説明

光電変換装置、及び光電変換装置の製造方法

【課題】隣接する光電変換部間の距離が小さくなった場合における光電変換部の感度の低下を抑制する。
【解決手段】半導体基板SBに配された複数の光電変換部と、前記複数の光電変換部を互いに分離するように前記半導体基板に配された分離部103とを備え、前記光電変換部は、第1の導電型と反対の第2の導電型の不純物を含む第2の半導体領域と、前記第2の半導体領域の下に配され、前記第2の半導体領域より低い濃度で前記第2導電型の不純物を含む第3の半導体領域と、前記第3の半導体領域の下に配され、前記第1導電型の不純物を含む第4の半導体領域とを含み、前記分離部103は、前記半導体基板SBの表面より深い位置であって少なくとも前記第2の半導体領域の側方に配され、前記第1導電型の不純物を含む第5の半導体領域と、前記第5の半導体領域の下方であって少なくとも前記第3の半導体領域の側方に配される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光電変換装置、及び光電変換装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CMOSセンサなどの光電変換装置には、画素の微細化と画素の感度向上とが要求されている。
【0003】
特許文献1に記載された固体撮像装置では、フォトダイオードのN型エピタキシャル層とN型ドレイン拡散領域(FD)との間に、P型分離層及びP型ウエル層が配されている。また、フォトダイオードのN型エピタキシャル層と隣接画素におけるフォトダイオードのN型エピタキシャル層との間に、P型分離層及びP型ウエル層が配されている。これにより、特許文献1によれば、フォトダイオードで発生した電子がN型エピタキシャル層を囲んでいる種々のポテンシャルバリアにより確実にN型エピタキシャル層に蓄積され、画素の感度が向上するとされている。
【0004】
特許文献1の公報には、N型シリコン基板にボロンをイオン注入することにより、P型分離層及びP型ウエル層をそれぞれ形成することが記載されている。具体的には、プロセス条件の一例として、1200KeVのエネルギーで6X1011/cmのdose量のボロンをイオン注入することによりP型分離層を形成している。500KeVのエネルギーで1012/cm2のdose量のボロンをイオン注入することによりP型ウエル層を形成している。
【0005】
P型分離層及びP型ウエル層の形成後に熱処理を行った場合、ボロンが拡散する傾向にあるので、フォトダイオードのカソードとなるN型エピタキシャル領域の体積が小さくなる可能性がある。これにより、フォトダイオードのN型エピタキシャル領域内に溜められる電荷の量が減少するので、画素におけるフォトダイオードの感度が低下する可能性がある。すなわち、隣接するフォトダイオード(光電変換部)間の距離が近くなった場合に、フォトダイオード(光電変換部)の感度が低下する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-193547号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、隣接する光電変換部間の距離が近くなった場合における光電変換部の感度の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1側面に係る光電変換装置は、半導体基板に配された複数の光電変換部と、前記複数の光電変換部を互いに分離するように前記半導体基板に配された分離部とを備え、前記光電変換部は、第1導電型と反対導電型の第2導電型の不純物を含む第2の半導体領域と、前記第2の半導体領域の下に配され、前記第2の半導体領域より低い濃度で前記第2導電型の不純物を含む第3の半導体領域と、前記第3の半導体領域の下に配され、前記第1導電型の不純物を含む第4の半導体領域とを含み、前記分離部は、前記半導体基板の表面より深い位置であって少なくとも前記第2の半導体領域の側方に配され、前記第1導電型の不純物を含む第5の半導体領域と、前記第5の半導体領域の下方であって少なくとも前記第3の半導体領域の側方に配され、前記第1導電型の不純物を含む第6の半導体領域とを含み、前記第5の半導体領域に含まれる不純物の拡散係数は、前記第6の半導体領域に含まれる不純物の拡散係数より小さいことを特徴とする。
【0009】
本発明の第2側面に係る撮像システムは、本発明の第1側面に係る光電変換装置と、前記光電変換装置の撮像面へ像を形成する光学系と、前記光電変換装置から出力された信号を処理して画像データを生成する信号処理部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の第3側面に係る光電変換装置の製造方法は、半導体基板を有する光電変換装置の製造方法であって、前記半導体基板における複数の光電変換部を互いに分離すべき領域に素子分離部を形成する第1の工程と、前記素子分離部が露出されるように形成された第1のレジストパターンをマスクとして第1導電型の第1の不純物を前記半導体基板に注入することにより、前記半導体基板における前記素子分離部の下方に第1の半導体領域を形成する第2の工程と、前記第1のレジストパターンをマスクとして前記第1導電型の第2の不純物を前記半導体基板に注入することにより、前記半導体基板における前記第1の半導体領域の下方に第2の半導体領域を形成する第3の工程と、複数の前記素子分離部の間の領域が露出されるように形成された第2のレジストパターンをマスクとして前記第1導電型と反対導電型の第2導電型の不純物を前記半導体基板に注入することにより、前記半導体基板における複数の前記素子分離部の間に前記光電変換部における電荷蓄積領域を形成する第4の工程とを備え、前記第1の不純物の拡散係数は、前記第2の不純物の拡散係数より小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、隣接する光電変換部間の距離が近くなった場合における光電変換部の感度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る光電変換装置100の断面構成を示す図。
【図2】本発明の実施形態に係る光電変換装置の製造方法を示す工程断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る光電変換装置の製造方法を示す工程断面図。
【図4】本発明の実施形態に係る光電変換装置の製造方法を示す工程断面図。
【図5】砒素の横方向拡散プロファイルのシミュレーション結果を示す図。
【図6】リンの横方向拡散プロファイルのシミュレーション結果を示す図。
【図7】本発明の他の実施形態に係る光電変換装置100の断面構成を示す図
【図8】本発明の実施形態に係る光電変換装置を適用した撮像システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係る光電変換装置100を、図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る光電変換装置100の断面構成を示す図である。図1には、1画素に対応した画素領域PRが示されている。
【0014】
光電変換装置100は、複数の光電変換部PD及び分離部IPを備える。
【0015】
複数の光電変換部PDは、半導体基板SBに配されている。半導体基板SBは、例えば、主としてシリコンで形成されている。複数の光電変換部PDは、図示しないが、上面視において1次元状又は2次元状に配列されている。半導体基板SBには、全ての画素領域PRに渡って延びた下地領域101及び埋め込みN層102が表面SBaから深い位置に配されている。下地領域101は、半導体基板SBにおける不純物が注入されなかった領域である。下地領域101は、第2導電型(例えば、P型)の不純物を含む。埋め込みN層102は、下地領域101の上に配されている。埋め込みN層102は、第1導電型(例えば、N型)の不純物を、下地領域101における第2導電型の不純物の濃度より高い濃度で含む。第2導電型は、第1導電型の反対導電型である。埋め込みN層102は、例えばリンの高加速注入にて形成することが可能である。
【0016】
各光電変換部PDは、光に応じた電荷対を発生させて一方の電荷(例えば、ホール)を蓄積する。各光電変換部PDは、例えば、フォトダイオードである。各光電変換部PDは、電荷蓄積領域(第2の半導体領域)107、有効感度領域(第3の半導体領域)109、及び埋め込み領域(第4の半導体領域)102を含む。102aは有効感度領域109と埋め込み領域102とのPN接合界面を示している。また、絶縁膜界面での暗電流を抑制するために表面領域(第1の半導体領域)108を設けて、埋め込み型のフォトダイオードとしても良い。
【0017】
電荷蓄積領域107は、表面領域108の下に配されている。電荷蓄積領域107は、第2導電型(例えば、P型)の不純物を下地領域101より高い濃度で含む。電荷蓄積領域107は、例えば、ボロンのイオン注入を行うことにより形成されている。電荷蓄積領域107は、P型の不純物を含む場合、ホールを蓄積する。
【0018】
表面領域108は、第1導電型(例えば、N型)の不純物を有効感度領域109より高い濃度で含む。表面領域108は、例えば砒素のイオン注入を行うことにより形成されている。表面領域108により光電変換部であるフォトダイオードが埋め込み型フォトダイオードとなるので、半導体基板SBの表面SBaのダングリングボンドに起因する暗電流の発生を抑制することができる。
【0019】
有効感度領域109は、電荷蓄積領域107の下に配されている。有効感度領域109は、第2導電型(例えば、P型)の不純物を電荷蓄積領域107より低い濃度で含む。有効感度領域109は、ボロンのイオン注入を行うことによって形成することも可能であるが、半導体基板SBにおける不純物が注入されなかった領域とすることも可能である。
【0020】
界面領域102aは、埋め込みN層102における有効感度領域109の下に配された部分の領域である。
【0021】
分離部IPは、複数の光電変換部PDを互いに分離するように半導体基板SBに配されている。ここで分離とは、少なくとも電荷蓄積領域107どうしを電気的に分離することを意味する。より好ましくは、有効感度領域109どうしをも電気的に分離しても良い。これに対して、表面領域108、埋め込み領域102は分離する必要は無い。分離部IPは、複数の光電変換部PDを互いに分離するように、複数の光電変換部PDの間を短冊状に又は格子状に延びている。分離部IPは、素子分離部103、第1の分離領域(第5の半導体領域)104、第2の分離領域(第6の半導体領域)105、及び第3の分離領域(第6の半導体領域)106を含む。
【0022】
素子分離部103は、第1の分離領域104の上に配されている。素子分離部103は、光電変換部PDにおける表面領域108の側方に配されている。素子分離部103は、シリコン酸化物などの絶縁物で形成されている。素子分離部103は、例えば、STI(Shallow Trench Isolation)型の構造を有していても良いし、LOCOS(LOCal Oxidation of Silicon)型の構造を有していても良い。または拡散分離を用いても良い。
【0023】
第1の分離領域104は、素子分離部103の底部を覆うように、素子分離部103の下に配されている。第1の分離領域104は、半導体基板SBの表面SBaより深い位置であって少なくとも電荷蓄積領域107の側方に配されている。有効感度領域109の側方まで配されていてもよい。第1の分離領域104は、第1導電型の不純物を含む。第1の分離領域104に含まれる不純物は、例えば、N型の不純物である砒素を主成分としている。第1の分離領域104は、例えば、砒素のイオン注入を行うことにより形成されている。
【0024】
第2の分離領域105は、第1の分離領域104の下方に配されている。第2の分離領域105は、少なくとも有効感度領域109の側方に配されている。更に、電荷蓄積領域107の側方に配されていても良い。第2の分離領域105に含まれる不純物は、例えば、N型の不純物であるリンを主成分としている。第2の分離領域105は、例えばリンのイオン注入を行うことにより形成されている。
【0025】
第3の分離領域106は、第2の分離領域105の下方に配されている。第3の分離領域106は、第1の分離領域104の下方であって有効感度領域109の側方に配されている。更に、電荷蓄積領域107の側方に配されていても良い。第3の分離領域106に含まれる不純物は、例えば、N型の不純物であるリンを主成分としている。第3の分離領域106は、例えば、リンのイオン注入を行うことにより形成されている。
【0026】
ここで、第1の分離領域104に含まれる不純物(例えば、砒素)の質量は、第2の分離領域105又は第3の分離領域106に含まれる不純物(例えば、リン)の質量より大きい。これに応じて、第1の分離領域104に含まれる不純物の拡散係数は、第2の分離領域105又は第3の分離領域106に含まれる不純物の拡散係数より小さい。これにより、光電変換部PDで発生した電荷が隣接する光電変換部PDへ漏れることを防止しながら、第1の分離領域104に含まれる不純物が電荷蓄積領域107へ拡散することを低減できる。すなわち、隣接する光電変換部の間に電荷のポテンシャル障壁を確実に形成できるとともに電荷蓄積領域107の体積の減少を抑制できるので、隣接する光電変換部間の距離が近くなった場合における光電変換部の感度の低下を抑制することができる。
【0027】
本実施形態によれば、分離領域をN型で形成し、かつ浅い領域と深い領域とにおいてイオン種を異ならせている。砒素のイオン注入における注入プロファイルでは、横方向の広がりが小さく、砒素の熱による拡散係数が小さい。そのため、第1の分離領域104を砒素にて形成することにより第1の分離領域を狭く形成することが可能である。これにより、光電変換部PDの電荷蓄積領域107を大きくレイアウトすることが可能となる。また、光電変換部PDの電荷蓄積領域107と第1の分離領域104との間にレイアウト上で隙間を設けて設計した際に、接合部分の濃度を低くし、電界を緩和する方法をとることができる。この場合にも、第1の分離領域104の横広がりが小さい事から、接合部分の不純物濃度を効率的に低減することが可能である。これらにより接合部分の電界を緩和することで、暗電流、暗時輝点の少ないセンサを実現することが可能となる。
【0028】
さらに、本発明者の実験によれば、シリコン基板中にボロンを注入することにより形成したP型の半導体領域とリンを注入することにより形成したN型の半導体領域との接合部分において、暗電流、暗時輝点の発生が多いことが判明している。それに対して、ボロンを注入することにより形成したP型の半導体領域と砒素を注入することにより形成したN型の半導体領域との接合部分においては、暗電流、暗時輝点の発生が少ないことが判明している。このような差異が生じる理由は、シリコン中のイオンの半径がリンより砒素の方が大きいためであると思われる。砒素はシリコンに比較してイオンの半径raがわずかに大きい。砒素のra=1.18Åであり対シリコン比は1.00855である。それに対して、リンは、シリコンに比較してイオンの半径が小さい。リンのra=1.1Åであり対シリコン比は0.940171である。このことにより、リンでは格子歪をもたらしていると考えられる。
【0029】
本実施形態によれば、例えば、光電変換部PDの電荷蓄積領域107がボロンを不純物として含み第1の分離領域104が砒素を不純物として含む。このため、電荷蓄積領域107と第1の分離領域104との接合部分における暗電流、暗時輝点の発生を抑制できる。
【0030】
また、本実施形態では、例えば、第3の分離領域106をリンのイオン注入を行うことにより形成している。この効果について説明する。光電変換部PDの感度、特に波長の長い入射光に対して高い感度を得るためには光電変換部PDを深く形成する必要がある。そのため、本件では埋め込みN層102は、例えばリンの高加速注入にて形成している。リンは砒素に比べて質量が小さく、同じ加速エネルギーでもより深くまで侵入するためである。埋め込みN層102を深く形成した際、第3の分離領域106が浅すぎると隣の光電変換部PDとの分離が十分に行なわれず、混色やブルーミングを引き起こす。そのため、第3の分離領域106を深くに注入することが必要であり、リンにて形成することが性能面、生産性、コストにおいて有利である。なお、第2の分離領域105は本実施形態ではリンにて形成しているが、砒素を選択することも可能である。
【0031】
本実施形態の構造における注入の加速エネルギーについて記述する。
【0032】
埋め込みN層102については、リンを500keV〜10MeV程度の加速エネルギーにて注入し形成することができる。工程のコストを考慮すると、さらに望ましくは3〜5MeV程度の加速エネルギーにて形成することができる。第1の分離領域104については、砒素を300keV〜2MeV程度の加速エネルギーにて注入し形成することができる。さらに望ましくは500keV〜900keV程度で形成することが可能である。第2の分離領域105については、リンを500keV〜3MeV程度の加速エネルギーにて注入し形成することができる。さらに望ましくは800keV〜1.5MeV程度の加速エネルギーにて形成することができる。本実施形態では第2の分離領域105をリンで形成したが、砒素で形成することも可能である。第3の分離領域106については、リンを1MeV〜9MeV程度の加速エネルギーにて注入し形成することができる。さらに望ましくは1MeV〜2MeV程度の加速エネルギーにて形成することができる。光電変換部PDの電荷蓄積領域107はボロンを50〜200keV程度の加速エネルギーにて注入し形成することができる。光電変換部PDの表面領域108は砒素を30〜120keV程度の加速エネルギーにて注入し形成することができる。
【0033】
次に、本発明の実施形態に係る光電変換装置の製造方法を、図2A〜図4Cを用いて説明する。図2A〜図4Cは、本発明の実施形態に係る光電変換装置の製造方法を示す工程断面図である。
【0034】
図2Aに示す工程では、半導体基板SBに第1導電型の不純物のイオン注入を行うことにより、埋め込みN層102を形成する。この工程における第1導電型の不純物は、例えば、N型の不純物であるリンである。
【0035】
図2Bに示す工程(第1の工程)では、半導体基板SBにおける複数の光電変換部を互いに分離すべき領域に溝を形成しその溝に絶縁物を埋め込むことにより、STI型の素子分離部103を形成する。
【0036】
図3Aに示す工程(第2の工程)では、レジストを塗布後、露光工程にてパターニングすることにより、素子分離部が露出されるように第1のレジストパターン110を形成する。第1のレジストパターン110をマスクとして第1導電型の第1の不純物を半導体基板SBに注入することにより、半導体基板SBにおける素子分離部103の下に第1の分離領域104’を形成する。この工程における第1導電型の第1の不純物は、例えば、N型の不純物である砒素である。
【0037】
図3Bに示す工程(第3の工程)では、第1のレジストパターン110をマスクとして第1導電型の第2の不純物を半導体基板SBに注入することにより、半導体基板SBにおける第1の分離領域104’の下方に第2の分離領域105’を形成する。また、第1のレジストパターン110をマスクとして第1導電型の第2の不純物を半導体基板SBに注入することにより、半導体基板SBにおける第1の分離領域104’の下方に第3の分離領域106’を形成する。この工程における第1導電型の第2の不純物は、例えば、N型の不純物であるリンである。
【0038】
ここで、各注入条件は上述の条件で行なうことができる。また、本実施形態では、第1の分離領域104’、第2の分離領域105’及び第3の分離領域106’を同一のレジストパターンにて形成することが可能である。そのため、工程数が増えることなく、安価に製造することが可能である。加えて、アライメントのずれによる特性の製造ばらつきの発生を抑制することができる。
【0039】
図3Cに示す工程では、第1のレジストパターン110を除去する。
【0040】
図4Aに示す工程では、レジストを塗布後、露光工程にてパターニングすることにより、複数の素子分離部の間の領域が露出されるように、第2のレジストパターン(図示せず)を形成する。第2のレジストパターンをマスクとして第2導電型の不純物を半導体基板SBに注入することにより、半導体基板SBにおける複数の素子分離部103の間に光電変換部PDにおける電荷蓄積領域107を形成する。この工程における第2導電型の不純物は、例えば、P型の不純物であるボロンである。
【0041】
図4Bに示す工程では、第2のレジストパターンをマスクとして第1導電型の不純物を半導体基板SBに注入することにより、半導体基板SBにおける複数の素子分離部103の間に光電変換部PDにおける表面領域108を形成する。この工程における第1導電型の不純物は、例えば、N型の不純物である砒素である。
【0042】
図4Cに示す工程では、熱拡散(熱処理)を行なうことにより、第1の分離領域104、第2の分離領域105及び第3の分離領域106を安定化させる。この熱拡散を行なった際、第1の分離領域104’に含まれた砒素はその拡散係数が小さく注入直後のプロファイルに対してさほど拡散しない。
【0043】
例えば900℃で1時間程度の熱拡散の影響についてのシミュレーション結果を図5および図6に示す。図5は、砒素の横方向拡散プロファイルのシミュレーション結果を示す図である。図6は、リンの横方向拡散プロファイルのシミュレーション結果を示す図である。図5及び図6において、縦軸が濃度の大きさを示し、横軸が基準位置からの横方向の距離を示す。また、図5及び図6において、黒色のプロットが熱拡散を行う前のプロファイルを示し、白色のプロットが熱拡散を行った後のプロファイルを示す。
【0044】
図6に示すように、第1の分離領域104に含まれる不純物としてリンを用いた場合、注入後の工程の熱により大きく拡散し、光電変換部PDの電荷蓄積領域107を圧迫する結果となり光電変換部PDの電荷蓄積領域107に蓄積できる電荷の量が減少する。加えて、光電変換部PDの電荷蓄積領域107と第1の分離領域104との間に濃い濃度で接合が形成され、電界が集中し暗電流、暗時輝点が発生する。
【0045】
一方、図5に示すように、第1の分離領域104に含まれる不純物として砒素を用いた場合、注入後の工程の熱による拡散が小さいことがわかる。これにより、光電変換部PDの電荷蓄積領域107を圧迫しにくく、加えて、光電変換部PDの電荷蓄積領域107と第1の分離領域104との間に濃い濃度で接合が形成されにくい。このため、光電変換部PDの電荷蓄積領域107に蓄積できる電荷の量の減少を抑制できるとともに、電荷蓄積領域107と第1の分離領域104との接合部分における電界の集中を抑制して暗電流及び暗時輝点の発生を低減できる。
【0046】
本発明の実施形態においては、第1から第3の分離領域を注入した後に与える熱工程の温度、時間を調整することにより、第2の分離領域105及び第3の分離領域106のそれぞれの幅を調整することも可能である。結果として、熱工程の調整により隣接画素間のクロストーク、基板方向への電荷の溢れ出し量制御などの設計が可能となる。
【0047】
このように、質量の大きい元素ほど拡散係数が小さく第1の分離領域104を形成する上で望ましい。また、イオン注入の深さは同じ加速エネルギーであれば質量の小さい元素ほど深く侵入しやすいため、第3の分離領域106を形成する不純物としては質量の小さい元素を用いることが望ましい。これにより、画素サイズを微細化しつつも、感度と飽和出力の大きな画素を実現することができる。また、暗電流、暗時輝点の少ない画素を実現することができる。故に高精細、高いS/N比で、ダイナミックレンジの広い光電変換装置を提供することが可能となる。
【0048】
図7に本発明のさらに別の実施形態に係る光電変換装置100の断面図を示す。上述の実施例の構成と同一の機能を有する部分には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。本実施例と上述の実施例との違いは撮像光の入射する方向である。本実施例においては、紙面下方向、すなわち配線が設けられた側とは反対の方向から撮像光が入射する、いわゆる裏面入射構造となっている。
【0049】
801は、光電変換部や各トランジスタの半導体領域などが形成される基板(以下便宜上PD形成基板と称する)である。PD形成基板801の第一主面側(表面側)には、配線層802が積層される。配線層802の上部、すなわちPD形成基板801とは反対側に、主として基板強度を保つことを目的として、支持基板803が設けられる。PD形成基板801の第二主面側(裏面側)、すなわち配線層802の反対側には、酸化膜804、保護膜805を介して、必要に応じて光学機能部806が形成される。光学機能部806には例えばカラーフィルタ、マイクロレンズ、平坦化膜などが含まれる。
【0050】
このように本実施形態は、配線層が設けられる側とは反対側、すなわち裏面側から撮像光が入射する、いわゆる裏面照射型の固体撮像装置の構成になっている。
【0051】
図7の断面構成には、画素領域807と周辺回路領域808が示されている。画素領域807には、複数の光電変換部が配置される。周辺回路領域808には周辺回路トランジスタ用のウエル810が配され、本実施例の固体撮像装置を駆動するために必要な能動回路が形成される。周辺回路には、例えばシフトレジスタ、デコーダ等で構成される走査回路が含まれる。更に周辺回路には光電変換部から出力された信号に対して増幅等の信号処理を行う読み出し回路が含まれていてもよい。
【0052】
PD 形成基板801の第二主面(裏面側)の界面には高濃度のN型半導体領域809が配されている。N型半導体領域809は、PD形成基板801と酸化膜804との界面で発生した暗電流を抑制する機能を有する。図7ではN型半導体領域809がPD形成基板801ほぼ全面にわたって配されているが、画素領域807のみに配されていてもよい。
【0053】
上述の実施例と同様に分離部IPが配され、ここで第一の分離領域104に含まれる不純物(例えば砒素)の質量は、第二の分離領域105または第三の分離領域106に含まれる不純物(例えばリン)の質量よりも大きい。これに応じて、第一の分離領域104に含まれる不純物の拡散係数は、第二の分離領域105又は第三の分離領域106に含まれる不純物の拡散係数よりも小さい。これにより、光電変換部で発生した電荷が隣接する光電変換部PDに漏れることを防止しながら、第一の分離領域104に含まれる不純物が電荷蓄積領域107へ拡散することを低減できる。すなわち、隣接する光電変換部の間に電荷のポテンシャル障壁を確実に形成するとともに電荷蓄積領域107の体積の減少を抑制できるので、隣接する光電変換部間の距離が近くなった場合における光電変換部の感度の低下を抑制することができる。これは上述の実施例と同様である。
【0054】
次に、本発明の光電変換装置を適用した撮像システムの一例を図8に示す。撮像システム90は、図8に示すように、主として、光学系、撮像装置86及び信号処理部を備える。光学系は、主として、シャッター91、レンズ92及び絞り93を備える。撮像装置86は、光電変換装置100を含む。信号処理部は、主として、撮像信号処理回路95、A/D変換器96、画像信号処理部97、メモリ部87、外部I/F部89、タイミング発生部98、全体制御・演算部99、記録媒体88及び記録媒体制御I/F部94を備える。なお、信号処理部は、記録媒体88を備えなくても良い。
【0055】
シャッター91は、光路上においてレンズ92の手前に設けられ、露出を制御する。レンズ92は、入射した光を屈折させて、撮像装置86の光電変換装置100の撮像面に被写体の像を形成する。
【0056】
絞り93は、光路上においてレンズ92と光電変換装置100との間に設けられ、レンズ92を通過後に光電変換装置100へ導かれる光の量を調節する。
【0057】
撮像装置86の光電変換装置100は、光電変換装置100の撮像面に形成された被写体の像を画像信号に変換する。撮像装置86は、その画像信号を光電変換装置100から読み出して出力する。
【0058】
撮像信号処理回路95は、撮像装置86に接続されており、撮像装置86から出力された画像信号を処理する。
【0059】
A/D変換器96は、撮像信号処理回路95に接続されており、撮像信号処理回路95から出力された処理後の画像信号(アナログ信号)を画像信号(デジタル信号)へ変換する。
【0060】
画像信号処理部97は、A/D変換器96に接続されており、A/D変換器96から出力された画像信号(デジタル信号)に各種の補正等の演算処理を行い、画像データを生成する。この画像データは、メモリ部87、外部I/F部89、全体制御・演算部99及び記録媒体制御I/F部94などへ供給される。
【0061】
メモリ部87は、画像信号処理部97に接続されており、画像信号処理部97から出力された画像データを記憶する。
【0062】
外部I/F部89は、画像信号処理部97に接続されている。これにより、画像信号処理部97から出力された画像データを、外部I/F部89を介して外部の機器(パソコン等)へ転送する。
【0063】
タイミング発生部98は、撮像装置86、撮像信号処理回路95、A/D変換器96及び画像信号処理部97に接続されている。これにより、撮像装置86、撮像信号処理回路95、A/D変換器96及び画像信号処理部97へタイミング信号を供給する。そして、撮像装置86、撮像信号処理回路95、A/D変換器96及び画像信号処理部97がタイミング信号に同期して動作する。
【0064】
全体制御・演算部99は、タイミング発生部98、画像信号処理部97及び記録媒体制御I/F部94に接続されており、タイミング発生部98、画像信号処理部97及び記録媒体制御I/F部94を全体的に制御する。
【0065】
記録媒体88は、記録媒体制御I/F部94に取り外し可能に接続されている。これにより、画像信号処理部97から出力された画像データを、記録媒体制御I/F部94を介して記録媒体88へ記録する。
【0066】
以上の構成により、光電変換装置100において良好な画像信号が得られれば、良好な画像(画像データ)を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板に配された複数の光電変換部と、
前記複数の光電変換部を互いに分離するように前記半導体基板に配された分離部と、を備え、
前記光電変換部は、
第1導電型と反対導電型の第2導電型の不純物を含む第2の半導体領域と、
前記第2の半導体領域の下に配され、前記第2の半導体領域より低い濃度で前記第2導電型の不純物を含む第3の半導体領域と、
前記第3の半導体領域の下に配され、前記第1導電型の不純物を含む第4の半導体領域と、を含み、
前記分離部は、前記半導体基板の表面より深い位置であって少なくとも前記第2の半導体領域の側方に配され、前記第1導電型の不純物を含む第5の半導体領域と、
前記第5の半導体領域の下方であって少なくとも前記第3の半導体領域の側方に配され、前記第1導電型の不純物を含む第6の半導体領域と、
を含み、
前記第5の半導体領域に含まれる不純物の拡散係数は、前記第6の半導体領域に含まれる不純物の拡散係数より小さいことを特徴とする光電変換装置。
【請求項2】
前記第5の半導体領域に含まれる不純物の質量は、前記第6の半導体領域に含まれる不純物の質量より大きいことを特徴とする請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項3】
前記分離部は、前記第5の半導体領域の上に配され、絶縁物で形成されている素子分離部を含むことを特徴とする請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項4】
前記第1導電型は、N型であり、
前記第5の半導体領域に含まれる不純物は、砒素を主成分としており、
前記第6の半導体領域に含まれる不純物は、リンを主成分としている
ことを特徴とする請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項5】
前記半導体基板の裏面側から撮像光が入射するように配されることを特徴とする請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項6】
請求項1に記載の光電変換装置と、
前記光電変換装置の撮像面へ像を形成する光学系と、
前記光電変換装置から出力された信号を処理して画像データを生成する信号処理部と、を備えたことを特徴とする撮像システム。
【請求項7】
半導体基板を有する光電変換装置の製造方法であって、
前記半導体基板における複数の光電変換部を互いに分離すべき領域に素子分離部を形成する第1の工程と、
前記素子分離部が露出されるように形成された第1のレジストパターンをマスクとして第1導電型の第1の不純物を前記半導体基板に注入することにより、前記半導体基板における前記素子分離部の下に第1の半導体領域を形成する第2の工程と、
前記第1のレジストパターンをマスクとして前記第1導電型の第2の不純物を前記半導体基板に注入することにより、前記半導体基板における前記第1の半導体領域の下方に第2の半導体領域を形成する第3の工程と、
複数の前記素子分離部の間の領域が露出されるように形成された第2のレジストパターンをマスクとして前記第1導電型と反対導電型の第2導電型の不純物を前記半導体基板に注入することにより、前記半導体基板における複数の前記素子分離部の間に前記光電変換部における電荷蓄積領域を形成する第4の工程と、
を備え、
前記第1の不純物の拡散係数は、前記第2の不純物の拡散係数より小さいことを特徴とする光電変換装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−206178(P2010−206178A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10370(P2010−10370)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】