説明

光電変換モジュール及びその製造方法

【課題】微結晶シリコン層を発電層として含む光電変換装置において、フィルファクタを低下させることなく、開放電圧を向上させる。
【解決手段】p型ドーパントを含むp型層40、発電層となる微結晶シリコン層を含むi型層42及びn型ドーパントを含むn型層44の積層構造を備え、i型層42は、p型層40とn型層44との間に設けられ、50nm以上300nm以下の膜厚を有する微結晶炭化シリコン層42aを備える構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換モジュール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶、微結晶またはアモルファスシリコンを用いた太陽電池が知られている。特に、微結晶またはアモルファスシリコンの薄膜を積層した構造を有する光電変換装置は、資源消費の観点、コストの低下の観点および効率化の観点から注目されている。
【0003】
一般的に、光電変換装置は、表面が絶縁性の基板上に第1電極、1以上の半導体薄膜光電変換セル及び第2電極を順に積層して形成される。それぞれの光電変換ユニットは、光入射側からp型層、i型層及びn型層を積層して構成される。光電変換装置の変換効率を向上させる方法として、2種以上の光電変換セルを光入射方向に積層することが知られている。光電変換装置の光入射側にはバンドギャップが広い光電変換層を含む第1の光電変換ユニットを配置し、その後に第1の光電変換ユニットよりもバンドギャップの狭い光電変換層を含む第2の光電変換ユニットを配置する。これにより、入射光の広い波長範囲に亘って光電変換を可能にし、装置全体として変換効率の向上を図ることができる。例えば、アモルファスシリコン(a−Si)光電変換ユニットをトップセルとし、微結晶シリコン(μc−Si)光電変換ユニットをボトムセルとした構造が知られている。
【0004】
このような構造において、μc−Si光電変換ユニットのp型層とi型層との界面に介在層を設ける構成が開示されている。介在層としては、微結晶シリコンからなり、アモルファスシリコン成分のバンドギャップを増加させる炭素等の不純物を1×1020原子/cm以上含む膜厚10〜150Åの層としている(例えば、特許文献1参照)。また、μc−Si光電変換ユニットにおけるドーピング層とi型層との界面近傍のi型半導体層の形成面内に、主成分であるIV属元素の密度が小さくなっている低密度領域を離散的に存在させる技術も開示されている。主成分であるIV属元素がシリコンである場合、低密度領域には水素、炭素、窒素、酸素等を含有した膜厚3nm以上40nm以下の層を適用することが好ましいとされている(例えば、特許文献2参照)。また、μc−Si光電変換ユニットにおけるi型層としてシリコンゲルマニウム(SiGe)層とシリコン層とを積層させることにより光電変換効率を高める技術が開示されている。SiGe層は、25nm以上200nm以下と比較的厚い層とすることが好適であるとされている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−258286号公報
【特許文献2】特開平11−261087号公報
【特許文献3】特開2006−100611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微結晶シリコン層を発電層とするμc−Si光電変換ユニットを含む光電変換装置では、微結晶シリコン層が完全な結晶相ではなくアモルファス相を含むために開放電圧が0.5V程度と結晶シリコン層を発電層とする光電変換装置よりも大幅に低くなるという問題がある。
【0007】
上記特許文献1及び2には、基板上にn型層、i型層、p型層の順に形成され、基板と逆側から光を入射するタイプの光電変換装置において、p型層と界面に膜厚40nm以下の界面層として微結晶炭化シリコンのi型層を挟み込んだ構造についてデータが記載されている。しかし、基板上にp型層、i型層、n型層と形成され、基板側から光を入射するタイプの光電変換装置では、微結晶の成長方向の違いもあり、充分な効果が得られなかった。また、上記特許文献3では、微結晶シリコンゲルマニウム層と微結晶シリコン層との積層構造については開示されているが、微結晶炭化シリコン層と微結晶シリコン層との積層構造によってi型層を構成する技術は開示されていない。
【0008】
そこで、フィルファクタを低下させることなく開放電圧を向上させた光電変換装置を提供することが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様は、p型ドーパントを含むp型層、発電層となる微結晶シリコン層を含むi型層及びn型ドーパントを含むn型層の積層構造を備えた光電変換装置であって、i型層は、p型層とn型層との間に設けられ、50nm以上300nm以下の膜厚を有する微結晶炭化シリコン層を備える、光電変換装置である。
【0010】
本発明の別の態様は、p型ドーパントを含むp型層、発電層となる微結晶シリコン層を含むi型層及びn型ドーパントを含むn型層の積層構造を備えた光電変換装置の製造方法であって、p型層とn型層との間に、50nm以上300nm以下の膜厚を有する微結晶炭化シリコン層を形成する、光電変換装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光電変換装置における光電変換効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態における光電変換装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における光電変換装置のμc−Siユニットの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態における光電変換装置のμc−Siユニットの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施の形態における光電変換装置100の構造を示す断面図である。本実施の形態における光電変換装置100は、透明絶縁基板10を光入射側として、光入射側から、透明導電膜12、トップセルとして広いバンドギャップを有するアモルファスシリコン(a−Si)(光電変換)ユニット102、中間層14、ボトムセルとしてa−Siユニット102よりバンドギャップの狭い微結晶シリコン(μc−Si)(光電変換)ユニット104、第1裏面電極層16、第2裏面電極層18、充填材20及び保護膜22を積層した構造を有している。
【0014】
以下、本発明の実施の形態における光電変換装置100の構成及び製造方法について説明する。
【0015】
透明絶縁基板10は、例えば、ガラス基板、プラスチック基板等の少なくとも可視光波長領域において透過性を有する材料を適用することができる。透明絶縁基板10上に透明導電膜12が形成される。透明導電膜12は、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウム錫酸化物(ITO)等に錫(Sn)、アンチモン(Sb)、フッ素(F)、アルミニウム(Al)等をドープした透明導電性酸化物(TCO)のうち少なくとも一種類又は複数種を組み合わせて用いることが好適である。特に、酸化亜鉛(ZnO)は、透光性が高く、抵抗率が低く、耐プラズマ特性にも優れているので好適である。透明導電膜12は、例えば、スパッタリング等により形成することができる。透明導電膜12の膜厚は0.5μm以上5μm以下の範囲とすることが好適である。また、透明導電膜12の表面には光閉じ込め効果を有する凹凸を設けることが好適である。
【0016】
透明導電膜12上に、p型層、i型層、n型層のシリコン系薄膜を順に積層してa−Siユニット102を形成する。a−Siユニット102は、シラン(SiH)、ジシラン(Si)、ジクロルシラン(SiHCl)等のシリコン含有ガス、メタン(CH)等の炭素含有ガス、ジボラン(B)等のp型ドーパント含有ガス、フォスフィン(PH)等のn型ドーパント含有ガス及び水素(H)等の希釈ガスを混合した混合ガスをプラズマ化して成膜を行うプラズマCVDにより形成することができる。
【0017】
プラズマCVDは、例えば、13.56MHzのRFプラズマCVDを適用することが好適である。RFプラズマCVDは平行平板型とすることができる。平行平板型の電極のうち透明絶縁基板10を配しない側には原料の混合ガスを供給するためのガスシャワー孔を設けた構成としてもよい。プラズマの投入電力密度は、5mW/cm以上100mW/cm以下とすることが好ましい。
【0018】
一般的に、p型層、i型層、n型層はそれぞれ別の成膜室において成膜される。成膜室は、真空ポンプによって真空排気可能であり、RFプラズマCVDのための電極が内蔵される。また、透明絶縁基板10の搬送装置、RFプラズマCVDのための電源及びマッチング装置、ガス供給用の配管等が付設される。
【0019】
p型層は、透明導電膜12上に形成される。p型層は、p型ドーパント(ボロン等)をドープした膜厚10nm以上100nm以下のp型アモルファスシリコン層(p型α−Si:H)又はp型アモルファス炭化シリコン(p型α−SiC:H)とする。p型層の膜質は、シリコン含有ガス、炭素含有ガス、p型ドーパント含有ガス及び希釈ガスの混合比、圧力及びプラズマ発生用高周波パワーを調整することによって変化させることができる。i型層は、p型層上に形成されたドープされていない膜厚50nm以上500nm以下のアモルファスシリコン膜とする。i型層の膜質は、シリコン含有ガス及び希釈ガスの混合比、圧力及びプラズマ発生用高周波パワーを調整することによって変化させることができる。また、i型層は、a−Siユニット102の発電層となる。n型層は、i型層上に形成されたn型ドーパント(リン等)をドープした膜厚10nm以上100nm以下のn型アモルファスシリコン層(n型α−Si:H)又はn型微結晶シリコン層(n型μc−Si:H)とする。n型層の膜質は、シリコン含有ガス、炭素含有ガス、n型ドーパント含有ガス及び希釈ガスの混合比、圧力及びプラズマ発生用高周波パワーを調整することによって変化させることができる。
【0020】
a−Siユニット102上に、中間層14を形成する。中間層14は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化シリコン(SiOx)等の透明導電性酸化物(TCO)を用いることが好適である。特に、マグネシウムMgがドープされた酸化亜鉛(ZnO)や酸化シリコン(SiOx)を用いることが好適である。中間層14は、例えば、スパッタリング等により形成することができる。中間層14の膜厚は10nm以上200nm以下の範囲とすることが好適である。なお、中間層14は、設けなくてもよい。
【0021】
中間層14上に、図2の拡大断面図に示すように、p型層40、i型層42、n型層44を順に積層したμc−Siユニット104を形成する。μc−Siユニット104は、シラン(SiH)、ジシラン(Si)、ジクロルシラン(SiHCl)等のシリコン含有ガス、メタン(CH)等の炭素含有ガス、ジボラン(B)等のp型ドーパント含有ガス、フォスフィン(PH)等のn型ドーパント含有ガス及び水素(H)等の希釈ガスを混合した混合ガスをプラズマ化して成膜を行うプラズマCVDにより形成することができる。
【0022】
プラズマCVDは、例えば、13.56MHz又は27.12MHzのRFプラズマCVDを適用することが好適である。特に、p型層40及びn型層44には13.56MHzのRFプラズマCVDを適用し、i型層42には27.12MHzのRFプラズマCVDを適用することが好適である。RFプラズマCVDは平行平板型とすることができる。平行平板型の電極のうち透明絶縁基板10を配しない側には原料の混合ガスを供給するためのガスシャワー孔を設けた構成としてもよい。プラズマの投入電力密度は、5mW/cm以上100mW/cm以下とすることが好ましい。
【0023】
p型層40は、中間層14又はα−Siユニット102のn型層上に形成される。p型層40は、微結晶シリコン(μc−Si)層や微結晶炭化シリコン(μc−SiC)層とすることが好適である。また、p型層40は、アモルファスシリコン(α−Si)層等のアモルファス層としてもよい。p型層40は、p型ドーパント(ボロン等)をドープし、膜厚5nm以上50nm以下とすることが好適である。p型層40の膜質は、シリコン含有ガス、炭素含有ガス、p型ドーパント含有ガス及び希釈ガスの混合比、圧力及びプラズマ発生用高周波パワーを調整することによって変化させることができる。
【0024】
p型層40上にはi型層42を形成する。i型層42は、p型層40上に形成されたドープされていない膜厚0.5μm以上5μm以下の微結晶シリコン層又は微結晶炭化シリコン層とする。i型層42は、μc−Siユニット104の発電層となる。
【0025】
1つの実施の形態においてi型層42は、p型層40に接するように第1のi型層42aを形成し、第1のi型層42a上に第2のi型層42bを積層する。
【0026】
第1のi型層42aは、i型層42の初期層となる層であり、第2のi型層42bよりもワイドバンドギャップである微結晶炭化シリコン(μc−SiC)層とする。第1のi型層42aは、メタン(CH)/シラン(SiH)比が1/10以上1/6以下の原料ガスを水素(H)で50以上300以下倍に希釈した混合ガスを圧力133Pa以上4000Pa以下で導入してプラズマ成膜法によって形成することが好適である。このような条件により、第1のi型層42aに含有される炭素の濃度は1×1021/cm以上3×1021/cm以下の範囲とすることが好適である。第1のi型層42aに含有される炭素の濃度は、二次イオン分析装置により光電変換装置100の膜厚方向に測定することによって測定することができる。プラズマ成膜法としては、27.12MHz以上60MHz以下のRFプラズマ成膜法を適用することが好適である。また、成膜時の基板温度は150℃以上230℃以下とし、プラズマに対する導入電力は100mW/cm以上2000mW/cm以下とすることが好適である。
【0027】
第2のi型層42bは、第1のi型層42aよりもナローバンドギャップである微結晶シリコン(μc−Si)層とする。第2のi型層42bは、シラン(SiH)を原料ガスとして水素(H)で0.005以上0.1以下倍に希釈した混合ガスを圧力1330Pa以上4000Pa以下で導入してプラズマ成膜法によって形成することが好適である。プラズマ成膜法としては、27.12MHz以上60MHz以下のRFプラズマ成膜法を適用することが好適である。また、成膜時の基板温度は160℃以上230℃以下とし、プラズマに対する導入電力は100mW/cm以上2000mW/cm以下とすることが好適である。
【0028】
第1のi型層42aの膜厚は、50nm以上300nm以下とすることが好適である。p型層40との界面側に比較的厚いワイドバンドギャップの第1のi型層42aを設けることによって、フィルファクタを低下させることなくμc−Siユニット104の開放電圧を上昇させることができる。これによって、光電変換装置100の光電変換効率を向上させることができる。第1のi型層42aの膜厚を50nm未満とした場合には光電変換装置100の開放電圧又は短絡電流の十分な向上が得られず、膜厚を300nmより大きくした場合にはi型層42の直列抵抗が大きくなり過ぎて短絡電流やフィルファクタを低下させる可能性がある。
【0029】
なお、別の実施の形態においてi型層42は、図3に示すように、p型層40に接するように第2のi型層42bを形成し、第2のi型層42b上に第1のi型層42aを積層してもよい。これにより、短絡電流を向上させることができる。
【0030】
n型層44は、i型層42上に形成される。n型層44は、n型ドーパント(リン等)をドープした膜厚5nm以上50nm以下n型微結晶シリコン層(n型μc−Si:H)とする。ただし、μc−Siユニット104はこれに限定されるものではなく、発電層として以下に説明するi型微結晶シリコン層(i型μc−Si:H)が用いられるものであればよい。
【0031】
μc−Siユニット104上に、第1裏面電極層16、第2裏面電極層18として反射性金属と透明導電性酸化物(TCO)との積層構造を形成する。第1裏面電極層16としては、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウム錫酸化物(ITO)等の透明導電性酸化物(TCO)が用いられる。TCOは、例えば、スパッタリング等により形成することができる。また、第2裏面電極層18としては、銀(Ag)、アルミニウム(Al)等の金属が使用できる。第1裏面電極層16及び第2裏面電極層18は、合わせて1μm程度の膜厚とすることが好適である。第1裏面電極層16及び第2裏面電極層18の少なくとも一方には、光閉じ込め効果を高めるための凹凸が設けることが好適である。
【0032】
さらに、充填材20によって第2裏面電極層18の表面を保護膜22で被う。充填材20及び保護膜22は、EVA、ポリイミド等の樹脂材料とすることができる。これによって、光電変換装置100の発電層への水分の侵入等を防ぐことができる。
【0033】
なお、YAGレーザ(基本波1064nm、2倍波532nm)を用いて、透明導電膜12、a−Siユニット102、中間層14、μc−Siユニット104、第1裏面電極層16、第2裏面電極層18の分離加工を行うことによって、複数のセルを直列に接続した構成にしてもよい。
【0034】
<実施例>
以下、本発明の実施例及び比較例を示す。
【0035】
(実施例1〜4)
透明絶縁基板10として、55cm×65cm角,4mm厚のガラス基板を用いた。透明絶縁基板10上に、熱CVDにより透明導電膜12として表面に凹凸形状を有する600nm厚のSnOを形成した。この後、透明導電膜12をYAGレーザにて短冊状にパターニングした。YAGレーザは、波長1064nm、エネルギー密度13J/cm、パルス周波数3kHzのものを用いた。
【0036】
次に、α−Siユニット102のp型層,i型層及びn型層を順に積層した。a−Siユニット102のp型層,i型層及びn型層は、表1に示す成膜条件において形成した。次に、α−Siユニット102のn型層上に、μc−Siユニット104を形成した。μc−Siユニット104のp型層40,i型層42及びn型層44は、表2に示す成膜条件において形成した。i型層42は、第1のi型層42aをp型層40上に50nm,100nm,200nm及び300nmの膜厚で形成し、第1のi型層42aと第2のi型層42bの合計の膜厚が2μmとなるように第2のi型層42bの膜厚を調整して第1のi型層42a上に形成した。
【表1】

【表2】

【0037】
この後、透明導電膜12のパターンニング位置から50μm横の位置にYAGレーザを照射し、a−Siユニット102及びμc−Siユニット104を短冊状にパターニングした。YAGレーザは、エネルギー密度0.7J/cm、パルス周波数3kHzのものを用いた。
【0038】
次に、第1裏面電極層16としてZnO膜をスパッタリングにより形成し、第2裏面電極層18としてAg電極をスパッタリングにより形成した。この後、a−Siユニット102及びμc−Siユニット104のパターンニング位置から50μm横の位置にYAGレーザを照射し、第1裏面電極層16、第2裏面電極層18を短冊状にパターニングした。YAGレーザは、エネルギー密度0.7J/cm、パルス周波数4kHzのものを用いた。
【0039】
このように形成した光電変換装置を第1のi型層42aのそれぞれの膜厚について実施例1〜4とした。
【0040】
(比較例1〜3)
上記実施例1〜4と同様の形成条件において、第1のi型層42aを形成せず、膜厚2μmの第2のi型層42bをp型層40上に直接形成した光電変換装置を比較例1とした。
【0041】
また、上記実施例1〜4と同様の形成条件において、第1のi型層42aの膜厚を10nmとし、第2のi型層42bの膜厚を1600nmとした光電変換装置を比較例2とした。更に、上記実施例1〜4と同様の形成条件において、第1のi型層42aの膜厚を400nmとし、第2のi型層42bの膜厚を1600nmとした光電変換装置を比較例3とした。
【0042】
(実施例5)
上記実施例1〜4と同様の形成条件において、第1のi型層42aと第2のi型層42bの成膜順を逆にした光電変換装置を実施例5とした。すなわち、第2のi型層42bをp型層40上に形成した後、第2のi型層42b上に第1のi型層42aを形成した。第2のi型層42bの膜厚は1.9μmとし、第1のi型層42aの膜厚は0.1μmとした。
【0043】
(実施例6及び7)
上記実施例2と同様の形成条件において、第1のi型層42aを形成する際の原料ガスに含まれるメタン(CH)/シラン(SiH)比を変化させ、第1のi型層42aに含有される炭素の濃度が1×1021/cm及び3×1021/cmとなるように形成した光電変換装置をそれぞれ実施例6及び7とした。
【0044】
(比較例4〜6)
上記実施例2と同様の形成条件において、第1のi型層42aを形成する際の原料ガスに含まれるメタン(CH)/シラン(SiH)比を変化させ、第1のi型層42aに含有される炭素の濃度が8×1017/cm,6×1020/cm及び5×1021/cmとなるように形成した光電変換装置をそれぞれ比較例4〜6とした。
【0045】
表3に、実施例1〜4並びに比較例1〜3の光電変換装置の開放電圧Voc、短絡電流密度Jsc、フィルファクタFF及び効率ηを示す。比較例1の開放電圧Voc、短絡電流密度Jsc、フィルファクタFF及び効率ηの平均値をそれぞれ1として実施例1〜4の測定値を規格化して示している。
【表3】

【0046】
実施例1では、開放電圧Vocは増加しなかったが、短絡電流密度Jscが増加し、変換効率ηは2.5%向上した。実施例2〜4では開放電圧Voc及び短絡電流密度Jscが増加し、変換効率ηはそれぞれ4.0%,3.7%及び2.4%向上した。実施例1〜4では、開放電圧Voc及び短絡電流密度Jscの増加分に対して、フィルファクタFFの低下分は小さく、変換効率ηが向上した。これに対して、第1のi型層42aを10nmとした比較例2では、ほとんどのパラメータに変化はなく、第1のi型層42aがないときとほとんど変化はなかった。また、第1のi型層42aを400nmとした比較例3では、フィルファクタFFの低下分が大きくなり、変換効率ηが比較例1より小さくなった。なお、実施例5では、比較例1に対して短絡電流密度Jscが2%増加した。
【0047】
また、表4に示すように、実施例6及び7のように第1のi型層42aの炭素濃度を1×1021/cm又は3×1021/cmとした場合、開放電圧Voc及び短絡電流密度Jscが増加し、変換効率ηもそれぞれ4.0%及び3.6%向上した。これに対して、比較例4〜6のように、第1のi型層42aの炭素濃度を8×1017/cm,6×1020/cm及び5×1021/cmとした場合、変換効率ηは小さい値に留まった。
【表4】

【0048】
以上のように、本実施の形態のようにμc−Siユニット104のi型層42に比較的膜厚の大きい微結晶炭化シリコン層である第1のi型層42aを設けることによって開放電圧Voc又は短絡電流密度Jscを増加させつつ、フィルファクタFFの低下を抑えることができ、光電変換装置100の光電変換効率ηを向上させることができる。
【0049】
なお、本実施の形態では、アモルファスシリコン光電変換ユニット102と微結晶シリコン光電変換ユニット104とのタンデム構造を例に説明したが、これに限定されるものではなく、微結晶シリコン光電変換ユニット104のシングル構造でもよいし、アモルファスシリコン光電変換ユニット102以外の光電変換ユニットとの積層構造や3つ以上の光電変換ユニットの積層構造としてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 透明絶縁基板、12 透明導電膜、14 中間層、16 第1裏面電極層、18 第2裏面電極層、20 充填材、22 保護膜、40 p型層 42 i型層 42a 第1のi型層、42b 第2のi型層、44 n型層、100 光電変換装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型ドーパントを含むp型層、発電層となる微結晶シリコン層を含むi型層及びn型ドーパントを含むn型層の積層構造を備えた光電変換装置であって、
前記i型層は、前記p型層と前記n型層との間に設けられ、50nm以上300nm以下の膜厚を有する微結晶炭化シリコン層を備えることを特徴とする光電変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光電変換装置であって、
前記微結晶炭化シリコン層は、前記p型層と前記微結晶シリコン層との間に配置されることを特徴とする光電変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載の光電変換装置であって、
前記微結晶炭化シリコン層は、前記微結晶シリコン層と前記n型層との間に配置されることを特徴とする光電変換装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の光電変換装置であって、
前記微結晶炭化シリコン層は、炭素を1×1021/cm以上3×1021/cm以下の濃度で含むことを特徴とする光電変換装置。
【請求項5】
p型ドーパントを含むp型層、発電層となる微結晶シリコン層を含むi型層及びn型ドーパントを含むn型層の積層構造を備えた光電変換装置の製造方法であって、
前記p型層と前記n型層との間に、50nm以上300nm以下の膜厚を有する微結晶炭化シリコン層を形成することを特徴とする光電変換装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の光電変換装置の製造方法であって、
前記微結晶炭化シリコン層は、シランに対してメタンを1/10以上1/6以下の割合で供給して形成することを特徴とする光電変換装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−176084(P2011−176084A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38467(P2010−38467)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】