内燃機関のバルブタイミング制御装置
【課題】リンクの可動部や、可動案内部と渦巻き溝の係合部をより確実に潤滑する。
【解決手段】操作力付与手段204によって中間回転体223を駆動プレート3及びレバー軸10に対して回動操作することで、中間回転体の渦巻き溝24に係合した球19を径方向溝に沿わせて変位させ、その変位をリンク14を介して駆動プレートとレバー軸の相対回動に変換することによってクランクシャフトに対するカムシャフト1の回転位相を変更する装置において、リンクの可動部と、球と渦巻き溝の係合部の周域に設けられた潤滑液の充填空間63に潤滑液を機関作動中に強制的に供給すると共に、中間回転体を軸方向に貫通する貫通孔81を通して充填空間から遊星歯車機構76側に潤滑液を導入するようにした。
【解決手段】操作力付与手段204によって中間回転体223を駆動プレート3及びレバー軸10に対して回動操作することで、中間回転体の渦巻き溝24に係合した球19を径方向溝に沿わせて変位させ、その変位をリンク14を介して駆動プレートとレバー軸の相対回動に変換することによってクランクシャフトに対するカムシャフト1の回転位相を変更する装置において、リンクの可動部と、球と渦巻き溝の係合部の周域に設けられた潤滑液の充填空間63に潤滑液を機関作動中に強制的に供給すると共に、中間回転体を軸方向に貫通する貫通孔81を通して充填空間から遊星歯車機構76側に潤滑液を導入するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸気側または排気側の機関弁の開閉タイミングを運転状態に応じて可変制御する内燃機関のバルブタイミング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のバルブタイミング制御装置は、クランクシャフトからカムシャフトに至る動力伝達経路において、両シャフトの回転位相を操作することにより、機関弁の開閉タイミングを制御するようにしている。即ち、この種の装置は、クランクシャフトにタイミングチェーン等を介して連繋された駆動回転体がカムシャフト側の従動回転体に必要に応じて相対回動できるように組み付けられると共に、これらの回転体の間に両者の組付角を操作すべく組付角操作機構が介装され、この組付角操作機構を適宜駆動制御することによってクランクシャフトとカムシャフトの回転位相を変更するようになっている。
【0003】
組付角操作機構としては、ヘリカルギヤを用いて油圧ピストンの直進作動を両回転体の回動作動に変換するもの等種々のものが開発されているが、近年、軸長を短縮化でき、フリクションロスが少ない等の多く利点を有するリンクを用いたものが案出されている。
【0004】
組付角操作機構にリンクを用いたバルブタイミング制御装置としては、以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0005】
この装置は、図14,図15に示すように、クランクシャフト(図示せず。)にタイミングチェーン(図示せず。)等を介して連繋されたハウジング101(駆動回転体)がカムシャフト102の端部に回動可能に組み付けられ、ハウジング101の内側端面に形成された径方向ガイド106に複数の案内部材104,104(可動案内部)が夫々径方向に沿って摺動自在に係合支持されると共に、径方向外側に突出する複数のレバー105,105を有するレバー軸106(従動回転体)がカムシャフト102の端部に取り付けられ、各案内部材104とレバー軸106の対応するレバー105とがリンク107によって枢支連結されている。そして、ハウジング101の前記径方向ガイド103と対向する位置には、径方向ガイド103側の側面に渦巻き状ガイド108を有する中間回転体109がハウジング101とレバー軸106に対して相対回動可能に設けられ、前記各案内部材104の軸方向の一方の端部に突設された略円弧状の複数の突条110が前記渦巻き状ガイド108に案内係合されている。また、中間回転体109はハウジング101に対して回転を進める側にゼンマイばね111によって付勢されると共に、電磁ブレーキ112によって回転を遅らせる側の力を適宜受けるようになっている。
【0006】
この装置の場合、電磁ブレーキ112がOFF状態のときには、中間回転体109がゼンマイばね111の付勢力を受けハウジング101に対して初期位置に位置されており、渦巻き状ガイド108に突条110でもって噛合う案内部材104は径方向外側に最大に変位し、リンク107を引き起こしてハウジング101とカムシャフト102の組付角を最遅角位置または最進角位置に維持している。そして、この状態から電磁ブレーキ112がONにされると、中間回転体109が減速されてハウジング101に対して遅れ側に相対回転する結果、渦巻き状ガイド108に噛合う案内部材104が径方向内側に変位し、今まで引き起こされていたリンク107を次第に倒すようにしてハウジング101とカムシャフト102の組付角を最進角位置または最遅角位置に変更する。
【0007】
また、このバルブタイミング制御装置においては、潤滑液の供給通路120がカムシャフト102に沿って設けられ、この通路120を通して供給される潤滑液により、各リンク107の可動部と、案内部材104と渦巻き状ガイド108の係合部とを潤滑するようになっている。
【特許文献1】特開2001−41013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、この従来のバルブタイミング制御装置の場合、供給通路120を通して流入した潤滑液を、リンク107の可動部と、案内部材104と渦巻き状ガイド108の係合部とに供給する構造となっているものの、その潤滑液はハウジング101と中間回転体109の隙間を通して外部に流れ出てしまうため、リンク107の可動部や、案内部材104と渦巻き状ガイド108の係合部は常時潤滑液内に浸されているわけではない。このため、リンク107の可動部や、案内部材104と渦巻き状ガイド108の係合部の潤滑は常に充分であるとは言えず、より確実な潤滑が望まれている。
【0009】
また、リンク107の可動部や、案内部材104と渦巻き状ガイド108の係合部にはスムーズな作動を得るために若干の組付隙間が設けられているが、この組付隙間があるために振動や騒音が生じ易く、このことが一つの解決すべき課題となっている。
【0010】
そこで本発明は、リンクの可動部や、可動案内部と渦巻き状ガイドの係合部のより確実な潤滑と、これらの組付隙間による振動、騒音の発生防止を図ることのできる内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記従来技術の技術的課題に鑑みて案出されたもので、請求項1に記載の発明は、内燃機関のクランクシャフトによって回転駆動する駆動回転体と、カムシャフト若しくは同シャフトに結合された別体部材からなる従動回転体と、前記駆動回転体と従動回転体に対して相対回転可能に設けられ、一側面に回転方向に沿って縮径する溝を有する中間回転体と、前記溝に案内係合されて径方向へ変位可能な可動案内部と、前記駆動回転体と従動回転体とを連結し、該可動案内部の径方向の移動に伴って前記従動回転体に回転力を付与するリンクと、カムシャフトに対する相対的な回転操作力を前記中間回転体に付与する操作力付与手段と、を備え、前記リンク、前記可動案内部及び前記中間回転体の前記溝を含む周域を経由して前記操作力付与手段に潤滑液が導入されることを特徴としている。
【0012】
この発明によれば、リンク、可動案内部及び中間回転体の溝を含む周域を経由する潤滑液によって可動案内部とリンクとの連結部(可動部)や可動案内部と中間回転体の溝との係合部等の潤滑を確実に行うことができると共に、潤滑液によるダンパ作用によって各構成部品間の隙間部分での振動、騒音の発生を抑制できる。
【0013】
さらには、前記リンク、可動案内部及び中間回転体の溝を含む周域を経由した潤滑液を、例えば中間回転体を軸方向に貫通する貫通孔などを通して操作力付与手段に導入するようにしたことから、該操作力付与手段に潤滑液を供給する供給通路や供給口を別途設ける必要がなくなるため、製造コストの高騰を抑えつつ操作力付与手段に対する確実な潤滑を行えるという利点がある。
【0014】
なお、この際、前記供給された潤滑液を排出する排出通路を設けてもよく、この場合には、供給された潤滑液が排出通路を介して外部に速やかに排出されるため、潤滑液が内部に滞留することなくなるので、潤滑液の劣化の発生を防止できると共に、摩耗粉等の異物を潤滑液とともに外部に排出することができる。
【0015】
そして、前記排出通路は、前記カムシャフト側から前記潤滑液を排出するように構成することが望ましい。
【0016】
一方、前記リンク、可動案内部及び中間回転体の溝を含む周域に潤滑液を供給する供給口からは、前記潤滑液の自然の漏れ量よりも多い潤滑液を供給するように設定することが望ましく、これによって前記連結部や係合部等に常時潤滑液を供給することができる。
【0017】
なお、この際、前記供給口から供給される潤滑液に前記リンク、可動案内部及び中間回転体の溝を浸漬させるための充填空間を設けることが望ましい。かかる構成とすることにより、充填空間内において前記リンク等を常時潤滑液に浸漬させることができるため、請求項1の発明の作用効果をさらに促進することが可能になる。
【0018】
そして、かかる充填空間内には、クランクシャフトの回転作動によって潤滑液を補充するように構成すると共に、当該充填空間内の潤滑液には、少なくとも前記係合部を浸漬させることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
最初に、図1〜図9に示す本発明の第1の参考例について説明する。尚、この参考例は、本発明にかかるバルブタイミング制御装置を内燃機関の吸気側の動力伝達系に適用したものであるが、内燃機関の排気側の動力伝達系に同様に適用することも可能である。
【0021】
このバルブタイミング制御装置は、図1に示すように内燃機関のシリンダヘッド(図示せず)に回転自在に支持されたカムシャフト1と、このカムシャフト1の前端部に必要に応じて相対回動できるように組み付けられ、チェーン(図示せず)を介してクランクシャフト(図示せず)に連繋されるタイミングスプロケット2を外周に有する駆動プレート3(本発明における駆動回転体)と、この駆動プレート3とカムシャフト1の前方側(図1中左側)に配置されて、両者3,1の組付角を回動操作する組付角操作機構5と、この組付角操作機構5のさらに前方側に配置されて、同機構5を駆動操作する操作力付与手段4と、内燃機関の図外のシリンダヘッドとロッカカバーの前面に跨って取り付けられて組付角操作機構5と操作力付与手段4の前面と周域を覆うVTCカバー12と、を備えている。
【0022】
駆動プレート3は、中心部に段差状の支持孔6を備えた円板状に形成され、その支持孔6部分が、カムシャフト1の前端部に一体に結合されたフランジリング7に回転自在に支持されている。そして、駆動プレート3の前面(カムシャフト1と逆側の面)には、図2に示すように、3つの径方向溝8(本発明における径方向ガイド)が同プレート3の半径方向に沿うように形成されており、この各径方向溝8の内部には、後述する案内部材17(本発明における可動案内部)の断面方形状の基部が摺動自在に係合されている。
【0023】
また、前記フランジリング7の前面側には、放射状に突出する三つのレバー9を有するレバー軸10(本発明における従動回転体)が配置され、このレバー軸10がフランジリング7と共にボルト13によってカムシャフト1に結合されている。そして、レバー軸10の各レバー9には、リンク14の一端がピン15によって枢支連結され、各リンク14の他端には、基部側が径方向溝8に係合された前記各案内部材17が回動可能に嵌合されている。尚、カムシャフト1からフランジリング7とレバー軸10にかけては、ボルト13の軸部外周面に沿って潤滑液の供給通路25が設けられ、その供給通路25のレバー9の突設部の近傍に開口する供給口25aを通して潤滑液をリンク14の付根側の枢支部近傍に供給するようになっている。
【0024】
各案内部材17は、上述のように径方向溝8に係合された状態において、リンク14を介してレバー軸10の対応するレバー9に連結されているため、案内部材17が外力を受けて径方向溝8に沿って変位すると、駆動プレート3とレバー軸10はリンク14の作用でもって案内部材17の変位に応じた方向及び角度だけ相対回動する。
【0025】
また、各案内部材17には前面側(カムシャフト1と逆側)に開口する保持穴18が設けられ、この保持穴18に略円柱状のリテーナ20が摺動自在に収容されると共に、リテーナ20を前方側に付勢するためのコイルばね21が収容されている。リテーナ20は前面中央に半球状の凹部20aが設けられ、この凹部20aに球19(案内部材17と共に本発明における可動案内部を構成。)が転動自在に収容されている。
【0026】
レバー軸10のレバー9の突設位置よりも前方側には、略円盤状の中間回転体23が玉軸受22を介して支持されている。この中間回転体23の後部側の面には断面半円状の渦巻き溝24(本発明における溝部)が形成され、この渦巻き溝24に前記各案内部材17の係止ピンとしての球19が転動自在に係合されている。渦巻き溝24の渦巻きは、図2及び図8,図9に示すように駆動プレート3の回転方向Rに沿って次第に縮径するように形成されている。したがって、案内部材17側の球19が渦巻き溝24に係合した状態で中間回転体23が駆動プレート3に対して遅れ方向に相対回転すると、案内部材17は渦巻き溝24の渦巻き形状に沿って半径方向内側に移動し、逆に、中間回転体23が進み方向に相対回転すると、半径方向外側に移動する。尚、この参考例の場合、中間回転体23は、後部側の面に前記渦巻き溝24が形成された本体部23aと、この本体部23aの外周面に圧入固定された外周リング23bとから構成されており、外周リング23bは、駆動プレート3側に小径部を有し、その小径部には後述するシールリング60(本発明におけるシール部材)を装着するための環状溝61が形成されている。
【0027】
この参考例の場合、組付角操作機構5は、以上説明した駆動プレート3の径方向溝8、案内部材17、球19、リンク14、レバー9、中間回転体23の渦巻き溝24等によって構成されている。この組付角操作機構5は、操作力付与手段4から中間回転体23にカムシャフト1に対する相対的な回動操作力が入力されると、渦巻き溝24を介して案内部材17を径方向に変位させ、さらにリンク14及びレバー9を介してその回動力を設定倍率に増幅し、駆動プレート3とカムシャフト1に相対的な回動力を作用させる。
【0028】
一方、操作力付与手段4は、図1,図4に示すように前記中間回転体23の前面側(駆動プレート3と逆側)に接合された円環プレート状の永久磁石ブロック29と、レバー軸10に一体に結合された同じく円環プレート状のヨークブロック30と、VTCカバー12内に取り付けられた電磁コイルブロック32と、を備えて成り、この電磁コイルブロック32の備える複数の電磁コイル33A,33Bは、励磁回路やパルス分配回路等を含む駆動回路(図示せず)に接続され、この駆動回路が図示しないコントローラによって制御されるようになっている。尚、コントローラは、クランク角、カム角、機関回転数、機関負荷等の各種の入力信号を受け、随時機関の運転状態に応じた制御信号を駆動回路に出力する。
【0029】
永久磁石ブロック29は、図5に示すように、軸方向と直交する面に放射方向に延出する磁極(N極,S極)が、異磁極が交互になるように円周方向に沿って複数着磁されている。尚、図5においては、N極の磁極面を36nで示し、S極の磁極面を36sで示している。
【0030】
ヨークブロック30は、図4,図6に示すように第1,第2極歯リング37,38が対にされて成る二組のヨーク39A,39Bを備え、その内周縁部がレバー軸10に対し一体に結合されている。
【0031】
各ヨーク39A,39Bの第1,第2極歯リング37,38は透磁率の高い金属材料によって形成され、図6に示すように、平板リング状の基部37a,38aと、その基部37a,38aから径方向内側または外側に延出する略台形状の複数の極歯37b・,38b・とを備えている。この参考例の場合、各極歯リング37,38の極歯37b,38bは、円周方向に等間隔に、かつ、歯先が相手極歯リング側に指向するように、つまり、第1極歯リング37の歯先は径方向内側に、第2極歯リング38の歯先は径方向外側に夫々指向するように延出している。そして、第1極歯リング37と第2極歯リング38は、互いの極歯37b,38bが円周方向に交互に、かつ、等ピッチとなるように絶縁体である樹脂材料40によって結合されている。
【0032】
ヨークブロック30を構成する2つのヨーク39A,39Bは、径方向外側と内側に全体がほぼ円板状を成すように並べられると共に、互いの極歯37b,38bが円周方向に沿って4分の1ピッチずれるように組み付けられている。
【0033】
また、ヨークブロック30は、図1,図4に示すように、その両側面が永久磁石ブロック29と電磁コイルブロック32に軸方向で対向するように配置されているが、各ヨーク39A,39Bの第1,第2極歯リング37,38は、リング状の基部37a,38aが電磁コイルブロック32側(図中左側)に位置され、台形状の各極歯37b,38bが永久磁石ブロック29側(図中右側)に位置されるように極歯37b,38bと基部37a,38aの連接部が適宜屈曲して形成されている。そして、ヨークブロック30のヨーク39A,39B相互は各ヨークの第1,第2極歯リング37,38間と同様に絶縁体である樹脂材料40によって結合されている。
【0034】
一方、電磁コイルブロック32は、径方向内外に並べて配置された2相の電磁コイル33A,33Bと、電磁コイル33A,33Bの各周域に配置され、電磁コイル33Aで発生した磁束をヨークブロック30寄りの磁気入端部34,35(図4参照)に誘導するためのヨーク41と、を備えた構成とされている。
【0035】
そして、各電磁コイル33A,33Bにおける磁気入出部34,35は、図4に拡大して示すように、ヨークブロック30の対応するヨーク39A,39Bの、リング状の基部37a,38aに対して、軸方向のエアギャップaを介して対面している。したがって、電磁コイル33A,33Bが励磁されて所定の向きの磁界が生じると、エアギャップaを介してヨークブロック30の対応するヨーク39A,39Bに磁気誘導が生じ、その結果として、ヨーク39A,39Bの各極歯リング37,38に磁界の向きに応じた磁極が現れる。
【0036】
電磁コイル33A,33Bの発生磁界は、駆動回路のパルスの入力に対して所定のパターンで順次切換えられ、それによって永久磁石ブロック29の磁極面36n,36sに対峙する極歯37b,38bの磁極が円周方向に沿って4分の1ピッチずつ移動するようになっている。したがって、中間回転体23は、このときヨークブロック30上の円周方向に沿った磁極の移動に追従し、レバー軸10に対して相対的に回動することとなる。
【0037】
また、電磁コイルブロック32は、両ヨーク41,41の磁気入出部34,35を除くほぼ全域が、アルミニウム等の非磁性材料から成る抱持ブロック42によって抱持され、その抱持ブロック42を介してVTCカバー12に取り付けられている。また、抱持ブロック42の内周面には玉軸受50が配置され、同ブロック42はその玉軸受50を介してレバー軸10に回転自在に係合されている。
【0038】
ところで、駆動プレート3の前面側には略円筒状のハウジング部材62が一体に取り付けられ、その前端側の開口部62aが中間回転体23の外周リング23bの小径部を囲繞するように延出している。そして、このハウジング部材62と外周リング23bは、前記シールリング60によって両者の間をほぼ密閉した状態において相対的な回動が許容されている。
【0039】
シールリング60は硬質の樹脂材料によって図3に示すように略円環状に形成されており、その円環形状の一部には、外周側から見て軸線と大きく傾斜したカット部が設けられ、シールリング60が外周リング23bの環状溝61に収容された状態においてカット面60a,60a相互が摺動可能に突き合わされるようになっている。このシールリング60は拡径方向に弾発作用を有し、外周リング23bがハウジング部材62の開口部62aに挿入された状態において、その開口部62aの内周面に摺動自在に密接する。そして、このときシールリング60のカット面60a,60aは互いに突き合わされていることから、このカット面60a,60a部分の液密が保たれる。尚、シールリング60は、ハウジング部材62の開口部62aに挿入する際には径方向内側に若干縮径する必要があるが、図10に示すようにハウジング部材62の先端部に内周側に傾斜するテーパ面64を予め設けておけば、シールリング60をこのテーパ面64に押し当てるようにして開口部62aに挿入するだけで、シールリング60を容易に縮径させることができる。
【0040】
そして、ハウジング部材62は、中間回転体23とシールリング60と共に潤滑液の充填空間63を形成している。この充填空間63は渦巻き溝24と球19の係合部と、リンク14の可動部の周域を囲繞する空間であり、この空間63には前記レバー軸10の供給口25aを通して常時不足分の潤滑液が補充されるようになっている。つまり、充填空間63内の潤滑液は各部の微小な隙間を通して外部に漏れ出ることがあるが、この潤滑液の自然漏れ量に対して供給口25a(供給通路25)からの潤滑液の供給流量が多くなるように設定されている。したがって、充填空間63内に配置される渦巻き溝24と球19の係合部と、リンク14の可動部は常時潤滑液内に浸されている。
【0041】
このバルブタイミング制御装置は以上のような構成であるため、内燃機関の始動時やアイドル運転時には、図2に示すように、駆動プレート3とレバー軸10の組付角を予め最遅角側に維持しておくことにより、クランクシャフトとカムシャフト1の回転位相(機関弁の開閉タイミング)を最遅角側にし、機関回転の安定化と燃費の向上を図ることができる。
【0042】
そして、この状態から機関の運転が通常運転に移行し、前記回転位相を最進角側に変更すべく指令が図外のコントローラから電磁コイルブロック32の駆動回路に発されると、電磁コイルブロック32はその指令に従って発生磁界を所定パターンで変化させ、永久磁石ブロック29を中間回転体23と共に遅れ側に最大に相対回動させる。これにより、渦巻き溝24に球19によって係合されている案内部材17は、図8,図9に順次示すように、径方向溝8に沿って径方向内側に最大に変位し、リンク14とレバー9を介して駆動プレート3とレバー軸10の組付角を最進角側に変更する。この結果、クランクシャフトとカムシャフト1の回転位相が最進角側に変更され、それによって機関の高出力化が図られることとなる。
【0043】
また、この状態から前記回転位相を最遅角側に変更すべく指令がコントローラから発されると、電磁コイルブロック32が発生磁界を逆パターンで変化させることによって中間回転体23を進み側に最大に相対回動させ、渦巻き溝24に係合する案内部材17を、図2に示すように、径方向溝8に沿って径方向外側に最大に変位させる。これにより、案内部材17はリンク14とレバー9を介して駆動プレート3とレバー軸10を相対回動させ、クランクシャフトとカムシャフト1の回転位相を最遅角側に変更する。
【0044】
このバルブタイミング制御装置においては、前述のように渦巻き溝24と球19の係合部や、リンク14の可動部が充填空間63において潤滑液に浸されているため、これらの係合部や可動部を常時潤滑液によって確実に潤滑することができると共に、潤滑液によるダンパ作用でもって組付隙間部分での振動、騒音の発生を抑制することができる。
【0045】
特に、このバルブタイミング制御装置の場合、相対回転するハウジング部材62と中間回転体23の間にシールリング60が介装されているため、これらの間からの潤滑液の漏れを可及的に少なく抑えることができ、しかも、供給口25aを通して充填空間63内の不足分の潤滑液を常時補うことができるため、各部の潤滑作用やダンパ作用を常に安定して得ることができる。
【0046】
以上説明した参考例は、駆動プレート3の外周にタイミングスプロケット2を一体に形成し、チェーンによって駆動プレート3とクランクシャフトを連係したものであるが、図11に示す第2の参考例のように駆動プレート103の外周に幅広のプーリ70を一体に形成し、ゴム製のベルト(図示せず)によって駆動プレート103とクランクシャフトを連係するようにしても良い。この場合、相対回転するハウジング部材62と中間回転体23の間がシールリング60によって液密に封止されているため、ハウジング部材62と中間回転体23の隙間から潤滑液が漏れ出てベルトに付着し、そのベルトのゴム劣化を招く不具合は生じない。尚、図11以下に示す他の参考例及び実施形態については、図1〜図9に示した第1の参考例と同一部分に同一符号を付し、重複する説明を省略するものとする。
【0047】
また、第1の参考例においては、カムシャフト1からレバー軸10にかけて潤滑液の供給通路25のみを設けたが、図12に示す第3の参考例のようにさらに排出通路71を併せて設けるようにしても良い。この場合、供給通路25を通って充填空間63に導入された潤滑液は同空間63を循環した後に排出通路71を通って装置外部に排出される。したがって、この参考例の装置の場合、潤滑液が充填空間63内に滞留したままとならないため、充填空間63内の潤滑液の劣化が生じることがないうえ、摩耗粉等の異物を潤滑液と共に装置外部に排出することができる。
【0048】
図13は本発明の実施形態を示すものである。
【0049】
この実施形態のバルブタイミング制御装置は、組付角操作機構5が径方向溝8、渦巻き溝24、案内部材17、球19、リンク17、レバー9等によって構成されている点は図1〜図9に示した第1の参考例のものとほぼ同様であるが、組付角操作機構5を駆動操作すべく操作力付与手段204の構成と、同手段204の歯車機構部分に潤滑液を供給するための特別な通路構造を備えている点で第1の参考例のものと大きく異なっている。
【0050】
操作力付与手段204は、後部側の面に前記渦巻き溝24が形成されると共に、内周縁部がレバー軸10に軸受72を介して回転自在に支持された中間回転体223と、この中間回転体223に制動力を付与する第1電磁ブレーキ73と、レバー軸10の先端側に回転自在に配置された操作回転体74と、この操作回転体74に制動力を付与する第2電磁ブレーキ75と、前記操作回転体74に制動力が付与されたときに中間回転体223を増速する遊星歯車機構76(本発明における歯車機構)と、を備えている。
【0051】
遊星歯車機構76は、中間回転体223の内周側円筒部の外面に一体に形成されたサンギヤ77と、操作回転体74の後部側内周面に一体に形成されたリングギヤ78と、レバー軸10の先端部に固定されたキャリアプレート79と、このキャリアプレート79に回転自在に支持されると共にサンギヤ77とリングギヤ78に噛合される複数のプラネタリギヤ80とによって構成されている。
【0052】
したがって、この遊星歯車機構76は、今、リングギヤ78(操作回転体74)がフリー回転状態となっており、プラネタリギヤ80が自転せずにキャリアプレート79と共に公転したとすると、同ギヤ80に噛合うリングギヤ78(操作回転体74)とサンギヤ77(中間回転体223)は同速度で回転し、また、この状態からリングギヤ78(操作回転体74)のみに制動力が付与されると、リングギヤ78がキャリアプレート79に対して遅れ方向に相対回転することによってプラネタリギヤ80が自転し、このプラネタリギヤ80の自転がサンギヤ77を増速させ、中間回転体223を駆動プレート3に対して増速側に相対回動させる。
【0053】
また、各電磁ブレーキ73,75は全体が略円環状に形成され、一方の電磁ブレーキ75は他方の電磁ブレーキ73の径方向内側に配置されている。そして、外側に配置される第1電磁ブレーキ73と内側に配置される第2電磁ブレーキ75は共にほぼ同様の構成とされているが、第1電磁ブレーキ73は中間回転体223の外周リング223bの端面に対峙し、第2電磁ブレーキ75は操作回転体74の端面に対峙するようになっている。両電磁ブレーキ73,75はVTCカバー12の内面に回転を規制された状態で支持され、通電に応じて中間回転体223や操作回転体74に対する磁気的制動力を適宜オン・オフさせるようになっている。
【0054】
したがって、操作力付与手段204は以上のような構成であるため、第1電磁ブレーキ73が中間回転体223に制動力を付与すると、中間回転体223が減速されて駆動プレート3に対して遅角側に相対回動し、これに代わって第2電磁ブレーキ75が操作回転体74に制動力を付与すると、中間回転体223が増速されて駆動プレート3に対して進角側に相対回動する。
【0055】
また、この実施形態の場合にも、渦巻き溝24と球19の係合部と、リンク14の可動部の周域を囲繞するように充填空間63が設けられ、カムシャフト1からレバー軸10にかけて形成された供給通路25を通してその充填空間63内に潤滑液が導入されるようになっているが、さらに中間回転体223には同回転体223を軸方向に貫通する貫通孔81が形成され、その貫通孔81を通して作動液を充填空間63から遊星歯車機構76側に導入するようになっている。貫通孔81は、中間回転体223のうちのプラネタリギヤ80の回転軌道にほぼ対面する位置に開口形成され、貫通孔81を抜け出た潤滑液がプラネタリギヤ80とサンギヤ77及びリングギヤ78の各噛合部に効率良く供給されるようになっている。
【0056】
この実施形態のバルブタイミング制御装置の場合、渦巻き溝24と球19の係合部や、リンク14の可動部は、充填空間63において潤滑液に常時完全に浸されているため、第1の参考例と同様に前記係合部や可動部に対する潤滑を確実に行うことができると共に、部品の組付隙間等に起因する振動、騒音を潤滑液のダンパ作用でもって抑制することができる。そして、この装置の場合、さらに貫通孔81を通して遊星歯車機構76側に潤滑液を導入するようにしたため、製造コストの高騰を抑えつつ歯車機構76に対する確実な潤滑を行うことができるという利点がある。
【0057】
つまり、遊星歯車機構76に対する供給通路をレバー軸10に形成することも考えられるが、この場合、レバー軸10にさらに径方向に沿う孔を精度良く形成しなければならないために、加工がどうしつも複雑になってしまうが、この実施形態のように中間回転体223に軸方向に沿う貫通孔81を形成し、その貫通孔81を通して潤滑空間63から遊星歯車機構76側に潤滑液を導入するようにした場合には、通路の形成が容易になり、低コストでの製造が可能になる。しかも、このように中間回転体223に貫通孔81を形成する場合には、最も潤滑を必要とする歯車の噛合部に直接潤滑液を供給することができるという利点もある。
【0058】
尚、以上では中間回転体を正逆いずれかに回転させる歯車機構として遊星歯車機構を用いた例について説明したが、この歯車機構は遊星歯車機構以外のものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の参考例を示す縦断面図。
【図2】同参考例を示す図1のA−A線に沿う断面図。
【図3】同参考例を示す一部品の斜視図。
【図4】同参考例を示す図1の一部の拡大断面図。
【図5】同参考例を示す電磁石ブロックの正面図。
【図6】同参考例を示すヨークブロックの充填樹脂材料の図示を省略した正面図。
【図7】同参考例を示す電磁コイルブロックの縦断面図。
【図8】同参考例の作動状態を示す図2に対応の断面図。
【図9】同参考例の別の作動状態を示す図2に対応の断面図。
【図10】同参考例の変形例を示す部分拡大断面図。
【図11】本発明の第2の参考例を示す縦断面図。
【図12】本発明の第3の参考例を示す縦断面図。
【図13】本発明の実施形態を示す縦断面図。
【図14】従来の技術を示す断面図。
【図15】同技術を示す分解斜視図。
【符号の説明】
【0060】
1…カムシャフト
3,103…駆動プレート(駆動回転体)
4,204…操作力付与手段
8…径方向溝(径方向ガイド)
10…レバー軸(従動回転体)
14…リンク
17…案内部材(可動案内部)
19…球(可動案内部)
23,223…中間回転体
24…渦巻き溝(渦巻き状ガイド)
25…供給通路
60…シールリング(シール部材)
62…ハウジング部材
62a…開口部
63…充填空間
71…排出通路
73…第1電磁ブレーキ
75…第2電磁ブレーキ
76…遊星歯車機構
81…貫通孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸気側または排気側の機関弁の開閉タイミングを運転状態に応じて可変制御する内燃機関のバルブタイミング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のバルブタイミング制御装置は、クランクシャフトからカムシャフトに至る動力伝達経路において、両シャフトの回転位相を操作することにより、機関弁の開閉タイミングを制御するようにしている。即ち、この種の装置は、クランクシャフトにタイミングチェーン等を介して連繋された駆動回転体がカムシャフト側の従動回転体に必要に応じて相対回動できるように組み付けられると共に、これらの回転体の間に両者の組付角を操作すべく組付角操作機構が介装され、この組付角操作機構を適宜駆動制御することによってクランクシャフトとカムシャフトの回転位相を変更するようになっている。
【0003】
組付角操作機構としては、ヘリカルギヤを用いて油圧ピストンの直進作動を両回転体の回動作動に変換するもの等種々のものが開発されているが、近年、軸長を短縮化でき、フリクションロスが少ない等の多く利点を有するリンクを用いたものが案出されている。
【0004】
組付角操作機構にリンクを用いたバルブタイミング制御装置としては、以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0005】
この装置は、図14,図15に示すように、クランクシャフト(図示せず。)にタイミングチェーン(図示せず。)等を介して連繋されたハウジング101(駆動回転体)がカムシャフト102の端部に回動可能に組み付けられ、ハウジング101の内側端面に形成された径方向ガイド106に複数の案内部材104,104(可動案内部)が夫々径方向に沿って摺動自在に係合支持されると共に、径方向外側に突出する複数のレバー105,105を有するレバー軸106(従動回転体)がカムシャフト102の端部に取り付けられ、各案内部材104とレバー軸106の対応するレバー105とがリンク107によって枢支連結されている。そして、ハウジング101の前記径方向ガイド103と対向する位置には、径方向ガイド103側の側面に渦巻き状ガイド108を有する中間回転体109がハウジング101とレバー軸106に対して相対回動可能に設けられ、前記各案内部材104の軸方向の一方の端部に突設された略円弧状の複数の突条110が前記渦巻き状ガイド108に案内係合されている。また、中間回転体109はハウジング101に対して回転を進める側にゼンマイばね111によって付勢されると共に、電磁ブレーキ112によって回転を遅らせる側の力を適宜受けるようになっている。
【0006】
この装置の場合、電磁ブレーキ112がOFF状態のときには、中間回転体109がゼンマイばね111の付勢力を受けハウジング101に対して初期位置に位置されており、渦巻き状ガイド108に突条110でもって噛合う案内部材104は径方向外側に最大に変位し、リンク107を引き起こしてハウジング101とカムシャフト102の組付角を最遅角位置または最進角位置に維持している。そして、この状態から電磁ブレーキ112がONにされると、中間回転体109が減速されてハウジング101に対して遅れ側に相対回転する結果、渦巻き状ガイド108に噛合う案内部材104が径方向内側に変位し、今まで引き起こされていたリンク107を次第に倒すようにしてハウジング101とカムシャフト102の組付角を最進角位置または最遅角位置に変更する。
【0007】
また、このバルブタイミング制御装置においては、潤滑液の供給通路120がカムシャフト102に沿って設けられ、この通路120を通して供給される潤滑液により、各リンク107の可動部と、案内部材104と渦巻き状ガイド108の係合部とを潤滑するようになっている。
【特許文献1】特開2001−41013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、この従来のバルブタイミング制御装置の場合、供給通路120を通して流入した潤滑液を、リンク107の可動部と、案内部材104と渦巻き状ガイド108の係合部とに供給する構造となっているものの、その潤滑液はハウジング101と中間回転体109の隙間を通して外部に流れ出てしまうため、リンク107の可動部や、案内部材104と渦巻き状ガイド108の係合部は常時潤滑液内に浸されているわけではない。このため、リンク107の可動部や、案内部材104と渦巻き状ガイド108の係合部の潤滑は常に充分であるとは言えず、より確実な潤滑が望まれている。
【0009】
また、リンク107の可動部や、案内部材104と渦巻き状ガイド108の係合部にはスムーズな作動を得るために若干の組付隙間が設けられているが、この組付隙間があるために振動や騒音が生じ易く、このことが一つの解決すべき課題となっている。
【0010】
そこで本発明は、リンクの可動部や、可動案内部と渦巻き状ガイドの係合部のより確実な潤滑と、これらの組付隙間による振動、騒音の発生防止を図ることのできる内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記従来技術の技術的課題に鑑みて案出されたもので、請求項1に記載の発明は、内燃機関のクランクシャフトによって回転駆動する駆動回転体と、カムシャフト若しくは同シャフトに結合された別体部材からなる従動回転体と、前記駆動回転体と従動回転体に対して相対回転可能に設けられ、一側面に回転方向に沿って縮径する溝を有する中間回転体と、前記溝に案内係合されて径方向へ変位可能な可動案内部と、前記駆動回転体と従動回転体とを連結し、該可動案内部の径方向の移動に伴って前記従動回転体に回転力を付与するリンクと、カムシャフトに対する相対的な回転操作力を前記中間回転体に付与する操作力付与手段と、を備え、前記リンク、前記可動案内部及び前記中間回転体の前記溝を含む周域を経由して前記操作力付与手段に潤滑液が導入されることを特徴としている。
【0012】
この発明によれば、リンク、可動案内部及び中間回転体の溝を含む周域を経由する潤滑液によって可動案内部とリンクとの連結部(可動部)や可動案内部と中間回転体の溝との係合部等の潤滑を確実に行うことができると共に、潤滑液によるダンパ作用によって各構成部品間の隙間部分での振動、騒音の発生を抑制できる。
【0013】
さらには、前記リンク、可動案内部及び中間回転体の溝を含む周域を経由した潤滑液を、例えば中間回転体を軸方向に貫通する貫通孔などを通して操作力付与手段に導入するようにしたことから、該操作力付与手段に潤滑液を供給する供給通路や供給口を別途設ける必要がなくなるため、製造コストの高騰を抑えつつ操作力付与手段に対する確実な潤滑を行えるという利点がある。
【0014】
なお、この際、前記供給された潤滑液を排出する排出通路を設けてもよく、この場合には、供給された潤滑液が排出通路を介して外部に速やかに排出されるため、潤滑液が内部に滞留することなくなるので、潤滑液の劣化の発生を防止できると共に、摩耗粉等の異物を潤滑液とともに外部に排出することができる。
【0015】
そして、前記排出通路は、前記カムシャフト側から前記潤滑液を排出するように構成することが望ましい。
【0016】
一方、前記リンク、可動案内部及び中間回転体の溝を含む周域に潤滑液を供給する供給口からは、前記潤滑液の自然の漏れ量よりも多い潤滑液を供給するように設定することが望ましく、これによって前記連結部や係合部等に常時潤滑液を供給することができる。
【0017】
なお、この際、前記供給口から供給される潤滑液に前記リンク、可動案内部及び中間回転体の溝を浸漬させるための充填空間を設けることが望ましい。かかる構成とすることにより、充填空間内において前記リンク等を常時潤滑液に浸漬させることができるため、請求項1の発明の作用効果をさらに促進することが可能になる。
【0018】
そして、かかる充填空間内には、クランクシャフトの回転作動によって潤滑液を補充するように構成すると共に、当該充填空間内の潤滑液には、少なくとも前記係合部を浸漬させることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
最初に、図1〜図9に示す本発明の第1の参考例について説明する。尚、この参考例は、本発明にかかるバルブタイミング制御装置を内燃機関の吸気側の動力伝達系に適用したものであるが、内燃機関の排気側の動力伝達系に同様に適用することも可能である。
【0021】
このバルブタイミング制御装置は、図1に示すように内燃機関のシリンダヘッド(図示せず)に回転自在に支持されたカムシャフト1と、このカムシャフト1の前端部に必要に応じて相対回動できるように組み付けられ、チェーン(図示せず)を介してクランクシャフト(図示せず)に連繋されるタイミングスプロケット2を外周に有する駆動プレート3(本発明における駆動回転体)と、この駆動プレート3とカムシャフト1の前方側(図1中左側)に配置されて、両者3,1の組付角を回動操作する組付角操作機構5と、この組付角操作機構5のさらに前方側に配置されて、同機構5を駆動操作する操作力付与手段4と、内燃機関の図外のシリンダヘッドとロッカカバーの前面に跨って取り付けられて組付角操作機構5と操作力付与手段4の前面と周域を覆うVTCカバー12と、を備えている。
【0022】
駆動プレート3は、中心部に段差状の支持孔6を備えた円板状に形成され、その支持孔6部分が、カムシャフト1の前端部に一体に結合されたフランジリング7に回転自在に支持されている。そして、駆動プレート3の前面(カムシャフト1と逆側の面)には、図2に示すように、3つの径方向溝8(本発明における径方向ガイド)が同プレート3の半径方向に沿うように形成されており、この各径方向溝8の内部には、後述する案内部材17(本発明における可動案内部)の断面方形状の基部が摺動自在に係合されている。
【0023】
また、前記フランジリング7の前面側には、放射状に突出する三つのレバー9を有するレバー軸10(本発明における従動回転体)が配置され、このレバー軸10がフランジリング7と共にボルト13によってカムシャフト1に結合されている。そして、レバー軸10の各レバー9には、リンク14の一端がピン15によって枢支連結され、各リンク14の他端には、基部側が径方向溝8に係合された前記各案内部材17が回動可能に嵌合されている。尚、カムシャフト1からフランジリング7とレバー軸10にかけては、ボルト13の軸部外周面に沿って潤滑液の供給通路25が設けられ、その供給通路25のレバー9の突設部の近傍に開口する供給口25aを通して潤滑液をリンク14の付根側の枢支部近傍に供給するようになっている。
【0024】
各案内部材17は、上述のように径方向溝8に係合された状態において、リンク14を介してレバー軸10の対応するレバー9に連結されているため、案内部材17が外力を受けて径方向溝8に沿って変位すると、駆動プレート3とレバー軸10はリンク14の作用でもって案内部材17の変位に応じた方向及び角度だけ相対回動する。
【0025】
また、各案内部材17には前面側(カムシャフト1と逆側)に開口する保持穴18が設けられ、この保持穴18に略円柱状のリテーナ20が摺動自在に収容されると共に、リテーナ20を前方側に付勢するためのコイルばね21が収容されている。リテーナ20は前面中央に半球状の凹部20aが設けられ、この凹部20aに球19(案内部材17と共に本発明における可動案内部を構成。)が転動自在に収容されている。
【0026】
レバー軸10のレバー9の突設位置よりも前方側には、略円盤状の中間回転体23が玉軸受22を介して支持されている。この中間回転体23の後部側の面には断面半円状の渦巻き溝24(本発明における溝部)が形成され、この渦巻き溝24に前記各案内部材17の係止ピンとしての球19が転動自在に係合されている。渦巻き溝24の渦巻きは、図2及び図8,図9に示すように駆動プレート3の回転方向Rに沿って次第に縮径するように形成されている。したがって、案内部材17側の球19が渦巻き溝24に係合した状態で中間回転体23が駆動プレート3に対して遅れ方向に相対回転すると、案内部材17は渦巻き溝24の渦巻き形状に沿って半径方向内側に移動し、逆に、中間回転体23が進み方向に相対回転すると、半径方向外側に移動する。尚、この参考例の場合、中間回転体23は、後部側の面に前記渦巻き溝24が形成された本体部23aと、この本体部23aの外周面に圧入固定された外周リング23bとから構成されており、外周リング23bは、駆動プレート3側に小径部を有し、その小径部には後述するシールリング60(本発明におけるシール部材)を装着するための環状溝61が形成されている。
【0027】
この参考例の場合、組付角操作機構5は、以上説明した駆動プレート3の径方向溝8、案内部材17、球19、リンク14、レバー9、中間回転体23の渦巻き溝24等によって構成されている。この組付角操作機構5は、操作力付与手段4から中間回転体23にカムシャフト1に対する相対的な回動操作力が入力されると、渦巻き溝24を介して案内部材17を径方向に変位させ、さらにリンク14及びレバー9を介してその回動力を設定倍率に増幅し、駆動プレート3とカムシャフト1に相対的な回動力を作用させる。
【0028】
一方、操作力付与手段4は、図1,図4に示すように前記中間回転体23の前面側(駆動プレート3と逆側)に接合された円環プレート状の永久磁石ブロック29と、レバー軸10に一体に結合された同じく円環プレート状のヨークブロック30と、VTCカバー12内に取り付けられた電磁コイルブロック32と、を備えて成り、この電磁コイルブロック32の備える複数の電磁コイル33A,33Bは、励磁回路やパルス分配回路等を含む駆動回路(図示せず)に接続され、この駆動回路が図示しないコントローラによって制御されるようになっている。尚、コントローラは、クランク角、カム角、機関回転数、機関負荷等の各種の入力信号を受け、随時機関の運転状態に応じた制御信号を駆動回路に出力する。
【0029】
永久磁石ブロック29は、図5に示すように、軸方向と直交する面に放射方向に延出する磁極(N極,S極)が、異磁極が交互になるように円周方向に沿って複数着磁されている。尚、図5においては、N極の磁極面を36nで示し、S極の磁極面を36sで示している。
【0030】
ヨークブロック30は、図4,図6に示すように第1,第2極歯リング37,38が対にされて成る二組のヨーク39A,39Bを備え、その内周縁部がレバー軸10に対し一体に結合されている。
【0031】
各ヨーク39A,39Bの第1,第2極歯リング37,38は透磁率の高い金属材料によって形成され、図6に示すように、平板リング状の基部37a,38aと、その基部37a,38aから径方向内側または外側に延出する略台形状の複数の極歯37b・,38b・とを備えている。この参考例の場合、各極歯リング37,38の極歯37b,38bは、円周方向に等間隔に、かつ、歯先が相手極歯リング側に指向するように、つまり、第1極歯リング37の歯先は径方向内側に、第2極歯リング38の歯先は径方向外側に夫々指向するように延出している。そして、第1極歯リング37と第2極歯リング38は、互いの極歯37b,38bが円周方向に交互に、かつ、等ピッチとなるように絶縁体である樹脂材料40によって結合されている。
【0032】
ヨークブロック30を構成する2つのヨーク39A,39Bは、径方向外側と内側に全体がほぼ円板状を成すように並べられると共に、互いの極歯37b,38bが円周方向に沿って4分の1ピッチずれるように組み付けられている。
【0033】
また、ヨークブロック30は、図1,図4に示すように、その両側面が永久磁石ブロック29と電磁コイルブロック32に軸方向で対向するように配置されているが、各ヨーク39A,39Bの第1,第2極歯リング37,38は、リング状の基部37a,38aが電磁コイルブロック32側(図中左側)に位置され、台形状の各極歯37b,38bが永久磁石ブロック29側(図中右側)に位置されるように極歯37b,38bと基部37a,38aの連接部が適宜屈曲して形成されている。そして、ヨークブロック30のヨーク39A,39B相互は各ヨークの第1,第2極歯リング37,38間と同様に絶縁体である樹脂材料40によって結合されている。
【0034】
一方、電磁コイルブロック32は、径方向内外に並べて配置された2相の電磁コイル33A,33Bと、電磁コイル33A,33Bの各周域に配置され、電磁コイル33Aで発生した磁束をヨークブロック30寄りの磁気入端部34,35(図4参照)に誘導するためのヨーク41と、を備えた構成とされている。
【0035】
そして、各電磁コイル33A,33Bにおける磁気入出部34,35は、図4に拡大して示すように、ヨークブロック30の対応するヨーク39A,39Bの、リング状の基部37a,38aに対して、軸方向のエアギャップaを介して対面している。したがって、電磁コイル33A,33Bが励磁されて所定の向きの磁界が生じると、エアギャップaを介してヨークブロック30の対応するヨーク39A,39Bに磁気誘導が生じ、その結果として、ヨーク39A,39Bの各極歯リング37,38に磁界の向きに応じた磁極が現れる。
【0036】
電磁コイル33A,33Bの発生磁界は、駆動回路のパルスの入力に対して所定のパターンで順次切換えられ、それによって永久磁石ブロック29の磁極面36n,36sに対峙する極歯37b,38bの磁極が円周方向に沿って4分の1ピッチずつ移動するようになっている。したがって、中間回転体23は、このときヨークブロック30上の円周方向に沿った磁極の移動に追従し、レバー軸10に対して相対的に回動することとなる。
【0037】
また、電磁コイルブロック32は、両ヨーク41,41の磁気入出部34,35を除くほぼ全域が、アルミニウム等の非磁性材料から成る抱持ブロック42によって抱持され、その抱持ブロック42を介してVTCカバー12に取り付けられている。また、抱持ブロック42の内周面には玉軸受50が配置され、同ブロック42はその玉軸受50を介してレバー軸10に回転自在に係合されている。
【0038】
ところで、駆動プレート3の前面側には略円筒状のハウジング部材62が一体に取り付けられ、その前端側の開口部62aが中間回転体23の外周リング23bの小径部を囲繞するように延出している。そして、このハウジング部材62と外周リング23bは、前記シールリング60によって両者の間をほぼ密閉した状態において相対的な回動が許容されている。
【0039】
シールリング60は硬質の樹脂材料によって図3に示すように略円環状に形成されており、その円環形状の一部には、外周側から見て軸線と大きく傾斜したカット部が設けられ、シールリング60が外周リング23bの環状溝61に収容された状態においてカット面60a,60a相互が摺動可能に突き合わされるようになっている。このシールリング60は拡径方向に弾発作用を有し、外周リング23bがハウジング部材62の開口部62aに挿入された状態において、その開口部62aの内周面に摺動自在に密接する。そして、このときシールリング60のカット面60a,60aは互いに突き合わされていることから、このカット面60a,60a部分の液密が保たれる。尚、シールリング60は、ハウジング部材62の開口部62aに挿入する際には径方向内側に若干縮径する必要があるが、図10に示すようにハウジング部材62の先端部に内周側に傾斜するテーパ面64を予め設けておけば、シールリング60をこのテーパ面64に押し当てるようにして開口部62aに挿入するだけで、シールリング60を容易に縮径させることができる。
【0040】
そして、ハウジング部材62は、中間回転体23とシールリング60と共に潤滑液の充填空間63を形成している。この充填空間63は渦巻き溝24と球19の係合部と、リンク14の可動部の周域を囲繞する空間であり、この空間63には前記レバー軸10の供給口25aを通して常時不足分の潤滑液が補充されるようになっている。つまり、充填空間63内の潤滑液は各部の微小な隙間を通して外部に漏れ出ることがあるが、この潤滑液の自然漏れ量に対して供給口25a(供給通路25)からの潤滑液の供給流量が多くなるように設定されている。したがって、充填空間63内に配置される渦巻き溝24と球19の係合部と、リンク14の可動部は常時潤滑液内に浸されている。
【0041】
このバルブタイミング制御装置は以上のような構成であるため、内燃機関の始動時やアイドル運転時には、図2に示すように、駆動プレート3とレバー軸10の組付角を予め最遅角側に維持しておくことにより、クランクシャフトとカムシャフト1の回転位相(機関弁の開閉タイミング)を最遅角側にし、機関回転の安定化と燃費の向上を図ることができる。
【0042】
そして、この状態から機関の運転が通常運転に移行し、前記回転位相を最進角側に変更すべく指令が図外のコントローラから電磁コイルブロック32の駆動回路に発されると、電磁コイルブロック32はその指令に従って発生磁界を所定パターンで変化させ、永久磁石ブロック29を中間回転体23と共に遅れ側に最大に相対回動させる。これにより、渦巻き溝24に球19によって係合されている案内部材17は、図8,図9に順次示すように、径方向溝8に沿って径方向内側に最大に変位し、リンク14とレバー9を介して駆動プレート3とレバー軸10の組付角を最進角側に変更する。この結果、クランクシャフトとカムシャフト1の回転位相が最進角側に変更され、それによって機関の高出力化が図られることとなる。
【0043】
また、この状態から前記回転位相を最遅角側に変更すべく指令がコントローラから発されると、電磁コイルブロック32が発生磁界を逆パターンで変化させることによって中間回転体23を進み側に最大に相対回動させ、渦巻き溝24に係合する案内部材17を、図2に示すように、径方向溝8に沿って径方向外側に最大に変位させる。これにより、案内部材17はリンク14とレバー9を介して駆動プレート3とレバー軸10を相対回動させ、クランクシャフトとカムシャフト1の回転位相を最遅角側に変更する。
【0044】
このバルブタイミング制御装置においては、前述のように渦巻き溝24と球19の係合部や、リンク14の可動部が充填空間63において潤滑液に浸されているため、これらの係合部や可動部を常時潤滑液によって確実に潤滑することができると共に、潤滑液によるダンパ作用でもって組付隙間部分での振動、騒音の発生を抑制することができる。
【0045】
特に、このバルブタイミング制御装置の場合、相対回転するハウジング部材62と中間回転体23の間にシールリング60が介装されているため、これらの間からの潤滑液の漏れを可及的に少なく抑えることができ、しかも、供給口25aを通して充填空間63内の不足分の潤滑液を常時補うことができるため、各部の潤滑作用やダンパ作用を常に安定して得ることができる。
【0046】
以上説明した参考例は、駆動プレート3の外周にタイミングスプロケット2を一体に形成し、チェーンによって駆動プレート3とクランクシャフトを連係したものであるが、図11に示す第2の参考例のように駆動プレート103の外周に幅広のプーリ70を一体に形成し、ゴム製のベルト(図示せず)によって駆動プレート103とクランクシャフトを連係するようにしても良い。この場合、相対回転するハウジング部材62と中間回転体23の間がシールリング60によって液密に封止されているため、ハウジング部材62と中間回転体23の隙間から潤滑液が漏れ出てベルトに付着し、そのベルトのゴム劣化を招く不具合は生じない。尚、図11以下に示す他の参考例及び実施形態については、図1〜図9に示した第1の参考例と同一部分に同一符号を付し、重複する説明を省略するものとする。
【0047】
また、第1の参考例においては、カムシャフト1からレバー軸10にかけて潤滑液の供給通路25のみを設けたが、図12に示す第3の参考例のようにさらに排出通路71を併せて設けるようにしても良い。この場合、供給通路25を通って充填空間63に導入された潤滑液は同空間63を循環した後に排出通路71を通って装置外部に排出される。したがって、この参考例の装置の場合、潤滑液が充填空間63内に滞留したままとならないため、充填空間63内の潤滑液の劣化が生じることがないうえ、摩耗粉等の異物を潤滑液と共に装置外部に排出することができる。
【0048】
図13は本発明の実施形態を示すものである。
【0049】
この実施形態のバルブタイミング制御装置は、組付角操作機構5が径方向溝8、渦巻き溝24、案内部材17、球19、リンク17、レバー9等によって構成されている点は図1〜図9に示した第1の参考例のものとほぼ同様であるが、組付角操作機構5を駆動操作すべく操作力付与手段204の構成と、同手段204の歯車機構部分に潤滑液を供給するための特別な通路構造を備えている点で第1の参考例のものと大きく異なっている。
【0050】
操作力付与手段204は、後部側の面に前記渦巻き溝24が形成されると共に、内周縁部がレバー軸10に軸受72を介して回転自在に支持された中間回転体223と、この中間回転体223に制動力を付与する第1電磁ブレーキ73と、レバー軸10の先端側に回転自在に配置された操作回転体74と、この操作回転体74に制動力を付与する第2電磁ブレーキ75と、前記操作回転体74に制動力が付与されたときに中間回転体223を増速する遊星歯車機構76(本発明における歯車機構)と、を備えている。
【0051】
遊星歯車機構76は、中間回転体223の内周側円筒部の外面に一体に形成されたサンギヤ77と、操作回転体74の後部側内周面に一体に形成されたリングギヤ78と、レバー軸10の先端部に固定されたキャリアプレート79と、このキャリアプレート79に回転自在に支持されると共にサンギヤ77とリングギヤ78に噛合される複数のプラネタリギヤ80とによって構成されている。
【0052】
したがって、この遊星歯車機構76は、今、リングギヤ78(操作回転体74)がフリー回転状態となっており、プラネタリギヤ80が自転せずにキャリアプレート79と共に公転したとすると、同ギヤ80に噛合うリングギヤ78(操作回転体74)とサンギヤ77(中間回転体223)は同速度で回転し、また、この状態からリングギヤ78(操作回転体74)のみに制動力が付与されると、リングギヤ78がキャリアプレート79に対して遅れ方向に相対回転することによってプラネタリギヤ80が自転し、このプラネタリギヤ80の自転がサンギヤ77を増速させ、中間回転体223を駆動プレート3に対して増速側に相対回動させる。
【0053】
また、各電磁ブレーキ73,75は全体が略円環状に形成され、一方の電磁ブレーキ75は他方の電磁ブレーキ73の径方向内側に配置されている。そして、外側に配置される第1電磁ブレーキ73と内側に配置される第2電磁ブレーキ75は共にほぼ同様の構成とされているが、第1電磁ブレーキ73は中間回転体223の外周リング223bの端面に対峙し、第2電磁ブレーキ75は操作回転体74の端面に対峙するようになっている。両電磁ブレーキ73,75はVTCカバー12の内面に回転を規制された状態で支持され、通電に応じて中間回転体223や操作回転体74に対する磁気的制動力を適宜オン・オフさせるようになっている。
【0054】
したがって、操作力付与手段204は以上のような構成であるため、第1電磁ブレーキ73が中間回転体223に制動力を付与すると、中間回転体223が減速されて駆動プレート3に対して遅角側に相対回動し、これに代わって第2電磁ブレーキ75が操作回転体74に制動力を付与すると、中間回転体223が増速されて駆動プレート3に対して進角側に相対回動する。
【0055】
また、この実施形態の場合にも、渦巻き溝24と球19の係合部と、リンク14の可動部の周域を囲繞するように充填空間63が設けられ、カムシャフト1からレバー軸10にかけて形成された供給通路25を通してその充填空間63内に潤滑液が導入されるようになっているが、さらに中間回転体223には同回転体223を軸方向に貫通する貫通孔81が形成され、その貫通孔81を通して作動液を充填空間63から遊星歯車機構76側に導入するようになっている。貫通孔81は、中間回転体223のうちのプラネタリギヤ80の回転軌道にほぼ対面する位置に開口形成され、貫通孔81を抜け出た潤滑液がプラネタリギヤ80とサンギヤ77及びリングギヤ78の各噛合部に効率良く供給されるようになっている。
【0056】
この実施形態のバルブタイミング制御装置の場合、渦巻き溝24と球19の係合部や、リンク14の可動部は、充填空間63において潤滑液に常時完全に浸されているため、第1の参考例と同様に前記係合部や可動部に対する潤滑を確実に行うことができると共に、部品の組付隙間等に起因する振動、騒音を潤滑液のダンパ作用でもって抑制することができる。そして、この装置の場合、さらに貫通孔81を通して遊星歯車機構76側に潤滑液を導入するようにしたため、製造コストの高騰を抑えつつ歯車機構76に対する確実な潤滑を行うことができるという利点がある。
【0057】
つまり、遊星歯車機構76に対する供給通路をレバー軸10に形成することも考えられるが、この場合、レバー軸10にさらに径方向に沿う孔を精度良く形成しなければならないために、加工がどうしつも複雑になってしまうが、この実施形態のように中間回転体223に軸方向に沿う貫通孔81を形成し、その貫通孔81を通して潤滑空間63から遊星歯車機構76側に潤滑液を導入するようにした場合には、通路の形成が容易になり、低コストでの製造が可能になる。しかも、このように中間回転体223に貫通孔81を形成する場合には、最も潤滑を必要とする歯車の噛合部に直接潤滑液を供給することができるという利点もある。
【0058】
尚、以上では中間回転体を正逆いずれかに回転させる歯車機構として遊星歯車機構を用いた例について説明したが、この歯車機構は遊星歯車機構以外のものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の参考例を示す縦断面図。
【図2】同参考例を示す図1のA−A線に沿う断面図。
【図3】同参考例を示す一部品の斜視図。
【図4】同参考例を示す図1の一部の拡大断面図。
【図5】同参考例を示す電磁石ブロックの正面図。
【図6】同参考例を示すヨークブロックの充填樹脂材料の図示を省略した正面図。
【図7】同参考例を示す電磁コイルブロックの縦断面図。
【図8】同参考例の作動状態を示す図2に対応の断面図。
【図9】同参考例の別の作動状態を示す図2に対応の断面図。
【図10】同参考例の変形例を示す部分拡大断面図。
【図11】本発明の第2の参考例を示す縦断面図。
【図12】本発明の第3の参考例を示す縦断面図。
【図13】本発明の実施形態を示す縦断面図。
【図14】従来の技術を示す断面図。
【図15】同技術を示す分解斜視図。
【符号の説明】
【0060】
1…カムシャフト
3,103…駆動プレート(駆動回転体)
4,204…操作力付与手段
8…径方向溝(径方向ガイド)
10…レバー軸(従動回転体)
14…リンク
17…案内部材(可動案内部)
19…球(可動案内部)
23,223…中間回転体
24…渦巻き溝(渦巻き状ガイド)
25…供給通路
60…シールリング(シール部材)
62…ハウジング部材
62a…開口部
63…充填空間
71…排出通路
73…第1電磁ブレーキ
75…第2電磁ブレーキ
76…遊星歯車機構
81…貫通孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトによって回転駆動する駆動回転体と、
カムシャフト若しくは同シャフトに結合された別体部材からなる従動回転体と、
前記駆動回転体と従動回転体に対して相対回転可能に設けられ、一側面に回転方向に沿って縮径する溝を有する中間回転体と、
前記溝に案内係合されて径方向へ変位可能な可動案内部と、
前記駆動回転体と従動回転体とを連結し、該可動案内部の径方向の移動に伴って前記従動回転体に回転力を付与するリンクと、
カムシャフトに対する相対的な回転操作力を前記中間回転体に付与する操作力付与手段と、を備え、
前記リンク、前記可動案内部及び前記中間回転体の前記溝を含む周域を経由して前記操作力付与手段に潤滑液が導入されることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトによって回転駆動する駆動回転体と、
カムシャフト若しくは同シャフトに結合された別体部材からなる従動回転体と、
前記駆動回転体と従動回転体に対して相対回転可能に設けられ、一側面に回転方向に沿って縮径する溝を有する中間回転体と、
前記溝に案内係合されて径方向へ変位可能な可動案内部と、
前記駆動回転体と従動回転体とを連結し、該可動案内部の径方向の移動に伴って前記従動回転体に回転力を付与するリンクと、
カムシャフトに対する相対的な回転操作力を前記中間回転体に付与する操作力付与手段と、を備え、
前記リンク、前記可動案内部及び前記中間回転体の前記溝を含む周域を経由して前記操作力付与手段に潤滑液が導入されることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−286205(P2008−286205A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186678(P2008−186678)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【分割の表示】特願2006−353612(P2006−353612)の分割
【原出願日】平成13年10月12日(2001.10.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【分割の表示】特願2006−353612(P2006−353612)の分割
【原出願日】平成13年10月12日(2001.10.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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