説明

全視野投影装置および全視野映像システム

【課題】簡易な構成でありながら、投影光照射に対して十分な防眩措置を施しつつ、球状のスクリーンの略全域に映像を投影することが可能な全視野投影装置および全視野映像システムを提供する。
【解決手段】全視野投影装置20は、映像情報を球体状のスクリーン23に投影し、スクリーン内部に位置する観者30に全視野映像を提供するものであり、観者30の顔周辺に投影される光束が、プロジェクタ21A、21Bの各ライトバルブのいずれの位置を通過した光束であるかを予め測定し、その位置を黒レベル領域とすることにより、観者30の目に直接入射する光線の照度を低減する。上記各ライトバルブはスクリーン23と共役な位置関係とされているので、観者30が座った際の顔の位置をなるべくスクリーン23に近くなるよう設定することにより、防眩効果を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全視野範囲で撮影した風景等の被写体映像を球状のスクリーン上に再現するための全視野投影装置および全視野映像システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
球状のスクリーンの内部に観者が位置し、スクリーン上の全周に投影された映像を観賞するように構成された空間没入型の映像システムは、宇宙空間において遊泳する宇宙飛行士や海中に潜ったダイバーの気分を地上に居ながらにして味わうことができるため、バーチャル型のシミュレーション装置やゲーム装置の他、ヒーリング治療用の映像システム等として、種々の分野において活用されることが期待されている。
【0003】
従来、このような映像システムとしては、スクリーンの天頂付近に配置したプロジェクタからの投影光を平面鏡(または凹面鏡)および凸面鏡を介してスクリーン上に照射するように構成されたものが知られている(下記特許文献1参照)。
【0004】
また、一対のプロジェクタを、スクリーンの中心を挟んで対向配置するとともに、スクリーンの中心付近に両凸ミラーを設置し、一対のプロジェクタからの各投影光を、両凸ミラーを介してスクリーン上に照射するように構成された映像システムが、本願発明者により提案されている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−56415号公報
【特許文献2】特許第4409618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の映像システムは、スクリーンの中心部に位置する観者の全方位に広がる映像を1台のプロジェクタにより投影することが可能となっているが、システムの構成上、スクリーンの天底付近の領域については映像を投影することができない。このため、天底付近に投影した方がより臨場感を得られるような映像(例えば、スカイダイビングのように地上に向かって落下しているような映像等)を再現するのには適さないなど、真の全視野映像システム(球状のスクリーンの略全域に映像を投影し得るシステム)とはなっていない。
【0007】
一方、上記特許文献2に記載の映像システムでは、一対のプロジェクタを用いることにより、球状のスクリーンの略全域に映像を投影し得るようになっている。しかし、スクリーンの中心部にプロジェクタからの投影光を反射する両凸ミラーが配置され、観者はスクリーンを背に中心方向を向いて座るようになっているため、両凸ミラーで反射された投影光が観者の眼に入り易い。このため、この映像システムでは、両凸ミラーの表面の一部領域に光非反射部を設け、両凸ミラーからの反射光(正反射光)が観者の眼に直接入射することを防止しているが、明るい両凸ミラーがスクリーンの中心部に配置されているため、その存在を観者が気にしたり、この両凸ミラーの周りの先のスクリーン上投影領域が見づらいものとなるために、有効な投影領域が減少することも予想される。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、投影光照射に対して十分な防眩措置を施しつつ、球状のスクリーンの略全域に映像を投影することが可能な全視野投影装置および全視野映像システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の全視野投影装置は、
内面に全視野映像が投影されるように形成された球状のスクリーンと、
前記スクリーンの中心を挟んで互いに対向配置された1対の投影部からなり、一方の投影部が、該スクリーンの全領域のうち他方の投影部が配置された側の半球状領域に一側の半視野映像を投影し、該他方の投影部が、該スクリーンの全領域のうち該一方の投影部が配置された側の半球状領域に他側の半視野映像を投影して前記全視野映像を形成する投影系と、
前記スクリーンの内面周辺部に配置された観者用のシート部と、
前記シート部に座る観者の少なくとも眼周辺の空間領域を、前記1対の投影部からの投影光が照射されないかまたは減光されて照射される防眩領域とする防眩領域設定手段と、を備えてなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の全視野投影装置において、前記防眩領域設定手段は、前記スクリーンの各点と前記1対の投影部における各ライトバルブの各画素との座標の対応関係と、該スクリーンに対する前記シート部の位置情報とに基づき、該各ライトバルブにおいて前記防眩領域に対応した画素の輝度を低減させるように構成されている、とすることができる。
【0011】
また、前記1対の投影部を結ぶ軸線を回転中心として、前記シート部と前記スクリーン上の前記全視野映像とを相対的に回転せしめる回転手段を備えることが好ましい。
【0012】
また、前記防眩領域設定手段は、前記シート部と前記全視野映像との相対的な回転に合わせて、該全視野映像に対する前記防眩領域の設定位置を移動させるように構成されていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の全視野映像システムは、
上記いずれかの全視野投影装置と、
前記全視野映像に係る映像情報を取得するための全視野撮像装置であって、周囲の被写体の映像を撮像する、互いに対向配置された1対の撮像カメラ、および該周囲の被写体からの光束を該1対の撮像カメラ各々の方向に反射せしめる両凸形状の撮像用光反射手段を有する全視野撮像装置と、
前記撮像用光反射手段により得られた被写体映像を反転させる鏡像反転手段と、を備えてなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の全視野映像システムにおいて、前記鏡像反転手段は、前記撮像用光反射手段からの光束を前記1対の撮像カメラの各撮像素子の方向に反射せしめる1対の平面鏡であることが好ましい。
【0015】
なお、上記「球状のスクリーン」とは完全な球面である必要はなく、むしろ、例えば、1対の投影部からスクリーン上に投影される映像の歪み等を補正するために必要となる、完全な球面からの変形を許容するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の全視野投影装置および全視野映像システムによれば、スクリーンの中心を挟んで互いに対向配置された1対の投影部から、相手側の投影部が配置された各半球状領域に半視野映像がそれぞれ投影されることにより、全視野映像が球状のスクリーン上に映出される。その際、防眩領域設定手段により、シート部に座る観者の少なくとも眼周辺の空間領域が防眩領域に設定され、その防眩領域には、1対の投影部からの投影光が照射されないかまたは減光されて照射されるように構成されている。
【0017】
したがって、シート部に座る観者が眩しく感じることを防止し得るとともに、球状のスクリーンの略全域に真の意味での全視野映像を投影することができる。また、眩しさが防止されることによって観者が全視野映像に集中することが可能となるので、全視野映像により得られる臨場感を増大させることができるとともに、ヒーリング治療に用いた場合には、その治療効果を向上させることができる。
【0018】
また、好ましい態様においては、1対の投影部を結ぶ軸線を回転中心として、シート部とスクリーン上の全視野映像とが相対的に回転せしめられるとともに、シート部と全視野映像との相対的な回転に合わせて、全視野映像に対する防眩領域の設定位置が移動されるように構成されていることにより、観者はシート部に座ったまま、眩しさが防止された状態で、全視野映像をパノラマ的に観賞することができる。
【0019】
さらに、本発明の全視野映像システムによれば、周囲の被写体からの光束を、両凸形状の撮像用光反射手段によって1対の撮像カメラ各々の方向に反射せしめて周囲の被写体映像を撮像する全視野撮像装置と、撮像用光反射手段により得られた被写体映像を反転させるための鏡像反転手段とを備えていることにより、実空間と方位が一致した状態の全視野映像を容易に得ることが可能となる。
【0020】
また、好ましい態様においては、鏡像反転手段が、撮像用光反射手段から各撮像カメラ内に入射した光束を各撮像素子の方向に反射せしめる1対の平面鏡とされているので、画像処理により被写体映像を反転させるように構成した場合と比べて低コストかつ簡易に、実空間と方位が一致した状態の全視野映像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る全視野映像システムの、全視野撮像装置の概略斜視図(A)および全視野投影装置の概略斜視図(B)である。
【図2】図1に示す全視野投影装置の概略断面図である。
【図3】図1に示す全視野投影装置における防眩領域の設定方法を説明するための概略図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る全視野投影装置の概略図である。
【図5】本発明の図1に示す実施形態に係る全視野投影装置の変更態様を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、上述の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実施形態の説明に使用する各図は概略的な説明図であり、詳細な形状や構造を示すものではなく、各部材の大きさや部材間の距離等については適宜変更して示してある。
【0023】
本発明の実施形態に係る全視野映像システムの基本的な構成について説明すると、まずこのシステムは、図1(A)、(B)に示すように、風景等の被写体映像を全視野範囲で撮影する全視野撮像装置10、および撮像された全視野映像の全範囲をスクリーン上に再現するための全視野投影装置20を備えてなる。なお、全視野投影装置20は、本発明の実施形態に係る全視野投影装置として表されており、この全視野投影装置20を単独で使用することも勿論可能である。
【0024】
上記全視野撮像装置10は、全視野映像に係る映像情報を取得するための全視野撮像装置であり、周囲の被写体の映像を撮像する、互いに対向配置された1対の撮像カメラ(撮像手段)11A、11B(両撮像カメラ11A、11Bの間隔は例えば50cm程度であるが、これよりも小さくすることも、あるいは大きくすることも可能である)と、該周囲の被写体からの光束を該1対の撮像カメラ11A、11Bの方向に反射せしめる、撮像用両凸ミラー(撮像用光反射手段)12と、撮像用両凸ミラー12により反転した像をさらに反転して、撮像された映像を本来の向きに直す平面ミラー18(図1(A)においては一方の撮像カメラ11Aのみが内部を透視するようにして描かれているが、他方の撮像カメラ11Bも同様の平面ミラーを有している)を備えてなる。
【0025】
また、この全視野撮像装置10は、映像情報やコントロール信号の送受信指示、および撮像された映像情報のデータ処理やデータ記憶、さらには全視野投影装置20との間で映像情報の撮像操作に係るコントロール信号の送受信指示(両撮像カメラ11A、11B間の同期をとる指示操作を含む)を行なうコントロール部14、このコントロール部14と撮像カメラ11A、11Bまたは撮像カメラ11A、11B同士の間で、映像情報や指示信号の送受信を行なうアンテナ部(信号送受信手段)13A、13B、撮像カメラ11A、11Bにおける撮像処理と対応して、音声取得処理を行うステレオ対応用のマイク部16A、16B、ならびに撮像された映像情報および取得された音声情報を全視野投影装置20に送信する装置間送受信用アンテナ部(装置間信号送受信手段)15を備えている。また、必要に応じて、両撮像カメラ11A、11Bの間に両凸ミラー12を保持させるための管状の透明体よりなるミラー保持用チューブ17を備えていてもよい。
【0026】
上述した撮像用両凸ミラー12は、図1(A)に示すように、1対の、凸部が球体の一部を切り取った平凸形状のミラー体を、互いに平面側が対向するように配置されてなる。すなわち、両凸ミラー12の対称面に対する凸面の接平面(接線)が交叉する最大角度α(AMAX)が下記条件式(1)を満足するように構成されている。
20≦α=AMAX≦70(度)・・・・(1)
【0027】
したがって、撮像カメラ11A、11Bにより撮像される範囲が、全視野の広い範囲に亘り、望ましくは全範囲に亘ってカバーされるとともに、撮像カメラ11A、11Bによって撮像した両撮像範囲のダブリを減少させた状態とすることができる。
【0028】
一方、上記全視野投影装置20は、全視野映像に係る映像情報を球体状のスクリーン(例えば直径1.5〜4mであるが、これよりも小さくすることも、あるいは大きくすることも可能である)23に投影し、スクリーン内部に位置する観者に全視野映像を提供するものであり、全視野映像が投影される球体状のスクリーン23と、このスクリーン23に、当該スクリーン23の内部側から全視野映像を投影する、当該スクリーン23の中心を挟んで対向配置された1対のプロジェクタ(投影手段)21A、21B(両プロジェクタ21A、21Bの間隔は例えば1.5〜4mであるが、これよりも小さくすることも、あるいは大きくすることも可能である)と、を備えている。
【0029】
また、この全視野投影装置20は、映像情報の投影操作に係るコントロール信号の送受信指示(両プロジェクタ21A、21B間の同期をとる指示操作を含む)や送信された映像情報のデータ処理やデータ記憶を行なうとともに観者が投影操作の指示を手元で行うための手元コントロール部28と、観者が腰掛けるためのシート部27Aと、このシート部27Aをスクリーン23の底面頂点部分を中心として回転自在に支持する脚部27Bと、スクリーン底面側頂点の外側に配された図示されない回転駆動モータと、全視野撮像装置10(またはその他の装置)から送信された映像情報を受信するアンテナ部(装置間送受信部)25Dと、手元コントロール部28からの指示に応じて送信された上記アンテナ部25Aからの指示信号を各プロジェクタ21A、21B側で受信する、アンテナ部25B、25Cと、音声再生処理を行うステレオ音声再生用のスピーカ部26A、26Bと、を備えている。なお、手元コントロール部28からの駆動信号を、上記回転駆動モータに対して、上記アンテナ部25Aを介して無線送信するのに代えて、または無線送信するのとともに、有線にて送信するための配線(ケーブル)を備えていてもよい。その場合の配線(ケーブル)は、脚部27B内に配されていてもよい。
【0030】
また、両プロジェクタ21A、21Bおよび手元コントロール部28は、上述したように各々にアンテナ部25A、25B、25Cを設けているので、互いに通信が可能とされており、これにより、両プロジェクタ21A、21Bに映像データを送信し、両プロジェクタ21A、21B間で投影操作の同期をとることが可能となる。
【0031】
なお、上記全視野撮像装置10が撮像用両凸ミラー12を有しているのに対して、上記全視野投影装置20は、投影用の両凸ミラーを有していない。これは、各プロジェクタ21A、21Bからの投影光が両凸ミラーに照射されると、観察者にとって視界の邪魔となり、観察者の視線方向において、両凸ミラー付近と重なるスクリーン23上の映像を見ることが困難となる虞があるからである。
【0032】
そのため、本実施形態に係る全視野映像システムにおいては、全視野投影装置20には両凸ミラーを設けず、一方のプロジェクタ21Aが、該スクリーン23の全領域のうち下半分の半球状領域に一側の半視野映像を投影し、他方のプロジェクタ21Bが、該スクリーン23の全領域のうち上半分の半球状領域に他側の半視野映像を投影して全視野映像を形成するようにしている。
【0033】
しかし、このような構成にすると、上方の撮像カメラ11Aで撮像した映像情報を下方のプロジェクタ21Bから投影し、また、下方の撮像カメラ11Bで撮像した映像情報を上方のプロジェクタ21Aから投影して、投影された映像情報の上下反転を防止することが肝要である。また、全視野投影装置20が、投影用の両凸ミラーを有していないので、撮像用両凸ミラー12で反転した映像情報を、CCD撮像素子19によって撮像する前に平面ミラー18で再反転しておく必要がある。
【0034】
また、本実施形態においては、図2に示すように、スクリーン23の内面周辺部に配置された観者30用のシート部27Aと、このシート部27Aに座る観者30の顔周辺の空間領域(これに替えて、少なくとも眼周辺の空間領域とすることが可能)を、1対の投影部からの投影光がほとんど照射されないか、または減光されて照射される防眩領域とする防眩領域設定手段とを備えてなる。すなわち、プロジェクタ21Aおよびプロジェクタ21Bにおいては、所望の映像情報を表示するライトバルブ(液晶やDMD等)を有し、このライトバルブを光源からの照明光により照明し、投影レンズ系を通して、ライトバルブに表示された映像情報をスクリーン23の内壁面上に投影するものであるが、ライトバルブの一部領域が、シート部27Aに座る観者30の顔周辺の空間領域が防眩領域となるような黒レベル領域となるよう構成されている。
【0035】
したがって、この防眩領域は、プロジェクタ21Aからの投影領域のうちの遮光領域31Aと、プロジェクタ21Bからの投影領域のうちの遮光領域31B、の交差部とされる。
【0036】
すなわち、観者30の顔周辺に投影される光束が、ライトバルブのいずれの位置を通過した光束に対応するかを予め測定しておき、その位置を黒レベル領域とすることにより、観者30の目に直接入射する光線の照度を低減することができ、防眩効果を向上させることができる。
【0037】
なお、プロジェクタ21Aおよびプロジェクタ21Bの各ライトバルブは、投影レンズに対して、スクリーン23と共役な位置関係とされているので、観者30がシート部27Aに座った際の顔の位置をなるべくスクリーンに近く設定することにより、より防眩効果を向上させることができる。
【0038】
また、これらプロジェクタ21Aおよびプロジェクタ21Bの各ライトバルブ上ではなく、例えば、光学系内に中間結像点を有している場合には、この中間結像点付近にマスク用のライトバルブ等を配置し、このライトバルブ上の所望する位置を上記と同様に黒レベル領域とすることにより、防眩効果を奏するようにしてもよい。
【0039】
また、図1(B)に示す、全視野投影装置20においては、観者が腰掛けるためのシート部27Aが、脚部27Bにより、スクリーン23の底面頂点部分を中心として回転自在に回転しうるように構成されている。そして、この回転は、手元コントロール部28において、シート部27Aが回転するように支持するスイッチが押下されると、この後、手元コントロール部28からの指示信号がアンテナ25Aからアンテナ25C(駆動用の指示信号を受信するアンテナを別途設けるようにしてもよい)に送信され、または脚部27Bの内部に沿って配設された配線(ケーブル)等により送信され、これに応じてスクリーン23の底面頂点部分に配された、図示されない回転駆動モータに駆動信号が送出され、観者を載せたシート部27Aが、スクリーン23の底面頂点部分を中心として、スクリーン23上の全視野映像に対して回転することにより得られる。これにより、観者は、シート部27Aに座ったそのままの姿勢で、すなわち、首を回して背面側の投影映像を見ることなく、全天球の映像をパノラマ的に観察して楽しむことができる。
【0040】
また、観者30がシート部27Aに腰掛けながら、自らの手や足により、スクリーン23の内壁面を押すあるいは引く等して、シート部27Aをスクリーン23上の全視野映像に対して回転させるようにすることも可能である。
【0041】
なお、観者30とスクリーン23上の全視野映像とが相対的に回転した場合、防眩領域もそれに応じて移動させなければ、観者30に対する防眩効果を確保することが困難となる。そのため、本実施形態においては、観者30の顔部分が防眩領域に含まれるように、上記回転に応じて、ライトバルブの上記黒レベル領域をこのライトバルブ上で移動させるように構成している。
【0042】
すなわち、図3に示すように、スクリーン23上の3次元座標位置(例えば極座標により、P(R、θ、Φ)で表される位置)とライトバルブ上の2次元座標位置(例えば直交座標によりH(x、y))との間の関係式(もしくは対応テーブル)を予め求めておいて、与えられた一方の情報に基づき他方のデータを導出することが好ましく、観者30(シート部27A)がスクリーン23に対して回転移動された場合には、このような関係式およびシート部27Aの位置情報に基づき、ライトバルブ上の黒レベル領域を逐次移動させるようにして、防眩領域を移動させることが肝要である。
【0043】
また、スクリーン23上の全視野映像と観者30とを相対的に回転させる態様として、上述したもの以外に、ライトバルブ上の表示画像を移動させて、表示画像をスクリーン23上で回転移動させる態様がある。この態様によれば、観者30が腰掛けたシート部27Aを回転駆動する動力あるいは労力が不要となる。また、この場合には、防眩領域を移動させる必要がないので、ライトバルブの上記黒レベル領域をこのライトバルブ上で移動させる必要がない。
【0044】
次に、上記全視野映像システムの基本的な動作について説明する。
【0045】
全視野撮像装置10を用いて全視野撮像を行なう際には、コントロール部14に対して、外部スイッチをON状態に設定すると、コントロール部14は撮像カメラ11Bに対して、また、アンテナ部13A、13Bを介し撮像カメラ11Aに対して、それぞれ同期をとって撮像を開始させる。周囲からの被写体映像光のうち、紙面上方領域の被写体映像光は両凸ミラー12の上凸面で反射され撮像カメラ11Aに撮像される。また、周囲からの被写体映像光のうち、紙面下方領域の被写体映像光は両凸ミラー12の下凸面で反射され撮像カメラ11Bに撮像される。そして、各撮像カメラ11A、11Bで撮像される際には、両凸ミラー12によって反転された映像情報を各撮像素子(撮像カメラ11Bでは図示せず)19にて撮像する前に平面ミラー(撮像カメラ11Bでは図示せず)18により再反転して、元の映像情報に戻しておく。
【0046】
また、このとき、映像の撮像操作と同期して、2つのマイク16A、16Bにより音声の取得操作が行なわれる。これにより、映像と音声の両者を同期させて取得することができる。取得された映像と音声のデータは、コントロール部14の図示されない記憶部に格納され、所定のタイミングで(リアルタイムで、あるいは外部からの指示操作があったときに、あるいは該記憶部に格納されてから所定時間経過後等に)、装置間送受信用アンテナ部15から、全視野投影装置20に送信される。
【0047】
なお、全視野投影装置20が遠方に位置するような場合には、地上局や通信衛星を用いるなどして、取得された映像と音声のデータを全視野投影装置20に送信する。
【0048】
全視野投影装置20においては、全視野撮像装置10から装置間送受信用アンテナ部25Dを介して無線送信されてきた(または別途用意された)映像と音声のデータが手元コントロール部28の図示されない記憶部に格納される。また、例えば、手元コントロール部28に配された操作スイッチのON操作による投影開始指示操作に応じて、該記憶部に格納されている映像データが、アンテナ25A、25B、25Cを介して各プロジェクタ21A、21Bに伝送される。下方のプロジェクタ21Bに伝送される映像データは、上述した上方の撮像カメラ11Aにより撮像された映像データとし、一方、上方のプロジェクタ21Aに伝送される映像データは、上述した下方の撮像カメラ11Bにより撮像された映像データとすれば、再生時映像の上下反転を阻止できるので好ましい。
【0049】
これにより、撮像に係る全視野風景を再生することが可能となる。勿論、プロジェクタ21Aに伝送される映像データを、撮像カメラ11Aにより撮像された映像データとするとともに、プロジェクタ21Bに伝送される映像データを、撮像カメラ11Bにより撮像された映像データとすることも可能である。
【0050】
ここで、撮像したデータ情報を、リアルタイムで投影する場合と、撮像と投影の各処理が時間をおいて行なわれる場合の各々について、データ情報の流れを簡単に説明する。
【0051】
すなわち、上記全視野撮像装置10および上記全視野投影装置20を用い、撮像した情報をリアルタイムで投影する場合には、手元コントロール部28の送受信機能をON状態とされると、手元コントロール部28は、全視野撮像装置10からの無線送信された映像と音声のデータ情報をアンテナ25Dを介して取り込む処理を開始し、取り込んだデータ情報のデータ処理を行いつつ、アンテナ25A、25B、25Cを介して両プロジェクタ21A、21Bに映像データを送信し、また、音声のデータ情報を両スピーカ部26A、26Bに送信する(両プロジェクタ21A、21Bおよび両スピーカ部26A、26Bにデータ情報を送信するタイミングの同期をとる処理を含む)。
【0052】
なお、リアルタイムにより情報処理を行うのではなく、手元コントロール部28にて、データ処理されたデータ情報を所定期間に亘って保存しておくことも可能である。
【0053】
また、図1(B)に示す、全視野投影装置20は、個人が一人で楽しむためのものであるが、これに替えて、図4に示すように、全視野投影装置120を用いれば、多人数で同時に映像を鑑賞することができる。なお、図4中の、全視野投影装置120の各部材において、図1(B)に示す全視野投影装置20と同一の機能を示すものについては、図1(B)で用いられている数字に100を加えた数字を付して示す。なお、ケーブル129による有線通信に替えてアンテナを介した無線通信とすることができる。
【0054】
また、この全視野投影装置120においても、全視野投影装置20と同様に、両凸ミラーが設けられていない。また、スピーカ部126A、126Bは、図中、スクリーン120の左右の側部に取り付けられており、スクリーン120の内部に座っている多数の観者に、プロジェクタ121A、121Bからの投影映像に同期して、スピーカ部126A、126Bからのステレオ音声を送出することができる。なお、全視野投影装置120においては各観者が座る各シート127毎に観者の顔の位置に合わせて防眩領域130が設けられている(図面を見易くするために2つのシート127についてのみ遮光領域131A、131Bおよび防眩領域130が記載されている)。さらに各シート127は、上下左右に移動調整できるようになっており、シート127に座った観者の体形に応じて、上述した防眩領域130に対応し得るように各人の目の位置を調整できるようになっている。なお、上記全視野投影装置20と同様に、観者とスクリーン123上の映像との相対的な回転がなされるように構成されている。
【0055】
また、図5に示す全視野投影装置220は、図2の全視野投影装置20の変形態様を示すものである。主要な構成部材についてはその符号を、図2に示す、対応する全視野投影装置20の構成部材の符号に200を加えた数字で表す。
【0056】
すなわち、全視野投影装置220は、全視野投影装置20と基本的な構成は類似しているが、以下の点で相違する、すなわち、遮光領域31Aと遮光領域31Bを形成するために、全視野投影装置20では、全視野投影装置20内のライトバルブ上に黒レベル領域を作成し、この黒レベル領域が観者30の顔位置と対応するように投影光を照射しているのに対し、全視野投影装置220ではプロジェクタ221A、221Bのレンズ鏡筒の先端部分が光軸を中心として回転自在とされており、また、この先端部分の一側壁面に光を遮光するマスク片232A、232Bが設けられている。すなわち、プロジェクタ221A、221Bの投影レンズから出射された投影光束の一部がマスク片232A、232Bによってけられ、丁度、観者30の顔周辺には投影光束が直接照射されない状態(遮光領域231A、231Bが形成された状態)とされている。なお、マスク片232A、232Bは、投影光束を完全に、または大幅に遮蔽することができるものであればどのような素材(例えば、金属や遮光プラスチック等)であってもよいが、有効な投影領域を十分に確保する必要性から、上記防眩領域を形成するための必要最小限のサイズとすることが肝要である。
【0057】
これにより、観者30の顔周辺への投影光束をマスク片232A、232Bにより遮光し、観者30の顔周辺への光照射を阻止して、防眩効果を得ることができる。
【0058】
なお、この全視野投影装置220においても、観者が腰掛けるためのシート部227Aと、脚部227Bとが、スクリーン223の底面頂点部分を中心として回転し得るように構成されており、また、この回転によっても常に防眩効果が得られるように、マスク片232A、232Bを設けた、プロジェクタ221A、221Bのレンズ鏡筒の先端部分が回転するように構成されている。その効果については全視野投影装置20と同様であるので、説明を省略する。
【0059】
また、本発明の全視野映像システムにおいては、スペースやコストの効率化のため、全視野投影装置と全視野撮像装置の一部を共有することが可能であり、この場合には投影手段と撮像手段とが一体化されるように構成する(例えば、装置筺体を共用したり、撮像レンズと投影レンズを共用したり、色合成プリズムと色分解プリズムを共用する)ことが可能であり、さらに全視野投影装置と全視野撮像装置とが空間的に互いに入れ替え可能とされるように構成することも可能である。この場合、全視野投影装置として使用する場合には、撮像用光反射手段は投影光束通過の邪魔となるので、この投影光束の光路外に退避させることが肝要である。
【0060】
一方、上記において全視野撮像装置を機能せしめる場合には、スクリーンをたたむ等の操作を行って、外部被写体を撮像可能とするように構成することが肝要である。
【0061】
また、本発明の全視野投影装置および全視野映像システムにおいては、下記を始めとする各種の用途に適用可能である。
【0062】
すなわち、例えば、海中の珊瑚環境内に全視野撮像装置を設置し、この状況での撮像映像を通信回線を使用して地上に配置した全視野投影装置に送信し、この全視野投影装置にてリアルタイムで海中の珊瑚環境全視野映像を再生する。
【0063】
また、例えば、飛行中のヘリコプターから全視野撮像装置を吊り下げ、この状況での撮像映像を通信回線を使用して地上に配置した全視野投影装置に送信し、この全視野投影装置にてリアルタイムでヘリコプターからの全視野空中映像を再生する。
【0064】
また、例えば、宇宙衛星の外部に全視野撮像装置を取り付け、この状況での撮像映像を通信回線を使用して地球上に配置した全視野投影装置に送信し、この全視野投影装置にてリアルタイムで宇宙と地球の全視野映像を再生する。
【0065】
また、例えば、劇場やスポーツ施設内に全視野撮像装置を設置し、この状況での撮像映像を通信回線を使用して他所に配置した全視野投影装置に送信し、この全視野投影装置にてリアルタイムで演劇やスポーツイベントの全視野映像を再生する。
【0066】
その他、例えば、豪華客船内、遠隔操作可能なラジコン飛行機内、遠隔操作可能なラジコンレーシングカー内、長距離列車内、人間の体内、等に全視野撮像装置を設置することが可能であり、さらに、例えば、ラジコン機等を、全視野投影装置において、その全視野映像を見ながら遠隔操作することが可能である。
【0067】
なお、上記の各態様において、リアルタイムで再生することは必ずしも必要とされない。
【0068】
また、本実施形態において、「全視野映像」とは、球状のスクリーンの略全域(例えば、スクリーンの全面積の80%以上、好ましくは90%以上の領域、あるいは、例えば、観者の体やプロジェクタの光束通過孔によってスクリーン投影が阻止された領域以外の領域)に投影される映像を意味し、「半視野映像」とは、スクリーン上の半球状領域の略全域(例えば、半球状領域の全面積の80%以上、好ましくは90%以上を占める領域)に投影される映像を意味する。
【0069】
なお、本発明の全視野投影装置および全視野映像システムとしては、上記実施形態のものに限られるものではなく、種々の変更の態様が可能である。
【0070】
例えば、防眩領域設定手段としては上記実施形態のものに限られず、シート部に座る観者の少なくとも眼周辺の空間領域を、1対の投影部からの投影光が照射されないかまたは減光されて照射される防眩領域とし得るものであれば、その他の種々の態様とすることができる。
【0071】
また、鏡像反転手段としては、撮像用光反射手段により得られた被写体映像を反転させるものであればよく、平面ミラーに替えて球面ミラーや収差補正可能な非球面ミラーとすることができ、さらにプリズム等の光学部材を使用することも可能である。また、物理的なミラーやプリズムに替えて、撮像用両凸ミラー12により反転した像を、一旦メモリ内に取り込み、これを画像処理により反転するような画像処理ソフトを用いたシステムとすることも可能である。なお、上記画像処理は撮像装置側で行なわれるものに限られるものではなく、投影装置側で行なわれるものであってもよい。
【0072】
また、上記実施形態のものでは、撮像用光反射手段が球面の一部からなる両凸ミラーとされているが、各凸部を球面の替わりに、非球面(楕円面や双曲面等)、あるいは円錐面で形成することも可能である。また、両凸ミラーを構成する一対の平凸形状ミラー体を互いにスペースを空けて対向配置することも可能である。
【0073】
さらに、上記実施形態のものにおいては、1対の撮像手段(カメラ)が両凸ミラーを挟んで互いに上下方向に配されているが、これらは両凸ミラーを挟んで互いに横方向に配されるようにしてもよいものである。
【符号の説明】
【0074】
10 全視野撮像装置
11A、11B 撮像カメラ
12 撮像用両凸ミラー
13A、13B、25A、25B、25C、25D、125、225A、225B、225C、225D アンテナ部
14 コントロール部
15 装置間送受信用アンテナ部
16A、16B マイク部
17 ミラー保持用チューブ
18 平面ミラー
19 CCD撮像素子
20、120、220 全視野投影装置
23、123、223 スクリーン
21A、21B、121A、121B、221A、221B プロジェクタ
26A、26B、126A、126B スピーカ部
27A、127、227A シート部
27B、227B 脚部
28、128、328 手元コントロール部
29、129 ケーブル
30 観者
31A、31B、231A、231B 遮光領域
232A、232B マスク片


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に全視野映像が投影されるように形成された球状のスクリーンと、
前記スクリーンの中心を挟んで互いに対向配置された1対の投影部からなり、一方の投影部が、該スクリーンの全領域のうち他方の投影部が配置された側の半球状領域に一側の半視野映像を投影し、該他方の投影部が、該スクリーンの全領域のうち該一方の投影部が配置された側の半球状領域に他側の半視野映像を投影して前記全視野映像を形成する投影系と、
前記スクリーンの内面周辺部に配置された観者用のシート部と、
前記シート部に座る観者の少なくとも眼周辺の空間領域を、前記1対の投影部からの投影光が照射されないかまたは減光されて照射される防眩領域とする防眩領域設定手段と、を備えてなることを特徴とする全視野投影装置。
【請求項2】
前記防眩領域設定手段は、前記スクリーンの各点と前記1対の投影部における各ライトバルブの各画素との座標の対応関係と、該スクリーンに対する前記シート部の位置情報とに基づき、該各ライトバルブにおいて前記防眩領域に対応した画素の輝度を低減させるように構成されている、ことを特徴とする請求項1記載の全視野投影装置。
【請求項3】
前記1対の投影部を結ぶ軸線を回転中心として、前記シート部と前記スクリーン上の前記全視野映像とを相対的に回転せしめる回転手段を備えてなる、ことを特徴とする請求項1または2記載の全視野投影装置。
【請求項4】
前記防眩領域設定手段は、前記シート部と前記全視野映像との相対的な回転に合わせて、該全視野映像に対する前記防眩領域の設定位置を移動させるように構成されている、ことを特徴とする請求項3記載の全視野投影装置。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1項記載の全視野投影装置と、
前記全視野映像に係る映像情報を取得するための全視野撮像装置であって、周囲の被写体の映像を撮像する、互いに対向配置された1対の撮像カメラ、および該周囲の被写体からの光束を該1対の撮像カメラ各々の方向に反射せしめる両凸形状の撮像用光反射手段を有する全視野撮像装置と、
前記撮像用光反射手段により得られた被写体映像を反転させる鏡像反転手段と、
を備えてなることを特徴とする全視野映像システム。
【請求項6】
前記鏡像反転手段は、前記撮像用光反射手段からの光束を前記1対の撮像カメラの各撮像素子の方向に反射せしめる1対の平面鏡である、ことを特徴とする請求項5記載の全視野映像システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−47821(P2012−47821A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187446(P2010−187446)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【特許番号】特許第4819960号(P4819960)
【特許公報発行日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(598042024)
【Fターム(参考)】