説明

内燃機関の排ガス浄化装置

【課題】還元剤の劣化の進行を抑制でき、内燃機関の燃費を向上させることができるとともに、還元剤を適切に融解させることができる内燃機関の排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】排ガス浄化装置では、内燃機関の排気通路に設けられたNOx選択還元触媒によって、供給された液体状の還元剤を用いて排ガス中のNOxが浄化される。また、凍結状態の還元剤を加熱することで融解させるために解凍制御が実行され(ステップ5、12)、解凍制御の実行中に検出された還元剤の温度TUに応じて、還元剤の劣化度合DTEGが推定される(ステップ8)とともに、推定された還元剤の劣化度合DTEGに応じて解凍制御が実行される(ステップ12)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給された液体状の還元剤を用いて排ガス中のNOxを浄化するNOx選択還元触媒を備えた内燃機関の排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の内燃機関の排ガス浄化装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この排ガス浄化装置は、内燃機関の排気通路に設けられたNOx選択還元触媒と、還元剤としての尿素水を貯える尿素水タンクと、尿素水タンクにポンプなどを介して接続された噴射弁を備えている。尿素水タンク内の尿素水は、噴射弁を介してNOx選択還元触媒に供給される。それに伴い、排ガス中のNOxは、NOx選択還元触媒により還元剤を用いて還元され、浄化される。
【0003】
また、この従来の排ガス浄化装置では、尿素水が劣化すると、NOx選択還元触媒において排ガス中のNOxを適切に還元できなくなることから、尿素水の劣化が次のようにして判定される。すなわち、尿素水の凝固点と濃度の間に相関があることに着目し、尿素水の凝固点を検出するとともに、検出された凝固点に基づいて尿素水の濃度を推定する。そして、推定された尿素水の濃度に基づいて、尿素水の劣化が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−197741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、尿素水などの還元剤は、外気温が低いときに凍結する場合があり、その場合には、還元剤をNOx選択還元触媒に供給できないことによりNOxを浄化できなくなる。このため、ヒータによる加熱により還元剤を融解させることが、一般に行われている。また、還元剤は、その劣化度合が高いほど、比熱がより大きくなるという特性を有している。このため、還元剤が劣化しているときには、上述したように還元剤を融解させるのに必要なヒータの加熱量は、より大きくなる。
【0006】
このため、例えば、還元剤が劣化している場合でも還元剤を確実に融解させるために、ヒータの加熱量を高めに設定することが考えられる。しかし、その場合において、還元剤が劣化していないときには、還元剤がヒータで過剰に加熱される結果、還元剤の劣化が促進されてしまう。それに加え、ヒータの電源であるバッテリを、内燃機関を駆動源とする発電機を用いて充電する場合には、上記のようにヒータの加熱量が高めに設定されるので、内燃機関の燃費が悪化してしまう。還元剤を融解させるには、通常、ヒータを比較的長時間、作動させる必要があるため、上記の不具合は顕著になる。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、還元剤の劣化の進行を抑制でき、内燃機関の燃費を向上させることができるとともに、還元剤を適切に融解させることができる内燃機関の排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明による内燃機関の排ガス浄化装置1は、内燃機関3の排気通路(実施形態における(以下、本項において同じ)排気管4)に設けられ、供給された液体状の還元剤を用いて排ガス中のNOxを浄化するNOx選択還元触媒(NOx触媒5)と、還元剤を貯える還元剤タンク(尿素水タンク7)と、還元剤タンク内の還元剤の温度を検出する温度検出手段(尿素水温センサ23)と、還元剤を加熱するための加熱手段(ヒータ16)と、凍結状態の還元剤を加熱することで融解させるために、加熱手段を制御する解凍制御を実行する解凍制御手段(ECU2、図2のステップ5、12)と、解凍制御の実行中に検出された還元剤の温度(尿素水温TU)に応じて、還元剤の劣化度合を推定する劣化度合推定手段(ECU2、図2のステップ8)と、解凍制御手段は、推定された還元剤の劣化度合(劣化度合パラメータDTEG)に応じて解凍制御を実行する(図2のステップ9、図6のステップ33、図2のステップ10、13)ことを特徴とする。
【0009】
この内燃機関の排ガス浄化装置によれば、排気通路に設けられたNOx選択還元触媒により、供給された還元剤を用いて、排ガス中のNOxが浄化される。また、還元剤タンク内の還元剤の温度が検出されるとともに、凍結状態の還元剤を加熱することで融解させるために、還元剤を加熱するための加熱手段を制御する解凍制御が、解凍制御手段によって実行される。また、還元剤の劣化度合が、解凍制御の実行中に検出された還元剤の温度に応じ、劣化度合推定手段によって推定される。前述したように、還元剤は、その劣化度合が高いほど、その比熱がより大きくなるという特性を有している。したがって、解凍制御により還元剤が加熱されているときに検出された還元剤の温度に応じて、還元剤の劣化度合を精度良く推定することができる。
【0010】
また、上述した構成によれば、そのように精度良く推定された還元剤の劣化度合に応じて、解凍制御が実行される。これにより、解凍制御による還元剤の加熱を、還元剤の劣化度合に応じて過不足なく行うことができるので、還元剤の劣化の進行を抑制できるとともに、還元剤を適切に融解させることができる。また、この場合、加熱手段として、電源からの電力の供給により作動するヒータを用いるとともに、この電源を、内燃機関を駆動源とする発電機を用いて充電する場合には、内燃機関の燃費を向上させることができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関の排ガス浄化装置1において、劣化度合推定手段は、解凍制御を開始してから所定時間(第1所定時間TMREF1)が経過するまでに検出された還元剤の温度に基づいて還元剤の劣化度合を推定し(図2のステップ8)、解凍制御手段は、解凍制御を開始してから所定時間が経過した後(図2のステップ6:YES)に、推定された還元剤の劣化度合に応じた解凍制御を実行する(図2のステップ9、図6のステップ33、図2のステップ10、13)ことを特徴とする。
【0012】
解凍制御は、凍結状態の還元剤を融解させるので、その完了までに比較的長い時間が必要である。上述した構成によれば、解凍制御を開始してから所定時間が経過するまでに検出された還元剤の温度に基づいて還元剤の劣化度合が推定されるとともに、推定された還元剤の劣化度合に応じた解凍制御が、所定時間が経過した後に実行される。このように、解凍制御の開始後の初期において、還元剤の劣化度合の推定を完了させるとともに、その推定結果を利用して、その後の解凍制御を実行できるので、前述した請求項1による効果、すなわち、還元剤の劣化の進行を抑制でき、還元剤を適切に融解させることができるとともに、内燃機関の燃費を向上させることができるという効果を、有効に得ることができる。
【0013】
さらに、通常、還元剤の凍結は、内燃機関の停止中に発生する。これに対して、上述した構成によれば、融解させるための解凍制御を上述したようにして行うので、内燃機関の停止時に還元剤の劣化が進行していたとしても、そのときの劣化度合を反映させながら、解凍制御を適切に行うことができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の排ガス浄化装置1において、還元剤タンクの周囲の外気温度を取得する外気温度取得手段(外気温センサ24)と、取得された外気温度(外気温TA)と還元剤の温度に応じて、外気と還元剤の間の熱交換量を算出する熱交換量算出手段(ECU2、図3のステップ26、27)と、をさらに備え、劣化度合推定手段は、還元剤の温度に加え、還元剤の劣化度合を推定しているときに算出された熱交換量に応じて、還元剤の劣化度合を推定する(図2のステップ7、8)ことを特徴とする。
【0015】
還元剤の劣化度合の推定に用いられる還元剤の温度は、加熱手段による加熱のみならず、外気との熱交換によっても変化する。上述した構成によれば、取得された還元剤タンクの周囲の外気温度と、還元剤の温度に応じ、熱交換量算出段によって、外気と還元剤の間の熱交換量(外気と還元剤の間で交換される熱量)が算出される。また、還元剤の劣化度合を、還元剤の温度に加え、劣化度合を推定しているときに算出された熱交換量に応じて推定するので、この推定をより精度良く行うことができ、ひいては、請求項1による効果をより有効に得ることができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の内燃機関の排ガス浄化装置1において、内燃機関3は車両に搭載されており、内燃機関3の負荷を表す負荷パラメータ(燃料噴射量TOUT)を取得する負荷パラメータ取得手段(ECU2、図2のステップ3)と、車両の車速を取得する車速取得手段(車速センサ26)と、をさらに備え、熱交換量算出手段は、外気温度および還元剤の温度に加え、取得された負荷パラメータおよび車速に応じて、熱交換量を算出する(図3のステップ27)ことを特徴とする。
【0017】
内燃機関の排気通路に設けられたNOx選択還元触媒に還元剤が供給される関係上、還元剤タンクの周囲の外気は、排気通路の熱によって昇温される。また、上述したように内燃機関が車両に搭載されていることから、排気通路の熱による還元剤タンクの周囲の外気の昇温度合は、車両の走行風による影響によって変化する。上述した構成によれば、外気と還元剤の間の熱交換量を、外気温度および還元剤の温度に加え、排気通路の熱と密接な相関を有する内燃機関の負荷を表す負荷パラメータと、車両の走行風と密接な相関を有する車速に応じて算出するので、この算出をより精度良く行うことができる。その結果、熱交換量に応じた還元剤の劣化度合の推定を、さらに精度良く行うことができ、ひいては、請求項1による効果をさらに有効に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態による排ガス浄化装置を、これを適用した内燃機関とともに概略的に示す図である。
【図2】図1のECUによって実行される解凍制御処理を示すフローチャートである。
【図3】解凍制御処理で実行される第1解凍制御処理のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図4】基本デューティ比を算出するためのマップの一例である。
【図5】目標温度を算出するためのマップの一例である。
【図6】解凍制御処理で実行される第2解凍制御処理のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図7】デューティ比補正項を算出するためのマップの一例である。
【図8】(a)解凍制御処理による動作例を、(b)比較例とともに示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1に示す内燃機関(以下「エンジン」という)3は、例えば車両(図示せず)に搭載されたディーゼルエンジンであり、理論空燃比よりもリーンな空燃比で混合気の燃焼が行われる。エンジン3には、エンジン回転数センサ21が設けられており、エンジン回転数センサ21は、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを検出し、その検出信号を後述するECU2に出力する。
【0020】
本実施形態による排ガス浄化装置1は、エンジン3の排気管4に設けられたNOx触媒5と、NOx触媒5に還元剤としての尿素水を供給する尿素水供給装置6を備えている。
【0021】
NOx触媒5は、尿素を還元剤とする選択還元触媒であり、排気管4内に供給された尿素水の加水分解によって生成されたNH3(アンモニア)を吸着するとともに、吸着したNH3によって、エンジン3から排出された排ガス中のNOxを還元し、浄化する。
【0022】
尿素水供給装置6は、尿素水を貯える尿素水タンク7と、尿素水タンク7から尿素水を供給するための尿素水供給管8と、供給された尿素水を排気管4内に噴射する尿素水噴射弁(以下「インジェクタ」という)9などで構成されており、車両の排気管4の付近に配置されている。
【0023】
尿素水タンク7の内部にはポンプ室10が設けられ、ポンプ室10にはポンプ11が収容されている。ポンプ11は、正逆回転が可能なモータ(図示せず)を有する電動式のものであり、モータの正回転時には、ポンプ室10内の尿素水を、吐出管12を介して圧送することによって尿素水供給管8に供給し、モータの逆回転時には、負圧を発生させることによって、尿素水を尿素水供給管8からポンプ室10内に吸い戻す。ポンプ11の動作は、ECU2からの制御信号によって制御される。
【0024】
尿素水供給管8は、車両の前後方向に延びており、一端部が吐出管12に接続されるとともに、ポンプ室10および尿素タンク7の外部に延び、他端部はインジェクタ9に接続されている。
【0025】
インジェクタ9は、開閉式の電磁弁で構成されており、排気管4のNOx触媒5よりも上流側に取り付けられ、排気管4内に臨むように設けられている。インジェクタ9は、ECU2からの駆動信号によって開弁し、それにより、尿素水タンク7から尿素水供給管8を介して供給された尿素水が、排気管4内に噴射され、NOx触媒5におけるNOxの還元・浄化に用いられる。
【0026】
ポンプ11の吐出管12には、絞り13およびリリーフ弁14を介して、戻り通路15が接続されている。リリーフ弁14は、尿素水の圧力が上昇し、所定圧に達したときに開弁することによって、尿素水を逃がし、尿素水の圧力が過大化するのを防止する。リリーフ弁14の開弁によって逃がされた尿素水は、戻り通路15を介して尿素水タンク7に戻される。
【0027】
ポンプ室10の周壁および底壁の外面と尿素水供給管8には、ヒータ16が取り付けられている。ヒータ16は、凍結状態の尿素水を加熱し、融解させるためのものであり、電熱線17を有する電気式ヒータで構成されている。ヒータ16の動作は、ECU2からの通電用の駆動信号のデューティ比HDUTYを制御することによって、制御される。また、ヒータ16の電源であるバッテリ(図示せず)は、エンジン3を駆動源とする発電機(図示せず)を用いて充電される。
【0028】
また、尿素水供給管8には尿素水圧センサ22が設けられ、ポンプ室10内には尿素水温センサ23が設けられている。尿素水圧センサ22は尿素水の圧力(以下「尿素水圧」という)PUを検出し、尿素水温センサ23は尿素水の温度(以下「尿素水温」という)TUを検出し、それらの検出信号はECU2に出力される。
【0029】
また、車両における尿素水タンク7の付近には、外気温センサ24が設けられている。外気温センサ24は、尿素水タンク7の周囲の外気温度(以下「外気温」という)TAを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0030】
ECU2にはさらに、アクセル開度センサ25から車両のアクセルペダル(図示せず)の操作量であるアクセル開度APを表す検出信号が、車速センサ26から車両の車速VPを表す検出信号が、出力される。
【0031】
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェースなどから成るマイクロコンピュータ(いずれも図示せず)で構成されている。前述した各種のセンサ21〜26の検出信号は、I/OインターフェースでA/D変換や整形がなされた後、CPUに入力される。
【0032】
ECU2は、これらの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、インジェクタ9、ポンプ11およびヒータ16を制御する。具体的には、エンジン3の運転中は、ポンプ11を正回転方向に駆動することによって、ポンプ室10から尿素水供給管8に尿素水を供給するとともに、検出された尿素水圧PUをその目標値に維持しながら、インジェクタ9の開弁時間を制御することによって、排気管4への尿素水の供給量を制御する尿素水の供給制御を実行する。
【0033】
また、エンジン3の停止時には、ポンプ11を逆回転方向に駆動することによって、尿素水供給管8から尿素タンク7に尿素水を吸い戻す吸い戻し制御を実行する。さらに、エンジン3の始動時、凍結状態の尿素水を融解させるための解凍制御処理を実行する。
【0034】
図2は、この解凍制御処理を示している。本処理の概要について説明すると、まず、第1解凍制御処理を後述する第1所定時間TMREF1にわたって実行する(ステップ5)ことによって、凍結状態の尿素水をヒータ16により加熱する。また、第1解凍制御処理の実行中に検出された尿素水温TUに基づいて、尿素水の劣化度合を推定する(ステップ8)。次いで、第2解凍制御処理を実行する(ステップ12)ことにより、推定された尿素水の劣化度合に基づいてヒータ16を制御することで、尿素水をさらに加熱する。
【0035】
解凍制御処理は、所定時間(例えば100msec)ごとに繰り返し実行される。まず、図2のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、解凍制御完了フラグF_THAWDONEが「1」であるか否かを判別する。この解凍制御完了フラグF_THAWDONEは、第1および第2解凍制御処理が完了したときに「1」に設定されるものであり、エンジン3の始動時に「0」にリセットされる。
【0036】
このステップ1の答がNO(F_THAWDONE=0)のときには、尿素水が凍結状態にあるか否かを判定する(ステップ2)。このステップ2では、検出された外気温TAが所定温度(例えば−20℃)よりも低いときに、尿素水が凍結状態にあると判定される。ステップ2の答がNOで、尿素水が凍結状態にないときには、ヒータ16により尿素水を加熱することなく、そのまま本処理を終了する。
【0037】
一方、ステップ2の答がYESで、尿素水が凍結状態にあるときには、エンジン3の燃料噴射量TOUTを読み込む(ステップ3)。燃料噴射量TOUTは、エンジン3に要求される要求トルクTREQなどに応じてECU2により算出される。また、要求トルクTREQは、検出されたエンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。
【0038】
次いで、劣化度合推定済みフラグF_DONE2が「1」であるか否かを判別する(ステップ4)。この劣化度合推定済みフラグF_DONE2は、尿素水の劣化度合の推定が完了したときに「1」に設定されるものであり、エンジン3の始動時に「0」にリセットされる。このステップ4の答がNO(F_DONE2=0)のときには、第1解凍制御処理を実行する(ステップ5)。
【0039】
図3は、この第1解凍制御処理を示している。まず、ステップ21では、ヒータ16への通電用の駆動信号のデューティ比HDUTYを所定値HDREFに設定し、ヒータ16を作動させる。この所定値HDREFは、尿素水が劣化していることにより前述したように比熱が大きい場合でも、尿素水を十分に加熱することで尿素水温TUを確実に上昇させるために、例えば100%に設定されている。次いで、設定済みフラグF_DONE1が「1」であるか否かを判別する(ステップ22)。この設定済みフラグF_DONE1の詳細については後述する。
【0040】
このステップ22の答がNO(F_DONE1=0)のときには、そのときに検出された尿素水温TUを劣化度合推定用温度TU0として設定し(ステップ23)、記憶するとともに、アップカウント式の第1タイマのタイマ値tM1を値0にリセットする。次いで、劣化度合推定用温度TU0の設定とタイマ値tM1のリセットが完了したとして、そのことを表すために、設定済みフラグF_DONE1を「1」に設定し(ステップ25)、ステップ26に進む。
【0041】
また、このステップ25の実行によって、上記ステップ22の答がYESになり、その場合には、ステップ23〜25をスキップし、ステップ26に進む。なお、設定済みフラグF_DONE1は、エンジン3の始動時に「0」にリセットされる。
【0042】
以上のように、第1タイマのタイマ値tM1は、本処理が開始された時点で値0にリセットされ、その後、本処理が実行されるのに伴って、アップカウントされる。したがって、タイマ値tM1は、本処理によりヒータ16が作動を開始してからの経過時間を表す。また、劣化度合推定用温度TU0は、本処理の開始時における尿素水温TUである。
【0043】
このステップ26では、外気温TAおよび尿素水温TUに応じて、第1熱交換量積算値QHES1を算出する。この第1熱交換量積算値QHES1は、本処理(第1解凍制御処理)が開始されてから今回までにおいて、尿素水タンク7の周囲の外気と尿素水との間で熱交換された熱量(熱交換量)の積算値に相当する。具体的には、第1熱交換量積算値QHES1は、次のようにして算出される。
【0044】
すなわち、まず、尿素水温TUと外気温TAとの偏差に基づき、所定の演算式を用いて、前回から今回までにおける外気と尿素水との間の第1熱交換量を算出する。この場合、第1熱交換量は、外気温TAが尿素水温TUよりも高く、外気から尿素水に熱量が与えられている場合には正値になり、これとは逆に、尿素水温TUが外気温TAよりも低く、尿素水から外気に熱量が与えられている場合には負値になる。次いで、算出された今回の第1熱交換量を、そのときに得られている第1熱交換量積算値QHES1に加算することによって、第1熱交換量積算値QHES1の今回値を算出する。なお、第1熱交換量積算値QHES1は、エンジン3の始動時に値0にリセットされる。
【0045】
ステップ26に続くステップ27では、図2のステップ3で読み込まれた燃料噴射量TOUTおよび検出された車速VPに応じて、第1負荷熱量積算値IRL1を算出する。この第1負荷熱量積算値IRL1は、本処理が開始されてから今回までにおいて、排気管4から外気を介して尿素水に与えられた熱量の積算値に相当する。具体的には、第1負荷熱量積算値IRL1は、次のようにして算出される。
【0046】
すなわち、まず、燃料噴射量TOUTおよび検出された車速VPに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、前回から今回までに排気管4から外気を介して尿素水に与えられた熱量(以下「第1負荷熱量」という)を算出する。次いで、算出された第1負荷熱量を、そのときに得られている第1負荷熱量積算値IRL1に加算することによって、第1負荷熱量積算値IRL1の今回値を算出する。上記のマップでは、負荷熱量は、燃料噴射量TOUTが大きいほど、また、車速VPが低いほど、より大きな値に設定されている。これは、燃料噴射量TOUTが大きいほど、すなわち、エンジン3の負荷が高いほど、排ガスの流量が大きく、排気管4の熱がより高いためである。また、車速VPが低いほど、車両の走行風の風量が小さいことによって、排気管4の熱が尿素水タンク7の付近に滞留しやすいためである。なお、第1負荷熱量積算値IRL1は、エンジン3の始動時に値0にリセットされる。
【0047】
ステップ27に続くステップ28では、ステップ21で設定されたデューティ比HDUTYに応じて、第1ヒータ加熱量積算値IW1を算出し、本処理を終了する。この第1ヒータ加熱量積算値IW1は、本処理が開始されてから今回までにおける、ヒータ16による尿素水の加熱量の積算値に相当する。具体的には、第1ヒータ加熱量積算値IW1は、次のようにして算出される。
【0048】
すなわち、まず、デューティ比HDUTYに基づき、所定の演算式を用いて、前回から今回までにおけるヒータ16による尿素水の加熱量(以下「第1ヒータ加熱量」という)を算出する。次いで、算出された第1ヒータ加熱量を、そのときに得られている第1ヒータ加熱量積算値IW1に加算することによって、第1ヒータ加熱量積算値IW1の今回値を算出する。なお、第1ヒータ加熱量積算値IW1は、エンジン3の始動時に値0にリセットされる。
【0049】
図2に戻り、前記ステップ5に続くステップ6では、図3のステップ24で値0にリセットされた第1タイマのタイマ値tM1が第1所定時間TMREF1と等しいか否かを判別する。この答がNOのときにはそのまま本処理を終了する一方、YESで、タイマ値tM1が第1所定時間TMREF1と等しくなったとき、すなわち、ステップ21によるヒータ16の加熱が第1所定時間TMREF1にわたって実行されたときには、第1解凍制御処理が完了したとして、続くステップ7および8において、尿素水の劣化度合を推定する。この第1所定時間TMREF1は、第1解凍制御処理でのヒータ16による尿素水の加熱により尿素水温TUが十分に上昇するような時間、例えば7分に設定されている。
【0050】
このステップ7では、図3のステップ26〜28でそれぞれ算出された第1熱交換量積算値QHES1、第1負荷熱量積算値IRL1および第1ヒータ加熱量積算値IW1の総和を、第1総加熱量QP1として算出する。この第1総加熱量QP1は、その算出手法から明らかなように、第1解凍制御処理の開始から完了までにヒータ16や、外気、排気管4から尿素水に与えられた熱量の総量である。
【0051】
次いで、ステップ8では、図3のステップ23で設定された劣化度合推定用温度TU0と、ステップ7で算出された第1総加熱量QP1を用い、次式(1)によって、尿素水の劣化度合を表す劣化度合パラメータDTEGを算出する。
DTEG=(TU−TU0)/QP1 ……(1)
【0052】
ここで、劣化度合推定用温度TU0は、前述したように第1解凍制御処理の開始時における尿素水温TUである。したがって、上記式(1)の右辺における(TU−TU0)は、第1解凍制御処理の開始から完了までにおける尿素水温TUの上昇量を表す。また、第1総加熱量QP1は、その算出手法から明らかなように、第1解凍制御処理の開始から完了までにおいてヒータ16や、外気、排気管4から尿素水に与えられた熱量の総量に相当する。以上から、この項(TU−TU0)を第1総加熱量QP1で除算することによって算出された劣化度合パラメータDTEGは、第1解凍制御処理の開始から完了までにおいて尿素水に与えられた熱量の総量に対する尿素水温TUの上昇度合を表す。
【0053】
前述したように、尿素水の劣化度合が高いほど、その比熱がより大きくなるので、尿素水に与えられた同じ大きさの熱量に対して尿素水温TUの上昇度合は、より低くなる。このことから、上述した式(1)で算出された劣化度合パラメータDTEGは、尿素水の劣化度合が高いほど、より小さくなるとともに、尿素水の劣化度合を良好に表す。
【0054】
ステップ8に続くステップ9では、算出された劣化度合パラメータDTEGに基づき、図4に示すマップを検索することによって、基本デューティ比HDBASEを算出する。この基本デューティ比HDBASEは、後述する第2解凍制御処理においてヒータ16のデューティ比HDUTYの基本値として用いられるものであり、このマップでは、劣化度合パラメータDTEGが小さいほど、すなわち尿素水の劣化度合が高いほど、より大きな値に設定されている。これは、尿素水の劣化度合が高いほど、その比熱がより大きくなるため、それに応じてヒータ16で尿素水を過不足なく加熱し、尿素水を適切に融解させるためである。
【0055】
次いで、劣化度合パラメータDTEGに基づき、図5に示すマップを検索することによって、目標尿素水温TUEを算出する(ステップ10)。この目標尿素水温TUEは、第2解凍制御処理において、尿素水温TUの目標値として用いられるものであり、尿素水の融解点よりも若干高い温度に設定されている。また、このマップでは、目標尿素水温TUEは、劣化度合パラメータDTEGが大きいほど、すなわち尿素水の劣化度合が低いほど、より大きな値に設定されている。これは、尿素水の劣化度合が低いほど、その融解点が高くなるため、それに応じてヒータ16で尿素水を過不足なく加熱し、尿素水を適切に融解させるためである。
【0056】
次に、尿素水の劣化度合の推定が完了したことを表すために、劣化度合推定済みフラグF_DONE2を「1」にセットし(ステップ11)、ステップ12に進む。このステップ11の実行により前記ステップ4の答がYES(F_DONE2=1)になり、その場合には、前記ステップ5〜11をスキップし、第1解凍制御処理や劣化度合パラメータDTEGの算出を行わずに、ステップ12に進む。
【0057】
このステップ12では、第2解凍制御処理を実行する。図6は、この第2解凍制御処理を示している。本処理では、図2のステップ9において劣化度合パラメータDTEGを用いて算出された基本デューティ比HDBASEに基づいて、ヒータ16を制御し、それにより、尿素水が加熱される。まず、図6のステップ31では、劣化度合推定済みフラグの前回値F_DONE2Zが「0」であるか否かを判別する。この答がYESのとき、すなわち、今回が、劣化度合パラメータDTEGの算出が完了した直後のループであり、第2解凍制御処理の開始直後のループであるときには、デューティ比補正項αを値0に設定する(ステップ32)。
【0058】
次いで、図2のステップ9で算出された基本デューティ比HDBASEに、デューティ比補正項αを加算することによって、デューティ比HDUTYを算出し(ステップ33)、本処理を終了する。以上のように、第2解凍制御処理の開始直後には、基本デューティ比HDBASEに設定されたデューティ比HDUTYを用いて、ヒータ16による尿素水の加熱が行われる。
【0059】
一方、前記ステップ31の答がNO(F_DONE2Z=1)で、第2解凍制御処理の開始直後でないときには、続くステップ34以降において、ヒータ16による尿素水の昇温が適切に行われているか否かを判定するとともに、その判定結果に基づいて、デューティ比補正項αを算出し、更新する。このデューティ比補正項αの算出・更新は、後述する第2所定時間TMREF2ごとに行われる。
【0060】
まず、ステップ34において、リセット済みフラグF_DONE3が「1」であるか否かを判別する。このリセット済みフラグF_DONE3の詳細については後述する。この答がNO(F_DONE3=0)のときには、そのときに検出された尿素水温TUを昇温度合推定用温度TUXとして設定する(ステップ35)。次いで、アップカウント式の第2タイマのタイマ値tM2、第2熱交換量積算値QHES2、第2負荷熱量積算値IRL2および第2ヒータ加熱量積算値IW2を値0にリセットする(ステップ36)。
【0061】
次に、昇温度合推定用温度TUXの設定とタイマ値tM2などのリセットが完了したとして、そのことを表すために、リセット済みフラグF_DONE3を「1」に設定し(ステップ37)、ステップ38に進む。このステップ37の実行によって、上記ステップ34の答がYESになり、その場合には、ステップ35〜37をスキップし、ステップ38に進む。なお、リセット済みフラグF_DONE3は、エンジン3の始動時に「0」にリセットされる。
【0062】
このステップ38では、外気温TAおよび尿素水温TUに応じて、第2熱交換量積算値QHES2を算出する。この第2熱交換量積算値QHES2は、ステップ36による各種のパラメータのリセット(以下「リセット処理」という)が行われてから今回までにおいて、尿素タンク7の周囲の外気と尿素水との間で熱交換された熱量(熱交換量)の積算値に相当する。第2熱交換量積算値QHES2の算出手法は、図3のステップ26における第1熱交換量積算値QHES1のそれと同様であるので、その詳細な説明については省略する。
【0063】
次いで、燃料噴射量TOUTおよび車速VPに応じて、第2負荷熱量積算値IRL2を算出する(ステップ39)。この第2負荷熱量積算値IRL2は、リセット処理が行われてから今回までにおいて、排気管4から外気を介して尿素水に与えられた熱量の積算値に相当する。第2負荷熱量積算値IRL2の算出手法は、図3のステップ27における第1負荷熱量積算値IRL1のそれと同様であるので、その詳細な説明については省略する。
【0064】
次に、そのときに得られているデューティ比HDUTYに応じて、第2ヒータ加熱量積算値IW2を算出する(ステップ40)。この第2ヒータ加熱量積算値IW2は、リセット処理が行われてから今回までにおける、ヒータ16による尿素水の加熱量の積算値に相当する。第2ヒータ加熱量積算値IW2の算出手法は、図3のステップ28における第1ヒータ加熱量積算値IW1のそれと同様であるので、その詳細な説明については省略する。
【0065】
次いで、ステップ36で値0にリセットされた第2タイマのタイマ値tM2が第2所定時間TMREF2(例えば1分)と等しいか否かを判別する(ステップ41)。この答がNO(tM2≠TMREF2)のときには、前記ステップ33を実行し、そのときに得られているデューティ比補正項αを基本デューティ比HDBASEに加算することによって、デューティ比HDUTYを算出し、本処理を終了する。
【0066】
一方、上記ステップ41の答がYESになったとき、すなわち、ステップ36によるリセット処理後、第2所定時間TMREF2が経過したときには、続くステップ42以降において、デューティ比補正項αを算出するとともに、更新する。まず、ステップ42では、ステップ38〜40でそれぞれ算出された第2熱交換量積算値QHES2、第2負荷熱量積算値IRL2および第2ヒータ加熱量積算値IW2の総和を、第2総加熱量QP2として算出する。この第2総加熱量QP2は、その算出手法から明らかなように、リセット処理が実行されてから第2所定時間TMREF2が経過するまでにヒータ16や、外気、排気管4から尿素水に与えられた熱量の総量である。
【0067】
次いで、前記ステップ35で設定された昇温度合推定用温度TUXと、ステップ42で算出された第2総加熱量QP2を用い、次式(2)によって、昇温度合パラメータTUGを算出する。
TUG=(TU−TUX)/QP2 ……(2)
【0068】
ここで、昇温度合推定用温度TUXは、ステップ36による各種のパラメータのリセット処理が実行されたときに検出された尿素水温TUである。したがって、上記式(2)の右辺における(TU−TUX)は、リセット処理が実行されてから第2所定時間TMREF2が経過するまでにおける尿素水温TUの上昇量を表す。また、第2加熱量QP2は、その算出手法から明らかなように、リセット処理が実行されてから第2所定時間TMREF2が経過するまでにおいてヒータ16や、外気、排気管4から尿素水に与えられた熱量の総量に相当する。以上から、この項(TU−TUX)を第2加熱量QP2で除算することによって算出された昇温度合パラメータTUGは、リセット処理が実行されてから第2所定時間TMREF2が経過するまでにおいて尿素水に与えられた熱量の総量に対する尿素水温TUの上昇度合を表し、この上昇度合が高いほど、より大きな値になる。
【0069】
ステップ43に続くステップ44では、算出された昇温度合パラメータTUGに基づき、図7に示すマップを検索することによって、デューティ比補正項αを算出し、更新する。このマップでは、デューティ比補正項αは、昇温度合パラメータTUGが所定値TUGREFのときには、値0に設定されている。また、デューティ比補正項αは、TUG<TUGREFのときには、昇温度合パラメータTUGが小さいほど、より大きな正値に設定されており、TUG>TUGREFのときには、昇温度合パラメータTUGが大きいほど、絶対値がより大きな負値に設定されている。
【0070】
上記の所定値TUGREFは、ヒータ16による尿素水の所望の昇温度合が得られていることを表すものである。また、デューティ比補正項αは、前述したように基本デューティ比HDBASEに加算される。上述したように、TUG<TUGREFのときには、昇温度合パラメータTUGが小さいほど、すなわち、尿素水の昇温度合が所望の昇温度合に対して低すぎるほど、デューティ比補正項αがより大きな正値に設定され、それにより、デューティ比HDUTYはより大きな値に算出される。一方、TUG>TUGREFのときには、昇温度合パラメータTUGが大きいほど、すなわち、尿素水の昇温度合が所望の昇温度合に対して高すぎるほど、デューティ比補正項αが、絶対値がより大きな負値に設定され、それにより、デューティ比HDUTYはより小さな値に算出される。以上により、尿素水の所望の昇温度合を得ることができる。
【0071】
ステップ44に続くステップ45では、デューティ比補正項αの算出・更新が終了したため、再度、この算出・更新を実行するために、リセット済みフラグF_DONE3を「0」にリセットし(ステップ45)、前記ステップ33を実行することによってデューティ比HDUTYを算出し、本処理を終了する。
【0072】
このステップ45の実行によって、前記ステップ34の答がNOになる結果、再度、第2タイマ値tM2や第2熱交換量積算値QHES2などのリセット処理が行われ、ひいては、デューティ比補正項αの算出・更新が行われる。以上のように、デューティ比補正項αの算出・更新は、第2所定時間TMREF2ごとに繰り返し実行される。
【0073】
図2に戻り、前記ステップ12に続くステップ13では、尿素水温TUが前記ステップ10で算出された目標尿素水温TUE以上であるか否かを判別する。この答がNOのときには、そのまま本処理を終了する。一方、ステップ13の答がYESになり、尿素水温TUが目標尿素水温TUEに達したときには、尿素水が融解したとして、デューティ比HDUTYを値0に設定し(ステップ14)、それによりヒータ16を停止する。次いで、第1および第2解凍制御処理が完了したとして、そのことを表すために、解凍制御完了フラグF_THAWDONEを「1」に設定し(ステップ15)、本処理を終了する。
【0074】
このステップ15の実行によって、前記ステップ1の答がYES(F_THAWDONE=1)になり、その場合には、そのまま本処理を終了する。また、解凍制御完了フラグF_THAWDONEは、前述したようにエンジン3の始動時に「0」にリセットされる。以上の解凍制御処理の実行内容から明らかなように、第1および第2解凍制御処理は、エンジン3の始動後、尿素水が凍結状態にある場合(ステップ2:YES)に実行され、尿素水温TUが目標尿素水温TUEに達することによって終了されると、その後、エンジン3が停止され、再始動されるまでは、実行されない。
【0075】
なお、尿素水タンク7を含む尿素水供給装置6は、前述したように車両の排気管4の付近に配置されている。このため、尿素水は、第1および第2解凍制御処理により融解されると、その後、エンジン3を運転している限り、排気管4の熱で加熱されるので、再凍結することはない。また、解凍制御処理では、一旦、前記ステップ2により尿素水が凍結状態にあると判定され、第1解凍制御処理が開始された後には、たとえ外気温TAが前述した所定温度以上になっても、第2解凍制御処理が完了するまで、ステップ2の答はYESに保持される。これにより、第1および第2解凍制御処理が途中で終了されることはない。
【0076】
次に、図8を参照しながら、上述した解凍制御処理の動作例(図8(a))および比較例(図8(b))を説明する。図8(b)に示す比較例は、解凍制御処理と異なり、尿素水が劣化していることにより比熱が大きい場合でも尿素水を確実に融解させるために、常に、デューティ比HDUTYを前述した所定値HDREF(100%)に保持するとともに、ヒータ16への通電時間を固定値に設定した場合の動作例である。図8(a)および図8(b)はいずれも、尿素水が劣化していない新品の場合について示している。
【0077】
図8(a)に示すように、解凍制御処理の開始(時点t0)に伴い、第1解凍制御処理が実行されることによって、尿素水温TUは上昇する。また、第1解凍制御処理の開始時における尿素水温TUが劣化度合推定用温度TU0として記憶される(図3のステップ23)。そして、この第1解凍制御処理の開始から第1所定時間TMREF1が経過したとき(時点t1、図2のステップ6:YES)に、そのときに検出された尿素水温TUと劣化度合推定用温度TU0との偏差に基づいて、尿素水の劣化度合を表す劣化度合パラメータDTEGが算出され(ステップ8)、第1解凍制御処理が終了されるとともに、第2解凍制御処理が開始される(ステップ12)。
【0078】
この第2解凍制御処理の実行中、劣化度合パラメータDTEGに基づいて算出された基本デューティ比HDBASEを、尿素水の所望の昇温度合が得られるようにデューティ比補正項αを用いて補正することによって、デューティ比HDUTYが算出される(図6のステップ44、33)。図8(a)に示す動作例では、尿素水が新品であり、その比熱が劣化している場合よりも小さいので、デューティ比HDUTYは、所定値HDREFよりも小さな値に設定され、それにより、ヒータ16による電力消費が低減される。また、上述したデューティ比HDUTYの算出によって、尿素水温TUが所望の昇温度合で徐々に上昇する。
【0079】
さらに、目標尿素水温TUEが、劣化度合パラメータDTEGに基づいて、尿素水の融解点とほぼ等しい温度に算出される(図2のステップ10)。そして、尿素水温TUが算出された目標尿素水温TUEに達したとき(時点t2、ステップ13:YES)に、第2解凍制御処理が完了したとして(ステップ15)、ヒータ16による尿素水の加熱が停止される(ステップ14)。
【0080】
これに対して、図8(b)に示す比較例では、尿素水が劣化していることにより比熱が大きい場合でも尿素水を確実に融解させるために、デューティ比HDUTYが大きな所定値HDREFに保持されるとともに、ヒータ16への通電時間が固定値に設定される。これにより、新品である尿素水の尿素水温TUは、尿素水の融解点とほぼ等しい目標尿素水温TUEを超えて大きく上昇する。以上のように、比較例では、ヒータ16による尿素水の加熱が過剰に行われ、その結果、尿素水の劣化が促進されてしまう。この場合、ヒータ16の電源であるバッテリがエンジン3を駆動源とする発電機を用いて充電されるので、エンジン3の燃費が悪化してしまう。
【0081】
また、本実施形態による各種の要素と本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、本実施形態における排気管4、NOx触媒5および尿素水タンク7が、本発明における排気通路、NOx選択還元触媒および還元剤タンクにそれぞれ相当するとともに、本実施形態における尿素水温センサ23およびヒータ16が、本発明における温度検出手段および加熱手段にそれぞれ相当する。また、本実施形態におけるECU2が、本発明における解凍制御手段、劣化度合推定手段、熱交換量算出手段および負荷パラメータ取得手段に相当するとともに、本実施形態における外気温センサ24および車速センサ26が、本発明における外気温度取得手段および車速取得手段にそれぞれ相当する。
【0082】
さらに、本実施形態における尿素水温TU、劣化度合パラメータDTEGおよび第1所定時間TMREF1が、本発明における還元剤の温度、還元剤の劣化度合および所定時間にそれぞれ相当する。また、本実施形態における第1熱交換量積算値QHES1および第1負荷熱量積算値IRL1が、本発明における外気と還元剤の間の熱交換量に相当するとともに、本実施形態における燃料噴射量TOUTが、本発明における負荷パラメータに相当する。
【0083】
以上のように、本実施形態によれば、凍結状態の尿素水を加熱することで融解させるために、解凍制御処理が実行される。また、この解凍制御処理の実行中、第1および第2解凍制御処理が順に実行されるとともに、第1解凍制御処理の実行中に検出された尿素水温TUに応じて、尿素水の劣化度合を表す劣化度合パラメータDTEGが算出される。したがって、第1解凍制御処理により尿素水が加熱されているときに検出された尿素水温TUに応じて、尿素水の劣化度合を精度良く推定することができる。また、そのように精度良く推定された尿素水の劣化度合パラメータDTEGに応じて、第2解凍制御処理が実行される。したがって、第2解凍制御処理による尿素水の加熱を、尿素水の劣化度合に応じて過不足なく行うことができるので、尿素水の劣化の進行を抑制でき、尿素水を適切に融解させることができるとともに、エンジン3の燃費を向上させることができる。
【0084】
また、解凍制御処理は、凍結状態の尿素水を融解させるので、その完了までに比較的長い時間が必要である。本実施形態によれば、第1解凍制御処理を開始してから第1所定時間TMREF1が経過したときに検出された尿素水温TUに基づいて劣化度合パラメータDTEGが算出される。そして、算出された劣化度合パラメータDTEGに応じた第2解凍制御処理が、第1解凍制御処理の開始から第1所定時間TMREF1が経過した後に実行される。このように、解凍制御処理の開始後の初期において、劣化度合パラメータDTEGの算出を完了させるとともに、算出された劣化度合パラメータDTEGを用いて、その後の第2解凍制御処理を実行できるので、上述した本実施形態による効果、すなわち、尿素水の劣化の進行を抑制でき、尿素水を適切に融解させることができるとともに、エンジン3の燃費を向上させることができるという効果を、有効に得ることができる。
【0085】
また、通常、尿素水の凍結は、エンジン3の停止中に発生する。これに対して、本実施形態によれば、解凍制御処理を前述したようにして行うので、エンジン3の停止時に尿素水の劣化が進行していたとしても、そのときの劣化度合を反映させながら、第2解凍制御処理を適切に行うことができる。
【0086】
さらに、劣化度合パラメータDTEGが、第1解凍制御処理の実行中における尿素水温TUに基づいて算出される。また、第1解凍制御処理の実行中における外気と尿素水の間の熱交換量の積算値である第1熱交換量積算値QHES1が、検出された外気温TAと尿素水温TUに応じて算出されるとともに、劣化度合パラメータDTEGが、尿素水温TUに加え、算出された第1熱交換量積算値QHES1に応じて算出される。したがって、劣化度合パラメータDTEGを、より精度良く算出することができ、ひいては、本実施形態による効果をより有効に得ることができる。
【0087】
さらに、エンジン3の負荷を表す燃料噴射量TOUTと車速VPに応じて、第1解凍制御処理の実行中に排気管4から外気を介して尿素水に与えられた熱量の積算値である第1負荷熱量積算値IRL1が算出されるとともに、劣化度合パラメータDTEGが、尿素水温TUおよび第1熱交換量積算値QHES1に加え、算出された第1負荷熱量積算値IRL1に応じて算出される。したがって、劣化度合パラメータDTEGを、さらに精度良く算出することができ、ひいては、本実施形態による効果をさらに有効に得ることができる。
【0088】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、尿素水温TUを、ポンプ室10内に設けられた尿素水温センサ23によって検出しているが、尿素水供給管8内に設けられた温度センサによって検出してもよい。また、実施形態では、ヒータ16を、ポンプ室10の周壁および底壁の外面に設けているが、これに代えて、またはこれとともに、尿素水タンク7の周壁および底壁の外面に設けてもよい。さらに、実施形態では、尿素水を加熱するための加熱手段として、熱線式のヒータ16を用いているが、これに限らず、例えば内燃機関の冷却水を利用したものでもよい。
【0089】
また、実施形態では、劣化度合パラメータDTEGを算出するためのパラメータとして、解凍制御処理(第1解凍制御処理)の開始時から第1所定時間TMREF1が経過したときに検出された尿素水温TU(以下「第1所定時間経時温度」という)と、当該開始時における尿素水温TUである劣化度合推定用温度TU0との偏差(TU−TU0)を用いているが、解凍制御処理の開始時から第1所定時間TMREF1が経過するまでにおける尿素水温TUの上昇量を表すパラメータであれば、これに限らず、他の適当なパラメータを用いてもよい。例えば、第1所定時間経過時温度と劣化度合推定用温度TU0との比(第1所定時間経過時温度/TU0)を用いてもよい。あるいは、第1所定時間経過時温度および劣化度合推定用温度TU0に代えて、解凍制御処理の開始時から第1所定時間TMREF1が経過するまでにおける互いに異なる2つのタイミングでそれぞれ検出された2つの尿素水温TUの間の偏差または比を用いてもよい。
【0090】
さらに、実施形態では、第1所定時間TMREF1を、第1解凍制御処理でのヒータ16による尿素水の加熱により尿素水温TUが十分に上昇するような一定時間に設定しているが、解凍制御処理(第1解凍制御処理)の開始時における外気温TAに応じて設定してもよい。具体的には、外気温TAが低いことにより尿素水が完全に凍結しているときには、ヒータ16で尿素水を加熱しても、尿素水温TUが上昇しにくく、それにより劣化度合パラメータDTEGを適切に算出することができないおそれがあるため、第1所定時間TMREF1を、外気温TAが低いほど、より長い時間に設定してもよい。この場合、第1所定時間TMREF1の設定に用いるパラメータは、尿素水の凍結状態を表すパラメータであれば、外気温TAに限らず、尿素水温TUでもよい。
【0091】
また、実施形態では、外気温TAを、外気温センサ24によって検出しているが、エンジン3に吸入される吸気の温度をセンサで検出するとともに、検出された吸気の温度に応じて算出(推定)してもよい。さらに、実施形態では、エンジン3の負荷を表す負荷パラメータとして、燃料噴射量TOUTを用いているが、これに限らず、要求トルクTREQや、アクセル開度APなどを用いてもよい。また、実施形態では、車速VPを、車速センサ26によって検出しているが、これに限らず、エンジン回転数NEに応じて算出(推定)してもよい。
【0092】
さらに、実施形態では、劣化度合パラメータDTEGを、第1熱交換量積算値QHES1、第1負荷熱量積算値IRL1および第1ヒータ加熱量積算値IW1に応じて算出しているが、これらの1つまたは2つに応じて算出してもよい。また、実施形態では、エンジン3の始動後、エンジン3が停止され再始動されるまでの間、第1および第2解凍制御処理を1回のみ実行しているが、例えば、外気温TAが非常に低いことにより、エンジン3の運転中に尿素水が再凍結するような場合には、それに応じて第2解凍制御処理のみを複数回、実行してもよい。
【0093】
さらに、実施形態では、第1解凍制御処理および劣化度合パラメータDTEGの算出を、エンジン3の始動に伴って尿素水が凍結状態にあると判定されるごとに行っているが、尿素水が凍結状態にあると判定された回数が複数の所定回数に達するごとに行うとともに、それまでの間は、そのときに得られている劣化度合パラメータDTEGに応じた第2解凍制御処理のみを実行してもよい。あるいは、今回の解凍制御処理において、第1解凍制御処理のみを第1所定時間TMREF1よりも長い所定時間にわたって実行し、実施形態と同様にして劣化度合パラメータDTEGを算出するとともに、次回の解凍制御処理において、前回の解凍制御処理で算出された劣化度合パラメータDTEGに応じた第2解凍制御処理のみを実行してもよい。
【0094】
また、実施形態では、NOxを浄化するための液体状の還元剤として、尿素水を用いているが、これに限らず、例えばアンモニア水やエンジン3の燃料を用いてもよい。さらに、実施形態は、車両に搭載されたディーゼルエンジンであるエンジン3に、本発明を適用した例であるが、本発明は、これに限らず、リーンバーン運転を行うガソリンエンジンなどの各種のエンジンに適用してもよく、また、車両用以外のエンジン、例えば、クランク軸が鉛直方向に配置された船外機などのような船舶推進器用エンジンにも適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 排ガス浄化装置
2 ECU(解凍制御手段、劣化度合推定手段、熱交換量算出手段、負荷パラ メータ取得手段)
3 エンジン
4 排気管(排気通路)
5 NOx触媒(NOx選択還元触媒)
7 尿素水タンク(還元剤タンク)
16 ヒータ(加熱手段)
23 尿素水温センサ(温度検出手段)
24 外気温センサ(外気温度取得手段)
26 車速センサ(車速取得手段)
TU 尿素水温(還元剤の温度)
TMREF1 第1所定時間(所定時間)
DTEG 劣化度合パラメータ(還元剤の劣化度合)
TA 外気温
QHES1 第1熱交換量積算値(外気と還元剤の間の熱交換量)
IRL1 第1負荷熱量積算値(外気と還元剤の間の熱交換量)
TOUT 燃料噴射量(負荷パラメータ)
VP 車速

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、供給された液体状の還元剤を用いて排ガス中のNOxを浄化するNOx選択還元触媒と、
前記還元剤を貯える還元剤タンクと、
当該還元剤タンク内の還元剤の温度を検出する温度検出手段と、
前記還元剤を加熱するための加熱手段と、
凍結状態の前記還元剤を加熱することで融解させるために、前記加熱手段を制御する解凍制御を実行する解凍制御手段と、
前記解凍制御の実行中に検出された前記還元剤の温度に応じて、前記還元剤の劣化度合を推定する劣化度合推定手段と、
前記解凍制御手段は、前記推定された前記還元剤の劣化度合に応じて前記解凍制御を実行することを特徴とする内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記劣化度合推定手段は、前記解凍制御を開始してから所定時間が経過するまでに検出された前記還元剤の温度に基づいて前記還元剤の劣化度合を推定し、
前記解凍制御手段は、前記解凍制御を開始してから前記所定時間が経過した後に、前記推定された前記還元剤の劣化度合に応じた前記解凍制御を実行することを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記還元剤タンクの周囲の外気温度を取得する外気温度取得手段と、
当該取得された外気温度と前記還元剤の温度に応じて、外気と前記還元剤の間の熱交換量を算出する熱交換量算出手段と、をさらに備え、
前記劣化度合推定手段は、前記還元剤の温度に加え、前記還元剤の劣化度合を推定しているときに算出された熱交換量に応じて、前記還元剤の劣化度合を推定することを特徴とする、請求項1または2に記載の内燃機関の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記内燃機関は車両に搭載されており、
前記内燃機関の負荷を表す負荷パラメータを取得する負荷パラメータ取得手段と、
前記車両の車速を取得する車速取得手段と、をさらに備え、
前記熱交換量算出手段は、前記外気温度および前記還元剤の温度に加え、前記取得された負荷パラメータおよび車速に応じて、前記熱交換量を算出することを特徴とする、請求項3に記載の内燃機関の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−215152(P2012−215152A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81908(P2011−81908)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】