説明

光通信システム及び方法、送信機及び受信機、量子暗号鍵配付システム及び方法

【課題】信号処理速度を犠牲にせずに、使用する乱数量を削減して、低廉簡易なシステム構成とする。
【解決手段】この量子暗号鍵配付システムは、Alice(送信機)1とBob(受信機)3との双方に設けられ、予め決められたブロック(空間的時間的範囲)内の複数の光パルスには同じ値の変調を施す位相変調器(変調器)14、31と、Bob3に設けられ、ビットとして暗号鍵情報を付与された光パルスを検出するための光パルス検出器35、36と、Alice1とBob3との双方に設けられ、光パルス検出器35、36にて同一のブロック内で複数の光パルスが検出されると、これらの光パルスに付与されたビットの全部又は一部を破棄する鍵情報破棄手段プロセッサ(鍵情報破棄手段)17、37とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微弱な光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ量子暗号鍵を配布する光通信システム及び方法、送信機及び受信機、量子暗号鍵配付システム及び方法、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットトラフィックの急激な成長が継続している現状において、伝送帯域を向上させることは最重点課題の一つである。このことは、基幹系光ネットワークにおいても例外ではなく、伝送路や中継器を増設することなく既存のインフラを利用して伝送容量を拡大するために、様々な研究機関が1搬送波当たりの信号速度の高速化に取り組み、実際の商用伝送システムでも信号速度は高速化し続けている。
【0003】
一般的な光通信技術では、主として2値振幅変調(Amplitude Shift Keying、以下、ASKという)方式が採用されているため、1ビット当たりのタイムスロットを短くすることによって1搬送波当たりの信号速度を向上させるアプローチが主流であった。しかしながら、1搬送波当たりの信号速度が10Gb/sを超える頃から、ASKのみに依存する高速化開発は超え難き壁に直面した感がある。
【0004】
ASK方式による高速化を阻む要因の一つとして、光伝送路特有の波長分散による波形劣化を挙げることができる。波長分散とは、伝送路で生じる伝播遅延時間が信号光波長によって異なる現象のことである。信号光スペクトルは特定の波長範囲を有しているため、同一信号光内の短波長成分と長波長成分とが伝送中に異なる波長分散値を蓄積し、伝送後にはこの蓄積分散によって伝播遅延差、つまり波形歪みが生じるのである。ASK信号について考察すると、信号光スペクトルは変調速度に比例するため、信号速度が速くなる程、波長分散による波形歪みが大きくなる。一方、信号速度が速くなる程、1タイムスロットが短くなるため、同一量の波形歪み(伝播遅延差)を受ける場合でも、高速信号である程、この影響を大きく受けることになる。それゆえ、ASK方式では、伝送特性は信号速度の2乗に比例して劣化する、という問題を抱えている。
【0005】
そこで、ASK方式に代わる別のアプローチとして、1タイムスロットで表す状態を多値化して伝送帯域を向上させて、高速化を実現する技術も注目を集めている。例えば、非特許文献1の技術では、光の位相を4値変調することで伝送帯域を向上させ、また、非特許文献2、3の技術では、光の強度及び位相の両方を変調する振幅移送変調(APSK: Amplitude Phase Shift Keying)方式を用いて1シンボル(1搬送波及び1タイムスロット)で多くのデジタルビット数を表現している。
【0006】
ここで、光信号の位相を変調する場合、光信号をフォトダイオード(Photo Diode)等の光電変換モジュールで直接検波するだけでは位相情報が抽出できないため、受信側で参照光と信号光を干渉させた後に干渉後の光強度を読み取る等の検出方法を採る必要がある。
図7は、第1の関連技術として、隣接ビット間の位相差に情報を載せる差動位相シフト(Differential Phase Shift、以下、DPSという)方式を説明するための概念図で、特に、DPS信号の復号化を示している。このDPS方式では、受信側に、1ビット遅延の関係を有する二光線束を干渉させるためのマッハ・ツエンダー(Mach-Zehnder)干渉計71と、該マッハ・ツエンダー干渉計71の遅延量を温度で制御する温度調整器72とを設け、連続する2ビットの光信号パルスPa(同図の枠A)を干渉させて「0」又は「π」の位相情報を取り出すようにしている。ここで、前後2ビットの光信号パルスPaの位相差が0なら、干渉後は、同図の枠Bに示すように、光信号パルスPbとしてポート0に出力され、一方、前後2ビットの光信号パルスPaの位相差がπなら、干渉後は、同図の枠Cに示すように、光信号パルスPcとしてポート1に出力される。
【0007】
光信号の位相変調を利用する通信システムとして、量子暗号鍵配付(QKD:Quantum Key Distribution、量子暗号通信ともいう)技術を挙げることもできる(特許文献1、2、3)。量子暗号鍵配付方式では一般に通信媒体として単一光子を用い、光子の量子状態に情報を載せて伝送を行う。このとき、伝送路の盗聴者が伝送中の光子をタッピングする等して情報を盗み見したとする。ところで、光子の量子状態は、1度観測(盗聴)されると、ハイゼンベルグの不確定性原理により、必ず、別の量子状態に変化するので、正規の受信者が検出する受信データの統計値に変化が生じる。それゆえ、この変化を検出することにより、受信者は、盗聴の有無を確実に検出することができる。
【0008】
量子暗号鍵配付(QKD)方法では、例えば、送信者Aliceと受信者Bobとで光学干渉計を組織し、各々の光子に、送信者Alice及び受信者Bobとでそれぞれランダムに位相変調を施す。この変調位相深さの差によって「0」又は「1」の出力データを得、この後、出力データを測定したときの条件の一部分を、送信者Aliceと受信者Bobとで照合することによって、最終的に、送信者Alice-受信者Bob間で、同一ビット列を量子鍵として共有することができる。
【0009】
図8は、第2の関連技術として、単一方向型の量子暗号鍵配布システムの概略構成とその動作原理を示す模式図である。
このシステムでは、同図に示すように、送信機であるAlice8aと、光伝送路9と、該光伝送路7aを介してAlice8aから量子暗号鍵の配付を受ける受信機であるBob9aとから概略構成されている。
上記Alice8aは、パルス光源81と、1ビット遅延干渉計82と、温度調整器(TEC)83と、位相変調器(Mod)84と、2系統の乱数源(RND)85、86と、DAC(デジタル−アナログ変換器)87とから概略構成されている。また、Bob9aは、位相変調器(Mod)91と、1ビット遅延干渉計92と、温度調整器(TEC)93と、光子検出器(PD)94、95と、乱数源(RND)96とから概略構成されている。
【0010】
Alice8aとBob9aとの双方が備える1ビット遅延干渉計82、92は、一方向型の光干渉計であり、例えば、2入力2出力のマッハ・ツエンダー干渉計813から構成されている。温度調整器(TEC)83、93は、1ビット遅延干渉計82、92を温度制御して、遅延量を1ビットに設定する。このような構成により、Alice8aからBob9aへに対して、光伝送路7aを介して、一方向通信が可能となっている(特許文献2)。第2の関連技術では、図8に示すように、Alice8a側も1ビット遅延干渉計82を備えるようにしたのは、DPS方式を採用する第1の関連技術のように、隣接ビット間に情報を載せる方式では、ローカルオシレータを準備した盗聴者によって盗聴される虞があり、そうなると、暗号鍵配付の安全性が損なわれるためである。
【0011】
Alice8aでは、図8に示すように、パルス光源81が光パルス列(ΔT間隔)Pdを発生する。この光パルス列(ΔT間隔)Pdは、1ビット遅延干渉計82によって遅延量ΔTの2連パルス列Peへと変換され、位相変調器84によって各々のパルス対の間にφAの位相差を与えるように変調Pfを施される。例えば、BB84プロトコルと呼ばれる量子暗号鍵配付(QKD)アルゴリズムでは、位相差φAは0、π、π/2、3π/2の4値の値を採り、各パルス対に対して、この4値がランダムに割り当てられる。各パルス対に対して、π、π/2、3π/2の4値をランダムに割り当てるために、上記したように、Alice8a内には2系統の乱数源85、86と、これらの乱数を足し合わせるDAC87が設けられている。
【0012】
Bob9aでは、光伝送路7aを介して、Alice8aから送られてきた光信号パルスPfに対し、位相変調器91によって再びパルス対の間にφBの位相差を与えるように変調Pgを施し、遅延量ΔTの1ビット遅延干渉計93を用いてパルス対を干渉させ、干渉結果Ph,Piを光子検出器94、95で読み取る構成となっている。Bob9a側の位相変調は0、π/2の2値をランダムに割り当てて行われ、上記したように、このための乱数源96を備えている。パルス対Pgの位相差Δφ(=φA+φB)が0なら、干渉後の光信号パルスPhは、光子検出器94に出力され、パルス対の位相差Δφがπなら、干渉後の光信号パルスPiは、光子検出器95に出力される。
【0013】
しかしながら、第2の関連技術では、現在のところ、光子検出器(PD)94、95の動作速度制限から、システムの繰り返し周波数(1/ΔT)は1GHz程度までの高速化が実現されているものの、この動作速度に対応する1ビット遅延干渉計の遅延量は〜500ps(〜10cm)と非常に長く、安定した特性を得るためには干渉計の温度制御を0.01K単位で行う必要がある、等の問題を抱えている。
【0014】
また、非特許文献4には、第3の関連技術として、BB84プロトコルと呼ばれる量子暗号鍵配布アルゴリズムが示されている。
図9は、第3の関連技術としてのBB84プロトコル(量子暗号鍵配布アルゴリズム)を説明するための説明図である。
この方法では、4通りの量子状態を利用する。Alice8bが、乱数1を発生する図示せぬ第1の乱数源と乱数2を発生する図示せぬ第2の乱数源とを持ち、乱数1で「0」又は「1」の暗号鍵データを表し、乱数2で乱数1の情報をコーディングする方法(基底)を決定するようにしている。
コヒーレントな2パルス間の位相差を利用して4状態のコーディングを行う量子暗号鍵配付方法では、図9に示すように、位相0が暗号鍵「0」、位相πが暗号鍵「1」の組(コーディングセット)を表す基底(該基底を「X基底」と称する)と、位相π/2が暗号鍵「0」、位相3π/2が暗号鍵「1」を表す基底(該基底を「Y基底」と称する)との2組の基底を乱数2で選択する。
つまり、Alice8bは、1つの光子に対して、0、π/2、π、3π/2の4通りの変調をランダムに施して、光伝送路7b経由でBob9bへ送信する。一方、Bob9bでは、同図に示すように、基底に対応する乱数3を発生する図示せぬ乱数源を持ち、Alice8bから送られてきた光子に対してデコードを行う。
【0015】
Bob9bでは、乱数3の値が「0」であるときは、光子に対して位相0(X基底)の変調を施す一方、乱数3の値が「1」であるときには、位相π/2(Y基底)の変調を施す構成とされている。Bob9bの乱数4には、Bob9bの光学干渉計出力として得られる乱数が例示されている。Alice8b/Bob9bの両方が施した変調の基底が同一であるときは(Alice8b側の乱数2=Bob9b側の乱数3)、同図に示されるように、乱数1の値をBob9bは正しく検出することができる(Alice8b側の乱数1=Bob9b側の乱数4)。これに対して、Alice8b/Bob9bの両者が施した変調の基底が異なるときは(Alice8b側の乱数2≠Bob9b側の乱数3)、Alice8b側の乱数1の値に依らず、Bob9bは乱数4として「0」又は「1」の値をランダムに得る。
【0016】
乱数1、2、3は、共に、1ビット毎に変化する乱数であるため、基底が一致する確率と不一致である確率は共に50%となるが、後段の基底照合(Basis Reconciliation)の処理によって、基底が不一致となるビットを削除するため、Alice8bとBob9bとは、乱数1に対応する0/1ビット列を量子鍵として共有することができる。ここで、基底不一致ビットを削除する前の暗号鍵を「生鍵」と呼び、基底不一致ビットを削除した後の暗号鍵を「シフト鍵」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2006−229608号公報
【特許文献2】特開2007−286551号公報
【特許文献3】特開2008−294946号公報
【非特許文献1】「Gb/s Optical Differential Quadrature Phase Shift Key (DQPSK) Transmission using GaAs/AlGaAs Integration」, R. A. Griffin et al., OFC2002, PD-FD6
【非特許文献2】「Proposal of 8-state Symbol (Binary ASK and QPSK) 30-bit/s Optical Modulation /Demodulation Scheme」, S. Hayase et al., ECOC2003, Th.2.6.4
【非特許文献3】「Quaternary Optical ASK-DPSK and Receivers With Direct Detection」, M. Ohm et al.,IEEE Photonics Technology Letters, Vol.15, No.1, p.159
【非特許文献4】「Quantum Cryptography: Public Key Distribution and Coin Tossing」, IEEE Int. Conf.on Computers, Systems, and Signal Processing, Bangalore, India, p.175, Bennet, Brassard
【非特許文献5】「Quantum Key Distribution with High Loss: Toward Global Secure Communication」, W. Y. Hwang, Physical Review Letters, Vol.91, 057901
【非特許文献6】「Reduced randomness in quantum cryptography with sequences of qubits encoded in the same basis」, L.-P. Lamoureux et al., Physical Review A, Vol.73, 032304
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところで、量子暗号鍵配付の鍵生成速度向上は、光子信号を送信するパルス繰り返し周波数を高くしたり、波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)技術等を利用して複数の光子伝送を並列に送る等の方法を採ることにより実現できるが、これに伴い使用する乱数の量が増加する、という問題が生じる。一例として光パルスの繰り返し周波数をF[Hz]とすると、図9に示すように、Alice側には2*F[Hz]、Bob側にはF[Hz]の乱数発生器が必要となる。非特許文献5に記載のデコイ(Decoy)法を適用すると、必要となる乱数量はさらに増加する。デコイ法では、4値の強度(平均光子数)を表すためには、最低でも2ビットの乱数が必要となるため、Alice側に必要な乱数量は4*F[Hz]となる。一方、これらの乱数は事前に予測可能なものではあってはならないため、疑似乱数は望ましくなく、完全乱数であることが望ましい。しかしながら、完全乱数源として、熱雑音や光子検出を利用した物理乱数モジュールが市販されているものの、その速度は数MHzに留まっているため、光パルスの繰り返し周波数Fが数GHzに至るような高速システムを実現することは難しく、それゆえ、使用する乱数量を削減する方法が要望されている。
【0019】
非特許文献6では、ビット列をブロック毎に区切り(Nビットを1ブロックとする)、ブロック毎に基底変調を一定値とすることによって乱数量を削減する方法が提唱されている。しかしながら、非特許文献6の方法では、信号処理を行う際の符号長(Mビットを符号長とする)に対してNビットが十分小さい場合を想定しており、換言すると、充分長い符号長での信号処理が必要となる。一方、信号処理の中には、第4の関連技術として、図10に示すようなランダムパーミュテーションや、第5の関連技術として、図11に示すような秘匿性増強といった、符号長に応じて飛躍的に処理時間が長くなる処理があるため、符号長は可能な限り短くする必要がある。また、この際のNビットとMビットの関係が満たすべき条件に関しては、非特許文献6中には言及されていない。それゆえ、非特許文献6の技術では、乱数量を削減できるものの、その分、ランダムパーミュテーションや秘匿性増強処理に過大の時間を要し、全体として、高速システムを実現することが困難である。
【0020】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、信号処理の際の符号長の増大を招くことなく(したがって、信号処理時間を長くすることなく)、加えて、システム性能も落とさずに、使用する乱数量を削減でき、もって、低廉コストかつ簡易に具現できる光通信システム及び方法、送信機及び受信機、量子暗号鍵配付システム及び方法、並びにプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、この発明の第1の構成は、微弱な光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ情報を通信する光通信システムに係り、前記送信機及び受信機の一方又は双方に設けられ、予め決められた空間的時間的範囲内の複数の前記光パルスには同じ値の変調を施す変調器と、前記受信機に設けられ、前記光パルスを検出するための光パルス検出器と、前記送信機及び受信機の双方に設けられ、前記光パルス検出器にて同一の前記空間的時間的範囲内で前記複数の光パルスが検出されると、これらの光パルスに付与された前記ビットの全部又は一部を破棄する破棄手段とを備えてなることを特徴としている。
【0022】
この発明の第2の構成は、微弱な光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ情報を通信する光通信方法に係り、前記送信機及び受信機の一方又は双方にて、予め決めた空間的時間的範囲内の複数の前記光パルスには同じ値の変調を施す変調処理と、前記受信機にて、前記光パルスを検出する光パルス検出処理と、前記送信機及び受信機の双方にて、前記光パルス検出処理によって同一の前記空間的時間的範囲内で前記複数の光パルスが検出されると、これらの光パルスに付与された前記ビットの全部又は一部を破棄する破棄処理とを含んでなることを特徴としている。
【0023】
この発明の第3の構成は、受信機が、前記光通信システムを構成する前記変調器と、前記光パルス検出器と、前記破棄手段とを備えてなることを特徴としている。
【0024】
この発明の第4の構成は、送信機が、前記光通信システムを構成する前記変調器と、前記受信機の前記破棄手段の動作結果に基づいて、動作する前記破棄手段を備えてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
この発明の構成によれば、複数の光子パルスに対して同じ基底変調を施すことで使用する乱数量を大幅に削減する構成としたので、乱数源モジュールの搭載量や構成部品数を削減することができる。とりわけ、量子暗号鍵配付(量子暗号通信)システムにWDM技術を適用する際には、安価な構成でシステムを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の第1の実施形態である量子暗号鍵配付システムの構成を示すブロック図である。
【図2】同システムで、ブロック毎に平均1光子が検出される様子を説明するための概念図である。
【図3】この発明の第2の実施形態である量子暗号鍵配付システムの構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、同システムで、波長毎に光子が独立に検出される様子を説明するための概念図である。
【図5】この発明の第3の実施形態である量子暗号鍵配付システムの構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の第4の実施形態である量子暗号鍵配付システムの構成を示すブロック図である。
【図7】第1の関連技術として、隣接ビット間の位相差に情報を載せる差動位相シフト(DPS)方式を説明するための図で、特に、DPS信号の復号化を示す概念図である。
【図8】第2の関連技術として、単一方向型の量子暗号鍵配布システムの概略構成とその動作原理を示す模式図である。
【図9】第3の関連技術として、BB84プロトコル(量子暗号鍵配布アルゴリズム)を説明するための説明図である。
【図10】第4の関連技術の説明として、量子暗号鍵配付方法に伴う信号処理のうち、ランダムパーミュテーションの説明を行う概念図である。
【図11】第5の関連技術の説明として、量子暗号鍵配付方法に伴う信号処理のうち、秘匿性増強の説明を行う概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明の好適な実施形態(その1)として、送信機及び受信機の一方又は双方に、乱数源によって駆動され、複数のビット時間からなるブロック内の複数の前記光パルスには同じ値の変調(好適には、基底変調)を施す変調器を設け、前記受信機に、暗号鍵情報を付与された前記光パルス(光子)を検出するための光パルス(光子)検出器を設け、送信機及び受信機の双方に、前記光パルス検出器にて同一の前記ブロック内で複数の前記光パルスが検出されると、当該ブロックを破棄する鍵情報破棄手段を設けるようにすることで、この発明の目的を実現した。
この発明の好適な実施形態(その2)として、送信機及び受信機の一方又は双方に、乱数源によって駆動され、複数のビット時間からなるブロック内の複数の前記光パルスには同じ値の変調を施す変調器を設け、受信機に、ビットとして暗号鍵情報を付与された前記光パルス(光子)を検出するための光パルス(光子)検出器を設け、送信機及び受信機の双方に、前記光パルス検出器にて同一の前記ブロック内で複数の前記光パルスが検出されると、当該ブロックから、1の光パルスに付与された前記ビットを残して、他を破棄する鍵情報破棄手段を設けるようにすることで、この発明の目的を実現した。
【0028】
この発明の好適な実施形態(その3)として、送信機及び受信機の一方又は双方に、乱数源によって駆動され、同一のタイムスロット(ビット時間)内では前記複数波長の光パルスには同じ値の変調(好適には、基底変調)を施す変調器を設け、受信機に、ビットとして暗号鍵情報を付与された前記複数波長の光パルス(光子)をそれぞれ検出するための複数の光パルス(光子)検出器を設け、送信機及び受信機の双方に、前記光パルス検出器にて前記複数波長の光パルスが同時検出されると、これらの光パルスに付与された全てのビットを破棄する鍵情報破棄手段を設けるようにすることで、この発明の目的を実現した。
【0029】
この発明の好適な実施形態(その4)として、送信機及び受信機の一方又は双方に、乱数源によって駆動され、同一のタイムスロット内では前記複数波長の光パルスには同じ値の変調を施す変調器を設け、受信機に、ビットとして暗号鍵情報を付与された前記複数波長の光パルス(光子)をそれぞれ検出するための複数の光パルス(光子)検出器を設け、送信機及び受信機の双方に、前記光パルス検出器にて前記複数波長の光パルスが同時検出されると、これらの光パルスに付与された全ビットのうち、1波長分のビットを残して、他を破棄する鍵情報破棄手段を設けるようにすることで、この発明の目的を実現した。
【0030】
前記送信機には、光源から出射する波長の光強度を1光子/パルス以下に抑圧して、単一光子からなる光パルスを生成する光減衰器を備えるのが好ましい。
【実施形態1】
【0031】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、この発明の第1の実施形態である量子暗号鍵配付システムの構成を示すブロック図、また、図2は、同システムで、ブロック毎に平均1光子が検出される様子を説明するための概念図である。
この実施形態は、BB84プロトコル対応のシステムに係り、受信機(Bob3)側で、時間軸の長さで画定されたブロック内の複数の光子パルスには同じ値の基底変調を施すと共に、光子パルスを検出する光パルス検出器(ゲートモード光子検出器35、36)が、同一のブロック内で複数の光子パルスを検出すると、当該ブロックを破棄する構成となっている。以下の説明を容易とするため、この実施形態では、10ビットを1ブロックとして、ブロック内での基底変調が固定される。
【0032】
この実施形態の量子暗号鍵配付システムは、図1に示すように、送信機であるAlice1と、光伝送路2と、該光伝送路2を介してAlice1から量子暗号鍵の配付を受ける受信機であるBob3とから概略構成されている。
Alice1は、同図に示すように、光子パルスの生成を行うレーザダイオード(LD: Laser Diode)11と、図示せぬ光減衰器と、2入力2出力のマッハ・ツエンダー干渉計12と、温度調整器13と、位相変調器14と、レーザダイオード11を駆動するクロック源15と、乱数源16と、量子暗号鍵配付プログラム(以下、簡単に、処理プログラムという)と、信号処理を行うプロセッサ17とから構成されている。
上記光減衰器は、レーザダイオード11から出射する波長の光強度を1光子/パルス以下に抑圧して、単一光子パルスを生成する。マッハ・ツエンダー干渉計12は、光減衰器によって減衰された光子パルスを時間分離して2連光子パルスを出力する。上記温度調整器13は、マッハ・ツエンダー干渉計12の遅延量の温度制御を行う。位相変調器14は、2つに時間分離した2連光子パルスに所定の位相差を加える機能を備えている。
【0033】
乱数源16は、この実施形態では、4通りのランダムな量子状態を利用するため、「0」又は「1」の暗号鍵データを表す乱数1と、基底を決定する乱数2とを発生する。乱数2によって、例えば、位相0が暗号鍵「0」、位相πが暗号鍵「1」の組を表す「X基底」と、位相π/2が暗号鍵「0」、位相3π/2が暗号鍵「1」を表す「Y基底」との2組の基底とが選択的に決定される(図9参照)。
乱数源16の駆動により、Alice1は、1つの光子に対して、0、π/2、π、3π/2の4通りの変調をランダムに施して、光伝送路2経由でBob3へ送信する。
【0034】
処理プログラムは、ROM等の内部記憶装置や磁気ディスク等の外部記憶装置からプロセッサ17に読み込まれ、プロセッサ17の動作を制御する。
上記プロセッサ17は、処理プログラムの制御の下で、フレーム同期を行うステップS11と、(Bob3側の)光子検出器35、36がブロック内に複数ビット(光子パルス)を検出すると、当該ブロックを破棄するステップS12(ブロック破棄処理)と、基底照合を行うステップS13と、誤り訂正を行うステップS14と、秘匿性増強を行うステップS15とを実行する。
【0035】
Bob3は、同図に示すように、位相変調器31と、マッハ・ツエンダー干渉計32と、温度調整器33と、乱数源34と、2つのゲートモード光子検出器(以下、簡単に光子検出器という)35、36と、図示せぬ処理プログラムと、信号処理を行うプロセッサ37とから構成されている。上記乱数源34は、基底に対応する乱数3を発生し、Alice1から送られてきた光子パルスに対してデコードを行う(図9参照)。
上記位相変調器31は、乱数源34の駆動に基づいて光伝送路2を介してAlice1から送られてきた2連光子パルスに再度位相差を与える。上記マッハ・ツエンダー干渉計32は、位相変調器31によって再度位相差を与えられた2連光子パルスを合波する。温度調整器33は、マッハ・ツエンダー干渉計32の遅延量の温度制御を行う。光子検出器35、36は、アバランシェフォトダイオード(APD:Avalanche Photo Diode、)からなっている。
【0036】
処理プログラムは、ROM等の内部記憶装置や磁気ディスク等の外部記憶装置からプロセッサ37に読み込まれ、プロセッサ37の動作を制御する。
上記プロセッサ37は、処理プログラムの制御の下で、フレーム同期を行うステップP11と、光子検出器35、36がブロック内に複数ビット(光子パルス)を検出すると、当該ブロックを破棄するステップP12(ブロック破棄処理)と、基底照合を行うステップP13と、誤り訂正を行うステップP14と、秘匿性増強を行うステップP15とを実行する。
【0037】
次に、図1及び図2を参照して、上記構成の動作について説明する。
Alice1では、図1に示すように、625MHzのクロック源15に同期した光子パルスがレーザダイオード11によって生成され、2入力2出力の非対称二光線束干渉計であるマッハ・ツエンダー干渉計12によって、時間分離された2連光子パルスへと変換される。この後、この2連光子パルスの片側の光位相を位相変調器14で変調することで、2連光子パルスの相対位相差(φA)をランダムに生成し、光伝送路2へと送り出す。
【0038】
2連光子パルスは、光伝送路2を通過してBob3へと到達し、その片側の光位相が位相変調器31によって変調される。ここでの位相変調は、乱数源34の駆動に基づいて、2連光子パルスの相対位相差(φB)が0、π/2となるようにランダムに変調を行う。この2連光子パルスを2入力2出力の非対称二光線束干渉計であるマッハ・ツエンダー干渉計32を用いて合波させることで、Alice1及びBob3で施した変調位相に従って、光子検出器35、36において検出される。具体的には、乱数源34の駆動に基づいて、位相変調器31によって再度与えられた2連光子パルスの位相差Δφが0なら、干渉後の光子パルスは、光子検出器35で検出され、2連光子パルスの位相差Δφがπなら、干渉後の光子パルスは、光子検出器36で検出される。
【0039】
ここで乱数源34では、図2に示すように、10ビットを1ブロックとして、ブロック毎に異なる基底変調を行う。つまり、この実施形態では、ブロック内では、基底変調が固定される。実際には、光伝送路2上の要因により、光子を検出できる確率は1/1000程度となるが、この実施形態では、説明の簡単のため、1/10程度の確率で光子を検出できるものとする。受信側では、10ビットを1ブロックとして基底変調を行い、光子検出を行うが、検出確率が1/10程度であるため、図2(a)に示すように、平均的に1ブロックに1ビットの検出を行うことができる。しかしながら、検出確率はあくまでも平均確率であるため、図2(b)の2ブロック目に示すように、1ブロック中に複数のビットを検出することも起こり得る。
【0040】
このとき、盗聴者が2ブロック目の情報を集中的に保有していると、安全性の劣化がその分増すので、ブロック破棄処理(図1のステップP12、S12)において、(実際に盗聴が検出されていると否とを問わず)この2ブロック目を破棄する。上記の通り、実際には、光子を検出できる確率は1/1000程度であるため、あるビットを検出できたブロック中に別のビットも検出できる確率は1/100程度になり、ここでの破棄分は、鍵生成速度に大きな劣化をもたらさないので、支障はない。
【0041】
このように、この実施形態によれば、ブロック内では、基底変調が固定されるので、使用する乱数量を大幅に削減でき、それゆえ、乱数源モジュールの搭載量や構成部品数を削減することができる。このため、安価で簡易な量子暗号通信システムを構築できる。
【実施形態2】
【0042】
図3は、この発明の第2の実施形態である量子暗号鍵配付システムの構成を示すブロック図、また、図4は、同システムで、波長毎のブロック毎に平均1光子が検出される様子を説明するための概念図である。
この実施形態は、波長分割多重(WDM)方式採用で、BB84プロトコル対応のシステムに係り、受信機(Bob6a)側で、同一のタイムスロット(ビット時間)内では複数波長の光子パルスには同じ値の基底変調を施すと共に、光パルス検出器651、661、…、658、668が、複数波長の光子パルスを同時検出すると、これらの光子パルスに付与された全てのビットを破棄する構成となっている。
説明の便宜のため、8波長を波長分割多重(WDM)技術によって合波して伝送する場合を取り扱う。
【0043】
この実施形態の量子暗号鍵配付システムは、図3に示すように、送信機であるAlice4aと、光伝送路5aと、該光伝送路5aを介してAlice4aから量子暗号鍵の配付を受ける受信機であるBob6aとから概略構成されている。
Alice4aは、同図に示すように、互いに異なる波長λ、λ、…λを有する8波長の光子パルスの生成を行う、8個のレーザダイオード(LD)411、412、…、418と、図示せぬ8個の光減衰器と、2入力2出力のマッハ・ツエンダー干渉計42と、温度調整器(TEC)43と、8個の位相変調器(Mod)441、442、…、448と、クロック源451、452、…、458と、可変遅延器461、462、…、468と、位相変調器441、442、…、448を駆動する乱数源47と、例えば、WDMフィルタからなる光合波器481、482と、WDMフィルタからなる光分波器483と、量子暗号鍵配付プログラム(以下、簡単に、処理プログラムという)と、信号処理をおこなうプロセッサ49とから構成されている。
【0044】
上述の各レーザダイオード(LD)411、412、…、418は、対応する波長の光子パルスを生成する。各クロック源451、452、…、458は、対応するレーザダイオード411、412、…、418を駆動する。各可変遅延器461、462、…、468は、対応するクロック源451、452、…、458からの駆動信号に遅延を与えてレーザダイオード411、412、…、418に供給する。各光減衰器は、対応するレーザダイオードから出射する波長の光強度を1光子/パルス以下に抑圧して、単一光子パルスを生成する。上記光合波器481は、各光減衰器によって減衰された8波長λ、λ、…λの光子パルスを合波してマッハ・ツエンダー干渉計42に向けて出力する。
【0045】
上記マッハ・ツエンダー干渉計42は、光減衰器によって減衰生成された単一光子の光子パルスを時間分離して、8波長の2連光子パルスを出力する。上記温度調整器43は、マッハ・ツエンダー干渉計42の遅延量の温度制御を行う。上記光分波器483は、マッハ・ツエンダー干渉計42から入力される多重化された2連光子パルスを8波長λ、λ、…λの2連光子パルスに分岐して、対応する位相変調器441、442、…、448に向けて出力する。各位相変調器(Mod)441、442、…、448は、乱数源47の駆動に従って、8波長の2連光子パルスに所定の位相差を加える機能を備えている。
【0046】
乱数源47は、この実施形態では、4通りのランダムな量子状態を利用するため、「0」又は「1」の暗号鍵データを表す乱数1と、基底を決定する乱数2とを発生する。乱数2によって、例えば、位相0が暗号鍵「0」、位相πが暗号鍵「1」の組を表す「X基底」と、位相π/2が暗号鍵「0」、位相3π/2が暗号鍵「1」を表す「Y基底」との2組の基底とが選択的に決定される(図9参照)。
乱数源16の駆動により、Alice4aは、1つの光子に対して、0、π/2、π、3π/2の4通りの変調をランダムに施して、光伝送路5経由でBob6aに送信する。
上記光合波器482は、位相変調器441、442、…、448から入力される8波長λ、λ、…λの2連光子パルスを合波して、光伝送路5aを介してBob6aに送信する。
【0047】
処理プログラムは、ROM等の内部記憶装置や磁気ディスク等の外部記憶装置からプロセッサ49に読み込まれ、プロセッサ49の動作を制御する。
上記プロセッサ49は、処理プログラムの制御の下で、フレーム同期を行うステップS21と、(Bob6a側の)光パルス検出器651、661、…、658、668が複数波長の光子パルスを同時検出すると、これらの光子パルスに付与された全てのビットを破棄するステップS22(同時計測ビット破棄処理)と、基底照合を行うステップS23と、誤り訂正を行うステップS24と、秘匿性増強を行うステップS25とを実行する。
【0048】
Bob6aは、位相変調器61と、該位相変調器61を駆動する乱数源62と、マッハ・ツエンダー干渉計63と、温度調整器64と、APDを使用した2つの光子検出器651、652、…、658、661、662、…、668と、WDMフィルタからなる光分波器671、672と、図示せぬ処理プログラムと、信号処理を行うプロセッサ68とから構成されている。上記乱数源62は、基底に対応する乱数3を発生し、Alice4aから送られてきた光子パルスに対してデコードを行う(図9参照)。
上記位相変調器61は、乱数源62の駆動に従って、光伝送路5aを介してAlice4aから送られてきた多重2連光子パルスに再度位相差を与える。上記マッハ・ツエンダー干渉計63は、位相変調器61によって再度位相差を与えられた多重2連光子パルスを合波して単一の光子パルスを生成する。温度調整器64は、マッハ・ツエンダー干渉計63の遅延量の温度制御を行う。上記光分波器671、672は、マッハ・ツエンダー干渉計63から入力される多重光子パルスを8波長λ、λ、…λの単一光パルスに分岐して、対応する光子検出器651、652、…、658、661、662、…、668に向けて出力する。上記光パルス検出器651、661、…、658、668は、アバランシェフォトダイオード(APD)からなっている。
【0049】
処理プログラムは、ROM等の内部記憶装置や磁気ディスク等の外部記憶装置からプロセッサ68に読み込まれ、プロセッサ68の動作を制御する。
上記プロセッサ68は、処理プログラムの制御の下で、フレーム同期を行うステップP21と、光子検出器651、652、…、658、661、662、…、668が、全体として、複数波長の光子パルスを同時スロットで検出すると、当該ブビットを破棄するステップP22(同時計測ビット破棄処理)と、基底照合を行うステップP23と、誤り訂正を行うステップP24と、秘匿性増強を行うステップP25とを実行する。
ここで、この実施形態において、Alice4a側のマッハ・ツエンダー干渉計42とBob6a側のマッハ・ツエンダー干渉計63とは、長短両経路の位相差が、波長単位の精度で一致しているものを用いるのが好ましい。
【0050】
次に、この実施形態の動作について説明する。
Alice4aでは、625MHzのクロック源451、452、…、458に同期した8波長の光子パルスがレーザダイオード411、412、…、418によって生成され、マッハ・ツエンダー干渉計42によって時間分離されて、8波長の2連光子パルスへと変換される。この後、乱数源16の駆動に基づいて、波長毎の2連光子パルスの片側の光位相を位相変調器441、442、…、448で変調することで、波長毎の2連光子パルスの相対位相差(φA)を0、π/2、π、3π/2の4通りにランダムに生成する。上記光合波器482は、位相変調器441、442、…、448から入力される8波長λ、λ、…λの2連光子パルスを合波して、光伝送路5aを介してBob6aに送信する。
【0051】
多重2連光子パルスは伝送路5を通過してBob6aへと到達し、その片側の光位相が位相変調器61によって変調される。ここでの位相変調は、乱数源62の駆動に基づいて、多重2連光子パルスの相対位相差(φB)が0、π/2となるようにランダムに変調を行う。次に、多重2連光子パルスをマッハ・ツエンダー干渉計63を用いて合波させることで、Alice4a及びBob6aで施した変調位相に従って、光パルス検出器651、661、…、658、668によって検出される。
【0052】
Bob6aでは、図4に示すように、乱数源62に従って位相変調器61によって、8波長の信号全てに同じ値の基底変調が施される。実際には光子を検出できる確率は、光伝送路上の要因から、1/1000程度となるが、この実施形態では、簡単のため、1/10程度の確率で光子パルスを検出できるものとする。図3に示すように、各波長独立に1/10の確率で受信できるため、殆んどのビット時間では、1波長の光子パルスしか受信されないが、例えば、図3の13ビット目に示すように、同一ビット時間に複数波長の光子パルスが検出されることも起こり得る。
【0053】
このとき、盗聴者が13ビット目の情報を集中的に保有していると、安全性の劣化がその分増すので、同時計測ビット破棄(ステップP22、S22)において、(実際に盗聴が検出されていると否とを問わず)この13ビット目を破棄する。Alice4aのプロセッサ49は、Bob6aのプロセッサ68の動作結果(ステップP22)に基づいて、同時計測ビット破棄を実行する(ステップS22)。
上記の通り、実際には光子を検出できる確率は1/1000程度であるため、ある波長の光子を検出できたビットに別の波長の光子も検出できる確率は1/100程度になり、ここでの破棄分は、鍵生成速度に大きな劣化をもたらさないので、支障はない。
【0054】
この実施形態によれば、上述の第1の実施形態で述べたと略同様の効果を得ることができる。加えて、送信機側で、可変遅延器461、462、…、468でレーザダイオード411、412、…、418から出力される光子パルスのタイミングを制御できる構成であるので、各波長光子パルスを伝送後に、受信機側で単一の位相変調器61で同時変調できる。それゆえ、受信側では、複数波長の光子パルスに対して(位相変調器の増加を招くことなく)単一の位相変調器61を使用して基底変調を同時に行う構成であるので、安価で簡易な量子暗号通信システムを構築できる。
【実施形態3】
【0055】
図5は、この発明の第3の実施形態である量子暗号鍵配付システムの構成を示すブロック図である。
量子暗号システムにWDMを適用する場合には、図5に示すような構成も採ることができる。この実施形態でも複数波長の信号に対して同じ基底変調を行うが、第2の実施形態との違いは、Bob6b内の位相変調器611、612、…、618を複数設けることによって、Alice4b内での光パルスのタイミング制御を不要としている点である。図5のような構成でも使用する乱数量(乱数源モジュールの搭載量や構成部品数)を削減できる。
【実施形態4】
【0056】
また、上記実施形態では、送信機と受信機が保有する干渉計の遅延量の差が波長単位で一致していることを前提としていたが、図6に示すように、Alice4cとBob6cとに、波長毎にマッハ・ツエンダー干渉計421、422、…、428、631、632、…、638を準備することで、干渉計の遅延量がモジュール毎に異なるような場合でもこの発明を適用することは可能である。
【0057】
以上、この発明の一実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。例えば、上述の実施形態では、1ビット遅延二光線束干渉計として、マッハ・ツエンダー干渉計を用いたが、これに限らず、マイケルソン(Michelson)干渉計を用いても良い。
【0058】
また、上述の第1の実施形態では、10ビットを1ブロックとして基底変調を固定するようにしたが、基底変調を固定するブロック長は10ビットに限らず、必要に応じて、増減できる。また、上述の第1の実施形態では、受信側の基底変調のみをブロック単位で固定するようにしたが、これに代えて、送信側の基底変調のみをブロック単位で固定するようにしても良く、あるいは、受信側と送信側の双方の基底変調をブロック単位で固定するようにしても良い。
また、上述の第1の実施形態では、複数ビットが検出されたブロックを全て破棄したが、これに代えて、1ビットのみを残して残りのビットを破棄しても良い。すなわち、1ブロック中に2ビット検出したブロックからは1ビットを破棄、1ブロック中に3ビット検出したブロックからは2ビットを破棄となる。
【0059】
また、上述の第2の実施形態では、8波長の光子パルスを束ねるようにしたが、これに限らず、必要に応じて、波長数を増減できる。また、上述の第2の実施形態では、受信側の基底変調のみを同時変調するようにしたが、これに代えて、送信側の基底変調のみを同時変調しても良く、あるいは、受信側と送信側の双方の基底変調を同時変調するようにしても良い。
また、上述の第2の実施形態では、複数波長が同時に検出されたビットを全て破棄したが、これに代えて、1波長分のみを残して残りの波長分を破棄してもよい。すなわち、1ビットで2波長検出したビットでは1波長分破棄、1ビットで3波長検出したビットでは2波長分破棄、というようにビット破棄を行う。
【0060】
上述の実施形態では、光子信号の位相に情報を載せて鍵共有を行う量子暗号システムについて述べたが、これに代えて、偏光等の他のパラメータを利用することによって、この発明を適用できることは勿論である。また、上述の実施例では、光子パルスを用いる量子暗号鍵配布システムについて述べたが、これに限らず、微弱な光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ情報を通信する光通信システムに広く適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
量子暗号鍵配付技術に代表される位相変調及び偏光変調を利用する光干渉通信システムに適用可能である。量子暗号鍵配付方法は往復型、一方向型を問わず、そのプロトコルも問わない。
【符号の説明】
【0062】
1、4a、4b、4c 送信機(Alice)
11、411、412、…、418 レーザダイオード(LD、光源)
12、42、421、422、…、428 マッハ・ツエンダー干渉計
13、43、431、432、…、438 温度調整器
14、441、442、…、448 位相変調器(変調器)
15、451、452、…、458 クロック源
16、47 乱数源
461、462、…、468 可変遅延器
481、482 光合波器(WDMフィルタ)
483 光分波器(WDMフィルタ)
17、49 プロセッサ(鍵情報破棄手段)
S11、S21 フレーム同期
S12 ブロック破棄
S22 同時計測ビット破棄
S13、S23 基底照合
S14、S24 誤り訂正
S15、S25 秘匿性増強
2、5 光伝送路
3、6a、6b、6c 受信機(Bob)
32、63、641、642、…、648 マッハ・ツエンダー干渉計
33、64、641、642、…、648 温度調整器
31、61、611、612、…、618 位相変調器(変調器)
35、36、651、661、…、658、668 ゲートモード光子検出器(光子検出器)
34、62 乱数源
671、672、673、675 光分波器(WDMフィルタ)
674 光合波器(WDMフィルタ)
37、68 プロセッサ(鍵情報破棄手段)
P11、P21 フレーム同期
P12 ブロック破棄
P22 同時計測ビット破棄
P13、P23 基底照合
P14、P24 誤り訂正
P15、P25 秘匿性増強



【特許請求の範囲】
【請求項1】
微弱な光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ情報を通信する光通信システムであって、
前記送信機及び受信機の一方又は双方に設けられ、予め決められた空間的時間的範囲内の複数の前記光パルスには同じ値の変調を施す変調器と、
前記受信機に設けられ、前記光パルスを検出するための光パルス検出器と、
前記送信機及び受信機の双方に設けられ、前記光パルス検出器にて同一の前記空間的時間的範囲内で前記複数の光パルスが検出されると、これらの光パルスに付与された前記ビットの全部又は一部を破棄する破棄手段とを備えてなることを特徴とする光通信システム。
【請求項2】
微弱な光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ情報を通信する光通信システムであって、
前記送信機及び受信機の一方又は双方に設けられ、時間の長さで画定されたブロック内の複数の前記光パルスには同じ値の変調を施す変調器と、
前記受信機に設けられ、前記光パルスを検出するための光パルス検出器と、
前記送信機及び受信機の双方に設けられ、前記光パルス検出器にて同一の前記ブロック内で複数の前記光パルスが検出されると、当該ブロックを破棄する破棄手段とを備えてなることを特徴とする光通信システム。
【請求項3】
微弱な光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ情報を通信する光通信システムであって、
前記送信機及び受信機の一方又は双方に設けられ、時間の長さで画定されたブロック内の複数の前記光パルスには同じ値の変調を施す変調器と、
前記受信機に設けられ、前記光パルスを検出するための光パルス検出器と、
前記送信機及び受信機の双方に設けられ、前記光パルス検出器にて同一の前記ブロック内で複数の前記光パルスが検出されると、当該ブロックから、1の光パルスに付与された前記ビットを残して、他を破棄する破棄手段とを備えてなることを特徴とする光通信システム。
【請求項4】
共に微弱な複数波長の光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ情報を通信する光通信システムであって、
前記送信機及び受信機の一方又は双方に設けられ、同一のタイムスロット内では前記複数波長の光パルスには同じ値の変調を施す変調器と、
前記受信機に設けられ、前記複数波長の光パルスをそれぞれ検出するための複数の光パルス検出器と、
前記送信機及び受信機の双方に設けられ、前記光パルス検出器にて前記複数波長の光パルスが同時検出されると、これらの光パルスに付与された全てのビットを破棄する破棄手段とを備えてなることを特徴とする光通信システム。
【請求項5】
共に微弱な複数波長の光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ情報を通信する光通信システムであって、
前記送信機及び受信機の一方又は双方に設けられ、同一のタイムスロット内では前記複数波長の光パルスには同じ値の変調を施す変調器と、
前記受信機に設けられ、前記複数波長の光パルスをそれぞれ検出するための複数の光パルス検出器と、
前記送信機及び受信機の双方に設けられ、前記光パルス検出器にて前記複数波長の光パルスが同時検出されると、これらの光パルスに付与された全ビットのうち、1波長分のビットを残して、他を破棄する破棄手段とを備えてなることを特徴とする光通信システム。
【請求項6】
前記ブロックは、予め決められた複数のビット時間からなることを特徴とする請求項2又は3記載の光通信システム。
【請求項7】
前記タイムスロットは、予め決められたビット時間に相当することを特徴とする請求項4又は5記載の光通信システム。
【請求項8】
前記変調器は、前記変調として基底変調を施すことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載の光通信システム。
【請求項9】
前記変調器は、乱数源によって駆動されることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載の光通信システム。
【請求項10】
前記送信機には、光源から出射する波長の光強度を1光子/パルス以下に抑圧して、前記単一光子からなる前記光パルスを生成する光減衰器が備えられていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載の光通信システム。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか一に記載の光通信システムを構成する受信機であって、前記変調器と、前記光パルス検出器と、前記破棄手段とを備えてなることを特徴とする受信機。
【請求項12】
請求項1乃至10の何れか一に記載の光通信システムを構成する送信機であって、前記変調器と、前記受信機の前記破棄手段の動作結果に基づいて、動作する前記破棄手段を備えてなることを特徴とする送信機。
【請求項13】
請求項1乃至10の何れか一に記載の光通信システムにおいて、前記送信機から前記受信機に通信される情報が暗号鍵情報であることを特徴とする量子暗号鍵配布システム。
【請求項14】
微弱な光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ情報を通信する光通信方法であって、
前記送信機及び受信機の一方又は双方にて、予め決めた空間的時間的範囲内の複数の前記光パルスには同じ値の変調を施す変調処理と、
前記受信機にて、前記光パルスを検出する光パルス検出処理と、
前記送信機及び受信機の双方にて、前記光パルス検出処理によって同一の前記空間的時間的範囲内で前記複数の光パルスが検出されると、これらの光パルスに付与された前記ビットの全部又は一部を破棄する破棄処理とを含んでなることを特徴とする光通信方法。
【請求項15】
微弱な光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ情報を通信する光通信方法であって、
前記送信機及び受信機の一方又は双方にて、時間の長さで画定したブロック内の複数の前記光パルスには同じ値の変調を施す変調処理と、
前記受信機にて、情報を付与された前記光パルスを検出する光パルス検出処理と、
前記送信機及び受信機の双方にて、前記光パルス検出処理によって同一の前記ブロック内で複数の前記光パルスが検出されると、当該ブロックを破棄するブロック破棄処理とを備えてなることを特徴とする光通信方法。
【請求項16】
微弱な光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ情報を通信する光通信方法であって、
前記送信機及び受信機の一方又は双方にて、時間の長さで画定したブロック内の複数の前記光パルスには同じ値の変調を施す変調処理と、
前記受信機にて、情報を付与された前記光パルスを検出する光パルス検出処理と、
前記送信機及び受信機の双方にて、前記光パルス検出処理によって同一の前記ブロック内で複数の前記光パルスが検出されると、当該ブロックから、1の光パルスに付与された前記ビットを残して、他を破棄する部分ビット破棄処理とを含んでなることを特徴とする光通信方法。
【請求項17】
共に微弱な複数波長の光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ情報を通信する光通信方法であって、
前記送信機及び受信機の一方又は双方にて、同一のタイムスロット内では前記複数波長の光パルスには同じ値の変調を施す変調処理と、
前記受信機にて、情報を付与された前記複数波長の光パルスをそれぞれ検出するための複数の光パルス検出処理と、
前記送信機及び受信機の双方にて、前記光パルス検出処理によって前記複数波長の光パルスを同時検出されると、これらの光パルスに付与された全てのビットを破棄する全ビット破棄処理とを含んでなることを特徴とする光通信方法。
【請求項18】
共に微弱な複数波長の光パルスの位相又は偏光を変調して送信機から受信機へ情報を通信する光通信方法であって、
前記送信機及び受信機の一方又は双方にて、同一のタイムスロット内では前記複数波長の光パルスには同じ値の変調を施す変調処理と、
前記受信機にて、情報を付与された前記複数波長の光パルスをそれぞれ検出するための複数の光パルス検出処理と、
前記送信機及び受信機の双方にて、前記光パルス検出処理によって前記複数波長の光パルスを同時検出されると、これらの光パルスに付与された全ビットのうち、1波長分のビットを残して、他を破棄する部分ビット破棄処理とを含んでなることを特徴とする光通信方法。
【請求項19】
前記ブロックは、予め決められた複数のビット時間からなることを特徴とする請求項15又は16記載の光通信方法。
【請求項20】
前記タイムスロットは、予め決められたビット時間に相当することを特徴とする請求項17又は18記載の光通信方法。
【請求項21】
前記変調処理では、前記変調として基底変調を施すことを特徴とする請求項14乃至18の何れか一に記載の光通信方法。
【請求項22】
前記変調処理では、乱数源を用いて前記変調を施すことを特徴とする請求項14乃至18の何れか一に記載の光通信方法。
【請求項23】
前記送信機に、光源から出射する波長の光強度を1光子/パルス以下に抑圧して、前記単一光子からなる前記光パルスを生成する光減衰器を設けることを特徴とする請求項14乃至18の何れか一に記載の光通信方法。
【請求項24】
請求項14乃至21の何れか一に記載の光通信方法において、前記送信機から前記受信機に通信される情報が暗号鍵情報であることを特徴とする量子暗号鍵配布方法。
【請求項25】
コンピュータを請求項1乃至10の何れか一に記載の光通信システムの破棄手段として機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項26】
コンピュータを請求項11に記載の受信機の破棄手段として機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項27】
コンピュータを請求項12に記載の送信機の破棄手段として機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項28】
コンピュータに請求項14乃至23の何れか一に記載の光通信方法の各処理を実行させることを特徴とするプログラム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−233123(P2010−233123A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80681(P2009−80681)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/量子暗号の実用化のための研究開発課題」)は産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】