説明

光電式エンコーダ及びそのアライメント調整方法

【課題】検出ヘッドのアライメント調整が容易な光電式エンコーダ及びそのアライメント調整方法を提供する。
【解決手段】光電式エンコーダは、測定軸方向に所定ピッチで回折格子が形成されたスケールと、このスケールに対して相対移動可能に配置され、スケールに光を照射する照射部、並びにスケールの回折格子で反射または透過された光を、それぞれ異なる位相において受光する複数の受光部を備えた検出ヘッドと、この検出ヘッドの受光部からの受光信号を処理して2相信号を生成する信号処理装置とを備える。信号処理装置は、2相信号のリサージュ半径に対応したアライメント調整用のモニタ信号を算出することで、前記スケールに対して前記検出ヘッドを静止させた状態で該検出ヘッドのアライメント調整を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアスケール等に用いられる光電式エンコーダ及びそのアライメント調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の光電式エンコーダの一つとして、位相格子スケールを利用した光電式エンコーダが知られている。この光電式エンコーダにおいては、光源からのコヒーレント光を位相格子スケールに照射することにより、スケール位置情報を有した回折光の干渉縞が生成される。そして、この干渉縞を位相検波することによりスケールに沿った方向の測長が可能となる(特許文献1参照)。従来、この種の光電式エンコーダの検出ヘッドのアライメント調整は、検出ヘッドをスケールに沿って移動させ、出力されたリサージュ信号を見ながら検出ヘッドとスケールとの相対的位置関係を調整する事によって行われていた。この際、検出ヘッドのサイズが比較的大きなものについてはスケールとの機械的基準が取りやすく、取付け時にある程度ベストアライメント状態を確保する事が可能である。しかしながら、検出ヘッドのサイズが比較的小さなもの(特許文献1、2)については機械的基準が取りにくく、検出ヘッドの取付け時にアライメント調整作業が必要となる。
【0003】
また、例えば光電式エンコーダが三次元測定装置のステージに組み込まれる様な場合等、アライメント調整を行うためのスペースが容易に確保できない場合には、上記の方法が困難となる。この様な場合のために、検出ヘッドをスケールに沿って移動させることなく、静止状態においてアライメント調整を行う方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−53605号公報
【特許文献2】特開2008−39602号公報
【特許文献3】特開2007−232681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3では、検出ヘッドに備えられた複数の受光部において受光された信号同士を比較する事によって、検出ヘッドのPitch方向、Roll方向の回転量を検出する方法が提案されている。しかしながら、同文献においては静止状態におけるYaw回転量の検出については提案されておらず、Yaw方向の回転量の検出については依然として従来の方法で行う必要があった。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、検出ヘッドのアライメント調整が容易な光電式エンコーダの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光電式エンコーダは、測定軸方向に所定ピッチで回折格子が形成されたスケールと、このスケールに対して相対移動可能に配置され、スケールに光を照射する照射部、並びにスケールの回折格子で反射または透過された光を、それぞれ異なる位相において受光する複数の受光部を備えた検出ヘッドと、この検出ヘッドの受光部からの受光信号を処理して2相信号を生成する信号処理装置とを備える。信号処理装置は、2相信号のリサージュ半径に対応したアライメント調整用のモニタ信号を算出することで、前記スケールに対して前記検出ヘッドを静止させた状態で該検出ヘッドのアライメント調整を可能とする。
【0008】
本発明によれば、光電式エンコーダの検出ヘッド、又はスケールを移動させることなくリサージュ半径を算出し、検出ヘッドのYaw方向の回転角度を検出する事が可能となる。
【0009】
本発明の一実施形態に係る光電式エンコーダにおいて、複数の受光部は、照射部を中心として上下左右に配置され、90°ずつ空間的な位相を異ならせた回折格子を介してスケールからの光を受光する4つの受光部であり、信号処理装置は、4つの受光部で得られた受光信号を演算処理して2相信号を生成するものである。
【0010】
本発明の一実施形態に係るアライメント調整方法では、信号処理装置から出力される2層信号のリサージュ半径又はその二乗がモニタ信号である場合、その最大値が得られるように検出ヘッドのスケールに対するYaw方向のアライメントを調整する。
【0011】
又、本発明の他の実施形態に係る光電式エンコーダにおいて、信号処理装置は、リサージュ半径又はその二乗を特性関数に近似し、その逆関数又は微分関数をモニタ信号として求める様にしても良い。
【0012】
この場合、本発明の他の実施形態に係るアライメント調整方法では、モニタ信号が許容範囲内に入るように検出ヘッドのスケールに対するYaw方向のアライメントを調整する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、検出ヘッドのアライメント調整が容易な光電式エンコーダ及びそのアライメント調整方法を提供する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光電式エンコーダの構成を示す図である。
【図2】同装置における検出ヘッドの概略図である。
【図3】同装置のマスクを示す図である。
【図4】同装置における検出ヘッドの取り付け姿勢を示す図である。
【図5】同装置における信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図6】同装置の位相検出回路の回路図である。
【図7】同装置のRoll検出回路の回路図である。
【図8】同装置のPitch検出回路の回路図である。
【図9】同装置のAGC・Yaw検出回路の回路図である。
【図10】同装置のYaw方向の回転角度とリサージュ半径の大きさの関係を表すグラフである。
【図11】本発明の第2実施形態に係る光電式エンコーダにおける信号処理装置の一部の構成を示すブロック図である。
【図12】同装置における姿勢モニタ用信号とYaw回転角との関係を示すグラフである。
【図13】本発明の第3実施形態に係る光電式エンコーダにおける信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
次に、本発明の第1実施形態に係る光電式エンコーダについて図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1実施形態に係る光電式エンコーダの構成を示す図である。本発明の第1実施形態に係る光電式エンコーダは、測定軸方向に所定ピッチで反射型の回折格子が形成されたスケール1と、このスケール1の回折格子が形成されている面側にスケール1に対して所定のギャップを介して対向され、且つ相対移動可能に配置された検出ヘッド2とを備えている。検出ヘッド2はケーブル3を介して信号処理装置4に接続されている。
【0017】
図2は、上述した光電式エンコーダにおける検出ヘッド2の概略図である。本実施形態において、ケーブル3は複数本の光ファイバを束ねて構成されている。ケーブル3は、照射用光ファイバ211の周りに6本の受光用光ファイバ221が束ねられて構成されており、ケーブル3の先端部がフェルール25によって被覆されて検出ヘッド2を構成している。照射用光ファイバ211には、例えば、シングルモードファイバが使用される。また、受光用光ファイバ221には、例えば、マルチモードファイバが使用される。図2(a)に示すように、照射用光ファイバ211の先端部が照射部21を構成し、受光用光ファイバの先端部が受光部22を構成している。図2(b)に示すように、この照射部21及び受光部22の前面には透過型の回折格子を有するマスク23が取り付けられている。
【0018】
図3は、上記マスク23の詳細を示す図である。即ち、照射部21を中心として、左上、右上、左下及び右下に配置された4つの受光部22が変位の位相検出用受光部222となり、上下方向に配置された2つの受光部22が原点(ゼロ)検出を兼ね備えた姿勢モニタ用受光部223となる。これらの位相検出用受光部222及び姿勢モニタ用受光部223の前面に位置する様にマスク23を構成する透過型の4つの位相検出用回折格子231と2つの姿勢モニタ用窓232がそれぞれ設けられている。照射部21の前面に位置するマスク23の中心部は、照射部21からの光がそのまま透過する様になっている。
【0019】
左上、右上、左下及び右下の位相検出用回折格子231は、同一ピッチでそれぞれ空間的な位相関係が、0°、90°、180°及び270°であるa相、b相、ab相及びbb相の位相格子を形成している。以下、上記各位相検出用受光部を、受光部222A、222B、222AB、222BBと呼ぶ。又、姿勢モニタ用受光部のうち、Y軸の正方向に設けられているものを223Z、負方向に設けられているものを223ZBとする。これら姿勢モニタ用受光部は、ゼロ点検出部を兼用する。
【0020】
図4は、本発明の第1実施形態に係る光電式エンコーダにおける検出ヘッド2の取り付け姿勢を示す図である。ここでは、スケール1に対する検出ヘッド2の相対移動方向をX方向、スケール1の面と平行で、X方向に直交する方向をY方向、X方向及びY方向に直交する方向、すなわちスケール1の面に直交する方向をZ方向とする。また、スケール1と検出ヘッド2との間のX−Z平面内での傾きをPitch方向、Y−Z平面内での傾きをRoll方向、X−Y平面内での傾きをYaw方向とする。
【0021】
次に、同光電式エンコーダにおける信号処理装置4について説明する。図5は、本発明の第1実施形態に係る光電式エンコーダにおける信号処理装置4の構成を示すブロック図である。
【0022】
信号処理装置4は、照射用光ファイバ211の基端部を接続する部分に、光源として、例えばLD6を有する。このLD6は、LDドライバ5により駆動されてコヒーレント光を発光する。コヒーレント光は、光学系7を介して照射用光ファイバ211のコアを導波して、コアの先端の照射部21よりスケール1に向けて照射される。
【0023】
また、信号処理装置4は、受光用光ファイバ221の基端部を接続する部分に、6つの受光素子8を有する。6つの受光素子8は、それぞれ位相が0°、90°、180°、270°である位相信号Sa,Sab,Sb,Sbb及び姿勢モニタ用信号Sz,Szbを出力する。位相信号Sa,Sab,Sb,Sbbは、位相検出回路40とPitch検出回路60に入力され、姿勢モニタ用信号Sz,Szbは、原点検出機能を兼ね備えたRoll検出回路50に入力されている。位相検出回路40は、位相信号Sa,Sab,Sb,Sbbを演算処理してスケール1に対する検出ヘッド2の変位を示す2相信号A,Bを出力する。Pitch検出回路60は、位相信号Sa,Sab,Sb,Sbbを演算処理してPitch方向の姿勢モニタ用信号MPを出力する。Roll検出回路50は、姿勢モニタ用信号Sz,Szbを演算処理してRoll方向の姿勢モニタ用信号MRを出力するか、又は原点位置に於いては原点信号を出力する。また、AGC・Yaw検出回路70は、位相検出回路40から出力された2相信号A,Bを演算処理して正規化2相信号VA,VBと2相信号A,Bのリサージュ半径R又はその二乗RをYaw方向の姿勢モニタ用信号MYとして出力する。
【0024】
図6は、位相検出回路40の構成を示す回路図である。
【0025】
位相検出回路40は、電流電圧変換部41、3相信号生成部42及び2相信号生成部43を有している。
【0026】
電流電圧変換部41は電流電圧変換回路41A、41B、41AB、41BBにより構成されており、それぞれに位相信号Sa、Sb、Sab、Sbbが入力されている。又、3相信号生成部42は、差動増幅回路42A〜42Cにより構成されている。
【0027】
差動増幅回路42Aは、位相信号Sa、Sabを差動増幅し、第1差動信号DSaを出力する。この第1差動信号DSaは0度の位相を持つ位相信号Saと180度の位相を持つ位相信号Sabの差を取ったものであり、位相信号SaとSabの位相のずれがなければ、基準位相と同じ0度の位相を有する信号である。
【0028】
同様に差動増幅回路42Bは、位相信号Sb、Sbbを差動増幅し、第2差動信号DSbを出力する。この第2差動信号DSbは90度の位相を持つ位相信号Sbと270度の位相を持つ位相信号Sbbの差を取ったものであり、位相信号SbとSbbの位相のずれがなければ、基準位相に対して90度の位相差を有する信号である。
【0029】
また、差動増幅回路42Cは、差動増幅回路42Bと同様に位相信号SbとSbbを差動増幅するが、その出力信号DScは、上記第2差動信号DSbとは位相が180度異なる反転差動信号として得られる。すなわち、反転差動信号DScは基準位相に対して270度(すなわち−90度)の位相差を有している信号である。以上より、3相信号生成部42で得られた3相の差動信号DSa、DSb、DScはそれぞれ90度位相差を有することとなる。
【0030】
2相信号生成部43は差動増幅回路43A,43B及びそれらの出力の利得を調整する利得調整部44を有する。第1差動信号DSaと第2差動信号DSbは差動増幅回路43Aに入力される。差動増幅回路43Aは入力された2信号DSaとDSbをベクトル合成することにより、A相信号を生成する。0度の位相の信号DSaと90度の位相の信号DSbがベクトル合成されるため、A相信号は基準位相に対して45度の位相差を有する信号となる。
【0031】
同様に、第1差動信号DSaと反転差動信号DScは差動増幅回路43Bに入力される。差動増幅回路43Bは入力された2信号DSaとDScをベクトル合成することにより、B相信号を生成する。A相信号と同様に、0度の位相の信号DSaと270度(−90度)の位相の信号DScがベクトル合成されるため、B相信号は基準位相に対して315度(すなわち−45度)の位相を有する信号となる。このように、得られたA相信号とB相信号は、受光時の初期位相差(SaとSb又はSabとSbb)が90度からずれていても、90度の位相差を確保する。
【0032】
図7は、Roll(及び原点)検出回路50の構成を示す回路図である。Roll検出回路50は、電流電圧変換回路51及び作動増幅回路52を備えている。姿勢モニタ用受光部223Z、223ZBで受光された受光信号から得られた姿勢モニタ用信号Sz及びSzbは、それぞれ電流電圧変換回路51A、51Bで増幅され、差動増幅回路52で差動増幅される。従って、(原点以外の場所では)姿勢モニタ用信号Sz及びSzbの信号強度が等しい場合には、差動増幅回路52からは信号が出力されない。この様な構成において検出ヘッド2がRoll方向に回転していた場合、姿勢モニタ用受光部223Zとスケール1との距離、及び姿勢モニタ用受光部223ZBとスケール1との距離の間には差が生じる為、姿勢モニタ用信号SzとSzbとの間に強度差が生じる。このため、差動増幅回路52から、検出ヘッド2のRoll方向の回転角度に応じた姿勢モニタ用信号MRが出力される。姿勢モニタ用窓232の幅は広く、姿勢モニタ用信号Sz及びSzbは検出ヘッド2とスケール1の格子との位相関係に依存せず一定の値を出力する為、検出ヘッド2をスケール1に対して移動させることなく検出ヘッド2のRoll方向の回転を検出する事が可能となる。
【0033】
図8は、Pitch検出回路60の構成を示す回路図である。Pitch検出回路60は、加算回路61A,61B及び差動増幅回路62を備えている。加算回路61Aは、位相信号Sa及びSabを入力し、これらを加算する。加算回路61Bは、位相信号Sb及びSbbを入力し、これらを加算する。差動増幅回路62は、加算回路61Aの出力から加算回路61Bの出力を減算し、Pitch方向の姿勢モニタ用信号MPを出力する。
【0034】
この様な構成においては、位相信号Sa及びSabは逆位相なので、加算回路61Aからは直流信号が出力される。同様に、加算回路61Bからも直流信号が出力される。従って、位相信号SaとSabとの和及び位相信号SbとSbbとの和が等しい場合には、差動増幅回路62からは信号が出力されない。本実施形態においては、位相検出用受光部222A及び222ABは照射部21から見て−X方向に設けられており、位相検出用受光部223B及び223BBは照射部21から見てX方向に設けられている。従って、Pitch方向に回転が生じると、加算回路61Aの出力と、加算回路61Bの出力との間に、Pitch方向の回転角度に応じた直流信号が出力される。この場合においても、検出ヘッド2と、スケール1との位置関係を変化(移動)させる必要が無い。
【0035】
次に、AGC・Yaw検出回路70について説明する。図9は、AGC・Yaw検出回路70の構成を表す回路図である。AGC・Yaw検出回路70は、信号二乗ブロック71及び72、加算回路73、平方ブロック74、除算回路75及び77、増幅回路76及び78を備えている。信号二乗ブロック71には位相検出回路40で生成された2相信号Aが入力されている。同様に、信号二乗ブロック72には2相信号Bが入力されている。信号二乗ブロック71及び72の出力端子は、加算回路73で加算される。これにより2相信号A,Bのリサージュ半径の二乗値Rが求められる。また、平方根演算ブロック74で平方根に変換されることにより、2相信号A,Bのリサージュ半径Rが求められる。これらリサージュ半径R又はその二乗値Rは、Yaw方向の姿勢モニタ用信号MYとして出力される。また、除算回路75において、2相信号Aがリサージュ半径Rにより規格化され、増幅回路76で増幅されて規格化2相信号VAとして出力される。同様に、除算回路77において2相信号Bがリサージュ半径Rにより規格化され、増幅回路78で増幅されて規格化2相信号VBとして出力される。
【0036】
この様な構成において検出ヘッド2がYaw方向に回転すると、受光部22で受光される信号が劣化し、リサージュ半径が縮小する。本実施形態に係る光電式エンコーダは、検出ヘッド2のYaw方向の回転に伴うリサージュ半径の縮小を検出し、Yaw回転角θyawを検出する。この様な構成においては、リサージュ半径の大きさが最大値となるようにYaw方向の回転角を調整しても良いし、予めベストアライメント状態におけるリサージュ半径の大きさを検出して基準値としておき、基準値と比較してYaw回転角θyawの調整を行っても良い。
【0037】
検出ヘッド2のYaw方向の回転に伴ってリサージュ半径が縮小する時の様子を図10に示す。図10は、Yaw方向の回転角度とリサージュ半径の大きさの関係を表すグラフである。縦軸はリサージュ半径の大きさを、横軸はYaw方向の回転角度を表している。図10は、スケール1と検出ヘッド2との距離hが200μm、スケール1の光学格子及び位相検出用回折格子231のピッチPを4μm、各受光部22の中心間距離を200μm、検出ヘッド2が照射部21を中心としてYaw方向に回転した時のシミュレーション結果を示している。
【0038】
スケール周期をP、回折干渉による信号周期をP/2、初期位相をΦとすると、側長位置xでのA相信号の強度I及びB相信号の強度Iは、次のように表せる。
【0039】
【数1】

【0040】
【数2】

【0041】
ここで、F(θyaw)は信号振幅であり、以下の様に表す事が出来る。
【0042】
【数3】

【0043】
ここで、H(θyaw)は検出ヘッド2のYaw方向の回転による各受光部の信号強度の劣化であり、スケール1と検出ヘッド2との距離h、干渉縞周期Pに依存する。又、G(θyaw)は逆位相の差動信号強度劣化を表しており、受光部22Aと22AB、受光部22Bと22BBの様に、逆位相の位相信号Sを受光するように設計された受光部の組合せから検出される位相信号Sの位相差に依存する。
【0044】
図10より、Yaw方向の回転角度が大きくなるに従って、リサージュ半径Rの大きさが減少していることが分かる。特にYaw回転角が0.1°から0.3°に増大すると、リサージュ半径の大きさは約4分の1にまで減少している。Yaw回転角が0.0°から0.1°の範囲においては比較的リサージュ半径Rの変化が小さくなっているが、信号としては十分であるため、本実施形態のように、姿勢モニタ用信号MYとして使用することができる。
【0045】
この様な構成によれば、スケール1と検出ヘッド2とを測定軸方向に相対移動させること無く検出ヘッド2をYaw方向に回転させながら、姿勢モニタ用信号MYの最大値を検出することで、Yaw方向のアライメント調整が可能である。
【0046】
[第2実施形態]
第1の実施形態では、2相信号A,Bのリサージュ半径R又はその二乗値RをYaw方向の姿勢モニタ用信号MYとして用いたが、第2の実施形態では、例えばリサージュ半径Rを特性関数に近似し、その特性関数の逆関数や微分関数を使用する。これにより調整分解能が上がる。
【0047】
すなわち、例えば、図10に示す通り、回転角度とリサージュ半径の大きさの関係はガウス近似が可能であるため、その逆関数の対数を使用するとYaw回転角が0.0°付近(ベストアライメント近傍)の領域での調整分解能は向上する。
【0048】
そこで、例えば、図11に示す通り、AGC・Yaw検出回路70内に、リサージュ半径Rを逆関数変換する逆関数変換ブロック79を設け、その出力をYaw方向の姿勢モニタ用信号MY′とする。この姿勢モニタ用信号MY′を用いてYaw回転調整することにより、より調整作業が容易になる。
【0049】
以下、逆関数変換の一例として、対数変換を例にとって本実施形態における調整作業について説明する。この例において、MY′は以下の様に算出している。即ち、図10に示す様なYaw回転角θとリサージュ半径の大きさとの関係を把握する。次に、この特性に対して規格化を行い、特性の最大値を1にする。この規格化された半径の大きさをy(θ)として、次式の様な演算を行う。
【0050】
【数4】

【0051】
【数5】

【0052】
上記数4及び数5を用いて算出したMY′と、Yaw回転角θとの関係を、図12に示す。図12の例においては、MY′が所定のアライメント許容領域内において正の値を取るように設定されている。図12に示す通り、この様な構成においてはYaw回転角が0°に近い範囲においてもMY′が均一に変化する為、Yaw回転角のより精密な検出及び容易な調整作業が可能となる。
【0053】
なお、本実施形態のようなアライメント許容領域を設定して領域内であるかどうかを判定する調整方法の場合、2相信号A,Bの二乗和Rの最大値を判定する調整方法とは異なり、リサージュ半径に対して規格化を行う必要がある。なぜなら、リサージュ半径に対して規格化を行わない場合、アライメント許容領域は、受光部22の大きさや発光部21、スケール1との距離によって変化するからである。
【0054】
この場合、Roll及びPitch調整が終了した後に(両者はいずれが先でも良い。)、最終工程でYaw調整を行うようにすればよい。
【0055】
[第3実施形態]
図13は、演算処理をマイコンやPCを用いたソフトウェアによって実現した例を示す図である。
【0056】
すなわち、演算処理装置4は、位相検出回路40、Pitch検出回路60、Roll検出回路50及びAGC・Yaw検出回路70に代えて、A/D変換器80及び演算回路90を備えており、演算回路90は外部のPC10に接続されている。
【0057】
A/D変換回路80は、位相信号Sa、Sab、Sb、Sab及び姿勢モニタ用信号Sz、Szbをデジタル信号に変換し、演算回路90に出力する。演算回路90は、デジタル信号に変換された各位相信号及び姿勢モニタ用信号から、2相信号A、B、姿勢モニタ用信号MP、MR、規格化2相信号VA、VB、リサージュ半径R等を算出し、PC10に出力する。尚、位相信号及び姿勢モニタ用信号をPC10に直接送信し、PC10で姿勢モニタ用信号等を算出する事も可能である。
【0058】
本実施形態はソフトウェアによって演算処理を実現している。従って、演算装置4にマイコンが搭載されている光電式エンコーダや、PC10に位相信号及び姿勢モニタ用信号を出力する光電式エンコーダに対しては、ファームウェア等による実装が可能であり、きわめて安価に検出ヘッドのアライメント調整が容易な光電式エンコーダを提供する事が可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1…スケール、2…検出ヘッド、3…ケーブル、4…信号処理装置、21…照射部、22…受光部、23…マスク、25…フェルール、40…位相検出回路、41…電流電圧変換部、42…3相信号生成部、43…2相信号生成部、44…利得調整部、50…Roll検出回路、51…電流電圧変換回路、52、62…差動増幅回路、60…Pitch検出回路、61、73…加算回路、70…AGC・Yaw検出回路、71、72…信号二乗ブロック、74…平方根演算ブロック、75、77…除算回路、76、78…増幅回路、222…位相検出用受光部、223…姿勢モニタ用受光部、231…位相検出用回折格子、232…姿勢モニタ用窓。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定軸方向に所定ピッチで回折格子が形成されたスケールと、
このスケールに対して相対移動可能に配置され、前記スケールに光を照射する照射部、並びに前記スケールの回折格子で反射または透過された光を、それぞれ異なる位相において受光する複数の受光部を備えた検出ヘッドと、
この検出ヘッドの受光部からの受光信号を処理して2相信号を生成する信号処理装置とを備えた光電式エンコーダにおいて、
前記信号処理装置で、前記2相信号のリサージュ半径に対応したアライメント調整用のモニタ信号を算出することで、前記スケールに対して前記検出ヘッドを静止させた状態で該検出ヘッドのアライメント調整を可能とした
ことを特徴とする光電式エンコーダ。
【請求項2】
前記複数の受光部は、前記照射部を中心として上下左右に配置され、90°ずつ空間的な位相を異ならせた回折格子を介して前記スケールからの光を受光する4つの受光部であり、
前記信号処理装置は、
前記4つの受光部で得られた受光信号を演算処理して前記2相信号を生成する
ことを特徴とする請求項1記載の光電式エンコーダ。
【請求項3】
前記信号処理装置は、前記リサージュ半径又はその二乗を特性関数に近似し、その逆関数又は微分関数をモニタ信号として求める
ことを特徴とする請求項1又は2記載の光電式エンコーダ。
【請求項4】
請求項1又は2記載の光電式エンコーダのアライメントを調整するアライメント調整方法であって、
前記信号処理装置から出力される前記2層信号のリサージュ半径又はその二乗であるモニタ信号が最大値となるように前記検出ヘッドの前記スケールに対するYaw方向のアライメントを調整する
ことを特徴とする光電式エンコーダのアライメント調整方法。
【請求項5】
請求項3記載の光電式エンコーダのアライメントを調整するアライメント調整方法であって、
前記モニタ信号が許容範囲内に入るように前記検出ヘッドの前記スケールに対するYaw方向のアライメントを調整する
ことを特徴とする光電式エンコーダのアライメント調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−168167(P2012−168167A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−8098(P2012−8098)
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】