説明

内燃機関の故障検出装置

【課題】内燃機関の排気通路に設けられるPMを捕集するフィルタの故障を精度良く検出できる故障検出装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の排気通路に設けられ排気中のPMを捕集するフィルタと、フィルタに捕集されたPMを酸化除去するフィルタ再生処理を行なうフィルタ再生手段と、フィルタより下流側の排気通路から分岐する第1の分岐通路及び第2の分岐通路と、第1の分岐通路に設けられ排気中のPMに含まれる揮発性粒子を除去する揮発性粒子除去装置と、揮発性粒子除去装置より下流側の第1の分岐通路に設けられ排気中のPMの量を検出する第1のセンサと、第2の分岐通路に設けられ排気中のPMの量を検出する第2のセンサと、フィルタ再生処理の実行中に揮発性粒子除去装置を作動させ、第1のセンサによる検出値と第2のセンサによる検出値との差に基づいてフィルタの故障を検出する故障検出手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の故障検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気通路に排気中の粒子状物質(PM)を捕集するフィルタを備えた内燃機関において、フィルタの上流と下流にそれぞれPMセンサを設け、フィルタに流入するPM量及びフィルタから流出するPM量を検出することによって、フィルタをすり抜けるPM量を算出し、算出したすり抜けPM量とフィルタが正常な場合にフィルタをすり抜けるPM量との比較に基づいてフィルタの故障を検出する技術が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−132290号公報
【特許文献2】特開2007−315275号公報
【特許文献3】特開2008−261322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィルタを備えた内燃機関では、フィルタに捕集されたPMを酸化除去するフィルタ再生処理を行なう必要があるが、フィルタ再生処理の実行中はフィルタが正常であってもフィルタから排出されるPM量が増大する。従って、フィルタから排出されるPM量に基づく上記従来技術の故障検出では、特にフィルタ再生処理中に精度良く故障を検出できない可能性がある。
【0005】
本発明はこの点に鑑みてなされたものであって、内燃機関の排気通路に設けられるPMを捕集するフィルタの故障を精度良く検出できる故障検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するため、本発明の内燃機関の故障検出装置は、
内燃機関の排気通路に設けられ排気中のPMを捕集するフィルタと、
前記フィルタに捕集されたPMを酸化除去するフィルタ再生処理を行なうフィルタ再生手段と、
前記フィルタ再生処理を実行中の前記フィルタから排出されるPMに含まれる揮発性粒子の量に基づいて前記フィルタの故障を検出する故障検出手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
フィルタが正常な場合と故障している場合とでは、フィルタ再生処理の実行中のフィルタから排出されるPMに含まれる揮発性粒子の量が、フィルタが正常の場合にはフィルタ再生処理を実行していないときより増大するのに対し、フィルタが故障している場合にはフィルタ再生処理を実行していないときと同程度という違いがある。このことから、フィルタ再生処理の実行中のフィルタから排出されるPMに含まれる揮発性粒子の量に基づくことによって、フィルタ再生処理の実行中においても精度良くフィルタの故障を検出することができる。
【0008】
本発明において、前記フィルタより下流側の排気通路から分岐する第1の分岐通路及び第2の分岐通路と、
前記第1の分岐通路に設けられ排気中のPMに含まれる揮発性粒子を除去する揮発性粒子除去装置と、
前記揮発性粒子除去装置より下流側の第1の分岐通路に設けられ排気中のPMの量を検出する第1のセンサと、
前記第2の分岐通路に設けられ排気中のPMの量を検出する第2のセンサと、
を備え、
前記故障検出手段は、前記フィルタ再生処理の実行中に、前記揮発性粒子除去装置を作動させ、前記第1のセンサによる検出値と前記第2のセンサによる検出値との差に基づいて前記フィルタの故障を検出する構成とすることができる。
【0009】
フィルタ再生処理の実行中に揮発性粒子除去装置を作動させることにより、第1のセンサによる検出値は揮発性粒子以外のPMの粒子の量を表すのに対し、第2のセンサによる検出値は揮発性粒子も含むPMの全ての性状の粒子の量を表す。従って、第1のセンサによる検出値と第2のセンサによる検出値との差は、PMに含まれる揮発性粒子の量を表している。従って、フィルタ再生処理の実行中に揮発性粒子除去装置を作動させているときの第1のセンサによる検出値と第2のセンサによる検出値との差に基づくことによって、フィルタ再生処理の実行中においても精度良くフィルタの故障を検出することができる。
【0010】
上記構成において、前記故障検出手段は、前記第1のセンサによる検出値と前記第2のセンサによる検出値との差が所定の基準値より小さい場合に、前記フィルタが故障していると判断することができる。所定の基準値は、フィルタが正常な場合の第1のセンサによる検出値と第2のセンサによる検出値との差の下限値に基づいて定めることができる。
【0011】
揮発性粒子除去装置は、例えば第1の分岐通路を流れる排気を加熱することによりPMに含まれる揮発性粒子を除去することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内燃機関の排気通路に設けられるPMを捕集するフィルタの故障を精度良く検出できる故障検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例に係る内燃機関の概略構成を示す図である。
【図2】排気中のPMの量(固体粒子の量及び揮発性粒子の量の和)と固体粒子の量の時間変化の例を示す図である。
【図3】実施例に係るフィルタの故障検出処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0015】
図1は、本発明に係る内燃機関の故障検出装置の一実施態様の概略構成を示す図である。図1においてエンジン1は4つの気筒2を備え、各気筒2には気筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁19が備えられている。エンジン1には、エンジン1のクランクシャフトの回転角度を測定するクランク角度センサ20と、図示しないアクセルペダルの踏み込み量を測定するアクセル開度センサ21と、が備えられている。各気筒2は吸気マニホールド5及び排気マニホールド6に連通している。
【0016】
吸気マニホールド5には吸気通路3が接続されている。吸気通路3には、吸気を冷却するインタークーラ10が備えられている。インタークーラ10より上流側の吸気通路3に
は、ターボチャージャ18のコンプレッサ7が備えられている。
【0017】
排気マニホールド6には排気中に燃料を添加する燃料添加弁9が備えられている。排気マニホールド6には排気通路4が接続されている。排気通路4には、ターボチャージャ18のタービン8が備えられている。タービン8より下流側の排気通路4には、排気中の粒子状物質(PM)を捕集するフィルタ17が設けられる。フィルタ17に所定量を超えるPMが捕集されたと判断されたときに、燃料添加弁9から排気中に燃料を供給することによって、フィルタ17に捕集されたPMを酸化除去するフィルタ再生処理が行なわれる。フィルタ再生処理(フィルタ17に捕集されたPM量の検出や燃料添加弁9の制御など)は公知であるから詳細な説明を省略する。フィルタ再生処理はECU22によって行なわれる。本実施例では、燃料添加弁9を制御してフィルタ再生処理を実行するECU22が本発明におけるフィルタ再生手段として機能する。
【0018】
フィルタ17より下流側において排気通路4は2つの分岐通路を有する。すなわち、第1分岐通路11及び第2分岐通路12である。2つの分岐通路はさらに下流側の排気通路4において合流する。各分岐通路には排気中のPMの量を検出するPM粒子数センサが備わる。各PM粒子数センサは、例えば光散乱方式や電圧電荷方式などの公知の方式のセンサを用いることができる。第1分岐通路11には第1センサ15、第2分岐通路12には第2センサ16がそれぞれ備わる。第1センサ15より上流側の第1分岐通路11には、第1分岐通路11を流れる排気を加熱する加熱装置14が備わる。
【0019】
エンジン1にはエンジン1の運転を制御するコンピュータであるECU22が併設されている。ECU22には、上述した第1センサ15、第2センサ16、クランク角度センサ20、アクセル開度センサ21その他各種のセンサが接続されており、これら各センサによる検出値がECU22に入力される。また、ECU22には、上述した燃料噴射弁19、燃料添加弁9、加熱装置14その他各種の機器が接続されており、これら各機器の動作がECU22からの指令により制御される。ECU22はCPU、メモリ、入出力インターフェース等を備えた既知の構成を有し、接続された上記各センサから入力される検出値からエンジン1の運転状態や運転者の要求を取得し、それに基づいて上記各機器の制御目標値を算出し、各機器の動作を制御する。
【0020】
フィルタ再生処理の実行中は、フィルタから排出されるPM量が増加する。そのため、従来あるフィルタから排出されるPM量の大小でフィルタの故障を判定する方法によっては、フィルタ再生処理の実行中は精度良く故障を検出できない可能性があった。
【0021】
PMは主に揮発性粒子と固体粒子から構成されるが、フィルタ再生処理中のPM量の増加は主に揮発性粒子の量が増加することに起因する。図2は、一定期間エンジン1に所定の運転をさせた場合のフィルタ17から排出されるPM量の時間変化を示す図である。図2において、破線は車速を表し、細実線は固体粒子の粒子数濃度を表し、太実線は全PMの粒子数濃度すなわち固体粒子と揮発性粒子の粒子数濃度の和を表す。従って、太実線と細実線の間の幅が揮発性粒子の粒子数濃度を表す。図2に示すように、時間軸の中央付近でフィルタ再生処理が開始されると、排気中の固体粒子の量はフィルタ再生処理開始前と大きく変化しないが、排気中の揮発性粒子の量はフィルタ再生処理開始前と比較して大幅に増加する。
【0022】
フィルタ再生処理の実行中に、加熱装置14を作動させて第1分岐通路11を流れる排気を加熱すると、第1分岐通路11を流れる排気中のPMに含まれる揮発性粒子が除去されるので、第1センサ15は固体粒子の量を検出する。すなわち図2の細実線に対応する量が第1センサ15によって検出される。一方、第2分岐通路12を流れる排気中のPMに含まれる揮発性粒子は除去されないので、第2センサ16は固体粒子及び揮発性粒子の
量を検出する。すなわち図2の太実線に対応する量が第2センサ16によって検出される。このことから、フィルタ再生処理の実行中に加熱装置14を作動させると、フィルタ再生処理の実行によるフィルタ17から排出されるPM中の揮発性粒子の増加に対応して、第2センサ16による検出値M2が第1センサ15による検出値M1より大きくなる。発明者の行なった実験では、第2センサ16による検出値M2は第1センサ15による検出値M1より1桁程度大きくなった。なお、図2の時間軸の中央付近より左側ではフィルタ再生処理は行なわれていないが、その場合、図2に示すように、固体粒子の量と全ての性状の粒子(固体粒子及び揮発性粒子)の量とは同程度である。従って、フィルタ再生処理を実行していない場合は、第1センサ15による検出値M1と第2センサ16による検出値M2とは同程度の値になる。
【0023】
ところで、フィルタ17が故障している場合は、フィルタ再生処理を実行してもフィルタ17から排出されるPM中の揮発性粒子の量はそれほど増加しない。従って、フィルタ再生処理の実行中に加熱装置14を作動させても、第1センサ15による検出値M1と第2センサ16による検出値M2とは同程度に値になる。
【0024】
このように、フィルタ17が正常の場合と故障している場合とでは、フィルタ再生処理を実行中のPMに含まれる揮発性粒子の量の変化に相違があるので、フィルタ再生処理を実行中のフィルタ17から排出されるPMに含まれる揮発性粒子の量に基づいてフィルタ17の故障を検出することができる。
【0025】
図3は、具体的なフィルタ17の故障検出処理を表すフローチャートである。このフローチャートの処理はECU22によって実行される。
【0026】
この処理が実行されると、ECU22はまずステップ101においてエンジン1の運転状態を検出する。ここでは、クランク角度センサ20及びアクセル開度センサ21による検出値に基づいてエンジン1の回転数及び負荷を検出する。続くステップ102において、ECU22はフィルタ再生処理を実行中であるか否かを判定する。この処理は、フィルタ再生処理に関する別ルーチンにおいてフィルタ再生処理を実行中か否かを表すフラグを立てるようにしておき、当該フラグを参照することによって行なうことができる。フィルタ再生処理中と判断した場合はステップ103に進み、フィルタ再生処理中ではないと判断した場合はこのフローチャートの処理を一旦抜ける。
【0027】
ステップ103において、ECU22は第1センサ15による検出値M1及び第2センサ16による検出値M2を取得し、ステップ104において第2センサ16による検出値M2と第1センサ15による検出値M1との差が所定の基準値より小さいか否か判定する。この基準値は、フィルタ17が正常な場合の第2センサ16による検出値M2と第1センサ15による検出値M1との差の下限値に基づいて予め実験などで定められる値である。第2センサ16による検出値M2と第1センサ15による検出値M1との差が基準値以上であれば、ステップ105に進みフィルタ17は正常と判断する。一方、第2センサ16による検出値M2と第1センサ15による検出値M1との差が基準値より小さければ、ステップ106に進みフィルタ17は故障していると判断する。
【0028】
以上説明したように、本実施例に係るフィルタの故障検出処理によれば、フィルタ再生処理の実行中においても、精度良くフィルタ17の故障を判定することができる。本実施例では加熱装置14が本発明における揮発性粒子除去装置として機能し、上記フローチャートを実行するECU22が本発明における故障検出手段として機能している。
【0029】
なお、以上述べた実施例は本発明を説明するための一例であって、本発明の本旨を逸脱しない範囲内において上記の実施例には種々の変更を加え得る。例えば、上記実施例では
フィルタ17の下流において排気通路4から2つの分岐通路11、12が分岐する構成を例示したが、排気通路4が2つの通路に分岐する構成でも良い。その場合も、各分岐通路にPMセンサを備え、一方のPMセンサの上流に揮発性粒子を除去するための加熱装置を備えればよい。
【0030】
また本発明は、フィルタ再生処理を実行中のフィルタから排出されるPMに含まれる揮発性粒子の量がフィルタが正常な場合と故障している場合とで異なることを利用した判定方法であれば、上記実施例の判定方法に限定されない。例えば、フィルタから排出されるPMの全性状の粒子量に対する揮発性粒子量の比率を取得し、フィルタ再生処理の実行中における当該比率が予め定めた基準値より小さければ故障と判定しても良い。また、より単純に、第2センサ16による検出値M2が第1センサ15による検出値M1よりも大きければフィルタ17は正常、そうでなければ故障と判断するようにしても良い。また、フィルタ再生処理は排気燃料添加によるもの以外の、例えばポスト噴射などの燃料噴射制御によるものであっても良い。また、フィルタ17はPMとNOxとを同時に低減する触媒システム(DPR、DPNR)であっても良い。
【符号の説明】
【0031】
1 エンジン
2 気筒
3 吸気通路
4 排気通路
5 吸気マニホールド
6 排気マニホールド
7 コンプレッサ
8 タービン
9 燃料添加弁
10 インタークーラ
11 第1分岐通路
12 第2分岐通路
14 加熱装置
15 第1センサ
16 第2センサ
17 フィルタ
18 ターボチャージャ
19 燃料噴射弁
20 クランク角度センサ
21 アクセル開度センサ
22 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ排気中のPMを捕集するフィルタと、
前記フィルタに捕集されたPMを酸化除去するフィルタ再生処理を行なうフィルタ再生手段と、
前記フィルタ再生処理を実行中の前記フィルタから排出されるPMに含まれる揮発性粒子の量に基づいて前記フィルタの故障を検出する故障検出手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の故障検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記フィルタより下流側の排気通路から分岐する第1の分岐通路及び第2の分岐通路と、
前記第1の分岐通路に設けられ排気中のPMに含まれる揮発性粒子を除去する揮発性粒子除去装置と、
前記揮発性粒子除去装置より下流側の第1の分岐通路に設けられ排気中のPMの量を検出する第1のセンサと、
前記第2の分岐通路に設けられ排気中のPMの量を検出する第2のセンサと、
を備え、
前記故障検出手段は、前記フィルタ再生処理の実行中に、前記揮発性粒子除去装置を作動させ、前記第1のセンサによる検出値と前記第2のセンサによる検出値との差に基づいて前記フィルタの故障を検出することを特徴とする内燃機関の故障検出装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記故障検出手段は、前記第1のセンサによる検出値と前記第2のセンサによる検出値との差が所定の基準値より小さい場合に、前記フィルタが故障していると判断することを特徴とする内燃機関の故障検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−185090(P2011−185090A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47710(P2010−47710)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】