説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】機関停止後に還元剤を回収するに際して、還元剤供給機構の熱損傷を抑えることのできる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】エンジン1には、排気に尿素水を供給する供給通路240と供給通路240から尿素水を回収するポンプ220とを有する尿素水供給機構を備えた排気浄化装置が設けられている。制御装置80は、機関停止後の排気温度が所定温度以下となったときにポンプ220による尿素水の回収を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されているように、排気中の窒素酸化物(NOx)を浄化する選択還元型NOx触媒と、この選択還元型NOx触媒でのNOx浄化に利用する還元剤を排気通路内に供給する還元剤供給機構とを備える内燃機関の排気浄化装置が知られている。
【0003】
この排気浄化装置では、還元剤供給機構の供給通路から排気通路に向けて尿素水が噴射される。噴射された尿素水は、排気の熱によって加水分解されてアンモニアとなる。そしてこのアンモニアが還元剤として選択還元型NOx触媒に供給される。
【0004】
ところで、機関運転が停止されると還元剤の供給も停止されるのであるが、還元剤供給機構の供給通路内に還元剤が残留していると、その還元剤の凍結による体積増加によって供給通路が損傷するおそれがある。
【0005】
そこで、こうした供給通路内での還元剤の残留を抑えるために、特許文献1に記載の装置では、機関停止後に供給通路から還元剤を回収するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−71270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、機関停止直後では、排気の温度が比較的高くなっている。従って、従来の装置のように、機関停止後に供給通路から還元剤を回収する場合には、その回収に際して高温の排気が供給通路内に吸入されてしまい、還元剤供給機構に熱損傷を与えるおそれがある。
【0008】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、機関停止後に還元剤を回収するに際して、還元剤供給機構の熱損傷を抑えることのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、排気に液状の還元剤を供給する供給通路と、前記供給通路から還元剤を回収する回収手段とを有する還元剤供給機構を備えた内燃機関の排気浄化装置であって、機関停止後の排気温度が所定温度以下となったときに前記回収手段による還元剤の回収を行うことをその要旨とする。
【0010】
同構成によれば、機関停止後の排気温度が所定温度以下にまで低下してから、回収手段による還元剤の回収が行われる。従って、機関停止後の還元剤の回収に際して、高温の排気が還元剤供給機構に吸入されることを抑えることができ、これにより還元剤供給機構の熱損傷を抑えることができるようになる。なお、同構成における上記回収手段としては、供給通路に設けられて正逆転可能なポンプや、供給通路に設けられて還元剤の流れ方向を変更する切替弁などが挙げられる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記供給通路には、排気通路内に還元剤を噴射する添加弁が設けられており、機関が停止されたときには予め定められた量の還元剤を前記添加弁から噴射することをその要旨とする。
【0012】
同構成によれば、機関停止時に噴射された還元剤の気化によって排気温度の低下が促進される。従って、機関停止後の排気温度が所定温度以下になるまでの時間は短くなり、より早期に還元剤の回収を行うことができるようになる。なお、このようにして還元剤の回収タイミングを早めることができると、例えば次のようなメリットがある。
【0013】
すなわち、機関停止後の排気温度が所定温度以下になったか否かを判定するには、こうした判定を行う制御装置に機関停止後も通電を行う必要がある。しかし、機関停止中はオルタネータによる発電が行われないため、制御装置に電力を供給するバッテリの蓄電量が減少してしまう。また、こうした蓄電量の減少により充放電の回数が多くなると、バッテリの劣化が促進されてしまう。この点、同構成では、還元剤の回収タイミングが早くなる、つまり排気温度が所定温度以下になったか否かを判定する判定処理の実行時間が短くなるため、制御装置への通電時間も短くなり、蓄電量の減少やバッテリの劣化を好適に抑えることができるようになる。
【0014】
上記添加弁からの還元剤の噴射は、請求項3に記載の発明によるように、機関が停止されたときの排気温度が所定温度よりも高いときに行うことが望ましい。
また、上記添加弁からの還元剤の噴射量は、請求項4に記載の発明によるように、機関が停止されたときの排気温度が高いほど多くすることにより、冷却用の還元剤の噴射量を好適に設定することができる。
【0015】
機関停止後の排気温度が所定温度以下となったか否かの判定は、実際の排気温度、あるいは推定された排気温度と所定温度とを比較することで行うことができる。その他、機関停止後の排気温度は、機関停止からの経過時間等と相関がある。従って、機関停止後の排気温度が所定温度以下になるまでの低下時間を推定し、この低下時間が経過したときに還元剤の回収を行うことも可能である。
【0016】
そこで、請求項5に記載の発明によるように、前記添加弁からの還元剤の噴射が完了してから排気温度が前記所定温度以下になるまでの低下時間を前記還元剤の噴射が完了したときの排気温度に基づいて推定し、前記還元剤の噴射完了後に前記低下時間が経過したときに前記還元剤の回収を行う、という構成を採用することによっても還元剤の回収タイミングを適切に設定することができる。
【0017】
なお、機関が停止されたときの上記還元剤の噴射を行わない場合には、請求項6に記載の発明によるように、機関が停止してから排気温度が前記所定温度以下になるまでの低下時間を機関が停止したときの排気温度に基づいて推定し、機関停止後に前記低下時間が経過したときに前記還元剤の回収を行う、という構成を採用することにより還元剤の回収タイミングを適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置の第1実施形態について、これが適用される内燃機関及びその周辺構成を示す概略図。
【図2】同実施形態にて実行される回収処理の手順を示すフローチャート。
【図3】第2実施形態で実行される回収処理の手順を示すフローチャート。
【図4】同実施形態での第2排気温度とディレイ時間との関係を示すグラフ。
【図5】第3実施形態で実行される回収処理の手順を示すフローチャート。
【図6】同実施形態での第2排気温度と冷却用添加量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、この発明にかかる内燃機関の排気浄化装置を具体化した第1実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。
【0020】
図1に、本実施形態にかかる排気浄化装置が適用されたディーゼルエンジン(以下、単に「エンジン」という)、並びにそれらの周辺構成を示す概略構成図を示す。
エンジン1には複数の気筒#1〜#4が設けられている。シリンダヘッド2には複数の燃料噴射弁4a〜4dが取り付けられている。これら燃料噴射弁4a〜4dは各気筒#1〜#4の燃焼室に燃料を噴射する。また、シリンダヘッド2には新気を気筒内に導入するための吸気ポートと、燃焼ガスを気筒外へ排出するための排気ポート6a〜6dとが各気筒#1〜#4に対応して設けられている。
【0021】
燃料噴射弁4a〜4dは、高圧燃料を蓄圧するコモンレール9に接続されている。コモンレール9はサプライポンプ10に接続されている。サプライポンプ10は燃料タンク内の燃料を吸入するとともにコモンレール9に高圧燃料を供給する。コモンレール9に供給された高圧燃料は、各燃料噴射弁4a〜4dの開弁時に同燃料噴射弁4a〜4dから気筒内に噴射される。
【0022】
吸気ポートにはインテークマニホールド7が接続されている。インテークマニホールド7は吸気通路3に接続されている。この吸気通路3内には吸入空気量を調整するための吸気絞り弁16が設けられている。
【0023】
排気ポート6a〜6dにはエキゾーストマニホールド8が接続されている。エキゾーストマニホールド8は排気通路26に接続されている。
排気通路26の途中には、排気圧を利用して気筒に導入される吸入空気を過給するターボチャージャ11が設けられている。同ターボチャージャ11の吸気側コンプレッサと吸気絞り弁16との間の吸気通路3にはインタークーラ18が設けられている。このインタークーラ18によって、ターボチャージャ11の過給により温度上昇した吸入空気の冷却が図られる。
【0024】
また、排気通路26の途中にあって、ターボチャージャ11の排気側タービンの排気下流には、排気を浄化する第1浄化部材30が設けられている。この第1浄化部材30の内部には、排気の流れ方向に対して直列に酸化触媒31及びフィルタ32が配設されている。
【0025】
酸化触媒31には、排気中のHCを酸化処理する触媒が担持されている。また、フィルタ32は、排気中のPM(粒子状物質)を捕集する部材であって、多孔質のセラミックで構成されている。このフィルタ32には、PMの酸化を促進させるための触媒が担持されており、排気中のPMは、フィルタ32の多孔質の壁を通過する際に捕集される。
【0026】
また、エキゾーストマニホールド8の集合部近傍には、酸化触媒31やフィルタ32に添加剤として燃料を供給するための燃料添加弁5が設けられている。この燃料添加弁5は、燃料供給管27を介して前記サプライポンプ10に接続されている。なお、燃料添加弁5の配設位置は、排気系にあって第1浄化部材30の上流側であれば適宜変更するも可能である。
【0027】
フィルタ32に捕集されたPMの量が所定値を超えると、フィルタ32の再生処理が開始されて燃料添加弁5からはエキゾーストマニホールド8内に向けて燃料が噴射される。この燃料添加弁5から噴射された燃料は、酸化触媒31に達すると燃焼され、これにより排気温度の上昇が図られる。そして、酸化触媒31にて昇温された排気がフィルタ32に流入することにより、同フィルタ32は昇温され、これによりフィルタ32に堆積したPMが酸化処理されてフィルタ32の再生が図られる。
【0028】
また、排気通路26の途中にあって、第1浄化部材30の排気下流には、排気を浄化する第2浄化部材40が設けられている。第2浄化部材40の内部には、還元剤を利用して排気中のNOxを還元浄化する選択還元型NOx触媒(以下、SCR触媒という)41が配設されている。
【0029】
さらに、排気通路26の途中にあって、第2浄化部材40の排気下流には、排気を浄化する第3浄化部材50が設けられている。第3浄化部材50の内部には、排気中のアンモニアを浄化するアンモニア酸化触媒51が配設されている。
【0030】
エンジン1には、上記SCR触媒41に還元剤を供給する還元剤供給機構としての尿素水供給機構200が設けられている。尿素水供給機構200は、尿素水を貯留するタンク210、排気通路26内に尿素水を噴射供給する尿素添加弁230、尿素添加弁230とタンク210とを接続する供給通路240、供給通路240の途中に設けられたポンプ220にて構成されている。
【0031】
尿素添加弁230は、第1浄化部材30と第2浄化部材40との間の排気通路26に設けられており、その噴射孔はSCR触媒41に向けられている。この尿素添加弁230が開弁されると、供給通路240を介して排気通路26内に尿素水が噴射供給される。
【0032】
ポンプ220は電動式のポンプであり、正回転時には、タンク210から尿素添加弁230に向けて尿素水を送液する。一方、逆回転時には、尿素添加弁230からタンク210に向けて尿素水を送液する。つまり、ポンプ220の逆回転時には、尿素添加弁230及び供給通路240から尿素水が回収されてタンク210に戻される。このポンプ220は、上記回収手段を構成している。
【0033】
また、尿素添加弁230とSCR触媒41との間の排気通路26内には、尿素添加弁230から噴射された尿素水を分散させることにより同尿素水の霧化を促進する分散板60が設けられている。
【0034】
尿素添加弁230から噴射された尿素水は、排気の熱によって加水分解されてアンモニアとなる。そしてこのアンモニアがNOxの還元剤としてSCR触媒41に供給される。SCR触媒41に供給されたアンモニアは、同SCR触媒41に吸蔵されてNOxの還元に利用される。なお、加水分解されたアンモニアの一部は、SCR触媒41に吸蔵される前に直接NOxの還元に利用される。
【0035】
この他、エンジン1には排気再循環装置(以下、EGR装置という)が備えられている。このEGR装置は、排気の一部を吸入空気に導入することで気筒内の燃焼温度を低下させ、NOxの発生量を低減させる装置である。この排気再循環装置は、吸気通路3とエキゾーストマニホールド8とを連通するEGR通路13、同EGR通路13に設けられたEGR弁15、及びEGRクーラ14等により構成されている。EGR弁15の開度が調整されることにより排気通路26から吸気通路3に導入される排気再循環量、すなわちEGR量が調量される。また、EGRクーラ14によってEGR通路13内を流れる排気の温度が低下される。
【0036】
エンジン1には、機関運転状態を検出するための各種センサが取り付けられている。例えば、エアフロメータ19は吸気通路3内の吸入空気量GAを検出する。絞り弁開度センサ20は吸気絞り弁16の開度を検出する。機関回転速度センサ21はクランクシャフトの回転速度、すなわち機関回転速度NEを検出する。アクセルセンサ22はアクセルペダルの踏み込み量、すなわちアクセル操作量ACCPを検出する。外気温センサ23は、外気温THoutを検出する。車速センサ24はエンジン1が搭載された車両の車速SPDを検出する。イグニッションスイッチ25は、車両の運転者によるエンジン1の始動操作及び停止操作を検出する。
【0037】
また、酸化触媒31の排気上流に設けられた第1排気温度センサ100は、酸化触媒31に流入する前の排気温度である第1排気温度TH1を検出する。差圧センサ110は、フィルタ32の排気上流及び排気下流の排気圧の圧力差ΔPを検出する。第1浄化部材30と第2浄化部材40との間の排気通路26にあって、尿素添加弁230の排気上流には、第2排気温度センサ120及び第1NOxセンサ130が設けられている。第2排気温度センサ120は、SCR触媒41に流入する前の排気温度である第2排気温度TH2を検出する。第1NOxセンサ130は、SCR触媒41に流入する前の排気中のNOx濃度である第1NOx濃度N1を検出する。第3浄化部材50の排気下流の排気通路26には、SCR触媒41で浄化された排気のNOx濃度である第2NOx濃度N2を検出する第2NOxセンサ140が設けられている。
【0038】
これら各種センサ等の出力は制御装置80に入力される。この制御装置80は、中央処理制御装置(CPU)、各種プログラムやマップ等を予め記憶した読出専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果等を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、タイマカウンタ、入力インターフェース、出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成されている。
【0039】
そして、この制御装置80により、例えば燃料噴射弁4a〜4dや燃料添加弁5の燃料噴射量制御・燃料噴射時期制御、サプライポンプ10の吐出圧力制御、吸気絞り弁16を開閉するアクチュエータ17の駆動量制御、EGR弁15の開度制御等、エンジン1の各種制御が行われる。また、上記フィルタ32に捕集されたPMを燃焼させる上記再生処理等といった各種の排気浄化制御も同制御装置80によって行われる。
【0040】
また、制御装置80は、排気浄化制御の一つとして、上記尿素添加弁230による尿素水の添加制御を行う。この添加制御では、エンジン1から排出されるNOxを還元処理するために過不足の無い尿素添加量が機関運転状態等に基づいて算出され、その算出された尿素添加量が尿素添加弁230から噴射されるように、同尿素添加弁230の開弁状態が制御される。なお、NOx還元のための上記尿素水添加は、機関運転中は継続して行われ、機関運転が停止されると停止される。
【0041】
ところで、上述したように機関運転が停止されると尿素水添加も停止されるのであるが、尿素水供給機構の供給通路240内に尿素水が残留していると、その尿素水の凍結による体積増加によって供給通路240が損傷するおそれがある。そこで、こうした供給通路240内での尿素水の残留を抑えるために、制御装置80は、機関停止後に供給通路240から尿素水を回収する回収制御を行うようにしている。
【0042】
ここで、機関停止直後では、排気の温度が比較的高くなっている。従って、機関停止直後に供給通路240から尿素水を回収すると、高温の排気が供給通路240内に吸入されてしまい、同供給通路240や尿素添加弁230といった尿素水供給機構に熱損傷を与えるおそれがある。そこで、本実施形態では、そうした熱損傷を抑えるために、図2に示す回収処理を実行するようにしている。なお、この回収処理は、制御装置80によって実行される。
【0043】
本処理が開始されるとまず、車速SPDが「0」であり、かつイグニッションスイッチがオフ操作されたか否か、すなわちエンジン1を搭載した車両が停止しており、かつエンジン1の停止操作が行われた直後であるか否かが判定される(S100)。そして、車速SPDが「0」でない、またはイグニッションスイッチがオフ操作されていないときには(S100:NO)、本処理は終了される。
【0044】
一方、車速SPDが「0」であり、かつイグニッションスイッチがオフ操作されたときには(S100:YES)、SCR触媒41の排気上流の排気温度、換言すれば尿素添加弁230の周囲の排気温度に近い第2排気温度TH2が許可温度Aよりも低いか否かが判定される(S110)。この許可温度Aは、上述した熱損傷を抑えることができる排気温度の最大値であって、試験等によって予め求められている。そして、第2排気温度TH2が許可温度Aよりも低くなるまで、ステップS110での判定処理が繰り返し行われる。
【0045】
機関停止後の排気温度の低下により、ステップS110にて、第2排気温度TH2が許可温度Aよりも低くなったことが判定されると(S110:YES)、上述した尿素水の回収制御が実行されて(S120)、本処理は終了される。この回収制御では、予め定められた時間だけ、尿素添加弁230が開弁されるとともにポンプ220が逆回転される。これにより、尿素添加弁230や供給通路240に残留していた尿素水はタンク210に回収される。
【0046】
次に、本実施形態の作用を説明する。
本実施形態における尿素水の回収処理では、機関停止後直ちに尿素水の回収を行うのではなく、機関停止後の第2排気温度TH2が許可温度Aよりも低くなってから、尿素水の回収を行うようにしている。従って、機関停止後における尿素水の回収に際して、高温の排気が尿素水供給機構に吸入されることを抑えることができ、これにより尿素水供給機構の熱損傷を抑えることができるようになる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、次の効果を得ることができる。
(1)機関停止後の第2排気温度TH2が許可温度Aよりも低くなってから、尿素水の回収を行うようにしている。従って、尿素水供給機構の熱損傷を抑えることができるようになる。
(第2実施形態)
次に、本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置を具体化した第2実施形態について、図3及び図4を参照して説明する。
【0048】
第1実施形態では、第2排気温度センサ120で検出される第2排気温度TH2が許可温度Aよりも低いときに回収制御を行うようにした。つまり、機関停止後の排気温度が所定温度以下となったか否かの判定は、実際の排気温度に基づいて行うようにした。
【0049】
この他、機関停止後の排気温度は、機関停止からの経過時間等と相関がある。従って、機関停止後の排気温度が所定温度以下になるまでの低下時間を推定し、この低下時間が経過したときに尿素水の回収制御を実行するようにしても、尿素水の回収タイミングを適切に設定することができ、これにより上記熱損傷の発生を抑えることができる。
【0050】
また、排気温度センサから尿素添加弁が離れた位置に設けられており、排気温度センサの検出値と、尿素添加弁周辺の排気温度とに違いがある場合には、実際の排気温度に基づいた回収制御の実行判定を正確に行うことが困難になる可能性がある。この点、上述した低下時間の推定に際して、第2排気温度センサ120の検出値と尿素添加弁230周辺の排気温度との違いを考慮するようにすれば、回収制御の実行判定をより正確に行うことができ、尿素水の回収タイミングを適切に設定することができる。
【0051】
そこで、本実施形態では、上記低下時間に相当するディレイ時間DLYを設定し、機関停止後の経過時間を示す停止時間STが同ディレイ時間DLY以上となったときに回収制御を実行するようにしており、この点が第1実施形態と異なっている。そこで、以下では、第1実施形態との相異点を中心にして、本実施形態における回収処理を説明する。
【0052】
図3に示す本実施形態の回収処理は、制御装置80によって実行される。
本処理が開始されるとまず、車速SPDが「0」であり、かつイグニッションスイッチがオフ操作されたか否か、すなわちエンジン1を搭載した車両が停止しており、かつエンジン1の停止操作が行われた直後であるか否かが判定される(S200)。そして、車速SPDが「0」でない、またはイグニッションスイッチがオフ操作されていないときには(S200:NO)、本処理は終了される。
【0053】
一方、車速SPDが「0」であり、かつイグニッションスイッチがオフ操作されたときには(S200:YES)、機関が停止したときの第2排気温度TH2及び外気温THoutに基づいてディレイ時間DLYが設定される(S210)。このディレイ時間DLYは、上記低下時間に相当する時間であり、機関が停止してから尿素添加弁230の周辺の排気温度が上記許可温度Aに低下するまでに要する時間である。図4に示すように、このディレイ時間DLYは、機関停止時の第2排気温度TH2が高いときほど長い時間が設定される。また、実線L1や二点鎖線L2に示すように、同じ第2排気温度TH2であっても、機関停止時の外気温THoutが高いほど、ディレイ時間DLYは長い時間に設定される。
【0054】
こうしてディレイ時間DLYが設定されると、機関停止後の経過時間を示す停止時間STがディレイ時間DLY以上になったか否かが判定される(S220)。この停止時間STは、機関が停止すると計測が開始される時間である。そして、停止時間STがディレイ時間DLY以上になるまで、ステップS220での判定処理が繰り返し行われる。
【0055】
機関停止後の時間経過により、ステップS220にて、停止時間STがディレイ時間DLY以上になったことが判定されると(S220:YES)、上述した尿素水の回収制御が実行されて(S230)、本処理は終了される。ここでの回収制御は、第1実施形態で説明した回収制御と同一である。
【0056】
次に、本実施形態の作用を説明する。
本実施形態における尿素水の回収処理では、上記ディレイ時間DLYを設定することにより、機関が停止してから尿素添加弁230の周辺の排気温度が上記許可温度Aに低下するまでの時間を推定するようにしている。そして、機関停止後の停止時間STがディレイ時間DLY以上となったときに尿素水の回収を行うようにしている。従って、機関停止後における尿素水の回収に際して、高温の排気が尿素水供給機構に吸入されることを抑えることができ、これにより尿素水供給機構の熱損傷を抑えることができるようになる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態によれば、次の効果を得ることができる。
(1)機関が停止してから尿素添加弁230の周辺の排気温度が上記許可温度Aに低下するまでの時間をディレイ時間DLYとして設定するようにしており、機関停止後の停止時間STがディレイ時間DLY以上となったときに尿素水の回収を行うようにしている。従って、尿素水の回収タイミングを適切に設定することができ、尿素水供給機構の熱損傷を抑えることができるようになる。
【0058】
(2)また、機関が停止してから尿素添加弁230の周辺の排気温度が上記許可温度Aに低下するまでの時間をディレイ時間DLYとして推定するようにしている。そのため、第2排気温度センサ120から尿素添加弁230が離れた位置に設けられており、第2排気温度センサ120の検出値である第2排気温度TH2と、尿素添加弁230周辺の排気温度とに違いがある場合でも、尿素水の回収タイミングを適切に設定することができるようになる。
(第3実施形態)
次に、本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置を具体化した第3実施形態について、図5及び図6を参照して説明する。
【0059】
機関停止後の排気温度が所定温度以下になったか否かを判定するには、こうした判定を行う制御装置80に機関停止後も通電を行う必要がある。しかし、機関停止中はオルタネータによる発電が行われないため、制御装置80に電力を供給するバッテリの蓄電量が減少してしまう。また、こうした蓄電量の減少によりバッテリの充放電の回数が多くなると、バッテリの劣化が促進されてしまう。そこで、尿素水の回収タイミングを早くする、つまり排気温度が所定温度以下になったか否かを判定する判定処理の実行時間を短くすることができれば、制御装置80への通電時間も短くなり、蓄電量の減少やバッテリの劣化を好適に抑えることができるようになる。そこで、本実施形態では、機関停止後に冷却用の尿素水添加を実行して排気温度を速やかに低下させることにより、排気温度の判定処理の実行時間を短くし、これにより制御装置80への通電時間が短くなるようにしている。
【0060】
本実施形態における回収処理は、第2実施形態の回収処理を一部変更することで具現化できる。そこで、以下では、第2実施形態との相異点を中心にして、本実施形態における回収処理を説明する。
【0061】
図5に示す本実施形態の回収処理は、制御装置80によって実行される。
本処理が開始されるとまず、車速SPDが「0」であり、かつイグニッションスイッチがオフ操作されたか否か、すなわちエンジン1を搭載した車両が停止しており、かつエンジン1の停止操作が行われた直後であるか否かが判定される(S300)。そして、車速SPDが「0」でない、またはイグニッションスイッチがオフ操作されていないときには(S300:NO)、本処理は終了される。
【0062】
一方、車速SPDが「0」であり、かつイグニッションスイッチがオフ操作されたときには(S300:YES)、第2排気温度TH2が上記許可温度A以上であるか否かが判定される(S310)。そして、第2排気温度TH2が上記許可温度Aよりも低いときには(S310:NO)、上述したような熱損傷のおそれはないため、直ちに上記回収制御が実行される(S360)。このステップS360での回収制御は、第1実施形態で説明した回収制御と同一である。
【0063】
一方、第2排気温度TH2が上記許可温度A以上であるときには(S310:YES)、冷却用の尿素水添加を行うために、機関が停止したときの第2排気温度TH2に基づき冷却用添加量CTが設定される(S320)。図6に示すように、冷却用添加量CTは、機関が停止したときの第2排気温度TH2が高いときほど多くされる。
【0064】
こうして冷却用添加量CTが設定されると、この設定された冷却用添加量CTが尿素添加弁230から噴射される(S330)。
次に、ステップS330での尿素水添加が完了したときの第2排気温度TH2及び外気温THoutに基づいてディレイ時間DLYが設定される(S340)。ここでのディレイ時間DLYは、冷却用の尿素水添加が完了してから尿素添加弁230の周辺の排気温度が上記許可温度Aに低下するまでに要する低下時間として設定される。ここでのディレイ時間DLYも、先の図4に示したように、ステップS330での尿素水添加が完了したときの第2排気温度TH2が高いときほど長い時間が設定される。また、実線L1や二点鎖線L2に示すように、同じ第2排気温度TH2であっても、ステップS330での尿素水添加が完了したときの外気温THoutが高いほど、ディレイ時間DLYは長い時間に設定される。
【0065】
こうしてディレイ時間DLYが設定されると、冷却用の尿素水添加が完了してからの経過時間PTがディレイ時間DLY以上になったか否かが判定される(S350)。この経過時間PTは、ステップS330での尿素水添加が完了すると計測が開始される時間である。そして、経過時間PTがディレイ時間DLY以上になるまで、ステップS350での判定処理が繰り返し行われる。
【0066】
冷却用の尿素水添加が完了してからの時間経過により、ステップS350にて、経過時間PTがディレイ時間DLY以上になったことが判定されると(S350:YES)、上述した尿素水の回収制御が実行されて(S360)、本処理は終了される。
【0067】
次に、本実施形態の作用を説明する。
本実施形態における尿素水の回収処理では、ステップS320及びステップS330の処理を行うことにより、機関停止直後に一旦尿素水を噴射するようにしている。そして、この噴射された尿素水が気化することで、尿素添加弁230周辺の排気温度の低下が促進される。従って、機関停止後の排気温度が許可温度A以下になるまでの時間は短くなり、本実施形態においては、ステップS340で設定されるディレイ時間DLYは、尿素水添加を行わない場合と比較して短くなる。従って、より早期に尿水の回収を行うことができるようになる、つまり尿素水の回収タイミングを早めることができる。
【0068】
また、ディレイ時間DLYがより短い時間に設定されるため、ステップS350にて肯定判定されるまでに要する時間が短くなり、これにより制御装置80への通電時間が短くなる。従って、バッテリの蓄電量の減少や同バッテリの劣化が好適に抑えられる。
【0069】
また、冷却用の尿素水添加が完了してから尿素添加弁230の周辺の排気温度が上記許可温度Aに低下するまでの時間として上記ディレイ時間DLYを推定するようにしている。そして、冷却用の尿素水添加が完了してからの経過時間PTがディレイ時間DLY以上となったときに尿素水の回収を行うようにしている。従って、機関停止後における尿素水の回収に際して、高温の排気が尿素水供給機構に吸入されることを抑えることができ、これにより尿素水供給機構の熱損傷を抑えることができるようになる。
【0070】
以上説明したように、本実施形態によれば、次の効果を得ることができる。
(1)機関停止後に冷却用の尿素水添加を行い、その尿素水添加が完了してから尿素添加弁230の周辺の排気温度が上記許可温度Aに低下するまでの時間をディレイ時間DLYとして設定するようにしている。そして、尿素水添加が完了してからの経過時間PTがディレイ時間DLY以上となったときに尿素水の回収を行うようにしている。従って、尿素水の回収タイミングを適切に設定することができ、尿素水供給機構の熱損傷を抑えることができるようになる。
【0071】
(2)また、尿素水添加が完了してから尿素添加弁230の周辺の排気温度が上記許可温度Aに低下するまでの時間をディレイ時間DLYとして推定するようにしている。そのため、第2排気温度センサ120から尿素添加弁230が離れた位置に設けられており、第2排気温度センサ120の検出値である第2排気温度TH2と、尿素添加弁230周辺の排気温度とに違いがある場合でも、尿素水の回収タイミングを適切に設定することができるようになる。
【0072】
(3)機関が停止されたときには予め定められた量の尿素水を尿素添加弁230から噴射するようにしている。そのため、機関停止後の排気温度が許可温度A以下になるまでの時間が短くなり、より早期に尿素水の回収を行うことができるようになる。
【0073】
(4)また回収処理の実行に際して、制御装置80への通電時間も短くなるため、バッテリの蓄電量の減少や同バッテリの劣化を好適に抑えることができるようになる。
(5)上記尿素添加弁230からの尿素水の噴射量(冷却用添加量CT)は、機関が停止されたときの第2排気温度TH2が高いほど多くするようにしているため、冷却用の尿素水の噴射量を好適に設定することができる。
【0074】
なお、上記各実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・第1実施形態では、第2排気温度センサ120の検出値である第2排気温度TH2と許可温度Aとを比較するようにした。この他、第2実施形態で説明したように、第2排気温度TH2と尿素添加弁230周辺の排気温度とが異なっている場合には、同第2排気温度TH2に基づいて尿素添加弁230周辺の排気温度を推定し、この推定した排気温度と許可温度Aとを比較するようにしてもよい。なお、尿素添加弁230周辺の排気温度は、機関停止中における第2排気温度TH2及び外気温THoutに基づいて推定可能である。また、尿素添加弁230周辺の排気温度は、機関停止直後の第2排気温度TH2及び外気温THout及び機関停止後の経過時間に基づいて推定することもできる。
【0075】
・第1実施形態においても、先の図2のステップS100で肯定判定されたときには、先の図5に示したステップS320及びステップS330の処理を行ってもよい。つまり、機関停止後の尿素水添加を実行して排気温度の低下を促すようにしてもよい。
【0076】
・第3実施形態では、図5のステップS310において第2排気温度TH2と比較する対象が許可温度Aであった。この他、許可温度Aよりも高い温度を設定するようにしてもよい。
【0077】
・第3実施形態では、図5のステップS310において第2排気温度TH2が所定の許可温度A以上であるか否かを判定するようにした。この他、このステップS310の処理を省略して、第2排気温度TH2によらず、機関停止直後には常に冷却用の尿素水添加を行うようにしてもよい。
【0078】
・第3実施形態では、第2排気温度TH2に基づいて冷却用添加量CTを可変設定するようにしたが、より簡易的には冷却用添加量CTを予め定められた一定量としてもよい。
・供給通路240から尿素水を回収するときには、ポンプ220を逆回転させるようにしたがこの他の態様で回収を行ってもよい。例えば、供給通路240内での尿素水の流れ方向を変更する切替弁等を供給通路240に設けてもよい。
【0079】
・還元剤として尿素水を使用するようにしたが、この他の液状の還元剤を使用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…エンジン、2…シリンダヘッド、3…吸気通路、4a〜4d…燃料噴射弁、5…燃料添加弁、6a〜6d…排気ポート、7…インテークマニホールド、8…エキゾーストマニホール、9…コモンレール、10…サプライポンプ、11…ターボチャージャ、13…EGR通路、14…EGRクーラ、15…EGR弁、16…吸気絞り弁、17…アクチュエータ、18…インタークーラ、19…エアフロメータ、20…絞り弁開度センサ、21…機関回転速度センサ、22…アクセルセンサ、23…外気温センサ、24…車速センサ、25…イグニッションスイッチ、26…排気通路、27…燃料供給管、30…第1浄化部材、31…酸化触媒、32…フィルタ、40…第2浄化部材、41…選択還元型NOx触媒(SCR触媒、50…第3浄化部材、51…アンモニア酸化触媒、60…分散板、80…制御装置、100…第1排気温度センサ、110…差圧センサ、120…第2排気温度センサ、130…第1NOxセンサ、140…第2NOxセンサ、200…尿素水供給機構、210…タンク、220…ポンプ、230…尿素添加弁、240…供給通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気に液状の還元剤を供給する供給通路と、前記供給通路から還元剤を回収する回収手段とを有する還元剤供給機構を備えた内燃機関の排気浄化装置であって、
機関停止後の排気温度が所定温度以下となったときに前記回収手段による還元剤の回収を行う
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記供給通路には、排気通路内に還元剤を噴射する添加弁が設けられており、機関が停止されたときには予め定められた量の還元剤を前記添加弁から噴射する
請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記添加弁からの還元剤の噴射は、機関が停止されたときの排気温度が所定温度よりも高いときに行われる
請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記添加弁からの還元剤の噴射量は、機関が停止されたときの排気温度が高いほど多くされる
請求項2または3に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記添加弁からの還元剤の噴射が完了してから排気温度が前記所定温度以下になるまでの低下時間を前記還元剤の噴射が完了したときの排気温度に基づいて推定し、前記還元剤の噴射完了後に前記低下時間が経過したときに前記還元剤の回収を行う
請求項2〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
機関が停止してから排気温度が前記所定温度以下になるまでの低下時間を機関が停止したときの排気温度に基づいて推定し、機関停止後に前記低下時間が経過したときに前記還元剤の回収を行う
請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96258(P2013−96258A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237537(P2011−237537)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】