説明

光記録方法、及び光再生方法

【課題】クロストークの影響が少ない状態で、3以上の多重記録を可能にする多重記録方法を提供する。
【解決手段】光照射により屈折率の異方性を生じる光誘起複屈折性を示す材料からなる偏光感応層を有する記録媒体の所定の記録領域に対し、複数の第1の信号光及び複数の第1の参照光を、それぞれの偏光状態を変化させた状態で経時的に連続して照射し、第1のホログラフィック多重記録を行うステップと、前記記録媒体の前記記録領域に対し、前記記録媒体のブラッグ条件を経時的及び連続的に変化させた状態で、複数の第2の信号光及び複数の第2の参照光を、それぞれ前記記録媒体の前記ブラッグ条件の変化と同期させて照射し、第2のホログラフィック多重記録を行うステップと、を具えるようにして光記録を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラフィ技術を利用した記録方法及び記録再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィック記録媒体への記録は、イメージ情報を持った信号光と参照光とを記録層に照射して、干渉縞として情報を記録媒体に記録することにより行われる。ホログラフィック記録媒体からの再生は、上記したイメージ情報が記録された記録層に参照光を照射して、イメージ情報を読み出すことによって行われる。
【0003】
ホログラフィック記録は、上記イメージ情報を1ページとして、ページ単位で一括記録、再生でき、かつ、媒体の同一箇所にページを多重記録できることから、従来のCD、DVD、ブルーレイディスクで用いられるビット・バイ・ビットの記録方式に替わる高速かつ大容量の光記録方式として期待される技術である。
【0004】
このようなホログラフィック記録の例として、例えば特許文献1には、照射する光の偏光状態に応じて光誘起複屈折性を示す材料からなる偏光感応層を有する記録媒体を用いて、記録情報を偏光(複屈折)状態として記録する方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、特許文献1に記載の記録原理を用い、記録の第1段階で、信号光の偏光方向を0°とし、参照光の偏光方向も0°として、画像(A)の信号光を1枚目のホログラムとしてホログラフィック記録媒体に記録し、第2段階で、信号光の偏光方向を90°とし、参照光の偏光方向は0°として、画像(B)の信号光を2枚目のホログラムとして1枚目のホログラムに多重させて記録する多重記録方法が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、信号光の偏光状態を複数変化させ、各々の偏光状態に応じて異なる情報を重畳し、これら異なる情報を多重記録する多重記録方法が記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の偏光多重記録方法の場合、2多重までしか行うことができず、それ以上多重度を増加させることができない。また、特許文献3では、3以上の偏光多重記録とした場合に、記録媒体の厚さ方向において、例えば参照光が干渉してクロストークの影響が大きくなり、情報記録でこの方法をそのまま用いると、エラーレートが著しく増大するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−340479号
【特許文献2】特開2000−67459号
【特許文献3】特開2007−294067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、クロストークの影響が少ない状態で、3以上の偏光多重記録を可能にする多重記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく、本発明は、
光照射により屈折率の異方性を生じる光誘起複屈折性を示す材料からなる偏光感応層を有する記録媒体の所定の記録領域に対し、偏光状態が互いに異なる複数の第1の信号光及び複数の第1の参照光を経時的に連続して照射し、第1のホログラフィック多重記録を行うステップと、
前記記録媒体の前記記録領域に対し、前記記録媒体のブラッグ条件(すなわち、多重記録した情報を選択的に再生するための条件)を経時的及び連続的に変化させた状態で、複数の第2の信号光及び複数の第2の参照光を、それぞれ前記記録媒体の前記ブラッグ条件の変化と同期させて照射し、第2のホログラフィック多重記録を行うステップと、
を具えることを特徴とする、光記録方法に関する。
【0011】
また、本発明は、
光照射により屈折率の異方性を生じる光誘起複屈折性を示す材料からなる偏光感応層を有する記録媒体の所定の記録領域に対し、偏光状態が互いに異なる複数の第1の信号光及び複数の第1の参照光を経時的に連続して照射し、第1のホログラフィック多重記録を行うステップと、
前記記録媒体の前記記録領域に対し、前記記録媒体のブラッグ条件を経時的及び連続的に変化させた状態で、複数の第2の信号光及び複数の第2の参照光を、それぞれ前記記録
媒体の前記ブラッグ条件の変化と同期させて照射し、第2のホログラフィック多重記録を行うステップと、
前記記録媒体の前記記録領域に対し、前記記録媒体の前記ブラッグ条件の変化と同期させて再生参照光を照射し、ブラッグ条件毎に多重記録された情報を読み出すステップと、
を具えることを特徴とする、光記録再生方法に関する。
【0012】
本発明によれば、光照射により屈折率の異方性を生じる光誘起複屈折性を示す材料からなる偏光感応層を有する記録媒体の所定の記録領域に対し、偏光状態が互いに異なる複数の第1の信号光及び複数の第1の参照光を経時的に連続して照射し、第1のホログラフィック多重記録を行うことに加えて、記録媒体のブラッグ条件を経時的及び連続的に変化させた状態で、複数の第2の信号光及び複数の第2の参照光を、それぞれ前記記録媒体の前記ブラッグ条件の変化と同期させて照射し、第2のホログラフィック多重記録を行うようにしている。
【0013】
すなわち、従来技術のように、偏光状態が異なることを利用した第1のホログラフィック多重記録のみではなく、記録媒体のブラッグ条件の変化をも利用した第2のホログラフィック多重記録をも利用しているので、多重度を飛躍的に向上させ、記録容量を大幅に向上させたホログラフィック記録媒体の提供が可能となる。換言すれば、3以上の偏光多重記録を簡易に実行することができる。
【0014】
また、第2のホログラフィック多重記録を利用しているので、第1のホログラフィック多重記録において、偏光状態を多数設定しなくても多重度を向上させることができ、記録容量を向上させることができる。したがって、多数の偏光状態の光に記録情報を重畳させることによって生じるクロストークの発生を抑制することができる。
【0015】
結果として、本発明によれば、クロストークの影響が少ない状態で、3以上の偏光多重記録を可能にする多重記録方法を提供することができる。
【0016】
また、本発明の光記録再生方法によれば、記録媒体の前記記録領域に対し、前記記録媒体のブラッグ条件の変化と同期させて再生参照光を照射し、ブラッグ条件毎に多重記録された情報を読み出すようにしている。したがって、上述のように第1のホログラフィック多重記録によって記録した情報を読み出すことができるとともに、ブラッグ条件の変化と同期させて第2のホログラフィック多重記録によって記録した情報をも読み出すことができる。
【0017】
なお、本発明の一例において、複数の第1の信号光及び複数の第1の参照光は、前記複数の第1の信号光の偏光状態を固定した状態で、それぞれ偏光状態が順次に平行及び直交の関係をなすようにすることができる。例えば、P偏光及びS偏光の少なくとも一方とすることができる。この場合、上述した第1のホログラフィック多重記録及び第2のホログラフィック多重記録を利用し、記録媒体に対してデータページなどの記録情報を多重記録させる際に、記録媒体の厚さ方向において、例えば参照光が直交して打ち消し合うようになるため、クロストークの発生を抑制することができる。
【0018】
また、記録媒体のブラッグ条件の経時的及び連続的な変化は、複数の第2の信号光及び複数の第2の参照光に対する、記録媒体の光入射面の角度を経時的及び連続的に変化させることによって実施することができる。この場合、記録媒体のブラッグ条件の経時的及び連続的な変化を簡易に実行することができる。
【0019】
また、本発明の一例において、記録媒体は、追記書き込み型(WORM型)とすることができる。この場合、記録された信号が光照射によって劣化するのが低減されるため、多重記録するとき前半ページの信号劣化が小さく、多重記録を行なうシステムに適する。また、再生時において、再生光照射による記録信号の劣化が低減されるという効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上、本発明によれば、クロストークの影響が少ない状態で、3以上の偏光多重記録を可能にする多重記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の光記録方法の原理を説明するための図である。
【図2】本発明の光記録再生方法の原理を説明するための図である。
【図3】本発明の光記録方法及び光記録再生方法の具体例を示す説明図である。
【図4】本発明の光記録方法に用いる記録光学系の一例を示す概略構成図である。
【図5】本発明の光記録再生方法に用いる再生光学系の一例を示す概略構成図である。
【図6】実施例における、再生参照光による信号強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
(光記録方法及び光記録再生方法)
図1及び図2は、本発明の光記録方法及び光記録再生方法の原理を説明するための図であり、図3は、本発明の光記録方法及び光記録再生方法の具体例を示す説明図である。
【0024】
光照射により屈折率の異方性を生じる光誘起複屈折性を示す材料からなる偏光感応層を有する記録媒体の所定の記録領域において、同一の偏光状態(偏光状態が平行)が重なった位置では、光の干渉により明暗が生じ、直交する偏光状態が重なった位置では、合成偏光パターンが生じる。このとき、記録媒体には光パターンに応じた光学異方性が誘起される。
【0025】
同一の偏光状態が重なることによって形成された明暗パターンは、屈折率の変調に寄与し、直交する偏光状態が重なって形成された合成偏光パターンは、光学異方性を変調する。前者の場合に形成された屈折率パターンは、入射した偏光状態と同一の偏光状態の光を回折する性質を持ち、後者の場合に形成された光学異方性の主軸パターンは、直交する偏光状態の光を回折する性質をもつ。
【0026】
そのため、例えば、P偏光の信号光と、参照光のP偏光成分とが重なった領域においては、再生参照光のP偏光成分が照射されるとP偏光の信号光を再生し、S偏光成分が照射されるとS偏光の信号光を再生する。また、参照光のS偏光成分が重なった領域においては、再生参照光のP偏光成分が照射されるとS偏光の信号光を再生し、S偏光成分が照射されるとP偏光の信号光を再生する。この性質より、偏光板により信号光の偏光状態であるP偏光をフィルタリングすると、記録時と同一の偏光状態をもつ参照光が再生されたときのみ、信号光が再生される。
【0027】
なお、P偏光をフィルタリングする代わりに、S偏光をフィルタリングするようにしてもよい。また、再生参照光の偏光を固定しておき、偏光板を回転させてフィルタリングする偏光をP偏光、S変更に順次切り替えて再生してもよい。
【0028】
図1は、以上の性質を利用して、信号光及び参照光の偏光状態を変化させて多重記録する第1のホログラフィック多重記録と、記録媒体のブラッグ条件を変化させて多重記録する第2のホログラフィック多重記録とを組み合わせて多重記録する原理図である。
【0029】
なお、図1では、信号光はP偏光に固定し、参照光の偏光状態のみを変化させるようにしている。また、図1に示す原理に関する記録方法はあくまで一例を示したに過ぎず、その他の記録方法においても当該原理を説明することは可能である。
【0030】
さらに、以下の説明から明らかなように、本例では、第2のホログラフィック多重記録において、記録媒体のブラッグ条件の変化と同期させるとともに、偏光状態を変化させるようにして、信号光及び参照光を経時的に連続して照射し、第1のホログラフィック多重記録を行うようにしている。
【0031】
図1に示すように、記録情報であるページ #1及びページ #2を記録させる場合は、記録媒体の角度をθ1とし、同一のブラッグ条件(第1のブラッグ条件)とする。そして、参照光の偏光状態を、経時的かつ連続的にP偏光及びS偏光と変化させ、第1のホログラフィック記録を行う(図1(a)及び(b)参照)。これによって、第1のブラッグ条件において、記録媒体に対して2多重記録を行なうことになる。
【0032】
次いで、記録情報であるページ #3及びページ #4を記録させる場合は、記録媒体の角度をθ2としてブラッグ条件(第2のブラッグ条件)を変化させ、参照光の偏光状態を、経時的かつ連続的にP偏光及びS偏光と変化させ、第1のホログラフィック記録を行う(図1(c)及び(d)参照)。これによって、第2のブラッグ条件において、記録媒体に対して2多重記録を行なうことになる。
【0033】
上記内容から明らかなように、第1のホログラフィック多重記録を行うに際し、記録媒体のブラッグ条件を経時的及び連続的に変化させた状態で、2つの信号光及び2つの参照光を、それぞれ記録媒体のブラッグ条件の変化(第1のブラッグ条件と第2のブラッグ条件)と同期させて照射し、第2のホログラフィック多重記録を行うようにしている。換言すれば、第2のホログラフィック多重記録において、記録媒体のブラッグ条件の変化と同期させるとともに、偏光状態を変化させるようにして、信号光及び参照光を経時的に連続して照射し、第1のホログラフィック多重記録を行うようにしている。すなわち、第1のホログラフィック多重記録及び第2のホログラフィック多重記録を利用しているので、多重度を向上させることができ、記録容量を向上させることができる。
【0034】
また、信号光をP偏光に固定し、参照光を経時的かつ順次にP偏光及びS偏光と変化させ、信号光と偏光状態が平行又は直交するようにしている(図1(a)〜図1(d)参照))。したがって、記録媒体の厚さ方向において、参照光が直交して打ち消し合うようになるため、クロストークの発生を抑制することができる。
【0035】
なお、図1では、第1のブラッグ条件及び第2のブラッグ条件のみを用いているが、第3以上のブラッグ条件を用いることによって、より多重度を向上させ、記録容量を向上させるようにすることもできる。
【0036】
図2は、第1のホログラフィック多重記録及び第2のホログラフィック多重記録を実施することにより、多重記録がなされた記録媒体から記録した情報を読み出すための原理図である。また、図2に示す原理に関する再生方法はあくまで一例を示したに過ぎず、その他の再生方法においても当該原理を説明することは可能である。
【0037】
図1から明らかなように、記録媒体の多重記録に関する記録情報は総てP偏光の信号光に重畳されたものである。したがって、記録媒体に記録した情報を読み出すに際しては、再生参照光によってP偏光の信号光を再生しなければならない。
【0038】
したがって、上述した説明から明らかなように、図1(a)の状態で記録された情報を読み出すには、信号光の偏光状態と参照光の偏光状態が同じP偏光であるので、記録媒体を角度θ1の第1のブラッグ条件とした状態で、P偏光の再生参照光を照射し、P偏光の信号光を再生する(図2(a))。図1(b)の状態で記録された情報を読み出すには、信号光の偏光状態と参照光の偏光状態とが直交しているので、同じく記録媒体を角度θ1の第1のブラッグ条件とした状態で、S偏光の再生参照光を照射し、P偏光の信号光を再生する(図2(b))。
【0039】
同様に、図1(c)の状態で記録された情報を読み出すには、信号光の偏光状態と参照光の偏光状態が同じP偏光であるので、記録媒体を角度θ2の第2のブラッグ条件とした状態で、P偏光の再生参照光を照射し、P偏光の信号光を再生する(図2(c))。図1(d)の状態で記録された情報を読み出すには、信号光の偏光状態と参照光の偏光状態とが直交しているので、同じく記録媒体を角度θ2の第2のブラッグ条件とした状態で、S偏光の再生参照光を照射し、P偏光の信号光を再生する(図2(d))。
【0040】
図3は、2次元のページデータを、再生参照光の偏光状態を変化させて多重記録する原理図である。
【0041】
信号光は、記録情報の“1”と“0”をそれぞれ”明”と”暗”に対応させた2次元のドットパターンからなるページデータが重畳され、P偏光又はS偏光の直線偏光とする。参照光は、P偏光及びS偏光の直線偏光が2次元的に分布したパターンとする。参照光の偏光状態は、信号光の偏光状態と同一か直交する偏光状態とする。これは、例えば、ページデータを図1に示した原理に基づいて記録し、図2に示した原理に基づいて再生するためである。
【0042】
なお、複数のページデータで用いる参照光の偏光パターンは互いに直交条件を満たすようにする。直交条件とは、任意の2つのページにおける参照光の偏光パターンの内、例えば、P偏光を“1”、S偏光を“−1”に対応させてできるn次元のベクトルが直交することを意味する。具体的には、
【数1】

(一例として、A、Bは、“1”又は“−1”)。
【0043】
図1に示した原理に基づいた記録及び図2に示した原理に基づいた再生は、1つのブラッグ条件に対して記録できるページデータは2つであるが、図3に示す例では、3つ以上のページデータを記録再生することができる。すなわち、1つのページデータに関する信号光及び所定の偏光パターン(参照光パターン)を有する参照光を同時に照射して記録し、次いで、所定の偏光パターン(参照光パターン)を有する再生参照光を照射して再生すると、記録時と同じ偏光パターンの参照光を照射したときに、再生ページデータの信号強度が最も強め合い、記録したデータページを読み出すことができるようになる。一方、記録時と異なる偏光パターン(参照光パターン)の再生参照光を照射したときは、“1”に対応する偏光成分と“−1”に対応する偏光成分とを含むn次元のベクトルが直交するようになるので、クロストークの発生を抑制することができる。
【0044】
図3に示す例では、16次元のベクトルが直交するようにして、複数のページデータで用いる参照光の偏光パターンを参照光の偏光パターンを決定している。
【0045】
なお、図3に示す2次元のページデータの記録及び再生も、図1に示す記録及び図2に示す再生と同様の手順によってなされる。例えば、Page#1、Page#2及びPage#3を第1のブラッグ条件において多重記録し、図示しない次の3つのページデータを第2のブラッグ条件において多重記録するようにする。
【0046】
したがって、第1のホログラフィック多重記録及び第2のホログラフィック多重記録を利用することによる多重度の向上及び記録容量の向上を達成することができる。また、記録媒体の厚さ方向を利用して、参照光パターンの各位置の光に対応した複数個の同一ページデータを同時に記録し、再生参照光パターンが記録時と異なる場合に同一ページデータ同士の信号を打ち消し合うように偏光フィルタリングすることにより、クロストークの発生を抑制することができる。
【0047】
(光記録方法及び光記録再生方法の具体的操作)
次に、本発明の光記録方法及び光記録再生方法の具体例について説明する。
図4は、本発明の光記録方法に用いる記録光学系の一例を示す概略構成図であり、図5は、本発明の光記録再生方法に用いる再生光学系の一例を示す概略構成図である。
【0048】
上述した光記録方法を実行するためには、例えば図4に示すような光学系を用いる。この光学系では、レーザ光がシャッタ1、HWP(1/2波長板)1を通過した後、PBS(偏光ビームスプリッタ)で2分割され、一方は記録信号光としてシャッタ2を通過した後、SLM(空間光変調器)で反射され、PBSを透過した後、記録媒体に照射される。この場合、SLMで反射された光は、P偏光とS偏光とが混在しているが、P偏光成分のみがPBSを透過できるので、このP偏光成分を信号光としてレンズを介し、記録媒体に照射する。
【0049】
また、PBSで分割された他方は、参照光としてSPLM(空間偏光変調器)で反射され、レンズを介して記録媒体に照射される。
【0050】
したがって、上述したシャッタ1及びシャッタ2の操作によって、記録媒体への信号光及び参照光の、記録媒体への照射の有無が決定される。また、SPLMによって、参照光の偏光状態が決定され、その偏光状態が信号光の偏光状態と平行(P偏光)又は直交(S偏光)するように制御される。これによって、図1(a)及び図1(b)、又は図1(c)及び図1(d)に示すような第1のホログラフィック多重記録がなされることになる。
【0051】
なお、ブラッグ条件を変化させた第2のホログラフィック多重記録を組み合わせ、図1(a)〜図1(d)に示す記録操作を連続して行うには、信号光及び参照光の光入射面の角度が所定の角度変化するように、図示しない制御系を用いて記録媒体を駆動する。
【0052】
また、上述した光記録再生方法を実行するためには、例えば図5に示すような光学系を用いる。この光学系は、図4に示す光学系を基本とし、記録媒体を透過(回折)した後の再生光(回折光)を結像させるための結像光学系、偏光板及びイメージャが付加されたものである。
【0053】
図5に示す光学系を用いた再生操作は、シャッタ2を閉とし、シャッタ1、HWP、PBSを透過したレーザ光をSPLMで反射させて再生参照光とし、記録媒体に照射する。なお、再生参照光の偏光状態はSPLMによって決定され、P偏光又はS偏光となるように制御される。
【0054】
記録媒体からは、図1に関連して説明したように、信号光及び参照光の偏光状態が平行及び直交することに依存して、再生参照光の偏光状態がそのまま保持された状態で再生(回折)される、または偏光状態が90度変化した状態で再生(回折)される。したがって、このようにして得た再生光(回折光)を結像レンズで結像させた後、信号光の偏光状態に合致させて、偏光板でP偏光あるいはS偏光のみを透過させ、イメージャに入射させ、記録情報の解析を行う。
【0055】
上述のような操作を、信号光及び参照光の光入射面の角度が、記録操作の際と同じ角度変化するように、図示しない制御系を用いて記録媒体を駆動して行うことにより、第1のホログラフィック多重記録及び第2のホログラフィック多重記録によって記録した記録情報を読み出すことができる。
【0056】
なお、記録操作あるいは再生操作に際に、P偏光及びS偏光の光を用いずに、互いに直交する任意の偏光を用いる場合は、SPLMと記録媒体との間に液晶型SLM及びHWPを配置し、液晶型SLMにオン・オフの2値の信号を入力することにより、P偏光及びS偏光がそれぞれプラス方向に45度、マイナス方向に45度回転したような偏光が得られる。したがって、このようにして得た4つの偏光から互いに直交する2つの偏光を選択することにより、P偏光及びS偏光と同様の記録操作及び再生操作を行うことができる。
【0057】
(記録媒体)
記録媒体としては、光照射により屈折率の異方性を生じる光誘起複屈折性を示す材料からなる偏光感応層を有することが必要であり、通常は、記録媒体自体を上記材料から構成する。
【0058】
このような材料としては、例えば、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(商品名:イルガキュア819、BASF社製)、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン(商品名:イルガキュア379、BASF社製)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン(商品名:イルガキュア369、BASF社製)、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(商品名:ダロキュアTPO、BASF社製)、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)フェニル],2−(O−ベンゾイルオキシム)](商品名:イルガキュアOXE01、BASF社製)、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル],1−(O−アセチルオキシム)(商品名:イルガキュアOXE02、BASF社製)等の光照射により分子が開裂する材料、9,10−フェナンスレンキノン、ベンジル、p−アニシル、ベンゾフェノン、ビス(4−ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等の光照射により水素引き抜き反応が生じる材料、アントラセン、けい皮酸、けい皮酸メチル、メトキシけい皮酸、スチルベン等の光照射により付加反応が生じる材料、m−ニトロメトキシベンゼン、p−ニトロクロロベンゼン等の光照射により置換反応が生じる材料、酢酸−o−ニトロベンジル等の光分解を生じる材料、アゾベンゼン、4−[4−(フェニルアゾ)フェニルアゾ]−o−クレゾール等の光照射により光異性化反応が生じる材料、アゾベンゼン、けい皮酸、ベンゾフェノン、クマリン、カルコン、ポリイミド等の光照射により配向状態の形成・緩和が生じる材料、アクリル酸メチル、スチレン等のラジカル重合型のモノマー類とビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(商品名:イルガキュア819、BASF社製)、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン(商品名:イルガキュア379、BASF社製)等のラジカル発生型の光重合開始剤との混合物等の光照射によりラジカル重合が生じる材料、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(商品名:セロキサイド2021P、ダイセル化学工業株式会社製)等のカチオン重合型のモノマー類とジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート等のカチオン発生型の光重合開始剤の混合物等の光照射によりカチオン重合が生じる材料、光塩基発生剤とポリオレフィンスルフォン類、光酸発生剤とポリエステル類、光酸発生剤とポリイミド類、ポリシラン類等の光照射により解重合を生じる材料等である。これらの光誘起複屈折材料は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0059】
光誘起複屈折材料としては光照射により分子が開裂する材料、光照射により水素引き抜き反応が生じる材料が好ましく、特に光反応の量子収率が高いものが好ましい。
【0060】
特に追記書き込み型(WORM型)の記録媒体を用いる場合には、前記材料の反応または状態変化が不可逆的に生じるものが好ましい。
【0061】
なお、上記記録媒体は、通常、透明であり複屈折の小さな基板上に形成する。このような透明基板は、ガラス、ポリアクリル酸エステル等のアクリル系樹脂、ポリビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアセタール樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、各種エストラマー等から形成することができる。これらは単独で用いても、2種以上を混合、もしくは共重合体を用いても良い。
【0062】
さらに、基板は、表面に微細加工を施したものや、UV硬化樹脂等でハードコート処理したものや反射防止処理をしたものも適宜使用することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
<記録媒体の作製>
光誘起複屈折性化合物として、WORM型である9,10−フェナンスレンキノン(東京化成工業(株)製)1.0重量部、熱重合モノマーとしてメタクリル酸メチル(和光純薬工業(株)製)98.6重量部、熱重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.4重量部からなる記録材料前駆体を調整した。この記録材料前駆体を60℃で2時間加熱後、凹字型に切り出したシリコンスペーサー(厚み1.0mm)を介して貼り合わせた2枚のガラス板(50mm×50mm、厚み1.2mm)の空隙に導入した。60℃で6時間加熱処理後、2枚のガラス板を取り外し記録媒体を得た。上記材料は、400〜550nmの波長で高い記録感度を示す。
【0065】
<記録再生>
記録再生は図4及び図5に示すような光学系を用い、上述した手順に従って実施した。なお、記録媒体は回転ステージ上に取り付けられ、角度を変化させながら記録を実施した。
【0066】
信号光及び参照光の入射角の絶対値が等しくなる角度を0度と定義し、記録時の媒体の角度を0度から3.5度まで刻み0.5度で変化させ、かつ記録信号光のon/off、記録参照光の偏光状態を変化させながら、記録媒体の同じ位置にペー ジ#1からページ#16まで合計16多重記録を行なった。
【0067】
表に、各ページの記録条件を示す。
【0068】
【表1】

【0069】
図6に、再生参照光がP偏光、S偏光それぞれに対して、媒体角度を変化させた場合のイメージャで検出された信号強度を示す。同図で示されるピークが、信号が検出されていることを意味する。信号が検出された条件のところを表中に”○”印で示すことでまとめてある。
【0070】
以上の結果から、同一偏光どうしで記録された場合(ページ#2, #4, #10, #12)、再生時は偏光状態が変化せず、再生参照光と同一の偏光が回折し、P偏光とS偏光とで記録された場合(ページ#1, #5, #9, #13)、再生参照光に対して90度回転した偏光が回折されており、クロストークはノイズレベル程度以下に低いことが分かる。
【0071】
これより、ブラッグ条件を変化させて記録する多重(本実施例では媒体角度を変化)と、参照光の偏光状態を変化させて記録する多重とを組み合わせて記録再生できることが実証された。
【0072】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射により屈折率の異方性を生じる光誘起複屈折性を示す材料からなる偏光感応層を有する記録媒体の所定の記録領域に対し、複数の第1の信号光及び複数の第1の参照光を、それぞれの偏光状態を変化させた状態で経時的に連続して照射し、第1のホログラフィック多重記録を行うステップと、
前記記録媒体の前記記録領域に対し、前記記録媒体のブラッグ条件を経時的及び連続的に変化させた状態で、複数の第2の信号光及び複数の第2の参照光を、それぞれ前記記録媒体の前記ブラッグ条件の変化と同期させて照射し、第2のホログラフィック多重記録を行うステップと、
を具えることを特徴とする、光記録方法。
【請求項2】
前記第2のホログラフィック多重記録において、前記複数の第2の信号光及び前記複数の第2の参照光は、前記記録媒体の前記ブラッグ条件の変化と同期させるとともに、それぞれの偏光状態を変化させた状態で経時的に連続して照射し、前記第1のホログラフィック多重記録を行うことを特徴とする、請求項1に記載の光記録方法。
【請求項3】
前記複数の第1の信号光及び前記複数の第1の参照光は、前記複数の第1の信号光の偏光状態を固定した状態で、それぞれ偏光状態が順次に平行及び直交の関係をなすことを特徴とする、請求項1又は2に記載の光記録方法。
【請求項4】
前記複数の第2の信号光及び前記複数の第2の参照光は、前記複数の第2の信号光の偏光状態を固定した状態で、それぞれ偏光状態が順次に平行及び直交の関係をなすことを特徴とする、請求項2に記載の光記録方法。
【請求項5】
前記記録媒体の前記ブラッグ条件の経時的及び連続的な変化は、前記複数の第2の信号光及び前記複数の第2の参照光に対する、前記記録媒体の光入射面の角度を経時的及び連続的に変化させることによって実施することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の光記録方法。
【請求項6】
前記記録媒体は、追記書き込み型(WORM型)であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の光記録方法。
【請求項7】
光照射により屈折率の異方性を生じる光誘起複屈折性を示す材料からなる偏光感応層を有する記録媒体の所定の記録領域に対し、偏光状態が互いに異なる複数の第1の信号光及び複数の第1の参照光を経時的に連続して照射し、第1のホログラフィック多重記録を行うステップと、
前記記録媒体の前記記録領域に対し、前記記録媒体のブラッグ条件を経時的及び連続的に変化させた状態で、複数の第2の信号光及び複数の第2の参照光を、それぞれ前記記録媒体の前記ブラッグ条件の変化と同期させて照射し、第2のホログラフィック多重記録を行うステップと、
前記記録媒体の前記記録領域に対し、前記記録媒体の前記ブラッグ条件の変化と同期させて再生参照光を照射し、ブラッグ条件毎に多重記録された情報を読み出すステップと、
を具えることを特徴とする、光記録再生方法。
【請求項8】
前記第2のホログラフィック多重記録において、前記複数の第2の信号光及び前記複数の第2の参照光は、前記記録媒体の前記ブラッグ条件の変化と同期させるとともに、それぞれの偏光状態を変化させた状態で経時的に連続して照射し、前記第1のホログラフィック多重記録を行うことを特徴とする、請求項7に記載の光記録再生方法。
【請求項9】
前記複数の第1の信号光及び前記複数の第1の参照光は、前記複数の第1の信号光の偏光状態を固定した状態で、それぞれ偏光状態が順次に平行及び直交の関係をなすことを特徴とする、請求項7又は8に記載の光記録再生方法。
【請求項10】
前記複数の第2の信号光及び前記複数の第2の参照光は、前記複数の第2の信号光の偏光状態を固定した状態で、それぞれ偏光状態が順次に平行及び直交の関係をなすことを特徴とする、請求項8に記載の光記録再生方法。
【請求項11】
前記記録媒体の前記ブラッグ条件の経時的及び連続的な変化は、前記複数の第2の信号光及び前記複数の第2の参照光に対する、前記記録媒体の光入射面の角度を経時的及び連続的に変化させることによって実施することを特徴とする、請求項7〜10のいずれか一に記載の光記録方法。
【請求項12】
前記第1の信号光と前記第1の参照光との偏光状態が平行な場合において、前記再生参照光は、入射時の偏光状態を維持した状態で前記多重記録された情報を読み出すことを特徴とする、請求項7〜11のいずれか一に記載の光記録再生方法。
【請求項13】
前記第1の信号光と前記第1の参照光との偏光状態が直交する場合において、前記再生参照光は、入射時の偏光状態が90度変化した状態で前記多重記録された情報を読み出すことを特徴とする、請求項7〜11いずれか一に記載の光記録再生方法。
【請求項14】
前記再生参照光は、P偏光又はS偏光であることを特徴とする、請求項12又は13に記載の光記録再生方法。
【請求項15】
前記記録媒体は、追記書き込み型(WORM型)であることを特徴とする、請求項7〜14のいずれか一に記載の光記録再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−48790(P2012−48790A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190991(P2010−190991)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構「戦略的イノベーション創出推進事業 テラバイト時代に向けたポリマーによる三次元ベクトル波メモリ技術の実用化研究」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】