説明

内燃機関の点火制御装置

【課題】低温時に内燃機関の点火時期が誤って遅くされるのを抑制すると共に内燃機関からより効率よく動力を出力する。
【解決手段】エンジンの冷却水温Twが予め定められた温度閾値Twref未満である低温時には、冷却水温Twが温度閾値Twref以上である通常時の通常時用学習値Tfl1よりエンジンの点火時期を遅角させる(遅くする)側の値とはならない範囲内でノック補正量Tfcに基づいて低温時用の低温時用学習値Tfl2を更新し、基準点火時期Tfbに対しノック補正量Tfcと低温時用学習値Tfl2とによる補正を行なって目標点火時期Tf*を設定する。これにより、低温時にエンジンの点火時期が誤って遅くされるのを抑制すると共にエンジンからより効率よくトルクを出力することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火制御装置に関し、詳しくは、内燃機関の運転状態に基づく基準点火時期に対し、内燃機関におけるノックが抑制される範囲内で内燃機関の点火時期が早くなるようノックの発生の有無に応じて増減されるノック補正量と、ノック補正量が定常的に内燃機関の点火時期に反映されるようノック補正量に基づいて更新される学習値と、による補正を行なって目標点火時期を設定し、設定した目標点火時期で内燃機関の点火が行なわれるよう内燃機関を制御する、内燃機関の点火制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の内燃機関の点火制御装置としては、内燃機関が第1の設定温度より高温状態にあると判定されているときにのみ、内燃機関におけるノッキング回避用の遅角修正量を学習値として記憶し、記憶した学習値と内燃機関の運転状態とに基づいて点火時期を演算するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、これにより、内燃機関の温度が第1の設定温度より高い状態のときの過去の点火時期の修正量の履歴が現在の点火時期の演算に生かされるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−93484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の装置では、内燃機関の温度が低いときには、ノッキング回避用の遅角修正量が学習されないため、内燃機関の点火時期がノッキングを回避する範囲内において大きく遅角側の値とされる場合があり、ノッキングを回避する範囲内で内燃機関の点火時期をより進角側の時期とすることができる余地、即ち、ノッキングを回避する範囲内で内燃機関から効率よく動力を出力することができる余地があった。また、内燃機関の温度が低いときには、内燃機関の温度が低いときに比してノッキングが発生しにくいにも拘わらず、例えばピストンとシリンダ内壁との間で発生するノイズをノッキングと誤って検出するなどにより、ノッキング回避用の遅角修正量が誤って大きく遅角側の値となる場合があった。
【0005】
本発明の内燃機関の点火制御装置は、低温時に内燃機関の点火時期が誤って遅くされるのを抑制すると共に内燃機関からより効率よく動力を出力することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関の点火制御装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の内燃機関の点火制御装置は、
内燃機関の運転状態に基づく基準点火時期に対し、前記内燃機関におけるノックが抑制される範囲内で前記内燃機関の点火時期が早くなるよう前記ノックの発生の有無に応じて増減されるノック補正量と、前記ノック補正量が定常的に前記内燃機関の点火時期に反映されるよう前記ノック補正量に基づいて更新される学習値と、による補正を行なって目標点火時期を設定する目標点火時期設定手段と、前記設定した目標点火時期で前記内燃機関の点火が行なわれるよう前記内燃機関を制御する点火制御手段と、を備える内燃機関の点火制御装置であって、
前記目標点火時期設定手段は、前記内燃機関を冷却する冷却液の温度が予め定められた温度閾値未満である低温時には、前記冷却液の温度が前記温度閾値以上である通常時用の前記学習値より前記内燃機関の点火時期を遅くする側の値とはならない範囲内で前記ノック補正量に基づいて前記低温時用の前記学習値を更新し、前記基準点火時期に対し前記ノック補正量と前記低温時用の前記学習値とによる補正を行なって前記目標点火時期を設定する手段である、
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の内燃機関の点火制御装置では、内燃機関を冷却する冷却液の温度が予め定められた温度閾値未満である低温時には、冷却液の温度が温度閾値以上である通常時用の学習値より内燃機関の点火時期を遅くする側の値とはならない範囲内でノック補正量に基づいて低温時用の学習値を更新し、基準点火時期に対しノック補正量と低温時用の学習値とによる補正を行なって目標点火時期を設定する。これにより、低温時でも内燃機関の点火時期に関する学習を行なうと共に低温時用の学習値を用いて目標点火時期を設定することができ、低温時に内燃機関からより効率よく動力を出力することができる。また、低温時にノック補正量が誤って点火時期を遅くする値となった場合でも、低温時用の学習値が通常時用の学習値より点火時期を遅くする側の値とはならないから、低温時に内燃機関の点火時期が誤って遅くされるのを抑制することができる。この結果、低温時に内燃機関の点火時期が誤って遅くされるのを抑制すると共に内燃機関からより効率よく動力を出力することができる。この場合、前記目標点火時期設定手段は、前記通常時には、前記基準点火時期に対し前記ノック補正量と前記ノック補正量に基づく前記通常時用の前記学習値とよる補正を行なって前記目標点火時期を設定する手段である、ものとすることもできる。
【0009】
ここで、基準点火時期は、内燃機関の回転数と体積効率とに基づいてノックが発生しやすい所定の環境条件においてもノックが発生しない範囲内の内燃機関の点火時期(例えば、所定の環境条件においてもノックが発生しない範囲内で最も早い内燃機関の点火時期など)として設定される、ものとすることもできる。また、ノック補正量は、ノックが発生していないときには内燃機関の点火時期を早くする側に第1所定量ずつ変化させると共にノックが発生したときには内燃機関の点火時期を遅くする側に第1所定量より大きく且つノックの大きさに応じた第2所定量変化させることにより設定される、ものとすることもできる。さらに、ノックの発生は、ノック強度が内燃機関の運転状態に基づくノック判定閾値以上であるか否かにより判定される、ものとすることもできる。また、学習値は、ノック補正量の所定時間内の変動量が所定量未満になった(収まった)ときにノック補正量の値に更新される、ものとすることもできる。さらに、温度閾値は、内燃機関が暖機された状態を示す温度である、ものとすることもできる。
【0010】
こうした本発明の内燃機関の点火制御装置において、前記目標点火時期設定手段は、前記低温時に、前記ノック補正量に基づいて前記低温時用の前記学習値を更新すると前記低温時用の前記学習値が前記通常時用の前記学習値より前記内燃機関の点火時期を遅くする側の値となるときには、前記低温時用の前記学習値を更新せずに保持する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、より確実に低温時用の学習値が通常時用の学習値より点火時期を遅くする側の値とはならないようにすることができる。
【0011】
また、本発明の内燃機関の点火制御装置において、前記学習値は、前記内燃機関の運転領域(内燃機関を運転可能な領域)を少なくとも前記内燃機関の負荷により複数に分割した各領域毎に前記ノック補正量に基づいて更新される値である、ものとすることもできる。こうすれば、通常時用の学習値や低温時用の学習値をより適正に更新すると共に目標点火時期をより適正に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例としての内燃機関の点火制御装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】エンジン22の構成の概略を示す構成図である。
【図3】エンジンECU24により実行される点火制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】通常時用学習値Tfl1を更新する様子の一例を示す説明図である。
【図5】低温時用学習値Tfl2を更新する様子の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例としての内燃機関の点火制御装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、内燃機関としてのエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、図示しない複数のスイッチング素子のスイッチングによってモータMG1,MG2を駆動するインバータ41,42と、インバータ41,42の複数のスイッチング素子をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されてインバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、HVECUという)70と、を備える。ここで、実施例の内燃機関の点火制御装置としては、主にエンジンECU24が該当する。
【0015】
エンジン22は、例えばガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力可能な内燃機関として構成されており、図2に示すように、エアクリーナ122により清浄された空気をスロットルバルブ124を介して吸入すると共に燃料噴射弁126からガソリンを噴射して吸入された空気とガソリンとを混合し、この混合気を吸気バルブ128を介して燃焼室に吸入し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させて、そのエネルギにより押し下げられるピストン132の往復運動をクランクシャフト26の回転運動に変換する。エンジン22からの排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化装置(三元触媒)134を介して外気へ排出される。
【0016】
エンジンECU24は、CPU24aを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU24aの他に処理プログラムを記憶するROM24bと、データを一時的に記憶するRAM24cと、記憶したデータを保持する不揮発性のフラッシュメモリ24dと、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。エンジンECU24には、エンジン22の状態を検出する種々のセンサからの信号、クランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ140からのクランクポジションθcrやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ142からの冷却水温Tw,燃焼室内に取り付けられた圧力センサ143からの筒内圧力Pin,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブ128を開閉するインテークカムシャフトや排気バルブを開閉するエキゾーストカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ144からのカム角,スロットルバルブ124のポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサ146からのスロットル開度TH,吸気管に取り付けられて吸入空気の質量流量を検出するエアフローメータ148からの吸入空気量Qa,同じく吸気管に取り付けられた温度センサ149からの吸気温Ta,浄化装置134の三元触媒の温度を検出する温度センサ134aからの触媒温度θc,排気系に取り付けられた空燃比センサ135aからの空燃比AF,同じく排気系に取り付けられた酸素センサ135bからの酸素信号O2,吸気管内の圧力を検出する圧力センサ158からの吸気圧Pi,シリンダブロックに取り付けられてノッキングの発生に伴って生じる振動を検出するノックセンサ159からのノック信号Ksなどが入力ポートを介して入力されている。エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、燃料噴射弁126への駆動信号や、スロットルバルブ124のポジションを調節するスロットルモータ136への駆動信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイル138への制御信号、吸気バルブ128の開閉タイミングVTを変更可能な可変バルブタイミング機構150への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、エンジンECU24は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータを出力する。なお、エンジンECU24は、クランクシャフト26に取り付けられたクランクポジションセンサ140からの信号に基づいてクランクシャフト26の回転数、即ちエンジン22の回転数Neを演算したり、エアフローメータ148からの吸入空気量Qaとエンジン22の回転数Neとに基づいてエンジン22の負荷率としての体積効率(エンジン22の1サイクルあたりの行程容積に対する1サイクルで実際に吸入される空気の容積の比)KLを演算したり、クランクポジションセンサ140からのクランク角θcrに対するカムポジションセンサ144からの吸気バルブ128のインテークカムシャフトのカム角θciの角度(θci−θcr)に基づいて吸気バルブ128の開閉タイミングVTを演算したり、ノックセンサ159からのノック信号Ksの大きさや波形に基づいてノッキングの発生レベルを示すノック強度Krを演算したりしている。
【0017】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの回転位置θm1,θm2や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力ポートを介して入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、モータECU40は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置θm1,θm2に基づいてモータMG1,MG2の回転角速度ωm1,ωm2や回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0018】
バッテリECU52は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧Vbやバッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流Ib,バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりHVECU70に送信する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために、電流センサにより検出された充放電電流Ibの積算値に基づいてそのときのバッテリ50から放電可能な電力の容量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。
【0019】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。HVECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号やシフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。また、HVECU70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0020】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20では、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を設定すると共に、要求トルクTr*とバッテリ50の充放電要求パワーとに基づいてエンジン22から出力すべき要求パワーPe*を設定し、要求パワーPe*が閾値以上やバッテリ50の蓄電割合SOCが閾値未満などのエンジン22の運転条件が成立しているときには、エンジン22から要求パワーPe*を効率よく出力する運転ポイントとしての目標回転数Ne*と目標トルクTe*とからなる目標運転ポイントでエンジン22が運転されて要求トルクTr*に対応する要求動力が駆動軸36に出力されるようエンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御され、エンジン22の運転条件が成立していないときには、エンジン22の運転を停止した状態でモータMG2から要求動力に見合う動力を駆動軸36に出力するようモータMG2が運転制御される。
【0021】
エンジン22の運転制御では、実施例では、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とからなる目標運転ポイントでエンジン22を効率よく運転するための目標スロットル開度TH*と吸気バルブ128の目標開閉タイミングVT*とを設定し、エンジン22の回転数Neと体積効率KLとに基づいて理論空燃比などの目標空燃比を得るための目標燃料噴射量Qf*とエンジン22におけるノックの発生が抑制される範囲内でエンジン22の点火時期を早くするための目標点火時期Tf*とを設定する。そして、スロットルバルブ124のスロットル開度THを目標スロットル開度TH*とするようスロットルモータ136を駆動制御することによって吸入空気量制御が行なわれ、吸気バルブ128の開閉タイミングVTを目標開閉タイミングVT*とするよう可変バルブタイミング機構150を駆動制御することによって開閉タイミング制御が行なわれ、目標燃料噴射量Qf*による燃料噴射が行なわれるよう燃料噴射弁126を駆動制御することによって燃料噴射制御が行なわれ、目標点火時期Tf*で点火を行なうようイグニッションコイル138を駆動制御することによって点火制御が行なわれる。以下、エンジン22の点火時期を早くすること,遅くすることをそれぞれ「進角する」,「遅角する」ともいう。
【0022】
次に、実施例のハイブリッド自動車20におけるエンジン22の動作、特にエンジン22の点火制御を行なう際の動作について説明する。図3は、エンジンECU24により実行される点火制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0023】
点火制御ルーチンが実行されると、エンジンECU24のCPU24aは、まず、エンジン22の回転数Neや冷却水温Tw,体積効率KL,ノック判定フラグFなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22の回転数Neは、クランクポジションセンサ140からの信号に基づいて演算されたものを入力するものとした。エンジン22の体積効率KLは、エアフローメータ148からの吸入空気量Qaとエンジン22の回転数Neとに基づいて演算されたものを入力するものとした。ノック判定フラグFは、エンジン22におけるノックが発生しているか否かを示すフラグであり、実施例では、ノックセンサ159からのノック信号Ksに基づいて演算されたノック強度Krとノック判定閾値Krefとを比較し、ノック強度Krがノック判定閾値Kref以下のときにはノックの発生レベルが許容範囲内でありノックは発生していないと判断して値0が設定され、ノック強度Krがノック判定閾値Krefより大きいときにはノックの発生レベルが許容範囲を超えておりノックが発生していると判断して値1が設定されたものを入力するものとした。ノック判定閾値Krefは、ノックの発生レベルが許容範囲内にあるか否かを判断するためのものであり、実施例では、エンジン22の回転数Neと吸気圧Piとノック判定閾値Krefとの関係を予め実験などにより定めたマップに現在の回転数Neと吸気圧Piとを適用することによって設定されたものを用いるものとした。
【0024】
こうしてデータを入力すると、入力したエンジン22の回転数Neと体積効率KLとに基づいてエンジン22の基準点火時期Tfbを設定する(ステップS110)。基準点火時期Tfbは、実施例では、ノックが発生しやすい例えば気温や湿度,燃料の種類などによる所定の環境条件においてもエンジン22にノックが発生しない範囲内の点火時期(例えば、使用が想定される燃料のうち最もオクタン価が低い燃料が用いられる所定の環境条件においてノックが発生しない範囲内で最も進角側の点火時期など)であり、回転数Neと体積効率KLと基準点火時期Tfbとの関係を予め実験などに定めてマップとしてROM24bに記憶しておき、回転数Neと体積効率KLとが与えられるとマップから対応する基準点火時期Tfbを導出して設定するものとした。
【0025】
続いて、入力したノック判定フラグFを調べ(ステップS120)、ノック判定フラグFが値0のときには、エンジン22の点火時期を進角させてもよいと判断し、ノックの発生の有無に応じて点火時期を補正するためのノック補正量Tfcを前回本ルーチンが実行されたときに計算されたノック補正量Tfc(前回Tfc)と所定の進角量ΔTfc1との和として計算する(ステップS130)。また、ノック判定フラグFが値1のときには、エンジン22の点火時期を大きく遅角させると判断し、前回Tfcから所定の進角量ΔTfc1より大きく且つノック強度Krに応じた所定の遅角量ΔTfc2を減じたものをノック補正量Tfcとして計算する(ステップS140)。実施例では、エンジン22の点火時期を進角させる方向を正の方向とすると共に遅角させる方向を負の方向とし、所定の進角量ΔTfc1や所定の遅角量ΔTfc2としては正の値を用いるものとした。また、ノック強度Krに応じた所定の遅角量ΔTfc2としては、例えば、ノック強度Krがノック判定閾値Krefより大きいほど大きくなる遅角量や、ノック強度Krが現在までの一定時間内にノック判定閾値Krefより大きくなった回数が多いほど大きくなる傾向の遅角量などを用いることができる。エンジン22の点火時期の目標値としての目標点火時期Tf*は、後述するように、基準点火時期Tfbと、ノック補正量Tfcと、ノック補正量Tfcが定常的に点火時期に反映されるようノック補正量Tfcに基づいて更新される学習値と、の和として計算される。したがって、ノック補正量Tfcに基づく学習が行なわれてない学習値が値0のときを考えると、目標点火時期Tf*は、所定の進角量ΔTf1ずつ徐々に進角されると共にノックが発生したときに所定の遅角量ΔTf2だけ大きく遅角されることを複数回繰り返した後に、ノックが発生しない範囲内でより進角側の値に収束することになる。なお、ノック補正量Tfcに基づく学習値の更新は、こうしてノック補正量Tfcの変動が収まったときに行なわれる。
【0026】
次に、入力した回転数Neと体積効率KLとに基づいてエンジン22の現在の運転領域に対応する2種類の学習値を入力する(ステップS150)。ここで、2種類の学習値として、冷却水温Twがエンジン22が暖機された状態を示す温度閾値Twref(例えば、65℃や70℃など)以上のときにノック補正量Tfcに基づいて更新される通常時用学習値Tfl1と、冷却水温Twが温度閾値Twref未満のときにノック補正量Tfcに基づいて更新される低温時用学習値Tfl2とを入力する。通常時用学習値Tfl1および低温時用学習値Tfl2は、実施例では、エンジン22の全運転領域を回転数Neと体積効率KLとにより複数に分割した各領域(例えば、3つや4つの回転数領域と3つや4つの体積効率領域とによる9つや16個の領域など)毎にフラッシュメモリ24dに記憶されており、現在の回転数Neと体積効率KLとに対応するものをそれぞれフラッシュメモリ24dから読み出して入力するものとし、初期値としては値0が設定されているものとした。
【0027】
こうして通常時用学習値Tfl1と低温時用学習値Tfl2とを入力すると、エンジン22の冷却水温Twと温度閾値Twrefとを比較し(ステップS160)、冷却水温Twが温度閾値Twref未満のときには、基本点火時期Tfbとノック補正量Tfcと通常時用学習値Tfl1との和を目標点火時期Tf*として計算して(ステップS170)、目標点火時期Tf*で点火が行なわれるようイグニッションコイル138を駆動制御する(ステップS180)。
【0028】
続いて、ノック補正量Tfcの変動が収まっているか否かを判定し(ステップS190)、ノック補正量Tfcの変動が収まっていないときには、そのまま点火制御ルーチンを終了し、ノック補正量Tfcの変動が収まっているときには、現在の回転数Neと体積効率KLとを含む運転領域に対応する通常時用学習値Tfl1にノック補正量Tfcを加えたものでフラッシュメモリ24dに記憶された通常時用学習値Tfl1を置き換えることによって通常時用学習値Tfl1を更新し(ステップS200)、ノック補正量Tfcを値0にリセットして(ステップS210)、点火制御ルーチンを終了する。ここで、ノック補正量Tfcの変動が収まっているか否かの判定は、例えば、判定用に実験などに予め定められた所定時間と所定量とを用いてノック補正量Tfcの所定時間内の変動量(変動幅)が所定量未満であるか否かなどにより判定することができる。
【0029】
図4に通常時用学習値Tfl1を更新する様子の一例を示す。図中、参考用に示す点火時期Tfrefは、使用が想定される燃料のうち最もオクタン価が高い燃料が用いられることを含むノックが発生しにくい所定の環境条件においてエンジン22にノックが発生するか否かの境界の点火時期である。図中、左側に示すように、基本点火時期Tfbに対して進角側の目標点火時期Tf*が得られるように通常時用学習値Tfl1が学習された状態でノック補正量Tfcが進角側の値(正の値)に収束すると、図中、右側に示すように、基本点火時期Tfbに対してより進角側の目標点火時期Tf*が得られるように通常時用学習値Tfl1がそれまでの通常時用学習値Tfl1とノック補正量Tfcとの和として更新される。
【0030】
こうした制御により、冷却水温Twが温度閾値Twref以上の通常時には、エンジン22におけるノックの発生が抑制されると共により進角側の点火時期が得られるように通常時用学習値Tfl1を更新しながらエンジン22の目標点火時期Tf*を設定して点火を行なうことができる。この結果、ノックの発生を抑制すると共にエンジン22から効率よくトルクを出力することができる。
【0031】
ステップS160で冷却水温Twが温度閾値Twref未満である低温時には、基本点火時期Tfbとノック補正量Tfcと低温時用学習値Tfl2との和を目標点火時期Tf*として計算して(ステップS220)、目標点火時期Tf*で点火が行なわれるようイグニッションコイル138を駆動制御する(ステップS230)。
【0032】
続いて、ノック補正量Tfcの変動が収まっているか否かをステップS190と同様に判定すると共に(ステップS240)、現在の回転数Neと体積効率KLとを含む運転領域に対応する低温時用学習値Tfl2とノック補正量Tfcとの和が同じ運転領域に対応する通常時用学習値Tfl1以上であるか否かを判定する(ステップS250)。ここで、後者の判定は、冷却水温Twが温度閾値Twref未満の低温時において、ノック補正量Tfcに基づいて低温時用学習値Tfl2を更新すると低温時用学習値Tfl2が通常時用学習値Tfl1より遅角側の値(点火時期を遅くする側の値)となるか否かを判定するためのものである。
【0033】
ノック補正量Tfcの変動が収まっており、且つ、低温時用学習値Tfl2とノック補正量Tfcとの和が通常時用学習値Tfl1以上のときには、現在の回転数Neと体積効率KLとを含む運転領域に対応する低温時用学習値Tfl2にノック補正量Tfcを加えたものでフラッシュメモリ24dに記憶された低温時用学習値Tfl2を置き換えることによって低温時用学習値Tfl2を更新し(ステップS260)、ノック補正量Tfcを値0にリセットして(ステップS270)、点火制御ルーチンを終了する。一方、ノック補正量Tfcの変動が収まっていないときや、ノック補正量Tfcの変動が収まっているときでも低温時用学習値Tfl2とノック補正量Tfcとの和が通常時用学習値Tfl1未満で遅角側の値のときには、そのまま点火制御ルーチンを終了する。なお、ノック補正量Tfcの変動が収まっているときでも低温時用学習値Tfl2とノック補正量Tfcとの和が通常時用学習値Tfl1未満で遅角側の値となったときには、次にノック補正量Tfcの変動が収まったときに、低温時用学習値Tfl2とノック補正量Tfcとの和が通常時用学習値Tfl1以上であれば、低温時用学習値Tfl2の更新が行なわれることになる。
【0034】
図5に低温時用学習値Tfl2を更新する様子の一例を示す。図中、参考用に示す点火時期Tfrefは、図4のものと同じものであり、通常時用学習値Tfl1は、低温時用学習値Tfl2に対応する運転領域と同じ運転領域の学習値としてフラッシュメモリ24dに記憶されているものである。図中、左側に示すように、基本点火時期Tfbに対して進角側の目標点火時期Tf*が得られるように低温時用学習値Tfl2が学習された状態でノック補正量Tfcが遅角側の値(負の値)に収束したときに、低温時用学習値Tfl2とノック補正量Tfcとの和が通常時用学習値Tfl1未満で遅角側の値となるときには、更新後の低温時用学習値Tfl2が通常時用学習値Tfl1より遅角側の値(点火時期を遅くする側の値)とならないように、低温時用学習値Tfl2は更新されずに保持される。低温時用学習値Tfl2が通常時用学習値Tfl1より遅角側の値とならないようにするのは、低温時には通常時に比してエンジン22におけるノックは発生しにくいことから、低温時用学習値Tfl2が通常時用学習値Tfl1より遅角側の値となるときは、ノック補正量Tfcが誤って大きく遅角側の値になっていると判断できることに基づく。
【0035】
こうした制御により、冷却水温Twが温度閾値Twref未満となるエンジン22の低温時には、通常時用学習値Tfl1より遅角側(点火時期を遅くする側)の値とはならない範囲内でノック補正量Tfcに基づいて低温時用学習値Tfl2を更新するから、低温時でもエンジン22の点火時期に関する学習を行なうと共に低温時用学習値Tfl2を用いて目標点火時期Tf*を設定することができ、エンジン22から効率よくトルクを出力することができる。また、低温時には、例えばピストンとシリンダライナーとの間で発生するいわゆるピストンノイズをノッキングと誤って検出するなどにより、ノック補正量Tfcが誤って点火時期を遅くする値となる場合が生じるが、こうした場合でも、低温時用学習値Tfl2が通常時用学習値Tfl1より遅角側の値とはならないから、低温時にエンジン22の点火時期が誤って遅角されるのを抑制することができる。この結果、エンジン22の低温時に点火時期が誤って遅角されるのを抑制すると共にエンジン22から効率よくトルクを出力することができる。
【0036】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20に搭載された内燃機関の点火制御装置によれば、エンジン22の冷却水温Twが予め定められた温度閾値Twref未満である低温時には、冷却水温Twが温度閾値Twref以上である通常時の通常時用学習値Tfl1よりエンジン22の点火時期を遅角させる(遅くする)側の値とはならない範囲内でノック補正量Tfcに基づいて低温時の低温時用学習値Tfl2を更新し、基準点火時期Tfbに対しノック補正量Tfcと低温時用学習値Tfl2とによる補正を行なって目標点火時期Tf*を設定するから、低温時にエンジン22の点火時期が誤って遅くされるのを抑制すると共にエンジン22からより効率よくトルクを出力することができる。
【0037】
実施例のエンジンECU24によるエンジン22の点火制御では、低温時にノック補正量Tfcが収束しているときでも低温時用学習値Tfl2とノック補正量Tfcとの和が通常時用学習値Tfl1未満で遅角側の値のときには、低温時用学習値Tfl2を更新せずに保持するものとしたが、低温時用学習値Tfl2を通常時用学習値Tfl1で更新するものとしてもよい。
【0038】
実施例のエンジンECU24によるエンジン22の点火制御では、通常時用学習値Tfl1および低温時用学習値Tfl2は、エンジン22の全運転領域を回転数Neと体積効率KLとにより複数に分割した各領域毎に記憶され更新されるものとしたが、エンジン22の全運転領域を体積効率KLのみにより複数に分割した各体積効率領域毎に記憶され更新されるものとしてもよいし、エンジン22の全運転領域を回転数Neのみにより複数に分割した各回転数領域毎に記憶され更新されるものとしてもよい。
【0039】
実施例のエンジンECU24によるエンジン22の点火制御では、収束したノック補正量Tfcで通常時用学習値Tfl1や低温時用学習値Tfl2を置き換えることによって通常時用学習値Tfl1や低温時用学習値Tfl2を更新するものとしたが、現在記憶されている通常時用学習値Tfl1や低温時用学習値Tfl2にある程度の重み付けをし、これらの学習値と収束したノック補正量Tfcとを用いたなまし処理によって通常時用学習値Tfl1や低温時用学習値Tfl2を更新するものとしてもよい。
【0040】
実施例のエンジンECU24によるエンジン22の点火制御では、少なくともノック補正量Tfcの変動が収まることを条件として通常時用学習値Tfl1や低温時用学習値Tfl2を更新するものとしたが、この条件に加えて、例えば、エンジン22の運転状態が過渡状態を終了してから一定の時間が経過する条件や、エンジン22が軽負荷で運転されていない条件などを用いるものとしてもよい。
【0041】
実施例のエンジンECU24によるエンジン22の点火制御では、基準点火時期Tfbは、ノックが発生しやすい所定の環境条件においてもエンジン22にノックが発生しない範囲内の点火時期であるものとしたが、基本点火時期Tfbとしては、エンジン22の運転状態に基づくものであれば、例えば、図4や図5で示した点火時期Tfrefなどを用いるものとしてもよい。
【0042】
実施例のエンジンECU24によるエンジン22の点火制御では、ノック補正量Tfcが収束して通常時用学習値Tfl1や低温時用学習値Tfl2を更新したときにはノック補正量Tfcを値0にリセットするものとしたが、これに加えて、現在のエンジン22の回転数Neと体積効率KLとを含む運転領域が、フラッシュメモリ24dに記憶された通常時用学習値Tfl1や低温時用学習値Tfl2を区分する複数の運転領域のうち一の領域から他の領域に移行したときにノック補正量Tfcを値0にリセットするものとしてもよい。
【0043】
実施例では、本発明をハイブリッド自動車20に搭載された内燃機関の点火制御装置の形態に適用して説明したが、走行用の動力源としてエンジンのみを備える自動車や、自動車以外の車両や船舶,航空機などの移動体に搭載される内燃機関の点火制御装置の形態としてもよいし、建設設備などの移動しない設備に組み込まれた内燃機関の点火制御装置の形態としても構わない。
【0044】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、回転数Neと体積効率KLとに基づく基本点火時期Tfbと、ノック判定フラグFの値に応じて所定の進角量ΔTfc1ずつ徐々に大きくされたり所定の遅角量ΔTfc2だけ小さくされて計算されるノック補正量Tfcと、冷却水温Twが温度閾値Twref以上である通常時にノック補正量Tfcが収束したときにノック補正量Tfcに基づいて更新される通常時用学習値Tfl1または冷却水温Twが温度閾値Twref未満である低温時にノック補正量Tfcが収束し且つ通常時用学習値Tfl1より点火時期を遅くする側の値とはならない範囲内でノック補正量Tfcに基づいて更新される低温時用学習値Tfl2との和として目標点火時期Tf*を設定する、図3の点火制御ルーチンのステップS180,S230以外の処理(ステップS100〜S170,S190〜S220,S240〜S270の処理)を実行するエンジンECU24が「目標点火時期設定手段」に相当し、設定した目標点火時期Tf*で点火が行なわれるようイグニッションコイル138を駆動制御する図3の点火制御ルーチンのステップS180,S230の処理を実行するエンジンECU24が「点火制御手段」に相当する。
【0045】
ここで、「内燃機関」としては、エンジン22に限定されるものではなく燃料の点火によって動力を出力するものであれば如何なるタイプの内燃機関であっても構わない。「目標点火時期設定手段」としては、回転数Neと体積効率KLとに基づく基本点火時期Tfbと、ノック判定フラグFの値に応じて所定の進角量ΔTfc1ずつ徐々に大きくされたり所定の遅角量ΔTfc2だけ小さくされて計算されるノック補正量Tfcと、冷却水温Twが温度閾値Twref以上である通常時にノック補正量Tfcが収束したときにノック補正量Tfcに基づいて更新される通常時用学習値Tfl1または冷却水温Twが温度閾値Twref未満である低温時にノック補正量Tfcが収束し且つ通常時用学習値Tfl1より点火時期を遅くする側の値とはならない範囲内でノック補正量Tfcに基づいて更新される低温時用学習値Tfl2との和として目標点火時期Tf*を設定するものに限定されるものではなく、内燃機関の運転状態に基づく基準点火時期に対し、内燃機関におけるノックが抑制される範囲内で内燃機関の点火時期が早くなるようノックの発生の有無に応じて増減されるノック補正量と、ノック補正量が定常的に内燃機関の点火時期に反映されるようノック補正量に基づいて更新される学習値と、による補正を行なって目標点火時期を設定するものであって、内燃機関を冷却する冷却液の温度が予め定められた温度閾値未満である低温時には、冷却液の温度が温度閾値以上である通常時用の学習値より内燃機関の点火時期を遅くする側の値とはならない範囲内でノック補正量に基づいて低温時用の学習値を更新し、基準点火時期に対しノック補正量と低温時用の学習値とによる補正を行なって目標点火時期を設定するものであれば如何なるものとしても構わない。「点火制御手段」としては、設定した目標点火時期Tf*で点火が行なわれるようイグニッションコイル138を駆動制御するものに限定されるものではなく、設定した目標点火時期で内燃機関の点火が行なわれるよう内燃機関を制御するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0046】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0047】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、内燃機関の点火制御装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、24a CPU、24b ROM、24c RAM、24d フラッシュメモリ、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、37 デファレンシャルギヤ、38a,38b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(HVECU)、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、122 エアクリーナ、124 スロットルバルブ、126 燃料噴射弁、128 吸気バルブ、130 点火プラグ、132 ピストン、134 浄化装置、134a 温度センサ、135a 空燃比センサ、135b 酸素センサ、136 スロットルモータ、138 イグニッションコイル、140 クランクポジションセンサ、142 水温センサ、143 圧力センサ、144 カムポジションセンサ、146 スロットルバルブポジションセンサ、148 エアフローメータ、149 温度センサ、150 可変バルブタイミング機構、158 圧力センサ,159 ノックセンサ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の運転状態に基づく基準点火時期に対し、前記内燃機関におけるノックが抑制される範囲内で前記内燃機関の点火時期が早くなるよう前記ノックの発生の有無に応じて増減されるノック補正量と、前記ノック補正量が定常的に前記内燃機関の点火時期に反映されるよう前記ノック補正量に基づいて更新される学習値と、による補正を行なって目標点火時期を設定する目標点火時期設定手段と、前記設定した目標点火時期で前記内燃機関の点火が行なわれるよう前記内燃機関を制御する点火制御手段と、を備える内燃機関の点火制御装置であって、
前記目標点火時期設定手段は、前記内燃機関を冷却する冷却液の温度が予め定められた温度閾値未満である低温時には、前記冷却液の温度が前記温度閾値以上である通常時用の前記学習値より前記内燃機関の点火時期を遅くする側の値とはならない範囲内で前記ノック補正量に基づいて前記低温時用の前記学習値を更新し、前記基準点火時期に対し前記ノック補正量と前記低温時用の前記学習値とによる補正を行なって前記目標点火時期を設定する手段である、
内燃機関の点火制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関の点火制御装置であって、
前記目標点火時期設定手段は、前記低温時に、前記ノック補正量に基づいて前記低温時用の前記学習値を更新すると前記低温時用の前記学習値が前記通常時用の前記学習値より前記内燃機関の点火時期を遅くする側の値となるときには、前記低温時用の前記学習値を更新せずに保持する手段である、
内燃機関の点火制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の内燃機関の点火制御装置であって、
前記学習値は、前記内燃機関の運転領域を少なくとも前記内燃機関の負荷により複数に分割した各領域毎に前記ノック補正量に基づいて更新される値である、
内燃機関の点火制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−87624(P2013−87624A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225481(P2011−225481)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】