説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】触媒金属としてFeを含むNOx浄化触媒の酸素被毒に起因するNOx浄化性能の低下を抑制することができる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の排気通路内に配置され、AuとFeを触媒担体に担持してなるNOx浄化触媒であって、AuとFeの少なくとも一部が互いに近接した状態で存在しているNOx浄化触媒と、前記NOx浄化触媒の温度を検出するための触媒温度検出手段と、前記NOx浄化触媒を加熱するための触媒加熱手段と、前記NOx浄化触媒が所定の酸素被毒を受けたことを検出するための酸素被毒検出手段とを備え、前記酸素被毒検出手段により前記NOx浄化触媒が所定の酸素被毒を受けたことを検出した場合に、前記触媒加熱手段により前記NOx浄化触媒を600℃以上に加熱するようにした内燃機関の排気浄化装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の酸化と窒素酸化物(NOx)の還元を同時に行う三元触媒や、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるNOxを吸蔵し、流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比又はリッチになると吸蔵したNOxを還元浄化するNOx吸蔵還元型触媒を機関排気通路内に配置した内燃機関が知られている。
【0003】
このような三元触媒やNOx吸蔵還元型触媒では、触媒成分として含まれる貴金属等の触媒金属が特に酸素濃度の高い雰囲気にさらされると、当該触媒金属の表面が酸素によって覆われ、すなわち、当該触媒金属の表面がいわゆる酸素被毒を受け、結果としてこれらの触媒のNOx浄化性能が低下してしまうという問題がある。
【0004】
特許文献1では、燃焼室内に直接燃料を噴射する燃料噴射手段と、排気通路に設けられ、リーン空燃比運転時に排気中のNOxを吸蔵するとともに理論空燃比運転時又はリッチ空燃比運転時に前記吸蔵したNOxを放出還元するNOx触媒(すなわちNOx吸蔵還元型触媒)と、前記NOx触媒に含まれる貴金属が所定の酸素被毒状態となったことを検出する酸素被毒状態検出手段と、前記NOx触媒が吸蔵したNOxを放出還元するNOxパージとは別に、リーン空燃比運転中に前記酸素被毒状態検出手段により前記NOx触媒に含まれる貴金属が所定の酸素被毒状態となったことが検出されると、前記燃料噴射手段により、吸気行程若しくは圧縮行程に実施する主噴射、及び膨張行程若しくは排気行程に実施する副噴射による燃料噴射を行うよう制御する酸素被毒パージ制御手段とを備えた内燃機関の排気浄化装置が記載されている。また、特許文献1では、当該排気浄化装置によれば、上記のNOxパージとは別に、NOx触媒に吸着した酸素を脱離させる酸素被毒パージを行うことで、NOxパージをする際に酸素被毒パージをほとんど行わずにすむことからNOxパージを短期間で終了することができ、全体としてリーン運転を行う時間が長くなり、リーン運転による燃費低減を増加させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−336614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、酸素過剰のリーン混合気を燃焼させる内燃機関の排気浄化装置において使用されるNOx浄化触媒、すなわちNOx吸蔵還元型触媒について、当該NOx吸蔵還元型触媒に含まれる貴金属の酸素被毒に関連する課題について検討されている。しかしながら、主として理論空燃比(ストイキ)近傍で制御されるガソリンエンジン等の内燃機関においても、当然ながらその排気ガス中には酸素が含まれている。したがって、このような内燃機関の排気通路内に一般に配置されるNOx浄化触媒、例えば三元触媒についても、その中に含まれる貴金属は排気ガス中の酸素によって酸素被毒を受け、結果としてそのNOx浄化性能が低下してしまう場合がある。
【0007】
一方で、NOx吸蔵還元型触媒や三元触媒において触媒成分として用いられる貴金属、特に白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の白金族元素は、自動車の排ガス規制の強化とともに使用量が増加しており、それゆえ資源の枯渇が懸念されている。このため、白金族元素の使用量を減らすとともに、将来的には、白金族元素の役割を他の金属で代替することが必要とされている。そこで、白金族元素の使用量を減らすための又はそれに代わる触媒金属について多くの研究が行われている。幾つかの可能性のある代替金属として、例えばFe等の卑金属が挙げられる。しかしながら、Fe等の卑金属は、白金族元素等に比べて酸化されやすく、それゆえ白金族元素等に比べてより酸素被毒を受けやすいという問題がある。したがって、このようなFe等の卑金属を触媒金属として含むNOx浄化触媒を内燃機関の排気浄化装置において使用する場合には、当該触媒金属の酸素被毒に起因するNOx浄化性能の低下について十分な対処を施す必要がある。
【0008】
そこで、本発明は、新規な構成により、触媒金属としてFeを含むNOx浄化触媒の酸素被毒に起因するNOx浄化性能の低下を抑制することができる内燃機関の排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は下記にある。
(1)内燃機関の排気通路内に配置され、AuとFeを触媒担体に担持してなるNOx浄化触媒であって、AuとFeの少なくとも一部が互いに近接した状態で存在しているNOx浄化触媒と、
前記NOx浄化触媒の温度を検出するための触媒温度検出手段と、
前記NOx浄化触媒を加熱するための触媒加熱手段と、
前記NOx浄化触媒が所定の酸素被毒を受けたことを検出するための酸素被毒検出手段とを備え、
前記酸素被毒検出手段により前記NOx浄化触媒が所定の酸素被毒を受けたことを検出した場合に、前記触媒加熱手段により前記NOx浄化触媒を600℃以上に加熱するようにした、内燃機関の排気浄化装置。
(2)前記NOx浄化触媒の上流側排気通路内に配置された還元剤導入手段をさらに備え、前記触媒加熱手段によって前記NOx浄化触媒の加熱を開始するとともに、前記還元剤導入手段から前記NOx浄化触媒に流入する排気ガス中に還元剤が導入されるようにした、上記(1)に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の内燃機関の排気浄化装置によれば、NOx浄化触媒が所定の酸素被毒を受けたと判断した場合には、当該NOx浄化触媒を600℃以上、好ましくは700℃以上に加熱することで、NOx浄化触媒の表面、特にはNOx浄化触媒に含まれる触媒金属の表面を、酸素被毒を受けた状態から活性のある状態へ回復させることができる。したがって、本発明の内燃機関の排気浄化装置によれば、NOx浄化触媒の酸素被毒に起因するNOx浄化性能の低下を顕著に抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の排気浄化装置の実施態様を模式的に示した図である。
【図2】図1に示す実施態様における触媒再生操作のフローチャートである。
【図3】空燃比の変動に対するNOx浄化触媒の表面Fe濃度及びNO浄化率を示すグラフである。
【図4】パルスレーザー堆積(PLD)装置の模式図である。
【図5】Au−Fe薄膜A及びBにNOガスを導入したときのN1sのXPSスペクトルである。
【図6】加熱処理温度に対するAu−Fe薄膜CのXPSによる表面元素濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の内燃機関の排気浄化装置は、内燃機関の排気通路内に配置され、AuとFeを触媒担体に担持してなるNOx浄化触媒であって、AuとFeの少なくとも一部が互いに近接した状態で存在しているNOx浄化触媒と、前記NOx浄化触媒の温度を検出するための触媒温度検出手段と、前記NOx浄化触媒を加熱するための触媒加熱手段と、前記NOx浄化触媒が所定の酸素被毒を受けたことを検出するための酸素被毒検出手段とを備え、前記酸素被毒検出手段により前記NOx浄化触媒が所定の酸素被毒を受けたことを検出した場合に、前記触媒加熱手段により前記NOx浄化触媒を600℃以上に加熱するようにしたことを特徴としている。
【0013】
一般的に、排気浄化触媒を用いたNOxの浄化では、排気浄化触媒に含まれる触媒金属の表面上に吸着したNOが排気ガス中のHC又は触媒担体上に吸着しているHC等によって選択的に還元される作用、すなわちNOxの選択還元作用によって一部のNOxが浄化され、一方で、排気ガス中のNOxが排気浄化触媒に含まれる触媒金属の表面においてNとOに解離吸着され、当該解離吸着されたNがN2となって触媒金属の表面から脱離する作用、すなわちNOxの直接分解作用によって一部のNOxが浄化されると考えられる。
【0014】
本願の出願人は、特願2009−244704号の明細書において、AuとFeの少なくとも一部が互いに近接した状態で存在している触媒について検討し、当該触媒が、酸化雰囲気下においても、触媒金属としてRhを含む従来公知の触媒に比べて極めて低い温度でNOを解離吸着し、さらにはこの解離吸着されたN原子及びO原子を約450℃の低温でそれぞれN2及びO2として脱離することができることを示した。とりわけ、触媒金属としてRhを含む従来公知の触媒では、同条件下において約100℃の温度でNOの解離吸着が生じ、約800℃の温度でO2の脱離が生じていることからも、このような事実は極めて驚くべきことである。また、AuとFeの少なくとも一部が互いに近接した状態で存在している触媒が低温下においてもNOxを解離吸着できることから、このような触媒を内燃機関の排気浄化装置において使用することで、NOxの直接分解作用によって高いNOx浄化性能が得られると考えられる。もう一方で、当該触媒が触媒金属としてRhを含む従来公知の触媒に比べて極めて低い温度で酸素を脱離できることから、このような触媒を内燃機関の排気浄化装置において使用することで、触媒金属の酸素被毒によるNOx浄化性能の低下を顕著に抑制しうると考えられる。
【0015】
本発明では、特願2009−244704号において示された上記の知見に基づいて、触媒成分としてAuとFeを含むNOx浄化触媒を備えた内燃機関の排気浄化装置が提供される。
【0016】
本発明によれば、NOx浄化触媒としては、AuとFeを触媒担体に担持してなり、当該AuとFeの少なくとも一部が互いに近接した状態で存在している材料が使用される。
【0017】
ここで、本発明において「AuとFeの少なくとも一部が互いに近接した状態」とは、例えば、Au粒子とFe粒子が一部の領域において接触している状態や、AuとFeの各元素のうち一方の元素を主成分とするコア部と、もう一方の元素を主成分とするシェル部とからなり、当該コア部と当該シェル部が互いに接触してコアシェル構造体を形成している状態、あるいはAuとFeの各元素が互いに溶け合い、全体として均一な固溶体を形成している状態、又はAuとFeの各元素が完全には固溶していないが、少なくとも部分的に固溶している状態(不完全固溶状態)を包含するものである。
【0018】
本発明の排気浄化装置において用いられるNOx浄化触媒は、例えば、以下のようにして調製することができる。まず、所定量の適切なAu塩とFe塩を含む溶液に1つ又は複数の還元剤を添加し、溶液中に含まれるAuイオンとFeイオンを当該1つ又は複数の還元剤によって還元することでAuとFeからなる金属粒子を含むコロイド溶液を形成する。なお、このような還元操作は、必要に応じて加熱及び冷却等を実施しながら行うことが好ましい。また、上記の還元剤としては、溶液中のAuイオンとFeイオンを還元できるものであればよく特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等のアルコール類や、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、クエン酸、アスコルビン酸、ホルムアルデヒド等を使用することができる。なお、Au塩、Fe塩及び1つ又は複数の還元剤の混合順序は、特には限定されず、これらは任意の順序で混合することができる。例えば、Au塩を含む溶液にFe塩を含む溶液を加えた後、1つ又は複数の還元剤を加えてもよいし、あるいはまた、Fe塩を含む溶液に第1の還元剤を加えた後、これにAu塩を含む溶液を加え、さらにこの混合溶液に第1の還元剤とは異なる第2の還元剤を加えてもよい。
【0019】
また、上記のAuとFeからなる金属粒子を含むコロイド溶液を調製する際、例えば、生成する金属粒子の表面に配位又は吸着して金属粒子同士の凝集や粒成長を抑制しかつ安定化させる目的で、Au塩、Fe塩及び/又は還元剤を含む溶液に保護剤を任意選択で添加してもよい。このような保護剤としては、金属コロイドの保護剤として公知の任意のものを使用することができる。例えば、有機高分子や、低分子でも窒素、リン、酸素、硫黄等のヘテロ原子を含み配位力の強い有機化合物を保護剤として使用することができる。有機高分子の保護剤としては、ポリアミド、ポリペプチド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ヘテロ環ポリマー、及びポリエステル等の高分子化合物を使用することができる。特に好ましくは、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド等を使用することができる。このような保護剤を添加することで、得られる金属粒子の大きさをナノメートルサイズに制御することが可能であり、それゆえ最終的に得られるNOx浄化触媒の活性を顕著に改善することができる。
【0020】
次に、AuとFeからなる金属粒子を含む上記のコロイド溶液を、必要に応じて遠心分離等の操作により精製した後、それをさらにエタノール等の適切な溶媒中に分散させる。次いで、この分散液を、NOx浄化触媒の触媒担体として一般に用いられる任意の金属酸化物の粉末に、AuとFeの合計量が当該粉末に対して一般に0.01〜10wt%の範囲になるような量において添加する。次いで、これを所定の温度及び時間、特には金属塩の塩部分や、任意選択の保護剤等を分解除去しかつ金属粒子を触媒担体上に担持するのに十分な温度及び時間において乾燥及び焼成することにより、AuとFeを触媒担体に担持してなり、当該AuとFeの少なくとも一部が互いに近接した状態で存在しているNOx浄化触媒を得ることができる。
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の内燃機関の排気浄化装置の好ましい実施態様についてより詳しく説明するが、以下の説明は、本発明の好ましい実施態様の単なる例示を意図するものであって、本発明をこのような特定の実施態様に限定することを意図するものではない。
【0022】
図1は、本発明の排気浄化装置の実施態様を模式的に示した図である。
【0023】
図1を参照すると、内燃機関10の排気側は、排気管11を介してNOx浄化触媒12を内蔵したケーシング13に連結され、さらに当該ケーシング13の出口部が排気管14に連結されている。また、ケーシング13にはNOx浄化触媒12の温度を検出するための温度センサ15(触媒温度検出手段)が取り付けられている。なお、この温度センサ15は、NOx浄化触媒12の温度を検出することができればよく、例えば、ケーシング13の出口部に連結された排気管14内に取り付けてもよい。さらに、本発明の実施態様では、排気管14にケーシング13から流出する排気ガス中のNOxを検出するためのNOxセンサ17(酸素被毒検出手段)が取り付けられている。そして、ケーシング13内のNOx浄化触媒12の上流側には当該NOx浄化触媒12を加熱するための触媒加熱手段として電気ヒータ16が配置され、この電気ヒータ16は、例えば、上記のNOxセンサ17等によって検出される排気ガス中のNOx量に基づいて電子制御ユニット(ECU)20により制御することができる。また、NOx浄化触媒12上流側の排気管11内には、任意選択で、排気ガス中に例えば炭化水素からなる還元剤を供給するための還元剤供給弁18(還元剤導入手段)が取り付けられている。なお、図1には図示していないが、排気ガス中のNOx以外の他の成分、すなわち未燃HC(炭化水素)やCOについても確実に浄化するため、NOx浄化触媒12は、例えば、当該NOx浄化触媒12の上流側又は下流側の排気管内に配置された三元触媒と併用して使用してもよい。
【0024】
NOx浄化触媒12を加熱するための触媒加熱手段としては、上記の電気ヒータ16以外にも種々の手段又は方法を使用することができる。例えば、本発明における触媒加熱手段としては、NOx浄化触媒12を内蔵したケーシング13にリボンヒータ等を巻き付け、それによってNOx浄化触媒12を加熱する方法や、あるいは内燃機関10の燃焼室内に噴射する燃料の量を増加して燃焼を促進し、それによってNOx浄化触媒12に流入する排気ガスを昇温して当該NOx浄化触媒12を加熱する方法を使用してもよい。あるいはまた、本発明における触媒加熱手段として、例えば、NOx浄化触媒12がコートされているハニカム基材等自体に電気を流すことで、直接的にNOx浄化触媒12を加熱する方法を採用してもよい。
【0025】
本実施態様によれば、NOx浄化触媒12の下流側に配置されたNOxセンサ17によりNOx浄化触媒12が所定の酸素被毒を受けたことを検出した場合には、電気ヒータ16によりNOx浄化触媒12を600℃以上に加熱することで、確実にNOx浄化触媒12の酸素被毒を解消することができる。
【0026】
図2は、図1に示す実施態様における触媒再生操作のフローチャートである。なお、この触媒再生操作は、電子制御ユニット(ECU)20によって予め定められた設定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして行われる。
【0027】
図2を参照すると、まず初めにステップ100では、温度センサ15によって検出されるNOx浄化触媒12の床温度Tがその活性化温度T0に達しているか否かが判定され、T≧T0の場合はステップ101に進む。一方、NOx浄化触媒12の床温度Tがその活性化温度T0に達していない場合、すなわちT<T0の場合には、加熱処理(すなわち触媒再生処理)は行わずにルーチンを終了する。なお、本発明において使用されるAuとFeを触媒担体に担持してなるNOx浄化触媒12は、比較的低温の条件下においてもその触媒活性を発現しうるが、確実にその触媒活性を発現させるためには約300℃以上の温度で使用することが好ましい。したがって、本実施態様では、上記の活性化温度T0としては300℃と設定することが好ましい。
【0028】
ステップ101では、NOx浄化触媒12が所定の酸素被毒を受けているか否かが判定される。ここで、本実施態様では、NOx浄化触媒12のNOx浄化性能が低下した場合、すなわちNOx浄化触媒12を通過した排気ガス中のNOx量が増加した場合を当該NOx浄化触媒12が所定の酸素被毒を受けた状態と判断して触媒再生処理を実施する。具体的には、ステップ101では、NOxセンサ17によって検出される排気ガス中のNOx量が増加したか否かが判定され、排気ガス中のNOx量が増加した場合、すなわちΔNOx>0の場合にはステップ102に進む。そして、ステップ102において電気ヒータ16への給電を開始してNOx浄化触媒12の加熱処理を実施し、ステップ103に進む。一方、NOxセンサ17によって検出されるNOx量が増加しておらず、すなわちΔNOx≦0の場合には、NOx浄化触媒12が所定の酸素被毒を受けていないと判断し、加熱処理は行わずにルーチンを終了する。
【0029】
次に、ステップ103では、温度センサ15によって検出されるNOx浄化触媒12の床温度Tが600℃以上になったか否かが判定され、T≧600℃の場合はステップ104に進む。ステップ104では、電気ヒータ16への給電(すなわち加熱処理)を停止して触媒再生処理のルーチンを終了する。なお、触媒の再生処理をより確実に実施するために、例えば、ステップ103においてNOx浄化触媒12の床温度Tが700℃以上になったことを検出した後、ステップ104において加熱処理を停止するようにしてもよい。
【0030】
上記のとおり、本実施態様によれば、NOx浄化触媒12が所定の酸素被毒を受けたと判断した場合には、当該NOx浄化触媒12を600℃以上、好ましくは700℃以上に加熱処理することで、NOx浄化触媒12の酸素被毒を解消してそれを活性な状態に再生することができる。このようにすることで、NOx浄化触媒12の表面全体が酸素被毒を受けてそのNOx浄化性能が大きく低下する前に当該酸素被毒を確実に解消することができるので、排気ガス中のNOxを安定的に還元浄化することが可能である。また、このような触媒再生処理は、理論空燃比(ストイキ)よりもリッチな雰囲気下で実施することによりその処理温度を低下させることができるので、例えば、電気ヒータ16によってNOx浄化触媒12の加熱を開始するとともに、図1に示す還元剤供給弁18からNOx浄化触媒12に流入する排気ガス中に炭化水素等からなる還元剤を導入するようにしてもよい。
【0031】
なお、本実施態様では、NOx浄化触媒12が所定の酸素被毒を受けたことを検出するための酸素被毒検出手段としてNOxセンサを使用し、当該NOxセンサ17によって検出される排気ガス中のNOx量に基づいてNOx浄化触媒12の加熱処理が実施されている。しかしながら、NOx浄化触媒12の酸素被毒を検出する手段としては、上記のNOxセンサ17以外にも種々の手段を使用することができる。例えば、NOxセンサを使用する代わりに酸素センサ又は空燃比センサ等を使用してもよい。この場合には、これらのセンサによって排気ガス中に含まれる酸素量Wを検出し、その検出データに基づいてNOx浄化触媒12を通過する酸素量Wの積算値ΣWを算出する。そして、この積算値ΣWをNOx浄化触媒12に関して予め実験等により求められている許容値WXと比較することで、NOx浄化触媒12が所定の酸素被毒を受けたか否かが判断される。すなわち、図2のフローチャートに基づいて言えば、ステップ101において積算値ΣW>WXとなったときにNOx浄化触媒12が所定の酸素被毒を受けたと判断してステップ102に進む。一方、積算値ΣW≦WXの場合には、NOx浄化触媒12が所定の酸素被毒を受けていないと判断し、加熱処理は行わずにルーチンを終了する。なお、ステップ102以降の操作については図2の場合と同様に進行する。
【0032】
あるいはまた、NOx浄化触媒12の酸素被毒を検出する手段として、予め電子制御ユニット(ECU)20に内燃機関10の運転状態に応じて当該内燃機関10から単位時間当たり排出される排気ガス中の酸素濃度をマップの形で記憶し、このマップを利用して酸素量Wの算出を行う手法を採用してもよい。この場合には、当該マップを利用して得られる酸素量Wに基づいてNOx浄化触媒12を通過する酸素量Wの積算値ΣWが算出される。そして、酸素センサや空燃比センサを用いた場合と同様にして、この積算値ΣWをNOx浄化触媒12に関して予め実験等により求められている許容値WXと比較することで、NOx浄化触媒12が所定の酸素被毒を受けたか否かを判断することができる。
【0033】
以下、本発明の排気浄化装置において使用されるNOx浄化触媒12の再生について、実験結果に基づいてより詳細に説明する。
【0034】
[触媒調製]
[Au−Feナノ粒子の合成]
まず、二口丸底フラスコ中で還元剤としての無水エチレングリコール120mlに保護剤としてポリ−n−ビニルピロリドン(PVP)1.1gを加え、この混合液にFe塩として酢酸鉄(II)0.0574gを加えて80℃で3時間攪拌した(溶液1)。次に、別の二口丸底フラスコ中でAu塩として塩化金酸ナトリウム(NaAuCl4)0.1809gを蒸留水50mlに加え、2時間にわたり激しく攪拌しながら溶解させた。なお、得られた溶液の色は鮮やかなオレンジ色であった(溶液2)。次いで、溶液1を冷却バスを用いて0℃まで冷却し、そこへ溶液2を攪拌しながら注ぎ確実に均一にした。次いで、得られた混合液に1M NaOH溶液(約7ml)を加えて混合液のpHを9〜10に調整した。得られた混合液をオイルバスを用いて100℃に加熱し、攪拌しながらこの温度で約2時間保持した。その後、得られたコロイド懸濁液をオイルバスから引き上げて室温まで冷却した。フラスコ内のすべてのイオン種を完全に還元するため、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム0.038gを加えた。次いで、この懸濁液をしばらく放置した。生成したナノ粒子は、所定量のナノ粒子を含む一定分量を多量のアセトンで処理することにより精製した。これにより保護剤として使用したPVP高分子をアセトン相に抽出し、金属ナノ粒子を凝集させた。次いで、上澄み液を移すか又は遠心分離によって当該ナノ粒子を精製した。アセトン相を取り除いた後、精製したコロイドを緩やかな攪拌により無水エタノール中に再分散させた。
【0035】
[Au−Feナノ粒子の触媒担体への担持]
100mlのシュレンク管に触媒担体としてアルミナ(γ−Al23)1gを入れた。次いでシュレンク管内を真空引きし、そこへN2を流してシュレンク管を洗浄し、シュレンク管内の空気をN2で完全に置換した。次いで、上で調製したコロイド懸濁液を、AuとFeの合計量がアルミナに対して1wt%になるようシリンジによりゴムのセプタムを通してシュレンク管に添加した。そして、得られた混合液を室温で約3時間攪拌し、次いで真空引きして溶媒を除去した。次いで、得られたコロイド沈殿物を真空下約200℃で加熱乾燥し、先の操作で完全に抽出しきれずに残っていたPVP高分子を分解除去した。次いで、得られた粉末を約2mmのペレットに圧縮成形することにより、Au−Fe/Al23のNOx浄化触媒を得た。
【0036】
[触媒の評価]
上で調製したNOx浄化触媒について、空燃比を変動させた場合のそのNOx浄化性能及び表面Fe濃度を調べた。具体的には、まず、上記のNOx浄化触媒を石英ガラス管にセットし、次いで、所定濃度のNOを含有するモデルガスを触媒床に流し、一定温度400℃で当該モデルガス中のCO濃度を変化させることによりA/F値を約4から約18まで変動させ、図3に示す各A/F値においてNO浄化率を測定した。また、それぞれのA/F値において測定を行った各試料について、X線光電子分光(XPS)装置(ULVAC−PHI製ESCA1600)及びオージェ電子分光(AES)装置(KITANO SEIKI製KCMA2002)によりそれらの表面Fe濃度を調べた。なお、表面Fe濃度の値は、AuとFeの各表面濃度の合計を100%とした場合のFeの表面濃度を示すものである。得られた結果を図3に示す。図3は、空燃比の変動に対するNOx浄化触媒の表面Fe濃度及びNO浄化率を示すグラフである。図3は、横軸に空燃比(A/F)を示し、左側縦軸に表面Fe濃度(原子%)及び右側縦軸にNO浄化率(%)を示している。
【0037】
図3の結果から明らかなように、A/Fの値が増加するにつれて、すなわちモデルガス中の酸素濃度が高くなるにつれてNO浄化率が向上し、A/F=約11でその値が最大値に達した。しかしながら、さらに酸素濃度が高くなるとNO浄化率は減少した。一方で、表面Fe濃度の値は、酸素濃度の増加とともに単調に増加し、A/F=約18で約100原子%に達した。この実験結果からNOx浄化触媒中のAu及びFeの各表面濃度は、雰囲気によって大きく変動し、過度な還元(リッチ)及び酸化(リーン)雰囲気下では、Au及びFeのうち一方の元素のみが表面に露出し、それによってNOxの浄化性能が大きく低下することがわかった。何ら特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、特に酸素濃度が高くなるにつれて表面Fe濃度が増加しかつNO浄化率が大きく減少したのは、AuとFeが互いに近接した活性な状態、好ましくは全体として均一な固溶体を形成している活性な状態からFeが雰囲気中に存在する酸素によって触媒表面に引き寄せられ、そして当該触媒表面で酸化され、すなわち酸素被毒を受けたことに起因していると考えられる。
【0038】
次に、図3の実験でNO浄化活性が最も高かった表面Fe濃度が約40原子%(すなわち表面Au濃度=約60原子%)のNOx浄化触媒に対応するAu−Fe薄膜と、同様に図3の実験でNO浄化活性が最も低かった表面Fe濃度が約0原子%(すなわち表面Au濃度=約100原子%)のNOx浄化触媒に対応するAu−Fe薄膜とをそれぞれ調製し、これらのAu−Fe薄膜についてNO吸着特性を調べた。
【0039】
具体的には、まず、イオンスパッタ装置(HITACHI製E101、エネルギー100eV、イオン電流15mA)を用いてAl23(サファイア)基板上にAuを5回に分けて2分間ずつスパッタし、当該基板上に厚さが約30nmの均一なAuスパッタ膜を堆積した。次いで、得られたAu/Al23を図4に示すパルスレーザー堆積(PLD)装置のチャンバー内に配置した試料台の上にセットした。なお、図4に示すパルスレーザー堆積(PLD)装置は、分析手段としてオージェ電子分光(AES)装置(KITANO SEIKI製KCMA2002)とX線光電子分光(XPS)装置(ULVAC−PHI製ESCA1600)を具備している。次に、Au/Al23の表面前処理として、チャンバー圧力が1.8×10-4Torrの条件下でArスパッタ(0.5eV)を30分間実施し、次いで450℃で25分間アニール処理し、これらの工程を合計で2回繰り返した。次に、エキシマレーザー(LAMBDA PHYSIK製、25〜29kV、1〜10Hz、KrF3000mbar)をチャンバー内のFeターゲットに照射して、Au/Al23上にFeをその表面組成が100%になるまで堆積した。なお、表面組成の分析はAESによって確認した。最後に、得られた試料を赤外線レーザーで350℃に加熱することにより表面Fe濃度が約40原子%のAu−Fe薄膜Aを得た。
【0040】
なお、上と同様の操作によりFeをAu/Al23上にその表面組成が100%になるまで堆積した後、得られた試料をH2圧力が3×10-8Torrの雰囲気下において赤外線レーザーで500℃に加熱することにより表面Fe濃度が約0原子%(すなわち表面Au濃度=約100原子%)のAu−Fe薄膜Bを得た。
【0041】
[NO吸着特性]
次に、上で調製したAu−Fe薄膜A及びBについてそれらのNO吸着特性を調べた。具体的には、約1L(ラングミュア)のNOガス量を室温でチャンバーに導入して各Au−Fe薄膜にNOガスを吸着させた。その結果を図5に示す。なお、ここでは、各Au−Fe薄膜を5.0×10-6PaのNOガスに44秒間曝したとき、すなわち各Au−Fe薄膜を2.2×10-4Pa・sのNOガス量に曝したときを1L(ラングミュア)としている。
【0042】
図5は、Au−Fe薄膜A及びBにNOガスを導入したときのN1sのXPSスペクトルである。図5の結果並びに同様にXPSにより測定したFe2pのピーク位置のシフト等から、図5のAu−Fe薄膜A(表面Fe濃度が40原子%のもの)に関する397eV付近のピークがFe−N結合に起因するものであることがわかった。すなわち、この結果は、Fe上でNOがNとOに解離吸着されていることを示すものである。一方で、表面Au濃度が100原子%であるAu−Fe薄膜BについてはNOの解離吸着は検出されなかった。
【0043】
図3において表面Fe濃度が約40原子%のNOx浄化触媒が最も高いNOx浄化活性を示したこと、そして同様の組成を有するAu−Fe薄膜では室温下においてもFe上でNOが解離吸着されること等を考慮すると、本発明におけるNOx浄化触媒では、AuとFeが互いに近接した状態で均一に表面に存在することで、NOの直接分解作用が促進され、それによってNOx浄化性能が向上しているものと考えられる。
【0044】
[触媒の再生処理]
本実験では、酸素被毒を受けたNOx浄化触媒について、それを加熱処理した場合の表面Fe濃度の変化を調べた。具体的には、先に記載したAu−Fe薄膜の調製方法に従ってAl23基板上にAu、次いでFeを堆積した後、得られた試料を微量の酸素を含有する真空雰囲気中350℃で酸化処理することにより、模擬的に酸素による被毒処理を施したAu−Fe薄膜Cを得た。次に、得られたAu−Fe薄膜CをH2圧力が3×10-8Torrの真空雰囲気下で加熱処理した。その結果を図6に示す。
【0045】
図6は、加熱処理温度に対するAu−Fe薄膜CのXPSによる表面元素濃度を示すグラフである。図6は、横軸に加熱温度(℃)を示し、縦軸に各元素の表面濃度(原子%)を示している。本実験では、XPSによりAu−Fe薄膜Cに関するFe2p3、Au4f及びO1sの各ピークを測定し、それによってFe、Au及びOの各元素の表面濃度を算出した。なお、Fe及びOの各表面濃度やFe2p3及びO1sのピーク位置等から、Au−Fe薄膜中のFeは上記の酸化処理によりFe23の酸化物として薄膜表面に露出していると認められる。また、図6を参照すると、加熱温度が200℃〜550℃ではFe、Au及びOの各元素の表面濃度に関して大きな変化は見られなかったが、600℃以上の温度で加熱することによりFe及びOの表面濃度が大きく減少し、それに伴ってAuの表面濃度が増加した。さらにAu−Fe薄膜Cを700℃で加熱処理することで、薄膜表面に存在する酸素の多くが除去され、図3の実験でNO浄化活性が最も高かった表面組成、すなわち表面Fe濃度が約40原子%の表面組成までAu−Fe薄膜の表面組成を回復することができた。この実験結果は、本発明の排気浄化装置において用いられるNOx浄化触媒が酸素被毒を受けた場合に、それを600℃以上、好ましくは700℃以上の温度で加熱処理することで、このような酸素被毒を確実に解消しかつ当該NOx浄化触媒の表面組成を活性の高い状態に改質できることを示すものである。
【符号の説明】
【0046】
10 内燃機関
11、14 排気管
12 NOx浄化触媒
13 ケーシング
15 温度センサ
16 電気ヒータ
17 NOxセンサ
18 還元剤供給弁
20 電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路内に配置され、AuとFeを触媒担体に担持してなるNOx浄化触媒であって、AuとFeの少なくとも一部が互いに近接した状態で存在しているNOx浄化触媒と、
前記NOx浄化触媒の温度を検出するための触媒温度検出手段と、
前記NOx浄化触媒を加熱するための触媒加熱手段と、
前記NOx浄化触媒が所定の酸素被毒を受けたことを検出するための酸素被毒検出手段とを備え、
前記酸素被毒検出手段により前記NOx浄化触媒が所定の酸素被毒を受けたことを検出した場合に、前記触媒加熱手段により前記NOx浄化触媒を600℃以上に加熱するようにした、内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記NOx浄化触媒の上流側排気通路内に配置された還元剤導入手段をさらに備え、前記触媒加熱手段によって前記NOx浄化触媒の加熱を開始するとともに、前記還元剤導入手段から前記NOx浄化触媒に流入する排気ガス中に還元剤が導入されるようにした、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−163059(P2012−163059A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24906(P2011−24906)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】