説明

内燃機関の燃料供給システムおよびそれを備える内燃機関

【課題】燃料噴射装置から燃焼室内に噴射される燃料の流量を安定化することが可能な内燃機関の燃料供給システムおよびそれを備える内燃機関を提供する。
【解決手段】コモンレール4の燃料流通管4a内に燃料の圧力脈動を減衰する動吸振器15を設置した。コモンレール4の燃料流通管4a内には、動吸振器15のピストン15aが燃料流通管4aの長手方向に沿って移動可能な状態で設置されている。コモンレール4の蓄圧室4a1で燃料の圧力脈動が生じると、その圧力脈動により動吸振器15のピストン15aが共振することで振動エネルギーを吸収することができる。これにより、コモンレール4内に圧力脈動が伝播するのを抑制することができるので、インジェクタ5から燃焼室内に噴射される燃料の流量を安定化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料供給システムおよびそれを備える内燃機関に関し、更に詳しくは、燃料噴射装置から燃焼室内に噴射される燃料の流量を安定化することが可能な内燃機関の燃料供給システムおよびそれを備える内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンのコモンレール式の燃料供給システムにおいては、コモンレールにて蓄圧された燃料が、エンジンの回転速度により制御されるタイミングでインジェクタを通じて各気筒内に噴射される。
【0003】
このコモンレール式の燃料供給システムにおいては、高圧ポンプ、コモンレールおよびインジェクタに到るまでの燃料噴射流路における燃料が高圧状態にあるために、その燃料噴射流路において、燃料噴射に際してインジェクタで生じた燃料の圧力脈動が伝わる結果、インジェクタによる燃料の噴射量が変動し、微小な流量を安定した状態で噴射することができない、という問題がある。
【0004】
なお、このような圧力脈動に対処するため、コモンレール内に燃料の圧力脈動を減衰する減衰手段を設ける構成が開示されている(例えば特許文献1,2参照)。
【0005】
特許文献1には、コモンレールを二重円筒構造にし、内側蓄圧室と外側蓄圧室とをオリフィス(減衰手段)を介して接続する構成が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、コモンレールの内部燃料通路に大径部および小径部を有するアキュムレータ(減衰手段)を設けるとともに、コモンレールにおいてインジェクタに接続される連通路と小径部とを接続する部分にオリフィス(減衰手段)を設ける構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−346818号公報
【特許文献2】特開2007−071152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、燃料噴射装置から燃焼室内に噴射される燃料の流量を安定化することができる内燃機関の燃料供給システムおよびそれを備える内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の内燃機関の燃料供給システムは、燃料供給源から加圧供給された燃料を蓄圧し、複数の燃料噴射装置に供給するコモンレールを備える内燃機関の燃料供給システムであって、前記コモンレールは、燃料の圧力脈動を減衰する動吸振器を備えており、前記動吸振器は、前記コモンレールの燃料流通管内に該燃料流通管の長手方向に沿って移動可能な状態で設けられ、予め設定された質量を持つピストンと、前記コモンレールの燃料流通管において、前記複数の燃料噴射装置に接続される第1室に対し、前記ピストンにより隔てられた状態で設けられた第2室と、前記第2室に供給された燃料により形成されるバネ部とを有するものである。
【0010】
また、上記の内燃機関の燃料供給システムにおいて、前記第1室内に設けられ、該第1室内の燃料の圧力を検出する第1センサと、前記第2室内に設けられ、該第2室内の燃料の圧力を検出する第2センサと、前記第2室内に供給される燃料の流量を制御する第1弁と、前記第2室内から排出される燃料の流量を制御する第2弁と、前記第1、第2センサからの検出情報に基づいて前記第1、第2弁を制御することにより、前記第2室内の燃料の圧力を制御することで前記動吸振器のバネ定数を調整する制御部とを備える。
【0011】
また、上記の内燃機関の燃料供給システムにおいて、前記ピストンの移動に対するダンパを設けた。
【0012】
また、上記の内燃機関の燃料供給システムにおいて、前記燃料が、液化ガス燃料である。
【0013】
上記の目的を達成するための本発明の内燃機関は、前記燃料供給システムを備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の内燃機関の燃料供給システムおよびそれを備える内燃機関によれば、コモンレール内に燃料の圧力脈動を減衰するための動吸振器を備えたことにより、コモンレール内を伝播する圧力脈動を抑制することができるので、燃料供給システムの燃料噴射装置から燃焼室内に噴射される燃料の流量を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の内燃機関における燃料供給システムの構成図である。
【図2】本発明の他の実施の形態の内燃機関における燃料供給システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態の内燃機関について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1に本発明の実施の形態の内燃機関の燃料供給システムの構成を示す。なお、図1の実線の矢印は燃料の流れを示している。また、破線は信号配線を示し、破線の矢印は電気信号の流れを示している。
【0018】
本実施の形態の内燃機関は、例えば、トラックのような自動車に搭載される直列4気筒のコモンレール式のディーゼルエンジン1として構成される。なお、本発明はディーゼルエンジンに限定されず、ガソリンエンジン等に適用することもできる。
【0019】
このディーゼルエンジン(以下、エンジンという)1の燃料供給システムは、燃料タンク(燃料供給源)2に貯留された軽油等のような燃料を、サプライポンプ(燃料供給源、高圧ポンプ)3、コモンレール4および各インジェクタ(燃料噴射装置)5を順に通じて、エンジン1の図示しない各気筒の燃焼室に供給する構成を有している。
【0020】
燃料タンク2は、フューエルフィルタ8を介してサプライポンプ3に接続されている。この燃料タンク2には、図示しない低圧ポンプが収容されており、燃料タンク2内の燃料は、低圧ポンプにより加圧されてからフューエルフィルタ8を介してサプライポンプ3に圧送される。
【0021】
サプライポンプ3は、燃料を燃焼室内に噴射するのに適した圧力まで高めるポンプであり、エンジン1の図示しない各気筒のピストンの往復運動に伴って駆動するようになっている。このサプライポンプ3は、コモンレール4に接続されており、サプライポンプ3に圧送された燃料は、数10MPa〜200MPaに加圧されてからコモンレール4に圧送される。
【0022】
コモンレール4は、噴射すべき燃料を蓄圧する容器である。コモンレール4は、各気筒に配置された各インジェクタ5に接続されており、コモンレール4に供給され蓄圧された燃料は、各インジェクタ5に均等に分配される。
【0023】
インジェクタ5は、コモンレール4から供給された燃料を噴孔からエンジン1の燃焼室内に噴射する装置である。各インジェクタ5は、電子制御ユニット(Engine Control Unite;以下、ECUと略す、制御部)ECU9に電気的に接続されている。ECU9は、エンジン1の回転数や負荷状態等のような運転状態に応じて、適切な燃料噴射時期および燃料噴射期間に適切な噴射量および噴射圧力で各気筒の燃焼室に燃料が噴射されるように各インジェクタ5を制御する。また、各インジェクタ5は、戻り配管10を通じて燃料タンク2に接続されており、各インジェクタ5内の過剰な燃料を燃料タンク2に戻すことが可能になっている。
【0024】
ところで、本実施の形態のエンジン1の燃料供給システムにおいては、コモンレール4の燃料流通管4a内に燃料の圧力脈動を減衰する動吸振器15が設置されている。
【0025】
動吸振器15は、予め設定された質量を持つピストン15aと、コモンレール4の燃料流通管4aにおいて燃料蓄圧室(第1室、以下、単に蓄圧室という)4a1に対してピストン15aにより隔てられた脈動減衰室(第2室、以下、単に減衰室という)4a2と、この脈動減衰室4a2内の燃料の弾性力により形成されるバネ部とを有している。
【0026】
ピストン15aは、コモンレール4の燃料流通管4a内に該燃料流通管4aの長手方向(Z軸方向)に沿って移動可能な状態で設置されている。燃料流通管4aは、ピストン15aにより蓄圧室4a1と減衰室4a2とに分けられている。
【0027】
蓄圧室4a1および減衰室4a2には、上記したサプライポンプ3が接続されており、蓄圧室4a1に燃料が満たされると同時に減衰室4a2にも燃料が満たされる。サプライポンプ3からコモンレール4への燃料供給は2系統で行われている。第1系統は、サプライポンプ3の燃料流出口からコモンレール4の燃料流入口4bを通じて蓄圧室4a2に燃料を供給する経路である。すなわち、第1系統では、サプライポンプ3から供給された燃料が蓄圧室4a1に常に圧送される。一方、第2系統は、経路途中に経路切替弁(第1弁)16が介在され、そこからコモンレール4の燃料流入口4cを通じて蓄圧室4a1に燃料を供給する経路と、コモンレール4の燃料流入口4dを通じて減衰室4a2に燃料を供給する経路とを有する。すなわち、第2系統では、サプライポンプ3から供給された燃料が経路切替弁16での経路の切り替えにより蓄圧室4a1または減衰室4a2のいずれかに圧送される。経路切替弁16は、ECU9に電気的に接続されており、ECU9により経路の切り替えが制御される。
【0028】
蓄圧室4a1は、コモンレール4の複数の燃料流出口4eの各々を通じて各インジェクタ5の燃料流入口に接続されている。また、蓄圧室4a1は、燃料流出口4fから第1の圧力調整弁(Pressure Control Valve;PCV)17aを介して戻り配管10に接続されている。一方、減衰室4a2は、燃料流出口4gから第2の圧力調整弁(PCV、第2弁)17bを介して戻り配管10に接続されている。これらにより、蓄圧室4a1および減圧室4a2内の燃料の圧力を調整することが可能になっている。圧力調整弁17a,17bは、ECU9に電気的に接続されており、ECU9により弁の開閉が制御される。
【0029】
また、蓄圧室4a1および減衰室4a2内には、それぞれセンサ(第1センサ、第2センサ)18a,18bが設置されている。センサ18a,18bは、それぞれ蓄圧室4a1および減衰室4a2の燃料の圧力、温度またはその両方を検出するためのセンサである。これらセンサ18a,18bは、ECU9と電気的に接続されおり、センサ18a,18bにより検出された信号がECU9に入力される。
【0030】
蓄圧室4a1内の燃料の圧力や供給量は、ECU9がコモンレール4内のセンサ18aからの情報とセンサ類19から送られるエンジン回転速度および負荷の情報とに基づいてサプライポンプ3の駆動を制御することにより、エンジン1の運転状態に応じて最適な値になるように設定されている。なお、センサ類19は、エンジン1の作動状態を検出するセンサであり、例えばクランクセンサ、カムセンサ、アクセル開度センサおよび温度センサ等がある。
【0031】
一方、減衰室4a2内の燃料の圧力や供給量は、動吸振器15のバネ部のバネ定数が、蓄圧室4a1内に伝搬する圧力脈動を抑制するのに最適な値になるように設定されている。
【0032】
この動吸振器15のバネ部のバネ定数は、蓄圧室4a1および減衰室4a2内の燃料圧力をセンサ18a,18bからの検出信号により測定し、減衰室4a2内に満たされた燃料とピストン15aの質量とにより形成されたバネ−質量系の運動方程式から最適な値を求める。
【0033】
このような動吸振器15のバネ部のバネ定数は、減衰室4a2内の燃料の圧力を変化させることで圧力脈動の抑制に最適な値に設定(調整)することができる。減衰室4a2の燃料圧力を変化させるには、センサ18bからECU9に送られた検出信号に基づいて、経路切替弁16および第2の圧力調整弁17bを制御することにより、減衰室4a2への燃料供給量と、減衰室4a2からの燃料排出量とを制御することにより行う。
【0034】
このように本実施の形態のエンジン1の燃料供給システムにおいては、コモンレール4内に動吸振器15を設けたことにより、コモンレール4の蓄圧室4a1内で燃料の圧力脈動が生じると、それに応じて動吸振器15のピストン15aが減衰室4a2内の燃料の弾性力により形成されるバネ部の作用により振動(共振)することで、蓄圧室4a1内での圧力脈動による振動エネルギーを吸収することができる。
【0035】
これにより、インジェクタ5からコモンレール4を通じてサプライポンプ3側に伝播する圧力脈動を減衰できる上、サプライポンプ3側からコモンレール4を通じてインジェクタ5側に伝播する圧力脈動をも減衰することができる。
【0036】
したがって、コモンレール4内にオリフィス(脈動減衰手段)のみを設置する場合に比べて、コモンレール4内を伝播する燃料の圧力脈動をより効率的に抑制することができる。その結果、インジェクタ5から燃焼室内に噴射される燃料の流量が微小であっても、その噴射流量を安定化することができる。
【0037】
また、動吸振器15は、ピストン15aを用いた簡単な構造であるため、動吸振器15をコモンレール4に容易にかつ安価に設けることができ、また難しい制御を必要としない。さらに動吸振器15は小型で軽量であるため、コモンレール4のサイズや重量が極端に増大することもない。
【0038】
次に、図2に燃料供給システムの変形例を示す。この燃料供給システムでは、上記した動吸振器15がダンパ15bを備えている。すなわち、ピストン15aの軸方向に交差する一面と、これが対向する減衰室4a2の一面との間に、ピストン15aの移動に対するダンパ15bが設置されている。このダンパ15bは、蓄圧室4a1で生じた圧力脈動による振動を吸収する装置であり、これを備えたことにより、制振効果を向上させることができる。
【0039】
なお、以上の説明では燃料が軽油の場合について説明したが、燃料は、これに限定されるものではなく種々変更可能であり、例えばプロパンやDME(Dimethly ether)のような液化ガス燃料を用いても良い。
【0040】
また、動吸振器15のピストン15aを複数並列に設置しても良い。この際、それぞれのピストンを異なる質量に設定することもできる。これにより、共振周波数を複数設定でき、振動の異なる脈動に対して制振作用を生じさせることができるので、制振効果をさらに向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の内燃機関の燃料供給システムおよびそれを備える内燃機関は、コモンレール内に燃料の圧力脈動を減衰する動吸振器を備えたことにより、コモンレール内を伝播する圧力脈動を抑制することができ、燃料供給システムの燃料噴射装置から燃焼室内に噴射される燃料の流量を安定化することができるので、自動車等の燃料供給システムおよびそれを備える内燃機関に利用できる。
【符号の説明】
【0042】
1 ディーゼルエンジン(内燃機関)
2 燃料タンク(燃料供給源)
3 サプライポンプ(燃料供給源、高圧ポンプ)
4 コモンレール(燃料供給源)
4a 燃料流通管
4a1 燃料蓄圧室(第1室)
4a2 脈動減衰室(第2室)
4b,4c,4d 燃料流入口
4e,4f,4g 燃料流出口
5 インジェクタ(燃料噴射装置)
9 電子制御ユニット(制御部)
10 戻り配管
15 動吸振器
15a ピストン
15b ダンパ
16 経路切替弁(第1弁)
17a 第1の圧力調整弁
17b 第2の圧力調整弁(第2弁)
18a センサ(第1センサ)
18b センサ(第2センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料供給源から加圧供給された燃料を蓄圧し、複数の燃料噴射装置に供給するコモンレールを備える内燃機関の燃料供給システムであって、
前記コモンレールは、燃料の圧力脈動を減衰する動吸振器を備えており、
前記動吸振器は、
前記コモンレールの燃料流通管内に該燃料流通管の長手方向に沿って移動可能な状態で設けられ、予め設定された質量を持つピストンと、
前記コモンレールの燃料流通管において、前記複数の燃料噴射装置に接続される第1室に対し、前記ピストンにより隔てられた状態で設けられた第2室と、
前記第2室に供給された燃料により形成されるバネ部とを有する内燃機関の燃料供給システム。
【請求項2】
前記第1室内に設けられ、該第1室内の燃料の圧力を検出する第1センサと、
前記第2室内に設けられ、該第2室内の燃料の圧力を検出する第2センサと、
前記第2室内に供給される燃料の流量を制御する第1弁と、
前記第2室内から排出される燃料の流量を制御する第2弁と、
前記第1、第2センサからの検出情報に基づいて前記第1、第2弁を制御することにより、前記第2室内の燃料の圧力を制御することで前記動吸振器のバネ定数を調整する制御部とを備える請求項1記載の内燃機関の燃料供給システム。
【請求項3】
前記ピストンの移動に対するダンパを設けた請求項1または2記載の内燃機関の燃料供給システム。
【請求項4】
前記燃料が、液化ガス燃料である請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料供給システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料供給システムを備える内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−157920(P2011−157920A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22038(P2010−22038)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】