説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】上流側HC吸着触媒と下流側HC吸着触媒とを有するシステムにおいて、上流側HC吸着触媒の劣化を抑制する。
【解決手段】今回の機関冷間始動時において昇温処理を行う前までに炭化水素を上流側HC吸着触媒14aに吸着させておき、上流側HC吸着触媒14aのHC吸着量が所定値以上の場合に、上流側HC吸着触媒14aの温度がHC脱離温度以上かつHC浄化温度以下になるように、排気昇温装置40を制御する。脱離したHCは下流側HC吸着触媒14bに吸着される。上流側HC吸着触媒14aがHC浄化温度に到達する頻度が抑制されるので、上流側HC吸着触媒14aの劣化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のHC吸着触媒を備えた内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路に配置した排気浄化触媒を用いて、排気中のHC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)、NOx(窒素酸化物)等の有害成分を浄化する排気浄化装置が一般に知られている。排気浄化触媒は、一般に所定の活性化温度以上にならないと、排気浄化能力を発揮しないため、触媒温度が低いときには排気ガス中の有害成分が触媒を通過して大気に放出されるおそれがある。そこで、排気通路の排気浄化触媒の上流側に、低温時に排気ガス中のHC成分を吸着し、高温時には吸着したHC成分を放出するHC吸着触媒を配置して、低温時のHC成分の大気放出を防止するようにした排気浄化装置が知られている。
【0003】
このような装置では、機関冷間始動時のように、排気ガス温度が低く排気浄化触媒が活性化温度に到達していない場合には、排気浄化触媒よりも上流側のHC吸着触媒で排気ガス中のHC成分を吸着し、低温時のHCの大気放出を防止するとともに、排気ガス温度が上昇して排気浄化触媒が活性化温度に到達した後は、排気ガス中のHC成分とHC吸着触媒から放出されるHC成分との両方を、下流側の排気浄化触媒で浄化するようにしている。
【0004】
さらに、HC吸着触媒を複数とする構成も提案されている。特許文献1が開示する装置では、上流側HC吸着触媒と下流側HC吸着触媒とをタンデム(すなわち直列)に設置すると共に、これらにそれぞれ酸化触媒物質を担持させて浄化機能を持たせている。上流側HC吸着触媒は急速に昇温される一方、下流側HC吸着触媒の昇温が遅延されるので、上流側HC吸着触媒が吸着段階から脱離段階及び浄化段階に至るまで、下流側HC吸着触媒が吸着段階を維持し、上流側から脱離したHCを下流側で吸着・浄化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−266120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上流側HC吸着触媒が浄化段階となる温度(HC浄化温度)に到達する頻度が高いため、上流側HC吸着触媒のみが早期に劣化するという問題がある。
【0007】
そこで本発明の目的は、上流側HC吸着触媒と下流側HC吸着触媒とを有するシステムにおいて、上流側HC吸着触媒の劣化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明の内燃機関の排気浄化装置は、
内燃機関の排気通路に設置され炭化水素を吸着及び浄化する第1のHC吸着触媒と、
前記第1のHC吸着触媒よりも下流側の排気通路に設置され炭化水素を吸着及び浄化する第2のHC吸着触媒と、
前記第1のHC吸着触媒を昇温させる昇温手段と、
前記第1のHC吸着触媒のHC吸着量を推定する吸着量推定手段と、
前記昇温手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記第1のHC吸着触媒のHC吸着量が所定値以上の場合に、前記第1のHC吸着触媒の温度がHC脱離温度以上かつHC浄化温度以下になるように、前記昇温手段を制御することを特徴とすることを特徴とする。
【0009】
本発明では、制御手段が、第1のHC吸着触媒のHC吸着量が所定値以上の場合に、第1のHC吸着触媒の温度がHC脱離温度以上かつHC浄化温度以下になるように、昇温手段を制御するので、第1のHC吸着触媒がHC浄化温度に到達する頻度が抑制される。
【0010】
本発明の別の態様の内燃機関の排気浄化装置は、
内燃機関の排気通路に設置され炭化水素を吸着及び浄化する第1のHC吸着触媒と、
前記第1のHC吸着触媒よりも下流側の排気通路に設置され炭化水素を吸着及び浄化する第2のHC吸着触媒と、
前記第1のHC吸着触媒を昇温させる昇温手段と、
前記第2のHC吸着触媒のHC吸着量を推定する下流側吸着量推定手段を更に備え、
前記制御手段は、前記第2のHC吸着触媒のHC吸着量が所定値以上の場合に、前記第1のHC吸着触媒の温度がHC浄化温度以上になるように、前記昇温手段を制御することを特徴とする。
【0011】
この態様では、第2のHC吸着触媒のHC吸着量が多いためにそのHC吸着性能に余裕が少ない場合に、第1のHC吸着触媒を昇温させて浄化能力を向上させることで、大気へのHC放出を抑制することができる。また、第2のHC吸着触媒のHC吸着量が少ないためにそのHC吸着性能に余裕がある場合には、第1のHC吸着触媒の過熱による劣化の抑制を優先させることができる。この態様で昇温させる場合の第1のHC吸着触媒の温度は、HC浄化温度以上かつHC劣化温度以下としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上流側の第1のHC吸着触媒の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の排気浄化装置を示す図である。
【図2】実施形態の排気浄化装置における機関冷間始動時の制御の一例を示すフローチャートである。
【図3】上流側HC吸着触媒及び下流側HC吸着触媒のHC吸着容量及び各基準値の相互関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を用いて本発明の実施形態について説明する。図1は本発明を圧縮自着火式内燃機関に適用した場合を示している。なお、本発明は火花点火式内燃機関にも適用することもできる。
【0015】
図1を参照すると、1は機関本体、2は各気筒の燃焼室、3は各燃焼室2内にそれぞれ燃料を噴射するための電子制御式燃料噴射弁、4は吸気マニホールド、5は排気マニホールドをそれぞれ示す。吸気マニホールド4は吸気ダクト6を介して排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に連結され、コンプレッサ7aの入口はエアフローメータ8を介してエアクリーナ9に連結される。
【0016】
吸気ダクト6内にはステップモータにより駆動されるスロットル弁10が配置され、更に吸気ダクト6周りには吸気ダクト6内を流れる吸入空気を冷却するためのインタークーラ11が配置される。図1に示した実施形態では機関冷却水がインタークーラ11内に導かれ、機関冷却水によって吸入空気が冷却される。
【0017】
各燃料噴射弁3は、燃料供給管41を介してコモンレール42に連結され、このコモンレール42は電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ43を介して燃料タンク44に連結される。燃料タンク44内に貯蔵されている燃料は、燃料ポンプ43によってコモンレール42内に供給され、コモンレール42内に供給された燃料は各燃料供給管41を介して燃料噴射弁3に供給される。
【0018】
排気マニホールド5は、排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に連結されている。排気タービン7bの出口は、排気管12に連結されている。排気管12内には、上流側HC吸着触媒14a、及び下流側HC吸着触媒14bが配置されている。上流側HC吸着触媒14aは、下流側HC吸着触媒14bよりも体積、前面投影面積及び熱容量が小さい。また、図3に示されるように、下流側HC吸着触媒14bの吸着可能なHC量(HC吸着容量)は、上流側HC吸着触媒よりも大である。なお、上流側HC吸着触媒14aは、その前面投影面積がその周囲の排気管12の断面積よりも小さくてもよく、その場合には上流側HC吸着触媒14aには、排気管12を通過する排気ガスの一部が流通することになる。
【0019】
HC吸着触媒14a,14bはゼオライトからなる。このゼオライトは機関冷間始動時におけるようにゼオライトの温度が低いときでも未燃HCを吸着する機能を有する。そして、HC吸着触媒14a,14bの温度が上昇するとHC吸着触媒14a,14bからのHC脱離作用が開始される。
【0020】
HC吸着触媒14a,14bよりも上流側の排気管12には、排気ガス中に炭化水素を供給するための燃料噴射弁15が、その噴射口を排気管12内部に臨ませて配置されている。燃料噴射弁15には、燃料タンク44内の燃料が燃料ポンプ43を介して供給される。
【0021】
燃料噴射弁15よりも下流側の排気管12内には、グロープラグ16が設けられている。グロープラグ16は、その先端部に燃料噴射弁15から添加される燃料が接触するように配置されており、燃料に着火させることが可能である。グロープラグ16には、これに給電するための直流電源及び昇圧回路(いずれも不図示)が接続されている。着火するための手段としては、グロープラグに代えてセラミックヒータを用いてもよい。燃料の微粒化を促進するために、燃料噴射弁15から噴射された燃料を衝突させるための衝突板を、排気管12内に配置してもよい。燃料噴射弁15およびグロープラグ16は、排気昇温装置40を構成し、この排気昇温装置40は、後述するECU50によって制御される。
【0022】
下流側HC吸着触媒14bの周囲には、この下流側HC吸着触媒14bを昇温させるための電熱式の下流側ヒータ33が設置されている。下流側ヒータ33は下流側HC吸着触媒14bを、HCを下流側HC吸着触媒14bの基材から脱離させることが可能なHC脱離温度(例えば300°C以上)、及びHCを触媒作用により浄化することが可能なHC浄化温度(例えば400°C以上)にまで昇温させることができる。
【0023】
下流側HC吸着触媒14bの下流側には、排気浄化触媒13が連結される。排気浄化触媒13は、NH3によりNOxを選択的に還元可能な選択還元触媒である。HC吸着触媒14a,14bと排気浄化触媒13との間の排気管12には、排気浄化触媒13にアンモニアNH3を供給するためのNH3供給弁60が配置される。排気浄化触媒13の下流側は、不図示の消音器を介して外気に開放されている。
【0024】
排気浄化触媒13は、例えば遷移金属を含有するゼオライトからなる。NH3供給弁60からNH3水溶液が供給されると、NH3水溶液中の大部分のNH3は排気浄化触媒13に吸着される。排気ガス中に含まれるNOxは、排気浄化触媒13上においてこれら吸着されたNH3と反応して還元せしめられる。本実施形態では、排気浄化触媒13に吸着されているNH3吸着量がNOxを還元するのに十分な量となるように、NH3供給弁60からNH3水溶液が供給される。しかしながら、本発明に適用可能な排気浄化触媒はこのような選択還元触媒に限られることはない。例えば、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときに排気ガス中のNOxを吸蔵し、流入する排気中の酸素濃度が低下すると吸蔵しているNOxを放出して還元するNOx吸蔵還元触媒であってもよい。
【0025】
電子制御ユニット(ECU)50はデジタルコンピュータからなり、双方向性バスによって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、CPU(マイクロプロセッサ)、入力ポートおよび出力ポートを具備する。HC吸着触媒14a,14bの出口部には、HC吸着触媒14a,14bの温度を検出するための温度センサ31,32が取付けられ、これら温度センサ31,32の出力信号は対応するAD変換器を介して入力ポートに入力される。また、アクセルペダル51にはアクセルペダル51の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ52が接続され、負荷センサ52の出力電圧は対応するAD変換器を介して入力ポートに入力される。更に入力ポートにはクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ53が接続される。
【0026】
一方、出力ポートは対応する駆動回路を介して燃料噴射弁3,15、スロットル弁10駆動用ステップモータ、下流側ヒータ33、燃料ポンプ43、およびNH3供給弁60などに接続される。
【0027】
本発明の排気浄化装置では、機関冷間始動時には、上流側HC吸着触媒14aは急速に昇温される一方、下流側HC吸着触媒14bの昇温が遅延される。その結果、上流側HC吸着触媒14aが昇温して吸着段階から脱離段階に至るまで、下流側HC吸着触媒14bが吸着段階を維持し、上流側から脱離したHCを下流側で吸着・浄化する。このような動作を支援するため、ECU50は排気昇温装置40を制御して、燃料噴射弁15からの燃料の供給とグロープラグ16の通電とを行い、これによって上流側HC吸着触媒14aを昇温させることができる。
【0028】
ところで、排気昇温装置40によって、上流側HC吸着触媒14aを浄化段階となる温度(HC浄化温度)にまで到達させる頻度が高いと、上流側HC吸着触媒14aのみが早期に劣化するという問題がある。
【0029】
このため、本実施形態の排気浄化装置においては、今回の機関冷間始動時において昇温処理を行う前までに炭化水素を上流側HC吸着触媒14aに吸着させておき、上流側HC吸着触媒14aのHC吸着量が所定値以上の場合に、上流側HC吸着触媒14aの温度がHC脱離温度(例えば300°C)以上かつHC浄化温度(例えば400°C)以下になるように、排気昇温装置40を制御する。この所定値は、吸着量がそれ未満であれば上流側HC吸着触媒14aのHC浄化性能及びCO浄化性能が実用上満足できるような値とするのが好適であり、予め定められた値であれば固定値でも、機関本体1の運転状態を示すパラメータに基づいて動的に定められる可変値でもよい。
【0030】
このような本実施形態の排気浄化装置によれば、昇温処理を行う前までにHC吸着触媒14aに所定の量のHCを吸着させておくことができ、また、第1のHC吸着触媒がHC浄化温度に到達する頻度が抑制されるので、上流側の第1のHC吸着触媒の劣化を抑制することができる。
【0031】
以下に、本実施形態の排気浄化装置における機関冷間始動時の制御について説明する。図2の処理ルーチンは、機関冷間始動時に実行される。まずステップS101において、内燃機関が始動され、別途の処理ルーチンにより燃料噴射弁15から排気通路12内に燃料が供給される。これによって、排気ガス中のHC、及び燃料噴射弁15から供給される燃料中のHCが、上流側HC吸着触媒14aに吸着させられる。冷間始動時における燃料噴射弁15からの燃料の供給は、通常上流側HC吸着触媒14aの温度がHC脱離温度(例えば300°C)よりも十分低い値となるような供給量の範囲内で行われる。
【0032】
次に、ECU50は、内燃機関本体1からのHC排出量、及び上流側HC吸着触媒14aからのHC脱離量・浄化量をそれぞれ算出する(S102)。内燃機関本体1からのHC排出量は、例えば燃料噴射弁3からの燃料噴射量、エアフローメータ8によって検出される吸入空気量、負荷センサ52によって検出される要求負荷、水温センサ55によって検出されるエンジン水温などに基づいて算出される。上流側HC吸着触媒14aからのHC脱離量・浄化量は、例えば温度センサ31の温度、内燃機関本体1からのHC排出量、及び燃料噴射弁15からの燃料供給量に基づいて算出される。
【0033】
次にECU50は、これら算出された内燃機関本体1からのHC排出量、及び上流側HC吸着触媒14aからのHC脱離量・浄化量と、前回の機関運転中にHC吸着触媒14aに吸着されたHC吸着量とに基づいて、HC吸着触媒14aに吸着されている現在のHC吸着量を算出する(S103)。そしてECU50は、算出されたHC吸着量が、予め定められた脱離開始基準値th0に達したか否かを判定する(S104)。否定の場合には、ステップS102からS104までの処理が繰返し実行される。
【0034】
ステップS104で肯定、すなわち上流側HC吸着触媒14aに吸着されているHC吸着量が、脱離開始基準値th0に達したと判定されると、HC供給が後述するHC供給禁止フラグによって禁止されていないことを条件に(S105)、ECU50は、上流側HC吸着触媒14aの温度が、HC脱離温度(例えば300°C)以上かつHC浄化温度(例えば400°C)以下になるように、排気昇温装置40(燃料噴射弁15及びグロープラグ16)を制御する(S106)。これによって、上流側HC吸着触媒14aからHCが脱離され、下流側HC吸着触媒14bに吸着される。
【0035】
次にECU50は、下流側HC吸着触媒14bのHC吸着量が、予め定められた浄化開始基準値th1以上かを判断する(S107)。図3に示されるように、下流側HC吸着触媒14bの浄化開始基準値th1は、上流側HC吸着触媒14aの脱離開始基準値th0よりも通常大きい値となる。ステップS107で否定の場合には、下流側ヒータ33が停止させられるか、停止状態が維持される(S112)。
【0036】
ステップS107で肯定の場合には、次にECU50は、下流側HC吸着触媒14bのHC吸着量が、予め定められた浄化禁止基準値th2以上かを判断する(S108)。図3に示されるように、この浄化禁止基準値th2は、上述した浄化開始基準値th1よりも高い値であって、HC吸着量がそれ以上であった場合には浄化(触媒物質の作用による酸化処理)が不可能ないし実質的に不可能となるような値に設定される。否定、すなわちHC吸着量が浄化禁止基準値th2未満の場合には、ECU50は後述するHC供給禁止フラグをリセットすることでHC供給禁止を解除し(S109)、下流側ヒータ33の通電を制御して、下流側HC吸着触媒14bを、浄化温度(例えば400°C以上)に加熱する(S110)。これによって、下流側HC吸着触媒14bに吸着されたHCが、触媒物質の作用により浄化される。
【0037】
そして、ステップS108で肯定、すなわちHC吸着量が浄化禁止基準値th2以上の場合には、ECU50はそのRAMの所定の記憶領域に設けられた供給禁止フラグをセットすることで、燃料噴射弁15からの燃料供給を禁止し(S111)、かつ、下流側ヒータ33を停止させるか、あるいは停止状態を維持させる(S112)。したがって、下流側ヒータ33による加熱は行われない。
【0038】
以上の処理の結果、本実施形態では、ECU50が、上流側HC吸着触媒14aのHC吸着量が脱離開始基準値th0以上の場合に(S104)、上流側HC吸着触媒14aの温度がHC脱離温度以上かつHC浄化温度以下になるように、排気昇温装置40を制御するので(S106)、上流側HC吸着触媒14aがHC浄化温度に到達する頻度が抑制される。したがって、上流側HC吸着触媒14aの劣化を抑制することができる。
【0039】
また上流側HC吸着触媒14a及び下流側HC吸着触媒14aの触媒物質によるHC浄化性能及びCO浄化性能は、いずれもHC吸着量が多いほど低下するものであるところ、本実施形態では、下流側HC吸着触媒14bのHC吸着量が、予め定められた浄化開始基準値th1以上である場合に(S107)、下流側ヒータ33によって下流側HC吸着触媒14bを、HC浄化温度に加熱する(S110)。したがって、下流側HC吸着触媒14bに吸着されたHCを触媒作用により浄化させ、そのHC吸着性能を維持することができると共に、下流側HC吸着触媒14bからのHCの脱離に起因するその後段の排気浄化触媒13(選択還元触媒)のHC被毒、及びこれに伴う浄化性能の低下を回避ないし抑制することができる。
【0040】
また本実施形態では、下流側HC吸着触媒14bのHC吸着量が、予め定められた浄化禁止基準値th2以上である場合には(S108)、ECU50は所定の供給禁止フラグをセットすることで、燃料噴射弁15からの燃料供給を禁止し(S111)、かつ下流側ヒータ33を停止させるか、あるいは停止状態を維持させる(S112)。したがって、下流側HC吸着触媒14bからのHCの脱離が回避ないし抑制され、その後段の排気浄化触媒13(選択還元触媒)のHC被毒、及びそれに伴う浄化性能の低下を回避ないし抑制することができる。
【0041】
本発明をある程度の具体性をもって説明したが、特許請求の範囲に記載された発明の精神や範囲から離れることなしに、さまざまな改変や変更が可能であることは理解されなければならない。上記実施形態及び各変形例に示された種々の技術手段は、可能な限り互いに組み合わせることができ、また可能な限り個別に用いることもできる。
【0042】
上記実施形態において、下流側HC吸着触媒14bの検出又は推定されるHC吸着量が所定の基準値以上である場合に、排気昇温装置40によって上流側HC吸着触媒14aの温度を、HC浄化温度以上(かつ、好ましくは下流側HC吸着触媒14bの劣化のおそれが顕著になる劣化温度以下)になるように制御してもよい。ここで用いられる所定の基準値は、下流側HC吸着触媒14bのHC吸着性能に余裕が少なくなることを示すもの、例えば浄化開始基準値th1よりも高い値が好適である。この態様では、下流側HC吸着触媒14bのHC吸着量が多いためにそのHC吸着性能に余裕が少ない場合に、上流側HC吸着触媒14aを昇温させて浄化能力を向上させることで、大気へのHC放出を抑制することができる。また、下流側HC吸着触媒14bのHC吸着量が少ないためにそのHC吸着性能に余裕がある場合には、上流側HC吸着触媒14aの過熱による劣化の抑制を優先させることができる。この場合には更に、上流側HC吸着触媒14aと同時に下流側HC吸着触媒14bを昇温させてもよく、その温度は上流側HC吸着触媒14aと同様にHC浄化温度以上かつHC劣化温度以下としてもよい。なお、この態様では上流側HC吸着触媒14aのHC吸着量の推定は必ずしも必須でない。
【0043】
上記実施形態では、上流側HC吸着触媒14a及び下流側HC吸着触媒14bにおける推定されるHC吸着量を用いて装置の動作を制御したが、HC脱離量を例えばA/Fセンサ及び/又はNOxセンサで検出するか或いは運転状態から推定し、これに基づいて排気昇温装置40及び/又は下流側ヒータ33を制御することとしてもよい。本発明はターボチャージャを有しない内燃機関にも適用できる。
【符号の説明】
【0044】
12 排気通路
13 排気浄化触媒
14a 上流側HC吸着触媒
14b 下流側HC吸着触媒
15 燃料噴射弁
16 グロープラグ
31,32 温度センサ
33 下流側ヒータ
50 電子制御ユニット
60 NH3供給弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設置され炭化水素を吸着及び浄化する第1のHC吸着触媒と、
前記第1のHC吸着触媒よりも下流側の排気通路に設置され炭化水素を吸着及び浄化する第2のHC吸着触媒と、
前記第1のHC吸着触媒を昇温させる昇温手段と、
前記第1のHC吸着触媒のHC吸着量を推定する上流側吸着量推定手段と、
前記昇温手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記第1のHC吸着触媒のHC吸着量が所定値以上の場合に、前記第1のHC吸着触媒の温度がHC脱離温度以上かつHC浄化温度以下になるように、前記昇温手段を制御することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
内燃機関の排気通路に設置され炭化水素を吸着及び浄化する第1のHC吸着触媒と、
前記第1のHC吸着触媒よりも下流側の排気通路に設置され炭化水素を吸着及び浄化する第2のHC吸着触媒と、
前記第1のHC吸着触媒を昇温させる昇温手段と、
前記第2のHC吸着触媒のHC吸着量を推定する下流側吸着量推定手段を更に備え、
前記制御手段は、前記第2のHC吸着触媒のHC吸着量が所定値以上の場合に、前記第1のHC吸着触媒の温度がHC浄化温度以上になるように、前記昇温手段を制御することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−207630(P2012−207630A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75321(P2011−75321)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】