説明

内燃機関

【課題】オイル希釈の低減とスモーク発生の抑制とを適正に両立することができる内燃機関を提供する。
【解決手段】燃焼室18と、燃焼室18に連通する吸気ポート19及び排気ポート20と、吸気ポート19及び排気ポート20を開閉自在な吸気弁21及び排気弁22と、吸気弁21側から燃焼室18に燃料を複数回に分けて分割噴射可能な燃料噴射手段41と、冷間時に燃料噴射手段41による燃料の分割噴射期間を吸気弁21が燃焼室18側に開弁する吸気弁開弁期間の前半側に設定する噴射期間設定手段51とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関し、特に、燃焼室に直接燃料を噴射する筒内直接噴射式の内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、吸気行程中の吸気流に乗るように、シリンダボアサイド(たとえば、2つの吸気弁の間)から対向シリンダボア壁に向けて燃料を燃焼室に直接噴射する、いわゆる、筒内直接噴射式のエンジンが知られている。このような従来の筒内直接噴射式のエンジンとして、例えば、特許文献1に記載されている直噴エンジンの燃料噴射制御装置は、吸気ポートを開閉する吸気弁の開弁量、すなわち、リフト量が所定以上となる時期の前後に分けて2回燃料を噴射することで、燃料と吸気弁との干渉を抑制している。
なお、燃料と吸気弁との干渉を抑制することで、燃料噴霧が吸気弁にあたって飛び散って壁に付着することを防止でき、この結果、スモークが発生することを抑制することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−197724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されている直噴エンジンの燃料噴射制御装置では、例えば、クランクケース底部に貯留されるオイルの希釈を低減しエンジン品質の低下を防止するために、燃料の噴射を複数回に分割し噴射休止期間を設けて間欠的に噴射すると、燃料の噴射開始からエンジン回転数や負荷率に基づいて設定される所定量の噴射量を噴射終了するまでの期間が相対的に長くなり、この結果、例えば、燃料噴射期間の後半が圧縮行程にかかってしまうなどして、混合気の混合時間、気化時間が不足し冷間時にて燃焼悪化やスモークの発生をまねくなどの不具合が生じるおそれがある。すなわち、吸気弁のリフト量が所定以上となる時期の前後の期間に分けて燃料を噴射し燃料と吸気弁との干渉を抑制することでスモークの発生を抑制する構成と、燃料の噴射を複数回に分割し噴射休止期間を設けて間欠的に燃料を噴射することでオイルの希釈を低減する構成とを単純に組み合わせだけでは、オイル希釈の低減とスモーク発生の抑制とを適正に両立することができなかった。
【0005】
そこで本発明は、オイル希釈の低減とスモーク発生の抑制とを適正に両立することができる内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明による内燃機関は、燃焼室と、前記燃焼室に連通する吸気ポート及び排気ポートと、前記吸気ポート及び前記排気ポートを開閉自在な吸気弁及び排気弁と、前記吸気弁側から前記燃焼室に燃料を複数回に分けて分割噴射可能な燃料噴射手段と、冷間時に前記燃料噴射手段による前記燃料の分割噴射期間を前記吸気弁が前記燃焼室側に開弁する吸気弁開弁期間の前半側に設定する噴射期間設定手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明による内燃機関では、前記噴射期間設定手段は、前記分割噴射期間の中心時期を前記吸気弁の前記燃焼室側への移動量が最大となる最大リフト時期より前の時期に設定することを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明による内燃機関では、前記噴射期間設定手段は、前記分割噴射期間の終了時期を前記吸気弁の前記燃焼室側への移動量が最大となる最大リフト時期より前の時期に設定することを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明による内燃機関では、前記噴射期間設定手段は、前記分割噴射期間の開始時期を前記燃料噴射手段から噴射された燃料噴霧が前記吸気弁と干渉しうる干渉期間より前の時期に設定し、前記分割噴射期間の終了時期を前記干渉期間内の時期に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る内燃機関によれば、冷間時に燃料噴射手段による燃料の分割噴射期間を吸気弁開弁期間の前半側に設定するので、オイル希釈の低減とスモーク発生の抑制とを適正に両立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る内燃機関の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の実施例に係るエンジンを表す概略構成図、図2は、本発明の実施例に係るエンジンの燃焼室を含む部分断面図、図3は、本発明の実施例に係るエンジンのエンジン回転数、負荷率と燃料噴射の分割回数との関係の一例を表す線図、図4は、本発明の実施例に係るエンジンと比較例に係るエンジンとの分割噴射期間を比較するタイムチャートである。
【0013】
本実施例に係る内燃機関としてのエンジン10は、図1、図2に示すように、乗用車、トラックなどの車両に搭載され、後述するインジェクタ41によって燃料噴霧41a(図2参照)を燃焼室18に直接噴射する多気筒筒内噴射式のエンジンであり、シリンダボア13内に往復運動可能に設けられるピストン14が2往復する間に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行う、いわゆる4サイクルエンジンである。
【0014】
このエンジン10は、多気筒筒内噴射式であって、シリンダブロック11上にシリンダヘッド12が締結されており、このシリンダブロック11に形成された複数のシリンダボア13にピストン14がそれぞれ上下移動自在に嵌合している。そして、シリンダブロック11の下部にクランクケース15が締結され、このクランクケース15内にクランクシャフト16が回転自在に支持されており、各ピストン14はコネクティングロッド17を介してこのクランクシャフト16にそれぞれ連結されている。なお、このクランクケース15の底部には、エンジン10の各部に供給されるオイルが貯留されている。
【0015】
燃焼室18は、シリンダブロック11におけるシリンダボア13の壁面とシリンダヘッド12の下面とピストン14の頂面により構成されており、この燃焼室18は、上部(シリンダヘッド12の下面)の中央部が高くなるように傾斜したペントルーフ形状をなしている。燃焼室18は、燃料と空気との混合気が燃焼可能であり、この燃焼室18の上部、つまり、シリンダヘッド12の下面に吸気ポート19及び排気ポート20が対向して形成されており、この吸気ポート19及び排気ポート20に対して吸気弁21及び排気弁22の下端部がそれぞれ位置している。この吸気弁21及び排気弁22は、シリンダヘッド12に軸方向に沿って移動自在に支持されると共に、吸気ポート19及び排気ポート20を閉止する方向(図1にて上方)に付勢支持されている。また、シリンダヘッド12には、吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24が回転自在に支持されており、吸気カム25及び排気カム26が吸気弁21及び排気弁22の上端部に接触している。
【0016】
なお、図示しないが、クランクシャフト16に固結されたクランクシャフトスプロケットと、吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24にそれぞれ固結された各カムシャフトシャフトスプロケットとは、無端のタイミングチェーンが掛け回されており、クランクシャフト16と吸気カムシャフト23と排気カムシャフト24が連動可能となっている。
【0017】
従って、クランクシャフト16に同期して吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24が回転すると、吸気カム25及び排気カム26が吸気弁21及び排気弁22を所定のタイミングで上下移動することで、吸気ポート19及び排気ポート20を開閉し、吸気ポート19と燃焼室18、燃焼室18と排気ポート20とをそれぞれ連通することができる。この場合、この吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24は、クランクシャフト16が2回転(720度)する間に1回転(360度)するように設定されている。そのため、エンジン10は、クランクシャフト16が2回転する間に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の4行程を実行することとなり、このとき、吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24が1回転することとなる。
【0018】
また、このエンジン10の動弁機構は、運転状態に応じて吸気弁21及び排気弁22を最適な開閉タイミングに制御する吸気・排気可変動弁機構(VVT:Variable Valve Timing-intelligent)27,28となっている。この可変動弁手段としての吸気・排気可変動弁機構27,28は、吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24の軸端部にVVTコントローラ29,30が設けられて構成され、オイルコントロールバルブ31,32からの油圧をこのVVTコントローラ29,30の図示しない進角室及び遅角室に作用させることによりカムスプロケットに対するカムシャフト23,24の位相を変更し、吸気弁21及び排気弁22の開閉時期を進角または遅角することができるものである。この場合、吸気・排気可変動弁機構27,28は、吸気弁21及び排気弁22の作用角(開放期間)を一定としてその開閉時期を進角または遅角する。また、吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24には、その回転位相を検出するカムポジションセンサ33,34が設けられている。
【0019】
吸気ポート19には、吸気マニホールド35を介してサージタンク36が連結され、このサージタンク36に吸気管37が連結されており、この吸気管37の空気取入口にはエアクリーナ38が取付けられている。そして、このエアクリーナ38の空気流動方向下流側にスロットル弁39を有する負荷調節手段としての電子スロットル装置40が設けられている。また、シリンダヘッド12には、燃焼室18に直接燃料を噴射する燃料噴射手段としてのインジェクタ(燃料噴射弁)41が装着されており、このインジェクタ41は、吸気ポート19側に位置して上下方向に所定角度傾斜して配置されている。このインジェクタ41は、燃焼室18に生成される吸気流動に燃料が乗るように該燃料を噴射可能である。各気筒に装着されるインジェクタ41は、デリバリパイプ42に連結され、このデリバリパイプ42には、高圧燃料供給管43を介して高圧燃料ポンプ(燃料ポンプ)44が連結されている。更に、シリンダヘッド12には、燃焼室18の上方に位置して混合気に着火する点火プラグ45が装着されている。
【0020】
一方、排気ポート20には、排気マニホールド46を介して排気管47が連結されており、この排気管47には排気ガス中に含まれるHC、CO、NOxなどの有害物質を浄化処理する三元触媒48,49が装着されている。また、エンジン10には、クランキングを行うスタータモータ50が設けられており、エンジン始動時に図示しないピニオンギヤがリングギヤと噛み合った後、回転力がピニオンギヤからリングギヤへと伝わり、クランクシャフト16を回転することができる。
【0021】
ところで、車両にはマイクロコンピュータを中心として構成されエンジン10の各部を制御可能な電子制御ユニット(ECU)51が搭載されており、このECU51は、インジェクタ41や点火プラグ45などを制御可能となっている。即ち、吸気管37の空気流動方向上流側にはエアフローセンサ52及び吸気温センサ53が装着され、また、サージタンク36には吸気圧センサ54が設けられており、計測した吸入空気量、吸気温度、吸気圧(吸気管負圧)をECU51に出力している。また、電子スロットル装置40にはスロットルポジションセンサ55が装着されており、現在のスロットル開度をECU51に出力している。ここで、ECU51は、検出されたスロットル開度や吸入空気量に基づいて内燃機関負荷としてのエンジン負荷(負荷率)を算出することができる。アクセルポジションセンサ56は、現在のアクセル開度をECU51に出力している。更に、エンジン10のクランク角度を検出するクランク角度検出手段としてのクランク角センサ57は、検出した各気筒のクランク角度をECU51に出力し、このECU51は検出したクランク角度に基づいて各気筒における吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程を判別すると共に、エンジン回転数を算出している。なおここで、エンジン回転数は、言い換えれば、クランクシャフト16の回転速度に対応し、このクランクシャフト16の回転速度が高くなれば、クランクシャフト16の回転数、すなわち、エンジン10のエンジン回転数も高くなる。
【0022】
また、シリンダブロック11にはエンジン冷却水温を検出する水温センサ58が設けられており、検出したエンジン冷却水温をECU51に出力している。また、各インジェクタ41に連通するデリバリパイプ42には燃料圧力を検出する燃圧センサ59が設けられており、検出した燃料圧力をECU51に出力している。一方、排気管47には、三元触媒48の排気ガス流動方向上流側にエンジン10の空燃比を検出するA/Fセンサ60、排気ガス流動方向下流側に酸素センサ61が設けられている。A/Fセンサ60は、三元触媒48に導入される前の排気ガスの排気ガス空燃比を検出し、検出した空燃比をECU51に出力し、酸素センサ61は、三元触媒48から排出された後の排気ガスの酸素濃度を検出し、検出した酸素濃度をECU51に出力している。このA/Fセンサ60により検出された空燃比(推定空燃比)は、吸入空気と燃料とからなる混合ガスの空燃比(理論空燃比)をフィードバック制御するために用いられる。すなわち、A/Fセンサ60は、排気ガス中の酸素濃度と未燃ガス濃度から排気空燃比をリッチ域からリーン域までの全域にわたり検出し、これをECU51にフィードバックすることにより燃料噴射量を補正し、燃焼を運転状態に合わせた最適な燃焼状態に制御可能となる。
【0023】
従って、ECU51は、検出した燃料圧力に基づいてこの燃料圧力が所定圧力となるように高圧燃料ポンプ44を駆動すると共に、検出した吸入空気量、吸気温度、吸気圧、スロットル開度、アクセル開度、エンジン回転数、エンジン冷却水温などのエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量(燃料噴射期間)、噴射時期、点火時期などを決定し、インジェクタ41及び点火プラグ45を駆動して燃料噴射及び点火を実行する。また、ECU51は、検出した排気ガスの酸素濃度をフィードバックして空燃比がストイキ(理論空燃比)となるように燃料噴射量を補正している。
【0024】
また、ECU51は、エンジン運転状態に基づいて吸気・排気可変動弁機構27,28を制御可能となっている。即ち、低温時、エンジン始動時、アイドル運転時や軽負荷時には、排気弁22の閉止時期と吸気弁21の開放時期のオーバーラップをなくすことで、排気ガスが吸気ポート19または燃焼室18に吹き返す量を少なくし、燃焼安定及び燃費向上を可能とする。また、中負荷時には、このオーバーラップを大きくすることで、内部EGR率を高めて排ガス浄化効率を向上させると共に、ポンピングロスを低減して燃費向上を可能とする。更に、高負荷低中回転時には、吸気弁21の閉止時期を進角することで、吸気が吸気ポート19に吹き返す量を少なくし、体積効率を向上させる。そして、高負荷高回転時には、吸気弁21の閉止時期を回転数にあわせて遅角することで、吸入空気の慣性力に合わせたタイミングとし、体積効率を向上させる。
【0025】
上記のように構成されるエンジン10では、ピストン14がシリンダボア13内を下降することで、吸気ポート19を介して燃焼室18内に空気が吸入され(吸気行程)、このピストン14が吸気行程下死点を経てシリンダボア13内を上昇することで空気が圧縮される(圧縮行程)。このとき、吸気行程又は圧縮行程にてインジェクタ41から燃焼室18内へ燃料が噴射され、この燃料と空気とが混合して混合気を形成する。そして、ピストン14が圧縮行程上死点付近に近づくと点火プラグ45により混合気に点火され、該混合気が燃焼し、その燃焼圧力によりピストン14を下降させる(膨張行程)。燃焼後の混合気は、ピストン14が膨張行程下死点を経て吸気行程上死点に向かって再び上昇することで排気ポート20を介して排気ガスとして放出される(排気行程)。このピストン14のシリンダボア13内での往復運動は、コネクティングロッド17を介してクランクシャフト16に伝えられ、ここで回転運動に変換され、出力として取り出されると共に、このピストン14は、カウンタウェイトと共にクランクシャフト16が慣性力によりさらに回転することで、このクランクシャフト16の回転に伴ってシリンダボア13内を往復する。このクランクシャフト16が2回転することで、ピストン14はシリンダボア13を2往復し、この間に吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行い、燃焼室18内で1回の爆発が行われる。
【0026】
なお、本実施例のエンジン10は、運転条件に対応して2つの燃焼形態を利用している。この2つの燃焼形態は、圧縮行程時に燃料噴射を行うことで混合気を点火プラグ45近傍に集中させ成層化し空燃比がリーン(酸素過多雰囲気)状態での運転を実現可能とする成層燃焼と、吸気行程時に燃料噴射を行い、十分な混合時間をとることで、燃焼室全体に噴霧を均質に分散させ空燃比がストイキ(理論空燃比)状態での運転を実現可能とする均質燃焼である。ここでは、エンジン10は、ピストン14の頂面の吸気側部分に成層燃焼を成立させるための凹状のキャビティ14a(図2参照)が形成されている。本実施例のエンジン10は、エンジン回転数とスロットル開度とに基づいて燃料噴射モードを決定しており、例えば、全運転条件の中で比較的低負荷および低回転の運転領域にて成層燃焼を行う一方、比較的高負荷および高回転の運転領域にて均質燃焼を行う。
【0027】
ここで、本実施例のエンジン10は、燃料噴射手段としてのインジェクタ41による燃料の噴射を複数回に分けて分割噴射すると共に、冷間時においてこの分割噴射期間を吸気弁21の開弁期間の前半側に設定することで、オイル希釈の低減とスモーク発生の抑制とを両立している。
【0028】
なお、エンジン10の冷間時判定は、例えば、ECU51により、エンジン冷却水温が予め設定される所定の温度より低いか否かで判定すればよい。すなわち、ECU51は、エンジン冷却水温が予め設定される所定の温度より低い場合にエンジン10を冷間時であると判定する一方、エンジン冷却水温が予め設定される所定の温度より高い場合に温間時(通常運転時)であると判定する。
【0029】
具体的には、上述したインジェクタ41は、吸気弁21側から燃焼室18に向けて燃料を複数回に分けて分割噴射可能である。インジェクタ41による分割噴射の分割数は、ECU51によりエンジン回転数、負荷率に基づいて設定される。すなわち、ECU51は、現時点のエンジン10のエンジン回転数と負荷率とから、必要な燃料噴射量を算出し設定するとともに、例えば、図3に示すマップを用いて、噴射の分割数を設定する。ここで、図3は、エンジン回転数と負荷率に基づいて噴射の分割数(たとえばn1、n2、・・・、n5)を求めるためにECU51の記憶部に記憶されているマップの一例であり、予め実験等により作成されたものである。図3は、縦軸を負荷率、横軸をエンジン回転数としている。
【0030】
そして、インジェクタ41は、ECU51によって設定された燃料噴射量及び分割数に基づいて、燃料の噴射を複数回に分割し噴射休止期間を設けて間欠的に燃焼室18に燃料を噴射する。したがって、例えば、冷間時に必要な燃料噴射量の総量を一回で噴射する場合と比較して、複数回に分割された短い期間で燃料が噴射されることとなり、一回の噴射による燃料噴霧41aの噴射量を低減することができる。このため、一回の燃料噴霧41aは、インジェクタ41から短い期間内に噴射されることになるので、燃料の噴霧のペネトレーション(貫徹力)を低く抑えることができる。すなわち、インジェクタ41により燃料を分割噴射する場合の燃料噴霧41aでは、個々の噴霧期間が短くなることで噴霧のペネトレーションが低下することにより、ピストン14の頂面及びシリンダボア13の壁面に燃料が付着することを抑制することができる。よって、燃料噴霧41aを分割噴射する場合には、燃焼室18の内壁面に燃料が付着することを抑制することができ、シリンダボア13の壁面に付着した燃料がピストンリングを介してクランクケース15の底部に貯留されるオイルに流れ込むことを抑制することができる。この結果、オイルが希釈してエンジン品質を低下させることを防止することができ、また、未燃HC(炭化水素)の発生やスモークの発生を抑制することができる。
【0031】
ところで、上記のようにインジェクタ41により燃料を分割噴射する場合、燃料の噴射開始から、エンジン回転数や負荷率に基づいて設定される所定量の噴射量を噴射終了するまでの分割噴射期間が相対的に長くなり、この結果、オイル希釈の低減とスモーク発生の抑制とを適正に両立することができないおそれがある。
【0032】
そこで、噴射期間設定手段としてのECU51は、図4に示すように、冷間時において、均質燃焼の吸気行程時に、インジェクタ41による燃料の分割噴射期間を吸気弁21が燃焼室18側に開弁する吸気弁開弁期間の前半側に設定している。吸気弁開弁期間は、吸気弁21が吸気ポート19を完全に閉鎖している状態から燃焼室18側の最大開度まで移動し再び閉鎖状態となるまでの期間である。さらに具体的には、ECU51は、インジェクタ41による燃料の分割噴射期間の中心時期T2を吸気弁21の最大リフト時期t2より前の時期に設定する。インジェクタ41による燃料の分割噴射期間の中心時期T2は、分割噴射期間の開始時期T1と終了時期T3との中間の時期である。吸気弁21の最大リフト時期t2は、吸気弁21の燃焼室18側への移動量、すなわち、リフト量が最大となる時期である。
【0033】
ここでは、ECU51は、インジェクタ41による燃料の分割噴射期間の終了時期T3を最大リフト時期t2より前の時期に設定する。さらに言えば、ECU51は、分割噴射期間の開始時期T1をインジェクタ41から噴射された燃料噴霧が吸気弁21と干渉しうる干渉期間より前の時期に設定し、分割噴射期間の終了時期T3を干渉期間内の時期に設定する。吸気弁21と噴霧との干渉期間は、時刻t1から時刻t3までの期間であり、冷間時、温間時ともにほぼ同じであり、エンジン10の仕様等から一義的に定まる期間である。ここでは、干渉期間の開始時期t1とインジェクタ41による燃料の分割噴射期間の中心時期T2とをほぼ一致させている。
【0034】
次に、図4のタイムチャートを参照して、本実施例に係るエンジン10と比較例に係るエンジンとの分割噴射期間を比較する。
【0035】
まず、比較例1のエンジンは、分割噴射期間を吸気弁21と燃料噴霧とが干渉しうる干渉期間を挟んで前後に2回の分割噴射期間に分けている。この場合、分割噴射期間と干渉期間とが重なる期間がないことから燃料噴霧と吸気弁21との干渉を回避することができ、この点ではスモークの発生を抑制することができる。しかしながら、比較例1のエンジンは、燃料を分割噴射しているために燃料の噴射開始から噴射終了するまでの期間が相対的に長くなる上、2回目の分割噴射期間が干渉期間後に設定されていることから、この2回目の分割噴射期間が圧縮行程にかかってしまうなどして、混合気の混合時間、気化時間が不足し、結果的に、燃焼悪化やスモークの発生をまねくなどの不具合が生じるおそれがある。
【0036】
また、比較例2のエンジンは、分割噴射期間を吸気弁21と燃料噴霧とが干渉しうる干渉期間の前の期間に設定し、分割噴射期間の終了時期も干渉期間の前の時期に設定している。この場合、比較例1と同様に分割噴射期間と干渉期間とが重なる期間がないことから燃料噴霧と吸気弁21との干渉を回避することができ、この点ではスモークの発生を抑制することができる。しかしながら、分割噴射期間の前半側が排気行程にかかってしまうなどして、排気弁22が開弁した状態の排気ポート20を介して、インジェクタ41から噴射された燃料が燃焼室18を吹き抜けてしまうおそれがあり、結果的に、燃費の悪化やエミッション性の悪化をまねくおそれがある。
【0037】
これに対し、本実施例のエンジン10は、分割噴射期間の開始時期T1を干渉期間より前の時期に設定し、分割噴射期間の終了時期T3を干渉期間内の最大リフト時期t2より前の時期に設定することで、中心時期T2を最大リフト時期t2より前の時期に設定し、インジェクタ41による燃料の分割噴射期間を吸気弁21の吸気弁開弁期間の前半側に設定している。したがって、燃料の分割噴射期間が吸気弁21と燃料噴霧41aとが干渉しうる干渉期間と重なる期間があることから、燃料を分割噴射しているために燃料の噴射開始から噴射終了までの期間が相対的に長くなっても、分割噴射期間の終了時期T3が圧縮行程にかかってしまうなどして、混合気の混合時間、気化時間が不足することを防止することができる。この結果、燃焼悪化やスモークの発生をまねくなどの不具合が生じることを防止することができる。
【0038】
さらに、燃料の分割噴射期間が吸気弁21と燃料噴霧41aとが干渉しうる干渉期間と重なる期間があることから、燃料を分割噴射しているために燃料の噴射開始から噴射終了までの期間が相対的に長くなっても、分割噴射期間の開始時期T1が排気行程にかかってしまうなどして、排気弁22が開弁した状態の排気ポート20を介して、インジェクタ41から噴射された燃料が燃焼室18を吹き抜けてしまうことを防止することができる。この結果、燃費の悪化やエミッション性の悪化をまねくことを防止することができる。
【0039】
また、オイル希釈の低減だけを考慮すれば、燃料噴霧41aが直接シリンダボア13の壁面にあたらないように、できるだけ早い時期に分割噴射を開始した方がよいが、この場合、インジェクタ41からピストン14までの距離が短いピストン14の上死点位置にて全ての燃料噴霧41aがピストン14の頂面にあたり当該頂面に燃料が付着し、結果的に、スモークが増えてしまうおそれがある。しかしながら、本実施例のエンジン10は、燃料の分割噴射期間と干渉期間とが重なる期間があることから、分割噴射期間の開始時期T1が必要以上に早い時期になってしまうことを防止することができるので、スモークを適正に抑制することができる。
【0040】
そして、本実施例のエンジン10は、燃料の分割噴射期間と干渉期間とが重なる期間があるものの、当該重なる期間が吸気弁21の吸気弁開弁期間の前半側に設定されていることから、インジェクタ41から噴射される燃料噴霧41aと吸気弁21との相対速度を比較的小さくすることができる。すなわち、吸気弁開弁期間の前半側では、吸気弁21は最大リフト位置に到達するまで燃焼室18の内方に向かう方向に移動している。したがって、インジェクタ41から燃焼室18の内方に噴射される燃料噴霧41aの噴射方向と、吸気弁21の移動方向とがほぼ同方向となる。このため、インジェクタ41から噴射される燃料噴霧41aと吸気弁21との相対速度は、燃料噴霧41aの噴射方向と吸気弁21の移動方向とがほぼ逆方向となる吸気弁開弁期間後半側での相対速度と比較して、十分に小さくなる。この結果、分割噴射期間と干渉期間とが重なる期間において、燃料噴霧41aと吸気弁21との相対速度が早くなる時期が含まれることを回避するように、分割噴射期間を設定することで、インジェクタ41から噴射される燃料噴霧41aと吸気弁21とが干渉しても、相対速度が十分小さいことから、吸気弁21にあたって飛び散る燃料噴霧41aの量を低減することができ、シリンダボア13の壁面などに付着する燃料の量を低減することができる。この結果、オイル希釈の低減とスモーク発生の抑制とを適正に両立することができる。
【0041】
なお、エンジン10の温間時では、図4に示すように、燃料の分割噴射期間が干渉期間内にすべて含まれ、燃料噴霧41aと吸気弁21とが干渉し燃料が飛び散っても、燃焼室18やシリンダボア13の壁面の温度が十分に高温であり、飛び散った燃料が蒸発し易いのでスモークの発生を防止できる。また、オイル希釈の低減に関しても油温が高いことから、オイルに燃料が混じってもすぐに蒸発するので問題はない。
【0042】
以上で説明した本発明の実施例に係るエンジン10によれば、燃焼室18と、燃焼室18に連通する吸気ポート19及び排気ポート20と、吸気ポート19及び排気ポート20を開閉自在な吸気弁21及び排気弁22と、吸気弁21側から燃焼室18に燃料を複数回に分けて分割噴射可能なインジェクタ41と、冷間時にインジェクタ41による燃料の分割噴射期間を吸気弁21が燃焼室18側に開弁する吸気弁開弁期間の前半側に設定するECU51とを備える。
【0043】
したがって、インジェクタ41により所定量の燃料を複数回に分けて分割噴射することから、燃料の噴霧のペネトレーション(貫徹力)を低く抑えることができる。そして、燃料を分割噴射しているために燃料の噴射開始から噴射終了までの期間が相対的に長くなり、このためインジェクタ41から噴射される燃料噴霧41aと吸気弁21とが干渉しても、ECU51により燃料の分割噴射期間を吸気弁21の吸気弁開弁期間の前半側に設定することで、燃料噴霧41aと吸気弁21との相対速度が十分小さくなることから、吸気弁21にあたって飛び散る燃料噴霧41aの量を低減することができ、シリンダボア13の壁面などに付着する燃料の量を低減することができるので、オイル希釈の低減とスモーク発生の抑制とを適正に両立することができる。
【0044】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るエンジン10によれば、ECU51は、分割噴射期間の中心時期T2を吸気弁21の燃焼室18側への移動量が最大となる最大リフト時期t2より前の時期に設定する。したがって、吸気弁21と燃料噴霧41aとが干渉しうる干渉期間と燃料の分割噴射期間とが重なる期間において、燃料噴霧41aと吸気弁21との相対速度が早くなる時期が含まれることを回避するように、適正に分割噴射期間を設定することができる。
【0045】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るエンジン10によれば、ECU51は、分割噴射期間の終了時期T3を吸気弁21の燃焼室18側への移動量が最大となる最大リフト時期t2より前の時期に設定する。したがって、吸気弁21と燃料噴霧41aとが干渉しうる干渉期間と燃料の分割噴射期間とが重なる期間において、燃料噴霧41aと吸気弁21との相対速度が早くなる時期が含まれることを確実に回避することができる。
【0046】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るエンジン10によれば、ECU51は、分割噴射期間の開始時期T1をインジェクタ41から噴射された燃料噴霧41aが吸気弁21と干渉しうる干渉期間より前の時期に設定し、分割噴射期間の終了時期T3を干渉期間内の時期に設定する。したがって、分割噴射期間の開始時期T1を干渉期間より前の時期に設定する一方で終了時期T3を干渉期間内の時期に設定することで、分割噴射期間が早くなりすぎて排気行程にかかったり、遅くなりすぎて圧縮行程にかかったりすることを防止することができるので、燃費の悪化やエミッション性の悪化を防止することができ、燃焼悪化やスモークの発生をまねくなどの不具合が生じることを防止することができ、オイル希釈の低減とスモーク発生の抑制とを適正に両立することができる。
【0047】
なお、上述した本発明の実施例に係る内燃機関は、上述した実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。以上の説明では、ECU51は、分割噴射期間の開始時期T1を干渉期間より前の時期に設定し、分割噴射期間の終了時期T3を干渉期間内の最大リフト時期t2より前の時期に設定することで、中心時期T2を最大リフト時期t2より前の時期に設定するものとして説明したが、これに限らず、インジェクタ41による燃料の分割噴射期間が概ね吸気弁21の吸気弁開弁期間の前半側に設定されればよい。例えば、ECU51は、分割噴射期間の開始時期T1を吸気弁開弁期間よりも前の時期に設定してもよい干渉期間内に設定してもよい。また、ECU51は、例えば、分割噴射期間の終了時期T3を干渉期間内の最大リフト時期t2より若干後の時期に設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明に係る内燃機関は、燃焼室に直接燃料を噴射する種々の筒内直接噴射式内燃機関に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施例に係るエンジンを表す概略構成図である。
【図2】本発明の実施例に係るエンジンの燃焼室を含む部分断面図である。
【図3】本発明の実施例に係るエンジンのエンジン回転数、負荷率と燃料噴射の分割回数との関係の一例を表す線図である。
【図4】本発明の実施例に係るエンジンと比較例に係るエンジンとの分割噴射期間を比較するタイムチャートである。
【符号の説明】
【0050】
10 エンジン(内燃機関)
13 シリンダボア
14 ピストン
18 燃焼室
19 吸気ポート
20 排気ポート
21 吸気弁
22 排気弁
41 インジェクタ(燃料噴射手段)
45 点火プラグ
51 ECU(噴射期間設定手段)
T1 分割噴射期間の開始時期
T2 分割噴射期間の中心時期
T3 分割噴射期間の終了時期
t1 干渉期間の開始時期
t2 最大リフト時期
t3 干渉期間の終了時期

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室と、
前記燃焼室に連通する吸気ポート及び排気ポートと、
前記吸気ポート及び前記排気ポートを開閉自在な吸気弁及び排気弁と、
前記吸気弁側から前記燃焼室に燃料を複数回に分けて分割噴射可能な燃料噴射手段と、
冷間時に前記燃料噴射手段による前記燃料の分割噴射期間を前記吸気弁が前記燃焼室側に開弁する吸気弁開弁期間の前半側に設定する噴射期間設定手段とを備えることを特徴とする、
内燃機関。
【請求項2】
前記噴射期間設定手段は、前記分割噴射期間の中心時期を前記吸気弁の前記燃焼室側への移動量が最大となる最大リフト時期より前の時期に設定することを特徴とする、
請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記噴射期間設定手段は、前記分割噴射期間の終了時期を前記吸気弁の前記燃焼室側への移動量が最大となる最大リフト時期より前の時期に設定することを特徴とする、
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記噴射期間設定手段は、前記分割噴射期間の開始時期を前記燃料噴射手段から噴射された燃料噴霧が前記吸気弁と干渉しうる干渉期間より前の時期に設定し、前記分割噴射期間の終了時期を前記干渉期間内の時期に設定することを特徴とする、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−121416(P2009−121416A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298496(P2007−298496)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】