説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】 専用の電流検出手段を必要とすることなく、安価な構成で、燃料噴射弁が開弁したタイミングを適切に判定できる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】 本発明による内燃機関3の燃料噴射制御装置は、、昇圧された電圧が充電されるコンデンサ23と、電磁式の燃料噴射弁4を開弁させるために、コンデンサ23に充電された電圧をコイル6bに印加する駆動回路10と、コンデンサ23の電圧VCを検出する電圧計30とを備え、コイル6bへの電圧の印加中に、検出されたコンデンサ23の電圧VCの波形の変曲点PIを求め(ECU2、ステップ21〜23)、変曲点PIが現れたタイミングを、弁体9がヨーク6aに着座した開弁タイミングと判定する(ステップ23、26)とともに、判定された開弁タイミングに応じて、燃料噴射弁4の動作を制御する(ステップ10、13)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁式の燃料噴射弁を開弁させることによって燃料を噴射する内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の燃料噴射制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この燃料噴射制御装置では、電磁式の燃料噴射弁のコイルに電圧を印加することにより、その弁体を作動させ、燃料噴射弁を開弁させることによって、燃料を噴射する。また、コイルの印加時間(通電時間)を変更することによって、開弁時間が制御され、燃料噴射量が制御される。
【0003】
さらに、印加中にコイルに流れる電流を電流検出回路によって検出するとともに、検出された電流の波形の落込み点(特異点)を、燃料噴射弁の弁体の作動終了タイミング(開弁タイミング)として求める。このようにして求めた作動終了タイミングは、コイルの印加時間を補正するのに用いられ、それにより、燃料噴射弁の弁体の応答性のばらつきを補償し、所望の燃料噴射量を得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭62−4543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この従来の燃料噴射制御装置では、燃料噴射弁の弁体の作動終了タイミングを求めるために、燃料噴射弁のコイルに流れる電流を検出する専用の電流検出回路が必要になる。その結果、製造コストが増大するとともに、電流検出回路の発熱によって発熱量も増大してしまう。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、専用の電流検出手段を必要とすることなく、安価な構成で、燃料噴射弁が開弁したタイミングを適切に判定することができる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ヨーク6a、ヨーク6aに巻かれたコイル6b、およびアーマチュア8と一体の弁体9を有する電磁式の燃料噴射弁4のコイル6bに電圧を印加することにより、弁体9がアーマチュア8を介してヨーク6aに着座した状態で、燃料噴射弁4を開弁させ、燃料を噴射する内燃機関3の燃料噴射制御装置であって、電源(実施形態における(以下、本項において同じ)バッテリ25)の電圧(バッテリ電圧VB)を昇圧するための昇圧回路20と、昇圧された電圧が充電されるコンデンサ23と、燃料噴射弁4を開弁させるために、コンデンサ23に充電された電圧をコイル6bに印加する印加手段(駆動回路10、ECU2、ステップ5)と、コンデンサ23の電圧VCを検出する電圧検出手段(電圧計30)と、コイル6bへの電圧の印加中に、検出されたコンデンサ23の電圧VCの波形の変曲点を検出する変曲点検出手段(ECU2、ステップ21〜23)と、検出された変曲点が現れたタイミングを、弁体9がヨーク6aに着座した開弁タイミングと判定する開弁タイミング判定手段(ECU2、ステップ23、26)と、判定された開弁タイミングに応じて、燃料噴射弁4の動作を制御する噴射弁制御手段(ECU2、ステップ10、13)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、電源の電圧は、昇圧回路によって昇圧され、コンデンサに充電される。コンデンサに充電された電圧は、燃料噴射弁のコイルに印加される。それにより、発生した磁束によってアーマチュアがヨークに引き寄せられ、弁体がアーマチュアを介してヨークに着座した状態で、燃料噴射弁が開弁し、燃料が噴射される。
【0009】
また、本発明によれば、コイルへの電圧の印加中に、検出されたコンデンサの電圧の波形の変曲点を検出するとともに、検出された変曲点が現れたタイミングを、弁体がヨークに着座した開弁タイミングと判定する。この判定手法は、以下の原理に基づいている。
【0010】
すなわち、上記のようにコンデンサの電圧を燃料噴射弁のコイルに印加すると、それに伴ってコンデンサ電圧が減少し始める。一方、燃料噴射弁では、アーマチュアがヨーク側に移動し、両者間の距離が減少するのに応じて、両者間の間隙を通過する磁束が減少するのに伴い、逆起電力が発生する。このため、アーマチュアがヨークに着座するまでは、この逆起電力によりコンデンサ電圧の減少が緩慢になるのに対し、アーマチュアがヨークに着座した後には、逆起電力が作用しなくなることで、コンデンサ電圧は急激に減少する。その結果、アーマチュアがヨークに着座する前後において、コンデンサ電圧の波形に変曲点が生じ、この変曲点が現れるタイミングは、アーマチュアがヨークに着座したタイミングに一致する。
【0011】
以上の原理に基づき、本発明によれば、コイルへの電圧の印加中に検出されたコンデンサの電圧波形の変曲点を検出するとともに、検出された変曲点が現れたタイミングを、弁体がヨークに着座した開弁タイミングと判定する。したがって、この開弁タイミングの判定を適切に行うことができる。そして、判定された開弁タイミングに応じて、燃料噴射弁の動作を制御するので、この燃料噴射弁の制御を、燃料噴射弁の実際の開弁タイミングに応じて適切に行うことができる。
【0012】
また、コンデンサ電圧は、コンデンサの蓄電状態を表し、燃料噴射弁の制御に必要なパラメータであり、その検出のために電圧検出手段が設けられることが通常であるので、そのような既存の電圧検出手段をそのまま利用することができる。一方、燃料噴射弁の開弁タイミングの把握のために用いられていた従来の電流検出回路は不要になるので、製造コストを削減できるとともに、電流検出回路での発熱がなくなることで、発熱量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態による燃料噴射制御装置を、これを適用した内燃機関とともに概略的に示す図である。
【図2】燃料噴射弁を概略的に示す図である。
【図3】燃料噴射弁を駆動するための駆動回路を示す回路図である。
【図4】燃料噴射制御処理を示すフローチャートである。
【図5】燃料噴射弁の着座判定処理のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図6】燃料噴射制御装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す内燃機関(以下「エンジン」という)3は、例えば4つの気筒(図示せず)を有する車両用のガソリンエンジンであり、各気筒には、燃料噴射弁(以下「インジェクタ」という)4が設けられており、インジェクタ4から燃焼室(図示せず)に燃料が直接、噴射される。また、インジェクタ4の動作は、後述するECU2によって制御される。
【0015】
図2に示すように、インジェクタ4は、ケーシング5内に収容され、その上端部に固定された電磁石6と、ばね7と、電磁石6の下方に配置されたアーマチュア8と、このアーマチュア8の下側に一体に設けられた弁体9などで構成されている。インジェクタ4には、燃料供給装置(図示せず)から高圧の燃料が供給される。
【0016】
電磁石6は、ヨーク6aと、その外周に巻かれたコイル6bで構成されており、このコイル6bに、図3に示す駆動回路10が接続されている。ばね7は、ヨーク6aとアーマチュア8の間に配置されており、弁体9を閉弁側に付勢する。
【0017】
駆動回路10は、インジェクタ4を駆動するものであり、図3に示すように、昇圧回路20と、Nチャネル型のFETでそれぞれ構成された第1〜第3スイッチ11〜13と、ツェナーダイオード14などで構成されている。
【0018】
昇圧回路20は、スイッチ21、コイル22およびコンデンサ23で構成されている。スイッチ21は、Nチャネル型のFETで構成されており、そのドレインは、コイル22を介してバッテリ25に接続されるとともに、コンデンサ23を介して第1スイッチ11のドレインに接続されている。バッテリ25は、エンジン3を動力源とする発電機を用いて充電される。また、スイッチ21のソースおよびゲートはそれぞれ、アースおよびECU2に接続されている。
【0019】
以上の構成の昇圧回路20では、ECU2からの駆動信号SDがゲートに入力されると、スイッチ21がONされ、そのドレイン−ソース間が通電状態になることで、バッテリ25からの電圧(以下「バッテリ電圧」という)VBが、コイル22を介して昇圧される。昇圧された電圧は、コンデンサ23に印加され、充電される。なお、このような昇圧制御は、コンデンサ23の電圧(以下「コンデンサ電圧」という)VCがその目標値になるように行われ、それにより、コンデンサ電圧VCは高い状態に保持される。
【0020】
第1スイッチ11のドレイン、ソースおよびゲートはそれぞれ、昇圧回路20、電磁石6のコイル6bの一端およびECU2に接続されている。ECU2からの第1駆動信号SD1がゲートに入力されると、第1スイッチ11がONされ、そのドレイン−ソース間が通電状態になる。
【0021】
第2スイッチ12のドレイン、ソースおよびゲートはそれぞれ、バッテリ25、コイル6bの一端およびECU2に接続されている。ECU2からの第2駆動信号SD2がゲートに入力されると、第2スイッチ12がONされ、そのドレイン−ソース間が通電状態になる。
【0022】
第3スイッチ13のドレイン、ソースおよびゲートはそれぞれ、コイル6bの他端、アースおよびECU2に接続されている。ECU2からの第3駆動信号SD3がゲートに入力されると、第3スイッチ13がONされ、そのドレイン−ソース間が通電状態になる。
【0023】
ツェナーダイオード14は、アノード側がアースに接続され、カソード側がコイル6bの他端に接続されている。
【0024】
以上の構成の駆動回路10では、ECU2からの第1〜第3駆動信号SD1〜SD3に応じて、第1〜第3スイッチ11〜13のON/OFF状態を切り換え、インジェクタ4のコイル6bへの電圧の印加状態を制御することによって、インジェクタ4の動作が制御される。
【0025】
具体的には、第1〜第3スイッチ11〜13がOFF状態のときには、インジェクタ4のコイル6bが印加されず、コイル6bに駆動電流IACが流れないことで、インジェクタ4の弁体9は、ばね7の付勢力で閉弁位置(図2(a))に位置し、インジェクタ4は閉弁状態に保持される。
【0026】
この状態から、第1および第3スイッチ11、13をONすると、昇圧されたコンデンサ電圧VCがインジェクタ4のコイル6bに印加されることによって、コイル6bに大きな駆動電流IACが流れ、電磁石6が過励磁される。この励磁により、アーマチュア8が、ばね7の付勢力に抗して電磁石6に引き付けられ、弁体9がアーマチュア8を介してヨーク6aに着座した状態で、インジェクタ4が開弁(全開)し(図2(b))、インジェクタ4から燃料が噴射される。以下、このようにコンデンサ電圧VCをインジェクタ4のコイル6bに印加する制御を「過励磁制御」といい、このときにコイル6bに流れる大きな駆動電流IACを「過励磁電流」という。
【0027】
その後、第1スイッチ11をOFFし、コンデンサ電圧VCの印加を終了するとともに、第2スイッチ12をONすると、コンデンサ電圧VCよりも小さなバッテリ電圧VBが、インジェクタ4のコイル6bに印加される。これにより、コイル6bに小さな駆動電流IACが流れることによって、インジェクタ4は開弁状態に保持され、燃料の噴射が継続される。以下、このようにバッテリ電圧VBをインジェクタ4のコイル6bに印加する制御を「保持制御」といい、このときにコイル6bに流れる小さな駆動電流IACを「保持電流」という。なお、この保持制御では、バッテリ電圧VBの印加が間欠的に行われ、それにより、保持電流は所定の範囲内の小さな値に制御される。
【0028】
この状態から、第2および第3スイッチ12、13をOFFすると、バッテリ電圧VBの印加が終了し、それに応じて弁体9がばね7の付勢力で閉弁位置に復帰することによって、インジェクタ4が閉弁し、燃料の噴射が終了する。また、コイル6bに残留した電流が、ツェナーダイオード14を介してアースに流れることで、電磁石6は非励磁状態になる。
【0029】
以上のように、インジェクタ4を開弁する際には、まず過励磁制御を実行することにより、昇圧されたコンデンサ電圧VCをコイル6bに印加し、電磁石6を過励磁することによって、燃料の高い圧力に抗してインジェクタ4を迅速に開弁させるのに十分な磁力が確保される。また、それに引き続いて保持制御を実行し、バッテリ電圧VBをコイル6bに印加することによって、消費電力を抑制した状態で、インジェクタ4の開弁状態が保持される。
【0030】
また、昇圧回路20には、電圧計30が設けられており、この電圧計30は、コンデンサ電圧VCを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0031】
さらに、エンジン3のクランクシャフト(図示せず)には、クランク角センサ31が設けられている。クランク角センサ31は、クランクシャフトの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。
【0032】
CRK信号は、所定クランク角(例えば1°)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、いずれかの気筒においてピストン(図示せず)が吸気行程の開始時の上死点よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、本実施形態のようにエンジン3が4気筒タイプの場合には、クランク角180゜ごとに出力される。
【0033】
また、エンジン3には、気筒判別センサ(図示せず)が設けられている。この気筒判別センサは、気筒を判別するためのパルス信号である気筒判別信号を、ECU2に出力する。ECU2は、これらの気筒判別信号、CRK信号およびTDC信号に基づいて、クランク角CAを気筒ごとに算出する。具体的には、このクランク角CAは、TDC信号の発生時に値0にリセットされ、CRK信号が発生するクランク角1°ごとにインクリメントされる。
【0034】
ECU2にはさらに、アクセル開度センサ32から、車両のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が出力される。
【0035】
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、前述した電圧計30やセンサ31〜32の検出信号などに応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、エンジン3の運転状態を判別するとともに、判別した運転状態に応じてインジェクタ4による燃料噴射を制御する燃料噴射制御処理を気筒ごとに実行する。なお、実施形態では、ECU2は、印加手段、変曲点検出手段、開弁タイミング判定手段、および噴射弁制御手段に相当する。
【0036】
図4は、この燃料噴射制御処理を示すフローチャートである。本処理は、前述したCRK信号の発生に同期して、繰り返し実行される。本処理ではまず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、算出されたクランク角CAが燃料噴射タイミングTINJと等しいか否かを判別する。この燃料噴射タイミングTINJは、インジェクタ4の駆動動作を開始すべきタイミングに相当し、クランク角CAで表され、所定の処理(図示せず)において、目標噴射時期やエンジン回転数NEなどに応じて算出される。
【0037】
上記ステップ1の答がYESで、クランク角CAが燃料噴射タイミングTINJと等しいときには、インジェクタ4の駆動制御として過励磁制御を開始するものとして、次のステップ2〜5を実行する。まず、アップカウント式のタイマの値TMを値0にリセットし(ステップ2)、次に、過励磁制御中であることを表すために、コンデンサ電圧印加フラグF_VCを「1」にセットする(ステップ3)。次に、インジェクタ4の駆動中であることを表すために、燃料噴射フラグF_INJを「1」にセットする(ステップ4)とともに、ステップ5において、コンデンサ電圧VCをインジェクタ4に印加することにより過励磁制御を開始し、本処理を終了する。なお、これらのコンデンサ電圧印加フラグF_VC、燃料噴射フラグF_INJ、および、後述する各種のフラグはいずれも、エンジン3の始動時に「0」にリセットされる。
【0038】
一方、前記ステップ1の答がNOで、クランク角CAが燃料噴射タイミングTINJと等しくないときには、燃料噴射フラグF_INJが「1」であるか否かを判別する(ステップ6)。この答がYESで、インジェクタ4の駆動中のときには、コンデンサ電圧印加フラグF_VCが「1」であるか否かを判別する(ステップ7)。この答がYESで、過励磁制御中のときには、インジェクタ4の着座判定処理を実行する(ステップ8)。
【0039】
この着座判定処理は、過励磁制御の実行に伴い、インジェクタ4の弁体9がアーマチュア8を介してヨーク6aに着座したか否か、すなわちインジェクタ4が開弁状態に達したか否かを判定するものであり、図5に示すサブーチンに従って実行される。本処理ではまず、ステップ21において、電圧計30で検出されたコンデンサ電圧VCとその前回値VCZとの差(=VC−VCZ)を、電圧変化量ΔVCとして算出する。次に、算出した電圧変化量ΔVCとその前回値ΔVCZとの差(=ΔVC−ΔVCZ)を、電圧変化量微分値ΔΔVCとして算出する(ステップ22)。
【0040】
次に、算出した電圧変化量微分値ΔΔVCが負値であるか否かを判定する(ステップ23)。前述したように、インジェクタ4の開弁時に弁体9がヨーク6aに向かって移動する際、コンデンサ電圧VCの減少速度は、弁体9がヨーク6aに着座するまでは緩慢に変化し、その後は急激に変化するため、弁体9が着座したタイミングでコンデンサ電圧VCの波形に変曲点が現れるとともに、この変曲点を境として電圧変化量微分値ΔΔVCが正値から負値に転じる。
【0041】
したがって、上記ステップ23の答がNOで、電圧変化量微分値ΔΔVCが負値でないときには、弁体9がまだヨーク6aに着座していないとして、そのことを表すために着座フラグF_OPENを「0」にセットする(ステップ24)。次に、今回のコンデンサ電圧VCおよび電圧変化量ΔVCをそれぞれ前回値VCZおよびΔVCZにシフトし(ステップ25)、本処理を終了する。
【0042】
一方、前記ステップ23の答がYESで、電圧変化量微分値ΔΔVCが負値になったときには、今回のタイミングがコンデンサ電圧の波形の変曲点PI(図6参照)に相当しており、弁体9がヨーク6aに着座し、インジェクタ4が開弁状態に達したとして、着座フラグF_OPENを「1」にセットし(ステップ26)、本処理を終了する。
【0043】
図4に戻り、前記ステップ8に続くステップ9では、着座判定処理でセットされた着座フラグF_OPENが「1」であるか否かを判別する。この答がNOで、インジェクタ4がまだ開弁状態に達していないときには、前記ステップ5に進み、過励磁制御を継続する。
【0044】
一方、ステップ9の答がYESで、インジェクタ4が開弁状態に達したときには、インジェクタ4へのコンデンサ電圧VCの印加を終了する(ステップ10)ことによって、過励磁制御を終了する。また、そのことを表すために、コンデンサ電圧印加フラグF_VCを「0」にリセットする(ステップ11)。
【0045】
次に、バッテリ電圧印加フラグF_VBを「1」にセットする(ステップ12)とともに、インジェクタ4にバッテリ電圧VBを印加する(ステップ13)ことによって、保持制御を開始し、本処理を終了する。このように、インジェクタ4が開弁状態に達したと判定されるのと同時に、過励磁制御が終了し、保持制御が開始される。
【0046】
また、上記ステップ11の実行により、前記ステップ7の答がNO(F_VC=0)になり、その場合には、前記ステップ2でリセットされたタイマ値TMに所定時間TMREFに達したか否かを判別する(ステップ14)。この答がNOのときには、前記ステップ13に進み、保持制御を継続する。
【0047】
なお、上記の所定時間TMREFは、インジェクタ4に供給される燃料の圧力および燃料噴射量に応じて算出され、燃料の圧力は、センサ(図示せず)によって検出されるとともに、燃料噴射量は、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じて算出される。この要求トルクPMCMDは、エンジン3に要求されるトルクであり、エンジン回転数NEおよび検出されたアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。
【0048】
一方、上記ステップ14の答がYESで、タイマ値TMが所定時間TMREFに達したとき、すなわち、インジェクタ4の駆動動作の開始時から所定時間TMREFが経過したときには、インジェクタ4による燃料噴射を終了するものとして、バッテリ電圧VBの印加を終了する(ステップ15)。次いで、ステップ16および17において、バッテリ電圧印加フラグF_VBおよび燃料噴射フラグF_INJをそれぞれ「0」にリセットし、本処理を終了する。このステップ17の実行により、前記ステップ6の答がNO(F_INJ=0)になり、その場合には、そのまま本処理を終了する。
【0049】
図6は、上述した燃料噴射制御処理によって得られる動作例を示している。まずクランク角CAが燃料噴射タイミングTINJと等しくなる(ステップ1:YES)と、インジェクタ4のコイル6bにコンデンサ電圧VCが印加され(ステップ5)、過励磁制御が開始される。これにより、インジェクタ4の電圧(以下「インジェクタ電圧」という)VIが増大し、コイル6bに過励磁電流が流れることによって、インジェクタ4の弁体9がヨーク6aに向かって移動し始める。この過励磁制御中、コンデンサ電圧VCおよびインジェクタ電圧VIはいずれも減少し、それと並行して弁体9の着座判定処理が実行される(ステップ8)。
【0050】
その後、弁体9がアーマチュア8を介してヨーク6aに着座し、インジェクタ4が開弁状態に達すると、前述した原理から、コンデンサ電圧VCの波形に変曲点PIが現れる。この変曲点PIが現れたことは、着座判定処理で前述したようにして判定され、このときのタイミングTOPENが、弁体9がヨーク6aに着座した開弁タイミングと判定される(F_OPEN=1)。そして、そのように判定された直後に、過励磁制御が終了される(ステップ10)と同時に、保持制御が開始される(ステップ13)。
【0051】
その後、インジェクタ4の駆動動作の開始時から所定時間TMREFが経過したときに(タイミングTINJE)、保持制御が終了され、それにより、インジェクタ4が閉弁し、燃料噴射が終了する。
【0052】
以上のように、本実施形態によれば、過励磁制御の実行中に、着座判定処理により、コンデンサ電圧VCの波形に変曲点PIが現れたか否かを判定するとともに、変曲点PIが現れたタイミングTOPENを、インジェクタ4の弁体9がヨーク6aに着座した開弁タイミングと判定する。したがって、このインジェクタ4の開弁タイミングの判定を適切に行うことができる。
【0053】
また、インジェクタ4が開弁したと判定されたタイミングで、過励磁制御を終了すると同時に保持制御を開始するので、インジェクタ4が実際に開弁したタイミングに応じて、過励磁制御から保持制御への移行を適切に行うことができる。
【0054】
さらに、上記の判定を行うために、コンデンサ電圧VCの検出のために通常、設けられている電圧計30をそのまま利用する一方、従来の電流検出回路は不要になるので、製造コストを削減できるとともに、電流検出回路での発熱がなくなることで、発熱量を低減することができる。
【0055】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態は、コンデンサ電圧VCをインジェクタ4に印加することによって、過励磁制御を行う例であるが、本発明は、これに限らず、昇圧されたコンデンサ電圧を燃料噴射弁のコイルに印加して、燃料噴射弁を開弁させるものである限り、適用することができる。
【0056】
また、実施形態では、判定されたインジェクタ4の弁体9の着座・開弁タイミングを、過励磁制御から保持制御への移行タイミングを決定するのに用いているが、これに限らず、インジェクタ4の閉弁タイミングの決定や、印加時間の補正などに用いてもよい。前者の場合には、例えば、インジェクタ4の閉弁タイミングを、その開弁時から設定時間が経過したタイミングとして規定するとともに、判定された実際の弁体9の着座・開弁タイミングから設定時間が経過したときに、インジェクタ4を閉弁するようにしてもよい。さらに、実施形態で示したコンデンサ電圧VCの波形の変曲点の検出(判定)手法は、例示にすぎず、他の適当な手法を採用してもよいことはもちろんである。
【0057】
さらに、実施形態は、本発明を車両用の直噴式のガソリンエンジンに適用した例であるが、本発明は、これに限らず、ポート噴射式のエンジンや、ディーゼルエンジン、クランク軸が鉛直に配置された船外機などのような船舶推進機用エンジンなど、産業用の各種の内燃機関に適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
2 ECU(印加手段、変曲点検出手段、開弁タイミング判定手段、噴射弁制御手 段)
3 エンジン(内燃機関)
4 インジェクタ(燃料噴射弁)
6a ヨーク
6b コイル
8 アーマチュア
9 弁体
10 駆動回路(印加手段)
20 昇圧回路
23 コンデンサ
25 バッテリ(電源)
30 電圧計(電圧検出手段)
VB バッテリ電圧(電源の電圧)
VC コンデンサ電圧(コンデンサの電圧)
PI 変曲点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨーク、当該ヨークに巻かれたコイル、およびアーマチュアと一体の弁体を有する電磁式の燃料噴射弁の前記コイルに電圧を印加することにより、前記弁体が前記アーマチュアを介して前記ヨークに着座した状態で、前記燃料噴射弁を開弁させ、燃料を噴射する内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
電源の電圧を昇圧するための昇圧回路と、
当該昇圧された電圧が充電されるコンデンサと、
前記燃料噴射弁を開弁させるために、前記コンデンサに充電された電圧を前記コイルに印加する印加手段と、
前記コンデンサの電圧を検出する電圧検出手段と、
前記コイルへの電圧の印加中に検出されたコンデンサの電圧の波形の変曲点を検出する変曲点検出手段と、
当該検出された変曲点が現れたタイミングを、前記弁体が前記ヨークに着座した開弁タイミングと判定する開弁タイミング判定手段と、
当該判定された開弁タイミングに応じて、前記燃料噴射弁の動作を制御する噴射弁制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−19388(P2013−19388A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155117(P2011−155117)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】