説明

内燃機関制御装置

【課題】排気通路に設けられたセンサ近傍において掃気が完了したか否かを的確に判定することができる。
【解決手段】電子制御装置50は、内燃機関10の減速時燃料カットの実行中に、各排気通路21a,21bに設けられた空燃比センサ56a,56b近傍に新気を導入して当該空燃比センサ56a,56b近傍の掃気を行なうとともに、当該空燃比センサ56a,56b近傍において掃気が完了したか否かを各別に判定する。具体的には、減速時燃料カットが実行されてから、すなわち燃料噴射が停止されてからの吸入空気量の積算値ΣGArが掃気完了判定値ΣGAt以上となることをもって当該空燃比センサ56a,56b近傍において掃気が完了したと判定する。そして、当該排気通路21a,21bにおける掃気環境に応じて当該掃気完了判定値ΣGAtを可変設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関制御装置に関し、詳しくは、減速時燃料カットの実行中に、排気通路に設けられたセンサ近傍に新気を導入して当該センサ近傍の掃気を行なうとともに、当該センサ近傍において掃気が完了したか否かを判定する内燃機関制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、排気通路に設けられた空燃比センサから出力される信号に基づき排気の空燃比(実空燃比)を把握するとともに、実空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射量の空燃比フィードバック制御を行なう。ここで、空燃比センサは、排気の空燃比に応じた信号(電圧)を出力するものであり、具体的には排気の空燃比がリーンになるほど、すなわち大きくなるほど大きな信号(電圧)を出力する(例えば特許文献1の図5参照)。
【0003】
ところで、こうした内燃機関では、何らの原因によって空燃比センサから正常な信号が出力されなくなる異常が生じることがある。
そこで、従来、以下のようにして空燃比センサの異常診断を行なう。すなわち、まずは、減速時燃料カットの実行中、すなわち燃料噴射が停止されているときに、排気通路に導入される新気によって空燃比センサ近傍の掃気を行なう。そして、この新気の導入量が所定の判定値以上となると、空燃比センサ近傍の掃気が完了したとして、同空燃比センサから出力される信号を監視する。
【0004】
ここで、空燃比センサから出力される信号(実空燃比)が所定のリーン異常判定値ALよりも大きい状態が所定期間にわたり継続した場合には、空燃比センサから出力される信号が異常に大きいとしてリーン異常が生じている旨の判定を行なう。
【0005】
また、実空燃比が所定のリッチ異常判定値AR(<AL)よりも小さい状態が所定期間継続した場合には、空燃比センサから出力される信号が異常に小さいとしてリッチ異常が生じている旨の判定を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009―197678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、こうした内燃機関制御装置では、以下のような問題が生じるおそれがある。すなわち、減速時燃料カットが開始されてからの新気の導入量が所定の判定値以上となっても未だ空燃比センサ近傍の掃気が完了していないことがある。この場合、空燃比センサ近傍の掃気が完了したとして空燃比センサの異常診断を行なうと、空燃比センサが正常であるにもかかわらずリーン異常やリッチ異常が生じている旨の誤診断がなされる。
【0008】
尚、こうした問題は、空燃比センサの異常診断を行うものに限られるものではなく、他のセンサの異常診断を行なうものにおいても概ね共通して生じ得るものとなっている。また、こうした問題はセンサの異常診断を行うものに限られるものではく、燃料噴射が停止された後に、排気通路に設けられたセンサ近傍に新気を導入して当該センサ近傍の掃気を行なうとともに、当該センサ近傍において掃気が完了したか否かを判定する制御装置においては概ね共通して生じ得るものである。
【0009】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、排気通路に設けられたセンサ近傍において掃気が完了したか否かを的確に判定することのできる内燃機関制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、燃料噴射が停止された後に、排気通路に設けられたセンサ近傍に新気を導入して当該センサ近傍の掃気を行なうとともに、当該センサ近傍において掃気が完了したか否かを判定する内燃機関制御装置であって、当該排気通路における掃気環境に応じて掃気完了の判定条件を設定することをその要旨としている。
【0011】
同構成によれば、排気通路のセンサ近傍において掃気が完了したか否かを判定する際の判定条件が排気通路における掃気環境、換言すれば掃気難度に応じて設定される。具体的には、掃気しにくい環境下の場合には、掃気しやすい環境下の場合に比べて判定条件が厳しく設定される。従って、排気通路に設けられたセンサ近傍において掃気が完了したか否かを的確に判定することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関制御装置において、当該判定条件を燃料噴射停止直前における機関運転状態に基づき可変設定することをその要旨としている。
【0013】
燃料噴射が行なわれているときの機関運転状態に起因して掃気環境が変化する。この点、上記構成によれば、燃料噴射停止直前における機関運転状態に基づいて判定条件を適切に設定することができ、そうした判定条件に基づいて掃気が完了したか否かを的確に判定することができる。ちなみに、機関運転状態としては、燃料噴射量や、排気マニホルドに付着している燃料の蒸発量、EGR量等がある。また、粒子状物質を捕集する触媒装置を排気通路に備えるディーゼル機関にあっては、触媒温度や粒子状物質の堆積量、添加弁から触媒装置に対して供給される添加剤の添加量がある。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の内燃機関制御装置において、内燃機関は複数の気筒列を備えるとともにこれら気筒列毎に排気通路が設けられるものであり、各排気通路に設けられたセンサ近傍において掃気が完了したか否かを各別に判定することをその要旨としている。
【0015】
複数の気筒列を備えるとともにこれら気筒列毎に排気通路が設けられる内燃機関にあっては、排気通路毎に掃気環境が異なることがある。上記構成によれば、各排気通路に設けられたセンサ近傍において掃気が完了したか否かが各別に判定される。そして、各排気通路における掃気環境に応じて当該判定条件がそれぞれ設定される。従って、複数の気筒列を備えるとともにこれら気筒列毎に排気通路が設けられるものにあって、各排気通路に設けられたセンサ近傍において掃気が完了したか否かをそれぞれ的確に判定することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関制御装置において、当該判定条件を当該排気通路のレイアウトに基づき設定することをその要旨としている。
複数の気筒列を備えるとともにこれら気筒列毎に排気通路が設けられる内燃機関にあっては、排気通路のレイアウトが気筒列毎に異なることがある。この場合、排気通路のレイアウトに起因して掃気環境が異なるものとなる。上記構成によれば、排気通路のレイアウトに起因して排気通路における掃気環境が異なる場合であっても各排気通路のレイアウトに応じて判定条件を適切に設定することができ、こうした判定条件に基づいて掃気が完了したか否かを的確に判定することができる。
【0017】
ちなみに、排気通路のレイアウトとしては、燃焼室からセンサまでの距離を考慮することが望ましい。特に、排気通路に添加弁を備えるディーゼル機関にあっては、添加弁からセンサまでの距離を考慮することが望ましい。
【0018】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明は、請求項5に記載の発明によるように、内燃機関は車両駆動用のものであり、内燃機関の減速時燃料カットの実行中に当該センサ近傍において掃気が完了したか否かを判定するといった態様をもって具体化することができる。この場合、車輪の回転に連動して機関出力軸が回転することによって吸気通路を通じて新気が吸入されることから、こうした新気が排気通路のセンサ近傍に導入されることで掃気が行なわれる。従って、新気をセンサ近傍に導入するための特別な構成が不要となる。
【0019】
燃料噴射が停止されてからの吸入空気量の積算値が判定値以上となることをもって当該センサ近傍において掃気が完了したと判定するものにあっては、請求項6に記載の発明によるように、当該排気通路における掃気環境に応じて前記判定値を設定するものとすればよい。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の内燃機関制御装置において、前記センサは同センサの周囲の酸素濃度に応じた信号を出力するものであり、当該センサ近傍において掃気が完了した旨の判定がなされた後に、前記センサから出力される信号に基づいて同センサの異常診断を行なうことをその要旨としている。
【0021】
同構成によれば、センサ近傍における掃気が完了する前にセンサの異常診断が行なわれることを抑制することができる。従って、センサの異常診断を精度良く行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る内燃機関制御装置の一実施形態について、内燃機関の概略構成を示す概略構成図。
【図2】同実施形態における空燃比センサの異常診断処理の手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態における掃気完了判定処理の手順を示すフローチャート。
【図4】掃気難度と掃気完了判定値との関係を示すグラフ。
【図5】燃料カット直前の燃料噴射量と掃気難度因子との関係を示すグラフ。
【図6】燃料カット直前の添加剤供給量及び吸入空気量の積算値と掃気難度因子との関係を示すグラフ。
【図7】排気マニホルドに付着している燃料の単位時間当りの蒸発量と掃気難度因子との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1〜図7を参照して、本発明に係る内燃機関制御装置を、車両駆動用の内燃機関、より具体的にはV型8気筒式のディーゼル機関(以下、内燃機関10)の制御装置として具体化した一実施形態について詳細に説明する。
【0024】
図1に示すように、内燃機関10は二つの気筒列を備えており、これら気筒列にはそれぞれ4つの気筒(#1〜#4、#5〜#8)が設けられている。
各気筒(#1〜#4、#5〜#8)には吸気通路11及び排気通路21a,21bが接続されている。
【0025】
吸気通路11を構成する吸気管13には吸気の流量を調整するためのスロットル弁12が設けられている。吸気管13においてスロットル弁12の下流側には各気筒列に対応する二つの吸気マニホルド14a,14bが接続されている。吸気マニホルド14a,14bにはサージタンク15a,15bが形成されており、サージタンク15a,15bの下流側には各気筒(#1〜#4、#5〜#8)の吸気ポートに接続される分岐管16a,16bが設けられている。
【0026】
各気筒(#1〜#4、#5〜#8)の排気ポートには、排気マニホルド22a,22bの分岐管23a,23bが接続されている。また、排気マニホルド22a,22bの下流側には排気管24a,24bが接続されている。これら排気マニホルド22a,22b及び排気管24a,24bによって排気通路21a,21bが構成されている。
【0027】
排気マニホルド22a,22bと排気管24aとの間には、排気駆動式のターボチャージャを構成するタービン31a,31bが設けられている。また、タービン31a,31bの下流側には、酸化触媒32a,32b、及び排気に含まれる粒子状物質(Particulate Matter、以下、PM)を捕集するフィルタとして機能するDPF33a,33bが設けられている。尚、酸化触媒32a,32b及びDPF33a,33bが本発明に係る触媒装置に相当する。
【0028】
また、排気マニホルド22a,22bには排気中に添加剤としての燃料を添加する添加弁30a,30bが設けられている。
また、内燃機関10には排気の一部を吸気通路11に戻すためのEGR装置25が設けられている。具体的には、排気マニホルド22a,22bにはEGR上流側通路26a,26bが接続されており、これらEGR上流側通路26a、26bの下流側には共通のEGR集合通路28が接続されている。EGR集合通路28は吸気管13においてスロットル弁12の下流側に接続されている。また、EGR上流側通路26a、26bの途中にはEGR弁27a,27bが設けられている。
【0029】
こうした内燃機関10の各種制御は電子制御装置50により行なわれる。電子制御装置50には車両走行状態や機関運転状態等を把握するための各種センサが接続されている。各種センサとしては、例えば機関回転速度を検出する機関回転速度センサ、内燃機関の冷却水の温度を検出する水温センサ、アクセル操作量を検出するアクセルセンサ、ブレーキペダルの踏み込み状態を検出するブレーキセンサ、車速を検出する車速センサがある。また、吸入空気量GA及び吸気温を検出する検出するエアフローメータ51、酸化触媒32a,32bに流入する排気の温度を検出する第1排気温センサ52a,52b、酸化触媒32a,32bから流出してDPF33a,33bに流入する排気の温度を検出する第2排気温センサ53a,53bがある。また、DPF33a,33bから流出する排気の温度を検出する第3排気温センサ54a,54b、DPF33a,33bの上流側と下流側との差圧を検出する差圧センサ55a,55b、DPF33a,33bから流出する排気の空燃比を検出する空燃比センサ56a,56bがある。
【0030】
ここで、空燃比センサ56a,56bは、排気の空燃比に応じた信号(電圧)を出力するものである。具体的には、排気の空燃比がリーンになるほど、すなわち大きくなるほど大きな信号(電圧)を出力する。
【0031】
電子制御装置50は、スロットル弁12の開度制御(スロットル制御)や燃料噴射制御、EGR弁27a,27bの開度制御(EGR制御)等の各種制御を行なう。また、添加弁30a,30bからの燃料添加によってDPF33a,33bに堆積しているPMを燃焼除去するPM再生制御や、添加弁30a,30bからの燃料添加によってDPF33a,33bに堆積している硫黄成分を燃焼除去するためのS再生制御を実行する。また、車両走行中において所定の条件が成立したときに燃料噴射を停止する減速時燃料カット制御を行なう。具体的には、例えば車速が所定速度以上であり、機関回転速度が所定回転速度以上であるときにアクセル操作量が「0」とされることを条件に減速時燃料カット制御を行なう。また、減速時燃料カット制御の実行中にアクセル操作量が増大した場合には、減速時燃料カット制御を停止して燃料噴射を再開する。
【0032】
ところで、こうした内燃機関では、何らの原因によって空燃比センサ56a,56bから正常な信号(実空燃比AF)が出力されなくなる異常が生じることがある。すなわち、正常であれば所定の範囲内の実空燃比AFが検出されるところ、同範囲の上限値よりも大きい実空燃比AFが出力されるリーン異常が生じることがある。また、同範囲の下限値よりも小さい実空燃比AFが出力されるリッチ異常が生じることがある。
【0033】
そこで、本実施形態では、以下のようにして空燃比センサ56a,56bの異常診断を行なう。
図2に、空燃比センサ56a,56bの異常診断処理の手順を示す。尚、この異常診断処理は、内燃機関10の減速時燃料カット制御が実行されたとき、次の実行条件(a)〜(c)が全て成立したときに実行される。
【0034】
(a)空燃比センサ56a,56bが活性状態である(低温始動直後ではない)。
(b)空燃比センサ56a,56bに給電するバッテリの電圧が所定電圧以上である。
(c)空燃比センサ56a,56bに断線等の他の異常が生じていない。
【0035】
図2に示すように、この一連の処理では、まず、ステップS1において、掃気完了判定処理を行なう。
ここで、図3を参照して、本実施形態における掃気完了判定処理の手順について説明する。尚、この掃気完了判定処理は、図2のフローチャートの処理において、ステップS1に移行する度に実行される。
【0036】
図3に示すように、この一連の処理では、まず、ステップS11において、当該空燃比センサ56a,56bの配置された排気通路21a,21bにおける掃気難度Dを各別に導出する。そして、図4に示すグラフを参照して、掃気難度Dに基づき掃気完了判定値ΣGAtを排気通路21a,21b毎に設定する。具体的には、掃気難度Dが大きいときほど、すなわち当該排気通路21a,21bが掃気しにくい環境下にあるときほど、掃気完了判定値ΣGAtを大きな値として算出する。尚、掃気難度Dとは、本発明に係る掃気環境のレベルを数値化したものである。
【0037】
ここで、本実施形態では、複数の掃気難度因子dn(n=1、2、3)を加算することにより掃気難度Dを算出する。
以下、図5〜図7を参照して、各掃気難度因子dnの導出態様について説明する。
【0038】
図5に、燃料カット直前の燃料噴射量ΣQと掃気難度因子d1との関係を示す。
燃料カット直前に多くの燃料が噴射されていたときほど、燃料カットの実行直後には当該排気通路21a,21bにより多くの排気が存在することとなり、排気通路21a,21bはより掃気しにくい環境となる。そのため、図5に示すように、燃料カット直前の燃料噴射量ΣQが大きいときほど掃気難度因子d1が大きな値として導出される。ここで、燃料カットが開始された時点よりも所定期間だけ前の時点から当該燃料カットが開始された時点までの燃料噴射量を積算することにより、燃料カット直前の燃料噴射量ΣQを算出する。
【0039】
図6に、燃料カット直前の添加剤供給量ΣA及び吸入空気量の積算値ΣGArと掃気難度因子d2との関係を示す。
燃料カット直前に多くの添加剤(燃料)が添加されたときほど、燃料カットの実行直後には当該排気通路21a,21bにより多くの添加剤が存在することとなり、排気通路21a,21bはより掃気しにくい環境となる。一方、燃料カットの実行直後において排気通路21a,21bに存在する添加剤の量が一定であれば、燃料カットが実行されてから吸気通路11を通じてより多くの吸気(新気)が導入されるときほど、排気通路21a,21bはより掃気しやすい環境となる。そのため、図6に示すように、燃料カット直前の添加剤供給量ΣAが大きいときほど、また燃料カットが実行されてからの吸入空気量の積算値ΣGArが小さいときほど、掃気難度因子d2が小さな値として導出される。ここで、燃料カットが開始された時点よりも所定期間だけ前の時点から燃料カットが開始された時点までの添加剤供給量を積算することにより、燃料カット直前の添加剤供給量ΣAを算出する。
【0040】
図7に、排気マニホルド22a,22bに付着している添加剤(燃料)の単位時間当りの蒸発量と掃気難度因子d3との関係を示す。
添加弁30a,30bから供給された添加剤(燃料)の一部は排気マニホルド22a,22bの内壁に付着する。また、燃料の付着量が多いときほど、また排気マニホルド22a,22bの壁温が高いときほど、排気マニホルド22a,22bの内壁から単位時間当りにより多くの燃料が蒸発することとなり、排気通路21a,21bはより掃気しにくい環境となる。そのため、図7に示すように、排気マニホルド22a,22bに付着している燃料の単位時間当りの蒸発量が大きいときほど、掃気難度因子d3が大きな値として導出される。ここで、単位時間当りにおける燃料の蒸発量は、排気マニホルド22a,22bの壁温及び燃料カット直前の添加剤供給量ΣAに基づき算出される。尚、排気マニホルド22a,22bの壁温は、水温センサにより検出される内燃機関の冷却水の温度及び第1排気温センサ52a,52bにより検出される排気温に基づき周知の態様にて推定される。
【0041】
また、本実施形態では、排気通路21a,21bのレイアウトが気筒列毎に異なるものとされている。具体的には、車両への搭載上の制約から、添加弁30a,30bから空燃比センサ56a,56bまでの距離や形状が互いに異なる。従って、上述した各種パラメータと掃気難度因子dnとの関係は実験やシミュレーションを通じて排気通路21a,21b毎に設定されている。
【0042】
また、EGR弁27a,27bが開弁しているときには、添加弁30a,30bから添加された燃料を含んだ排気が、排気マニホルド22a,22b、EGR上流側通路26a,26b、及びEGR集合通路28を通じて吸気通路11に戻される。そこで、本実施形態では、EGR弁27a,27bの開弁時と閉弁時とで掃気難度因子dnを異なる値に設定している。
【0043】
更にEGR弁27a,27bの開弁時においては、排気通路21a,21bのレイアウトによって一方の気筒列の排気通路21a(21b)に対してより多くの排気が戻される傾向がある。そこで、本実施形態では、こうした傾向についても加味して掃気難度因子dnを排気通路21a,21b毎に設定している。
【0044】
さて、図3に示すように、こうして各掃気難度因子dnを導出するとともに、これら掃気難度因子dnから算出される掃気難度Dに基づき掃気完了判定値ΣGAtを設定すると(ステップS11)、次に、ステップS12に移行して、燃料カットが開始されてからの吸入空気量の積算値ΣGArを算出する。
【0045】
そして、次に、ステップS13に移行して、吸入空気量の積算値ΣGArが掃気完了判定値ΣGAt以上であるか否かを判断する。ここで、否定判断した場合には、肯定判断されるまで、ステップS11〜ステップS13の判断処理を繰り返し実行する。
【0046】
一方、ステップS13において肯定判断した場合には、次に、ステップS14に移行して、掃気が完了した旨判定し、この一連の処理を一旦終了する。
先の図2に示すように、ステップS1において掃気完了判定処理が行なわれると、次に、ステップS2に移行して、掃気完了判定がなされているか否かを判断する。ここで、否定判断した場合には、肯定判断されるまで、ステップS1、ステップS2の処理を繰り返し実行する。
【0047】
一方、ステップS2において肯定判断した場合には、空燃比センサ56a,56b近傍の掃気が完了したとして、次に、ステップS3に移行して、空燃比センサ56a,56bにより検出される実空燃比AFを監視する。
【0048】
ステップS3では、実空燃比AFがリーン異常判定値ALよりも大きい状態が所定期間継続したか否かを判断する。ここで、肯定判断した場合には、検出される実空燃比AFが異常に大きいとして、次に、ステップS4に移行して、空燃比センサ56a(56b)にリーン異常が生じている旨の判定を行ない、この一連の処理を一旦終了する。
【0049】
一方、ステップS3において、否定判断した場合には、次に、ステップS5に移行して、実空燃比AFがリッチ異常判定値AR(<AL)よりも小さい状態が所定期間継続したか否かを判断する。ここで、肯定判断した場合には、検出される実空燃比AFが異常に小さいとして、次に、ステップS6に移行して、空燃比センサ56a(56b)にリッチ異常が生じている旨の判定を行ない、この一連の処理を一旦終了する。
【0050】
また、ステップS5において、否定判断した場合には、検出される実空燃比AFが異常ではないとして、この一連の処理を一旦終了する。
以上説明した本実施形態に係る内燃機関制御装置によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
【0051】
(1)電子制御装置50は、内燃機関10の減速時燃料カットの実行中に、各排気通路21a,21bに設けられた空燃比センサ56a,56b近傍に新気を導入して当該空燃比センサ56a,56b近傍の掃気を行なうとともに、当該空燃比センサ56a,56b近傍において掃気が完了したか否かを各別に判定するものとした。具体的には、減速時燃料カットが実行されてから、すなわち燃料噴射が停止されてからの吸入空気量の積算値ΣGArが掃気完了判定値ΣGAt以上となることをもって当該空燃比センサ56a,56b近傍において掃気が完了したと判定する。そして、当該排気通路21a,21bにおける掃気環境に応じて当該掃気完了判定値ΣGAtを可変設定するものとした。
【0052】
こうした構成によれば、各排気通路21a,21bに設けられた空燃比センサ56a,56b近傍において掃気が完了したか否かを判定する際の判定条件である掃気完了判定値ΣGAtが各排気通路21a,21bにおける掃気環境、換言すれば掃気難度Dに応じて設定される。具体的には、掃気しにくい環境下の場合には、掃気しやすい環境下の場合に比べて掃気完了判定値ΣGAtが大きな値とされ、判定条件が厳しく設定される。従って、2つの気筒列を備えるとともにこれら気筒列毎に排気通路21a,21bが設けられるものにあって、各排気通路21a,21bに設けられた空燃比センサ56a,56b近傍において掃気が完了したか否かをそれぞれ的確に判定することができる。
【0053】
(2)当該掃気完了判定値ΣGAtを燃料噴射停止直前における機関運転状態(燃料カット直前の燃料噴射量ΣQ、燃料カット直前の添加剤の供給量、排気マニホルド22a,22bに付着している添加剤の単位時間当りの蒸発量、EGR弁27a,27bの開度)に基づき可変設定するものとした。こうした構成によれば、燃料噴射停止直前における機関運転状態に基づいて当該掃気完了判定値ΣGAtを適切に設定することができ、そうした掃気完了判定値ΣGAtに基づいて掃気が完了したか否かを的確に判定することができる。
【0054】
(3)当該掃気完了判定値ΣGAtを当該排気通路21a,21bのレイアウトに基づき設定するものとした。排気通路21a,21bのレイアウトに起因して排気通路21a,21bにおける掃気環境が異なることとなるが、こうした構成によれば、各排気通路21a,21bのレイアウトに応じて掃気完了判定値ΣGAtを適切に設定することができ、こうした掃気完了判定値ΣGAtに基づいて掃気が完了したか否かを的確に判定することができる。
【0055】
(4)空燃比センサ56a近傍において掃気が完了した旨の判定がなされた後に、空燃比センサ56a,56bから出力される信号に基づいて空燃比センサ56a,56bの異常診断を行なうものとした。こうした構成によれば、空燃比センサ56a,56b近傍における掃気が完了する前に空燃比センサ56a,56bの異常診断が行なわれることを抑制することができる。従って、空燃比センサ56a,56bの異常診断を精度良く行なうことができる。
【0056】
尚、本発明に係る内燃機関制御装置は、上記実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、これを適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
・上記実施形態では、排気マニホルド22a,22bの内壁から蒸発する燃料量が多いときほど排気通路21a,21bが掃気しにくい環境となることを考慮して掃気完了判定値ΣGAtを可変設定するようにした。しかしながら、減速時燃料カットの実行中に掃気を完了することができない程度に排気マニホルド22a,22bの内壁から蒸発する燃料の量が多い場合には、掃気完了判定処理及び空燃比センサの異常診断処理を中止するようにしてもよい。これにより、減速時燃料カットの実行中に他の異常診断処理等を行なうことが可能となる。
【0057】
・上記実施形態では、燃料カットが開始された時点よりも所定期間だけ前の時点から当該燃料カットが開始された時点までの燃料噴射量を積算することにより、燃料カット直前の燃料噴射量ΣQを算出するようにした。すなわち、上記所定期間内における各燃料噴射をそれぞれ同一の重み付けによって積算した。しかしながら、実際には、より前の時点で噴射された燃料ほど燃料カット中の掃気に及ぼす影響が小さい。そこで、より前の時点で噴射された燃料ほど重み付けを小さくして積算することで燃料カット直前の燃料噴射量ΣQを算出するようにすれば、当該掃気難度因子を一層精度良く求めることができる。また、燃料カット直前の添加剤供給量ΣAの算出態様についても同様な変更が有効である。
【0058】
・添加弁30a,30bによる添加剤の供給時期、具体的には燃料カットが開始された時点を基準とした添加剤の供給時期によって、当該排気通路における掃気環境が異なるものとなる。このため、添加剤の供給時期に応じて掃気難度Dを算出するようにしてもよい。
【0059】
・DPF33a,33bに堆積しているPMの量によって空燃比センサ56a,56b近傍における掃気環境が異なるものとなる。このため、DPF33a,33bに堆積しているPMの量を推定するとともに、推定されるPM堆積量に基づいて掃気難度Dを算出するようにしてもよい。また、酸化触媒32a,32bの温度及びDPF33a,33bの温度に基づいて掃気難度Dを算出するようにしてもよい。
【0060】
・上記実施形態では、各種パラメータから掃気難度Dを算出し、この掃気難度Dに基づいて掃気完了判定値ΣGAtを算出するようにした。これに代えて、各種パラメータから掃気完了判定値ΣGAtを直接求めるためのマップや演算式を採用するようにしてもよい。
【0061】
・上記実施形態では、吸入空気量の積算値ΣGArと掃気完了判定値ΣGAtとの比較に基づき空燃比センサ56a,56b近傍における掃気完了判定を行なうようにした。しかしながら、本発明に係る掃気完了判定の態様はこれに限定されるものではない。例えば単位時間当りの吸入空気量GAを一定とみなすことができる場合であれば、減速時燃料カットが開始されてからの経過時間が所定の判定値以上となることをもって空燃比センサ56a,56b近傍において掃気が完了したと判定するようにしてもよい。
【0062】
・上記実施形態では、空燃比センサ56a,56b近傍における掃気完了判定を行うものについて例示した。しかしながら、本発明は空燃比センサを備えるものに限定されるものではなく、他のセンサ近傍における掃気完了判定を行うものに対して本発明を適用するようにしてもよい。
【0063】
・本発明に係る掃気及び掃気完了判定の実行時期は、減速時燃料カットの実行中に限定されるものではなく、他に例えば機関停止後に掃気完了判定を行なうものであってもよい。この場合、例えばスタータモータによって機関出力軸を強制回転させることによって排気通路に設けられたセンサ近傍に新気を導入して掃気を行なうようにすることもできる。そしてこのような場合であっても本発明を適用すれば、排気通路に設けられたセンサ近傍において掃気が完了したか否かを的確に判定することができる。
【0064】
・上記実施形態では、掃気完了の判定条件を燃料噴射停止直前における機関運転状態に基づき可変設定するものについて例示した。しかしながら、本発明はこれに限られるものではなく、複数の排気通路のレイアウトの差異のみに基づき判定条件を設定するようにしてもよい。
【0065】
・上記実施形態では、V型8気筒式のディーゼル機関に対して本発明を適用したが、他に例えば8気筒式以外のV型の機関や水平対向式の機関に対して本発明を適用することもできる。また、ガソリン機関に対して本発明を適用することもできる。
【0066】
・上記実施形態及びその変形例では、複数の気筒列を備える機関に対して本発明を適用したものについて例示したが、この他にも、他に例えば、単一の気筒列からなる直列型の機関に対して本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0067】
10…内燃機関、11…吸気通路、12…スロットル弁、13…吸気管、14a,14b…吸気マニホルド、15a,15b…サージタンク、16a,16b…分岐管、21a,21b…排気通路、22a,22b…排気マニホルド、23a,23b…分岐管、24a,24b…排気管、25…EGR装置、26a,26b…EGR上流側通路、27a,27b…EGR弁、28…EGR集合通路、30a,30b…添加弁、31a,31b…ターボチャージャ、32a,32b…酸化触媒、33a,33b…DPF、50…電子制御装置、51…エアフローメータ、52a,52b…第1排気温センサ、53a,53b…第2排気温センサ、54a,54b…第3排気温センサ、55a,55b…差圧センサ、56a,56b…空燃比センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射が停止された後に、排気通路に設けられたセンサ近傍に新気を導入して当該センサ近傍の掃気を行なうとともに、当該センサ近傍において掃気が完了したか否かを判定する内燃機関制御装置であって、
当該排気通路における掃気環境に応じて掃気完了の判定条件を設定する
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関制御装置において、
当該判定条件を燃料噴射停止直前における機関運転状態に基づき可変設定する
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関制御装置において、
内燃機関は複数の気筒列を備えるとともにこれら気筒列毎に排気通路が設けられるものであり、
各排気通路に設けられたセンサ近傍において掃気が完了したか否かを各別に判定する
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関制御装置において、
当該判定条件を当該排気通路のレイアウトに基づき設定する
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関制御装置において、
内燃機関は車両駆動用のものであり、
内燃機関の減速時燃料カットの実行中に当該センサ近傍において掃気が完了したか否かを判定する
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の内燃機関制御装置において、
燃料噴射が停止されてからの吸入空気量の積算値が判定値以上となることをもって当該センサ近傍において掃気が完了したと判定するものであり、
当該排気通路における掃気環境に応じて前記判定値を設定する
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の内燃機関制御装置において、
前記センサは同センサの周囲の酸素濃度に応じた信号を出力するものであり、
当該センサ近傍において掃気が完了した旨の判定がなされた後に、前記センサから出力される信号に基づいて同センサの異常診断を行なう
ことを特徴とする内燃機関制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−241540(P2012−241540A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109702(P2011−109702)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】