説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】排気浄化装置の温度が高温になっても高いNOX浄化率を得ることのできる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】酸化触媒装置13の下流側に配置されて排気ガス中のNOXと酸化触媒装置により改質された炭化水素とを反応させるための排気浄化触媒装置14を具備し、酸化触媒装置に流入する炭化水素濃度の振動振幅を予め定められた範囲内の振幅とするために酸化触媒装置の上流側に配置された炭化水素供給弁15からの炭化水素の噴射量を制御すると共に、酸化触媒装置に流入する炭化水素濃度の振動周期を予め定められた範囲内の周期とするために炭化水素供給弁からの炭化水素の噴射周期を制御して排気浄化触媒装置においてNOXを還元させるときには、炭化水素供給弁の炭化水素の噴射量は、酸化触媒装置と排気浄化触媒装置との間のCO2濃度上昇がサーチレートするまで徐々に増量される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機関排気通路内に、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるNOXを吸蔵し流入する排気ガスの空燃比がリッチになると吸蔵したNOXを放出するNOX吸蔵触媒装置を配置し、NOX吸蔵触媒装置の上流側の機関排気通路内に酸化触媒装置を配置し、NOX吸蔵触媒装置からNOXを放出すべきときには、酸化触媒装置の下流側において空燃比センサにより排気ガスの空燃比を監視して、排気ガスの空燃比が所望のリッチ空燃比となるように、酸化触媒装置の上流側の機関排気通路内に炭化水素を供給するようにした内燃機関の排気浄化装置が公知である(特許文献1参照)。
【0003】
この内燃機関の排気浄化装置ではNOX吸蔵触媒装置からNOXを放出すべきときに供給された炭化水素が酸化触媒装置においてガス状の炭化水素とされ、ガス状の炭化水素がNOX吸蔵触媒装置に送り込まれる。その結果、NOX吸蔵触媒装置から放出されたNOXが良好に還元せしめられることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−209839
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の排気浄化装置において、NOX吸蔵触媒装置の触媒が活性化すれば良好なNOX浄化率を得ることができる。しかしながらNOX吸蔵触媒装置は高温になるとNOX浄化率が低下するという問題がある。
【0006】
従って、本発明の目的は、排気浄化装置の温度が高温になっても高いNOX浄化率を得ることのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置は、排気通路に配置された酸化触媒装置と、前記排気通路の前記酸化触媒装置の上流側に配置された炭化水素供給弁と、前記排気通路の前記酸化触媒装置の下流側に配置されて排気ガス中のNOXと前記酸化触媒装置により改質された炭化水素とを反応させるための排気浄化触媒装置とを具備し、前記排気浄化触媒装置の排気ガス流通表面上には貴金属触媒が担持されていると共に前記貴金属触媒周りには塩基性の排気ガス流通表面部分が形成されており、前記排気浄化触媒装置は、前記酸化触媒装置に流入する炭化水素濃度を予め定められた範囲内の振幅および予め定められた範囲内の周期でもって振動させると排気ガス中に含まれるNOXを還元する性質を有すると共に、前記炭化水素濃度の振動周期を前記予め定められた範囲よりも長くすると排気ガス中に含まれるNOXの吸蔵量が増大する性質を有しており、機関運転時に、前記酸化触媒装置に流入する前記炭化水素濃度の振動振幅を前記予め定められた範囲内の振幅とするために前記炭化水素供給弁からの炭化水素の噴射量を制御すると共に、前記酸化触媒装置に流入する前記炭化水素濃度の振動周期を前記予め定められた範囲内の周期とするために前記炭化水素供給弁からの炭化水素の噴射周期を制御して、前記排気浄化触媒装置においてNOXを還元させるときには、前記炭化水素供給弁の炭化水素の前記噴射量は、前記酸化触媒装置と前記排気浄化触媒装置との間のCO2濃度上昇がサーチレートするまで徐々に増量されることを特徴とする。
【0008】
本発明による請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置は、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置において、機関運転時に、前記酸化触媒装置に流入する前記炭化水素濃度の振動振幅を前記予め定められた範囲内の振幅とするために前記炭化水素供給弁からの炭化水素の噴射量を制御すると共に、前記酸化触媒装置に流入する前記炭化水素濃度の振動周期を前記予め定められた範囲内の周期とするために前記炭化水素供給弁からの炭化水素の噴射周期を制御して、前記排気浄化触媒装置においてNOXを還元させるときには、前記酸化触媒装置において前記炭化水素供給弁から噴射される炭化水素が設定範囲内の炭素数を有する炭化水素へ改質されるように、前記酸化触媒装置へ流入する排気ガス中の酸素濃度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明による請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置は、機関運転時に、酸化触媒装置に流入する炭化水素濃度の振動振幅を予め定められた範囲内の振幅とするために炭化水素供給弁からの炭化水素の噴射量を制御すると共に、酸化触媒装置に流入する炭化水素濃度の振動周期を予め定められた範囲内の周期とするために炭化水素供給弁からの炭化水素の噴射周期を制御して、排気浄化触媒装置においてNOXを還元させるときには、炭化水素供給弁の炭化水素の噴射量は、酸化触媒装置と排気浄化触媒装置との間のCO2濃度上昇がサーチレートするまで徐々に増量されるようになっている。酸化触媒装置において炭化水素が改質されるとCO2が発生するために、このCO2濃度上昇がサーチレートしたときには、これ以上の量の炭化水素は酸化触媒装置において改質することができず、酸化触媒装置の現在の最大改質可能量の炭化水素が酸化触媒装置へ供給されていることとなるために、本発明による請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置によれば、改質されずに排気浄化触媒装置においてNOXの還元に寄与することなくそのまま排出される炭化水素量を最小限として多量の改質炭化水素により排気浄化触媒装置において良好なNOXの還元が可能となる。
【0010】
ところで、炭化水素供給弁から噴射される炭化水素が酸化触媒装置において改質されても、炭化水素の炭素数が小さすぎると反応性が高すぎて、炭化水素の炭素数が大きすぎると反応性が低すぎて、いずれも排気浄化触媒装置においてNOXと良好に反応しない。本発明による請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置によれば、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置において、機関運転時に、酸化触媒装置に流入する炭化水素濃度の振動振幅を予め定められた範囲内の振幅とするために炭化水素供給弁からの炭化水素の噴射量を制御すると共に、酸化触媒装置に流入する炭化水素濃度の振動周期を予め定められた範囲内の周期とするために炭化水素供給弁からの炭化水素の噴射周期を制御して、排気浄化触媒装置においてNOXを還元させるときには、酸化触媒装置において炭化水素供給弁から噴射される炭化水素が設定範囲内の炭素数を有する炭化水素へ改質されるように、酸化触媒装置へ流入する排気ガス中の酸素濃度を制御するようになっている。それにより、酸化触媒装置において改質された炭化水素は、排気浄化触媒装置において良好にNOXと反応して、NOXを良好に還元することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】圧縮着火式内燃機関の全体図である。
【図2】排気浄化触媒装置の触媒の表面部分を図解的に示す図である。
【図3】酸化触媒装置における酸化反応を説明するための図である。
【図4】排気浄化触媒装置への流入排気ガスの空燃比の変化を示す図である。
【図5】NOX浄化率を示す図である。
【図6】排気浄化触媒装置におけるNOXの酸化還元反応を説明するための図であり、(A)は酸素濃度が高いとき、(B)は炭化水素濃度が高いときを示している。
【図7】排気浄化触媒装置におけるNOXの反応を説明するための図であり、(A)は酸化反応、(B)は還元反応を示している。
【図8】排気浄化触媒装置への流入排気ガスの空燃比の変化を示す図である。
【図9】NOX浄化率を示す図である。
【図10】酸化触媒装置への流入排気ガスの空燃比の変化を示すタイムチャートである。
【図11】酸化触媒装置への流入排気ガスの空燃比の変化を示すタイムチャートである。
【図12】酸化触媒装置の酸化力と要求最小空燃比Xとの関係を示す図である。
【図13】同一のNOX浄化率の得られる、排気ガス中の酸素濃度と炭化水素濃度の振幅ΔHとの関係を示す図である。
【図14】炭化水素濃度の振幅ΔHとNOX浄化率との関係を示す図である。
【図15】炭化水素濃度の振動周期ΔTとNOX浄化率との関係を示す図である。
【図16】排気浄化触媒装置への流入排気ガスの空燃比の変化等を示す図である。
【図17】排出NOX量NOXAのマップを示す図である。
【図18】燃料噴射時期を示す図である。
【図19】追加燃料量WRのマップを示す図である。
【図20】第1のNOX浄化方法によりNOXを浄化するときの炭化水素供給弁の制御を示す第1フローチャートである。
【図21】炭化水素供給弁の噴射量と酸化触媒装置から流出する排気ガス中のCO2濃度との関係と、炭化水素供給弁の噴射量と排気浄化触媒装置でのNOX浄化率との関係を示すグラフである。
【図22】第1のNOX浄化方法によりNOXを浄化するときのベース空燃比制御を示す第2フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に圧縮着火式内燃機関の全体図を示す。図1を参照すると、1は機関本体、2は各気筒の燃焼室、3は各燃焼室2内に夫々燃料を噴射するための電子制御式燃料噴射弁、4は吸気マニホルド、5は排気マニホルドを夫々示す。吸気マニホルド4は吸気ダクト6を介して排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に連結され、コンプレッサ7aの入口は吸入空気量検出器8を介してエアクリーナ9に連結される。吸気ダクト6内にはステップモータにより駆動されるスロットル弁10が配置され、更に吸気ダクト6周りには吸気ダクト6内を流れる吸入空気を冷却するための冷却装置11が配置される。図1に示される実施例では機関冷却水が冷却装置11内に導かれ、機関冷却水によって吸入空気が冷却される。
【0013】
一方、排気マニホルド5は排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に連結される。排気タービン7bの出口は排気管12を介して酸化触媒装置13の入口に連結され、酸化触媒装置13の出口は排気浄化触媒装置14に連結される。酸化触媒装置13上流の排気管12内には圧縮着火式内燃機関の燃料として用いられる軽油その他の燃料からなる炭化水素を供給するための炭化水素供給弁15が配置される。図1に示される実施例では炭化水素供給弁15から供給される炭化水素として軽油が用いられている。なお、本発明はリーン空燃比のもとで燃焼の行われる火花点火式内燃機関にも適用することができる。この場合、炭化水素供給弁15からは火花点火式内燃機関の燃料として用いられるガソリンその他の燃料からなる炭化水素が供給される。
【0014】
一方、排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは排気ガス再循環(以下、EGRと称す)通路16を介して互いに連結され、EGR通路16内には電子制御式EGR制御弁17が配置される。また、EGR通路16周りにはEGR通路16内を流れるEGRガスを冷却するための冷却装置18が配置される。図1に示される実施例では機関冷却水が冷却装置18内に導かれ、機関冷却水によってEGRガスが冷却される。一方、各燃料噴射弁3は燃料供給管19を介してコモンレール20に連結され、このコモンレール20は電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ21を介して燃料タンク22に連結される。燃料タンク22内に貯蔵されている燃料は燃料ポンプ21によってコモンレール20内に供給され、コモンレール20内に供給された燃料は各燃料供給管19を介して燃料噴射弁3に供給される。
【0015】
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。排気浄化触媒装置14の下流には排気ガス温を検出するための温度センサ25が取付けられており、酸化触媒装置13と排気浄化触媒装置14との間の排気管12aには、酸化触媒装置13から流出する排気ガス中のCO2濃度変化を検出するためのCO2センサ23が取付けられている。温度センサ25、CO2センサ23および吸入空気量検出器8の出力信号は夫々対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35にはクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して燃料噴射弁3、スロットル弁10の駆動用ステップモータ、炭化水素供給弁15、EGR制御弁17および燃料ポンプ21に接続される。
【0016】
図2は排気浄化触媒装置14の基体上に担持された触媒担体の表面部分を図解的に示している。この排気浄化触媒装置14では図2に示されるように例えばアルミナからなる触媒担体50上には貴金属触媒51,52が担持されており、更にこの触媒担体50上にはカリウムK、ナトリウムNa、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類金属、ランタノイドのような希土類および銀Ag、銅Cu、鉄Fe、イリジウムIrのようなNOXに電子を供与しうる金属から選ばれた少なくとも一つを含む塩基性層53が形成されている。排気ガスは触媒担体50上に沿って流れるので貴金属触媒51,52は排気浄化触媒装置14の排気ガス流通表面上に担持されていると言える。また、塩基性層53の表面は塩基性を呈するので塩基性層53の表面は塩基性の排気ガス流通表面部分54と称される。
【0017】
一方、図2において貴金属触媒51は白金Ptからなり、貴金属触媒52はロジウムRhからなる。即ち、触媒担体50に担持されている貴金属触媒51,52は白金PtおよびロジウムRhから構成されている。なお、排気浄化触媒装置14の触媒担体50上には白金PtおよびロジウムRhに加えて更にパラジウムPdを担持させることができるし、或いはロジウムRhに代えてパラジウムPdを担持させることができる。即ち、触媒担体50に担持されている貴金属触媒51,52は白金Ptと、ロジウムRhおよびパラジウムPdの少なくとも一方とにより構成される。
【0018】
図3は酸化触媒装置13の基体上に担持された触媒担体の表面部分を図解的に示している。酸化触媒装置13では図3に示されるように例えばアルミナからなる触媒担体60上には貴金属触媒61が担持されている。貴金属触媒61は、例えば白金Ptとすることができる。
【0019】
炭化水素供給弁15から排気ガス中に炭化水素が噴射されるとこの炭化水素は酸化触媒装置13において改質される。本発明では、このように改質された炭化水素を用いて排気浄化触媒装置14においてNOXを浄化するようにしている。図3は酸化触媒装置13において行われる改質作用を図解的に示している。図3に示されるように炭化水素供給弁15から噴射された炭化水素HCは触媒61によって炭素数の少ないラジカル状の炭化水素HCとなる。
【0020】
図4は炭化水素供給弁15からの炭化水素の供給タイミングと排気浄化触媒装置14への流入排気ガスの空燃比(A/F)inの変化とを示している。なお、この空燃比(A/F)inの変化は酸化触媒装置13に流入する排気ガス中の炭化水素の濃度変化に依存しているので図4に示される空燃比(A/F)inの変化は炭化水素の濃度変化を表しているとも言える。ただし、炭化水素濃度が高くなると空燃比(A/F)inは小さくなるので図4においては空燃比(A/F)inがリッチ側となるほど炭化水素濃度が高くなっている。
【0021】
図5は、酸化触媒装置13に流入する炭化水素の濃度を周期的に変化させることによって図4に示されるように排気浄化触媒装置14への流入排気ガスの空燃比(A/F)inを変化させたときの排気浄化触媒装置14によるNOX浄化率を排気浄化触媒装置14の各触媒温度TCに対して示している。酸化触媒装置13に流入する炭化水素の濃度を予め定められた範囲内の振幅および予め定められた範囲内の周期でもって振動させると、図5に示されるように排気浄化触媒装置14の触媒温度が400°C以上の高温領域においても極めて高いNOX浄化率が得られることが判明している。
【0022】
更にこのときには窒素および炭化水素を含む多量の還元性中間体が塩基性層53の表面上に、即ち排気浄化触媒装置14の塩基性排気ガス流通表面部分54上に保持又は吸着され続けており、この還元性中間体が高NOX浄化率を得る上で中心的役割を果していることが判明している。次にこのことについて図6(A)および図6(B)を参照しつつ説明する。なお、これら図6(A)および図6(B)は排気浄化触媒装置14の触媒担体50の表面部分を図解的に示しており、これら図6(A)および図6(B)には酸化触媒装置13に流入する炭化水素の濃度が予め定められた範囲内の振幅および予め定められた範囲内の周期でもって振動せしめたときに生ずると推測される反応が示されている。
【0023】
図6(A)は酸化触媒装置13を介して排気浄化触媒装置14に流入する炭化水素の濃度が低いときを示しており、図6(B)は炭化水素供給弁15から炭化水素が供給されて酸化触媒装置13を介して排気浄化触媒装置14に流入する炭化水素の濃度が高くなっているときを示している。
【0024】
さて、図4からわかるように排気浄化触媒装置14に流入する排気ガスの空燃比は一瞬を除いてリーンに維持されているので排気浄化触媒装置14に流入する排気ガスは通常酸素過剰の状態にある。従って排気ガス中に含まれるNOは図6(A)に示されるように白金51上において酸化されてNO2となり、次いでこのNO2は更に酸化されてNO3となる。また、NO2の一部はNO2-となる。この場合、NO3の生成量の方がNO2-の生成量よりもはるかに多い。従って白金Pt51上には多量のNO3と少量のNO2-が生成されることになる。これらNO3およびNO2-は活性が強く、以下これらNO3およびNO2-を活性NOX*と称する。
【0025】
一方、炭化水素供給弁15から炭化水素が供給されると図3に示されるようにこの炭化水素は酸化触媒装置13内において改質され、ラジカルとなって排気浄化触媒装置14へ流入する。その結果、図6(B)に示されるように、活性NOX*周りの炭化水素濃度が高くなる。ところで活性NOX*が生成された後、活性NOX*周りの酸素濃度が高い状態が一定時間以上継続すると活性NOX*は酸化され、硝酸イオンNO3-の形で塩基性層53内に吸収される。しかしながらこの一定時間が経過する前に活性NOX*周りの炭化水素濃度が高くされると図6(B)に示されるように活性NOX*は白金51上においてラジカル状の炭化水素HCと反応し、それにより還元性中間体が生成される。この還元性中間体は塩基性層53の表面上に付着又は吸着される。
【0026】
なお、このとき最初に生成される還元性中間体はニトロ化合物R-NO2であると考えられる。このニトロ化合物R-NO2は生成されるとニトリル化合物R-CNとなるがこのニトリル化合物R-CNはその状態では瞬時しか存続し得ないのでただちにイソシアネート化合物R-NCOとなる。このイソシアネート化合物R-NCOは加水分解するとアミン化合物R-NH2となる。ただしこの場合、加水分解されるのはイソシアネート化合物R-NCOの一部であると考えられる。従って図6(B)に示されるように塩基性層53の表面上に保持又は吸着されている還元性中間体の大部分はイソシアネート化合物R-NCOおよびアミン化合物R-NH2であると考えられる。
【0027】
一方、図6(B)に示されるように生成された還元性中間体の周りを炭化水素HCが取り囲んでいると還元性中間体は炭化水素HCに阻まれてそれ以上反応が進まない。この場合、排気浄化触媒装置14に流入する炭化水素の濃度が低下せしめられ、それによって酸素濃度が高くなると還元性中間体周りの炭化水素は酸化せしめられる。その結果、図6(A)に示されるように還元性中間体と活性NOX*とが反応するようになる。このとき活性NOX*は還元性中間体R-NCOやR-NH2と反応してN2,CO2,H2Oとなり、斯くしてNOXが浄化されることになる。
【0028】
このように排気浄化触媒装置14では、排気浄化触媒装置14に流入するラジカル炭化水素の濃度を高くすることにより還元性中間体が生成され、排気浄化触媒装置14に流入する炭化水素の濃度を低くして酸素濃度を高くすることにより活性NOX*が還元性中間体と反応し、NOXが浄化される。即ち、排気浄化触媒装置14によりNOXを浄化するには酸化触媒装置13を介して排気浄化触媒装置14に流入する炭化水素の濃度を周期的に変化させる必要がある。
【0029】
無論、この場合、還元性中間体を生成するのに十分高い濃度までラジカル炭化水素の濃度を高める必要があり、生成された還元性中間体を活性NOX*と反応させるのに十分低い濃度まで炭化水素の濃度を低下させる必要がある。即ち、酸化触媒装置13に流入する炭化水素の濃度を予め定められた範囲内の振幅で振動させる必要がある。なお、この場合、生成された還元性中間体が活性NOX*と反応するまで、十分な量の還元性中間体R-NCOやR-NH2を塩基性層53上に、即ち塩基性排気ガス流通表面部分54上保持しておかなければならず、そのために塩基性の排気ガス流通表面部分54が設けられている。
【0030】
一方、炭化水素の供給周期を長くすると炭化水素が供給された後、次に炭化水素が供給されるまでの間において酸素濃度が高くなる期間が長くなり、従って活性NOX*は還元性中間体を生成することなく硝酸塩の形で塩基性層53内に吸収されることになる。これを回避するためには酸化触媒装置13に流入する炭化水素の濃度を予め定められた範囲内の周期でもって振動させることが必要となる。
【0031】
そこで本発明による実施例では、排気ガス中に含まれるNOXと改質された炭化水素とを反応させて窒素および炭化水素を含む還元性中間体R-NCOやR-NH2を生成するために排気浄化触媒装置14の排気ガス流通表面上には貴金属触媒51,52が担持されており、生成された還元性中間体R-NCOやR-NH2を排気浄化触媒装置14内に保持しておくために貴金属触媒51,52周りには塩基性の排気ガス流通表面部分54が形成されており、塩基性の排気ガス流通表面部分54上に保持された還元性中間体R-NCOやR-NH2の還元作用によりNOXが還元され、酸化触媒装置13へ流入する炭化水素濃度の振動周期は排気浄化触媒装置14において還元性中間体R-NCOやR-NH2を生成し続けるのに必要な振動周期とされる。因みに図4に示される例では噴射間隔が3秒とされている。
【0032】
炭化水素濃度の振動周期、即ち炭化水素HCの供給周期を上述の予め定められた範囲内の周期よりも長くすると塩基性層53の表面上から還元性中間体R-NCOやR-NH2が消滅し、このとき白金Pt51上において生成された活性NOX*は図7(A)に示されるように硝酸イオンNO3-の形で塩基性層53内に拡散し、硝酸塩となる。即ち、このときには排気ガス中のNOXは硝酸塩の形で塩基性層53内に吸収されることになる。
【0033】
一方、図7(B)はこのようにNOXが硝酸塩の形で塩基性層53内に吸収されているときに排気浄化触媒装置14内に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比又はリッチにされた場合を示している。この場合には排気ガス中の酸素濃度が低下するために反応が逆方向(NO3-→NO2)に進み、斯くして塩基性層53内に吸収されている硝酸塩は順次硝酸イオンNO3-となって図7(B)に示されるようにNO2の形で塩基性層53から放出される。次いで放出されたNO2は排気ガス中に含まれる炭化水素HCおよびCOによって還元される。
【0034】
図8は塩基性層53のNOX吸収能力が飽和する少し前に排気浄化触媒装置14に流入する排気ガスの空燃比(A/F)inを一時的にリッチにするようにした場合を示している。なお、図8に示す例ではこのリッチ制御の時間間隔は1分以上である。この場合には排気ガスの空燃比(A/F)inがリーンのときに塩基性層53内に吸収されたNOXは、排気ガスの空燃比(A/F)inが一時的にリッチにされたときに塩基性層53から一気に放出されて還元される。従ってこの場合には塩基性層53はNOXを一時的に吸収するための吸収剤の役目を果している。
【0035】
なお、このとき塩基性層53がNOXを一時的に吸着する場合もあり、従って吸収および吸着の双方を含む用語として吸蔵という用語を用いるとこのとき塩基性層53はNOXを一時的に吸蔵するためのNOX吸蔵剤の役目を果していることになる。即ち、この場合には、機関吸気通路、燃焼室2および排気浄化触媒装置14上流の排気通路内に供給された空気および燃料(炭化水素)の比を排気ガスの空燃比と称すると、排気浄化触媒装置14は、排気ガスの空燃比がリーンのときにはNOXを吸蔵し、排気ガス中の酸素濃度が低下すると吸蔵したNOXを放出するNOX吸蔵触媒として機能している。
【0036】
図9は、排気浄化触媒装置14をこのようにNOX吸蔵触媒として機能させたときのNOX浄化率を示している。なお、図9の横軸は排気浄化触媒装置14の触媒温度TCを示している。排気浄化触媒装置14をNOX吸蔵触媒として機能させた場合には図9に示されるように触媒温度TCが300°Cから400°Cのときには極めて高いNOX浄化率が得られるが触媒温度TCが400°C以上の高温になるとNOX浄化率が低下する。
【0037】
このように触媒温度TCが400°C以上になるとNOX浄化率が低下するのは、触媒温度TCが400°C以上になると硝酸塩が熱分解してNO2の形で排気浄化触媒装置14から放出されるからである。即ち、NOXを硝酸塩の形で吸蔵している限り、触媒温度TCが高いときに高いNOX浄化率を得るのは困難である。しかしながら図4から図6(A)及び(B)に示される新たなNOX浄化方法では図6(A)及び(B)からわかるように硝酸塩は生成されず或いは生成されても極微量であり、斯くして図5に示されるように触媒温度TCが高いときでも高いNOX浄化率が得られることになる。
【0038】
そこで本発明では、炭化水素を供給するための炭化水素供給弁15を機関排気通路内に配置し、炭化水素供給弁15下流の機関排気通路内に排気ガス中に含まれる炭化水素を改質するための酸化触媒装置13と、排気ガス中に含まれるNOXと改質された炭化水素とを反応させるための排気浄化触媒装置14とを配置し、排気浄化触媒装置14の排気ガス流通表面上には貴金属触媒51,52が担持されていると共に貴金属触媒51,52周りには塩基性の排気ガス流通表面部分54が形成されており、排気浄化触媒装置14は、酸化触媒装置13に流入する炭化水素の濃度を予め定められた範囲内の振幅および予め定められた範囲内の周期でもって振動させると排気ガス中に含まれるNOXを還元する性質を有すると共に、炭化水素濃度の振動周期をこの予め定められた範囲よりも長くすると排気ガス中に含まれるNOXの吸蔵量が増大する性質を有しており、機関運転時に酸化触媒装置13に流入する炭化水素の濃度を予め定められた範囲内の振幅および予め定められた範囲内の周期でもって振動させ、それにより排気ガス中に含まれるNOXを排気浄化触媒装置14において還元するようにしている。
【0039】
即ち、図4から図6(A)及び(B)に示されるNOX浄化方法は、貴金属触媒を担持しかつNOXを吸収しうる塩基性層を形成した排気浄化触媒装置を用いた場合において、ほとんど硝酸塩を形成することなくNOXを浄化するようにした新たなNOX浄化方法であると言うことができる。実際、この新たなNOX浄化方法を用いた場合には排気浄化触媒装置14をNOX吸蔵触媒として機能させた場合に比べて、塩基性層53から検出される硝酸塩は極微量である。なお、この新たなNOX浄化方法を以下、第1のNOX浄化方法と称する。
【0040】
次に図10から図15を参照しつつこの第1のNOX浄化方法についてもう少し詳細に説明する。
図10は図4に示される空燃比(A/F)inの変化を拡大して示している。なお、前述したようにこの酸化触媒装置13への流入排気ガスの空燃比(A/F)inの変化は同時に酸化触媒装置13に流入する炭化水素の濃度変化を示している。なお、図10においてΔHは酸化触媒装置13に流入する炭化水素HCの濃度変化の振幅を示しており、ΔTは酸化触媒装置13に流入する炭化水素濃度の振動周期を示している。
【0041】
更に図10において(A/F)bは機関出力を発生するための燃焼ガスの空燃比を示すベース空燃比を表している。言い換えるとこのベース空燃比(A/F)bは炭化水素の供給を停止したときに酸化触媒装置13および排気浄化触媒装置14に流入する排気ガスの空燃比を表している。一方、図10においてXは、生成された活性NOX*が硝酸塩の形で塩基性層53内に吸蔵されることなく還元性中間体の生成のために使用される空燃比(A/F)inの上限を表しており、活性NOX*と改質された炭化水素とを反応させて還元性中間体を生成させるには空燃比(A/F)inをこの空燃比の上限Xよりも低くすることが必要となる。
【0042】
別の言い方をすると図10のXは活性NOX*と改質された炭化水素とを反応させて還元性中間体を生成させるのに必要な酸化触媒装置13へ流入する排気ガス中の炭化水素の濃度の下限を表しており、還元性中間体を生成するためには炭化水素の濃度をこの下限Xよりも高くする必要がある。この場合、還元性中間体が生成されるか否かは活性NOX*周りの酸素濃度と炭化水素濃度との比率、即ち空燃比(A/F)inで決まり、還元性中間体を生成するのに必要な上述の空燃比の上限Xを以下、要求最小空燃比と称する。
【0043】
図10に示される例では要求最小空燃比Xがリッチとなっており、従ってこの場合には還元性中間体を生成するために空燃比(A/F)inが瞬時的に要求最小空燃比X以下に、即ちリッチにされる。これに対し、図11に示される例では要求最小空燃比Xがリーンとなっている。この場合には空燃比(A/F)inをリーンに維持しつつ空燃比(A/F)inを周期的に低下させることによって還元性中間体が生成される。
【0044】
この場合、要求最小空燃比Xがリッチになるかリーンになるかは酸化触媒装置13の酸化力による。この場合、酸化触媒装置13は例えば貴金属51の担持量を増大させれば酸化力が強まる。従って酸化触媒装置13の酸化力は貴金属51の担持量や、貴金属51の酸化能力によって変化することになる。
【0045】
さて、酸化力が強い酸化触媒装置13を用いた場合に図11に示されるように空燃比(A/F)inをリーンに維持しつつ空燃比(A/F)inを周期的に低下させると、空燃比(A/F)inが低下せしめられたときに炭化水素が完全に酸化されてしまい、その結果、排気浄化触媒装置14において還元性中間体を生成することができなくなる。これに対し、酸化力が強い酸化触媒装置13を用いた場合に図10に示されるように空燃比(A/F)inを周期的にリッチにさせると空燃比(A/F)inがリッチにされたときに炭化水素は完全に酸化されることなく部分酸化され、即ち炭化水素が改質され、斯くして排気浄化触媒装置14において還元性中間体が生成されることになる。従って酸化力が強い酸化触媒装置13を用いた場合には要求最小空燃比Xはリッチにする必要がある。
【0046】
一方、酸化力が弱い酸化触媒装置13を用いた場合には図11に示されるように空燃比(A/F)inをリーンに維持しつつ空燃比(A/F)inを周期的に低下させると、炭化水素は完全に酸化されずに部分酸化され、即ち炭化水素が改質され、斯くして排気浄化触媒装置14において還元性中間体が生成される。これに対し、酸化力が弱い酸化触媒装置13を用いた場合に図10に示されるように空燃比(A/F)inを周期的にリッチにさせると多量の炭化水素は酸化されることなく単に酸化触媒装置13から排出されることになり、このような部分酸化されない炭化水素は、排気浄化触媒装置14において還元性中間体の生成に寄与せずに、排気浄化触媒装置14から排出されてしまうために、斯くして、無駄に消費される炭化水素量が増大することになる。従って酸化力が弱い酸化触媒装置13を用いた場合には要求最小空燃比Xはリーンにする必要がある。
【0047】
即ち、要求最小空燃比Xは図12に示されるように酸化触媒装置13の酸化力が強くなるほど低下させる必要があることがわかる。このように要求最小空燃比Xは酸化触媒装置13の酸化力によってリーンになったり、或いはリッチになったりするが、以下要求最小空燃比Xがリッチである場合を例にとって、酸化触媒装置13に流入する炭化水素の濃度変化の振幅や酸化触媒装置13に流入する炭化水素濃度の振動周期について説明する。
【0048】
さて、ベース空燃比(A/F)bが大きくなると、即ち炭化水素が供給される前の排気ガス中の酸素濃度が高くなると空燃比(A/F)inを要求最小空燃比X以下とするのに必要な炭化水素の供給量が増大し、それに伴って還元性中間体の生成に寄与しなかった余剰の炭化水素量も増大する。この場合、NOXを良好に浄化するためには前述したようにこの余剰の炭化水素を酸化させる必要があり、従ってNOXを良好に浄化するためには余剰の炭化水素量が多いほど多量の酸素が必要となる。
【0049】
この場合、排気ガス中の酸素濃度を高めれば酸素量を増大することができる。従ってNOXを良好に浄化するためには、炭化水素が供給される前の排気ガス中の酸素濃度が高いときには炭化水素供給後の排気ガス中の酸素濃度を高める必要がある。即ち、炭化水素が供給される前の排気ガス中の酸素濃度が高いほど炭化水素濃度の振幅を大きくする必要がある。
【0050】
図13は排気浄化触媒装置14において同一のNOX浄化率が得られるときの、炭化水素が供給される前の排気ガス中の酸素濃度と炭化水素濃度の振幅ΔHとの関係を示している。図13から排気浄化触媒装置14において同一のNOX浄化率を得るためには炭化水素が供給される前の排気ガス中の酸素濃度が高いほど炭化水素濃度の振幅ΔHを増大させる必要があることがわかる。即ち、排気浄化触媒装置14において同一のNOX浄化率を得るにはベース空燃比(A/F)bが高くなるほど炭化水素濃度の振幅ΔHを増大させることが必要となる。別の言い方をすると、NOXを良好に浄化するためにはベース空燃比(A/F)bが低くなるほど炭化水素濃度の振幅ΔHを減少させることができる。
【0051】
ところでベース空燃比(A/F)bが最も低くなるのは加速運転時であり、このとき炭化水素濃度の振幅ΔHが200ppm程度あればNOXを良好に浄化することができる。ベース空燃比(A/F)bは通常、加速運転時よりも大きく、従って図14に示されるように炭化水素濃度の振幅ΔHが200ppm以上であれば良好なNOX浄化率を得ることができることになる。
【0052】
一方、ベース空燃比(A/F)bが最も高いときには炭化水素濃度の振幅ΔHを10000ppm程度にすれば良好なNOX浄化率が得られることがわかっている。従って本発明では炭化水素濃度の振幅の予め定められた範囲が200ppmから10000ppmとされている。
【0053】
また、炭化水素濃度の振動周期ΔTが長くなると炭化水素が供給された後、次に炭化水素が供給される間、活性NOX*周りの酸素濃度が高くなる。この場合、炭化水素濃度の振動周期ΔTが5秒程度よりも長くなると活性NOX*が硝酸塩の形で塩基性層53内に吸収され始め、従って図15に示されるように炭化水素濃度の振動周期ΔTが5秒程度よりも長くなるとNOX浄化率が低下することになる。従って炭化水素濃度の振動周期ΔTは5秒以下とする必要がある。
【0054】
一方、炭化水素濃度の振動周期ΔTがほぼ0.3秒以下になると供給された炭化水素が排気処理触媒13の排気ガス流通表面上に堆積し始め、従って図15に示されるように炭化水素濃度の振動周期ΔTがほぼ0.3秒以下になるとNOX浄化率が低下する。そこで本発明では炭化水素濃度の振動周期が0.3秒から5秒の間とされている。
【0055】
次に、図16から図19を参照しつつ排気浄化触媒装置14をNOX吸蔵触媒として機能させた場合のNOX浄化方法について具体的に説明する。このように排気浄化触媒装置14をNOX吸蔵触媒として機能させた場合のNOX浄化方法を以下、第2のNOX浄化方法と称する。
【0056】
この第2のNOX浄化方法では図16に示されるように塩基性層53に吸蔵された吸蔵NOX量ΣNOXが予め定められた許容量MAXを超えたときに排気浄化触媒装置14に流入する排気ガスの空燃比(A/F)inが一時的にリッチにされる。排気ガスの空燃比(A/F)inがリッチにされると排気ガスの空燃比(A/F)inがリーンのときに塩基性層53内に吸蔵されたNOXが塩基性層53から一気に放出されて還元される。それによってNOXが浄化される。
【0057】
吸蔵NOX量ΣNOXは例えば機関から排出されるNOX量から算出される。本発明による実施例では機関から単位時間当たり排出される排出NOX量NOXAが燃料噴射量Qおよび機関回転数Nの関数として図17に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されており、この排出NOX量NOXAから吸蔵NOX量ΣNOXが算出される。この場合、前述したように排気ガスの空燃比(A/F)inがリッチにされる周期は通常1分以上である。
【0058】
この第2のNOX浄化方法では図18に示されるように燃焼室2内に燃料噴射弁3から燃焼用燃料Qに加え、追加の燃料WRを噴射することによって排気浄化触媒装置14に流入する排気ガスの空燃比(A/F)inがリッチにされる。なお、図18の横軸はクランク角を示している。この追加の燃料WRは燃焼するが機関出力となって現れない時期に、すなわち、圧縮上死点後ATDC90°の少し手前で噴射される。この追加燃料量WRは燃料噴射量Qおよび機関回転数Nの関数として図19に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されている。無論、燃料噴射弁3ではなく、炭化水素供給弁15から追加燃料量WRを供給することによっても、排気ガスの空燃比(A/F)inをリッチにすることができる。
【0059】
さて、再び第1のNOX浄化方法についての説明に戻ると、第1のNOX浄化方法を用いてNOXを良好に浄化するためには前述したように炭化水素濃度の振幅ΔHおよび振動周期ΔTを適切に制御する必要がある。すなわち、第1のNOX浄化方法を用いてNOXを良好に浄化するためには、酸化触媒装置13への流入排気ガスの空燃比(A/F)inが要求最小空燃比X以下となるように炭化水素濃度の振幅ΔHを制御し、炭化水素濃度の振動周期ΔTを0.3秒から5秒の間に制御する必要がある。
【0060】
この場合、本発明では炭化水素濃度の振幅ΔHは炭化水素供給弁15からの炭化水素の噴射量を制御することにより制御され、炭化水素濃度の振動周期ΔTは炭化水素供給弁15からの炭化水素の噴射周期を制御することによって制御される。なおこの場合、炭化水素供給弁15からの炭化水素の噴射量は、炭化水素供給弁15からの炭化水素の噴射時間又は噴射圧の少なくとも一方を制御することにより制御される。
【0061】
図20は、電子制御ユニット30により設定時間毎に実施される第1のNOX浄化方法によりNOXを浄化するときの炭化水素供給弁15の制御を示す第1フローチャートである。先ず、ステップ101において、第1のNOX浄化方法によるNOX浄化が要求されているか否かが判断される。例えば、温度センサ25により排気浄化触媒装置14の温度として検出される排気ガス温度が400°C以上となって排気浄化触媒装置14での第2のNOX浄化方法によるNOX浄化率が低下するときには、ステップ101の判断が肯定され、ステップ102へ進む。ステップ101の判断が否定されるときには、第1のNOX浄化方法によるNOX浄化が要求されておらず、そのまま終了する。
【0062】
ステップ102では、例えば負荷センサ41の出力及びクランク角センサ42の出力に基づき、定常運転が実施されているか否かが判断される。負荷センサ41の出力及びクランク角センサ42の出力が一定であれば、定常運転が実施されていると判断することができる。この判断が否定されるときには、ステップ103において、第1のNOX浄化方法を実施するために現在の機関運転状態(又は現在のベース空燃比及び排気ガス量)に基づき炭化水素供給弁15の噴射量TAUが決定される。この噴射量TAUは、機関運転状態(機関負荷及び機関回転数)に対して予めマップ化しておくことができる。
【0063】
次いで、ステップ104において、炭化水素供給弁15によりステップ103で決定された噴射量TAUでの図10及び11に示すような周期的な噴射(例えば噴射周期3秒)が実施され、前述したような第1のNOX浄化方法によるNOX浄化が実施される。次いで、ステップ105において、噴射量TAUは、僅かな設定量aだけ増加させられる。
【0064】
機関運転状態が変化すれば、ステップ102の判断が否定され、ステップ103において新たな噴射量TAUが決定される。一方、定常運転が実施される場合には、ステップ102の判断が肯定され、ステップ106において、炭化水素供給弁15により噴射量TAUでの周期的な噴射が実施される。次いで、ステップ107において、CO2センサ23により検出される酸化触媒装置13から流出する排気ガス中のCO2濃度変化ΔCが0以下であるか否かが判断される。すなわち、酸化触媒装置13から流出する今回の排気ガス中のCO2濃度が酸化触媒装置13から流出する前回の排気ガス中のCO2濃度以下であるか否かが判断される。
【0065】
ステップ105において噴射量TAUが設定量aだけ増加されており、それにより、酸化触媒装置13において部分酸化される炭化水素量が増加すれば、排気浄化触媒装置14へ流入するラジカル炭化水素量が増加し、排気浄化触媒装置14において生成される還元性中間体も増量するために、NOX浄化率を高めることができる。酸化触媒装置13において炭化水素が部分酸化されるとCO2が生成されることに基づき、CO2濃度変化ΔCが0より大きくなったときには、酸化触媒装置13において部分酸化される炭化水素量が増加したこととなる。それにより、ステップ107の判断が否定されるときには、酸化触媒装置13において部分酸化させる炭化水素量をさらに増加させるために、ステップ108において、噴射量TAUはさらに設定量aだけ増加される。
【0066】
こうして、現在の排気ガス中の酸素量及び現在の酸化触媒装置13の酸化能力などに基づく最大改質可能量となるまで噴射量TAUは増量される。CO2濃度変化ΔCが0以下となると、すなわち、CO2濃度上昇がサーチレートすると、噴射量TAUは最大改質可能量となり、これ以上の量の炭化水素は酸化触媒装置13において改質することができないために、ステップ109において、噴射量TAUは僅かな設定量bだけ減少させる。このような炭化水素供給弁15による噴射量TAUの制御により、酸化触媒装置13において改質されずに排気浄化触媒装置14においてNOXの還元に寄与することなくそのまま排出される炭化水素量を最小限として多量の改質炭化水素により排気浄化触媒装置14において良好なNOXの還元が可能となる。ここで、ステップ109において噴射量TAUを減少させる設定量bは、ステップ105及び108において噴射量TAUを増加させる設定量aと同量としても良い。
【0067】
第1フローチャートにおいて、第1のNOX浄化方法によるNOXの浄化が要求されていないときから、最初に第1のNOX浄化方法によるNOXの浄化が要求されてステップ101の判断が肯定されたときに、もし、定常運転が実施されていた場合には、ステップ103と同様に、第1のNOX浄化方法を実施するために現在の機関運転状態(又は現在のベース空燃比及び排気ガス量)に基づき炭化水素供給弁15の噴射量TAUが決定されることとなる。
【0068】
図21において、三角印は炭化水素供給弁15の噴射量TAUに対する酸化触媒装置13から流出する排気ガス中のCO2濃度を示しており、丸印は炭化水素供給弁の噴射量TUAに対する排気浄化触媒装置でのNOX浄化率を示している。酸化触媒装置13から流出する排気ガス中のCO2濃度上昇がサーチレートするときには、排気浄化触媒装置でのNOX浄化率が80%以上の高い値となっていることがわかる。図21において、四角印は炭化水素供給弁15の噴射量TAUに対する排気浄化触媒装置14から流出する排気ガス中のCO2濃度を示しており、酸化触媒装置13から流出する排気ガス中のCO2濃度に比較して、酸化触媒装置13において部分酸化されなかった炭化水素が排気浄化触媒装置14において部分酸化されて生成されたCO2や、NOXの浄化に際して生成されたCO2が加わるために増加している。
【0069】
CO2濃度センサ23は、赤外線吸収法を利用するものとすることができる。また、CO2濃度センサは、酸化触媒装置13から流出する排気ガス中のCO2濃度変化ΔCに対応する値を検出するものとしても良い。
【0070】
例えば、炭化水素の部分酸化による酸化触媒装置13から流出する排気ガス中のCO2濃度の上昇は、酸化触媒装置13から流出する排気ガス中のO2濃度の低下をもたらすために、酸素濃度を検出する酸素センサを使用して、排気ガス中の排気ガス中のO2濃度低下がサーチレートしたことが検出されれば、このときに排気ガス中のCO2濃度がサーチレートしたとすることができ、炭化水素供給弁15からの噴射量TAUの増加を停止して、設定量bだけ減少させることができる。
【0071】
また、炭化水素の部分酸化による酸化触媒装置13から流出排気ガス中のCO2濃度の上昇は、酸化触媒装置13から流出する排気ガスの温度上昇をもたらすために、排気ガス温度を検出する温度センサを使用して、排気ガスの温度上昇がサーチレートしたことが検出されれば、このときに排気ガス中のCO2濃度がサーチレートしたとすることができ、炭化水素供給弁15からの噴射量TAUの増加を停止して、設定量bだけ減少させることができる。
【0072】
ところで、炭化水素供給弁15から噴射される炭化水素が酸化触媒装置13において改質されても、炭化水素の炭素数が小さすぎると反応性が高すぎて、炭化水素の炭素数が大きすぎると反応性が低すぎて、いずれも排気浄化触媒装置14においてNOXと良好に反応しない。それにより、酸化触媒装置13において改質される炭化水素は、10から12の範囲内の炭素数を有するようにすれば、それ以外の炭素数を有する場合に比較して、NOXの浄化率を1.5倍以上にすることができる。
【0073】
図22は、電子制御ユニット30により設定時間毎に実施される第1のNOX浄化方法によりNOXを浄化するときのベース空燃比制御を示す第2フローチャートである。先ず、第1フローチャートと同様に、ステップ201において、第1のNOX浄化方法によるNOX浄化が要求されているか否かが判断される。この判断が否定されるときには、第1のNOX浄化方法によるNOX浄化が要求されておらず、そのまま終了するが、ステップ201の判断が肯定されるときには、ステップ202において、現在の機関運転状態における燃料噴射弁3から噴射される燃焼用燃料Qに対して、ベース空燃比(A/F)b、すなわち、燃焼空燃比を目標空燃比AFTとするように、スロットル弁10の開度を変化させて吸気量を制御する。一般的には、スロットル弁10の開度を小さくして吸気量を減少させる。
【0074】
酸化触媒装置13において酸素濃度が高過ぎると、炭化水素の部分酸化が進み過ぎてラジカル炭化水素の炭素数が小さくなり過ぎ、また、酸化触媒装置13において酸素濃度が低過ぎると、炭化水素の部分酸化が進まずにラジカル炭化水素の炭素数が大きくなり過ぎる。それにより、ベース空燃比(A/F)bを目標空燃比AFTとして排気ガス中の酸素濃度を適正にすることにより、酸化触媒装置13において生成されるラジカル炭化水素の炭素数を10から12の範囲内にすることができる。
【0075】
第2フローチャートのステップ202において、ベース空燃比(A/F)bを目標空燃比AFTとするために、スロットル弁の開度を変化させたが、燃料噴射弁3から噴射される燃焼用燃料Qを変化させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0076】
13 酸化触媒装置
14 排気浄化触媒装置
15 炭化水素供給弁
30 電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に配置された酸化触媒装置と、前記排気通路の前記酸化触媒装置の上流側に配置された炭化水素供給弁と、前記排気通路の前記酸化触媒装置の下流側に配置されて排気ガス中のNOXと前記酸化触媒装置により改質された炭化水素とを反応させるための排気浄化触媒装置とを具備し、前記排気浄化触媒装置の排気ガス流通表面上には貴金属触媒が担持されていると共に前記貴金属触媒周りには塩基性の排気ガス流通表面部分が形成されており、前記排気浄化触媒装置は、前記酸化触媒装置に流入する炭化水素濃度を予め定められた範囲内の振幅および予め定められた範囲内の周期でもって振動させると排気ガス中に含まれるNOXを還元する性質を有すると共に、前記炭化水素濃度の振動周期を前記予め定められた範囲よりも長くすると排気ガス中に含まれるNOXの吸蔵量が増大する性質を有しており、機関運転時に、前記酸化触媒装置に流入する前記炭化水素濃度の振動振幅を前記予め定められた範囲内の振幅とするために前記炭化水素供給弁からの炭化水素の噴射量を制御すると共に、前記酸化触媒装置に流入する前記炭化水素濃度の振動周期を前記予め定められた範囲内の周期とするために前記炭化水素供給弁からの炭化水素の噴射周期を制御して、前記排気浄化触媒装置においてNOXを還元させるときには、前記炭化水素供給弁の炭化水素の前記噴射量は、前記酸化触媒装置と前記排気浄化触媒装置との間のCO2濃度上昇がサーチレートするまで徐々に増量されることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
機関運転時に、前記酸化触媒装置に流入する前記炭化水素濃度の振動振幅を前記予め定められた範囲内の振幅とするために前記炭化水素供給弁からの炭化水素の噴射量を制御すると共に、前記酸化触媒装置に流入する前記炭化水素濃度の振動周期を前記予め定められた範囲内の周期とするために前記炭化水素供給弁からの炭化水素の噴射周期を制御して、前記排気浄化触媒装置においてNOXを還元させるときには、前記酸化触媒装置において前記炭化水素供給弁から噴射される炭化水素が設定範囲内の炭素数を有する炭化水素へ改質されるように、前記酸化触媒装置へ流入する排気ガス中の酸素濃度を制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−15117(P2013−15117A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149940(P2011−149940)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】