説明

内燃機関の過給システム

【課題】燃費を悪化させることなくコンプレッサを冷却することが可能な内燃機関の過給システムを提供する。
【解決手段】排気通路4のタービン12にて排気エネルギを回収して吸気通路3のコンプレッサ11を駆動するターボ過給機10を備えた内燃機関の過給システムにおいて、コンプレッサハウジング13に設けられ、一端21aが閉じられるとともに他端21bが開放された冷却通路21と、冷却通路21の他端21bに往復動自在に挿入されたピストン23と、冷却通路21内に1/4波長の定在波が発生したときに定在波の腹側に一方の端部22aが位置するとともに定在波の節側に他方の端部22bが位置するように冷却通路21内に配置され、かつ内部に冷却通路21と連通する複数の空間を有するスタック22と、スタック22の一方の端部22aを冷却する冷却フィン24と、吸気通路3と冷却通路21の他端21bとを接続する接続通路25とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸気通路に設けられたコンプレッサにて吸気を圧縮し、これにより内燃機関を過給するターボ過給機を備えた内燃機関の過給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
排気通路のタービンにて排気エネルギを回収して吸気通路のコンプレッサを駆動し、コンプレッサで吸気を圧縮して内燃機関を過給するターボ過給機が知られている。このようなターボ過給機では、コンプレッサで吸気を圧縮する際に熱が発生する。そのため、コンプレッサハウジング内にオイルミストが付着していると、このオイルミストが炭化してハウジング内がコーキングされるおそれがある。とくにコンプレッサのディフューザ部は流路が狭いため、このディフューザ部がコーキングされると吸気が流れ難くなってコンプレッサの効率が低下する。そこで、コンプレッサのうちディフューザ部の一部を構成するシールプレート隣接部に冷却路を設け、この冷却路に冷却水を流してコンプレッサを冷却する過給機が知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術として、触媒コンバータに導入される排気の温度を制御すべく排気通路に熱音響伝熱器を設けた内燃機関がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−44451号公報
【特許文献2】特開2007−155167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の過給機のようにコンプレッサハウジングを冷却水で冷却すると、その過給機が設けられた内燃機関では循環させるべき冷却水量が増加する。そのため、ウォータポンプ及びラジエタが大型化するおそれがある。また、ウォータポンプが大型化するとそのポンプの駆動に消費されるエネルギが増加するので、燃費が悪化するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、燃費を悪化させることなくコンプレッサを冷却することが可能な内燃機関の過給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関の過給システムは、内燃機関の排気通路に設けられたタービンにて排気エネルギを回収して前記内燃機関の吸気通路に設けられたコンプレッサを駆動するターボ過給機を備えた内燃機関の過給システムにおいて、前記コンプレッサのハウジングに設けられ、一端が閉じられるとともに他端が開放された冷却通路と、前記冷却通路の前記他端に往復動自在に挿入されたピストン部材と、前記冷却通路内に1/4波長の定在波が発生したときに前記定在波の腹側に一方の端部が位置するとともに前記定在波の節側に他方の端部が位置するように前記冷却通路内に配置され、かつ内部に前記冷却通路と連通する複数の空間を有するスタックと、前記スタックの前記一方の端部を冷却する冷却手段と、前記吸気通路又は前記排気通路のいずれか一方の通路と前記冷却通路の前記他端とを接続する接続通路と、を備えている(請求項1)。
【0007】
周知のように内燃機関の吸気通路及び排気通路には、内燃機関の回転数に応じた周波数の圧力の脈動が発生している。本発明の過給システムでは、冷却通路の他端と吸気通路又は排気通路とが接続されているので、この圧力の脈動によってピストン部材を振動させることができる。ピストン部材が振動すると、冷却通路内に他端から一端に進行する波が連続的に発生する。これらの波は一端で反射して一端から他端に進行する波となる。そして、これら互いに進行方向が逆向きの波が共鳴すると冷却通路内に定在波(定常波とも呼ばれる。)が発生する。この場合、定在波の腹の部分では圧力が大きく変動し、定在波の節の部分では圧力が殆ど変動しなくなる。スタックは一方の端部が定在波の腹側に位置し、他方の端部が節側に位置しているため、定在波の腹の圧力変動に応じてその内部の空間の気体が冷却通路に沿ってスタック内を往復動する。気体が定在波の腹側に移動したときには圧縮されて温度が上昇するが、その熱の一部をスタックに放熱するので温度が少し下がる。一方、その気体が定在波の節側に移動したときには断熱膨張し、これにより気体の温度が下がる。そして、このような気体の移動及び圧縮、膨張が繰り返されることにより、スタックの他方の端部から一方の端部に熱を移動させることができる。すなわち、本発明の過給システムによれば、熱音響現象によりスタックの他方の端部から一方の端部に熱を移動させることができる。そして、スタックの一方の端部は冷却手段で冷却されるので、熱を外部に逃がすことができる。このように本発明の過給システムによれば、スタックの他方の端部から一方の端部に熱を移動させることができるので、冷却通路のうち冷却通路の他端とスタックとの間の部分の熱を外部に放散させることができる。そして、この熱音響現象は、吸気通路又は排気通路の圧力の脈動でピストン部材を振動させることによって発生させている。そのため、燃費を悪化させることなくコンプレッサを冷却することができる。
【0008】
本発明の内燃機関の過給システムの一形態において、前記冷却通路は、前記ハウジングのディフューザ部と隣接するように前記ディフューザ部の一部となるシールプレートに設けられていてもよい(請求項2)。一般にハウジング内においてはディフューザ部にて吸気の流量が狭くなる。そのため、ディフューザ部においてコーキングが発生するとコンプレッサの効率が大きく低下する。この形態では、そのディフューザ部に隣接するように冷却通路を設けたので、ディフューザ部でのコーキングを抑制することができる。
【0009】
本発明の内燃機関の過給システムの一形態において、前記内燃機関は、複数の気筒を備えた4サイクル内燃機関として構成され、前記冷却通路の長さは、前記冷却通路の長さをL、前記内燃機関の気筒数をC、音速をV、前記コンプレッサの出口の吸気の温度が最も高くなる運転状態における前記内燃機関の1分間当たりの回転数をNとした場合に、次式
L=(V/N×C/60/2)/4
が満たされるように設定されていてもよい(請求項3)。この場合、コンプレッサの冷却が必要なコンプレッサの出口の吸気の温度が最も高くなる運転状態において冷却通路内に1/4波長の定在波を発生させることができる。そのため、コンプレッサを適切に冷却することができる。
【0010】
本発明の内燃機関の過給システムの一形態においては、前記接続通路を開閉する接続切替弁と、前記コンプレッサの出口の吸気の温度が最も高くなる運転状態において前記接続切替弁が開けられるように前記接続切替弁を制御する制御手段と、をさらに備えていてもよい(請求項4)。この場合、接続切替弁を開閉することにより、コンプレッサを冷却したり、その冷却を停止させたりすることができる。また、制御手段は、コンプレッサの出口の吸気の温度が最も高くなる運転状態において接続切替弁を開けるので、コンプレッサを適切に冷却することができる。
【0011】
本発明の内燃機関の過給システムの一形態において、前記冷却手段は、前記ハウジングの外側に設けられた複数の冷却フィンであってもよい(請求項5)。この場合、スタックの熱を空気中に放散させることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上に説明したように、本発明の内燃機関の過給システムによれば、吸気通路又は排気通路で発生している圧力の脈動を利用して冷却通路内に熱音響現象を生じさせ、この熱音響現象によりコンプレッサの熱を外部に放散させることができる。そのため、燃費を悪化させることなくコンプレッサを冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一形態に係る過給システムが組み込まれた内燃機関の概略を示す図。
【図2】コンプレッサの内部の一部を拡大して示す図。
【図3】図2の矢印III方向から見たコンプレッサを示す図。
【図4】冷却通路内で発生する熱音響現象を説明するための図。
【図5】ターボ過給機のコンプレッサの特性曲線及びエンジンの作動線を示す図。
【図6】ECUが実行する冷却装置制御ルーチンを示すフローチャート。
【図7】本発明の過給システムの変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一形態に係る過給システムが組み込まれた内燃機関の概略を示している。図1に示した内燃機関(以下、エンジンと称することがある。)1は、車両に走行用動力源として搭載される4サイクルの内燃機関であり、複数の気筒(不図示)を有する機関本体2と、機関本体2の各気筒に接続される吸気通路3及び排気通路4とを備えている。吸気通路3は、その一部を形成する吸気マニホールド(以下、インマニと称することがある。)3aを介して各気筒と接続されている。排気通路4は、その一部を形成する排気マニホールド(以下、エキマニと称することがある。)4aを介して各気筒と接続されている。吸気通路3には、ターボ過給機10のコンプレッサ11、吸気を冷却するためのインタークーラ5、及び吸入空気量を調整するためのスロットルバルブ6が設けられている。排気通路4には、ターボ過給機10のタービン12が設けられている。
【0015】
図2は、コンプレッサ11の内部の一部を拡大して示している。図2に示したようにコンプレッサ11は、コンプレッサハウジング13と、コンプレッサハウジング13内に設けられて回転軸14と一体に回転するコンプレッサホイール15とを備えている。コンプレッサホイール15には、複数(図2で1つのみを示す。)の翼15aが設けられている。回転軸14の他端にはタービン12のタービンホイール(不図示)が一体回転するように取り付けられている。そのため、このタービンホイールが排気にて回転駆動されるとこれによりコンプレッサホイール15が回転駆動される。コンプレッサハウジング13は、コンプレッサホイール15が配置されるホイール室16と、ホイール室16の外周に設けられ、ホイール室16の出口と連通するディフューザ部17と、ディフューザ部17の外周に設けられてディフューザ部17と連通するスクロール室18とを備えている。図2に示したようにディフューザ部17の一部は、シールプレート19にて構成されている。なお、これらは内燃機関に設けられる周知のターボ過給機のコンプレッサと同様でよいため、詳細な説明は省略する。
【0016】
コンプレッサ11には、冷却装置20が設けられている。図2に示したように冷却装置20は、複数(図2では1つのみを示す。)の冷却通路21を備えている。各冷却通路21は、ディフューザ部17と隣接するようにシールプレート19に設けられている。冷却通路21の一端21aは、コンプレッサハウジング13の外周側に配置されて閉じられている。また、この一端21aは、スクロール室18よりも径方向外側に配置されるようにコンプレッサハウジング13から突出している。一方、冷却通路21の他端21bは、コンプレッサハウジング13の内周側に配置されている。そして、この他端21bは開放されている。図3は、図2の矢印III方向から見たコンプレッサ11の一部を示している。この図に示したように冷却通路21は、コンプレッサハウジング13の内周側から湾曲しつつ外周側に延びている。冷却通路21の長さL(図4参照)には、エンジン1の気筒数C、音速V(m/sec)、及びコンプレッサ11の出口の吸気の温度が最も高くなる運転状態におけるエンジン1の1分間当たりの回転数N(r.p.m.)を以下の式(1)に代入して算出された値が設定される。
【0017】
L=(V/N×C/60/2)/4 ・・・(1)
【0018】
図2に示したように冷却通路21内には、スタック22及びピストン部材としてのピストン23が設けられている。スタック22は熱交換器であり、その内部には外部と連通する複数の空間(不図示)が設けられている。スタック22としては、例えば多数のステンレス鋼板が小間隙をおいて積層されたものが設けられる。また、微小な孔が複数開けられたセラミックフィルタをスタック22として設けてもよい。スタック22は、一端21aと他端21bとの中間よりも一端21a寄りであり、かつ一端21aとの間に所定の隙間が設けられるように冷却通路21内に配置されている。また、スタック22は、コンプレッサ11のディフューザ部17よりも径方向外側に位置するように冷却通路21内に配置されている。ピストン23は、冷却通路21の他端21bに往復動自在に挿入されている。シールプレート19には、タービン12側に突出する冷却手段としての複数の冷却フィン24が設けられている。これら複数の冷却フィン24は、図3に示したように同心円状に設けられている。また、図2に示したようにこれら複数の冷却フィン24は、一端側21aに配置されているスタック22の端部、すなわちスタック22の外周側の端部22aが冷却されるようにその端部の周囲に配置されている。図1に示したように冷却通路21の他端21bは、インマニ3aと接続通路25にて接続されている。接続通路25には、その通路25を開閉する接続切替弁26が設けられている。
【0019】
次に図4を参照して冷却装置20によるコンプレッサ11の冷却方法について説明する。この冷却装置20は、熱音響現象を利用してコンプレッサ11を冷却する。周知のようにエンジン1の吸気通路3では、エンジン1の回転数に応じた周波数の圧力の脈動(以下、吸気脈動と称する。)が発生している。そのため、接続切替弁26が開けられて冷却通路21の他端21bとインマニ3aとが接続されると、インマニ3aの吸気脈動でピストン23が振動する。このようにピストン23が振動すると、冷却通路21内に他端21bから一端21a側に進行する波W1が連続的に発生する。この波W1は冷却通路21内の一端21aで反射して他端21b側に向かう波W2となる。冷却通路21の長さLは、上述したようにコンプレッサ11の出口の吸気の温度が最も高くなる運転状態におけるエンジン1の1分間当たりの回転数Nに基づいて設定されている。そのため、この回転数Nでエンジン1が運転されているときに接続切替弁26が開けられると波W1、W2が重なり合って共鳴し、これにより冷却通路21内に1/4波長の定在波(定常波とも呼ばれる。)を発生させることができる。この際、冷却通路21の一端21aに定在波の腹が生じ、冷却通路21の他端21bに定在波の節が生じる。そのため、スタック22の外周側の端部22aが定在波の腹側に位置し、内周側の端部22bが定在波の節側に位置することになる。従って、スタック22の外周側の端部22aが本発明のスタックの一方の端部に対応し、内周側の端部22bが本発明のスタックの他方の端部に対応する。
【0020】
そして、このような1/4波長の定在波を冷却通路21内に発生させることにより、熱音響現象にてスタック22の内周側の端部22bの温度を低下させるとともにスタック22の外周側の端部22aの温度を上昇させることができる。これは定在波によりスタック22内にて気体が冷却通路21に沿って移動しつつその気体の圧縮、膨張が繰り返し行われることによる。具体的には、スタック22内において気体はまず定在波により圧力の高い外周側(図4の左側)に若干移動させられて圧縮され、これにより体積が小さくなる。この際、断熱圧縮により温度が上がるがその気体の近くに存在するスタック22の壁面に放熱するので、気体の温度は少し下がる。次にこの気体は定在波によって内周側(図4の右側)に若干移動させられる。この際、気体は断熱膨張し、温度が下がる。上述したように気体は外周側に移動した際にその位置で放熱しているので、その放熱により温度が低下した分だけ周囲より温度が低くなる。その後、気体は再度定在波によって若干外周側に移動させられ、圧縮される。このように気体の圧縮、膨張は定在波により繰り返し行われる。このような気体の圧縮、膨張はスタック22内の各部で行われるため、熱が冷却通路21に沿って外周側に移動する。そのため、スタック22の内周側の端部22bの温度を低下させ、スタック22の外周側の端部22aの温度を上昇させることができる。そして、これにより冷却通路21のうちスタック22よりも内周側の部分の温度を低下させてシールプレート19を冷却することができる。一方、冷却通路21のうちスタック22よりも外周側の部分に移動した熱は、複数の冷却フィン24によって空気中に放散される。
【0021】
冷却装置20の接続切替弁26の動作は、エンジンコントロールユニット(ECU)30にて制御される。ECU30は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成され、エンジン1に設けられた各種センサから出力された信号に基づいてエンジン1の運転状態を制御する周知のコンピュータユニットである。ECU30には、エンジン1の運転状態を検出するためのセンサとして吸入空気量に対応する信号を出力するエアフローメータ31、及びスロットルバルブ6の開度(以下、スロットル開度と略称することがある。)に対応する信号を出力するスロットル開度センサ32等が接続されている。この他にもECU30に各種センサが接続されているが、それらの図示は省略した。
【0022】
図5は、ターボ過給機10のコンプレッサ11の特性曲線、及びエンジン1が全負荷で運転されているときのコンプレッサ11の作動線を示している。なお、実線L1、L2が、コンプレッサ11のサージラインを示している。また、破線L3がエンジン1が全負荷、すなわちスロットル6が全開で運転されているときのコンプレッサ11の作動線を示している。図5の圧力比は、コンプレッサ11の出口の吸気の圧力をコンプレッサ11の入口の吸気の圧力で除した値である。破線L3で示したようにこのエンジン1では、吸入空気量が増加するに従ってコンプレッサ11の圧力比が大きくなる。そして、吸入空気量が所定量を超えるとコンプレッサ11の圧力比が小さくなる。コンプレッサ11の出口の吸気の温度は、この圧力比が増加から減少に変化する運転領域、すなわち図5の運転領域Aにて最も高くなる。なお、コンプレッサ11は、運転領域Aでは圧力比が高く、効率が低い。そこで、ECU30は、エンジン1の運転状態がこの運転領域A内の場合にコンプレッサ11が冷却されるように冷却装置20の接続切替弁26の動作を制御する。図6は、ECU30が接続切替弁26の動作を制御するためにエンジン1の運転中に所定の周期で繰り返し実行する冷却装置制御ルーチンを示している。この制御ルーチンを実行することにより、ECU30が本発明の制御手段として機能する。
【0023】
図6の制御ルーチンにおいてECU30は、まずステップS11でエンジン1の運転状態を取得する。エンジン1の運転状態としては、例えば吸入空気量、及びスロットル開度等が取得される。次のステップS12においてECU30は、吸入空気量が予め設定した所定の判定空気量以上か否か判断する。所定の判定空気量は、コンプレッサ11の運転状態が図5に示した運転領域A内か否か判断するための判定基準として設定されるものである。判定空気量としては、例えば図5の空気量Qが設定される。
【0024】
吸入空気量が判定空気量以上と判断した場合はステップS13に進み、ECU30はスロットル開度が予め設定した所定の判定開度以上か否か判断する。この判定開度も、エンジン1の運転状態が図5に示した運転領域Aか否か判断するための判定基準として設定されるものである。上述したように図5の破線L3は、スロットル開度が全開で運転されている全負荷のときのコンプレッサ11の作動線である。そのため、現在のスロットル開度が全開に対してどの程度の割合かを判断することにより、現在の圧力比が運転領域Aに対応する圧力比か否か判断することができる。そこで、判定開度としては、例えば圧力比が運転領域A内になるスロットル開度範囲の下限値が設定される。すなわち、これらステップS12及びS13では、吸入吸気量及びスロットル開度に基づいてコンプレッサ11の運転状態が運転領域A内か否かを判定している。
【0025】
スロットル開度が判定開度以上と判断した場合はステップS14に進み、ECU30は接続切替弁26を開ける。なお、既に開弁されていた場合は、その状態を維持する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0026】
一方、吸入空気量が判定空気量未満と判断した場合、又はスロットル開度が判定開度未満と判断した場合はステップS15に進み、ECU30は接続切替弁26を閉じる。なお、既に閉弁されていた場合は、その状態を維持する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0027】
本形態の過給システムによれば、接続切替弁26を開弁して吸気脈動でピストン23を振動させることにより、熱音響現象を利用してシールプレート19を冷却することができる。すなわち、他に駆動源を設けることなく吸気脈動にてコンプレッサ11を冷却することができる。そのため、エンジン1の燃費を悪化させることなくコンプレッサ11を冷却することができる。コンプレッサ11の出口の吸気の温度は、コンプレッサ11の運転状態が図5の運転領域A内の場合に高くなる。そのため、このような運転状態の場合にコンプレッサ11内でオイルが炭化してコーキングが発生し易くなる。本形態の過給システムでは、このような運転状態の場合に接続切替弁26が開弁され、それ以外の運転状態の場合には接続切替弁26が閉弁されるので、コンプレッサ11が無駄に冷却されることを防止しつつコーキングの発生を十分に抑制できる。また、冷却通路21の長さLは上述した式(1)にて設定されているので、コンプレッサ11の運転状態が図5の運転領域A内の場合に冷却通路21内に1/4波長の定在波を発生させることができる。
【0028】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、図7に示したように冷却通路がエキマニと接続されていてもよい。周知のように排気通路にもエンジンの回転数に応じた周波数の圧力の脈動(排気脈動)が生じている。そのため、この排気脈動を利用して冷却通路内に1/4波長の定在波を発生させてもよい。
【0029】
スタックの外周側の端部を冷却する冷却方法は、冷却フィンに限定されない。外部に熱を放散させることが可能な種々の手段で冷却してよい。冷却通路のうち開放されている端部とスタックとの間の部分をディフューザ部と隣接して配置可能であれば、冷却通路の内周側の端部が閉じられて外周側の端部が開放されていてもよい。この場合、内周側の端部寄りにスタックが設けられ、外周側の端部にピストンが設けられる。また、外周側の端部が吸気通路又は排気通路と接続される。
【符号の説明】
【0030】
1 内燃機関
3 吸気通路
4 排気通路
10 ターボ過給機
11 コンプレッサ
12 タービン
13 コンプレッサハウジング
17 ディフューザ部
19 シールプレート
21 冷却通路
21a 一端
21b 他端
22 スタック
22a 外周側の端部(一方の端部)
22b 内周側の端部(他方の端部)
23 ピストン(ピストン部材)
24 冷却フィン(冷却手段)
25 接続通路
26 接続切替弁
30 エンジンコントロールユニット(制御手段)
L 冷却通路の長さ
C 内燃機関の気筒数
V 音速
N コンプレッサの出口の吸気の温度が最も高くなる運転状態における内燃機関の1分間当たりの回転数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられたタービンにて排気エネルギを回収して前記内燃機関の吸気通路に設けられたコンプレッサを駆動するターボ過給機を備えた内燃機関の過給システムにおいて、
前記コンプレッサのハウジングに設けられ、一端が閉じられるとともに他端が開放された冷却通路と、前記冷却通路の前記他端に往復動自在に挿入されたピストン部材と、前記冷却通路内に1/4波長の定在波が発生したときに前記定在波の腹側に一方の端部が位置するとともに前記定在波の節側に他方の端部が位置するように前記冷却通路内に配置され、かつ内部に前記冷却通路と連通する複数の空間を有するスタックと、前記スタックの前記一方の端部を冷却する冷却手段と、前記吸気通路又は前記排気通路のいずれか一方の通路と前記冷却通路の前記他端とを接続する接続通路と、を備えている内燃機関の過給システム。
【請求項2】
前記冷却通路は、前記ハウジングのディフューザ部と隣接するように前記ディフューザ部の一部となるシールプレートに設けられている請求項1に記載の内燃機関の過給システム。
【請求項3】
前記内燃機関は、複数の気筒を備えた4サイクル内燃機関として構成され、
前記冷却通路の長さは、前記冷却通路の長さをL、前記内燃機関の気筒数をC、音速をV、前記コンプレッサの出口の吸気の温度が最も高くなる運転状態における前記内燃機関の1分間当たりの回転数をNとした場合に、次式
L=(V/N×C/60/2)/4
が満たされるように設定されている請求項1又は2に記載の内燃機関の過給システム。
【請求項4】
前記接続通路を開閉する接続切替弁と、前記コンプレッサの出口の吸気の温度が最も高くなる運転状態において前記接続切替弁が開けられるように前記接続切替弁を制御する制御手段と、をさらに備えている請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関の過給システム。
【請求項5】
前記冷却手段は、前記ハウジングの外側に設けられた複数の冷却フィンである請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の過給システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−196540(P2010−196540A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40612(P2009−40612)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】