説明

光透過性電磁波シールド材の製造方法、及び光透過性電磁波シールド材

【課題】均一な厚さ及び線幅を有する電磁波シールド層が形成された光透過性電磁波シールド材の製造方法を提供する。
【解決手段】アニオン性基を有する化合物を含む表面処理層120が形成された透明基材110の前記表面処理層120上に、アニオン性基を有していない合成樹脂を含む組成物をパターン状に印刷することにより、パターン状の樹脂層130を形成する工程、
前記樹脂層130に、めっき触媒化合物溶液を接触させることにより、前記樹脂層130上にパターン状のめっき触媒層140を形成する工程、及び
無電解めっき及び/又は電解めっきすることにより、前記めっき触媒層140上にパターン状の金属導電層150を形成する工程、
を含む光透過性電磁波シールド材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPDP(プラズマディスプレーパネル)の前面フィルタや、病院などの電磁波シールドを必要とする建築物の窓材料(例えば貼着用フィルム)等として有用な電磁波シールド性光透過窓材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PDP)、ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ、及びCRTディスプレイは、近年、大画面表示が主流となり、次世代の大画面表示デバイスとしてPDPが一般的になってきている。しかしながら、このPDPでは画像表示のため発光部に高周波パルス放電を行っており、不要な電磁波を輻射する恐れがある。
【0003】
そこで、PDPの前面フィルタとして、電磁波シールド性および光透過性を有する光透過性電磁波シールド材が開発され、実用に供されている。このような光透過性電磁波シールド材はまた、電磁波から精密機器を保護するために、病院や研究室等の精密機器設置場所の窓材としても利用されている。
【0004】
光透過性電磁波シールド材は、透明基材上に無電解めっきなどにより形成された金属導電層が形成される。金属導電層は、一般的に、メッシュ状などのパターンを有し、メッシュ部分によって電磁波がシールドされ、開口部によって光の透過が確保される。金属導電層は、優れた光透過性と電磁波シールド性を両立させるために、線幅を極めて細くし、非常に微細なパターンを有している必要がある。
【0005】
そこで、特許文献1では、パラジウム粒子などの無電解めっき触媒粒子及びバインダ樹脂を含む印刷ペーストをメッシュ状に印刷することにより印刷パターン層を形成し、この印刷パターン層上に無電解めっきすることにより金属導電層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−170420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、めっき金属の析出が不均一であり、均一な厚さや線幅を有する電磁波シールド層を形成するのが困難であった。特に、めっき金属の厚み分布のばらつきは、製品の外観不良及び電気抵抗のムラを発生し易く、電気抵抗のムラは電磁波シールド性の低下を引き起こすため問題であった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、めっき金属を均一に析出させ、均一な厚さ及び線幅を有する電磁波シールド層が形成された光透過性電磁波シールド材の製造方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、均一な厚さ及び線幅を有する電磁波シールド層が形成された光透過性電磁波シールド材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来の方法において発生するめっきムラは、印刷パターン層に用いた無電解めっき触媒粒子の存在状態に原因があると考えられる。すなわち、均一な厚さや線幅を有する電磁波シールド層を形成するためには、印刷パターン層表面に触媒粒子が均一に分散している必要がある。しかしながら、従来の方法では印刷パターン層中に触媒粒子が分散されているため、印刷パターン層表面に微小な触媒粒子を均一に露出させるのは非常に難しく、このため印刷パターン層表面にめっき金属の未析出部分や過剰析出部分が生じると考えられる。
【0011】
本発明者等は、このような知見に鑑み種々の検討を行った結果、パターン状に印刷された触媒粒子を含まない樹脂層上にめっき用触媒を選択的に吸着させる方法を用いることにより上記課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、下記工程;
アニオン性基を有する化合物を含む表面処理層が一方の表面上に形成された透明基材の前記表面処理層上に、合成樹脂を含む組成物をパターン状に印刷することにより、パターン状の樹脂層を形成する工程、
前記表面処理層及びパターン状の樹脂層を有する透明基材に、めっき触媒化合物溶液を接触させることにより、前記樹脂層上にパターン状のめっき触媒層を形成する工程、及び
無電解めっき及び/又は電解めっきすることにより、前記めっき触媒層上にパターン状の金属導電層を形成する工程、
を含む光透過性電磁波シールド材の製造方法により上記課題を解決する。
【0013】
さらに、本発明は、透明基材、前記透明基材の一方の表面上に形成された表面処理層、前記表面処理層上に形成されたパターン状の樹脂層、前記樹脂層上に形成されたパターン状のめっき触媒層、及び前記めっき触媒層上に形成されたパターン状の金属導電層を有し、
前記表面処理層が、アニオン性基を有する化合物を含む光透過性電磁波シールド材を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、樹脂層表面にめっき触媒金属が露出しているので、めっき金属を均一に析出させることができ、これにより線幅や厚さが均一であり、微細なパターンを有する金属導電層を形成することができる。したがって、このような金属導電層を有する光透過性電磁波シールド材は、電磁波シールド性、光透過性、外観性、及び視認性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による光透過性電磁波シールド材の製造方法の各工程を説明した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光透過性電磁波シールド材の製造方法について、図を参照しながら説明する。図1に本発明の光透過性電磁波シールド材の製造方法を説明する概略図を示す。
【0017】
本発明の方法では、まず、アニオン性基を有する化合物を含む表面処理層120が少なくとも一方の表面上に形成された透明基材110の表面処理層120上に、合成樹脂を含む組成物をパターン状に印刷することにより、パターン状の樹脂層130を形成する工程(A)を実施する。
【0018】
次に、表面処理層120及びパターン状の樹脂層130を有する透明基材110に、めっき触媒化合物溶液を接触させることにより、樹脂層130上にパターン状のめっき触媒層140を形成する工程(B)を実施する。めっき触媒化合物溶液として、貴金属塩化合物及びスズ塩化合物などを含む溶液を用いた場合、溶液中で貴金属塩化合物及びスズ塩化合物は[PdSn3Cl10+nx-や[PdSn3Cl]4-などのマイナスの電荷を有する錯体を形成する。一方、透明基材110上には、アニオン性基を有する化合物を含む表面処理層120が形成されている。したがって、表面処理層120及びパターン状の樹脂層130を有する透明基材110上にめっき触媒化合物溶液を接触させた際に、上記錯体が表面処理層120上にはマイナス電荷の反発により吸着せず、樹脂層130のみにイオン的に吸着する。電解めっきを行う場合、上記錯体はめっき触媒化合物溶液に含まれる酸などにより還元され、これによりパラジウム金属などのめっき触媒金属からなるめっき触媒層140が樹脂層130上のみに選択的に形成される。
【0019】
次に、無電解めっき及び/又は電解めっきすることにより、めっき触媒層140上にパターン状の金属導電層150を形成する工程(C)を実施する。めっき触媒層140は、無電解めっきや電解めっきにより、めっきムラなく、めっき金属を均一に析出させることが可能となる。
【0020】
このような本発明の方法によれば、めっき触媒層140上に、均一な厚さや線幅を有する金属導電層150を短時間で形成することができる。また、樹脂層130がパラジウム粒子などの触媒粒子を含んでいないことから、印刷時の設計度が向上し、より微細なパターンを有する樹脂層130をほぼ設計通りの寸法で形成することができる。したがって、このような樹脂層130を用いることにより、より微細なパターンを有する金属導電層150の形成も可能となる。
【0021】
以下に、本発明の方法を工程ごとに詳細に説明する。
【0022】
本発明の方法では、初めに、アニオン性基を有する化合物を含む表面処理層が一方の表面上に形成された透明基材の前記表面処理層上に、合成樹脂を含む組成物をパターン状に印刷することにより、パターン状の樹脂層を形成する工程を実施する。
【0023】
[表面処理層]
表面処理層は、アニオン性基を有する化合物を含む。本発明において、アニオン性基とは、アニオンを有する官能基、又は解離によってアニオンを生じる官能基を意味する。
【0024】
化合物におけるアニオン性基としては、−COOM、−SO3M、−OSO3M、及び−PO32(式中、Mは、水素原子、アルカリ金属原子、又はアルカリ土類金属原子を示す)が好ましい。前記式におけるMは、カチオンを示し、具体的には、水素原子;リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属原子;バリウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属原子;アンモニウム(NH4+)、アルカノールアミンなどのアミン類が好ましく挙げられる。なかでも、Mは、水素原子、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又はアンモニウムイオンであるのが好ましい。このようなアニオン性基は、触媒化合物溶液と接触することによりM+イオンの解離が容易に生じ、マイナスの電荷を有する錯体の吸着を防止することができる。
【0025】
なかでも、アニオン性基としては、−COONa、−COOH、−SO3Na、−SO3Hが好ましく挙げられる。これらのアニオン性基は、めっき触媒層を形成する工程において、マイナスの電荷を有する錯体が表面処理層に吸着するのをより高く防止することができる。
【0026】
表面処理層は、バインダ樹脂を少なくとも含み、その他、必要に応じて界面活性剤などの成分を含む。アニオン性基を有する化合物として、バインダ樹脂及び界面活性剤のうち少なくとも一方がアニオン性基を有するのが好ましい。
【0027】
バインダ樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、及び酢酸ビニル樹脂が好ましく挙げられる。これらは一種単独で使用しても、二種以上を併用してもよい。また、これらのバインダ樹脂として、ヒドロキシル基やアミノ基などの活性水素を含む基を有するバインダ樹脂を用いて、表面処理層において、前記バインダ樹脂を少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートなどの硬化剤により硬化させてもよい。
【0028】
アニオン性基を有するバインダ樹脂を用いた場合、バインダ樹脂におけるアニオン性基の含有量は、0.1〜2mmol/g、特に0.8〜1.2mmol/gであるのが好ましい。
【0029】
バインダ樹脂の数平均分子量は、5,000〜40,000、特に10,000〜35,000であるのが好ましい。なお、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いて換算した値である。
【0030】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤が好ましく用いられる。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸石けん、N−アシルアミノ酸およびその塩、アルキルエーテルカルボン酸塩などのカルボン酸塩系;アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルスルホン酸塩等のスルホン酸塩系などが挙げられる。これらは一種単独で使用しても、二種以上を併用してもよい。なかでも、α−オレフィンスルホン酸塩、特にα−オレフィンスルホン酸ナトリウム(オレフィンの炭素原子数2〜18、特に14〜16)が好ましく用いられる。
【0031】
アニオン性界面活性剤におけるアニオン性基の量は、0.1〜2.0mmol/g、特に0.8〜1.2mmol/gであるのが好ましい。
【0032】
表面処理層におけるアニオン性界面活性剤の含有量は、バインダ樹脂100質量部に対して、0.05〜10質量部、特に0.1〜5質量部であるのが好ましい。
【0033】
表面処理層において、バインダ樹脂及び界面活性剤のうち少なくとも一方がアニオン性基を有していればよい。マイナスの電荷を有する錯体の吸着をより高く防止できることから、アニオン性界面活性剤を少なくとも用いるのが好ましく、アニオン性基を有するバインダ樹脂及びアニオン性界面活性剤の双方を用いるのが特に好ましい。なお、アニオン性界面活性剤を用いた場合には、バインダ樹脂はアニオン性基を有していなくともよい。また、アニオン性基を有するバインダ樹脂を用いた場合には、界面活性剤としてカチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤などのアニオン性界面活性剤以外の界面活性剤を用いてもよい他、界面活性剤を使用しなくてもよい。
【0034】
表面処理層の表面におけるアニオン性基の量は、0.1〜2.0mmol/cm2、特に0.8〜1.2mmol/cm2であるのが好ましい。アニオン性基の量が前記範囲内であれば、表面処理層上にめっき触媒層が形成されるのを抑制することができる。なお、
表面処理層の表面とは、表面処理層の露出面から深さ20nmに至る領域を意味する。表面処理層の表面におけるアニオン性基の量は、FTIR(フーリエ変換赤外分光分析装置)、XPS(X線光電子分光分析装置)などにより分析することができる。
【0035】
表面処理層は、ワックスを含んでいるのが好ましい。ワックスを用いることにより、表面処理層の表面平滑性を向上させて、樹脂層や金属導電層の厚さや線幅の均一性を向上させることができる。表面処理層を形成する際に、ワックスはワックスエマルジョンとして用いるのがよい。ワックスエマルジョンとは、ワックスが微細な粒子として水または水溶性の分散媒中に分散したワックス成分を指す。
【0036】
ワックスとしては、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、アクリル系ワックス、脂肪酸系ワックスなどが用いられる。ワックスの分子量は、1000〜10000、特に1500〜6000であるのが好ましい。
【0037】
表面処理層におけるワックスの含有量は、バインダ樹脂100質量部に対して、2〜10質量部、特に3〜8質量部であるのが好ましい。
【0038】
透明基材上に表面処理層を形成するには、バインダ樹脂の他、必要に応じて、界面活性剤、ワックスなどの各成分を、水や有機溶剤(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノンなど)などの溶剤中に溶解又は分散させ、得られた樹脂組成物を透明基材上に塗布する方法などが用いられる。
【0039】
塗布方法は、グラビアコーター、リバースロールコーター、リバースキスコーター、エアーナイフコーター、バーコーター等の方法が用いられる。また、塗布以外にも、樹脂組成物中に透明基材を浸漬させることにより透明基材上に表面処理層を形成することもできる。透明基材上に塗布された樹脂組成物は、100〜180℃、特に140〜180℃の温度で加熱乾燥させるのが好ましい。乾燥時間は、1〜10分程度であればよい。
【0040】
表面処理層は、透明基材の金属導電層を形成する面上に少なくとも形成すればよいが、透明基材の金属導電層が形成される面とは反対側の面上にもさらに形成されていてもよい。透明基材の金属導電層が形成される面とは反対側の面上に表面処理層が形成されると、透明基材の裏面側にめっき触媒層や金属導電層が形成されるのを防止することができる。
【0041】
また、表面処理層を有する透明基材は、市販されている製品を直接用いることもできる。市販品としては、例えば、東洋紡績株式会社製の製品名A8300、A1300などを用いることができる。
【0042】
表面処理層の厚さは、50〜150nm、特に65〜95nmであるのが好ましい。
【0043】
表面処理層が形成される透明基材としては、透明性および可とう性を備え、その後の処理に耐えるものであれば特に制限はない。透明基材の材質としては、例えば、ガラス、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、(PET)、ポリブチレンテレフタレート)、アクリル樹脂(例、ポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、セルローストリアセテート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、金属イオン架橋エチレン−メタクリル酸共重合体、ポリウレタン、セロファン等を挙げることができる、これらの中で、加工処理(加熱、溶剤、折り曲げ)による劣化が少なく、透明性の高い材料であるPET、PC、PMMAが好ましい。また、基材は、これらの材質からなるシート、フィルム、または板として用いられる。
【0044】
透明基材の厚さは、通常は、使用時の形態や必要とされる機械的強度に応じて、0.05〜5mmの範囲内で適宜設定される。
【0045】
[樹脂層形成工程]
本発明の方法では、上述した表面処理層上に、合成樹脂を含む組成物をパターン状に印刷することにより、パターン状の樹脂層を形成する。
【0046】
パターン状の樹脂層に用いられる合成樹脂としては、貴金属塩化合物及びスズ塩化合物などにより形成されたマイナスの電荷を有する錯体がイオン的に吸着できる合成樹脂が用いられる。合成樹脂としては、ポリエステル樹脂、又はポリウレタン樹脂を用いるのが好ましい。これらの合成樹脂は、前記錯体を強く吸着することができる。
【0047】
また、樹脂層に用いられる合成樹脂は、アニオン性基を有していないのが好ましい。合成樹脂におけるアニオン性基の含有量は、0.1mmol/g以下、特に0.05mmol/g以下であるのが好ましい。
【0048】
樹脂層に用いられる合成樹脂は、カチオン性基を有しているのが好ましい。カチオン性基とは、カチオンを有する官能基、又は解離によってカチオンを生じる官能基を意味する。カチオン性基を有する合成樹脂は、マイナスの電荷を有する錯体をより強く吸着することができる。
【0049】
このようなカチオン性基として、好ましくは、第一級アミノ基(−NH2)、第二級アミノ基(−NHR)、第三級アミノ基(−NRR')、アクリルアミド基(CH2=CHCONH−)、及びメタクリルアミド基(CH2=C(CH3)CONH−)が挙げられる。第二級アミノ基及び第三級アミノ基におけるR及びR'は、炭素原子数1〜8個のアルキル基である。
【0050】
合成樹脂におけるカチオン性基の含有量は、0.1〜2.0mmol/g、特に0.8〜1.2mmol/gであるのが好ましい。
【0051】
パターン状の樹脂層は、さらに分散剤を含むのが好ましい。分散剤を用いることにより、合成樹脂を高く分散させて樹脂層の硬度や表面平滑性を向上させ、これにより得られる金属導電層の厚さや線幅を均一にすることが可能となる。
【0052】
分散剤としては、シリカ、アルミナ、チタニアなどの酸化物粒子、銀粉、銅粉などの金属粒子、活性炭、グラファイト、フラーレン、カーボンファイバなどの炭素粒子が挙げられる。なかでも、シリカ粒子を用いるのが好ましい。
【0053】
シリカ粒子の平均粒子径は、10〜100nm、特に10〜30nmであるのが好ましい。シリカ粒子の比表面積は、100〜500m2/g、特に100〜300m2/gであるのが好ましい。このようなシリカ粒子は、パターン状の樹脂層の硬度や表面平滑性をさらに向上させることができる。
【0054】
パターン状の樹脂層は、黒色着色剤を含んでいてもよい。黒色着色剤を含むことにより、光透過性電磁波シールド材の透明基材側に防眩性を付与することが可能となる。
【0055】
黒色着色剤としては、黒色染料、黒色顔料、カーボンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄、黒鉛、および活性炭などが好ましく挙げられる。これらは、1種単独で用いられてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック等が挙げられる。カーボンブラックの平均粒径は、好ましくは0.1〜1,000nm、特に好ましくは5〜500nmである。
【0056】
パターン状の樹脂層における黒色着色剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、5〜30質量部、特に5〜15質量部とするのが好ましい。
【0057】
パターン状の樹脂層を表面処理層上に形成するには、合成樹脂の他、必要に応じて、分散剤、及び黒色着色剤などの各成分を、有機溶剤(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノンなど)に溶解又は分散させ、得られた組成物を表面処理層上にパターン状に印刷する方法が用いられる。
【0058】
印刷手法としては、グラビア印刷、フレキソ印刷、グラビアオフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、静電印刷等が挙げられ、これらの中でも、パターンの細線化が可能な点で、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷が特に好ましい。
【0059】
表面処理層上に組成物を印刷した後、好ましくは80〜160℃、より好ましくは90〜130℃で加熱することにより乾燥させるのがよい。乾燥温度が80℃未満では溶媒の蒸発速度が遅く十分な成膜性が得られない恐れがあり、160℃を超えると化合物の熱分解が生じる恐れがある。乾燥時間は5秒〜5分が好ましい。
【0060】
樹脂層はめっき触媒を吸着させるためにアニオン性基を含んでいないのが好ましい。したがって、樹脂層表面におけるアニオン性基の量は、0.1mol/cm2以下、特に0.05mol/cm2以下であるのが好ましい。なお、樹脂層の表面とは、樹脂層の露出面から深さ20nmに至る領域を意味する。
【0061】
また、樹脂層はカチオン性基を含むのが好ましい。カチオン性基については、合成樹脂において上述した通りである。
【0062】
樹脂層の表面におけるアニオン性基の量は、FTIR(フーリエ変換赤外分光分析装置)、XPS(X線光電子分光分析装置)などにより分析することができる。
【0063】
樹脂層が有するパターン形状は、所望する金属導電層が得られるように適宜決定すればよいが、ストライプ状及びメッシュ状(格子状を含む)、特にメッシュ状であるのが好ましい。
【0064】
樹脂層におけるメッシュパターンの形状には特に制限はなく、例えば四角形の開口部が形成された格子状や、円形、六角形、三角形又は楕円形の開口部が形成されたパンチングメタル状などが挙げられる。また、開口部は規則的に並んだものに限らず、ランダムパターンとしても良い。
【0065】
メッシュ状の樹脂層の線幅は、一般に25μm以下、好ましくは5〜20μmで、特に5〜15μmを有する。線のピッチは300μm以下が好ましい。また、開口率は70〜95%であることが好ましく、特に70〜85%である。なお、開口率とは、樹脂層の投影面積における開口部分が占める割合をいう。
【0066】
樹脂層の線で囲まれた開口部の形状は、円、楕円、角形(4角形、6角形)など任意の形状とすることができるが、一般に角形であり、特に正方形であることが好ましい。
【0067】
樹脂層の厚さは、100〜1000nm、特に200〜500nmであるのが好ましい。このような厚さを有する樹脂層は、表面に十分な量のめっき触媒を吸着させることができる。
【0068】
[めっき触媒層形成工程]
本発明の方法では、次に、表面処理層及びパターン状の樹脂層を有する透明基材に、めっき触媒化合物溶液を接触させることにより、前記樹脂層上にパターン状のめっき触媒層を形成する。
【0069】
めっき触媒化合物溶液は、好ましくは、貴金属塩化合物、スズ塩化合物、及び酸を含む水溶液である。このような成分を含む水溶液中では、貴金属イオンとスズイオンとがマイナスの電荷を有する錯体を形成し、パターン状の樹脂層上のみに選択的に吸着することができる。
【0070】
スズ塩化合物に代えて、二塩化硫黄などの硫黄化合物、又は塩化第一銅若しくは塩化第二銅など銅化合物などを用いることができ、貴金属イオンと硫黄イオン又は銅イオンとがマイナスの電荷を有する錯体を形成し、スズ塩化化合物を用いた場合と同様の効果が得られる。
【0071】
貴金属塩化合物としては、塩化白金塩などの白金化合物;塩化金塩などの金化合物;塩化パラジウム、硫酸パラジウムなどのパラジウム化合物;及び硝酸銀、硫酸銀などの銀化合物などが挙げられる。なかでも、パターン状の樹脂層へ強く吸着できる錯体を形成できることから、パラジウム化合物、特に塩化パラジウムを用いるのが好ましい。
【0072】
めっき触媒化合物溶液における貴金属化合物の含有量は、50〜500mg/リットル、特に100〜300mg/リットルであるのが好ましい。貴金属化合物の含有量が前記範囲内であれば、マイナスの電荷を有する錯体を十分に形成することができる。
【0073】
スズ塩化合物としては、塩化第一スズ、及び硫酸第一スズが挙げられる。なかでも、パターン状の樹脂層へ強く吸着できる錯体を形成できることから、塩化第一スズを用いるのが好ましい。
【0074】
めっき触媒化合物溶液におけるスズ塩化合物の含有量は、貴金属化合物の20〜50質量倍とするのが好ましい。スズ塩化合物の含有量は、10〜50g/リットル、特に10〜20g/リットルであるのが好ましい。
【0075】
酸としては、塩酸、及び硫酸が好ましく挙げられる。めっき触媒化合物溶液における酸の含有量は、0.5〜3モル/リットル、特に1.0〜3モル/リットルであるのが好ましい。
【0076】
表面処理層及びパターン状の樹脂層を有する透明基材にめっき触媒化合物溶液を接触させる方法としては、透明基材上に形成された表面処理層及び樹脂層上にめっき触媒化合物溶液を噴霧する方法、表面処理層及び樹脂層が形成された透明基材をめっき触媒化合物溶液中に浸漬する方法などを用いることができる。接触させる際のめっき触媒化合物溶液の温度は、10〜50℃、特に25〜45℃であるのが好ましい。また、接触時間は、1〜10分程度行えばよい。
【0077】
また、上述した通り、透明基材の金属導電層が形成される面とは反対側の面上に表面処理層が形成されていれば、めっき触媒化合物溶液の噴霧、浸漬により透明基材の裏面側にめっき触媒層が形成されるのを防止することができる。
【0078】
樹脂層にめっき触媒化合物溶液を接触させた後は、表面処理層及び樹脂層が形成された透明基材を水洗するのが好ましい。水洗を行うことにより、表面処理層上に接触しているめっき触媒化合物溶液を除去できる他、貴金属塩化合物及びスズ塩化合物が加水分解し、マイナスの電荷を有する錯体の形成及び樹脂層への吸着をより促進させることができる。
【0079】
水洗に用いられる水は、水道水の他、脱イオン処理した水、ハロゲン、紫外線殺菌灯や各種酸化剤(オゾン、過酸化水素、塩素酸塩等)等によって殺菌された水を使用することができる。水洗に用いられる水の温度は、0〜50℃、特に30〜50℃であるのが好ましい。水洗時間は、5秒〜2分であればよい。
【0080】
樹脂層に、上述した通り、めっき触媒化合物溶液を接触させた後、好ましくは水洗を行うことにより、パラジウム金属などの貴金属からなるめっき触媒層を形成することができる。めっき触媒層の厚さは、好ましくは10〜100nm、特に好ましくは20〜50nmである。このような厚さを有するめっき触媒層であれば、十分な量のめっき触媒を含み、電気抵抗が低いことから、めっき処理を行うことにより、均一な厚さや線幅を有する電磁波シールド層を短時間で形成することができる。
【0081】
[無電解めっき工程]
本発明の方法では、次に、めっき触媒層上に、無電解めっき及び/又は電解めっきすることにより、前記めっき触媒層上にパターン状の金属導電層を形成する工程を実施する。また、初めに無電解めっきを行った後に、金属導電層の電気抵抗を低下させるために、電解めっきをさらに行うのが好ましい。
【0082】
めっき金属は、導電性を有してメッキ可能である金属であれば使用することができ、金属単体、合金、導電性金属酸化物等であってもよく、均一な金属薄膜又は一様に塗布された微細な微粒子等からなるものであってもよい。
【0083】
無電解めっきにおけるめっき金属としては、アルミニウム、ニッケル、インジウム、クロム、金、バナジウム、スズ、カドミウム、銀、白金、銅、チタン、コバルト、鉛等を用いることができる。特に、高い電磁波シールド性が得られる金属導電層が得られることから、好ましくは、銀、銅又はアルミニウムが好ましく用いられる。これらのめっき金属を用いて形成される金属導電層は、光透過性と電磁波シールド性の両立に好適である。
【0084】
無電解めっきは、無電解めっき浴を用いて常法に従って常温または加温下で行うことができる。即ち、めっき金属塩、キレート剤、pH調整剤、還元剤などを基本組成として含むめっき液を建浴したものにめっき基材を浸漬して行うか、構成めっき液を2液以上と分けて添加方式でめっき処理を施すなど適宜選択すれば良い。
【0085】
無電解めっきとして一例を挙げると、Cuからなる電磁波シールド層を形成する場合、硫酸銅等の水溶性銅塩1〜100g/L、特に5〜50g/L、ホルムアルデヒド等の還元剤0.5〜10g/L、特に1〜5g/L、EDTA等の錯化剤20〜100g/L、特に30〜70g/Lを含み、pH12〜13.5、特に12.5〜13に調整した溶液に、めっき触媒層などを有する透明基材を50〜90℃、30秒〜60分浸漬する方法を採用することができる。
【0086】
無電解めっきをする際に、めっきされる基板を揺動、回転させたり、その近傍を空気撹拌させたりしてもよい。
【0087】
[電解めっき工程]
本発明の方法では、電解めっきによりめっき触媒層上に金属導電層を形成する工程を実施することもできる。樹脂層上にパラジウムなどの貴金属からなるめっき触媒層が形成されていることから、電解めっきのみを行って金属導電層を形成するのが好ましい。無電解めっき工程を省略することにより、製造工程の簡略化が図れる。
【0088】
電解めっきを行う場合には、めっき触媒層を、導体化液と接触させる工程を行った後に電解めっきを直接行うのが好ましい。また、上述した無電解めっきを行った後に、さらに電解めっきを行うこともできる。
【0089】
(導体化工程)
導体化工程は、めっき触媒層を、金属化合物、還元性化合物、及び金属水酸化物を含む導体化液を接触させることにより実施できる。前記工程によれば、触媒層表面に金属からなる薄膜を形成することができ、電解めっきにおける金属の析出を促進させることができる。
【0090】
導体化液は、金属化合物、還元性化合物、及び金属水酸化物を含む。金属化合物としては、銅化合物が好ましく用いられる。銅化合物として具体的には、硫酸銅、塩化銅、炭酸銅、酸化銅、及び水酸化銅が好ましい。なかでも、めっき処理時にめっき触媒層の金属析出性能を向上させることができることから、硫酸銅が特に好ましい。導体化液における銅化合物の含有量は、銅換算で、0.1〜5g/リットル、特に0.8〜1.2g/リットルであるのが好ましい。
【0091】
還元性化合物としては、塩化第一錫、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、蟻酸あるいはその塩類、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール、ブドウ糖、グルコース、ソルビット、セルロース、ショ糖、マンニット、グルコノラクトンなどの還元性糖類などが挙げられる。
【0092】
金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムなどが挙げられる。導体化液における金属水酸化物の含有量は、10〜80g/リットル、特に30〜50g/リットルであるのが好ましい。
【0093】
導体化液は、錯化剤をさらに含むのが好ましい。錯化剤としては、ヒダントイン、1−メチルヒダントイン、1,3−ジメチルヒダントイン、5,5−ジメチルヒダントイン、アラントインなどのヒダントイン類;クエン酸、酒石酸、コハク酸及びこれらの塩類などの有機カルボン酸類などを挙げることができる。導体化液における錯化剤の含有量は、2〜50g/リットル、特に10〜40g/リットルであるのが好ましい。
【0094】
導体化液のpHは、10.0〜14.0、特に11.55〜13.5であるのが好ましい。導体化液の温度は、20〜70℃、特に35〜50℃であるのが好ましい。めっき触媒層と導体化液との接触時間は、30秒〜20分、特に3〜5分であるのが好ましい。
【0095】
めっき触媒層と導体化液とを接触させる方法としては、めっき触媒層が形成された透明基材を導体化液に浸漬する方法が好ましく用いられる。この他にも、透明基材上に形成されためっき触媒層上に導体化液を噴霧する方法を用いてもよい。
【0096】
電解めっきにおけるめっき金属としては、アルミニウム、ニッケル、インジウム、クロム、金、バナジウム、スズ、カドミウム、銀、白金、銅、チタン、コバルト、鉛等を用いることができる。特に、高い電磁波シールド性が得られる金属導電層が得られることから、好ましくは、銀、銅又はアルミニウムが好ましく用いられる。これらのめっき金属を用いて形成される金属導電層は、光透過性と電磁波シールド性の両立に好適である。
【0097】
電解めっきは、電解めっき浴を用いて常法に従って行うことができる。
【0098】
硫酸銅めっき液としては、例えば、硫酸銅100〜250g/リットル、硫酸20〜120g/リットル、及び塩素イオン20〜70ppmを含有する水溶液に、公知の光沢剤を添加しためっき浴を使用できる。硫酸銅めっきの条件は、通常と同様で良く、例えば、液温25℃、電流密度3A/dm2程度でめっきを行い、所定の膜厚までめっきを行えばよい。
【0099】
めっき触媒層上に、無電解めっき又は電解めっきにより形成された金属導電層は、樹脂層と同じパターン形状を有する。したがって、金属導電層のパターン形状は、ストライプ状及びメッシュ状(格子状を含む)、特にメッシュ状であるのが好ましい。これらのパターンを有する金属導電層は、パターン形成部分により導電性(電磁波シールド性)を確保でき、開口部によって光の透過を確保できる。
【0100】
メッシュ状の金属導電層の線幅は、一般に25μm以下、好ましくは5〜20μmで、特に10〜20μmを有する。線のピッチは300μm以下が好ましい。また、開口率は75〜95%であることが好ましく、特に70〜85%である。なお、開口率とは、電磁波シールド層の投影面積における開口部分が占める割合をいう。
【0101】
金属導電層の厚さは、1〜200μm、特に3〜10μmであるのが好ましい。金属導電層の厚さが、薄すぎると十分な電磁波シールド性が得られない恐れがあり、厚すぎると十分な光透過性が得られない恐れがある。
【0102】
[黒化処理]
本発明の方法では、金属導電層を黒化処理し、金属導電層の表面の少なくとも一部に黒化処理層を形成する工程をさらに実施するのが好ましい。黒化処理により、光透過性電磁波シールド材の金属導電層側に防眩性を付与することが可能となる。
【0103】
黒化処理は、ニッケル及び亜鉛の合金、又はニッケル及びスズの合金を電気めっきすることにより行われるのが好ましい。これらの合金からなる黒化処理層は、黒色度合い及び導電性に優れる。
【0104】
ニッケルと亜鉛又はスズとの合金からなる黒化処理層おけるニッケルに対する亜鉛又はスズの質量比(Ni:Zn又はSn)は、0.4〜1.4、特に0.2〜1.2とするのが好ましい。前記合金からなる黒化処理層の厚さは、0.001〜1μm、特に0.01〜0.1μmとするのが好ましい。
【0105】
また、黒化処理は、金属導電層の金属の酸化処理又は硫化処理によって行うこともできる。特に酸化処理は、より優れた防眩効果を得ることができ、さらに廃液処理の簡易性及び環境安全性の点からも好ましい。
【0106】
黒化処理として酸化処理を行う場合には、黒化処理液として、一般には次亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液、亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液、ペルオキソ二硫酸と水酸化ナトリウムの混合水溶液等を使用することが可能であり、特に経済性の点から、次亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液、又は亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液を使用することが好ましい。
【0107】
黒化処理として硫化処理を行う場合には、黒化処理液として、一般には硫化カリウム、硫化バリウム及び硫化アンモニウム等の水溶液を使用することが可能であり、好ましくは、硫化カリウム及び硫化アンモニウムであり、特に低温で使用可能である点から、硫化アンモニウムを使用することが好ましい。
【0108】
黒化処理層の厚さは、特に制限されないが、0.01〜1μm、好ましくは0.01〜0.5μmとするのがよい。前記厚さが、0.01μm未満であると、光の防眩効果が充分でない恐れがあり、1μmを超えると、斜視した際の見かけ上の開口率が低下する恐れがある。
【0109】
本発明の方法により形成された光透過性電磁波シールド材は、透明基材の少なくとも一方の面全面上にアニオン性基を有する化合物を含む表面処理層を有し、前記表面処理層上に合成樹脂を含むパターン状の樹脂層、パターン状のめっき触媒層、及びパターン状の金属導電層をこの順で有する。各層の詳細な構成については上述した通りである。
【0110】
本発明の光透過性電磁波シールド材は、金属導電層が均一な厚さや線幅を有することから、優れた光透過性及び電磁波シールド性を有する。金属導電層の表面抵抗率は、3Ω/□以下、特に1Ω/□以下とすることができる。また、光透過性電磁波シールド材の全光線透過率は、75%以上、特に80〜90%とすることができる。なお、光透過性電磁波シールド材の全光線透過率の測定は、全自動直読ヘイズコンピューター HGM−2DP(スガ試験機株式会社製)等を用いて、光透過性電磁波シールド材の厚み方向の全光線透過率を測定することにより行われる。
【0111】
光透過性電磁波シールド材は、光透過性が要求される用途、例えば電磁波を発生する各種電気機器のLCD、PDP、CRT等のディスプレイ装置のディスプレイ面、又は、施設や家屋の透明ガラス面や透明パネル面に好適に適用される。光透過性電磁波シールド材は、高い光透過性及び電磁波シールド性を有しているので、前述したディスプレイ装置のディスプレイ用フィルタ、特にプラズマディスプレイ用フィルタに好適に用いられる。
【0112】
ディスプレイ用フィルタとしては、本発明の光透過性電磁波シールド材をそのまま使用することができるが、例えばガラス板等の透明基板に接着剤層などを介して貼り合わせる等することによっても得ることができる。このようなディスプレイ用フィルタでは、金属導電層の開口部は、接着剤層により埋められる。
【0113】
また、電子ディスプレイ用フィルタは、透明基板、電磁波シールド層、及び接着剤層の他、さらに反射防止層、色調補正フィルタ層、近赤外線カット層などを有していてもよい。これらの各層の積層の順序は、目的に応じて決定される。また、ディスプレイ用フィルタには、電磁波シールド機能を高めるために、PDP本体のアース電極と接続するための電極を設けてもよい。
【実施例】
【0114】
以下、本発明を実施例により説明する。本発明は、以下の実施例により制限されるものではない。
【0115】
(実施例1)
1.パターン状の樹脂層の形成
まず、表面処理層(厚さ85nm)を両面全面上に有するPETフィルム(厚さ100μm;製品名A8300 東洋紡績株式会社製)を用意した。表面処理層は、バインダ樹脂として−SO3Na基を有するポリエステル樹脂(−SO3Na基含有量1.0mmol/g、数平均分子量25,000)100質量部、アニオン性界面活性剤(α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、−SO3Na基含有量1.0mmol/g)5質量部、ポリエチレン系エマルジョンワックス剤5質量部を含む。また、表面処理層の表面における−SO3Na基の量は、1.0mmol/cm2であった。
【0116】
次に、ポリエステル樹脂(カチオン性基含有量1.0mmol/g、数平均分子量20,000;東洋紡績株式会社製 VYLON(登録商標)67CX)100質量部、分散剤(シリカ粒子;AEROSIL(登録商標)200 日本アエロジル株式会社製)4質量部、及びシクロヘキサノン50質量部を十分に混合して、樹脂層形成用組成物を調製した。樹脂層形成用組成物を、一方の表面処理層上に、メッシュ状にグラビア印刷した後、120℃、5分間乾燥させた。これにより、PETフィルム上にメッシュ状の樹脂層(厚さ0.5μm、線幅15μm、開口部の形状:1辺が140μmの正方形状、開口率77%)を得た。
【0117】
2.パターン状のめっき触媒層の形成
塩化パラジウム0.2g/リットル、塩化第一スズ15mg/リットル、35質量%塩酸200ml/リットルを含む水溶液からなるめっき触媒化合物溶液(35℃)に樹脂層が形成されたPETフィルムを4分間浸漬した後、水洗を行った。次に、樹脂層が形成されたPETフィルムを、導体化液(35℃)中に4分間浸漬した後、水洗した。これにより、樹脂層上にパラジウム金属からなるパターン状のめっき触媒層(厚さ0.03μm)を形成した。
【0118】
3.パターン状の金属導電層の形成
めっき触媒層を有するPETフィルムをカソードとして用い、電解めっき装置(ハルセル用直流電源(10A2型);株式会社山本鍍金試験器製)により、下記の電解めっき液、電解めっき条件で電解めっき処理を行った。また、アノードとしては、白金コートチタン板を使用した。電解めっき処理により、めっき触媒層表面に銅からなる金属導電層(厚さ4μm、開口部の形状:1辺が140μmの正方形状、開口率77%)を有する光透過性電磁波シールド材を得た。
【0119】
電解めっき液(A)
2O:800ml
CuSO4・5H2O:81.1g
2SO4(96.0wt%):160ml
HCl(36.0wt%):0.1ml
HNO3(70.0wt%):300ml
電解めっき条件
めっき液温度:45℃
印加電圧:3V
カソード電流密度:1A/dm2
処理時間:1分間
【0120】
(実施例2)
実施例1のメッシュ状の樹脂層の形成において、ポリウレタン樹脂(カチオン性基含有量1.0mmol/g、数平均分子量25,000)100質量部、分散剤(シリカ粒子;AEROSIL(登録商標)200 日本アエロジル株式会社製)4質量部、及びシクロヘキサノン50質量部を十分に混合することにより調製された樹脂層形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして光透過性電磁波シールド材を作製した。光透過性電磁波シールド材が有する金属導電層は、厚さが0.5μmであり、1辺が140μmの正方形状の開口部を有し、開口率が77%であった。
【0121】
(実施例3)
下記組成の表面処理層を両面全面上に有するPETフィルム(厚さ100μm;製品名A1300 東洋紡績株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして光透過性電磁波シールド材を作製した。
【0122】
表面処理層は、バインダ樹脂として−SO3Na基を有するポリエステル樹脂(−SO3Na基含有量1.0mmol/g、数平均分子量25,000)100質量部を含む。また、表面処理層の表面における−SO3Na基の量は、1.0mol/cm2であった。
【0123】
光透過性電磁波シールド材が有する金属導電層は、厚さが30nmであり、1辺が140μmの正方形状の開口部を有し、開口率が77%であった。
【0124】
(比較例1)
下記組成の表面処理層を両面全面上に有するPETフィルム(厚さ100μm;製品名T680 三菱樹脂株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして光透過性電磁波シールド材を作製した。
【0125】
表面処理層は、バインダ樹脂としてポリエステル樹脂(アニオン性基含有量0mmol/g、数平均分子量25,000)のみを含む。また、表面処理層の表面におけるアニオン性基の量は、0mmol/cm2であった。
【0126】
比較例1では、樹脂層だけでなく、樹脂層の開口部において露出している表面処理層上にもめっき処理により金属銅が析出し、メッシュ状の金属導電層を得ることができなかった。
【0127】
(比較例2)
下記組成の表面処理層を両面全面上に有するPETフィルム(厚さ100μm;製品名03PF 帝人株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして光透過性電磁波シールド材を作製した。
【0128】
表面処理層は、バインダ樹脂としてポリエステル樹脂(アニオン性基含有量0mmol/g、数平均分子量25,000)のみを含む。また、表面処理層の表面におけるアニオン性基の量は、0mmol/cm2であった。
【0129】
比較例2においても、樹脂層だけでなく、樹脂層の開口部において露出している表面処理層上にもめっき処理により金属銅が析出し、メッシュ状の金属導電層を得ることができなかった。
【0130】
(比較例3)
1.パターン状のPd粒子含有樹脂層の形成
まず、表面処理層(厚さ90nm)を両面全面上に有するPETフィルム(厚さ100μm;製品名A8300 東洋紡績株式会社製)を用意した。表面処理層は、バインダ樹脂として−SO3Na基を有するポリエステル樹脂(−SO3Na基含有量1.0mmol/g、数平均分子量25,000)100質量部、アニオン性界面活性剤(α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、−SO3Na基含有量1.0mmol/g)5質量部を含む。また、表面処理層の表面における−SO3Na基の量は、2.0mmol/cm2であった。
【0131】
次に、ポリエステル樹脂(アニオン性基含有量1.0mmol/g、数平均分子量25,000;東洋紡績株式会社製 VYLON(登録商標)67CX)100質量部、パラジウム粒子(平均粒子径100μm)10質量部、及びシクロヘキサノン50質量部を十分に混合して、樹脂層形成用組成物を調製した。樹脂層形成用組成物を、一方の表面処理層上に、メッシュ状にグラビア印刷した後、120℃、5分間乾燥させた。これにより、PETフィルム上にパラジウム粒子を含有するメッシュ状の樹脂層(厚さ0.5μm、線幅20μm、開口部の形状:1辺が140μmの正方形状、開口率77%)を得た。
【0132】
2.金属導電層の作製
Pd粒子含有樹脂層が形成されたPETフィルムを、無電解銅めっき液(メルテックス株式会社製 メルプレートCU−5100)に浸漬し、50℃、20分間で、無電解銅めっきを行った後、さらに下記の電解めっき液、電解めっき条件で電解めっき処理を行った。また、アノードとしては、白金コートチタン板を使用した。電解めっき処理により、Pd粒子含有樹脂層表面に銅からなる金属導電層(厚さ0.5μm、開口部の形状:1辺が140μmの正方形状、開口率77%)を有する光透過性電磁波シールド材を得た。
【0133】
電解めっき液(A)
2O:800ml
CuSO4・5H2O:81.1g
2SO4(96.0wt%):160ml
HCl(36.0wt%):0.1ml
HNO3(70.0wt%):300ml
電解めっき条件
めっき液温度:45℃
印加電圧:3V
カソード電流密度:1A/dm2
処理時間:1分間
【0134】
(比較例4)
下記組成の表面処理層を両面全面上に有するPETフィルム(厚さ100μm;製品名T680 三菱樹脂株式会社製)を用いた以外は、比較例3と同様にして光透過性電磁波シールド材を作製した。
【0135】
表面処理層は、バインダ樹脂としてポリエステル樹脂(−SO3Na基含有量1.0mmol/g、数平均分子量25,000)100質量部、アニオン性界面活性剤(α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、−SO3Na基含有量1.0mmol/g)5質量部を含む。また、表面処理層の表面における−SO3Na基の量は、1.0mmol/cm2であった。
【0136】
光透過性電磁波シールド材が有する金属導電層は、厚さが0.5μmであり、1辺が140μmの正方形状の開口部を有し、開口率が77%であった。
【0137】
(評価)
1.電気抵抗率
電解めっきを行う前に、めっき触媒層(実施例1〜3、比較例1及び2)、又はPd粒子含有樹脂層(比較例3及び4)の表面に無電解めっきにより形成された銅薄膜の表面抵抗率を、抵抗率計(ロレスタGP MCP−T610型;三菱樹脂株式会社製)を用いて測定した。表面抵抗率が低いほど電解めっきによって金属皮膜をより均一に形成できることとなる。結果を表1に示す。
【0138】
2.選択めっき性
めっき触媒層又はPd粒子含有樹脂層上のみに、選択的にめっき処理が行われることによりメッシュ状の金属導電層が形成されているか目視により評価した。結果を表1に示す。表1において、選択的にめっき処理が行われ、メッシュ状の金属導電層が得られているものを「○」とし、めっき触媒層又はPd粒子含有樹脂層だけでなく露出している表面処理層までにめっき処理が行われ、メッシュ状の金属導電層が形成されていないものを「×」とする。
【0139】
3.金属導電層の線幅の均一性
金属導電層の線幅を、光学顕微鏡で2000倍の倍率で、ランダムに50箇所について観察及び測定し、その平均値、及び線幅の最大値と最小値との線幅差ΔW(μm)を求めた。この線幅差ΔWを金属導電層線幅の均一性の尺度とした。
【0140】
【表1】

【0141】
比較例1及び2では、樹脂層だけでなく、樹脂層の開口部において露出している表面処理層上にもめっき処理により金属銅が析出し、メッシュ状の金属導電層を得ることができなかった。また、比較例3及び4では、めっき処理によりPd粒子含有樹脂層上のみに金属銅が析出し、メッシュ状の金属導電層を得ることができたが、金属導電層は実施例と比較すると微細なメッシュパターンを有しておらず厚さや線幅も不均一であった。
【0142】
一方、実施例1〜3では、めっき処理により金属銅の析出が樹脂層上のみに選択的に行われ、これにより微細なメッシュパターンを有し、厚さや線幅も均一な金属導電層が形成されていた。
【符号の説明】
【0143】
110 透明基材、
120 表面処理層、
130 パターン状の樹脂層、
140 パターン状のめっき触媒層、
150 パターン状の金属導電層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性基を有する化合物を含む表面処理層が一方の表面上に形成された透明基材の前記表面処理層上に、合成樹脂を含む組成物をパターン状に印刷することにより、パターン状の樹脂層を形成する工程、
前記表面処理層及びパターン状の樹脂層を有する透明基材に、めっき触媒化合物溶液を接触させることにより、前記樹脂層上にパターン状のめっき触媒層を形成する工程、及び
無電解めっき及び/又は電解めっきすることにより、前記めっき触媒層上にパターン状の金属導電層を形成する工程、
を含む光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項2】
前記アニオン性基が、−COOM、−SO3M、−OSO3M、及び−PO32(式中、Mは、水素原子、アルカリ金属原子、又はアルカリ土類金属原子を示す)よりなる群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項3】
前記アニオン性基を有する化合物が、アニオン性基を有するバインダ樹脂、及び/又はアニオン性界面活性剤である請求項1又は2に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項4】
前記アニオン性基を有するバインダ樹脂が、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、及び酢酸ビニル樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項3に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項5】
前記アニオン性界面活性剤が、α−オレフィンスルホン酸塩である請求項3又は4に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項6】
前記めっき触媒化合物溶液が、貴金属塩化合物、スズ塩化合物、及び酸を含む水溶液であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項7】
前記貴金属塩化合物が塩化パラジウムであり、前記スズ塩化合物が塩化第一スズであることを特徴とする請求項6に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項8】
透明基材、前記透明基材の一方の表面上に形成された表面処理層、前記表面処理層上に形成されたパターン状の樹脂層、前記樹脂層上に形成されたパターン状のめっき触媒層、及び前記めっき触媒層上に形成されたパターン状の金属導電層を有し、
前記表面処理層が、アニオン性基を有する化合物を含む光透過性電磁波シールド材。
【請求項9】
前記アニオン性基が、−COOM、−SO3M、−OSO3M、及び−PO32(式中、Mは、水素原子、アルカリ金属原子、又はアルカリ土類金属原子を示す)よりなる群から選択される少なくとも一種である請求項8に記載の光透過性電磁波シールド材。
【請求項10】
前記アニオン性基を有する化合物が、アニオン性基を有するバインダ樹脂、及び/又はアニオン性界面活性剤である請求項8又は9に記載の光透過性電磁波シールド材。
【請求項11】
前記アニオン性基を有するバインダ樹脂が、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、及び酢酸ビニル樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項10に記載の光透過性電磁波シールド材。
【請求項12】
前記アニオン性界面活性剤が、α−オレフィンスルホン酸塩である請求項10又は11に記載の光透過性電磁波シールド材。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−29354(P2011−29354A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172683(P2009−172683)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】