説明

光走査装置及びそれを用いた画像形成装置

【課題】fθ特性や像面湾曲及びその他の各収差を良好に補正することができるコンパクトな光走査装置及びそれを用いた画像形成装置を得る。
【解決手段】光源手段1と、光源手段から出射された光束を偏向手段に導光する入射光学系LAと、偏向手段4の偏向面5で偏向された光束を被走査面7上に結像させる結像光学素子LBを含む結像光学系とを有する光走査装置において、偏向手段4の偏向面5から被走査面7までの結像光学系の光軸方向の間隔L(mm)、偏向手段4の偏向面5から自然収束点までの間隔Sd(mm)とし、有限な走査画角θa(rad)、有効走査領域における最大走査画角θmax(rad)、fθ係数K(mm/rad)、任意の走査画角θ(rad)とし、各々適切に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光走査装置及びそれを用いた画像形成装置に関し、例えば、電子写真プロセスを有するレーザービームプリンタやデジタル複写機、マルチファンクションプリンタ(多機能プリンタ)等の画像形成装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光走査装置においては画像信号に応じて光源手段から光変調され出射した光束(光ビーム)を、例えば、ポリゴンミラーから成る光偏向器によって周期的に偏向させている。
【0003】
そして、光偏向器で偏向された光束をfθ特性を有する結像光学系によって感光性の記録媒体面上にスポット状に集光させている。
【0004】
これにより該光束で記録媒体面上を光走査して画像記録を行っている。
【0005】
近年、レーザービームプリンタやデジタル複写機やマルチファンクションプリンタ等の画像形成装置では、装置全体の小型化、簡素化(低コスト化)が進んでいる。
【0006】
それに伴って、光走査装置をよりコンパクトに、かつ簡易に構成することが望まれている。
【0007】
そこで、これまでにコンパクト化を目的とした光走査装置が種々提案されている(特許文献1、2参照)。
【0008】
特許文献1は、光偏向器の偏向面から被走査面までの間隔(光路長)を短くする為に、走査画角を広くし、かつ結像光学系を構成する結像レンズの主走査方向の形状(母線形状)を適切に設定している。
【0009】
特許文献2には、主走査断面内において、結像レンズに収束光束が入射する光走査装置の開示ある。
【0010】
また、特許文献2では、主走査断面内において、最大有効走査画角の7.7割の走査画角よりも走査画角が小さいとき、結像光学系に入射する光束を光軸から離れる方向に屈折させる。そして最大有効走査画角の7.7割の走査画角よりも走査画角が大きいとき、結像光学系に入射する光束を光軸に近づく方向に屈折させるように結像光学系の母線形状を設定している(図18参考)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−296491号公報
【特許文献2】特開2000−267030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1では、主走査断面内において結像光学系に入射する全走査画角の光束を光軸に近づく方向に屈折させるように結像光学系の母線形状を設定しているため、さらに間隔を短くして同じ走査幅を走査させようとすると、より走査画角を広げなければならない。
【0013】
しかしながら、走査画角を広くすると、走査画角が大きい走査画角領域において光束を屈折させなければならない量が著しく大きくなってしまう。
【0014】
このような理由から、光偏向器の偏向面から被走査面までの光路長の短い光学系においては、fθ特性や像面湾曲及びその他の各収差を補正しきれないといった問題点が発生する。
【0015】
また、特許文献2では、最大有効走査画角の7.7割の走査画角よりも走査画角が小さいとき、結像光学系に入射する光束を光軸から離れる方向に屈折させるように結像光学系の母線を設定している。
【0016】
このように設定している結像光学系において、さらに光偏向器の偏向面から被走査面までの間隔(光路長)を短くしようとすると、走査画角の小さい領域において、光束を軸上から離れる方向に屈折させる量が著しく大きくなってしまう。この結果、fθ特性や像面湾曲及びその他の各収差を補正しきれない、または、母線の形状が歪な形状となってしまうといった問題が発生する。
【0017】
また、特許文献2では、主走査断面内において、最も被走査面に近い結像レンズに入射する光束と光軸とのなす角度θ2と、結像レンズから出射する光束と光軸とのなす角度θ3とする。このとき、レンズの全領域において、θ2>θ3となるようにレンズの母線形状を設定している(図17参照)。
【0018】
しかし、結像レンズの最終面から被走査面までの間隔(光路長)は、偏向手段から被走査面までの光路長の中で最も広い間隔である。このため、θ2>θ3となるように設定すると、同じ走査画角でも偏向反射される光束の被走査面7上での到達位置を光軸から遠ざける効果が十分得られないため、光路長を短くできない問題が起る。
【0019】
そこで、本発明はfθ特性や像面湾曲及びその他の各収差を良好に補正することができるコンパクトな光走査装置及びそれを用いた画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1の発明の光走査装置は、光源手段と、前記光源手段から出射された光束を偏向手段に導光する入射光学系と、前記偏向手段の偏向面で偏向された光束を被走査面上に結像させる結像光学素子を含む結像光学系とを有する光走査装置において、
前記偏向手段の偏向面から前記被走査面までの前記結像光学系の光軸方向の間隔をL(mm)、前記偏向手段の偏向面から自然収束点までの間隔をSd(mm)とするとき、
0.3<Sd/L<1
なる条件を満足し、且つ、
有限な走査画角をθa(rad)、有効走査領域における最大走査画角をθmax(rad)、fθ係数をK(mm/rad)、任意の走査画角をθ(rad)とするとき、
|L×tanθa|=|K×θa| (0<|θa|<|θmax|)
0.3<|θa|/|θmax|<0.7
なる条件を満足し、かつ、
0<|θ|<|θa|の走査画角領域において、
|L×tanθ|<|K×θ|
|θa|<|θ|≦|θmax|の走査画角領域において、
|L×tanθ|>|K×θ|
なる条件を満たす走査画角θaが存在することを特徴としている。
【0021】
請求項2の発明は請求項1の発明において、前記偏向手段の偏向面から前記被走査面までの前記結像光学系の光軸方向の間隔をL(mm)、前記被走査面上の有効走査幅をW(mm)とするとき、
0.85≦W/2L
なる条件を満足することを特徴としている。
【0022】
請求項3の発明は請求項1又は2の発明において、L≦125(mm)なる条件を満足することを特徴としている。
【0023】
請求項4の発明は請求項1乃至3のいずれか1項の発明において、前記最大走査画角は、30(deg)以上であることを特徴としている。
【0024】
請求項5の発明は請求項1乃至4のいずれか1項の発明において、主走査断面内において、前記結像光学系の全系の軸上のパワーは、負であることを特徴としている。
【0025】
請求項6の発明は請求項1乃至5のいずれか1項の発明において、前記結像光学素子は、前記結像光学系の中で最も前記被走査面に近い光学素子であり、主走査断面内において、前記結像光学素子の軸上のパワーは、負であることを特徴としている。
【0026】
請求項7の発明は請求項1乃至6のいずれか1項の発明において、全有効走査画角において、前記結像光学系の全系の主走査断面内のパワーは、負であることを特徴としている。
【0027】
請求項8の発明は請求項1乃至7のいずれか1項の発明において、前記結像光学系の中で最も被走査面に近い結像光学素子の被走査面側の面と前記被走査面との前記光軸方向の間隔は、前記偏向手段から前記被走査面までの間に配置されている各光学素子の各面の前記光軸方向の間隔の中で最も広いことを特徴としている。
【0028】
請求項9の発明は請求項1乃至8のいずれか1項の発明において、主走査断面内において、前記結像光学素子の肉厚は、前記結像光学素子の光軸から軸外に向かうに連れて増加し、その後、減少していくことを特徴としている。
【0029】
請求項10の発明は請求項1乃至9のいずれか1項の発明において、前記結像光学系を構成する全ての結像光学素子は、主走査断面内において軸上のパワーが負であることを特徴としている。
【0030】
請求項11の発明は請求項1乃至10のいずれか1項の発明において、前記結像光学素子の偏向手段側の光学面の主走査方向の形状は、前記結像光学素子の中心から両端部へかけて凸形状から凹形状へ反転することを特徴としている。
【0031】
請求項12の発明は請求項1乃至11のいずれか1項の発明において、前記結像光学素子の被走査面側の光学面の主走査方向の形状は、前記結像光学素子の中心から両端部へかけて凹形状から凸形状へ反転することを特徴としている。
【0032】
請求項13の発明は請求項11又は12の発明において、前記結像光学素子の入射面及び射出面は、主走査断面内において、有効走査領域端部での面位置が前記結像光学素子の面頂点の位置よりも前記偏向手段に近づく形状であることを特徴としている。
【0033】
請求項14の発明は請求項13の発明において、前記結像光学素子は、主走査断面内において、軸上の形状がメニスカス形状より成ることを特徴としている。
【0034】
請求項15の発明の画像形成装置は、請求項1乃至14の何れか一項に記載の光走査装置と、前記被走査面に配置された感光体と、前記光走査装置で走査された光ビームによって前記感光体に形成された静電潜像をトナー像として現像する現像器と、現像されたトナー像を被転写材に転写する転写器と、転写されたトナー像を被転写材に定着させる定着器とを有することを特徴としている。
【0035】
請求項16の発明の画像形成装置は、請求項1乃至14の何れか一項に記載の光走査装置と、外部機器から入力したコードデータを画像信号に変換して前記光走査装置に入力せしめるプリンタコントローラとを有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、fθ特性や像面湾曲及びその他の各収差を良好に補正することができ、これにより高精細で高画質な画像を得ることができるコンパクトな光走査装置及びそれを用いた画像形成装置を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例1の光走査装置の主走査断面図
【図2】本発明の実施例1のθ1、θ2、θ3の説明図
【図3】従来の光走査装置のθ1とθ3の関係を表すグラフ
【図4】本発明の実施例1のθ1とθ3の相関を表すグラフ
【図5】本発明の実施例1のθ2とθ3の相関を表すグラフ
【図6】本発明の実施例1の最も被走査面に近いレンズの肉厚を示す図
【図7】本発明の実施例1のfθ性能を示す図
【図8】本発明の実施例1の主走査方向の像面湾曲を示す図
【図9】本発明の実施例1の主走査方向の各収差を示す図
【図10】従来の光走査装置(特許文献1)の|K×θ|とL×tanθの相関を表すグラフ
【図11】従来の光走査装置(特許文献1)の|K×θ|とL×tanθの関係を表す説明図
【図12】本発明の実施例1の|K×θ|とL×tanθの相関を表すグラフ
【図13】本発明の実施例1の|K×θ|とL×tanθの関係を表す説明図
【図14】本発明の実施例1の主走査方向の部分倍率を示すグラフ
【図15】本発明の画像形成装置の実施例を示す副走査断面図
【図16】本発明の実施例のカラー画像形成装置の要部概略図
【図17】従来の光走査装置(特許文献2)のθ2とθ3の相関を表すグラフ
【図18】従来の光走査装置(特許文献2)の|K×θ|とL×tanθの相関を表すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【0039】
図1は本発明の実施例1の主走査方向の要部断面図(主走査断面図)である。
【0040】
以下の説明において、主走査方向とは偏向手段の回転軸(または揺動軸)及び結像光学系の光軸に垂直な方向(偏向手段で光束が反射偏向(偏向走査)される方向)である。副走査方向とは偏向手段の回転軸(または揺動軸)と平行な方向である。また、主走査断面とは主走査方向と結像光学系の光軸を含む平面である。また、副走査断面とは主走査断面と垂直な断面である。
【0041】
図中、1は光源手段であり、単一の発光部(発光点)を有する半導体レーザより成っている。
【0042】
本実施例では、シングルビーム半導体レーザを用いているが、本発明では、2本以上の光束を発光するマルチビーム半導体レーザでも良い。
【0043】
3はアパーチャー(開口絞り)であり、光源手段1から出射された1本の光束を所望の最適なビーム形状に形成している。
【0044】
光束の波長λは、780nm(赤外レーザ)である。
【0045】
2はアナモフィックレンズであり、主走査方向(主走査断面内)及び副走査方向(副走査断面内)にそれぞれ異なるパワーを有している。
【0046】
アナモフィックレンズ2の第1面(光入射面)2aは凸状の球面より成り、光源手段1からの発散光束を平行光束に変換している。
【0047】
また、アナモフィックレンズ2の第2面(光射出面)2bは主走査方向及び副走査方向にそれぞれ異なるパワーを有するアナモフィック面より成っている。
【0048】
本実施例においてはアナモフィックレンズ2の第2面2bにより主走査方向においては第1面2aからの平行光束を後述する光偏向器4の偏向面(反射面)5より59.4mm離れた位置に結像する収束光束に変換している。
【0049】
また、アナモフィックレンズ2の第2面2bにより副走査方向においては第1面2aからの平行光束を光偏向器4の偏向面5で結像する収束光束に変換している。
【0050】
このようにしてアナモフィックレンズ2は光源手段1から出射された光束を光偏向器4の偏向面5上で主走査方向に長手の線像として結像させている。
【0051】
本実施例では、光偏向器の偏向面に入射する光束の主走査方向の幅は、偏向面の主走査方向の幅より小さいアンダーフイルド光学系である。
【0052】
尚、アナモフィックレンズ2は入射光学系LAの一要素を構成している。
【0053】
4は偏向手段としての光偏向器であり、例えば、ある範囲内において等角速度で揺動するガルバノミラーより成り、図中矢印A方向に一定の速度で揺動している。
【0054】
LBは集光機能とfθ特性とを有する結像光学系であり、第1、第2の結像レンズ(結像光学素子)6a、6bより成り、第1、第2の結像レンズ6a、6bの夫々は、主走査方向のパワーが軸上において負である。また、第1、第2の結像レンズ6a、6bの夫々は、副走査方向のパワーが軸上において正のパワーである。
【0055】
本実施例における結像光学系LBは光偏向器4によって反射偏向された画像情報に基づく光束を主走査断面内において被走査面としての感光ドラム面7上にスポットに結像させている。
【0056】
さらに、結像光学系LBは副走査断面内において光偏向器4の偏向面5と感光ドラム面7との間を光学的に共役関係にすることにより、偏向面の面倒れ補償を行っている。
【0057】
7は被走査面としての感光ドラム面(記録媒体面)である。
【0058】
本実施例において画像情報に応じて半導体レーザ1から光変調され出射した光束は開口絞り3を通過し(一部遮光される)、アナモフィックレンズ2に入射し、アナモフィックレンズ2の第1面2aにより主走査断面内及び副走査断面内に収束光束に変換される。
【0059】
アナモフィックレンズ2の第1面2aからの光束は、主走査断面内において収束光束として光偏向器4の偏向面5へ入射し、光偏向器4の偏向面5上で主走査方向に長手の線像として結像する。
【0060】
光偏向器4の偏向面5で一部反射偏向された光束は、結像光学系LBにより感光ドラム面7上へ導光される。そして光偏向器4を矢印A方向に揺動(回動)させることによって、該感光ドラム面7上を矢印B方向(主走査方向)に光走査して画像情報の記録を行っている。
【0061】
近年、光走査装置を用いた画像形成装置において、該画像形成装置本体を小型化するために光走査装置のコンパクト化が求められている。
【0062】
特に、結像光学系に折り返しミラーを配設しない簡易な機種の場合は、光束を走査する幅に対して光偏向器から被走査面までの距離を短くすれば、例えば、定着装置等よりも光走査装置が外に飛び出してしまう部分がなくなる。このためコンパクトな画像形成装置を実現できる。
【0063】
本実施例における光走査装置は、光偏向器4の偏向面5から被走査面7までの間隔(光路長)をL(mm)、被走査面7上の有効走査幅をW(mm)とするとき、
0.85≦W/2L ‥‥(1)
なる条件を満足するコンパクトで小型の光走査装置である。
【0064】
因みに本実施例においては
W=214(mm)、L=100(mm)
であり、これは
W/2L=1.07
となり、条件式(1)を満足している。
【0065】
従来の光走査装置においては、光偏向器への入射光束を主走査方向に平行光束、あるいは弱収束光束に設定しているため、結像光学系の主走査方向に対するパワーは、全有効走査領域において正である。
【0066】
このため、全走査画角において、光偏向器によって偏向反射された光束は結像光学系によって光軸に近づく方向に屈折させられる。
【0067】
図2は任意の走査画角θ1の光束が結像光学系LBの一部を通過する様子を示した主走査方向の要部断面図(主走査断面図)である。
【0068】
図2中の走査画角θ1は言い換えれば、光偏向器4から偏向反射され結像光学系LBへ入射する光束の主光線と結像光学系LBの光軸Cとの成す角度(deg)である。θ2は最も被走査面7側の結像レンズ6bに入射する光束の主光線と結像光学系LBの光軸Cとの成す角度(deg)である。θ3は結像光学系LBから射出されて被走査面7へ入射する光束の主光線と結像光学系LBの光軸Cとの成す角度(deg)である。
【0069】
図3は従来の光走査装置における任意の走査画角θ1(deg)に対する結像光学系から射出されて被走査面へ到達する光束の主光線と結像光学系の光軸との成す角度θ3(deg)の値を示したグラフである。
【0070】
図3から分かるように従来の光走査装置では、走査画角θ1が0のときθ1=θ3=0となり、それ以外の走査画角θ1においてはθ3<θ1となり、走査画角θ1が大きくなるに従って、θ3<<θ1となり、走査画角θ1と角度θ3の差は著しく大きくなる。
【0071】
従来の光走査装置は図3に示すように全走査画角に渡って結像光学系に入射する光束を光軸に近づく方向に屈折させている。このため、主走査方向の像面湾曲及びfθ特性を良好に保ちつつ光束を所望の幅を走査させ、且つ、偏向面から被走査面までの距離(間隔)を短くするのには限界があった。
【0072】
そこで本実施例においては、偏向面5から被走査面7までの光軸方向の距離を短く、かつ光束の走査画角を広げずに偏向面5から被走査面7までの距離を短くなるように設定するため、以下の方法を採っている。
【0073】
即ち、本実施例では有効走査画角領域内(全有効走査画角内)に結像光学系LBに入射する光束を光軸から離れる方向に屈折させる走査画角領域が存在するように設定している。
【0074】
図4は本実施例における任意の走査画角θ1(deg)に対する結像光学系から射出されて被走査面へ到達する光束の主光線と結像光学系の光軸との成す角度θ3(deg)の値を示したグラフである。
【0075】
図4から分かるように本実施例においては、走査画角θ1を0deg<θ1<34.7degの走査画角領域(全有効走査画角)において、θ1<θ3となる走査画角領域が存在するように結像光学系LBを設定している。
【0076】
具体的には、結像レンズの軸上近傍で結像光学系LBに入射する光束を光軸から離す方向に屈折させるために該結像光学系LBの全系の軸上のパワーを負に設定している。
【0077】
また、本実施例における入射光学系LAは自然収束点が被走査面7と光偏向器4との間に存在するように設定し、かつ、結像光学系LBの全系の軸上のパワーを負に設定することによって主走査断面内において被走査面7上で結像させている。
【0078】
本実施例においては、結像光学系LBの全系の軸上の焦点距離をfLBとするとき、
LB=−27.29mm
に設定している。
【0079】
尚、自然収束点とは主走査断面内において、結像光学系の無い場合に偏向面へ入射する光束が結像する位置である。
【0080】
また、本実施例においては光偏向器5の偏向面4から被走査面7までの光軸方向の間隔をL(mm)、該光偏向器5の偏向面4から自然収束点までの光軸方向の間隔をSd(mm)とするとき、
0.3<Sd/L<1 ‥‥(6)
なる条件を満足するように各要素を設定している。
【0081】
条件式(6)は光偏向器5の偏向面4から自然収束点までの間隔Sdと光偏向器5の偏向面4から被走査面7までの間隔Lとの比に関するものである。
【0082】
条件式(6)の上限値を越えると主走査断面内において結像光学系LBのパワーを負に設定できず、所望の光線を光軸から離れる方向に屈折させる効果が得られなくなってくるので良くない。条件式(6)の下限値を越えると結像レンズの負のパワーが強すぎて主走査方向の形状(母線形状)が歪な形になってしまい、成型または加工が困難になってしまうので良くない。
【0083】
ここで参考までに従来の光走査装置は
1<Sd/L
である。
【0084】
本実施例においては、
Sd=59.4(mm)、L=100(mm)
と設定している。従って上記条件式(6)は
Sd/L=0.59
となり、これは条件式(6)を満足している。即ち、本実施例では光偏向器5に入射する光束が強い収束度となるように入射光学系LAを設定している。
【0085】
このように本実施例では上記の如く条件式(6)を満たすように入射光学系LAを設定すれば、所望の光束を光軸から離れる方向に屈折させる効果を得ることができる。
【0086】
さらに、結像レンズの母線形状が緩やかな曲線となるため、光路長が短く、かつ良好なるfθ特性を有する光走査装置を実現できる。
【0087】
尚、さらに好ましくは上記条件式(6)を次の如く設定するのが良い。
【0088】
0.40<Sd/L<0.90 ‥‥(6a)
本実施例では、主走査断面内において、被走査面上の有効走査幅を広げるために結像光学系LBに入射した光束を光軸から離れる方向に屈折させている。
【0089】
しかしながら、この屈折させる角度が大きい、または屈折させる角度が結像レンズの主走査方向に対して極端に変化していると、コマ収差が発生し、被走査面7での結像性能が悪化してしまうという問題点が生じる。
【0090】
そこで、本実施例においては、できる限り屈折させる量を低減し、効果的に光束を光軸から離れる方向に屈折させるために以下のように設定している。
【0091】
即ち、主走査断面内であって、有限の走査画角θ1(deg)において、最も被走査面7に近い第2の結像レンズ(結像光学素子LR)6bに入射する光束の主光線と結像光学系LBの光軸との成す角度をθ2(deg)とする。
【0092】
また、最も被走査面7に近い第2の結像レンズ6bから出射された光束の主光線と結像光学系LBの光軸との成す角度をθ3(deg)とする。
【0093】
このとき、本実施例では、全有効走査画角内のうち軸上から中間像高において、θ2<θ3となる走査画角領域が存在するように第2の結像レンズ6bの母線形状を設定している。
【0094】
図5は、本実施例の任意の走査画角θ1に対する角度θ2、θ3を表したグラフである。
【0095】
図5から分かるように、本実施例においては、走査画角θ1が0deg<θ1<34.7degの走査画角領域ではθ2<θ3となるように設定している。
【0096】
また、走査画角θ1=35.9degではθ2=θ3となるように設定している。
【0097】
また、走査画角θ1が35.9deg<θ1<θmax(=56deg)の走査画角領域ではθ3<θ2となるように設定している。
【0098】
つまり、走査画角θ1が35.9deg<θ1<θmax(=56deg)の走査画角領域では、θ3<θ1且つθ3<θ2となるように設定している。
【0099】
このように、本実施例においては、主走査断面内において軸上付近の像高で最も被走査
面7に近い第2の結像レンズ6bに入射した光束を光軸から離れる方向に屈折させるために、該第2の結像レンズ6bの軸上のパワーを負に設定している。
【0100】
本実施例では、第2の結像レンズ6bの軸上の焦点距離をf6bとするとき、
6b=−60.87mm
に設定している。
【0101】
ここで、θ2<θ3と設定すると効果的に光束を光軸から離れる方向に屈折させることができる理由を以下に示す。
【0102】
本実施例においては、W/2L=1.07と走査幅に対して非常に短い光路長で、fθ性能及び主走査方向の像面湾曲を良好に補正している。そのために結像光学系LBのバックフォーカス(Sk=70.0mm)を、該結像光学系LBの光路長(L=100mm)中で最も長い間隔になるように設定している。
【0103】
即ち、結像光学系LBの中で最も被走査面7に近い結像レンズ6bの被走査面7側の面と該被走査面7との光軸方向の間隔を、偏向面5から被走査面7までの間に配置されている各光学素子の各面の光軸方向の間隔の中で最も広くなるように構成している。
【0104】
このため、角度θ2を大きくするよりも、角度θ3を大きくした方が、偏向反射される光束の被走査面7上での到達位置をより多く光軸から遠ざけることができる。
【0105】
また、光走査装置においては、fθ性能を出しやすい。
【0106】
図4、図5では、走査角度θ1がプラスの走査画角領域を例にとる(主走査断面内において光軸を基準として反時計周りをプラス方向)。本実施例の特徴である走査画角θ1が大きくなるに従い、走査画角領域がθ1<θ3かつθ2<θ3を満たす領域からθ1>θ3かつθ2>θ3を満たす領域に変化している構成を説明した。
【0107】
走査角度θ1がマイナスの走査画角領域の場合(主走査断面内において光軸を基準として時計周りに回転)、本実施例の特徴は次のとおりである。走査画角の絶対値|θ1|が大きくなるに従い、走査画角領域が|θ1|<|θ3|かつ|θ2|<|θ3|を満たす領域から|θ1|>|θ3|かつ|θ2|>|θ3|を満たす領域に変化している構成をとることとなる。
【0108】
つまり、走査角度θ1がマイナスの走査画角領域においても、第2の結像レンズ6bの軸上付近に入射した光束に対しては、光軸から離れる方向に屈折させるクサビプリズムと同様の効果を与えている。
【0109】
また、第2の結像レンズ6bの有効部端部付近に入射した光束に対しては、光軸に近づく方向に屈折させるクサビプリズムと同様の効果を与えている。
【0110】
また、結像光学系の結像レンズの主走査方向の有効幅を狭くして結像レンズの成型コストを下げたいなどの理由から、該結像レンズを光偏向器に近い位置に配置する傾向がある。
【0111】
ごく一部の場合を除いては、結像光学系の最終面から被走査面までの光軸方向の間隔が、偏向面から被走査面までの光路中で最も長い面間隔となるように設定されている。
【0112】
そのため、光走査装置において、全走査画角の中でθ1<θ3且つθ2<θ3となる走査画角領域が存在するように結像光学系LBのレンズ形状を設定すれば、光路長が短く、かつコマ収差を良好に補正することができる。
【0113】
次に、第2の結像レンズ6bへの入射光束の角度θ2、射出光束の角度θ3を走査画角θ1が0から徐々に大きくなるに連れ、θ2<θ3、θ2=θ3、θ2>θ3と変化させる為に結像レンズの肉厚及び母線形状を具体的にどのように設定しているか述べる。
【0114】
図6は本実施例において最も被走査面7に近い第2の結像レンズ6bの主走査方向の位置に対する肉厚を示したグラフである。
【0115】
図6から分かるように第2の結像レンズ6bの肉厚は、軸上(レンズの中心部)からレンズの有効部端部(軸外)に向かうに連れて、徐々に増加し、その後徐々に減少していくように設定されている。
【0116】
これにより、第2の結像レンズ6bの軸上付近に入射した光束に対しては、光軸から離れる方向に屈折させるクサビプリズムと同様の効果を与えている。
【0117】
また、第2の結像レンズ6bの有効部端部付近に入射した光束に対しては、光軸に近づく方向に屈折させるクサビプリズムと同様の効果を与えている。
【0118】
また、本実施例では主走査断面内において、第2の結像レンズ6bの光偏向器5側(偏向手段側)のレンズ面の母線形状をレンズの光軸(結像光学系の光軸)から両端部へかけて凸形状から凹形状へ反転するように設定している。
【0119】
また、第2の結像レンズ6bの被走査面7側(被走査面側)のレンズ面(光学面)の母線形状をレンズの光軸(レンズの中心部)から両端部へかけて凹状から凸状へ反転するように設定している。
【0120】
また、主走査方向の主点位置を軸上では光偏向器5の偏向面4に近づけ、レンズの端部では被走査面7側へ近づけるよう設定している。
【0121】
これらより、本実施例では、全像高で主走査方向の部分倍率を均一に補正する効果を得ている。
【0122】
図7は、本実施例における主走査方向の部分倍率dY/dθの均一性を示したグラフである。
【0123】
図7より部分倍率dY/dθの最大値と部分倍率dY/dθの最小値の差分は1.5%となり、画像に影響が出ないレベルにまで抑えられていることが分かる。
【0124】
また、本実施例においては、第2の結像レンズ6bの光偏向器5側のレンズ面と被走査面7側のレンズ面の母線形状を共に主走査方向の有効部両端(有効走査領域端部)での面位置がレンズの光軸上の面頂点の位置よりも光偏向器5に近づく形状としている。
【0125】
これにより、レンズの主走査方向の幅を狭くでき、かつfθ特性、主走査方向のコマ収差、像面湾曲等を良好に補正している。
【0126】
このように、本実施例では、第2の結像レンズ6bをレンズ全体としてメニスカス形状にする場合、軸上の曲率半径、言い換えれば母線形状のベースとなる円弧形状も凹凸形状にしてしまうと、レンズ全体として曲率の非常にきついメニスカス形状になってしまう。
【0127】
そこで本実施例においては、主走査断面内において、第2の結像レンズ6bの軸上の形状をメニスカス形状(凸凹形状)とする。これにより第2の結像レンズ6bをレンズ全体として曲率の緩いメニスカス形状で構成し、第2の結像レンズ6bの成型を容易にしている。
【0128】
本実施例においては、第2の結像レンズ6bの肉厚、各レンズ面の母線形状をこのように設定することによって、走査画角θ1=0から徐々にθ1が大きくなるに連れ、θ2<θ3、θ2=θ3、θ2>θ3と変化させることができる。
【0129】
これにより、コマ収差、像面湾曲、そして部分倍率の均一性を良好に補正でき、かつ走査画角が広く、光路長が短い光走査装置を得ることができる。
【0130】
図8は本実施例のfθ特性を示したグラフである。図8において横軸は像高、縦軸は光走査装置としての理想像高に対する実際の像高とのずれ量ΔdYである。
【0131】
図8から分かるように理想像高に対する実際の像高とのずれ量ΔdYは最大でも0.09mmと十分良好にfθ特性が得られている。
【0132】
図9は、本実施例の主走査方向の各収差のグラフである。図9において横軸は像高、縦軸は各像高での主走査方向に関する各収差である。
【0133】
図9から分かるようにコマ収差は最大で0.19λ、主走査方向の波面収差は最大で0.03λと、どちらも十分良好に補正されている。
【0134】
ここで上記の如く光偏向器4の偏向面5から被走査面7までの間隔(光路長)をL(mm)とする。
【0135】
このとき主走査断面内において結像光学系が無い場合に走査画角θ(rad)の光束の主光線が被走査面7上に到達する主走査方向に対する位置から走査画角θ=0(rad)の光束の主光線が到達する位置までの間隔は|L×tan(θ)|(mm)と表せる。
【0136】
さらに、結像光学系LBのfθ係数をK(mm/rad)とする。
【0137】
fθ係数の定義を示す。偏向手段により偏向反射された光線の角度が1rad変化したときに、被走査面において、光線の到達する位置が走査方向に沿ってKmm変化することを意味する。
【0138】
このとき、主走査断面内において走査画角θ(rad)の光束の主光線が結像光学系を通過したときに光束の主光線が被走査面上に到達する位置から走査画角θ=0(rad)の光束の主光線が到達する位置までの間隔は|K×θ|(mm)と表せる。
【0139】
図10は、特許文献1(従来)の光走査装置における任意の走査画角θに対する|L×tan(θ)|、|K×θ|のそれぞれの関係を示したグラフである。
【0140】
図11は、特許文献1(従来)の光走査装置における任意の走査画角θに対する|L×tan(θ)|、|K×θ|のそれぞれの関係を分かりやすく説明するための主走査断面図である。
【0141】
尚、図11中では説明を明確にするために結像光学系を一枚の結像レンズで表し、任意の走査画角θの光束を光線として表している。
【0142】
図10、図11から分かるように、従来の光走査装置においてはK<Lであるため、θ=0のとき、|L×tan(θ)|=|K×θ|となり、走査画角θが大きくなると共に|L×tan(θ)|−|K×θ|の値が2次曲線的に増加する。
【0143】
即ち、任意の走査画角θにおいて所望のfθ特性を得る為に必要な光束を屈折させて被走査面7上での到達位置を光軸に近づけなければならない量は、走査画角θ=0(光軸と一致)のとき0であり、走査画角θが大きくなるに従って2次曲線的に増加する。
【0144】
よって、従来の光走査装置では、間隔(光路長)Lを短縮するために走査画角θを広くすると、該走査画角θが大きい走査画角領域において、光束を屈折させなければならない量が著しく大きくなってしまう。
【0145】
また、走査画角θが大きくなるに従って、屈折させなければならない量は急激に変化してしまう。
【0146】
このような理由から、従来の光走査装置では、上記条件式(1)である0.85≦W/2Lを満足するような非常に光路長の短い光学系においては、fθ特性や像面湾曲及びその他の各収差を補正しきれないといった問題点が発生する。
【0147】
そこで本実施例においては、条件式(1)を満足する光走査装置において、有限な走査画角をθa(rad)、有効走査領域における最大走査画角をθmax(rad)、fθ係数をK(mm/rad)とする。このとき、
|L×tanθa|=|K×θa| (0<|θa|<|θmax|) ‥‥(2)
なる条件を満たす走査画角θaが存在するように各要素θmax、L、Kを設定している。
【0148】
すなわち、本実施例においては、
θmax=56deg、L=100mm、K=109.5mm、
であり、
θa=28.9(deg)≒0.52×θmax(deg)
となる。
【0149】
図12は、本実施例における任意の走査画角θに対する|L×tan(θ)|、|K×θ|のそれぞれの関係を示したグラフである。
【0150】
図13は、本実施例における任意の走査画角θに対する|L×tan(θ)|、|K×θ|のそれぞれの関係を分かりやすく説明するための主走査方向の要部断面図(主走査断面図)である。
【0151】
図13から分かる様に本実施例においては走査画角θaで光束を屈折させない状態で被走査面7に到達させる。そして走査画角θaより小さい走査画角領域では光束を光軸から離れる方向に屈折させ、走査画角θaより大きい走査画角領域では光束を光軸に近づける方向に屈折させている。
【0152】
ここで、図12によって、|L×tan(θ)|と|K×θ|、θaの関係に置き換えて説明する。
【0153】
図12から分かるように、本実施例においては、最大走査画角θmaxの5割の走査画角θa(0.52×θmax(deg))で|L×tan(θ)|=|K×θ|となる。
【0154】
また、軸上(θ=0deg)で|L×tan(θ)|と|K×θ|は共に0となる。
【0155】
また、軸上から走査画角θa(0.52×θmax(deg))にかけては、L<Kとなるように設定していることにより|L×tan(θ)|<|K×θ|となる。
【0156】
また、走査画角θaから最大走査画角θmaxにかけては|K×θ|<|L×tan(θ)|となる。
【0157】
すなわち、本実施例では、0<|θ|<|θa|の走査画角領域において、
|L×tanθ|<|K×θ| ‥‥(4)
となるように設定している。
【0158】
また|θa|<|θ|≦|θmax|の走査画角領域において、
|L×tanθ|>|K×θ| ‥‥(5)
となるように設定している。
【0159】
これにより、走査画角θaが大きい走査画角領域において光束を屈折させなければならない量又その変化量を低減できる。この為W/2d=1.07と非常に光路長が短く、走査画角θaが広い光走査装置においてもfθ特性や像面湾曲及びその他の各収差を補正することができる。
【0160】
但し、走査画角θaが0.7×θmaxよりも大きくなると軸上付近で光軸から離れる方向に屈折させなければならない量が著しく大きくなってしまい、結像光学系LBのレンズの母線形状の曲率が著しくきつい凹面になってしまう為、成型又は加工が困難である。
【0161】
また、走査画角θaが0.3×θmaxよりも小さくなると最大走査画角付近で光軸に近づく方向に屈折させなければならない量が著しく大きくなってしまう。そして、結像光学系LBのレンズの母線形状の曲率が著しくきつい凹面になってしまう為、成型又は加工が困難となる。
【0162】
そこで本実施例では
0.3<|θa|/|θmax|<0.7 ‥‥(3)
なる条件を満足するように各要素を設定している。
【0163】
上記条件式(3)を満たすように設定すれば、結像レンズを成型または加工が容易な母線形状のレンズ面で構成でき、十分に本発明の効果が得られる。これによりコンパクトで、かつfθ特性が良好なる光走査装置を得ることができる。
【0164】
さらに望ましくは走査画角θaを最大走査画角θmaxの5割程度の走査画角に設定するのが良い。即ち、上記条件式(3)を次の如く設定するのが良い。
【0165】
0.4<|θa| /|θmax|<0.6 ‥‥(3a)
条件式(3a)を満たすように設定すれば、光軸方向に近づけるよう屈折させる走査画角領域と光軸から遠ざかるよう屈折させる走査画角領域が同程度となる。
【0166】
この結果、光軸方向に近づけるよう屈折させる量の最大値と光軸から遠ざかるよう屈折させる量の最大値を共に低減することができる。
【0167】
これにより結像光学系LBのレンズの母線形状を、より緩やかで成型しやすく、fθ特性をより完全に補正できる。
【0168】
本実施例においては、主走査断面内において光路長を短くするために自然収束点を被走査面7よりも40.6mm光偏向器5に近い位置となるように入射光学系LAを設定している。
【0169】
このような光束を全走査画角において被走査面7上で結像させるために、本実施例では、軸上における結像光学系LBの全系の主走査断面内のパワーを負に設定している。
【0170】
図14は本実施例の主走査方向の像面湾曲を示したグラフである。図14において横軸は像高、縦軸は各像高での主走査方向の像面dMである。
【0171】
図14から分かるように本実施例では、主走査方向の最大の像面湾曲量と最小の像面湾曲量の差分1.0mmとなり、画像に問題無いレベルにまで十分良好に補正されている。
【0172】
ここで主走査断面内における第1の結像レンズ6aの軸上の焦点距離、第2の結像レンズ6bの軸上の焦点距離、結像光学系LBの全系の軸上の焦点距離をそれぞれ順に、fLB、f6a、f6bとする。このとき本実施例においては、
6a=−67.83mm、f6b=−60.87mm、fLB=−27.29mm
と設定している。
【0173】
即ち、本実施例においては、軸上での結像光学系LBの全系の主走査断面内のパワーを負としており、また、軸上での結像光学系LBを主走査方向に対して負のパワーを有する2枚の結像レンズ6a、6bで構成している。
【0174】
これにより、本実施例においては、結像レンズの軸上のパワーを一枚は正で、もう一枚は負で構成した場合よりも各々の曲率半径を緩くでき、成型しやすい素直な母線形状で構成している。
【0175】
ただし、主走査断面内において十分に結像レンズの軸上の曲率半径を緩く設定できる場合は、結像光学系LBの2枚の結像レンズ6a、6bをどちらも負のパワーに設定しなくてもよい。
【0176】
また、本実施例においては上記の如くW/2L比をこのように大きく設定した構成で、各光学性能を実現する為に最大有効走査画角θmaxをθmax=56(deg)と広く設定した。しかしこれに限らず、30(deg)以上であれば本発明の効果は十分に得られる。
【0177】
また、本実施例においては、上記の如く光路長をL=100(mm)と非常に短く設定したが、これに限らず、
L≦125(mm)
なる条件を満足すれば、本発明の効果は十分に得られる。
【0178】
また、本実施例においては、結像光学系LBを2枚の結像レンズで構成したが、これに限らず、3枚以上の結像レンズ、もしくは1枚の結像レンズで構成してもよい。
【0179】
3枚以上の結像レンズで構成した場合は、第1の結像レンズ6aを該第1の結像レンズ6aの焦点距離と同等の合成焦点距離となる2枚の結像レンズに置き換えればよい。
【0180】
また、1枚の結像レンズで構成した場合は、第1、第2の結像レンズ6a、6bを該第1、第2の結像レンズ6a、6bの合成焦点距離との同等の焦点距離を有する一枚の結像レンズに置き換えればよい。
【0181】
このように結像光学系LBを3枚以上の結像レンズ、もしくは1枚の結像レンズで構成しても本発明の効果を十分に得ることができる。
【0182】
これにより光路長が短く、fθ性能が十分良好なる光走査装置を得ることができる。
【0183】
また、本実施例においては、結像レンズの副走査断面内における形状については述べていないが、被走査面上での副走査方向の像面湾曲、副走査倍率の均一性、走査線湾曲等の結像光学系として必要な光学性能を満たしていれば、どのような形状であってもよい。
【0184】
また、本実施例においては、上記の如く光路長を短縮する為に光偏向器に入射する光束の主走査方向の収束度を高く設定している。このため偏向面の出入りによって収束ジッター(偏向面の出入り量による被走査面上での照射位置の主走査方向のずれ)が大きくなっている。
【0185】
そこで、本実施例では、収束ジッターを低減するために偏向面4の出入り量の少ない揺動タイプの光偏向器(ガルバノミラー)を用いている。
【0186】
ガルバノミラーは、ガルバノメータの原理を利用したものであり、以下、この原理について簡単に説明する。
【0187】
磁界中に配置した可動コイルに電流を流すと、電流と磁束とに関連して電磁力が発生して電流に比例した回転力(トルク)が生じる。
【0188】
このトルクとバネ力とが平衡する角度まで可動コイルが回動し、この可動コイルを介して指針を振らせて電流の有無や大小を検出するというのが、ガルバノメータの原理である。
【0189】
そこで、ガルバノミラーでは、このガルバノメータの原理を利用して、可動コイルと一体に回転する軸に、前記指針の代わりに反射鏡を設けて構成したものである。
【0190】
尚、揺動タイプの光偏向器に限らず、本発明では、回転多面鏡(ポリゴンミラー)を光偏向器として使用してもよい。回転多面鏡(ポリゴンミラー)は、回転軸を中心として等角速度で回転する性能を有する。
【0191】
回転多面鏡(ポリゴンミラー)は、ガルバノミラーに比べて、偏向面の数を多く出来るメリットある。
【0192】
但し、ガルバノミラーと同じく、回転多面鏡(ポリゴンミラー)でも偏向面の出入りによって収束ジッター(偏向面の出入り量による被走査面上での照射位置の主走査方向のずれ)が発生する。
【0193】
また、本実施例においては入射光学系LAをコンパクトで、且つ簡易に構成するためにアナモフィックレンズ2のみで構成したが、これに限ることはない。例えば上記条件式(6)を満たすように入射光学系LAを設定すれば、該入射光学系LAをどのようなパワー配置で構成するかに依らず、本発明の効果を得ることができる。
【0194】
例えば、入射光学系LAを光源手段1側からコリメータレンズ、そして副走査方向にパワーを有するシリンダレンズの順で配置して構成しても良い。
【0195】
また、本実施例においては、主走査方向において結像レンズの母線形状を光軸を中心に左右対称形状としたが、これに限らず、例えば光軸を中心に左右非対称形状で形成しても良い。
【0196】
次に本実施例における光走査装置の光学系の構成を表1に示す。
【0197】
また、本実施例における結像光学系のr、d、nを表2に示す。
【0198】
また、本実施例における非球面形状を表3に示す。
【0199】
但し、非球面形状は以下の表現式で定義する。
【0200】
レンズの曲面と光軸との交点を原点とし、光軸方向をX軸、主走査面内において光軸と直交する軸をY軸、副走査面内において光軸と直交する軸をz軸とする。このときのX−Y平面と曲面の切断線を母線、それに直交する方向のX−Z平面と曲面の切断面を子線としたとき、母線の形状は以下の表現式で表わされる。
【0201】
【数1】

【0202】
(但し、Rは曲率半径、K、B、B、B6b8、B10、B12、B14、B16 は母線の非球面係数)
【0203】
【表1】

【0204】
【表2】

【0205】
【表3】

【0206】
【表4】

【0207】
【表5】

【0208】
[画像形成装置]
図15は、本発明の画像形成装置の実施例を示す副走査方向の要部断面図である。図において、符号104は画像形成装置を示す。この画像形成装置104には、パーソナルコンピュータ等の外部機器117からコードデータDcが入力する。このコードデータDcは、装置内のプリンタコントローラ111によって、画像データ(ドットデータ)Diに変換される。この画像データDiは、実施例1に示した構成を有する光走査ユニット100に入力される。そして、この光走査ユニット100からは、画像データDiに応じて変調された光ビーム103が出射され、この光ビーム103によって感光ドラム101の感光面が主走査方向に走査される。
【0209】
静電潜像担持体(感光体)たる感光ドラム101は、モータ115によって時計廻りに回転させられる。そして、この回転に伴って、感光ドラム101の感光面が光ビーム103に対して、主走査方向と直交する副走査方向に移動する。感光ドラム101の上方には、感光ドラム101の表面を一様に帯電せしめる帯電ローラ102が表面に当接するように設けられている。そして、帯電ローラ102によって帯電された感光ドラム101の表面に、前記光走査ユニット100によって走査される光ビーム103が照射されるようになっている。
【0210】
先に説明したように、光ビーム103は、画像データDiに基づいて変調されており、この光ビーム103を照射することによって感光ドラム101の表面に静電潜像を形成せしめる。この静電潜像は、上記光ビーム103の照射位置よりもさらに感光ドラム101の回転方向の下流側で感光ドラム101に当接するように配設された現像器107によってトナー像として現像される。
【0211】
現像器107によって現像されたトナー像は、感光ドラム101の下方で、感光ドラム101に対向するように配設された転写ローラ108によって被転写材たる用紙112上に転写される。用紙112は感光ドラム101の前方(図15において右側)の用紙カセット109内に収納されているが、手差しでも給紙が可能である。用紙カセット109端部には、給紙ローラ110が配設されており、用紙カセット109内の用紙112を搬送路へ送り込む。
【0212】
以上のようにして、未定着トナー像を転写された用紙112はさらに感光ドラム101後方(図15において左側)の定着器へと搬送される。定着器は内部に定着ヒータ(図示せず)を有する定着ローラ113とこの定着ローラ113に圧接するように配設された加圧ローラ114とで構成されている。そして転写部から搬送されてきた用紙112を定着ローラ113と加圧ローラ114の圧接部にて加圧しながら加熱することにより用紙112上の未定着トナー像を定着せしめる。更に定着ローラ113の後方には排紙ローラ116が配設されており、定着された用紙112を画像形成装置の外に排出せしめる。
【0213】
図15においては図示していないが、プリントコントローラ111は、先に説明したデータの変換だけでなく、モータ115を始め画像形成装置内の各部や、後述する光走査ユニット内のポリゴンモータなどの制御を行う。
【0214】
本発明で使用される画像形成装置の記録密度は、特に限定されない。しかし、記録密度が高くなればなるほど、高画質が求められることを考えると、1200dpi以上の画像形成装置において本発明の実施例1の構成はより効果を発揮する。
【0215】
[カラー画像形成装置]
図16は本発明の実施例のカラー画像形成装置の要部概略図である。本実施例は、光走査装置(光結像光学系)を4個並べ各々並行して像担持体である感光ドラム面上に画像情報を記録するタンデムタイプのカラー画像形成装置である。図10において、60はカラー画像形成装置、11,12,13,14は各々実施例1に示した構成を有する光走査装置、21,22,23,24は各々像担持体としての感光ドラム、31,32,33,34は各々現像器、51は搬送ベルトである。尚、図16においては現像器で現像されたトナー像を被転写材に転写する転写器(不図示)と、転写されたトナー像を被転写材に定着させる定着器(不図示)とを有している。
【0216】
図16において、カラー画像形成装置60には、パーソナルコンピュータ等の外部機器52からR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の各色信号が入力する。これらの色信号は、装置内のプリンタコントローラ53によって、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)、B(ブラック)の各画像データ(ドットデータ)に変換される。これらの画像データは、それぞれ光走査装置11,12,13,14に入力される。そして、これらの光走査装置からは、各画像データに応じて変調された光ビーム41,42,43,44が射出され、これらの光ビームによって感光ドラム21,22,23,24の感光面が主走査方向に走査される。
【0217】
本実施例におけるカラー画像形成装置は光走査装置(11,12,13,14)を4個並べ、各々がC(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)、B(ブラック)の各色に対応している。そして各々平行して複数の感光ドラム21,22,23,24面上に画像信号(画像情報)を記録し、カラー画像を高速に印字するものである。
【0218】
本実施例におけるカラー画像形成装置は上述の如く4つの光走査装置11,12,13,14により各々の画像データに基づいた光ビームを用いて各色の潜像を各々対応する感光ドラム21,22,23,24面上に形成している。その後、記録材に多重転写して1枚のフルカラー画像を形成している。
【0219】
前記外部機器52としては、例えばCCDセンサを備えたカラー画像読取装置が用いられても良い。この場合には、このカラー画像読取装置と、カラー画像形成装置60とで、カラーデジタル複写機が構成される。
【符号の説明】
【0220】
1 光源手段 2 アナモフィックレンズ 2a アナモフィックレンズ第一面
2b アナモフィックレンズ第二面 3 アパーチャー(開口絞り)
4 偏向手段(等速ガルバノミラー) 5 偏向面 LA 入射光学系
LB 結像光学系 6a 第1の結像レンズ
6a 第2の結像レンズ 7 被走査面(感光体ドラム)
11、12、13、14 光走査装置
21、22、23、24 像担持体(感光ドラム)
31、32、33、34 現像器
41、42、43、44 光ビーム
51 搬送ベルト 52 外部機器
53 プリンタコントローラ 60 カラー画像形成装置
100 光走査装置 101 感光ドラム 102 帯電ローラ
103 光ビーム 104 画像形成装置 107 現像装置
108 転写ローラ 109 用紙カセット 110 給紙ローラ
111 プリンタコントローラ 112 転写材(用紙)
113 定着ローラ 114 加圧ローラ 115 モータ
116 排紙ローラ 117 外部機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源手段と、前記光源手段から出射された光束を偏向手段に導光する入射光学系と、前記偏向手段の偏向面で偏向された光束を被走査面上に結像させる結像光学素子を含む結像光学系とを有する光走査装置において、
前記偏向手段の偏向面から前記被走査面までの前記結像光学系の光軸方向の間隔をL(mm)、前記偏向手段の偏向面から自然収束点までの間隔をSd(mm)とするとき、
0.3<Sd/L<1
なる条件を満足し、且つ、
有限な走査画角をθa(rad)、有効走査領域における最大走査画角をθmax(rad)、fθ係数をK(mm/rad)、任意の走査画角をθ(rad)とするとき、
|L×tanθa|=|K×θa| (0<|θa|<|θmax|)
0.3<|θa|/|θmax|<0.7
なる条件を満足し、かつ、
0<|θ|<|θa|の走査画角領域において、
|L×tanθ|<|K×θ|
|θa|<|θ|≦|θmax|の走査画角領域において、
|L×tanθ|>|K×θ|
なる条件を満たす走査画角θaが存在することを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
前記偏向手段の偏向面から前記被走査面までの前記結像光学系の光軸方向の間隔をL(mm)、前記被走査面上の有効走査幅をW(mm)とするとき、
0.85≦W/2L
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光走査装置。

【請求項3】
L≦125(mm)なる条件を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記最大走査画角は、30(deg)以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の光走査装置。
【請求項5】
主走査断面内において、前記結像光学系の全系の軸上のパワーは、負であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の光走査装置。
【請求項6】
前記結像光学素子は、前記結像光学系の中で最も前記被走査面に近い光学素子であり、主走査断面内において、前記結像光学素子の軸上のパワーは、負であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の光走査装置。
【請求項7】
全有効走査画角において、前記結像光学系の全系の主走査断面内のパワーは、負であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の光走査装置。
【請求項8】
前記結像光学系の中で最も被走査面に近い結像光学素子の被走査面側の面と前記被走査面との前記光軸方向の間隔は、前記偏向手段から前記被走査面までの間に配置されている各光学素子の各面の前記光軸方向の間隔の中で最も広いことを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の光走査装置。
【請求項9】
主走査断面内において、前記結像光学素子の肉厚は、前記結像光学素子の光軸から軸外に向かうに連れて増加し、その後、減少していくことを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項に記載の光走査装置。
【請求項10】
前記結像光学系を構成する全ての結像光学素子は、主走査断面内において軸上のパワーが負であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の光走査装置。
【請求項11】
前記結像光学素子の偏向手段側の光学面の主走査方向の形状は、前記結像光学素子の中心から両端部へかけて凸形状から凹形状へ反転することを特徴とする請求項1乃至10の何れか一項に記載の光走査装置。
【請求項12】
前記結像光学素子の被走査面側の光学面の主走査方向の形状は、前記結像光学素子の中心から両端部へかけて凹形状から凸形状へ反転することを特徴とする請求項1乃至11の何れか一項に記載の光走査装置。
【請求項13】
前記結像光学素子の入射面及び射出面は、主走査断面内において、有効走査領域端部での面位置が前記結像光学素子の面頂点の位置よりも前記偏向手段に近づく形状であることを特徴とする請求項11又は12に記載の光走査装置。
【請求項14】
前記結像光学素子は、主走査断面内において、軸上の形状がメニスカス形状より成ることを特徴とする請求項13に記載の光走査装置。
【請求項15】
請求項1乃至14の何れか一項に記載の光走査装置と、前記被走査面に配置された感光体と、前記光走査装置で走査された光ビームによって前記感光体に形成された静電潜像をトナー像として現像する現像器と、現像されたトナー像を被転写材に転写する転写器と、転写されたトナー像を被転写材に定着させる定着器とを有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項16】
請求項1乃至14の何れか一項に記載の光走査装置と、外部機器から入力したコードデータを画像信号に変換して前記光走査装置に入力せしめるプリンタコントローラとを有していることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図10】
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【図12】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−103714(P2012−103714A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−279589(P2011−279589)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【分割の表示】特願2006−59541(P2006−59541)の分割
【原出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】