説明

免震装置のフェールセーフ機構およびその設置方法

【課題】免震装置に作用する過大な変位を抑制し、免震装置の破損や機能低下を防ぐことができるうえ、既存の免震装置に対して容易に後付け施工することができる。
【解決手段】フェールセーフ機構1は、上部基礎2Aと下部基礎2Bとの間に設けられた免震装置3の周囲に配置されるとともに上部基礎2Aに固定され、下面にすべり材12を有するすべり支承11と、下部基礎2Bに設けられ、すべり材12を免震装置3の中心軸線を中心とした半径方向に滑らせるための摺動板13とを備え、摺動板13の摺動面13aは、半径方向で外周側に向かうにしたがって上方へ向けて傾斜してなり、上部基礎2Aと下部基礎2Bとの間に相対変位が生じていない状態ですべり材12のすべり面と摺動板13の摺動面13aとの間にクリアランスが設けられ、相対変位が生じた状態ですべり面と摺動面13aとが接触するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば既存の免震建物などに備えられた免震装置のフェールセーフ機構およびその設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、免震建物の急速な普及とともに免震装置が採用されている。免震装置としては、ゴム材料からなる弾性体と鋼板とを上下方向に交互に積層した構造のいわゆる積層ゴムを用いたものが知られている。このような積層ゴムから構成される免震装置は、例えば建物の基礎とこの基礎上に構築される建物本体との間に介装され、地震等によって水平方向の大きな外力が入力されたときには、積層ゴムが水平方向に変形することでその外力の構造物本体への伝達を軽減し、建物本体の揺れを抑えるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−182768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の免震装置では、以下のような問題があった。
すなわち、既設の免震建物では、極めて稀に起こるレベル2地震で想定しているエネルギー入力の速度換算値でVe=150cm/secといわれている。その一方、近年において、想定を超える最大加速度を有する実地震の発生などで想定されている地震動は、Ve=300cm/secと従来のレベル2地震の2倍のエネルギーを有するものとなっている。そのため、Ve=150cm/secの地震に対して設計された既設の免震建物にVe=300cm/secを超えるようなエネルギーが入力されると、その水平変位(せん断変形)が例えばγ=500%となり、積層ゴムが破断するおそれがあった。
また、基礎免震の場合にあっては、擁壁と建物の上部基礎との間隔が例えば60cm程度に設計されており、これは水平変位でγ=300%に相当し、積層ゴムが破断する前に擁壁に衝突するという問題があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、免震装置に作用する過大な変位を抑制し、免震装置の破損や機能低下を防ぐことができる免震装置のフェールセーフ機構およびその設置方法を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、既存の免震装置に対して容易に後付け施工することができる免震装置のフェールセーフ機構およびその設置方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る免震装置のフェールセーフ機構では、上部基礎と下部基礎との間に設けられた免震装置に用いられるフェールセーフ機構であって、免震装置の周囲に配置されるとともに上部基礎に固定され、下面にすべり材を有するすべり支承と、下部基礎に設けられ、すべり材を免震装置の中心軸線を中心とした半径方向に滑らせるための摺動板とを備え、摺動板の摺動面は、半径方向で外周側に向かうにしたがって上方へ向けて傾斜してなり、上部基礎と下部基礎との間に相対変位が生じていない状態ですべり材のすべり面と摺動板の摺動面との間にクリアランスが設けられ、相対変位が生じた状態ですべり面と摺動面とが接触することを特徴としている。
【0007】
また、本発明に係る免震装置のフェールセーフ機構の設置方法では、上部基礎と下部基礎との間に設けられた既存の免震装置に対して設置されるフェールセーフ機構の設置方法であって、下面にすべり材を有するすべり支承を、免震装置の周囲に配置して上部基礎に固定する工程と、免震装置の中心軸線を中心とした半径方向で外周側に向かうにしたがって上方へ向けて傾斜してなる摺動面を有する摺動板を、すべり材を半径方向に滑らすようにして下部基礎に設ける工程とを有し、上部基礎と下部基礎との間に相対変位が生じていない状態ですべり材のすべり面と摺動板の摺動面との間にクリアランスが設けられるようにし、相対変位が生じた状態ですべり面と摺動面とが接触するようにしたことを特徴としている。
【0008】
本発明では、地震によって建物に水平方向の外力が入力されると、上部基礎と下部基礎との間で水平方向の相対変位が生じ、これによりすべり支承も上部基礎とともに下部基礎に設けられている摺動板に対して相対的に変位する。そして、摺動板の摺動面がその外周側で高くなるように傾斜しているので、すべり支承のすべり材が摺動板の平面視で外周側に変位すると、すべり材と摺動面との間のクリアランスが漸次小さくなって接触する。つまり、この接触によって摺動板がすべり材のすべりに対する摩擦抵抗となり、すべり材(すべり支承)の水平方向への移動が拘束され、摺動板とすべり支承との相対変位が抑制されることになる。また、摺動板の摺動面が傾斜しているため、上記接触抵抗により移動が拘束されたすべり支承には減衰性と復元力とが作用し、元の位置へ戻ろうとする効果を奏する。
【0009】
そして、すべり支承に生じる水平方向の拘束力は上部基礎に伝達され、上部基礎と下部基礎との相対変位も抑えられることになることから、地震による水平方向の外力によって作用する建物の振動を低減させることができる。例えば免震装置が積層ゴムである場合にその積層ゴムの粘性体が変形するが、例えばレベル2地震のような大規模な地震であっても、本フェールセーフ機構により前記粘性体の変形が抑えられ、積層ゴムの破断を防止することができ、免震装置としての機能を十分に発揮できる免震建物を実現することができる。しかも、すべり支承が上述したように復元性を有することから、地震後に建物を元の位置に戻すことができる。
【0010】
さらに、本発明のフェールセーフ機構では、摺動板の摺動面の傾斜角度を調節することにより、すべり支承の水平変位を制御することができる。また、すべり材と摺動板とのクリアランスを調節することにより、双方の間に生じるすべり(摩擦抵抗)の利き始める位置を調節することができる。さらにまた、すべり材の材質を変えることにより、すべり支承の減衰性能も調節することができる。
【0011】
また、本発明に係る免震装置のフェールセーフ機構では、すべり材のすべり面は、摺動板の摺動面に対応して略同じ傾斜角度で傾斜していることが好ましい。
これにより、すべり支承が摺動板に対して相対変位してすべり材と摺動面とが接触する際、双方が滑らかに接触しつつ滑るので、すべり支承の減衰効果および復元効果をより一層高めることができる。
【0012】
また、本発明に係る免震装置のフェールセーフ機構では、すべり支承は、免震装置の中心軸線に対して同軸となるリング状をなしていてもよい。
本発明では、例えばすべり支承が周方向に部分的に配置されている場合に比べて、すべり支承が摺動板に対して相対変位してすべり面と摺動面とが接触する際、すべり面の摺動面に対する接触面積が増大するので、摩擦抵抗が増え、すべり支承としての機能を最大限に発揮させることができる。
【0013】
また、本発明に係る免震装置のフェールセーフ機構では、上部基礎を水平方向で周囲から取り囲むようにして固定する補強体が設けられ、補強体の下面にすべり支承が取り付けられていることが好ましい。
本発明では、すべり支承を支持する上部基礎を補強体で補強することで、すべり支承に生じる水平方向の拘束力を上部基礎によって確実に支持することができる。
【0014】
また、本発明に係る免震装置のフェールセーフ機構では、補強体は平面視で複数に分割され、これら分割された補強体どうしが連結部材によって接続されていてもよい。
本発明では、例えば分割された補強体をプレキャスト製とすることで、既存の免震建物の上部基礎に対して容易に施工することができる。しかも、それら分割された補強体どうしを水平方向に例えばPC鋼棒等の連結部材で緊結して接続することで、すべり支承から伝達される水平方向の力に対して対応することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の免震装置のフェールセーフ機構およびその設置方法によれば、すべり支承が摺動板に対して相対的に変位して互いに接触することで、摺動板がすべり材のすべりに対する摩擦抵抗となり、摺動板とすべり支承との相対変位が抑制され、上部基礎と下部基礎との相対変位も抑えられることから、地震による水平方向の外力によって作用する建物の振動を低減させることができる。そのため、大規模な地震時においても、免震装置に過大な変位を生じさせることがなく、免震装置の破損や機能低下を防ぐことができる。
また、本発明の免震装置のフェールセーフ機構およびその設置方法によれば、免震装置の周囲にすべり支承や摺動板を設ける構造であるので、既存の免震装置に対してもフェールセーフ機構を容易に後付け施工することができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態による免震装置のフェールセーフ機構の概略構成を示す側面図である。
【図2】図1に示す免震装置の設置状態を示す一部破断側面図である。
【図3】図1に示すA−A線断面図である。
【図4】図1に示すB−B線断面図であって、部分的に取り外し可能な状態を説明する図である。
【図5】図1に示すC−C線断面図であって、フェールセーフ機構の補強体の図である。
【図6】フェールセーフ機構のすべり支承と摺動体との構成を示す図である。
【図7】補強体の組み付け状態を示す図であって、図3に対応する図である。
【図8】免震装置に水平方向の外力がかかった状態を示す一部破断側面図であって、図1に対応する図である。
【図9】図8に示すD−D線断面図であって、図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態による免震装置のフェールセーフ機構およびその設置方法について、図1乃至図9に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施の形態によるフェールセーフ機構1は、新規又は既設の免震建物(以下、建物2という)に設けられる免震装置3に備えられるものである。
【0018】
ここで、図2は、建物2と免震装置3とを見易くするためにフェールセーフ機構1を省略した図である。図2に示すように、本建物2の免震層Mは、上部基礎2Aと下部基礎2Bとによって形成される基礎部に位置している。上部基礎2Aは、断面視正方形をなす基礎柱21の四辺に基礎梁22(22A、22B、22C、22D)が接合され(図5参照)、これら基礎梁22A〜22Dによってスラブ23が下方から支持された構造となっている。
【0019】
免震装置3は、断面視で円形(図3参照)をなすとともに基礎柱21と下部基礎2B上に設けられた基礎盤4との間に配置されており、基礎柱21の下面21aに固定される金属製の上部プレート31と、基礎盤4の上面4aに固定される金属製の下部プレート32と、上部プレート31と下部プレート32との間に挟持された積層ゴム33とから構成されている。上部プレート31および下部プレート32は、アンカーボルト等の固定手段によってそれぞれ基礎柱21、基礎盤4に固定されている。積層ゴム33は、ゴム材料と薄い鋼板とを交互に積層させた弾性体であり、上部プレート31と下部プレート32を介して建物2に一体に設けられている。
すなわち、免震装置3は、地震時に下部基礎2Bに入力される水平力を移動エネルギーに変換し、建物2が受ける水平力を低減する免震機能を有している。
【0020】
図1、図3〜図6に示すように、フェールセーフ機構1は、免震装置3の周囲を取り囲むようにして配置されるとともに上部基礎2Aに固定されて下面にすべり材12を有するすべり支承11と、下部基礎2B上に設けられるとともにすべり材12を免震装置3の中心軸線を中心とした半径方向に滑らせるための摺動板13とを備えて構成されており、さらに基礎柱21および基礎梁22を水平方向で周囲から取り囲むようにして固定するとともに下面14aにすべり支承11を備えた補強体14が設けられている。
【0021】
すべり支承11は、図3に示す平面視で一定の幅を有するリング状をなし、補強体14の下面14aにおいて免震装置3の中心軸線に対して同軸に配置されている。なお、すべり支承11の中心軸線と免震装置3の中心軸線とが一致するとき(上部基礎2Aと下部基礎2Bと間に相対変位が生じていない状態のとき)のすべり支承11の位置を原位置P0(図6)とする。そして、すべり材12は、すべり支承11と平面視で同じリング形状をなしている。
【0022】
図6に示すように、すべり支承11に設けられるすべり材12の下面(すべり面12a)は、後述する摺動板13の摺動面13aに対応する斜面が形成されている。つまり、すべり材12には、内周側から外周側に向かうにしたがって漸次上下方向で上方へ向かう斜面が形成され、その傾斜角度は摺動板13の摺動面13aの傾斜角度にほぼ一致している。
【0023】
このように構成されるすべり支承11は、上部基礎2Aと下部基礎2Bと間に相対変位が生じていない状態のとき、すなわち図6に示す原位置P0において、すべり面12aと摺動面13aとの間にはクリアランスSが設けられている。そして、詳しくは後述するが、地震によって建物2に水平方向の外力が入力され、摺動板13に対してすべり支承11が図6に示すように原位置P0から二点鎖線で示すP1、P2の順で略水平方向に変位すると、すべり面12aと摺動面13aとの間のクリアランスSが小さくなり、接触する構成となっている。
【0024】
摺動板13は、図4に示すように、平面視円形のステンレス鋼からなり、下部基礎2Bの基礎盤4の周囲に全周にわたる領域に設けられる摺動板用基礎5上に設けられている。摺動板用基礎5は、その上面が免震装置3の中心軸線を中心とした半径方向で外周側に向かうにしたがって漸次上り傾斜となる傾斜面が形成され(図6参照)、この上面に摺動板13が設けられている。つまり、摺動板13には、摺動板用基礎5の傾斜面に沿う所定の傾斜角を有する摺動面13aが形成された状態となっている。なお、摺動板13の大きさ、設置領域は、下部基礎2Bに対して相対変位するすべり支承11の移動範囲と同等、或いはそれよりも広い範囲となっている。
【0025】
また、摺動板13は、一部が平面視で周方向に分離された着脱部13Aが形成されており、この着脱部13Aが摺動板用基礎5(5A)とともに着脱可能となっている。つまり、着脱部13A(5A)を取り外すことで、摺動板13(摺動板用基礎5)の外側から免震装置3に通じる空間(通路R)が設けられるようになっており、これにより免震装置3の点検や交換ができるようになっている。
【0026】
図1、図5および図7に示すように、基礎柱21と基礎梁22A〜22Dが接合する平面視略十字状の上部基礎2Aを補強する補強体14は、すべり支承11で受ける水平力を建物2に伝達させることで、すべり支承11を支持するためのものである。すなわち、図7に示すように、補強体14は、すべり支承11とともに平面視で4分割された分割補強体14A、14B、14C、14Dからなり、それぞれがプレキャストコンクリート製でブロック状に形成されている。そして、各分割補強体14A〜14Dによって上部基礎22Aを挟み込み、さらにPC鋼棒6(連結部材)によって横方向に隣り合う補強体14どうしを締め付けた構成となっている。このときの各PC鋼棒6は、基礎梁22を貫通した状態となっている。なお、補強体14は、梁側面にPC鋼棒6により圧着させ、その摩擦力で荷重を伝達するようになっている。
【0027】
次に、上述したフェールセーフ機構1を免震装置3の周囲に設置する方法について、図面に基づいて説明する。なお、本実施の形態では、既存の免震装置3に対して、フェールセーフ機構1を後付け施工する一例について説明する。
先ず、図1に示すように、免震層Mにおいて、下部基礎2Bに免震装置3の基礎盤4の周囲に摺動板用基礎5を、上面が上述した傾斜面となるようにしてコンクリート打設し、その上面にステンレス鋼からなる摺動板13を配置する。そして、図7に示すように、上部基礎2A(基礎柱21と基礎梁22との接合部)の周囲に、すべり支承11から伝達される軸力を支持できるように、下面14aにすべり支承11を固定させた鉄筋コンクリート製の補強体14を取り付けて補強を行う。
これにより、既存の免震装置3の周囲にフェールセーフ機構1を後付けにより施工することができる。
【0028】
次に、免震装置3に設けられるフェールセーフ機構1の作用について図面に基づいて説明する。
図8および図9に示すように、地震によって建物2に水平方向(例えば図8では、矢印E方向)の外力(せん断力)が入力されると、上部基礎2Aと下部基礎2Bとの間で水平方向の相対変位が生じ、これによりすべり支承11も上部基礎2Aとともに下部基礎2Bに設けられている摺動板13に対して相対的に変位する。
【0029】
そして、図6に示すように、摺動板13の摺動面13aがその半径方向外周側で高くなるように傾斜しているので、すべり支承11のすべり材12が摺動板13の平面視で外周側、すなわち原位置P0から二点鎖線で示すP1、P2へ略水平方向に変位すると、すべり材12と摺動面13aとの間のクリアランスSが漸次小さくなって接触する。つまり、この接触によって摺動板13がすべり材12のすべりに対する摩擦抵抗となり、すべり材12(すべり支承11)の水平方向への移動が拘束され、摺動板13とすべり支承11との相対変位が抑制されることになる。また、摺動面13aが傾斜していることで、上記接触抵抗により移動が拘束されたすべり支承11には減衰性と復元力とが作用し、元の位置(図6に示す原位置P0)へ戻ろうとする効果を奏する。
【0030】
そして、すべり支承11に生じる水平方向の拘束力は補強体14を介して上部基礎2Aに伝達され、上部基礎2Aと下部基礎2Bとの相対変位も抑えられることになることから、地震による水平方向の外力によって作用する建物2の振動を低減させることができる。本実施の形態のように免震装置3が積層ゴム33である場合にその積層ゴム33の粘性体が変形するが、例えばレベル2地震のような大規模な地震であっても、本フェールセーフ機構1により前記粘性体の変形が抑えられ、積層ゴム33の破断を防止することができ、免震装置3としての機能を十分に発揮できる免震建物を実現することができる。しかも、すべり支承11が上述したように復元性を有することから、地震後に建物2を元の位置に戻すことができる。
【0031】
さらに、本フェールセーフ機構1では、摺動板13の摺動面13aとすべり材12の傾斜角度を調節することにより、すべり支承11の水平変位を制御することができる。また、すべり材12と摺動板13とのクリアランスS(図6参照)を調節することにより、双方の間に生じるすべり(摩擦抵抗)の利き始める位置を調節することも可能である。
さらにまた、すべり材12の材質を変えることにより、すべり支承11の減衰性能も調節することができる。
【0032】
そのため、例えば、免震装置3の周囲に擁壁(図示省略)が設けられている場合、その擁壁と建物2の上部基礎2Aとの間隔が積層ゴム33の破断変位より小さい場合であっても、上記方法によりすべり材12と摺動板13との傾斜角度や間隔等を適宜調節して、すべり始めの水平変位や減衰性能を調整して大きな減衰力を付与することで、大規模な地震時に上部基礎2Aが擁壁に衝突することを防ぐことができる。
【0033】
また、本フェールセーフ機構1では、すべり材12のすべり面12aは、摺動板13の摺動面13aに対応して略同じ傾斜角度で形成されているので、すべり支承11が摺動板13に対して相対変位してすべり材12と摺動面13aとが接触する際、双方が滑らかに接触しつつ滑るので、すべり支承11の減衰効果および復元効果をより一層高めることができる。
【0034】
さらにまた、本フェールセーフ機構1では、すべり支承11が免震装置3の中心軸線と同軸をなすリング状をなしているので、例えばすべり支承が周方向に部分的に配置されている場合に比べて、すべり支承11が摺動板13に対して相対変位してすべり面12aと摺動面13aとが接触する際、すべり面12aの摺動面13aに対する接触面積が増大するので、摩擦抵抗が増え、すべり支承11としての機能を最大限に発揮させることができる。
【0035】
また、本フェールセーフ機構1では、すべり支承11を支持する上部基礎2Aを補強体14で補強することで、すべり支承11に生じる水平方向の拘束力を上部基礎2Aによって確実に支持することができる。さらに、その補強体14が図7に示すように水平方向に分割されているので、本実施の形態のように各分割補強体14A〜14Dをプレキャスト製とすることで、既存の免震建物の上部基礎2Aに対して容易に施工することができ、分割された補強体14どうしを水平方向に図5に示すPC鋼棒6で緊結することで、すべり支承11から伝達される水平方向の力に対して対応することができる。
【0036】
上述のように本実施の形態による免震装置のフェールセーフ機構およびその設置方法では、すべり支承11が摺動板13に対して相対的に変位して互いに接触することで、摺動板13がすべり材12のすべりに対する摩擦抵抗となり、摺動板13とすべり支承11との相対変位が抑制され、上部基礎2Aと下部基礎2Bとの相対変位も抑えられることから、地震による水平方向の外力によって作用する建物2の振動を低減させることができる。そのため、大規模な地震時においても、免震装置3に過大な変位を生じさせることがなく、免震装置3の破損や機能低下を防ぐことができる。
また、本実施の形態の免震装置のフェールセーフ機構およびその設置方法では、免震装置3の周囲にすべり支承11や摺動板13を設ける構造であるので、既存の免震装置に対してもフェールセーフ機構1を容易に後付け施工することができる利点がある。
【0037】
以上、本発明による免震装置のフェールセーフ機構およびその設置方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では積層ゴム33の免震装置3をフェールセーフ機構1の適用対象としているが、これに制限されることはなく、転がり支承などの免震装置を対象としてもよい。
また、本実施の形態では基礎柱21と基礎梁22との接合部となる上部基礎2Aに補強体14を設けた構成としているが、補強体14を設けずにすべり支承11を上部基礎2Aに直接固定する構造であってもかまわない。
【0038】
さらに、本実施の形態では補強体14を鉄筋コンクリート製の部材としているが、これに限定されることはなく、例えば鉄骨を用いて上部基礎2Aを補強する構造であってもよい。
さらにまた、すべり支承11の位置、すべり材12のすべり面12aおよび摺動板13の摺動面13aの傾斜角度や、すべり面12aと摺動面13aとのクリアランスなどは、すべり材12や摺動板13の材質や建物2に設定する減衰性能、免震装置の性能などの条件に基づいて適宜設定することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 フェールセーフ機構
2 建物
2A 上部基礎
2B 下部基礎
3 免震装置
4 基礎盤
5 摺動板用基礎
6 PC鋼棒(連結部材)
11 すべり支承
12 すべり材
13 摺動板
13a 摺動面
14 補強体
14a 下面
21 基礎柱
22、22A、22B、22C、22D 基礎梁
33 積層ゴム
M 免震層
S クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部基礎と下部基礎との間に設けられた免震装置に用いられるフェールセーフ機構であって、
前記免震装置の周囲に配置されるとともに前記上部基礎に固定され、下面にすべり材を有するすべり支承と、
前記下部基礎に設けられ、前記すべり材を前記免震装置の中心軸線を中心とした半径方向に滑らせるための摺動板と、
を備え、
前記摺動板の摺動面は、前記半径方向で外周側に向かうにしたがって上方へ向けて傾斜してなり、
前記上部基礎と前記下部基礎との間に相対変位が生じていない状態で前記すべり材のすべり面と前記摺動板の摺動面との間にクリアランスが設けられ、前記相対変位が生じた状態で前記すべり面と前記摺動面とが接触することを特徴とする免震装置のフェールセーフ機構。
【請求項2】
前記すべり材のすべり面は、前記摺動板の摺動面に対応して略同じ傾斜角度で傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の免震装置のフェールセーフ機構。
【請求項3】
前記すべり支承は、前記免震装置の中心軸線に対して同軸となるリング状をなしていることを特徴とする請求項1又は2に記載の免震装置のフェールセーフ機構。
【請求項4】
前記上部基礎を水平方向で周囲から取り囲むようにして固定する補強体が設けられ、
該補強体の下面に前記すべり支承が取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の免震装置のフェールセーフ機構。
【請求項5】
前記補強体は平面視で複数に分割され、これら分割された補強体どうしが連結部材によって接続されていることを特徴とする請求項4に記載の免震装置のフェールセーフ機構。
【請求項6】
上部基礎と下部基礎との間に設けられた既存の免震装置に対して設置されるフェールセーフ機構の設置方法であって、
下面にすべり材を有するすべり支承を、前記免震装置の周囲に配置して前記上部基礎に固定する工程と、
前記免震装置の中心軸線を中心とした半径方向で外周側に向かうにしたがって上方へ向けて傾斜してなる摺動面を有する摺動板を、前記すべり材を前記半径方向に滑らすようにして前記下部基礎に設ける工程と、
を有し、
前記上部基礎と前記下部基礎との間に相対変位が生じていない状態で前記すべり材のすべり面と前記摺動板の摺動面との間にクリアランスが設けられるようにし、前記相対変位が生じた状態で前記すべり面と前記摺動面とが接触するようにしたことを特徴とするフェールセーフ機構の設置方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−270881(P2010−270881A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125165(P2009−125165)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】