説明

内接歯車ポンプ

【課題】歯数がnのインナーロータと、歯数が(n+1)のアウターロータを組み合わせたポンプロータを備える内接歯車ポンプについて、チャンバ内圧力の急変を抑制してポンプのNV特性を改善することを課題としている。
【解決手段】ロータ室6の端面に形成されるチャンバ閉じ込み部9の設置領域を、インナーロータ2の回転角で表したときに閉じ込み角度よりも狭くし、チャンバ10が吸入ポート7から切り離される前に吐出ポート8に連通するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯数がnのインナーロータと、歯数が(n+1)のアウターロータを備える内接歯車ポンプ、詳しくは、騒音・振動特性(以下NV特性と言う)を改善した内接歯車ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
首記の歯数がn及び(n+1)のインナーロータとアウターロータを偏心配置にして組み合わせ、その2者からなるポンプロータをハウジングのロータ室に収納して構成される内接歯車ポンプは、車のエンジンの潤滑用や自動変速機(AT)用のオイルポンプなどとして利用されている。
【0003】
その内接歯車ポンプは、ハウジングのロータ室の端面に吸入ポートと吐出ポートを有する。吸入ポート終端と吐出ポート始端間は、インナーロータとアウターロータの歯間に作り出されるチャンバ(ポンプ室)を吸入ポートと吐出ポートから切り離す閉じ込み部として構成されており、前記チャンバが吸入ポートに面して面積(容積)を拡大しながら移動する間にそのチャンバに液体が吸入され、チャンバが吐出ポートに面して面積を縮小しながら移動する間にチャンバ内の液体が吐出ポートに送り出される。
【0004】
この内接歯車ポンプには、下記a)〜d)に掲げるようなものが存在する。これ等は、ロータの歯形が異なる。
a)サイクロイド曲線の歯形を採用したポンプ。
b)基礎円上を滑りなく転がる転円の半径上の任意の位置の一点が描くトロコイド曲線上に中心を持つ創成円群の包絡線によってインナーロータの歯形が形成されたポンプ(特許文献1参照)。このポンプのロータはパラコイド(住友電工の登録商標)ロータと称されている。
c)第1基礎円上を滑り無く転がる外転円の一点の軌跡によって描かれる歯先と、第1基礎円よりも小径の第2基礎円上を滑り無く転がる内転円の一点の軌跡によって描かれる歯底の間をインボリュート曲線でつないだ歯形を有するポンプ(特許文献2参照)。このポンプのロータはメガフロイド(住友電工の登録商標)ロータと称されている。
d)特許文献3が開示している方法で創成される歯形を採用したポンプ。なお、特許文献3の歯形創成法に関する詳細説明は、後に行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−280752号公報
【特許文献2】特開2005−036735号公報
【特許文献3】WO2010/016473A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、内接歯車ポンプは、歯形の異なるものが種々存在するが、チャンバ閉じ込み部に関する設計思想はいずれのポンプも共通している。
【0007】
即ち、吸入ポートの終端と吐出ポートの始端を、面積が最大になったチャンバのロータ回転方向前後の歯間シール点と重なる位置に設定し、面積が最大になったチャンバを吸入ポートと吐出ポートの双方から同時に切り離すのが設計の基本となっている。
【0008】
この場合、チャンバをポートから切り離すチャンバ閉じ込み部は、インナーロータ回転角で表すと、図9に示すチャンバ面積最大状態でのロータ回転方向前後の歯間最小隙間部TCF,TCRとインナーロータ中心Oを結ぶ線のなす角度(以下、閉じ込み角度θと言う)よりも広い範囲に設置される。
【0009】
なお、図9に鎖線で示すように、チャンバ閉じ込み部を、チャンバ面積が最大になった位置からロータ正転方向に所定角度(一般には、5°程度)進角した位置に設定することもなされているが、この場合も、チャンバ閉じ込み部の設置領域は、5°進角したチャンバのロータ回転方向前後の歯間隙間最小部とインナーロータ中心を結ぶ線のなす角度(以下、進角状態での閉じ込み角度と言う)よりも広い範囲に設定される。
【0010】
このように、従来の内接歯車ポンプは、吐出ポートと吸入ポートが、吐出行程に移行するチャンバを介して連通することのないようにチャンバ閉じ込み部の位置が設定されていたが、その設計では、チャンバが吐出ポートに連通した瞬間にチャンバ内圧力が急激に上昇する。それが原因でポンプ吐出圧の脈動、ロータのいわゆる歯打ちなどが発生し、ポンプのNV特性が悪化する。
【0011】
この発明は、そのチャンバ内圧力の急変を抑制してポンプのNV特性を改善することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明においては、歯数がnのインナーロータと歯数が(n+1)のアウターロータを偏心配置にして組み合わせたポンプロータを有し、そのポンプロータをハウジングのロータ室に収納して構成される内接歯車ポンプに以下の改良を加えた。
即ち、前記ロータ室の端面に形成されるチャンバ(ポンプ室)閉じ込み部の設置領域を、インナーロータ回転角で表したときに閉じ込み角度θ(進角状態での閉じ込み角度も含む)よりも狭くした。
インナーロータ回転角は、インナーロータを、そのインナーロータの中心を支点にして回転させたときの角度である。また、閉じ込み角度θは、ロータ回転方向前後の歯間最小隙間部TCF,TCRとインナーロータ中心Oを結ぶ線のなす角度(図9参照)である。
【0013】
このポンプは、閉じ込み角度に対して、吸入ポート終端及び吐出ポート始端を動かし、
インナーロータ中心を基準にしたチャンバ閉じ込み部の設置領域の角度を閉じ込み角度θよりも小さくし、吸入ポートと吐出ポートを連通可能となしたものである。
その連通については、{(閉じ込み角度θ−チャンバ閉じ込み部の設置領域角度β)/閉じ込み角度θ}の式で求まる連通率αが、α≦0.2を満足するように設定することが好ましい。
【0014】
そのチャンバ閉じ込み部は、従来と同様の考え方に基づき、設置基準位置から数°(例えば5°程度)の範囲でロータ正転方向に進角した位置に設けてもよい。
【0015】
また、前記チャンバ閉じ込み部に、吐出ポートの始端からロータ回転方向後方に延びだすノッチを設け、前記チャンバが前記吐出ポートに到達する前に前記ノッチを通してチャンバ内に吐出ポートの液圧が流入するような仕様のポンプにも、吸入ポート終端とノッチ始端との角度に対してもこの発明を同様に適用することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の内接歯車ポンプは、ロータ室の端面に設けるチャンバ閉じ込み部の設置領域が従来の同種のポンプに比べて狭くなっており、チャンバが吸入ポートから切り離される前にそのチャンバが吐出ポートに連通する。
【0017】
これにより、チャンバを完全に閉じきった後に吐出ポートに連通させる従来の内接歯車ポンプに比べてチャンバが吐出ポートに連通するときのチャンバ内圧力の上昇率が小さくなり、チャンバ内圧力の急変に起因したポンプ吐出圧の脈動、ロータの歯打ちが抑制されてポンプのNV 特性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の内接歯車ポンプの一例を、ハウジングのカバーを外した状態にして示す端面図
【図2】この発明の内接歯車ポンプの他の例を、ハウジングのカバーを外した状態にして示す端面図
【図3】(a)一定径の創成円を用いて図2のインナーロータの歯形を創成する方法の解説図、(b)一定径の創成円の中心の移動状態を示すイメージ図
【図4】図1と同一歯形同一仕様のインナーロータを用いた従来ポンプの時間とチャンバ内圧力変動の関係の測定結果を示す図
【図5】図1のポンプのチャンバ内圧力上昇の低減率とポンプの吐出量変化率の測定結果を示す図
【図6】図2と同一歯形同一仕様のインナーロータを用いた従来ポンプの時間とチャンバ内圧力変動の関係の測定結果を示す図
【図7】図2のポンプのチャンバ内圧力上昇の低減率とポンプの吐出量変化率の測定結果を示す図
【図8】チャンバ閉じ込み部に吐出ポートから吸入ポート側に延びだすノッチを設けた例を示す図
【図9】閉じ込み角度の説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の内接歯車ポンプの実施の形態を添付図面の図1〜図8に基づいて説明する。
【0020】
図1は、特許文献1に開示される歯形(パラコイド歯形)を採用したポンプにこの発明を適用したものである。特許文献1の歯形は、基礎円上を滑りなく転がる転円の半径上の任意の位置の一点が描くトロコイド曲線上に中心を持つ軌跡円群の包絡線をインナーロータの歯形となしている。
【0021】
アウターロータの歯形は、アウターロータの中心を中心とする直径(2e+t)(e:インナーロータとアウターロータの偏心量,t:インナーロータとアウターロータの理論偏心位置でのチップクリアランス)の円上をインナーロータの中心が1周公転し、その間にインナーロータが(1/n)回自転し、このときのインナーロータの歯形曲線群の包絡線をアウターロータの歯形とする方法や既知のその他の方法で創成されている。
【0022】
この内接歯車ポンプ1は、歯数がnのインナーロータ2と歯数が(n+1)のアウターロータ3を偏心配置にして組み合わせてポンプロータ4を構成し、そのポンプロータ4をハウジング5のロータ室6に収納して構成されている。
【0023】
ロータ室6の端面には、吸入ポート7と吐出ポート8が形成されており、吸入ポート7の終端から吐出ポート8の始端までがチャンバ閉じ込み部9となっている。
【0024】
そのチャンバ閉じ込み部9は、従来のポンプ設計では、インナーロータ2とアウターロータ3の歯間に形成されるチャンバ10が面積最大となったときに、面積最大のチャンバを閉じ込める範囲、或いはそこから所定角度進角した範囲が設置領域として設定されていた。
【0025】
この発明のポンプは、そのチャンバ閉じ込み部9の設置領域角βを、閉じ込み角度θよりも小さくしている。そのために、吸入行程の終段にあるチャンバが吸入ポートから切り離される前にそのチャンバが吐出ポートに連通する。なお、設置領域角βは、吸入ポート終端から吐出ポート始端までのインナーロータ中心を基準にした角度である。
【0026】
ロータ正転方向後方の歯間最小隙間部(歯間シール点)TCR(図9参照、実線のTCRは進角無し、鎖線のTCRは進角あり)が吸入ポート7の終端にあるときにチャンバ10が吐出ポートに開口する領域の角度の閉じ込み角度θに対する割合(連通率)をαとして、その連通率αは0.2以下が好ましい。
【0027】
なお、連通率αとポンプの吐出量の関係は、パラコイド歯形以外の歯形を有するポンプでも似たような傾向を示す。
【0028】
既述のトロコイド曲線やサイクロイド曲線の歯形を採用したポンプや、第1基礎円上を滑り無く転がる外転円の一点の軌跡によって描かれる歯先と、第1基礎円よりも小径の第2基礎円上を滑り無く転がる内転円の一点の軌跡によって描かれる歯底の間をインボリュート曲線でつないだ歯形(メガフロイド歯形)をインナーロータが有するポンプ、或いは、特許文献3が開示している方法で創成される歯形をインナーロータに採用したポンプでも発明の効果が発揮される。
【0029】
特許文献3の方法で設計される歯形は、図3a、図3bに示すように、
歯先創成円B、歯底創成円C(以下2者を単に創成円という)を下記(1)〜(3)の条件に基づいて移動させ、その間にインナーロータ中心Oと同心の基準円A上の基準点Jと重なる前記創成円B、C上の点jが描く軌跡曲線を、基準円中心Oから歯先頂点T又は歯底頂点Tに至る直線L,Lに対して対称形状をなすように描いて歯形の歯先曲線2a、歯底曲線2bの少なくとも一方となしている。
【0030】
−創成円B,Cの移動条件(1)〜(3)−
(1)創成円B、Cを、それらの創成円上の点jが基準円A上の基準点Jに重なるように配置し、このときに創成円中心pa、pbがある位置を移動始点にしてその移動始点Spa、Spbから創成円B、Cを一定角速度で自転させながら、創成円中心pa、pbが移動終点Lpa、Lpbに到達するまで創成円中心をその中心の移動曲線AC,ACに沿って移動させる。移動終点Lpa、Lpbは、創成円B、C上の点jが歯先頂点T又は歯底頂点Tに到達する位置である。
この条件(1)に基づいて創成円B、C上の点jが描く軌跡曲線が歯形になる。
【0031】
(2)前記移動曲線AC,ACは、インナーロータ中心Oから創成円中心pa、pbまでの基準円径方向距離を、前記移動始点Spa、Spbから移動終点Lpa、Lpbまで、歯先曲線2aについてはその距離を増加させ、一方、歯底曲線2bについてはその距離を減少させる。
【0032】
これにより、移動曲線AC,ACは、歯先側においては図3aにおいて右上がりの傾斜曲線、歯底側においては左下がりの傾斜曲線となり、それに伴い、上記点jの描く軌跡曲線が滑らかな歯先、歯底を描く。
【0033】
(3)歯先頂点T又は歯底頂点Tは、基準円Aの径方向において、創成円Bの移動始点Spaと基準円中心O間の距離Rに移動始点にある創成円Bの半径を足した長さを超えて基準円中心Oから離れている。又は、創成円Cの移動始点Spbと基準円中心O間の距離rに移動始点にある創成円Cの半径を差し引いた長さを超えて基準円中心Oに近づいている。
【0034】
この条件により、点jの軌跡曲線によって描かれる歯の歯丈が、基礎円上を転がる転円によって描かれるサイクロイド曲線の歯形に比べて高くなる。
【0035】
上記創成円B,Cは、それぞれの直径Bd,Cdを一定に保って移動始点から移動終点に移動する円と、それぞれの直径Bd,Cdを縮めながら移動始点から移動終点に移動する円のどちらかが選択される。移動中に径変化を生じる後者の創成円は、移動始点での直径に対して移動終点での直径が0.2倍以上、1倍以下にするのがよい。
【0036】
創成円中心pa、pbの移動始点Spa、Spbは、図3aでは直線L上に置かれているが、直線Lよりも創成円の移動方向前方に配置されることもある。
【0037】
さらに、創成円中心pa、pbの移動終点Lpa、Lpbも、直線L,Lからずれた位置に設定されることがある。
【0038】
なお、移動曲線AC,ACとしては、インナーロータ中心Oから創成円中心pa、pbまでの距離の変化率ΔR’が移動終点Lpa、Lpbにおいて0である曲線や正弦関数を利用した下記の曲線などが用いられる。
【0039】
例えば、創成円中心pa、pbの移動始点Spa、Spbから移動終点Lpa、Lpbに至る間の基準円径方向移動量ΔRが下式を満たす曲線である。
【0040】
ΔR=R×sin{(π/2)×(m /S)}
ここに、R:創成円の径方向移動量(インナーロータ中心Oから移動終点にある創成円中心paまでの距離)−(インナーロータ中心Oから移動始点にある創成円中心paまでの距離)
S:ステップ数(創成円の移動始点から移動終点までの移動角度θ又はθを等間隔に等分した数)
m:0→S
【0041】
創成円B,Cの移動角度θ、θは、歯数や歯先、歯底の設置領域の比率などを考慮して設定される。
【0042】
上記の方法で歯形を創成したインナーロータと組み合わせるアウターロータの歯形は、既知の方法で創成することができる。
【0043】
既知の方法としては、例えば、アウターロータの中心を中心とする直径(2e+t)(eはインナーロータとアウターロータの偏心量,tはインナーロータとアウターロータの理論偏心位置でのチップクリアランス)の円上をインナーロータの中心が1周公転し、その間にインナーロータが(1/n)回自転し、このときのインナーロータの歯形曲線群の包絡線をアウターロータの歯形とする方法が多用されているが、これに限定されるものではない。
【0044】
特許文献3が開示している方法でインナーロータの歯形を創成したインナーロータ歯数n=8のポンプロータを図2に示す。
【実施例1】
【0045】
基礎円直径:35mm、転円径:4.5mm、創成円直径:9.5mmの条件で歯形を創成した歯数n=8のインナーロータを有するポンプロータを用いた理論吐出量:3cm/revのパラコイド歯形のポンプを作製し、そのポンプを、油温:120℃、回転数:2000rpm、ポンプ吐出圧:0.3MPaの条件で駆動した。
【0046】
この試験では、図1に示すチャンバ閉じ込み部9の設置領域角β=41°で吸入行程終段のチャンバが吸入ポートと吐出ポートの双方から共に切り離されるポンプ(従来品)と、チャンバ閉じ込み部9の設置領域角βを41°以下にして吸入行程の終段のチャンバが吸入ポートから切り離される位置で吐出ポートに連通するようにしたポンプ(発明品)を使用した。
【0047】
従来品について、時間とチャンバ内圧力変動の関係を測定した結果を図4に示す。
【0048】
発明品のポンプについては、前記連通率αを0〜0.25の間で変化させ、図4の従来品の圧力上昇のピーク値を100としてチャンバ内圧力上昇の低減率とポンプの吐出量変動の状況を調べた。その結果を図5に示す。
【0049】
この図5において、チャンバが吐出ポートに通じたときのチャンバ内圧力の上昇率は低いほどよい。一方、チャンバ内圧力の上昇率が低くなるほどポンプの吐出量低下率が高まる。その吐出量低下率は、ポンプの吐出量に余裕があるときには10%程度は許容される。このチャンバ内圧力の上昇率とポンプの吐出量低下率のバランスを考えると、連通率αは、最大で0.2程度の設定が可能である。
【0050】
歯数nが8枚の上記仕様のインナーロータを用いたポンプは、チャンバ閉じ込み部の設置領域角βを41°からインナーロータ回転角で8°狭くして33°にすると連通率αを0.20以下にすることができる。
【実施例2】
【0051】
図2のポンプロータをハウジングのロータ室に収納して吸入行程の終段のチャンバが吸入ポートと吐出ポートの双方から共に切り離される比較品のポンプと、吸入行程の終段にあるチャンバが吸入ポートから切り離される前に吐出ポートに連通する発明品のポンプを
試作した。そして、両者の性能評価を行った。その評価試験で比較品について調べたチャンバ内圧力の変動状況を図6に、その圧力上昇の発明品による低減率とポンプの吐出量変動の状況を図7にそれぞれ示す。この試験で用いたポンプの諸元は以下の通りである。
【0052】
アウターロータ歯数 :9
インナーロータ歯数 :8
基準円Aの直径Ad :φ26mm
創成円Bの直径Bd :φ1.2mm
創成円Bの径方向移動距離R:2mm
創成円Bの中心の移動量ΔR:2×sin(π/2×m/S)
創成円Cの直径Cd :φ1.2mm
創成円Cの径方向移動距離R´:0.5mm
創成円Cの中心の移動量ΔR:0.5×sin(π/2×m/S)
ロータ偏心量e :2mm
θ :11.25°
θ :11.25°
ステップ数S :30
アウターロータ歯形:上記方法でのインナーロータ歯形曲線群の包絡線
【0053】
このポンプは、理論吐出量:3cm/revであり、これを油温:120℃、回転数:2000rpm、ポンプ吐出圧:0.3MPaの条件で駆動した。
【0054】
比較品のポンプは、図6に示すように、チャンバが吐出ポートに連通したときにチャンバ内圧力が急激に上昇する。
【0055】
これに対し、チャンバ閉じ込み部9の設置領域角βを狭くして吸入行程の終段のチャンバが吸入ポートから切り離される位置で吐出ポートに連通するようにした発明品のポンプは、図7に示すように、チャンバ内圧力の上昇率が著しく低減した。
【0056】
この図7からも閉じ込み角度θとの割合で表した連通率αは、0.2以下が適当であることがわかる。
【0057】
なお、図8に示すように、チャンバ閉じ込み部9には、吐出ポート8から吸入ポート7側に延びだすノッチ11を設けることができる。そのノッチ11を設けると、吸入行程の終段のチャンバが吐出ポートに到達する前にノッチ経由で吐出ポートの圧力が若干チャンバに流入するので、チャンバ内圧力上昇の低減効果がより高まる。
【符号の説明】
【0058】
1 内接歯車ポンプ
2 インナーロータ
2a 歯先曲線
2b 歯底曲線
3 アウターロータ
4 ポンプロータ
5 ハウジング
6 ロータ室
7 吸入ポート
8 吐出ポート
9 チャンバ閉じ込み部
10 チャンバ
11 ノッチ
インナーロータ中心(基準円中心)
Tc,Tc チャンバのロータ回転方向前後の歯間最小隙間部
α 連通率
A 基準円
Ad 基準円の直径
B 歯先創成円
C 歯底創成円
Bd,Cd 創成円の直径
AC,AC 創成円中心が通る移動曲線
R 創成円の径方向移動量
Ro 創成円Bの移動始点Spaと基準円中心O間の距離
創成円Cの移動始点Spbと基準円中心O間の距離
θ,θ 創成円の移動角度
J 基準円上の基準点
j 軌跡曲線を描く点
歯先頂点
歯底頂点
インナーロータ中心と基準点Jを結ぶ直線
インナーロータ中心と歯先を結ぶ直線
インナーロータ中心と歯底を結ぶ直線
pa,pb 創成円中心
Spa,Spb 創成円の移動始点
Lpa,Lpb 創成円の移動終点
S ステップ数
e インナーロータ中心とアウターロータ中心の偏心量
t チップクリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯数がnのインナーロータ(2)と歯数が(n+1)のアウターロータ(3)を偏心配置にして組み合わせたポンプロータ(4)を有し、そのポンプロータ(4)をハウジング(5)のロータ室(6)に収納して構成される内接歯車ポンプであって、
前記ロータ室(6)の端面に形成されるチャンバ閉じ込み部(9)の設置領域(β)を、インナーロータ回転角で表したときに閉じ込み角度(θ)よりも狭くしたことを特徴とする内接歯車ポンプ。
ここに、閉じ込み角度(θ):ロータ回転方向前後の歯間最小隙間部TCF,TCRとインナーロータ中心Oを結ぶ線のなす角度。
【請求項2】
チャンバのロータ正転方向後方の歯間最小隙間部(TCR)が吸入ポート(7)の終端にあるときに面積が最大になったチャンバが吐出ポート(8)に開口する領域の角度と閉じ込み角度(θ)との比で表される連通率をαとして、そのαが0.2以下となるように前記チャンバ閉じ込み部(9)の設置領域を設定した請求項1に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項3】
前記チャンバ閉じ込み部(9)を、チャンバ面積が最大になった位置から所定角度範囲でロータ正転方向に進角した位置に設けた請求項1又は2に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項4】
前記チャンバ閉じ込み部(9)に、吐出ポート(8)の始端からロータ回転方向後方に延びだすノッチ(11)を設け、前記チャンバ(10)が前記吐出ポート(8)に到達する前に前記ノッチ(11)を通してチャンバ内に吐出ポート(8)の液圧が流入するようにした請求項1〜3のいずれかに記載の内接歯車ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−60924(P2013−60924A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201382(P2011−201382)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】