し、かつ迅速に再生する情報記録媒体としての光記録媒体(光ディスクなど)が注目されている。このような次世代の光記録媒体としては、レーザ光源の波長を405nm程度、開口率NAを0.85とすることにより、より大きな記録密度を得ることができる追記型ブルーレイディスク(BD―R(Blu-ray Disc Recordable))がある。この追記型ブルーレイディスクでは、1層に約25GBのデータを記録することができる。
【0003】
このような光記録媒体についてさらなる大容量化を図る場合、記録層を多層化することが考えられる。そして、BD−Rなどの多層型の光記録媒体では、2層の記録層を有するものが製品化されている。この他にも、多層型の光記録媒体としては、2層再生専用型ディスク(2層DVD−ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory))、2層追記型ディスク(2層DVD−R(Digital Versatile Disk Recordable))等がすでに商品化されている。
【0004】
また、非特許文献1および非特許文献2は、記録層を6層重ねた記録型のブルーレイディスクが、6層のブルーレイディスクとして利用可能であることを開示している。
【0005】
【非特許文献1】「Blu−ray Discシステムを用いた6層追記型媒体」(レーザ学会宮崎シンポジウム発表文献S19−S20、2007年1月18日発表、三島康児他)
【非特許文献2】「150GB,6-Layer Write Once Disk for Blu-ray Disk System」(IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)),2006年発表,文献番号「0−7803−9494−1/06」p123−125、Koji Mishima 他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、記録層を多層化した場合、単層の場合にくらべて製造プロセスが複雑となる。その結果、多層の光記録媒体の価格は、単層のものにくらべて高くなってしまったり、光記録媒体の量産を見込むことができないものとなってしまったりする。実験室レベルでは6層の光記録媒体を製造することができるものの、現在の製造技術では、量産レベルにおいては2層程度が限界である。
【0007】
すなわち、光記録媒体の製造現場では、各製造プロセスにおいてマージンを見込んで製造をしているのであるが、多層の光記録媒体では、単層のものに比べてプロセス数が多くなるために、最終的に出来上がったディスクにおいて各種パラメータが要求仕様を満たさなくなってしまうことが多くなる。記録層を多層化した場合において維持することが難しくなる要求仕様としては、例えば、各記録層の光学特性および記録再生特性、スペーサ層及びカバー層の絶対膜厚や一様性、光記録媒体の回転中心に対する各記録層の半径方向の偏心量などがある。
【0008】
その結果、多層の光記録媒体として各パラメータ値が要求仕様内に収まるものを製造することができたとしても、歩留まりが低くなってしまう。具体的には、現在の製造技術では、2層の光記録媒体の歩留まりが約70〜80%であり、6層の光記録媒体の歩留まりは、単純に見込んだとしても、約17(=0.7)〜33(=0.8)%になってしまうと予想される。このような低い歩留まりでは、ディスクを量産したときのディスクの単価が高額となってしまい、製品として成り立たなくなってしまう。
【0009】
ここで、2層BD−Rディスクについて詳しく説明する。図8は、2層BD−Rディスク100の半径方向における部分断面図を示す。2層BD−Rディスク100では、凹凸溝を有する厚さ1.1mmのポリカーボネイト(PC)基板101上に、L0記録層102が形成されている。L0記録層102は、その内部構造が変化可能な記録膜の両側を誘電体層で挟んだ層構造を有し、さらに、PC基板101と接する側に金属反射膜を有する。L0記録層102上には、第1スペーサ層103を介してL1記録層104が形成される。L1記録層104は、図示していないが、記録膜の両側を誘電体層で挟んだ層構造を有する。L1記録層104は、ビーム110を透過するために金属反射膜を持たない。第1スペーサ層103は、紫外線硬化樹脂を用いた2P法やシート状部材を用いたナノプリント法などにより、25μm程度の均一な膜厚にて形成される。L1記録層104の上には、約75μmの厚さのカバー層105が形成される。
【0010】
2層BD−Rディスク100には、記録あるいは再生のためのビーム110は、カバー層105側から照射される。ビーム110は、図8の上側から2層BD−Rディスク100へ照射される。そして、ビーム110は、各記録層102,104について、ビーム110の入射方向に凸となる部位(凸部107)に集光する。たとえば、図8ではビーム110は、各記録層102,104の6つの凸部107に集光する。ブルーレイ方式では、各記録層102,104の凸部107のみにオングルーブ記録をする。その結果、ブルーレイ方式では、実際に記録を行う記録面S1,S0は、記録層102,104の数と同じ2つになる。また、ブルーレイ方式の各記録面S1,S0には、ビーム110の入射方向において奥側の記録層から順番に番号が大きくなるように、S0およびS1の呼称が割り当てられている。
【0011】
なお、図8の2層BD−Rディスク100において、記録面を増やすために、仮にたとえば各記録層102,104に対してオングルーブ記録とイングルーブ記録との両方を実行することが考えられる。すなわち、図8の2層BD−Rディスク100において所謂ランド・グルーブ記録をすることが考えられる。本明細書において、図8のように記録層101,103が凹凸を有する場合において、ビーム110の入射方向においてビーム110に対して手前側となる記録面(凸部107で構成される面)に記録することをオングルーブ記録と呼び、ビーム110の入射方向においてビーム110に対して奥側となる記録面(凹部108で構成される面)に記録することをイングルーブ記録と呼ぶ。これにより、記録面の数が記録層102,104の数の二倍となり、図8の2層BD−Rディスク100の記憶容量が約二倍となることを期待することができる。
【0012】
しかしながら、ブルーレイ方式では、上述したようにレーザ光源の波長として405nm(青色レーザ)を使用し、開口率NAが0.85である対物レンズを使用しているので、ビーム110は急角度にて集光する。しかも、凸部106のピッチおよび凹部107のピッチは、0.32マイクロメートルと狭い。そのため、ビーム110は、オングルーブ(凸部107)には安定的に集光することができるものの、イングルーブ(凹部108)にビーム110を集光しようとしても、ビーム110がグルーブ(凹部108)の外側へはみ出してしまい、ビーム110をグルーブ(凹部108)内に確実に集光することが難しい。ブルーレイ方式においてオングルーブ(凸部107)記録およびイングルーブ(凹部108)記録の両方を実現しようとしても、ビーム110の集中度が互いに異なるものとなってしまう。このことは、数値計算によるシミュレーションによっても裏付けられている。
【0013】
そのため、ブルーレイ方式では、実際には、オングルーブ(凸部107)とイングルーブ(凹部108)の両方の記録、すなわちランドグルーブ記録を採用するに至っていない。
【0014】
本発明は、このような従来技術における問題点を解決し、従来のものに比べて同程度の記憶容量を確保しつつ一層簡易な構造で製造プロセス数が少ない光記録媒体およびその記録再生方法を提供することを目的とする。また、本発明は、製造プロセス数が減ることによって製造マージンが確保され、これにより安価に製造することができる大記憶容量の光記録媒体およびその記録再生方法を提供することを目的とする。さらに、本発明の別の目的は、ランドグルーブ記録に匹敵する記録密度を有しつつランドグルーブ記録の有する欠点を解消した新規な構造の光記録媒体およびその記録再生方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第一の態様にしたがえば、光記録媒体へビームを照射し、光記録媒体の記録層に情報の記録あるいは再生する記録再生方法において、記録層は、第一の記録領域および第二の記録領域を有し、ビームは、第一の記録領域に対して記録層の一方側から集光し、且つ、第二の記録領域に対して記録層の他方側から集光することを特徴とする記録再生方法が提供される。
【0016】
この記録再生方法では、光記録媒体の記録層に対して、ビームを一方側および他方側から集光させる。単一の記録層であっても、一方側からビームを集光する場合の第一の記録領域と、他方側からビームを集光する場合の第二の記録領域との、2つの記録領域として機能することができる。こうすることにより、記録層に一方側のみからビームを照射して高密度記録を行なう場合に起こりうるクロストークの問題やランドグルーブ記録が持つ欠点を解消することができる。したがって、本発明の記録再生方法により、記録層を過剰に多層化することなく高密度記録を実現できる。これにより、各記録層の記憶容量が大きくなるので、光記録媒体の製造プロセス数の増加を抑えつつ、光記録媒体全体の記憶容量を大きくすることができる。
【0017】
また、第一の態様の記録再生方法では、さらに、記録層は、ビームの進行方向にほぼ垂直な面に凹凸を形成する凹部および凸部を有し、凸部に第一の記録領域が形成され、且つ、凹部に第二の記録領域が形成されて、記録層に対するビームの集光方向が凹部および凸部において逆であってもよい。
【0018】
このように構成することにより、記憶層に形成された凹部および凸部により、第一の記録領域および第二の記録領域が実現される。第一の記録領域および第二の記録領域は、この凹凸によりビームの進行方向において分かれて、互いに略平行な別々の面に形成される。
【0019】
また、第一の態様の記録再生方法では、さらに、ビームは、凸部による第一の記録領域と凹部による第二の記録領域との両方について、オングルーブ記録あるいはオングルーブ再生となってもよい。
【0020】
このように構成することにより、たとえば凸部へのオングルーブ記録時および再生時には、その両隣に一対の凹部が存在するので、その凸部および一対の凹部による幅に収まるビーム径でビームを集光すればよい。しかも、凹部へのオングルーブ記録時および再生時には、その両隣に一対の凸部が存在するので、その凹部および一対の凸部による幅に収まるビーム径でビームを集光すればよい。凸部へのビームの集光状態と凹部へのビームの集光状態とは略同じとなり、これらに集光させるビームとしては一種類で済む。これに対して、凹部へイングルーブ記録または再生をする時には、一対の凸部の間隔に収まるように、ビームを集光しなければならず、凸部へのビームの集光状態と凹部へのビームの集光状態とは異なる。
【0021】
また、第一の態様の記録再生方法では、さらに、ビームは、記録層についての一方側から光記録媒体へ照射されて記録層を透過し、記録層についての他方側に存在する反射面により反射されることで、第二の記録領域に対して記録層の他方側から集光してもよい。
【0022】
このように構成することにより、光記録媒体に対して記録層の一方側からビームを照射することで、第一の記録領域に対して記録層の一方側から集光し、且つ、第二の記録領域に対して記録層の他方側から集光することができる。同じ記録層に形成されて、ビームの集光方向が互いに逆である第一の記録領域および第二の記録領域は、所謂片面二層として機能する。
【0023】
また、第一の態様の記録再生方法では、さらに、光記録媒体は、記録層の他方側に形成された反射面を有し、ビームは、記録層の一方側から光記録媒体へ照射されて記録層を透過し、反射面により反射されることで、第二の記録領域に対して記録層の他方側から集光してもよい。
【0024】
このように構成することにより、光記録媒体に対して記録層の一方側からビームを照射することで、第一の記録領域(凸部)に対してオングルーブ記録および再生をし、且つ、第二の記録領域(凹部)に対してオングルーブ記録および再生をすることができる。集光方向が逆である片面二層の2つの記録領域に対して、共にオングルーブ記録および再生をすることができる。
【0025】
なお、このように反射面によりビームを反射することにより、片面二層の2つの記録領域に対して共にオングルーブ記録および再生をする場合には、同一の記録層についての、第一の記録領域へ集光するビームと、第二の記録領域へ集光するビームとの光路差は、凸部と凹部とによる凹凸の深さより大きくなる。
【0026】
また、反射面によりビームを反射することにより、片面二層の2つの記録領域に対して共にオングルーブ記録および再生をする場合においては、さらに、ビームは、青色レーザによるものであるとともに開口数が0.85の集光レンズにより集光され、凹部のピッチおよび凸部のピッチは、0.32マイクロメートルであってもよい。
【0027】
この構成を採用すれば、1つの記録層において青色レーザ用に高密度に形成された凹部および凸部のそれぞれに対して、青色レーザを用いてオングルーブ記録および再生をすることができる。集光方向が逆である片面二層の2つの記録領域に対して、共に、青色レーザを用いてオングルーブ記録および再生をすることができる。
【0028】
本発明の第二の態様にしたがえば、ビームが照射されることで情報の記録あるいは再生が可能な光記録媒体であって、ビームが集光される記録層であって、第一の記録領域および第二の記録領域を有する記録層を有し、ビームが記録層の一方側から第一の記録領域へ集光可能であるとともに、ビームが記録層の他方側から第二の記録領域へ集光可能である構造を有することを特徴とする光記録媒体が提供される。
【0029】
本発明の光記録媒体では、光記録媒体の記録層に対して、ビームを一方側および他方側から集光させることができる。単一の記録層であっても、一方側からビームを集光する場合の第一の記録領域と、他方側からビームを集光する場合の第二の記録領域との、2つの記録領域として機能する。こうすることにより、記録層に一方側のみからビームを照射して高密度記録を行なう場合に起こりえるクロストークの問題やランドグルーブ記録が持つ欠点を解消することができる。したがって、本発明の記録媒体では記録層の多層化を抑制しつつ高密度記録を実現できる。これにより、各記録層の記憶容量が大きくなることで、光記録媒体の製造プロセス数の増加を抑えつつ、光記録媒体全体の記憶容量を大きくすることができる。また、この光記録媒体は、同じプロセス数で製造される他の光記録媒体と比べて、より多くの情報を記憶あるいは再生することができる。
【0030】
また、本発明の第二の態様の光記録媒体は、さらに、当該光記録媒体は、記録層の他方側において記録層から離間した位置に反射面を有し、記録層の第一の記録領域には、記録層の一方側から当該光記録媒体へ照射されたビームが集光され、第二の記録領域には、記録層の一方側から当該光記録媒体へ照射されて記録層を透過したビームが反射面で反射して記録層の他方側から集光されてもよい。
【0031】
このように構成することにより、当該光記録媒体に対して記録層の一方側からビームを照射することで、記録層の一方側から集光されたビームにより第一の記録領域に対して記録および再生をし、且つ、記録層の他方側から集光されたビームにより第二の記録領域に対して記録および再生をすることができる。記録層の第一の記録領域および第二の記録領域は、所謂片面二層として機能する。
【0032】
また、本発明の第二の態様の光記録媒体は、さらに、記録層と反射面とは5μm以上の間隔で離れていてもよい。
【0033】
このように構成することにより、記録層の一方側から第一の記録領域に集光するビームの光路長と、反射面により反射されて記録層の他方側から第二の記録領域に集光するビームの光路長とは、記録層と平らな反射面との間隔の二倍以上の間隔、すなわち10μm以上の間隔となる。したがって、第一の記録領域と第二の記録領域との間で層間クロストークが発生し難くなる。
【0034】
また、本発明の第二の態様の光記録媒体は、さらに、記録層を3層有し、且つ、反射面は、3層分の記録層の他方側に配設されるとともに、ビームについて90パーセント以上の反射率を有してもよい。
【0035】
このように構成することにより、光記録媒体は、3層分の記録層の他方側に反射面が存在するので、当該光記録媒体に対して記録層の一方側からビームを照射しつつ、3層ある記録層のそれぞれについて一方側および他方側からビームを集光することができる。しかも、反射面の反射率が90パーセント以上であるので、3層ある記録層の第一の記録領域および第二の記録領域に対して、すなわち6層に相当する記録領域に対して、一方側からのビームの照射の下で、オングルーブ記録および再生をすることができる。3層分の記録層により、片側6面に相当する記録領域を有する大記憶容量の光記録媒体を実現することができる。
【0036】
また、本発明の第二の態様の光記録媒体において、さらに、反射面は、当該光記録媒体の情報の記録領域およびアドレス領域について形成されていてもよい。
【0037】
このように構成することにより、記録領域およびアドレス領域の情報を、反射面を用いて読み出すことができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明では、多層化に伴う製造プロセス数の増加を抑えつつ、同じプロセス数で製造される他のものより記憶容量が大きい光記録媒体およびその記録再生方法を提供することができる。また、その結果として、本発明は、製造マージンが確保されて安価に製造することができる大記憶容量の光記録媒体およびその記録再生方法を提供することができる。さらに、本発明では、ランドグルーブ記録に匹敵する記録密度を有しつつランドグルーブ記録の有する欠点を解消した新規な構造の光記録媒体およびその記録再生方法を提供することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の光記録媒体及び記録再生方法の実施例を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0040】
図1は、実施例1の多層BD−Rディスク1の正面図である。図2は、図1の多層BD−Rディスク1の断面図である。多層BD−Rディスク1は、光記録媒体の一種であり、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray Disc)と同様の円板形状(ディスク形状)を有し、その中心にチャック穴1aが形成されている。以下の説明において、この図2の図示姿勢を基準として、上下を使用する。
【0041】
実施例1の多層BD−Rディスク1は、略円板形状のポリカーボネイト(PC)基板2上に、高反射率金属層3、第1スペーサ層4、L0記録層5、およびカバーシート層6が、その順番で積み上げて形成されている。
【0042】
L0記録層5は、多層BD−Rディスク1の回転中心を基準とした渦巻き形状の凸部7を有する。凸部7が渦巻き形状とされることで形成される凸部7の間には、凹部8が形成される。このため、凹部8も、多層BD−Rディスク1の回転中心を基準として、凸部7と同じ巻き方向の渦巻き形状となる。この多層BD−Rディスク1では、このL0記録層5の凹部8により記録面S0が形成され、且つ、凸部7により別の記録面S1が形成される。すなわち、1つの記録層に2つの記録面が形成されている。凹部8のピッチおよび凸部7のピッチは、それぞれ0.32マイクロメートルである。
【0043】
なお、本実施例では、記録面の呼び名として、次のように規定した。即ち、カバーシート層6側からのビーム21の入射方向を基準として、奥側から順番に、S0、S1の呼び名を付した。図2の上側から下側へ向かう方向がレーザ光の入射方向であるので、図2の下側(基板2側)の記録面がS0となり、上側(カバーシート層6側)の記録面がS1となる。
【0044】
この多層BD−Rディスク1には、記録あるいは再生の時に、図2に示すように、既知のブルーレイ方式の記録再生装置を用いてレーザ光21がカバーシート層6側から照射される。これにより、L0記録層5に情報を記録したり、L0記録層5に記録された情報を再生したりすることが可能である。ブルーレイ方式では、405nm(青色レーザ)の波長のビーム21を出力するレーザ光源と、開口率NAが0.85であるレンズとを用いて、レーザ光をL0記録層5へ集光する。なお、ブルーレイ方式の記録再生装置は、既知のものであり特に図示をしない。
【0045】
ポリカーボネイト(PC)基板2は、ポリカーボネイト樹脂を厚さ1.1mmの略円板形状に形成したものである。基板2の上面(表面)は、平らなミラー面(鏡面あるいは平坦面)であり、凹凸溝やピット列などが形成されていない平らな面である。
【0046】
このポリカーボネイト(PC)基板2の平らなミラー面の上には、高反射率金属層3が形成されている。高反射率金属層3は、厚さが約100ナノメートルであり、基板2のミラー面に対して全面的に形成されている。高反射率金属層3の上面は、凹凸がない平らな反射面3aである。また、高反射率金属層3は、たとえば銀、アルミニウムなどの金属やそれらを含む合金などを材料を用いて形成されている。このため、高反射率金属層3の上面3aの反射率は、ビーム21の波長において、入射してきたビーム21の90%以上を反射することが可能である。
【0047】
なお、高反射率金属層3は、多層BD−Rディスク1において、少なくとも情報の記録あるいは再生を行う領域について形成されていればよい。この情報の記録あるいは再生を行う領域には、多層BD−Rディスク1のディスク面に情報の記録領域、アドレス領域などが含まれる。
【0048】
高反射率金属層3の上には、第1スペーサ層4が形成されている。第1スペーサ層4の上面には、凹凸が形成される。この凹凸は、渦巻き形状を有し、L0記録層5の凹凸と対応する。
【0049】
第1スペーサ層4の凹凸面の上には、L0記録層5が形成されている。L0記録層5は、図示しないが記録膜とその両側を挟む誘電体層とを有する。L0記録層5は、ビーム21の一部を吸収し、且つ、残りを反射あるいは透過する特性を有する。そして、本実施例では、高反射率金属層3とL0記録層5との間隔は、すなわち第1スペーサ層4の厚さは、5マイクロメートル以上であり、入射ビーム21の焦点深度以上隔てている。
【0050】
記録膜4の材料としては、従来から用いられている相変化型記録膜の材料でもよいが、高い透過率を得るためには、窒化物系あるいは酸化物系の材料を必要に応じて使い分けることがよい。この実施例では、酸化物系の材料(酸化ゲルマニウム)を使用した。また、記録膜及び誘電体層(ZnS−SiOなど)の膜厚を調整して、各記録面S0,S1での反射率及び吸収率を最適化した。
【0051】
L0記録層5の上には、ポリカーボネイトのカバーシート層6が形成されている。カバーシート層6は、ナノプリント法により凹凸溝が形成され、厚さは90〜95マイクロメートルである。
【0052】
次に、図1に示す多層BD−Rディスク1の製造方法について説明する。図3は、図1の多層BD−Rディスク1をナノプリント法により製造する手順の一例を示す工程図である。
【0053】
図1に示す多層BD−Rディスク1をナノプリント法により形成する場合、まず、透明なカバーシート層6の表面(図2、図3での下面)に、図示しないスタンパーの凹凸を転写し、その凹凸面上に、L0記録層5を形成した。L0記録層5は、酸化ゲルマニウムをスパッタ法により凹凸面上に形成した。
【0054】
また、図3(A)に示すように、少なくとも情報の記録あるいは再生を行う領域がミラー面である基板2の表面に高反射率金属層3を形成した。高反射率金属層3は、銀をスパッタ法により基板2のミラー面に全面的に堆積して形成した。また、表面が平らな高反射率金属層3の上に、第1スペーサ層4となる紫外線硬化樹脂4aをスピンコート法により塗布した。その後、L0記録層5が形成されているカバーシート層6を、紫外線硬化樹脂4aの上から押し当てた。
【0055】
次いで、図3(B)に示したように、透明なカバーシート層6の上から、紫外線露光光源22により紫外線硬化樹脂4aへ紫外線を適度に露光した。これにより、紫外線硬化樹脂4aは硬化し、L0記録層5が形成されているカバーシート層6と、高反射率金属層3が形成された基板2とが接着する。高反射率金属層3とL0記録層5との間に、第1スペーサ層4が形成される。これらのプロセスを経て、図3(C)に示すような本実施例の多層BD−Rディスク1が完成する。
【0056】
なお、本実施例では、ナノプリント法により凹凸が形成されたカバーシート層6を用いて、L0記録層5の凹凸を形成しているが、2P法によりこの凹凸を形成するようにしてもよい。この場合、L0記録層5は、たとえばスパッタ法により第1スペーサ層4の凹凸面の上に形成すればよい。
【0057】
図4は、図1および図2による多層BD−Rディスク1の記録再生時におけるビーム21の照射方法を示す説明図である。図4(A)は、ビーム21の入射方向を基準として手前側のS1面に対するビーム21の集光状態を示す説明図である。図4(B)は、ビーム21の入射方向における奥側のS0面にビーム21が集光されている状態を示す。
【0058】
図4(A)に示すように、ビーム21に対して記録層5の手前側の記録面である記録面S1には、ビーム21は、直接記録面S1(記録層5の凸部7)に集光される。このときの記録面S1へのビーム21の集光方向は、カバーシート層6から基板2へ向かう方向となる。
【0059】
これに対して、図4(B)に示すように、ビーム21に対して記録層5の奥側の記録面である記録面S0には、ビーム21は、記録面S0を透過した後、高反射率金属層3で反射して記録面S0(記録層5の凹部8)に集光される。ビーム21は金属層3で反射することにより進行方向が逆転するために、記録面S0へのビーム21の集光方向は、基板2からカバーシート層6へ向かう方向と逆方向、すなわち記録面S1へのビーム21の集光方向と逆方向となる。ビーム21の進行方向を基準にしてみれば、記録面S0に入射する際にビーム21は凸部(ランド)上に集光しており、オングルーブ記録または再生が行なわれることになる。
【0060】
このように、図1および図2による多層BD−Rディスク1では、その記録再生時に、すべての記録面S0,S1についてオングルーブ記録および再生が可能である。
【0061】
なお、この2つの記録面S0,S1に対する書き込み順や読み出し順は、そのいずれが先であってもよい。以上の説明では、図4(A)のように記録面S1にビーム21を集光することを先に説明し、その後に図4(B)のように記録面S0にビーム21を集光することを説明しているが、それとは逆に、まず、図4(B)のように記録面S0から順番に記録面S1へビーム21を集光するようにしてもよい。
【0062】
以上のように、この実施例の多層BD−Rディスク1では、L0記録層5を1層形成することにより、2つの記録面S0,S1が形成される。したがって、従来のように記録面毎に記録層5を2層有するディスク(オングルーブ記録ディスク)に比べて、同じ記憶容量を確保しつつも簡単な構造で良く、この結果、製造プロセス数が少なくなり、最終的な製造マージンが確保し易くなる。それゆえ、安価な記録媒体を製造することができる。また、図2に示すように、従来と同じ記録面が2面(S0とS1)であるが、記録層5が1層で済むため、スペーサ層の合計厚さも薄くすることができる。更に、本実施例では記録層5が1つしかないので、2層の記録層5の間での偏心合わせが不要となり、従来に比べて多層BD−Rディスク1の製造を一層容易にし、それにより低価格化を図ることができる。
【0063】
すなわち、この実施例の多層BD−Rディスク1は、L0記録層5が2つの記録面(第一の記録領域および第二の記録領域)S0,S1を有し、記録面S1に対してビーム21の入射方向側(一方側)から集光可能であり、且つ、記録面S1に対してビーム21の入射方向とは反対側(他方側)から集光可能な構造を有する。したがって、このL0記録層5の記憶容量は、この記録層5に対して一方のみからビーム21を集光することができるオングルーブタイプのディスクに比べて、大きくすることが可能となる。L0記録層5の記憶容量が大きくなることで、多層BD−Rディスク1の製造プロセス数の増加を抑えつつ、記憶容量を大きくすることができる。また、同じプロセス数で製造される他の多層BD−Rディスク1と比べて、より多くの情報を記録あるいは再生することができる。また、L0記録層5に一方側のみからビーム21を照射して高密度記録を行なう場合に起こりえるクロストークの問題やランドグルーブ記録が持つ欠点を解消することができる。
【0064】
特に、この実施例の多層BD−Rディスク1は、L0記録層5がビーム21の一部を透過する特性を有し、さらに、当該多層BD−Rディスク1は、L0記録層5の他方側においてL0記録層5から離間した位置に、L0記録層5を透過したビーム21をL0記録層5へ反射する平らな反射面(高反射率金属層3の表面)3aを有する。そして、この平らな反射面3aによる反射光が、L0記録層5の他方側から集光している。この形態では、当該多層BD−Rディスク1に対してL0記録層5の一方側からビーム21を照射することで、L0記録層5の一方側から集光されたビーム21により記録面S1に対して記録および再生をし、且つ、L0記録層5の他方側から集光されたビーム21により記録面S0に対して記録および再生をすることができる。2つの記録面S1,S0は、所謂片面二層型ディスクに匹敵する。
【0065】
また、この実施例の多層BD−Rディスク1は、L0記録層5と平らな反射面3aとは5μm以上の間隔で離れている。それゆえ、L0記録層5の一方側から記録面S1に集光するビーム21の光路長(光学的距離)と、反射面3aにより反射されて記録面S0に集光するビーム21の光路長とは、単純に見積もっても10μm以上の光路差が生じる。この光路差はビーム21の焦点深度よりも十分大きいために、2つの記録面S1,S0の間で層間クロストークの発生が防止される。
【0066】
そのため、この実施例の多層BD−Rディスク1では、多層化に伴う製造プロセス数の増加を抑えつつ、同じプロセス数で製造される他のディスクより記憶容量を増大することができる。また、その結果として、製造マージンが確保されて安価に製造することができる大記憶容量の多層BD−Rディスク1となる。
【0067】
また、この実施例の記録再生方法では、ビーム21がL0記録層5の記録面S1に対してL0記録層5の一方側から集光し、且つ、L0記録層5の記録面S0に対してL0記録層5の他方側から集光することになる。したがって、この記録再生方法では、多層BD−Rディスク1の1つのL0記録層5に対して、ビーム21を一方側および他方側から集光させて、2つの記録面S0,S1として機能させることができる。したがって、このL0記録層5の記憶容量は、このL0記録層5に対して一方のみからビーム21を集光するオングルーブ記録の場合に比べて倍増することが可能となる。その結果、多層BD−Rディスク1の製造プロセス数の増加を抑えつつ、記憶容量を大きくすることができる。また、同じプロセス数で製造される他の多層BD−Rディスク1と比べて、より多くの情報を記録あるいは再生することができる。また、多層化に伴う歩留まりの低下を防止することができる点でも、本発明の光記録媒体は優れる。
【0068】
また、たとえば凸部7へのオングルーブ記録時および再生時には、その両隣に一対の凹部8が存在するので、その凸部7および一対の凹部8による幅に収まるビーム径でビーム21を集光すればよい。しかも、凹部8へのオングルーブ記録時および再生時には、その両隣に一対の凸部7が存在するので、その凹部8および一対の凸部7による幅に収まるビーム径でビーム21を集光すればよい。凸部7へのビーム21の集光状態と凹部8へのビームの集光状態とは略同じになり、これらに集光させるビーム21としては一種類で済む。これに対して、ランドグルーブ記録方式、すなわち凹部8へイングルーブ記録または再生をする時には、一対の凸部7の間に収まるように、ビーム21を集光しなければならず、凸部7へのビーム21の集光状態と凹部8へのビーム21の集光状態とが互いに異なるものとなってしまう。この場合には、ビーム径の複雑な制御または2種類のビームを使用しなければならない。
【0069】
特に、この実施例の記録再生方法では、多層BD−Rディスク1は、ビーム21の一部を透過する特性を有するL0記録層5とともに、L0記録層5について他方側に形成された平らな反射面3aを有し、ビーム21は、記録層の一方側から多層BD−Rディスク1へ照射され、しかも、反射面3aにより反射されることで、記録面S0に対してL0記録層5の他方側から集光している。したがって、多層BD−Rディスク1に対してL0記録層5の一方側からビーム21を照射することで、記録面S1に対してオングルーブ記録および再生をし、且つ、記録面S0に対してオングルーブ記録および再生をすることができる。集光方向が逆である片面二層の2つの記録面S0,S1に対して、共にオングルーブ記録および再生をすることができる。従来のブルーレイ方式と同様に、レーザ光源を1つにすることができる。
【0070】
なお、このように反射面3aによりビーム21を反射することにより、片面二層の2つの記録面S1,S0に対して共にオングルーブ記録および再生をする場合には、記録面S1へ集光するビーム21と、記録面S0へ集光するビーム21との光路差は、このL0記録層5の凸部7と凹部8とによる凹凸の深さより大きくなるという特徴がある。たとえばこの実施例では、記録面S1へ集光するビーム21と記録面S0へ集光するビーム21との光路差は、10マイクロメートル以上(第1スペーサ層4の厚さの2倍×第1スペーサ層4の屈折率)であり、L0記録層5の凸部7と凹部8とによる凹凸の深さは、数十から数百ナノメートルである。したがって、記録面S0とS1との間でのクロストークの発生を防止することができる。
【0071】
また、この実施例では、青色レーザを開口数0.85のレンズにより集光し、ピッチが0.32マイクロメートルである凹部8および凸部7に集光している。従来のブルーレイ方式の規格では実現できなかった凹部8への情報の記録および再生(ランドグルーブ型記録および再生)が可能となる。すなわち、この実施例では、1つの記録層5において青色レーザ用に高密度に形成された凹部8および凸部7のそれぞれに対して、青色レーザを用いてオングルーブ記録および再生をすることができる。1つの記録層5に形成された2つの記録領域であって、ビーム21の集光方向が逆であるものに対して、片面二層の記録領域として、青色レーザを用いてオングルーブ記録および再生をすることができる。
【実施例2】
【0072】
図5は、実施例2の多層BD−Rディスク10の断面図である。本実施例の多層BD−Rディスク10は、光記録媒体の一種であり、記録層が3層に積み重ねられた構造を有する。また、各記録層が2つの記録面を有し、実際に記録および再生を行う記録面は6面となる。
【0073】
多層BD−Rディスク10は、具体的には、厚さ1.1mmのポリカーボネイト(PC)基板11を有する。このポリカーボネイト(PC)基板11の上には、表面が平らな高反射率金属層12、表面が凹凸溝である第1スペーサ層13、L0記録層14、第2スペーサ層15、L1記録層16、第3スペーサ層17、L2記録層18、およびカバーシート層19が、その順番で積み重ねられて形成されている。各構成要素の材料などは、実施例1の対応する構成要素と同じである。高反射率金属層12は、厚さが約100ナノメートルであり、基板11のミラー面に対して全面的に形成されている。高反射率金属層12の上面12aは、凹凸がない平らな反射面12aである。
【0074】
L0記録層14、L1記録層16およびL2記録層18のそれぞれは、記録膜と、その両側を挟む誘電体層を有し、ビームの一部を吸収するとともに残りを反射あるいは透過する特性を有する。反射面12aに最も近い記録層14を含め、複数の記録層14,16,18のすべてがビームの一部を透過する特性を有する。なお、記録膜としては高透過率が必要であるために、窒化物系あるいは酸化物系(酸化ゲルマニウム)の材料を必要に応じて使い分けた。また、各記録面での反射率及び吸収率を最適化するために、記録膜及び誘電体層(ZnS−SiO2など)の膜厚で最適化している。L0記録層14は、高反射率金属層2と10μm離れている。これにより、L0記録層14と高反射率金属層2とは、入射ビームの焦点深度以上の距離により隔てられている。
【0075】
第1スペーサ層13、第2スペーサ層15、および第3スペーサ層17のそれぞれは、紫外線硬化樹脂を使った2P法やシート状のナノプリント法を用いて5〜30μm程度の厚さに形成した。
【0076】
なお、本実施例では、記録面の呼び名として、次のように規定した。即ち、カバーシート層19側からのビーム21の入射方向を基準として、奥側から順番にS0,S1,S2,S3,S4,S5の呼び名を付した。図5の上側から下側へ向かう方向がレーザ光21の入射方向であるので、L2記録層18の上側(カバーシート層19側)の凸部によるオングルーブの記録面をS5、下側(基板11側)の凹部による記録面をS0とした。真中のL1記録層16については、L1記録層16の上側の凸部によるオングルーブの記録面をS4、下側の凹部による記録面をS1とした。下側のL0記録層14については、L0記録層14の上側の凸部によるオングルーブの記録面をS3、下側の凹部による記録面をS2とした。
【0077】
この多層BD−Rディスク10には、記録あるいは再生の時に、図5に示すように、既知のブルーレイ方式の記録再生装置を用いて波長405nmのビーム21がカバーシート層19側から照射される。これにより、L0記録層14、L1記録層16あるいはL2記録層18に情報を記録したり、L0記録層14、L1記録層16あるいはL2記録層18に記録された情報を再生したりすることが可能である。ブルーレイ方式では、405nm(青色レーザ)の波長のビームを出力するレーザ光源と、開口率NAが0.85であるレンズとを用いて、レーザ光をL0記録層14、L1記録層16あるいはL2記録層18へ集光する。
【0078】
次に、図5に示す多層BD−Rディスク10の製造方法について説明する。図6は、図5の多層BD−Rディスク10を製造する手順の一例を示す工程図である。図6(A)に示すように、少なくとも情報の記録あるいは再生を行う領域がミラー面である基板11の表面に、高反射率金属層12をスパッタリングにより堆積して形成した。高反射率金属層12は、たとえば銀を約100ナノメートルの厚さに形成したものである。次に、この高反射率金属層12の上に、紫外線硬化樹脂をスピンコート法により塗布し、所定の凹凸溝を有する透明スタンパ23を押し当てる。
【0079】
次いで、図6(B)に示すように、紫外線露光光源22を用いて、紫外線硬化樹脂へ紫外線を適度に露光した。紫外線は、透明スタンパ23を介して紫外線硬化樹脂へ到達する。これにより、紫外線硬化樹脂が硬化し、第1スペーサ層13が形成される。第1スペーサ層13の上面には、透明スタンパ23の凹凸が転写される。
【0080】
次いで、透明スタンパ23を剥がした後、図6(C)に示すように、第1スペーサ層13の上に、L0記録層14を形成した。L0記録層14は、たとえば酸化ゲルマニウムをスパッタ法により凹凸面上に形成した。なお、透明スタンパ23は、ソフトスタンパであり、廃棄される。
【0081】
続けて、図6(D)に示すように、L0記録層14上に、紫外線硬化樹脂を塗布し、所定の凹凸溝を有する透明スタンパ24を押し当てた。次いで、図6(E)に示すように、紫外線露光光源22を用いて、紫外線硬化樹脂へ紫外線を適度に露光する。紫外線は、透明スタンパ24を介して紫外線硬化樹脂へ到達する。これにより、紫外線硬化樹脂が硬化し、第2スペーサ層15が形成される。第2スペーサ層15の上面には、透明スタンパ24の凹凸が転写される。
【0082】
次いで、透明スタンパ24を剥がした後、図6(F)に示すように、第2スペーサ層15の上に、L1記録層16を形成した。L1記録層16は、たとえばスパッタ法により凹凸面上に形成する。なお、透明スタンパ24は、ソフトスタンパであり、廃棄される。
【0083】
続けて、図6(G)に示すように、L1記録層16上に、紫外線硬化樹脂を塗布した。また、透明スタンパの替わりに、図5での下面にL2記録層18が形成された透明なカバーシート層19を押し当てた。なお、透明なカバーシート層19には、ナノプリント法によりスタンパーの凹凸を転写し、その凹凸面上にスパッタ法によりL2記録層18を形成すればよい。
【0084】
次いで、図6(H)に示すように、紫外線露光光源22を用いて、紫外線硬化樹脂へ紫外線を適度に露光した。紫外線は、カバーシート層19およびL2記録層18を介して紫外線硬化樹脂へ到達する。これにより、紫外線硬化樹脂が硬化し、第3スペーサ層17が形成される。
【0085】
これらのプロセスを経て、図6(I)に示すように、本実施例で用いる3層の多層BD−Rディスク10が完成する。なお、本実施例ではナノプリント法によりカバーシート層19に凹凸を形成しているが、2P法により凹凸を形成するようにしてもよい。このように各スペーサ層の形成に2P法を用いた場合には、透明スタンパの使用枚数も従来に比べて半分の数ですむため、低価格化に有利である。
【0086】
図7は、図5による多層BD−Rディスク10の記録再生時におけるビーム21の照射方法を示す説明図である。図7(A)は、ビーム21の入射方向を基準として最も手前のS5面に対するビーム21の集光状態を示す説明図である。図7(B)は、S4面にビーム21が集光されている状態を示す。図7(C)は、S3面にビーム21が集光されている状態を示す。図7(D)は、S2面にビーム21が集光されている状態を示す。図7(E)は、S1面にビーム21が集光されている状態を示す。図7(F)は、ビーム21の入射方向において最も奥側のS0面にビーム21が集光している状態を示す。
【0087】
図7(A)に示すように、ビーム21に対して最も手前側の記録面である記録面S5の記録あるいは再生を行う場合には、ビーム21は、カバーシート層19を介して、記録面S5(L2記録層18の凸部7)に直接集光される。
【0088】
また、記録面S4の記録あるいは再生を行う場合には、図7(B)に示すようにビーム21の焦点位置を奥側に移動させ、カバーシート層19および第3スペーサ層17を介して記録面S4にビーム21を集光させる。また、記録面S3の記録あるいは再生を行う場合には、図7(C)に示すようにビーム21の焦点位置を奥側に移動させ、カバーシート層19、第3スペーサ層17および第2スペーサ層15を介して、記録面S3にビーム21を集光させる。ここまでの各記録層14,16,18の手前側の記録面(S5〜S3)においては、すべて凸部に対するオングルーブ記録となる。また、各記録面S5〜S3へのビーム21の集光方向は、カバーシート層6から基板2へ向かう方向となる。
【0089】
これに対して、図7(D)に示すように、ビーム21に対してL0記録層14の奥側の記録面である記録面S2の記録あるいは再生を行う場合には、更に焦点位置を奥側に移動させる。ビーム21は、記録面S5,S4,S3を通過した後、高反射率金属層3により90%以上の反射率で反射して記録面S2(L0記録層14の凹部8)に集光される。ビーム21は金属層3で反射することにより、進行方向が逆転するために、ビーム21の進行方向を基準としてみれば、記録面S2に入射する際にビーム21は凸部(ランド)上に集光しており、オングルーブ記録または再生が行なわれることになる。
【0090】
また、記録面S1の記録あるいは再生を行う場合には、図7(E)に示すようにビーム21の焦点位置をさらに奥側に移動させる。ビーム21は、記録面S5,S4,S3を通過し、高反射率金属層3により90%以上の反射率で反射され、さらに記録面S2を通過した後、記録面S1(L1記録層16の凹部8)に集光される。ビーム21は金属層3で反射することにより、進行方向が逆転するために、ビーム21の進行方向を基準としてみれば、記録面S1に入射する際にビーム21は凸部(ランド)上に集光しており、オングルーブ記録または再生が行なわれることになる。
【0091】
また、記録面S0の記録あるいは再生を行う場合には、図7(F)に示すようにビーム21の焦点位置をさらに奥側に移動させる。ビーム21は、記録面S5,S4,S3を通過し、高反射率金属層3により90%以上の反射率で反射され、さらに記録面S2,S1を通過した後、記録面S0(L2記録層18の凹部8)に集光される。ビーム21は金属層3で反射することにより、進行方向が逆転するために、ビーム21の進行方向を基準としてみれば、記録面S0に入射する際にビーム21は凸部(ランド)上に集光しており、オングルーブ記録または再生が行なわれることになる。
【0092】
このように、各記録層14,16,18の奥側の記録面(S2〜S0)においては、すべて凹部8に対するオングルーブ記録となる。凹部8に対してイングルーブ記録とはならない。すなわち、図7の記録再生方法では、すべての記録面S5〜S0についてオングルーブ記録および再生が可能である。
【0093】
なお、図7においては、記録面S5から順番に記録面S0までビームを集光させる例を示したが、実際の記録あるいは再生時には、逆の順番で記録面S0から記録面S5へ行うようにしてもよい。高反射率金属層2を基準とした場合、記録面S3から記録面S5に、記録面S2から記録面S0の順に、もしくはL0記録層4からL2記録層4の順に両面ずつ記録あるいは再生を行った方が好ましい。もちろん、順不同で記録あるいは再生をするなど必要に応じて複数の記録面S5〜S0の順番を決めてよい。
【0094】
そして、この実施例の多層BD−Rディスク10では、図5に示すように、従来と同じ記録面が6面(S0〜S5)であり記録容量としては従来の6層の光記録媒体とほぼ同じであるが、記録層の形成プロセス数が3回、スペーサ層の形成プロセス数が3回、カバーシート層の形成プロセス数が1回の合計7プロセスにより完成することができる。従来の記録層を記録面毎に6層形成するオングルーブ記録ディスクと比べて、同じ記憶容量を確保しつつも簡単な構造でよく、この結果、記録層の形成プロセス数が0.5倍、スペーサ層の形成プロセスが0.6倍となり、各プロセス数を少なくすることができる。即ち、従来に比べてプロセス数が大幅に減ることによって最終的な製造マージンが広くなり、更に、カバーシート層19から基板11までのトータルの厚さが薄くなるために材料費が抑えられ、その結果、多層BD−Rディスク10の低価格化を図ることができる。
【0095】
以上のように、本発明のおよびそれに適した記録再生方法を用いることにより、従来技術の光記録媒体に比べて安価な光記録媒体を提供することができる。
【0096】
特に、この実施例では、多層BD−Rディスク10は、3層の記録層14,16,18を有し、且つ、平らな反射面12aは、3層分の記録層14,16,18の他方側に配設されている。しかも、この反射面12aは、ビーム21を90パーセント以上の反射率にて反射する。そのため、3層ある記録層14,16,18による6つの記録面S5〜S0に対して、一方側からのビーム21の照射の下で、オングルーブ記録および再生をすることができる。3層分の記録層14,16,18により、片側6面に相当する記録領域を有する大記憶容量の多層BD−Rディスク10を実現することができる。
【0097】
なお、2層のBD−Rディスクについては実施例として説明をしていないが、その製造方法、記録再生方法、記録あるいは再生時の集光状態などは、上述した実施例のものと同様である。2層のBD−Rディスクでは、2層の記録層に4つの記録面が形成され、従来の4層の光記録媒体とほぼ同じ記録容量となる。また、2層のBD−Rディスクは、記録層の形成プロセス数が2回、スペーサ層の形成プロセス数が2回、カバーシート層の形成プロセス数が1回の合計で5プロセスにより形成が可能となり、記録面毎の記録層を有する4層のオングルーブ記録ディスクと比べて、記録層の形成プロセス数が0.5倍、スペーサ層の形成が0.67倍と各プロセス数を少なくすることができる。このように従来のオングルーブ記録ディスクに比べて、同じ記憶容量を確保しつつも簡単な構造でよく、この結果、プロセス数が大幅に減るために最終的な製造マージンが広くなり、更に、カバーシート層から基板までの厚さ(光記録媒体の厚さ)を薄くすることにより材料費が抑えられ、その結果、光記録媒体の低価格化を図ることができる。また、4層以上のオングルーブ記録ディスクについても、同様である。
【0098】
以上の各実施例は、本発明の好適な実施例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形や変更が可能である。
【0099】
上記各実施例では、L0記録層5,14、L1記録層16、およびL2記録層18は、ビーム21を透過するために、記録膜と、その両側を挟む誘電体層を有する。この他にもたえば、記録層が2から3層などのように少ない場合には、ビーム21の透過能力を確保しつつ各記録層の特性(たとえば吸収力)をアップするために、各記録層5,14,16,18に、半透明膜や金属膜を設けるようにしてもよい。また、1枚の多層BD−Rディスク10の複数の記録層14,16,18の透過特性は同じであってもよいが、異なるものであってもよい。
【0100】
上記各実施例では、L0記録層5,14、L1記録層16、およびL2記録層18の各記録層には、オングルーブによるビーム21が集光される。この他にもたとえば、各記録層には、イングルーブによってビーム21が集光されもよい。この場合、オングルーブの場合に比べて、各記録層での凹凸のピッチが拡がってしまうと予想されるが、1つの記録層に両面から記録をすることにより、条件によっては1層当たりの記憶容量を増やすことを期待することができる。
【0101】
上記各実施例では、L0記録層5,14、L1記録層16、およびL2記録層18の各記録層には、凹凸が形成され、この凹部と凸部とに別々の記録面(たとえばS5とS0)が形成されている。この他にもたとえば、記録層は平面的に形成され、2つの記録面が同一面に形成されていてもよい。ただし、上記各実施例のように記録層が凹凸を有することにより、2つの記録面がビーム21の進行方向において互いに略平行な別々の面に分かれるので、平面の記録層に2つの記録面を設ける場合にくらべて、すなわち2つの記録面が同一面内にある場合にくらべて、記録面間での熱伝達が生じ難くなる。
【0102】
上記各実施例では、多層BD−Rディスク1,10は、反射面3a,12aを有する。この他にもたとえば、多層BD−Rディスク1,10は、反射面3a,12aを持たず、その両面からビーム21を入射することができる構造であってもよい。この場合において、ビーム21を一方側から入射するためには、多層BD−Rディスク1,10の反対側に、多層BD−Rディスク1,10と重なる反射部材を設ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】図1は、実施例1の光記録媒体の正面図である。
【図2】図2は、図1の光記録媒体の断面図である。
【図3】図3(A)〜(C)は、図1の光記録媒体をナノプリント法により製造する手順の一例を示す工程図である。
【図4】図4(A)及び(B)は、図1および図2による光記録媒体の記録再生時におけるビームの照射方法を示す説明図である。
【図5】図5は、実施例2の光記録媒体の断面図である。
【図6】図6(A)〜(I)は、図5の光記録媒体を製造する手順の一例を示す工程図である。
【図7】図7(A)〜(F)は、図5による光記録媒体の記録再生時におけるビームの照射方法を示す説明図である。
【図8】図8は、従来の光記録媒体の断面図である。
【符号の説明】
【0104】
1、10:多層BD−Rディスク(光記録媒体)
2、11:ポリカーボネイト基板
3、12:高反射率金属層
3a、12a:上面
4、13:第1スペーサ層
5、14:L0記録層
6、19:カバーシート層
7:凸部
8:凹部
15:第2スペーサ層
16:L1記録層
17:第3スペーサ層
18:L2記録層
21:ビーム
22:紫外線露光光源
23、24:透明スタンパ
S0、S1、S2、S3、S4、S5:記録面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光記録媒体へビームを照射し、上記光記録媒体の記録層に情報の記録あるいは再生する記録再生方法において、
上記記録層は、第一の記録領域および第二の記録領域を有し、
上記ビームは、上記第一の記録領域に対して上記記録層の一方側から集光し、且つ、上記第二の記録領域に対して上記記録層の他方側から集光することを特徴とする記録再生方法。
【請求項2】
請求項1記載の記録再生方法であって、
前記記録層は、前記ビームの進行方向にほぼ垂直な面に凹凸を形成する凹部および凸部を有し、
上記凸部に前記第一の記録領域が形成され、且つ、上記凹部に前記第二の記録領域が形成されて、前記記録層に対する前記ビームの集光方向が上記凹部および上記凸部において逆であることを特徴とする記録再生方法。
【請求項3】
請求項2記載の記録再生方法であって、
前記ビームは、前記凸部による前記第一の記録領域と前記凹部による前記第二の記録領域との両方について、オングルーブ記録あるいはオングルーブ再生となることを特徴とする記録再生方法。
【請求項4】
請求項1記載の記録再生方法であって、
前記ビームは、前記記録層についての前記一方側から前記光記録媒体へ照射されて前記記録層を透過し、前記記録層についての前記他方側に存在する反射面により反射されることで、前記第二の記録領域に対して上記記録層の前記他方側から集光することを特徴とする記録再生方法。
【請求項5】
請求項3記載の記録再生方法であって、
前記光記録媒体は、前記記録層の前記他方側に形成された反射面を有し、
前記ビームは、前記記録層の前記一方側から前記光記録媒体へ照射されて前記記録層を透過し、上記反射面により反射されることで、前記第二の記録領域に対して上記記録層の前記他方側から集光することを特徴とする記録再生方法。
【請求項6】
請求項5記載の記録再生方法であって、
同一の前記記録層についての、前記第一の記録領域へ集光する前記ビームと、前記第二の記録領域へ集光する前記ビームとの光路差は、前記凸部と前記凹部とによる凹凸の深さより大きいことを特徴とする記録再生方法。
【請求項7】
請求項5記載の記録再生方法であって、
前記ビームは、青色レーザによるものであるとともに開口数が0.85のレンズにより集光され、
前記凹部のピッチおよび前記凸部のピッチは、0.32マイクロメートルであることを特徴とする記録再生方法。
【請求項8】
ビームが照射されることで情報の記録あるいは再生が可能な光記録媒体であって、
前記ビームが集光される記録層であって、第一の記録領域および第二の記録領域を有する記録層を有し、
上記ビームが上記記録層の一方側から上記第一の記録領域へ集光可能であるとともに、上記ビームが上記記録層の他方側から上記第二の記録領域へ集光可能である構造を有することを特徴とする光記録媒体。
【請求項9】
請求項8記載の光記録媒体であって、
当該光記録媒体は、前記記録層の前記他方側において前記記録層から離間した位置に反射面を有し、
前記記録層の前記第一の記録領域には、前記記録層の前記一方側から当該光記録媒体へ照射された前記ビームが集光され、前記第二の記録領域には、前記記録層の前記一方側から当該光記録媒体へ照射されて前記記録層を透過した前記ビームが上記反射面で反射して上記他方側から集光されることを特徴とする光記録媒体。
【請求項10】
請求項9記載の光記録媒体であって、
前記記録層と前記反射面とは5μm以上の間隔で離れていることを特徴とする光記録媒体。
【請求項11】
請求項9または10記載の光記録媒体であって、
前記記録層を3層有し、且つ、
前記反射面は、上記3層分の前記記録層の前記他方側に配設されるとともに、前記ビームについて90パーセント以上の反射率を有することを特徴とする光記録媒体。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか1項記載の光記録媒体であって、
前記反射面は、当該光記録媒体の情報の記録領域およびアドレス領域について形成されていることを特徴とする光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−104718(P2009−104718A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275978(P2007−275978)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】