説明

光音響効果を用いたカテーテルシステム

【課題】エバネッセント光と通常光を利用する光ファイバを備えたカテーテルシステムにおいて、患者にさらなる負担を強いることなくエバネッセント光または通常光で血液中の光吸収物質を、従来の構成に比較し簡単な構成で迅速かつ経時的に検出し、血液や血管壁の各種特性を精度よく測定する光音響効果を用いたカテーテルシステムを提供する。
【解決手段】制御部8の下、光源13からレーザ光が出力され励起フィルタによって測定する光吸収物質に適した励起波を作り、該励起波はカテーテルに導入される。光ファイバ先端部からエバネッセント光が発生または通常光が射出され、血液中の光吸収物質に照射されると、光吸収に基づく光音響効果による音波が集音マイク50で検出され信号成分が取出され、制御部8で基準データと比較して血液の各種特性値を得る。エバネッセント光は血漿中や血管壁表面の、通常光は全血液や血管壁内部の光吸収物質の検出に利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集中医療、救急医療での血液測定の際に使用される光音響効果を用いたカテーテルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、血中の薬剤や生体物質の濃度変化などを測定するため血液中の発光組成物を選択的,定量的に測定するシステムとして、エバネッセント光を利用する光ファイバを備えたカテーテルシステムを既に提案している(特許文献1)。
通常光は空間を伝播し(空間伝搬光)、血液中にmm単位の深さで浸透するため、赤血球中に存在するヘモグロビンにより広い波長帯域の光が吸収される。このため、血中から直接定量する場合、血中に注入した蛍光物質(医薬品など)を励起して蛍光を検出する際に、ヘモグロビンの光吸収に妨害され、検出はほとんど不可能になる。一方、エバネッセント光(近接場光とも言う)は、エバネッセント光が発生している表面近傍の数百nm付近に存在し、通常光のように空間を伝播することはない。このため、血液中では直径約8μmの赤血球中に存在するヘモグロビンの影響をほとんど受けず、血漿中の蛍光物質を励起できる。
特許文献1では、前記に示したエバネッセント光の特性を利用してカテーテル先端周囲の物質の蛍光強度や蛍光スペクトルを確実に測定できる構造を提供することを目的としている。
【0003】
上記提案はエバネッセント光の発生と、蛍光の検出を1本の光ファイバで行うか、それぞれ別の光ファイバで行うかの構成に大別される。
前者は、エバネッセント光を発生させる構成として光ファイバ先端の一部のクラッド層を除去しコアを露出させることにより、光ファイバに導入された励起光を前記露出したコア部分で全反射させてエバネッセント光を発生させ、該エバネッセント光を血中に存在する蛍光物質に照射することにより発生する蛍光を光ファイバ先端部から光ファイバに入射させ光ファイバ外部に導き外部の測定器で測定するものである。
後者は1本の光ファイバが上記と同じような構造でエバネッセント光を発生させ、蛍光物質で発生する蛍光を他の1本の光ファイバで外部に導き検知するものである。
【0004】
ところで、蛍光の検出について注目した場合、1本の光ファイバで構成されるシステムは、細い光ファイバの中で光の送受信,エバネッセント光の発生,蛍光の検出を1本の光ファイバで行っているため、ファイバ径の細小化および構成が困難であり、さらには蛍光検出の光が光ファイバの中を返送されるため、微弱な光はさらに弱くなり、血液の測定精度に限度があった。
また、2本の光ファイバを用いた場合、それぞれの光ファイバの構成は複雑にはならないが、2本となるため光ファイバのカテーテルの専有する断面積は大きくなり、カテーテルの径は小さくすることはできず、蛍光検出の光が光ファイバの中を返送されるため、微弱な光はさらに弱くなるという上記と共通する問題が存在する。
【0005】
一方、不透明体や散乱物質中の光吸収やスペクトルを測定する手段として光音響法による検出が考えられる。
光音響法を用いるものとして光音響分光分析装置及び光音響分光分析方法が提案されている(特許文献2)。これは、試料に励起光を照射し、試料からの光音響波を検出するものであり、実施例では体表面から光ファイバを挿通して、光ファイバにレーザ光を導入して照射し、試料中の測定対象物質はこの光を吸収して励起される。そして吸収したエネルギーを無放射過程により放出する際、熱膨脹による変位、即ち音響波が発生し、これを圧電センサによって検知するものである。試料は生体の血管を流れる血液で、測定対象物質はグルコースであり、血液中のグルコース濃度を求めるものである。
【0006】
また、ヒトまたはヒト以外の動物の生体またはその一部の画像を作成する方法として光音響画像を形成する光音響画像形成装置が提案されている(特許文献3)。
これは、造影剤を生体に投与し、放射線で暴露して発生した圧力波から音響画像を作成するものである。
さらに細胞の自己蛍光放射を検出するものとして細胞の自己蛍光を使用した癌の検出方法が提案されている(特許文献4)。
これは、細胞の自己蛍光を測定することによる新形成又は化成である細胞を検出することを目的としており、内視鏡を通して挿入された光ファイバにより紫外線に暴露して蛍光を発生させ、そこからトリプトファン放射スペクトルを示す波長を測定するものである。この提案では、測定方法の1つとして光音響法を含む他の技術に適用されることが記述されている。
【0007】
上記特許文献2はレーザ光の励起光を用い、これによって試料から発生する音響波を圧電素子で検出するものであるが、通常光を利用しているため、血液中ではヘモグロビンによる吸収の影響を受けない近赤外部に吸収を持つグルコースなどにしか使用できない。また、特許文献3は、造影剤を放射線で暴露して発生した圧力波から音響画像を発生させるもので、血液中の薬剤や生体物質から生じる光音響効果による音波を検出することはできない。
特許文献4は紫外線に暴露して蛍光を発生させ、そこからトリプトファン放射スペクトルを示す波長を測定する具体例を開示し、光音響法なども適用可能という記述は存在するが、具体的構成の開示はない。
特許文献5は光ファイバのクラッド層を一部剥ぎ取ってエバネッセント光を発生させ、生体組織中の吸収スペクトルを測定するシステムを開示しているが、測定に光音響法は利用していない。また、エバネッセント光と通常光の切り替えも行っていないため、全血と血漿、または、血管壁内部と表面を区別して測定することもできない。
【特許文献1】特願2004−348482号
【特許文献2】特開平9−133655号公報
【特許文献3】特表2002−508760号公報
【特許文献4】特表2003−533674号公報
【特許文献5】特開2002−214132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記諸問題に鑑みなしたもので、その目的は光吸収を利用する光ファイバを備えたカテーテルシステムにおいて、患者にさらなる負担を強いることなく血液中および血管壁内の各種光吸収物質量を、迅速、かつ経時的に従来の構成に比較し簡単な構成で高感度に検出し、全血液または血漿中、および、血管壁内部または血管壁表面の各種特性をそれぞれ分離して精度よく測定することができる光音響効果を用いたカテーテルシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために本発明の請求項1は、光ファイバ先端を血管中に留置してエバネッセント光を発生させ、該エバネッセント光を吸収した光吸収物質からの音波信号を検出することにより血漿および血管壁表面の状態を測定するカテーテルシステムであって、生体の外部表面に配置され、前記光吸収強度に基づき光音響効果で発生する音波を検出し電気信号に変換する音波検出素子と、前記音波検出素子で検出した電気信号を処理し、音波信号対応の電圧または電流信号を出力する処理回路と、前記処理回路の電圧または電流信号を基準波と比較することにより、血液および血管壁の各種特性の状態を示す信号を出力する制御手段とを備えたことを特徴とする。
本発明の請求項2は、請求項1記載の発明において前記光ファイバ先端部は、円柱形状先端のクラッド層を除去し、コアを露出させてエバネッセント光を発生させることを特徴とする。
本発明の請求項3は、光ファイバ先端を血管中に留置して通常光を放射させ、該通常光の生体物質による吸収を検出することにより全血液および血管壁内部の状態を測定するカテーテルシステムであって、生体の外部表面に配置され、前記光吸収強度強度に基づき光音響効果で発生する音波を検出し電気信号に変換する音波検出素子と、前記音波検出素子で検出した電気信号を処理し、音波信号対応の電圧または電流信号を出力する処理回路と、前記処理回路の電圧または電流信号を基準波と比較することにより、血液および血管壁の各種特性の状態を示す信号を出力する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
本発明の請求項4は、請求項3記載の発明において前記光ファイバの先端部は、先端端面もしくは側面部、または、先端端面と側面部より通常光を放射させることを特徴とする。
本発明の請求項5は、請求項2または4記載の発明において前記光ファイバ先端部は、エバネッセント光もしくは通常光を単独で、または、エバネッセント光と通常光を切り替えられる機構を備えたことを特徴とする。
本発明の請求項6は、請求項1、2、3、4または5記載の発明において前記処理回路は、前記音波検出素子からの電気信号の位相に参照信号を引き込むことにより得られる信号成分を時間平均化して直流電圧を出力するロックインアンプを有することを特徴とする。
本発明の請求項7は、請求項1、2、3、4、5または6記載の発明において前記音波検出素子は、マイクロフォンであり、該マイクロフォンは、血管中の前記光ファイバの先端部からのエバネッセント光または通常光で測定するターゲットに対面させられ、かつ該測定ターゲットが近い生体の外表面に密着させられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記構成によれば、エバネッセント光または通常光を吸収する血液中や血管壁中の薬剤や生体物質の濃度を、患者にさらなる負担を強いることなく経時的に迅速で精度よく検出することができる。
エバネッセント光は、エバネッセント光が発生している表面近傍の数百nm付近に存在し、通常光のように空間を伝播することはない。このため、血液中では直径約8μmの赤血球中に存在するヘモグロビンの影響をほとんど受けず、血漿中の光吸収物質を測定できる。また、カテーテルを血管壁に接触させることで、血管壁表面に存在する光吸収物質を測定できる。
一方、通常光は空間を伝播し、血液中に数mm単位で浸透するため、赤血球中に存在するヘモグロビンにより広い波長帯域の光が吸収される。したがって、血中酸素分圧などのヘモグロビンが関与している項目も測定できる。また、カテーテルを血管壁に接触させることで、血管壁内部に浸透して内部に存在する光吸収物質を測定できる。
光音響効果を用いて光吸収を検出するため、カテーテル手元側における入射光と射出光の分離が不要になる。蛍光検出では、励起光より蛍光の波長が長いため、フィルタなどを利用することで比較的容易に入射光と射出光を分離することができる。また、通常光による光吸収では、照射側と受光側に別々の光ファイバを用いることで、容易に入射光と射出光の分離ができる。しかし、エバネッセント光による光吸収測定では、1本の光ファイバで同じ波長の入射光と射出光を分離する必要があり、装置が複雑になりやすいが、光音響法では入射光と射出光の分離は不必要になる。
さらに処理回路にロックインアンプを用い、集音信号をディジタル信号に変換して高速・高精度のディジタル処理を行い、血液および血管壁の各種特性を一層精度良く測定することができる。
また、光ファイバ先端のクラッド層が除去されコア層が露出した状態で血中に留置されるため、光ファイバ先端部分からエバネッセント光を効率的に発生させて光吸収物質が吸収する励起光の強度を増大させ、よりレベルの大きい音波を受信できるため、血液の測定精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳しく説明する。
図1は、本発明による光音響効果を用いたカテーテルシステムの構成例を示す図である。この例は本発明によるカテーテルシステムに適用される光学系および回路系の構成図である。
制御部8は操作卓12からの指示に基づき光源制御部11に対し光源起動の制御信号を送る。光源制御部11はレーザダイオード,LEDなどの光源13を起動させる。光源13の励起光は集光レンズ14,励起フィルタ15を通過し、集光レンズ2により光コネクタ1の光ファイバ端に導かれる。光ファイバ端から入射した励起光はエバネッセントカテーテル3の先端に伝達される。
【0012】
図2は、本発明によるカテーテルシステムに用いるカテーテル先端の構造を示す図で、(a),(b),(c)および(d)に実施例を示している。
いずれもカテーテル21の先端部付近において光ファイバの全周または一部分に渡り保護層22およびクラッド層23が除去された構造になっている。また、光ファイバの先端部に可動または固定の反射鏡27a〜27dを配置することにより、エバネッセント光での測定時に高強度の通常光が光ファイバ外部へ漏れ出ることを防止している。
【0013】
(a)は光ファイバ内に励起光29が入射すると、エバネッセント光25が剥き出しとなったコア24の周囲の表面に発生する。血漿中または血管壁表面の光吸収物質にエバネッセント光25が照射されると、音波30が発生し周囲に放射される。光ファイバの先端部に反射鏡27aにより、吸収されなかった光は入射側へ戻り、エバネッセント光25以外が光ファイバ外部へ漏れ出ることはない。反射鏡27aを反射鏡開閉用ワイヤ46aにより倒すと、光ファイバ端面の射出窓45より通常光49が血液中に射出し、血液中または血管壁内部の光吸収物質に吸収され、音波30が発生し周囲に放射される。
(b)はカテーテル先端の光ファイバを先端部屈曲用ワイヤ46bや圧電アクチュエータなどで引っ張ったり、押したりして直線状から湾曲状へ変形することにより、直線状でエバネッセント光25だけが発生している状態から、湾曲部からエバネッセント光25以外に通常光49を発生させる。
(c)はコアだけにした光ファイバに伸縮性透明プラスチック膜47等を被覆し、コア24と伸縮性透明プラスチック膜47の間に透明な液体48を流し込み変形させる。それぞれの屈折率はコア24≦透明液体48≦伸縮性透明プラスチック膜47の関係が必要である。直線状の時は、エバネッセント光25しか発生していないが、伸縮性透明プラスチック膜47が膨らむにしたがって湾曲した部分より通常光49が照射されるようになる。
これらのカテーテル構造は光ファイバが1本であるため、通常の2本の光ファイバを用いている酸素飽和度などを測定するカテーテルに比較して、同一サイズ以下の細径にすることが可能である。
(d)は、それぞれ、エバネッセント光25用と通常光49用の2本の光ファイバを設けた構造で、エバネッセント光25用と通常光49用の光ファイバへ入射光を切り替えて測定する。(a),(b)および(c)は可動部がない簡単な構造である。可動部がないため、通常の2本の光ファイバを用いている酸素飽和度などを測定するカテーテルと同一サイズにすることが可能である。
【0014】
エバネッセント光25または通常光49を吸収した光吸収物質は、光音響効果でその吸収強度対応の音波30が発生し、周囲に放射された該音波30は、測定ターゲットの生体表面に設置されている集音マイクロフォン50に検知される。
集音マイクロフォン50で検知された音波は電気信号50aに変換され、ロックインアンプ51に入力する。ロックアンプ51では参照波が信号成分の周波数に引き込まれ、時間平均化されて信号成分の直流電圧が出力される。
制御部8は、制御プログラムに基づきCPUなどの演算素子によって光源制御や測定動作を行うとともにロックインアンプ51から出力された直流電圧を予め記憶されている参照データと比較することにより血液中および血管壁中の光吸収物質の存在量を算出する。
【0015】
モニタ9には測定動作のためのメニュー画面が表示されるとともに測定した光吸収強度および光吸収物質の存在量が表示される。メニュー画面では光源の出力,波長領域などのスペックが表示され、操作卓12により光源の発光波長や出力を調整することができる。また、出力すべき演算内容についても調整することが可能である。
記録計10は時間とともに血中のリボフラビンなどの光吸収物質による光吸収強度の変化が刻まれる。
【0016】
図3は、本発明によるカテーテルシステムの信号処理部の実施の形態を示すブロック図、図4は、図3の各回路部の出力信号波形の一例を示す波形図である。
光源制御部11において発振器31はsin波(その他、方形波など)を出力し、該sin波によって光源駆動回路32が駆動され、LED,レーザダイオードなどの光源33から例えば、図4(A)に示すような所定波形で所定周波数の励起波が出力される。励起波は光ファイバを伝搬し、光ファイバ先端部からエバネッセント光が発生、または、通常光が射出され、血管37中に照射される。エバネッセント光の場合、光ファイバ先端部表面近くのエバネッセント光発生部位34aに存在する光吸収物質に吸収された光は光音響効果によって吸収光強度対応の音波に変換され、皮膚36の表面に向けて放射され、音波はマイクロフォン35により検出されアンプ40によって増幅される。通常光の場合、通常光照射部位34bに存在する光吸収物質に吸収された光は光音響効果によって吸収光強度対応の音波に変換され、皮膚36の表面に向けて放射され、音波はマイクロフォン35により検出されアンプ40によって増幅される。
【0017】
マイクロフォン35で検出される信号光は図4(B)に示すように広帯域の信号であり、吸光信号の他、呼吸ノイズ,脈拍ノイズ,血流ノイズ,外来ノイズなどが重畳された信号である。この重畳信号はバンドパスフィルタ41によって図4(C)に示すように吸光蛍光信号付近が抽出される。
一方、発振器31から出力されたsin 波は波形整形回路38によって波形整形され、90°位相シフト回路39により90°位相シフトさせられる。
この90°位相シフトさせられた信号と上記図4(C)の信号を乗算器42で乗算することにより図4(D)に示すような乗算信号を得ることができる。
【0018】
ローパスフィルタ43は図4(D)の高周波成分をカットすることにより図4(E)に示すような信号光強度の直流成分を得ることができる。この直流成分は表示器44(図1のモニタ9に対応)に表示され、制御部8によって予め求めて記憶してある基準データと比較することにより血液や血管の各種特性の状態を得ることができる。
上記波形整形回路38,90°位相シフト回路39,アンプ40,バンドパスフィルタ41,乗算器42及びローパスフィルタ43を含む回路部分は、図1のロックインアンプ51で機能する回路に相当する部分である。また、各回路出力波形はアナログ信号形で表示されているが、予めディジタル信号に変換されていてディジタル信号で処理されるものである。
【0019】
図1において励起光を作る光学系は、測定する光吸収物質に適した励起波長を選択するために、発光波長の異なる半導体レーザやLEDを複数設けたり、励起フィルタを手動や自動で交換する機構を付属させることができる。また、光源が半導体レーザの場合は単色光であるため光源側に励起フィルタなどのバンドパスフィルタは不要である。さらに、エバネッセントカテーテルに注射用細管やバルーン膨脹用パイプ等を付属させることが可能である。
【0020】
つぎに本発明の実施の形態で用いられる光吸収物質の例について説明する。
多くの生体内物質や医薬品は特定の波長域に光吸収を持っているので、ターゲットとなる可能性がある物質は数多い。例として以下のものが挙げられる。
生体内物質 ;ビリルビン、ビタミンB類、ヘモグロビンなど
医薬品 ;プロポフォール、リボフラビン、インドシアニングリーンなど
上記医薬品は多くの場合、静脈注射により生体内に注入する。また筋肉注射や経口投与(飲み薬)などでも血中濃度変化を測定することが可能な種類もある。
【0021】
光ファイバに入射させる光、すなわちエバネッセント光を発生させる光は、対象とする光吸収物質(ビタミンB2,インドシアニングリーンなど)の励起光が用いられる。具体的にはビタミンB2では、450nm付近のものが、インドシアニングリーンでは780nm付近の光が用いられる。なお、上記「付近」とは吸収波長帯の光を指す意味である。 また、通常光を照射する光は、赤血球中のヘモグロビンでは540nmや575nm付近の光が用いられ、インドシアニングリーンでは780nm付近の光が用いられる。
【0022】
図5は、本発明によるカテーテルシステムの具体的な構成例を示す図である。
カテーテルは光ファイバを挿入する部分,サンプリングポート55および液体または薬剤投与ポート54を持っている。光ファイバの端部にはコネクタ56が接続されており、信号処理装置である測定装置57に接続される。ロックインアンプはこの測定装置57内に組み込み込まれているが、測定装置57とは別体として設置することも可能である。
測定ターゲットの表面の皮膚53の上に集音マイクロフォン50が密着させられている。電気信号線(コード)50aはコネクタ52によりロックインアンプ51に接続されており、測定された信号は測定装置57に入力する。集音マイクロフォン50の電気信号線50aはカテーテルのコードと一体化することが可能である。
【0023】
図5では、集音マイクロフォン50は1個しか図示していないが、検出部を取り囲むように複数個設置して検出感度を向上させ、ノイズを低減することが可能である。複数個の集音マイクロフォンを設置した場合、全ての集音マイクロフォンと検出部の距離(音響的距離)を同一にすることは難しい。距離が異なる場合、単純に信号を加算したのでは音波の位相により信号が増強できるとは限らない。
検出した音波の位相を合わせるため、一例として、通常光照射でヘモグロビンの415nm付近の強い光吸収帯で光音響効果による音波を発生させる。この音波を、個々の集音マイクロフォンで測定し、それぞれの集音マイクロフォンで集音マイクロフォン毎の位相差を測定し、加算時にこれと逆の位相差を持たせることで、正確に信号加算を行い、検出感度の向上とノイズの低減を行う。
【産業上の利用可能性】
【0024】
臨床検査や薬剤モニタするため生体組織中に光ファイバを導入し、検出器に光音響効果を利用した集音マイクロフォンを用いて血中濃度変化などを測定するカテーテルシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による光音響効果を用いたカテーテルシステムの実施の形態を示す図である。
【図2】本発明によるカテーテルシステムに用いるカテーテル先端の実施例の構造を示す図である。
【図3】本発明によるカテーテルシステムの信号処理部の実施の形態を示すブロック図である。
【図4】図3の各回路部の出力信号波形の一例を示す波形図である。
【図5】本発明によるカテーテルシステムの具体的な構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 光コネクタ
2 集光レンズ
3 エバネッセントカテーテル
8 制御部
9 モニタ
10 記録計(X−Yプロッタ)
11 光源制御部
12 操作卓
13,33 光源(半導体レーザ,LED,キセノンランプなど)
15 励起フィルタ
21 カテーテル
22 保護層
23 クラッド層
24 コア
25 エバネッセント光
30 音波
31 発振器
32 光源駆動回路
34a エバネッセント光発生部位
34b 通常光照射部位
35,50 集音マイクロフォン
36,53 皮膚
37 血管
38 波形整形回路
39 90°位相シフト回路
40 アンプ
41 バンドパスフィルタ
42 乗算器
43 ローパスフィルタ
44 表示器
45 射出窓
46a 反射鏡開閉用ワイヤ
46b 先端部屈曲用ワイヤ
47 伸縮性透明プラスチック膜
48 透明液体
49 通常光
51 ロックインアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ先端を血管中に留置してエバネッセント光を発生させ、該エバネッセント光の生体物質による吸収を検出することにより血漿および血管壁表面の状態を測定するカテーテルシステムであって、
生体の外部表面に配置され、前記光吸収強度に基づき光音響効果で発生する音波を検出し電気信号に変換する音波検出素子と、
前記音波検出素子で検出した電気信号を処理し、音波信号対応の電圧または電流信号を出力する処理回路と、
前記処理回路の電圧または電流信号を基準波と比較することにより、血液の各種特性の状態を示す信号を出力する制御手段と、
を備えたことを特徴とする光音響効果を用いたカテーテルシステム。
【請求項2】
前記光ファイバの先端部は、円柱形状先端のクラッド層を除去し、コアを露出させてエバネッセント光を発生させることを特徴とする請求項1記載の光音響効果を用いたカテーテルシステム。
【請求項3】
光ファイバ先端を血管中に留置して通常光を放射させ、該通常光の生体物質による吸収を検出することにより全血液および血管壁内部の状態を測定するカテーテルシステムであって、
生体の外部表面に配置され、前記光吸収強度に基づき光音響効果で発生する音波を検出し電気信号に変換する音波検出素子と、
前記音波検出素子で検出した電気信号を処理し、音波信号対応の電圧または電流信号を出力する処理回路と、
前記処理回路の電圧または電流信号を基準波と比較することにより、血液の各種特性の状態を示す信号を出力する制御手段と、
を備えたことを特徴とする光音響効果を用いたカテーテルシステム。
【請求項4】
前記光ファイバの先端部は、先端端面もしくは側面部、または、先端端面と側面部より通常光を放射させることを特徴とする請求項3記載の光音響効果を用いたカテーテルシステム。
【請求項5】
前記光ファイバ先端部は、エバネッセント光もしくは通常光を単独で、または、エバネッセント光と通常光を切り替えられる機構とした請求項2または4記載の光電効果を用いたカテーテルシステム。
【請求項6】
前記処理回路は、前記音波検出素子からの電気信号の位相に参照信号を引き込むことにより得られる信号成分を時間平均化して直流電圧を出力するロックインアンプを有することを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の光音響効果を用いたカテーテルシステム。
【請求項7】
前記音波検出素子は、マイクロフォンであり、
該マイクロフォンは、血管中の前記光ファイバの先端部からのエバネッセント光または通常光で測定するターゲットに対面させられ、かつ該測定ターゲットが近い生体の外表面に密着させられることを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の光音響効果を用いたカテーテルシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−307007(P2007−307007A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137293(P2006−137293)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(802000020)財団法人浜松科学技術研究振興会 (63)
【Fターム(参考)】