説明

内燃機関の制御装置

【課題】ターボ過給機を備えた内燃機関において、タービンの下流側に配置されたセンサ装置を凝縮水との接触から確実に保護する。
【解決手段】タービンハウジング30には、タービン32及びバイパス通路36の流出口32a,36aの下側に位置して凝縮水を貯留する水分貯留部70を設ける。水分貯留部70は、WGV38の開弁時にタービン32の流出口32aから隠れる位置に形成する。そして、ECUは、水分貯留部70に溜った凝縮水がタービン32の排気流により下流側に移動して空燃比センサ50と接触する被水障害が発生し易い場合に、WGV38を開弁してタービン32の流出口32aと水分貯留部70との間を遮断する。これにより、エンジンのレスポンス(出力性能)と、空燃比センサ50の耐久性とを両立させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に、ターボ過給機及びウェイストゲートバルブ(WGV)を備えた内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(特開2008−223772号公報)に開示されているように、ターボ過給機及びWGVを備えた内燃機関の制御装置が知られている。従来技術では、排気通路において、ターボ過給機のタービンの下流側に空燃比センサが配置されている。空燃比センサは、セラミックス材料等により構成された素子部を備えており、この素子部は、加熱された状態において、急激な温度低下等により損傷(素子割れ)することがある。
【0003】
一方、冷間始動時等には、燃焼により生じた排気ガス中の水分が排気通路中で冷却されて凝縮し、凝縮水が生じ易い。この凝縮水がタービンの回転により飛散して空燃比センサの素子部に付着すると、素子割れが生じる虞れがある。このため、従来技術では、空燃比センサを、タービンの出口側に生じる旋回流の中心位置に配置し、タービンから飛散した凝縮水がセンサの素子部に付着するのを回避するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−223772号公報
【特許文献2】特開2009−264339号公報
【特許文献3】特開2008−208787号公報
【特許文献4】特開2007−162509号公報
【特許文献5】特開2006−328995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来技術では、空燃比センサをタービンの出口側で旋回流の中心位置に配置し、センサの素子部を凝縮水から保護する構成としている。しかしながら、タービンの出口側には、WGV(バイパス通路)の流出口も接続されている。このため、WGVの開閉状態や凝縮水の溜り具合等によっては、凝縮水が想定外の位置に飛散して空燃比センサの素子部に付着する虞れがある。即ち、従来技術のように、単に空燃比センサを旋回流の中心位置に配置するだけでは、素子部を凝縮水から確実に保護するのは難しい。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、ターボ過給機を備えた内燃機関において、タービンの下流側に配置されたセンサ装置を凝縮水との接触から確実に保護することが可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、内燃機関の排気圧を受けて回転するタービンと、前記タービンにより駆動されて吸入空気を過給するコンプレッサとを有するターボ過給機と、
前記ターボ過給機のタービンの上流側で排気通路から分岐し、前記タービンの下流側で前記排気通路に合流する通路であって、当該合流部が前記タービンの流出口に対して上下方向に並んだ位置で前記排気通路に開口する流出口となったバイパス通路と、
前記バイパス通路を流れる排気ガスの量を調整するバルブであって、基端側が上下方向において前記タービンの流出口と前記バイパス通路の流出口との間で回転可能に支持され、先端側が前記バイパス通路の流出口を開閉するウェイストゲートバルブと、
前記タービン及び前記バイパス通路の流出口よりも下流側で前記排気通路に設けられ、排気ガスから所定の情報を検出するセンサ装置と、
前記タービン及び前記バイパス通路の流出口よりも下側であって、前記ウェイストゲートバルブの開弁時に前記タービンの流出口から隠れる位置に設けられ、前記タービン及び前記バイパス通路の流出口から流出する水分を前記センサ装置の上流側で貯留する水分貯留部と、
前記水分貯留部に溜った水分が前記タービンから流出する排気ガスにより下流側に移動して前記センサ装置に悪影響を与える被水障害が発生し易い場合に、前記ウェイストゲートバルブを開弁して前記タービンの流出口と前記水分貯留部との間を遮断する被水障害防止手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明は、前記ターボ過給機の要求出力と、前記水分貯留部に溜った水分の貯留量と、前記水分貯留部の温度とからなる3つのパラメータのうち、少なくとも1つのパラメータに基いて前記被水障害が発生し易い状態であるか否かを判定する判定手段を備え、
前記被水障害防止手段は、前記ウェイストゲートバルブが開弁した状態において、前記判定手段により前記被水障害が発生し易いと判定された場合に、前記ウェイストゲートバルブの閉弁を禁止し、前記被水障害が発生し難いと判定された場合に、前記閉弁を許可する構成としている。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、運転者のアクセル操作等による加速要求、即ち、WGVの閉弁要求が生じた場合でも、被水障害が発生し易いと判定した場合には、WGVの閉弁を禁止し、WGVを開弁状態に保持することができる。これにより、WGVは、タービンの流出口と水分貯留部との間を遮断し、水分貯留部に溜まった凝縮水がタービンから流出する排気ガスの流れにより飛散するのを抑制することができる。従って、凝縮水がセンサ装置に接触することで生じる被水障害の発生を防止し、センサ装置を保護することができる。また、被水障害が発生し難い状態では、加速要求に応じてWGVを閉弁させることができ、エンジンのレスポンス(出力性能)と、センサ装置の耐久性とを両立させることができる。
【0010】
第2の発明によれば、判定手段は、ターボ過給機の要求出力と、水分貯留部に溜った水分の貯留量と、水分貯留部の温度とからなる3つのパラメータのうち、少なくとも1つのパラメータに基いて被水障害が発生し易い状態であるか否かを判定することができる。特に、複数のパラメータを組合わせて被水障害の発生し易さを判定することにより、判定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための構成図である。
【図2】タービンハウジングを出口側からみた外観図である。
【図3】タービンハウジングを図2中の矢示X断面で中心軸線に沿って破断した縦断面図である。
【図4】ターボ過給機の要求出力と凝縮水の最大粒径との関係を示す特性線図である。
【図5】凝縮水の貯留量、水分貯留部の温度及び機関温度(エンジンの水温)の関係を示す特性線図である。
【図6】本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1乃至図5を参照しつつ、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための構成図である。本実施の形態のシステムは、多気筒型の内燃機関としてのエンジン10を備えている。なお、図1では、4気筒エンジンを例示したが、本発明は、単気筒を含む任意の気筒数のエンジンに適用されるものである。エンジン10の各気筒12は、公知の構成を有しており、図示しないピストン、燃焼室、燃料噴射弁、点火プラグ、吸気バルブ、排気バルブ等を備えている。そして、各気筒のピストンはエンジンのクランク軸に連結されている。
【0013】
また、エンジン10は、各気筒の燃焼室内(筒内)に吸入空気を吸込む吸気通路14と、各気筒から排気ガスが排出される排気通路16とを備えている。吸気通路14には、吸入空気を清浄化するエアクリーナ18と、吸入空気を冷却するインタークーラ20と、アクセル開度等に基いて吸入空気量を調整する電子制御式のスロットルバルブ22とが設けられている。一方、排気通路16には、排気ガスを浄化する例えば2つの触媒24,26が設けられている。
【0014】
また、エンジン10は、公知のターボ過給機28を備えており、ターボ過給機28は、タービンハウジング30、タービン32、コンプレッサ34等を備えている。タービン32は、タービンハウジング30に収容された状態で排気通路16に設けられ、触媒24,26の上流側に配置されている。コンプレッサ34は、タービン32と連結された状態で吸気通路14に配置されている。ターボ過給機28の作動時には、タービン32が排気圧を受けて回転することによりコンプレッサ34を駆動し、コンプレッサ34により吸入空気が過給される。
【0015】
また、排気通路16には、タービン32をバイパスするバイパス通路36が接続されている。バイパス通路36は、タービン32の上流側で排気通路16から分岐し、タービン32の下流側で排気通路16に合流している。また、バイパス通路36には、タービン32及びバイパス通路36を流れる排気ガスの流量を調整するウェイストゲートバルブ(WGV)38が設けられている。WGV38は、電磁駆動式のWGVアクチュエータ40により開閉駆動される。なお、バイパス通路36、WGV38等の詳細については、図2を参照して後述する。
【0016】
さらに、本実施の形態のシステムは、センサ42〜52を含むセンサ系統と、エンジン10の運転状態を制御するECU(Electronic Control Unit)60とを備えている。まず、センサ系統について説明すると、クランク角センサ42は、クランク軸の回転に同期した信号を出力するもので、エアフローセンサ44は吸入空気量を検出する。水温センサ46は、エンジン冷却水の温度(以下、エンジンの水温として表記)を検出し、スロットルセンサ48は、スロットルバルブ22の開度(スロットル開度)を検出する。
【0017】
空燃比センサ50は、本実施の形態のセンサ装置を構成するもので、排気ガスから所定の情報である排気空燃比を連続的に検出する。空燃比センサ50は、公知のセンサにより構成され、セラミックス材料等により形成された素子部(検出素子)と、この素子部を加熱して活性化させるヒータとを備えている。また、空燃比センサ50は、タービン32及びWGV38(排気通路16とバイパス通路36との合流部)よりも下流側で、かつ、触媒24,26よりも上流側となる位置で排気通路16に配置されている。一方、酸素濃度センサ52は、排気ガス中の酸素濃度を検出するもので、触媒24の下流側に配置されている。センサ系統には、この他にも、エンジン制御に必要な各種のセンサ(アクセルペダルの操作量、即ち、アクセル開度を検出するアクセルセンサや、排気温度を検出する排気温度センサ等)が含まれている。
【0018】
ECU60は、例えばROM、RAM、不揮発性メモリ等を含む記憶回路を備えた演算処理装置により構成されている。ECU60の入力側には、センサ系統が接続されており、ECU60の出力側には、燃料噴射弁、点火プラグ、スロットルバルブ22、WGVアクチュエータ40等を含む各種のアクチュエータが接続されている。そして、ECU60は、エンジンの運転情報をセンサ系統により検出しつつ、各アクチュエータを駆動して運転状態を制御する。
【0019】
具体的には、クランク角センサ42の出力に基いてエンジン回転数(機関回転数)とクランク角とを検出し、エアフローセンサ44の出力に基いて吸入空気量を算出する。また、吸入空気量、エンジン回転数等に基いてエンジンの負荷(負荷率)を算出する。そして、クランク角に基いて燃料噴射時期や点火時期を決定し、これらの時期が到来したときには、燃料噴射弁や点火プラグを駆動する。これにより、筒内で混合気を燃焼させ、エンジンを運転することができる。また、ECU60は、エンジンの運転状態に基いてWGVアクチュエータ40を駆動し、WGV38の開度を変化させることにより、吸気圧(過給圧)を制御する公知の過給圧制御を実行する。なお、冷間始動時等には、過給圧制御が停止され、少なくともエンジンの暖機が済むまでWGV38が開弁状態に保持される。
【0020】
[実施の形態1の特徴]
次に、図2及び図3を参照して、タービンハウジングの構造について説明する。図2は、タービンハウジングを出口側(下流側)からみた外観図を示し、図3は、タービンハウジングを図2中の矢示X断面で中心軸線に沿って破断した縦断面図を示している。これらの図に示すように、タービンハウジング30は略円筒状に形成されており、その軸線がほぼ水平となるように配置されている。そして、タービンハウジング30内には、例えば上部側にタービン32が配置され、下部側にバイパス通路36及びWGV38が配置されている。
【0021】
タービンハウジング30の下流側には、タービン32から排気ガスが流出する流出口32aと、バイパス通路36から排気ガスが流出する流出口36aとが設けられている。バイパス通路36の流出口36aは、排気通路16と合流する合流部であり、タービン32の流出口32aよりも下側に配置されている。これらの流出口32a,36aは、上下方向に並んだ位置で排気通路16に開口している。
【0022】
WGV38は、略円板状の弁板等により構成され、その基端側(上部側)には、図3に示すように、WGV38が開閉するときの支点となる支軸38aが設けられている。支軸38aは、上下方向において流出口32a,36aの間となる位置で、タービンハウジング30に取付けられている。そして、WGV38は、支軸38aを中心として回転することにより、先端側(下部側)がバイパス通路36の流出口36aを開閉する。
【0023】
また、タービンハウジング30には、タービン32及びバイパス通路36の流出口32a,36aから流出する水分(凝縮水)を貯留する水分貯留部70が設けられている。水分貯留部70は、例えば上向きに開口した凹部として形成され、上下方向において、例えば流出口32a,36aの下側(ほぼ真下)に配置されている。これにより、流出口32a,36aから流出した凝縮水は、図3中の矢印に示すように、重力により下向きに流れて水分貯留部70内に溜るようになる。一方、空燃比センサ50は、流出口32a,36a及び水分貯留部70の下流側に配置されている。このため、水分貯留部70は、流出口32a,36aから流出する凝縮水を空燃比センサ50の上流側で捕集し、これらの凝縮水が空燃比センサ50に向けて下流側に流動するのを防止することができる。
【0024】
また、水分貯留部70は、図3に示すように、開弁したWGV38により上側から覆われる位置に形成されている。この位置は、WGV38の開弁時にタービン32の流出口32aから隠れる位置となっている。即ち、WGV38の開弁時には、タービン32の流出口32aと水分貯留部70との間がWGV38により遮断され、タービン32から旋回状態で流出する排気ガスの流れ(以下、タービン排気流と称す)が水分貯留部70に到達しないように構成されている。
【0025】
(被水障害防止制御)
本実施の形態は上記構成を有するもので、次に、ECU60により実行される被水障害防止制御について説明する。ここで、被水障害とは、水分貯留部70内に溜った凝縮水がタービン排気流を受けて下流側に移動(飛散)し、この凝縮水が空燃比センサ50と接触することで生じる素子割れ等の障害を意味している。被水障害防止制御は、この被水障害が発生し易い場合に、WGV38を開弁し、タービン32の流出口32aと水分貯留部70との間をWGV38により遮断するするものである。
【0026】
具体的に述べると、被水障害防止制御では、まず、ターボ過給機28の要求出力と、水分貯留部70に貯留された凝縮水の貯留量と、水分貯留部70の温度とからなる3つのパラメータのうち、少なくとも1つのパラメータに基いて被水障害が発生し易い状態であるか否かを判定する。以下、図4及び図5を参照して、各パラメータの特性及び個々のパラメータを用いた判定処理について説明する。
【0027】
まず、図4は、ターボ過給機の要求出力と凝縮水の最大粒径との関係を示す特性線図である。この図において、最大粒径Dとは、タービン排気流を受けて水分貯留部70から飛散する凝縮水粒子のうち、最大の粒子の大きさに相当している。また、空燃比センサ50の素子部に凝縮水粒子が付着した場合には、その粒径が大きいほど被水障害が発生する危険性(確率)が高くなる傾向がある。危険粒径範囲とは、例えば被水障害の発生確率が許容限度を超えるような凝縮水粒子の粒径の範囲として定義される。危険粒径範囲の下限値は実験等により求めることができる。
【0028】
図4に示すように、飛散する凝縮水の最大粒径Dは、ターボ過給機28の要求出力が増加するにつれて小さくなる傾向がある。なお、本実施の形態では、要求出力に相当する指標として吸入空気量Gを用いる場合を例示している。そして、最大粒径Dが危険粒径範囲の下限値よりも小さい場合、即ち、要求出力(≒吸入空気量G)が所定の判定値Aよりも大きい場合には、飛散した凝縮水がセンサの素子部に接触したとしても、被水障害の発生確率が許容される程度に小さくなる。ここで、判定値Aは、図4に示す特性線において、危険粒径範囲の下限値に基いて設定されるものである。従って、ターボ過給機28の要求出力に着目すれば、要求出力(吸入空気量G)が判定値A以下の場合に被水障害が発生し易いと判定し、要求出力が判定値Aよりも大きい場合に被水障害が発生し難いと判定することができる。なお、要求出力に相当する指標としては、吸入空気量G以外にも、アクセル開度、スロットル開度等を用いることができる。
【0029】
次に、図5は、凝縮水の貯留量、水分貯留部の温度及び機関温度(エンジンの水温)の関係を示す特性線図である。被水障害が発生する危険性は、水分貯留部70に貯留される凝縮水の貯留量Eが増加するほど高くなる傾向がある。図5において、危険水量範囲とは、例えば被水障害の発生確率が許容限度を超えるような凝縮水の貯留量の範囲として定義される。危険水量範囲の下限値は実験等により求めることができる。
【0030】
また、凝縮水の貯留量Eは、水分貯留部70の温度T及び機関温度(エンジンの水温W)に応じて、図5に示すように変化する。即ち、貯留量Eは、水分貯留部70の温度Tが高いほど、また、水温Wが高いほど(W1<W2<W3)、減少する傾向がある。そして、貯留量Eが危険水量範囲の下限値よりも小さい場合、即ち、水分貯留部70の温度Tが任意の水温W(W1,W2,W3,…)における所定の判定値B(B1,B2,B3,…)よりも高い場合には、タービン排気流が存在しても、被水障害の発生確率が許容される程度に小さくなる。ここで、判定値B(B1,B2,B3,…)は、図5に示す特性線において、水温W(W1,W2,W3,…)と、危険水量範囲の下限値とに基いて設定されるものである。なお、機関温度としては、エンジンの水温以外にも、潤滑油の油温、エンジン本体の温度等を用いることができる。
【0031】
従って、凝縮水の貯留量Eに相当する指標として、水分貯留部70の温度Tとエンジンの水温Wとを用いることにより、被水障害の発生し易さを判定することができる。即ち、水温Wに応じて可変に設定される判定値Bに基いて、水分貯留部70の温度Tが判定値B以下の場合に被水障害が発生し易いと判定し、温度Tが判定値Bよりも大きい場合に被水障害が発生し難いと判定することができる。なお、水分貯留部70の温度Tは、例えば排気ガスの流量及び温度、機関温度、始動からの経過時間等のパラメータに応じて変化する。従って、これらのパラメータと温度Tとの関係を予めデータ化しておくことにより、前記パラメータに基いて水分貯留部70の温度Tを推定することができる。
【0032】
また、水分貯留部70の温度Tのみに着目した場合でも、温度Tが高いほど、水分貯留部70内の水分が蒸発して被水障害の発生確率が低下する。従って、本発明では、凝縮水の貯留量を考慮せずに、水分貯留部70の温度Tに基いて被水障害の発生し易さを判定する構成としてもよい。なお、図4及び図5に記載された特性線(判定値A,B)は、ECU60に予め記憶されている。
【0033】
上述したように、本実施の形態では、3つのパラメータ(ターボ過給機28の要求出力、凝縮水の貯留量及び水分貯留部70の温度)のうち、1つのパラメータに基いて判定を行うか、または、複数のパラメータによる判定を組合わせることにより、被水障害の発生し易さを判定する。そして、被水障害防止制御では、WGV38が開弁した状態において、過給圧制御によりWGV38を閉弁させる要求が生じた場合でも、被水障害が発生し易い状態と判定した場合には、WGV38が閉弁されるのを禁止し、WGV38を開弁状態に保持する。また、被水障害が発生し難い状態と判定した場合には、過給圧制御の要求に応じてWGV38が開弁されるのを許可する。
【0034】
[実施の形態1を実現するための具体的な処理]
次に、図6を参照して、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。図6は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、冷間始動時にエンジンを始動させる場合の制御を例示している。図5に示すルーチンでは、まず、ステップ100において、イグニッションスイッチをONに設定し、エンジンを始動させる。そして、ステップ102では、冷間始動時のWGV制御を実行し、WGV38を開弁させる。
【0035】
次に、ステップ104では、運転者のアクセル操作等により、WGV38の閉弁要求が発生したか否かを判定する。この判定が不成立の場合には、WGV38を閉弁する必要がないので、後述のステップ110に移行して本ルーチンを終了する。また、ステップ104の判定が成立した場合には、WGV38を閉弁してエンジンの出力を上昇させる必要があるが、その一方で被水障害の発生に注意する必要もある。このため、ステップ106では、前述したように、ターボ過給機28の要求出力に基いた判定条件(G>A)と、凝縮水の貯留量に基いた判定条件(T>B)の両方が成立するか否かを判定する。
【0036】
ステップ106において両方の判定が成立した場合には、要求出力も大きくて水分貯留部70の温度Tも高いので、被水障害が発生し難い状態であると判定し、ステップ108において、過給圧制御によりWGV38を閉弁するのを許可する。一方、ステップ106の判定が不成立の場合には、前述の判定条件(G>A)と判定条件(T>B)の何れかが成立していないので、この場合には、被水障害が発生し易い状態であると判定する。これにより、ステップ110では、過給圧制御の要求に関係なく、WGV38の閉弁を禁止し、WGV38を強制的に開弁状態に保持する。
【0037】
これにより、WGV38は、図3に示すように、タービン32の流出口32aと水分貯留部70との間を遮断する位置に保持される。この結果、水分貯留部70がWGV38によりタービン排気流から遮断されるので、その内部の凝縮水が飛散するのを抑制することができる。また、WGV38は、開弁状態において、バイパス通路36の流出口36aを斜め上側から覆う位置に保持される。このため、バイパス通路36内の凝縮水が飛散するのも防止することができる。
【0038】
以上詳述した通り、本実施の形態によれば、運転者のアクセル操作等による加速要求、即ち、WGV38の閉弁要求が生じた場合でも、被水障害が発生し易いと判定した場合には、WGV38の閉弁を禁止し、WGV38を開弁状態に保持することができる。これより、被水障害の発生を防止し、空燃比センサ50を素子割れ等から保護することができる。また、被水障害が発生し難い状態では、加速要求に応じてWGV38を閉弁させることができ、エンジンのレスポンス(出力性能)と、空燃比センサ50の耐久性とを両立させることができる。また、複数のパラメータを組合わせて被水障害の発生し易さを判定することにより、判定精度を向上させることができる。
【0039】
なお、前記実施の形態1では、図6中のステップ108,110が請求項1,2における被水障害防止手段の具体例を示し、ステップ106が請求項2における判定手段の具体例を示している。また、実施の形態では、センサ装置として、空燃比センサ50を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、被水障害が生じ得るセンサであれば、酸素濃度センサ、排気温度センサ、排気圧センサ等を含む各種のセンサに適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 エンジン(内燃機関)
12 気筒
14 吸気通路
16 排気通路
18 エアクリーナ
20 インタークーラ
22 スロットルバルブ
24,26 触媒
28 ターボ過給機
30 タービンハウジング
32 タービン
32a,36a 流出口
34 コンプレッサ
36 バイパス通路
38 ウェイストゲートバルブ
38a 支軸
40 WGVアクチュエータ
42 クランク角センサ
44 エアフローセンサ
46 水温センサ
48 スロットルセンサ
50 空燃比センサ(センサ装置)
52 酸素濃度センサ
60 ECU
70 水分貯留部
G 吸入空気量(要求出力)
E 凝縮水の貯留量
T 水分貯留部の温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気圧を受けて回転するタービンと、前記タービンにより駆動されて吸入空気を過給するコンプレッサとを有するターボ過給機と、
前記ターボ過給機のタービンの上流側で排気通路から分岐し、前記タービンの下流側で前記排気通路に合流する通路であって、当該合流部が前記タービンの流出口に対して上下方向に並んだ位置で前記排気通路に開口する流出口となったバイパス通路と、
前記バイパス通路を流れる排気ガスの量を調整するバルブであって、基端側が上下方向において前記タービンの流出口と前記バイパス通路の流出口との間で回転可能に支持され、先端側が前記バイパス通路の流出口を開閉するウェイストゲートバルブと、
前記タービン及び前記バイパス通路の流出口よりも下流側で前記排気通路に設けられ、排気ガスから所定の情報を検出するセンサ装置と、
前記タービン及び前記バイパス通路の流出口よりも下側であって、前記ウェイストゲートバルブの開弁時に前記タービンの流出口から隠れる位置に設けられ、前記タービン及び前記バイパス通路の流出口から流出する水分を前記センサ装置の上流側で貯留する水分貯留部と、
前記水分貯留部に溜った水分が前記タービンから流出する排気ガスにより下流側に移動して前記センサ装置に悪影響を与える被水障害が発生し易い場合に、前記ウェイストゲートバルブを開弁して前記タービンの流出口と前記水分貯留部との間を遮断する被水障害防止手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記ターボ過給機の要求出力と、前記水分貯留部に溜った水分の貯留量と、前記水分貯留部の温度とからなる3つのパラメータのうち、少なくとも1つのパラメータに基いて前記被水障害が発生し易い状態であるか否かを判定する判定手段を備え、
前記被水障害防止手段は、前記ウェイストゲートバルブが開弁した状態において、前記判定手段により前記被水障害が発生し易いと判定された場合に、前記ウェイストゲートバルブの閉弁を禁止し、前記被水障害が発生し難いと判定された場合に、前記閉弁を許可する構成としてなる請求項1に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−233462(P2012−233462A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104415(P2011−104415)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】