説明

内燃機関の制御装置

【課題】空気流量計の周波数出力信号から、所定の時間毎に空気流量を演算する際、従来は所定時間毎に前記信号の最新の1周期を流量に変換し、検出流量としていた。しかし従来の方法では、検出誤差が大きくなるという課題、検出遅れが生じてしまうという課題、また、流量検出誤差が生じるという課題が存在した。
【解決手段】過渡領域において、前記検出流量に対して微分補正をすることで、応答遅れを低減する。また、平均周期を算出後に流量に変換して流量を算出するのではなく、空気流量計の信号を1周期毎に流量に変換し、流量の単位で平均処理を行うことで、周期と流量の非線形性による流量検出誤差を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は周波数出力方式の空気流量計から出力された波形を計測し、流量演算する電子機器の波形計測方法及び流量演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の制御装置では、内燃機関が吸入した空気流量を計測するために、内燃機関の吸気管に空気流量計が取り付けられており、空気流量計で検出した信号は空気流量演算装置で空気流量に変換され、その値を元に燃料噴射量を演算している。
【0003】
近年、燃費規制,排気規制が強化され、内燃機関の燃料噴射量演算および内燃機関の吸入空気流量演算の高精度化は重要な技術課題であり、したがって、空気流量計の検出誤差の低減のみならず、空気流量計と空気流量演算装置のインタフェースで生じる誤差の低減も重要な課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平02−129522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空気流量計の周波数出力信号から、所定の時間毎に空気流量を演算する際、従来は所定時間毎に前記信号の最新信号1周期を流量に変換し、検出流量としていた。しかし従来の方法では、空気流量が振動する吸気脈動時に、流量の振動周期が流量計測周期の定数倍になった場合、計測した流量が元の流量を再現できないために、計測誤差が大きくなる、エイリアシングという現象が生じる。これに対し、特開平02−129522号公報では、前記信号に対して、所定時間間隔内の全波形の平均周期を算出し、平均周期を元に流量に変換することで、上記エイリアシングの影響を低減した。しかし、平均周期を求めて流量に変換する方法は、移動平均処理を行うことと等価であり、検出遅れが生じるため、空気流量変化の大きい過渡領域では、応答遅れが大きくなり、検出誤差が大きくなるという問題がある。吸気過渡時に空気流量の検出誤差が大きくなると、検出した空気流量は誤差がないときの空気流量よりも小さくなるため、検出した空気流量に基づいて計算される燃料噴射量も小さくなる。ここで、燃料噴射量は吸入した空気量に対して理論混合比と呼ばれる一定値になるように噴射される必要がある。燃料噴射量と吸入空気流量が理論混合比からずれると、内燃機関の排気からHC,CO,NOxなどの有害な成分が排出され、問題となる。
【0006】
また、所定時間間隔内の前記信号の平均周期から流量を算出すると、熱式の空気流量計の出力特性である、周期と流量の関係の非線形性により、吸気脈動時に流量の平均値と平均周期の流量変換値がずれるため、流量検出誤差が生じるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、過渡領域での応答遅れと周期と流量の関係が非線形であることによる流量検出誤差を低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
空気流量計の周波数出力信号に対して、所定時間間隔内の全波形の平均周期を算出し、平均周期を元に流量に変換することで、エイリアシングの影響による流量検出誤差を低減し、さらに過渡領域において微分補正をすることで、応答遅れを低減する。
また平均周期を算出後に流量に変換して流量を算出するのではなく、空気流量計の信号を1周期毎に流量に変換し、流量の単位で平均処理を行うことで周期と流量の非線形性による流量検出誤差を低減する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、所定時間間隔内の全出力波形の平均値を元に流量を求めるために、あらゆる周波数の吸気脈動時であっても、エイリアシングによる流量検出誤差を低減可能である。吸気脈動はピストンの上下運動と、吸気管の共振から生じる現象であるため、エイリアシングを懸念して、特定の周波数を回避するための吸気管の設計が不要となる。またそれは同時に空気流量演算周期を吸気脈動周期とは分離して、自由に設定することが可能であることを意味する。
【0010】
また本発明によれば、従来は上記の所定時間間隔内の全出力波形の平均値を元に流量を求めるために吸気過渡時に生じる、流量検出遅れを低減することが可能である。したがって、吸気過渡時においても正確な内燃機関の吸入空気流量を演算することが可能である。
【0011】
また本発明によれば、空気流量計と空気流量演算装置を接続する信号線に、電気ノイズなどが作用し、一時的に検出流量に相当する周期と異なる周期が空気流量演算装置に入力された場合でも、所定時間間隔内の複数の波形を用いて流量演算するため、誤った周期の影響は低減される。したがって、ノイズの影響で検出した流量と大きく異なる流量値に応答遅れ補正をかけることを回避することが可能である。
【0012】
また本発明によれば、空気流量計の周波数出力波形は、検出した流量に応じて周期が変わるため、空気流量計の検出した流量に応じて、所定時間間隔内に入力される前記周波数出力波形の波形数が変わる。ここで、本発明の複数の波形を用いて流量演算する方法は、移動平均処理を行うことと等価であり、所定時間間隔内に入力される波形数が変化することは移動平均処理の平均処理に用いるサンプル数が変化することを意味する。しかし同時に、前記空気流量計の周波数出力波形の周期が変化することは、流量検出サンプリング周期が変化することとなり、すなわち移動平均処理のサンプリング周波数が変化する。したがって、検出した流量に応じて、所定時間間隔内に入力される周波数出力波形の波形数とサンプリング周期が同時に変化する、すなわち移動平均処理のサンプリング数とサンプリング周波数が同時に変化するため、移動平均処理の周波数特性の変化は小さい。これは、検出する流量域によって、吸気過渡時の検出遅れ量はほとんど変化しないことを意味する。したがって、あらゆる流量域の吸気過渡時においても、本発明によれば、流量補正値として検出流量の変化値に対して、定数を乗じた値、またはテーブル変換した値を用いることで正確な応答遅れ補正をすることが可能である。
【0013】
また本発明によれば、流量と周期の関係が強い非線形性を示す領域における吸気脈動時であっても、所定時間間隔内の全出力波形を1波形毎に流量に変換して流量の単位で平均をして平均流量を算出するため、前記非線形性による流量検出誤差を低減することが可能である。したがって、流量と周期の関係が強い非線形性を示す領域における吸気脈動時であっても、平均流量検出誤差を小さくすることが可能である。
【0014】
また本発明によれば、吸気脈動時における吸気過渡時においても、吸気過渡の変化と一致する空気流量変化のときのみ前記応答遅れ補正をかけることが可能であり、また吸気脈動が大きい領域においては前記応答遅れ補正をかけないことが可能であるため、応答遅れ補正が逆効果となることを防ぐことが可能である。したがって、吸気脈動時における吸気過渡時においても、空気流量の演算精度を悪化させないことが可能である。
【0015】
内燃機関において噴射する燃料量は検出した空気流量を元に計算されるため、本発明の採用により、内燃機関が吸入した空気流量と燃焼噴射量が最適な混合比に近づく。したがって、内燃機関の排気に含まれるHC,CO,NOxなどの有害な成分の低減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】エンジンシステム全体。
【図2】コントロールユニットの説明。
【図3】熱式エアフローセンサの説明。
【図4】エアフローセンサの周波数出力演算部の説明。
【図5】周波数出力方式エアフローセンサの出力波形。
【図6】周波数出力方式エアフローセンサの流量と周波数または周期の関係。
【図7】エアフローセンサ出力波形の周期検出方法。
【図8】所定時間間隔内のエアフローセンサ出力波形の平均周期演算方法。
【図9】吸気脈動時の流量と周期の非線形性により流量検出誤差が生じるメカニズム。
【図10】所定時間間隔内のエアフローセンサ出力波形の平均流量演算方法。
【図11】吸気過渡時に平均処理より検出遅れが生じるメカニズム。
【図12】吸気過渡時のみにかける遅れ補正。
【図13】遅れ補正値の説明1。
【図14】遅れ補正値の説明2。
【図15】吸気脈動時の遅れ補正方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
まず、本発明実施において前提となる、内燃機関の動作と、空気流量検出装置であるエアフローセンサ信号を用いた燃料噴射量制御の概要について説明する。
図1は、いわゆるMPI(多気筒燃料噴射)方式の4気筒内燃機関である。以下では本発明の実施例として、MPI方式の4気筒内燃機関について説明するが、本発明の実施形態は必ずしもMPI方式の4気筒内燃機関に限定されるべきものではなく、出力値として周波数を用いた空気流量計を備える全ての内燃機関を含むものである。
【0018】
内燃機関の吸入空気流量は、エアクリーナ1の出口部に設けられた熱線式エアフローセンサ2によって計測される。吸入空気は、エアクリーナ1に接続された吸気管3、吸入空気流量を調節する絞り弁4を有するスロットルボディ5、を通り、コレクタ6に入る。その後、空気は吸気管3の一部をなす、吸気分岐管7に分配され、吸気弁8を通り、シリンダ9内に吸入される。
また、燃料は、燃料タンク10から燃料ポンプ11で吸引,加圧され、プレッシャレギュレータ12により一定圧力に調圧され、吸気管3に設けられたインジェクタ13から、前記吸気分岐管7内に噴射される。
シリンダ9内では、点火プラグ14により、前記吸気分岐管7において空気と燃料の混合した気体に点火し、燃料を燃焼する。各気筒のシリンダ内で燃焼した後の排気ガスは、排気管16を通過し、触媒17によって浄化され、その後内燃機関外へ排出される。
【0019】
図2に示すように、コントロールユニット18には、電源IC40と、RESET信号41と、LSI42とから構成されており、LSI42のRESET端子には、電源IC40で制御されるRESET信号41が接続されている。
コントロールユニット18では、内燃機関に設置された各センサの出力値や、内燃機関が設置された車両の運転手の操作情報を検出するセンサの出力値をLSI42に内蔵されるA/D変換器により、ディジタル値に変換して演算を行い、演算した結果を制御信号として出力することにより、各アクチュエータを制御する。
このコントロールユニット18に入力する信号として、熱線式エアフローセンサ2,クランク角センサ19,空燃比センサ20,絞り弁4の開度センサ、及びスタータスイッチ22を介したバッテリ23からの電力、アクセル開度センサ30からの信号、等がある。
また、コントロールユニット18から出力する制御信号は、インジェクタ13,燃料ポンプ11、及び、点火プラグ14の点火スイッチであるパワートランジスタ24に出力される。
【0020】
熱線式エアフローセンサ2について説明する。
吸気管に設置された熱線式エアフローセンサ2は、バイパス通路を備え、その内部に発熱抵抗体50と感温抵抗体51を有している。図3に示すように、ブリッジ回路によりフィードバック回路53を構成し、発熱抵抗体50と感温抵抗体51の温度差が、常に一定になるように制御される。
【0021】
吸入空気量が多い時には、放熱により前記発熱抵抗体50が冷却され、発熱抵抗体50と感温抵抗体51の温度差が、一定となるよう、発熱抵抗体50に流れる電流が増え、出力電圧52は大きくなる。
逆に、吸入空気量が少ない時には、放熱による前記発熱抵抗体50の冷却効果が小さくなり、発熱抵抗体50に流れる電流が減り、出力電圧52は小さくなる。
さらに、熱式エアフローセンサは内部にLSI58を備え、ブリッジ回路53の出力電圧52をLSI58内のA/D変換器でディジタル値に変換する。ディジタル値に変換された空気流量検出値は流量補正演算55を経て、所定のクロックで周波数変換56され、周波数出力値57として、センサ出力される。
【0022】
ここで、周波数変換部56の詳細を次に説明する。熱線式エアフローセンサ2内で空気流量検出値は、LSI58内で流量補正演算55後、図4に示すように流量相当値として、所定クロックで動作する周波数変換部56に入力される。周波数変換部で、流量相当値は所定クロック毎に、Bの前回値から減算する。減算後の値Aが負であった場合は、Bの値はDIG_RESET61の値にリセットされ、正であった場合にはそのまま、Bの値はAの値となる。このBの値によって、最終的に出力される電圧値が変化し、Bの値がDIG_RESET/2の値よりも大きい場合はHighレベル電圧63、逆にDIG_RESET/2よりも小さい場合はLowレベル電圧64が、周波数出力57としてセンサ出力される。
結果的に、熱線式エアフローセンサ2の周波数出力波形はHighレベル電圧63とLowレベル電圧64が交互に出力される、図5に示すような波形となる。周波数変換部56の動作原理から、図6に示すように、エアフローセンサが検出した空気流量が低い場合には、周波数の低い矩形波、逆に空気流量が高い場合には、周波数の高い矩形波が出力される。また、熱式エアフローセンサでは、前記動作原理上、検出流量と周波数または周期の関係が非線形となる。
【0023】
次に、熱線式エアフローセンサ2の出力信号を周期として検出して、流量に変換するコントロールユニット18について説明する。図7に示すように、熱線式エアフローセンサ2の出力信号はコントロールユニット18において、タイマ80を用いて周期として検出される。エアフローセンサの信号を周期として検出する実施例を次に説明する。はじめに所定のクロックでカウンタをカウントアップするコントロールユニット18のタイマ80は、エアフローセンサの出力信号のLowレベル電圧64からHighレベル電圧63に変化する立ち上がりエッジを検出する。タイマ80は立ち上がりエッジを検出してから、カウンタ値をリセットし、次の立ち上がりエッジ検出時まで、所定クロックでタイマをカウントアップする。同時に、タイマ80は熱式エアフローセンサ出力信号の立ち上がりエッジ毎にタイマのカウンタ値を検出し、そのカウンタ値を、コントロールユニット18内に備えるRAMに格納する。したがって、連続する前後の立ち上がりエッジ検出時にRAMに格納したタイマのカウンタ値にクロック周期を乗じることで、熱線式エアフローセンサ2の出力信号1周期の時間を演算することが可能となる。
【0024】
さらに図8に示すように所定の時間間隔内に、RAMに格納されたタイマの全カウンタ値を用いることで、所定時間間隔内に検出した熱線式エアフローセンサ2の全出力信号の周期を検出することが可能となるため、それら全周期を平均処理することで、所定時間間隔内に検出したエアフローセンサの全出力信号の平均周期Tave90を演算することが可能である。最後に得られた平均周期Tave90を流量変換して、検出流量とする。
【0025】
しかし、熱線式エアフローセンサ2は流量と周期の関係が非線形であるため、吸気脈動状態では、以下に述べる問題が生じる。問題を述べる前にまず、吸気脈動状態について説明すると、吸気脈動状態とはエンジンにおいて、ピストンの上下運動により発生する空気圧力振動と、吸気管の固有振動数による振動の共鳴により、脈動と呼ばれる共振現象が発生する状態のことである。このとき、図9に示すように、熱線式エアフローセンサ2の出力波形の平均周期から流量に変換した値と実際の平均流量には流量特性の非線形性によるずれが生じるという問題がある。
【0026】
そこで、図10に示すように所定時間間隔内に検出した熱線式エアフローセンサ2の全出力信号の各周期を流量に変換した上で、流量を平均処理することで、所定時間間隔内に検出したエアフローセンサの全出力信号の平均流量Qave91を演算することが可能である。この方法により、流量と周期の非線形性による流量検出誤差を低減することが可能である。
【0027】
しかし、前述した平均処理は移動平均処理と同等の処理であるため、本処理によって得られた空気流量Qは真の空気流量に対して遅れを持つ。図11に示すように、特に空気流量の変化が大きい吸気過渡時では、平均処理によって得られた平均周期は1周期毎の周期よりも最大で空気流量演算周期の0.5周期ほど検出に遅れが生じるため、吸気過渡時では、検出遅れによる流量検出誤差が大きくなる。吸気過渡時に空気流量の検出誤差が大きくなると、検出した空気流量は誤差がないときの空気流量よりも小さくなるため、検出した空気流量に基づいて計算される燃料噴射量も小さくなる。
【0028】
ここで、燃料噴射量は吸入した空気量に対して理論混合比と呼ばれる一定値になるように噴射される必要がある。燃料噴射量と吸入空気流量が理論混合比からずれると内燃機関の排気からHC,CO,NOxなどの有害な成分が排出され、問題となる。そこで、吸気過渡時でも検出遅れによる流量検出誤差を低減するための一実施例を以下に示す。
【0029】
まず過渡流量域判別手段として、スロットルボディ5を通過する空気流量の変化量を用いる。スロットルボディ5を通過する空気流量は絞り弁4の開度から計算されるスロットルボディ5の総流路面積とクランク角センサ19の出力値から得られた、エンジン回転数から演算される。スロットルボディ5を通過する空気流量の変化量がある一定値より大きい場合には、検出した空気流量が過渡領域であるとし、図12に示すように、熱線式エアフローセンサ2の信号を用いて前記平均処理演算により得られた空気流量110に遅れ補正をかけて遅れ補正後の流量111を吸入空気流量とすることで、吸気過渡時の流量検出誤差を小さくする。
【0030】
ここで、前記遅れ補正を次の通り演算する。本発明では、図13に示すように、遅れ補正値は熱線式エアフローセンサ2の信号から得られた空気流量の変化量ΔQ120を元に計算する。すなわち、遅れ補正値は、所定時間間隔毎に演算される熱線式エアフローセンサ2の信号から得られた空気流量Q110と同空気流量の前回値の差分ΔQ120に定数Kを乗じた値QhoseiK121とする。この補正値121と熱線式エアフローセンサ2の信号から得られた空気流量Q110の和を遅れ補正後の空気流量QkatoK122として、燃料噴射量演算に用いる値とする。この演算により、平均処理によって生じた応答遅れが低減し、流量検出誤差が小さくなるため、燃料噴射量が内燃機関の吸入空気流量に対して、理論混合比に近づくような値となる。
【0031】
しかし、ここで遅れ補正値を前記差分ΔQ120に定数Kを乗じた値QhoseiK121とすると、次に挙げる問題が生じる。本発明の複数の波形を用いて流量演算する方法は、前述のように移動平均処理によるローパスフィルタをかけることに相当する。したがって、検出空気流量の周波数が大きいほど、ローパスフィルタ後のゲインは小さくなる。すなわち、吸気過渡時、単位時間あたりの空気流量変化が大きいほど、複数の波形を用いて流量演算することで生じる検出遅れは大きくなる。したがって、吸気過渡時の単位時間あたりの空気量変化が異なる場合、熱線式エアフローセンサ2の信号から得られた空気流量Q110と同空気流量の前回値の差分ΔQ120に対して、複数の波形を用いて流量演算することにより生じる検出遅れを小さくするための遅れ補正量の関係は非線形となり、前記遅れ補正値を前記差分ΔQ120に定数Kを乗じた値QhoseiK121とすると、高精度な遅れ補正をすることができない。
【0032】
本発明によれば、図14に示すように、遅れ補正値を所定時間間隔毎に演算される熱線式エアフローセンサ2の信号から得られた空気流量Q110と同空気流量の前回値の差分ΔQ120をテーブル変換した値QhoseiT123とする。この補正値123と熱線式エアフローセンサ2の信号から得られた空気流量Q110の和を遅れ補正後の空気流量QkatoT124として、燃料噴射量演算に用いる値とする。この演算処理によって、遅れ補正量が熱線式エアフローセンサ2の信号から得られた空気流量Q110と同空気流量の前回値の差分に対して非線形であった場合に対しても、精度の高い遅れ補正を行うことが可能となる。
【0033】
ここまで、熱線式エアフローセンサ2の信号に対して、平均処理を行って得られた流量に対する遅れ補正について説明したが、吸気過渡時の遅れ補正による効果があまり得られない例外のエンジン状態が存在する。そのエンジン状態とは、吸気脈動状態である。吸気脈動状態で吸気過渡が生じると、吸気過渡で大きく変化する流量に対して、脈動によって、吸気過渡の流量変化とは逆に流量の変化が生じる。この波形に対して、前記遅れ補正を適用すると、吸気過渡の流量変化とは逆に変化する流量に対しても遅れ補正をかけることになり、逆効果となってしまう。したがって、前記吸気脈動状態で吸気過渡が生じた際には、図15に示すように、前記吸気過渡の流量変化の符号130と熱線式エアフローセンサ2の信号から得られた空気流量Q110の流量変化ΔQの符号131が一致するときのみ、前記遅れ補正を行うこととする。すなわち、スロットルボディ5を通過する空気流量の変化量の符号130と熱線式エアフローセンサ2の信号から得られた空気流量の流量変化の符号131が一致するときのみ遅れ補正を行う。この演算により、吸気脈動状態における吸気過渡時においても、適切な遅れ補正が可能である。
【0034】
しかし、吸気過渡時の流量変化よりも、吸気脈動による空気流量の振れのほうが大きい場合には、前記方法では、適切な遅れ補正はかけられない。したがって、吸気脈動状態が大きくなる特定のエンジン状態では、前記遅れ補正を行わない。すなわち、吸気脈動状態が大きくなる、特定のエンジン回転数,スロットルボディ5の絞り弁開度の時は遅れ補正をかけないこととする。これにより、遅れ補正が逆効果となることを防ぐ。
【産業上の利用可能性】
【0035】
周波数出力による、熱式エアフローセンサを採用したエンジンにおいて、本発明は、非常に有効であり、利用される可能性が高い。
【符号の説明】
【0036】
1 エアクリーナ
2 熱線式エアフローセンサ
3 吸気管
4 絞り弁(スロットル)
5 スロットルボディ
6 コレクタ
7 吸気分岐管
8 吸気弁
9 シリンダ
10 燃料タンク
11 燃料ポンプ
12 プレッシャレギュレータ
13 燃料噴射装置(インジェクタ)
14 点火プラグ
16 排気管
17 触媒
18 コントロールユニット
19 クランク角センサ
20 空燃比センサ
21 イグニッションスイッチ
22 スタータスイッチ
24 パワートランジスタ
30 アクセル開度センサ
40 電源IC
42 LSI
50 発熱抵抗体
51 感温抵抗体
52 エアフローセンサ内フィードバック回路出力電圧
53 エアフローセンサ内フィードバック回路
54 エアフローセンサ内A/D変換器
55 エアフローセンサ内流量補正演算ロジック
56 エアフローセンサ内周波数変換ロジック
57 エアフローセンサの周波数出力信号
58 エアフローセンサ内LSI
61 周波数変換ロジック内リセット信号
63 周波数出力信号のHighレベル電圧
64 周波数出力信号のLowレベル電圧
80 コントロールユニット内のタイマ
90 エアフローセンサの周波数出力波形の平均周期
91 エアフローセンサの周波数出力波形の平均流量
110 平均処理後のエアフローセンサの検出流量Q
111 遅れ補正後の流量
120 平均処理後のエアフローセンサ検出流量Qの前回値との差分ΔQ
121 ΔQに定数を乗じた遅れ補正値
122 ΔQに定数を乗じた遅れ補正値により遅れ補正をした空気流量
123 ΔQをテーブル変換した遅れ補正値
124 ΔQをテーブル変換した遅れ補正値により遅れ補正をした空気流量
130 過渡時の流量変化の符号
131 ΔQの符号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気流量の計測値に応じた周波数信号を出力する空気流量計と、前記空気流量計が出力する周波数出力信号を周期として検出し、前記周期を空気流量に変換する手段を有する空気流量演算装置において、
所定の時間間隔内に検出した前記空気流量計の全出力信号の平均周期を演算する手段を備え、
空気流量変化の大きい過渡領域では、前記全出力信号の平均周期を流量に変換した値に対して、補正をかけることを特徴とする空気流量演算装置。
【請求項2】
請求項1において、前記補正は、前記平均周期を流量に変換した値の前回値との差分に所定定数を乗じた値であることを特徴とする空気流量演算装置。
【請求項3】
請求項1において、前記補正は、前記平均周期を流量に変換した値の前回値との差分をテーブルで変換した値であることを特徴とする空気流量演算装置。
【請求項4】
請求項1〜3において、過渡領域では、過渡変化の符号と前記前回値との差分の符号が一致するときのみ前記補正をかけることを特徴とする空気流量演算装置。
【請求項5】
請求項1〜3において、エンジン回転数,スロットル開度の特定領域では、前記補正をかけないことを特徴とする空気流量演算装置。
【請求項6】
空気流量の計測値に応じた周波数信号を出力する空気流量計と、前記空気流量計が出力する周波数出力信号を周期として検出し、前記周期を空気流量に変換する手段を有する空気流量演算装置において、
所定の時間間隔内に検出した前記空気流量計の全出力を1周期毎に流量に変換した上で、全流量値から平均流量を演算することを特徴とする空気流量演算装置。
【請求項7】
空気流量の計測値に応じた周波数信号を出力する空気流量計と、前記空気流量計が出力する周波数出力信号を周期として検出し、前記周期を空気流量に変換する手段を有する空気流量演算装置において、
所定の時間間隔内に検出した前記空気流量計の全出力を1周期毎に流量に変換した上で、全流量値から平均流量を演算する手段を備え、
空気流量変化の大きい過渡領域では、前記平均流量値に対して、補正をかけることを特徴とする空気流量演算装置。
【請求項8】
請求項7において、前記補正は、前記平均周期を流量に変換した値の前回値との差分に所定定数を乗じた値であることを特徴とする空気流量演算装置。
【請求項9】
請求項7において、前記補正は、前記平均周期を流量に変換した値の前回値との差分をテーブルで変換した値であることを特徴とする空気流量演算装置。
【請求項10】
請求項6〜9において、過渡領域では、過渡変化の符号と前記前回値との差分の符号が一致するときのみ前記補正をかけることを特徴とする空気流量演算装置。
【請求項11】
請求項6〜9において、エンジン回転数,スロットル開度の特定領域では、前記補正をかけないことを特徴とする空気流量演算装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−52964(P2011−52964A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199185(P2009−199185)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】