説明

内燃機関

【課題】圧縮比が可変に形成されており、優れた熱効率を有する内燃機関を提供する。
【解決手段】クランクシャフト52を支持するクランクケース4と、シリンダ部71を有するモノブロック2と、モノブロック2が上端位置と下端位置との間で相対移動する圧縮比可変手段とを備える。シリンダ部71の周りの領域には、潤滑油が供給される上部オイルジャケット73と下部オイルジャケット74とが形成されている。上部オイルジャケット73と下部オイルジャケット74との間には第1の流量制限部が形成され、下部オイルジャケット74の下端部には第2の流量制限部が形成されている。モノブロック2が上端位置のときには、上部オイルジャケット73に潤滑油が貯留し、モノブロック2が下端位置のときには、上部オイルジャケット73に潤滑油が貯留せずに下部オイルジャケット74に潤滑油が貯留する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は、燃焼室に燃料および空気が供給されて、燃焼室にて燃料が燃焼することにより駆動力を出力する。燃焼室において燃料を燃焼させるときには、空気と燃料との混合気を圧縮した状態になる。内燃機関の圧縮比は、出力および燃料消費量に影響を与えることが知られている。圧縮比を高くすることにより出力トルクを大きくしたり、燃料消費量を少なくしたりすることができる。圧縮比は、燃焼室の容積およびピストンが移動するときのピストンの行程容積に依存する。従来の技術においては、運転期間中に圧縮比を変更することができる内燃機関が知られている。
【0003】
特開2009−30508号公報においては、シリンダブロックと、シリンダヘッドと、クランクケースと、移動機構とを備える可変圧縮比の内燃機関が開示されている。この内燃機関においては、移動機構によってシリンダブロックおよびシリンダヘッドと、クランクケースとを相対移動させることで圧縮比を変更することが開示されている。
【0004】
特開2007−247545号公報においては、シリンダ内を往復動するピストンと、機関運転状態に基づいてピストンの上死点位置を変更して機関圧縮比を可変にする可変圧縮比内燃機関が開示されている。この内燃機関においては、機関圧縮比を高圧縮比としたときにピストンの最上昇部位に面する部分のシリンダの熱伝導率を、低圧縮比としたときにピストンの最上昇部位に面する部分のシリンダの熱伝導率よりも大きくすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−30508号公報
【特許文献2】特開2007−247545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
火花点火式の内燃機関においては、燃焼室において燃料と空気の混合気が点火装置で着火されることにより、混合気が燃焼するとともにピストンが押し下げされる。このときに圧縮比を高くすることにより熱効率が向上する。ところが、圧縮比を高くすると異常燃焼が発生する場合がある。例えば、圧縮比が高くなることによりプレイグニッション現象や自着火現象が生じる場合がある。
【0007】
また、燃料が燃焼したときの温度が高くなり過ぎると、ピストンが往復運動するシリンダ部の周りの構成部品が熱的な損傷を受ける場合がある。内燃機関では、異常燃焼の発生を抑制したり、内燃機関の構成部品の熱的な損傷を抑制したりするために、シリンダ部の周りの領域が機関冷却水等で冷却される。除熱された熱は最終的に外気に放出されるために冷却損失になり、除熱量が大きくなると熱効率が小さくなってしまう。
【0008】
従来の技術の内燃機関においては、シリンダ部の周りの領域を過剰に冷却している場合があった。燃料が燃焼することにより発生する熱を過剰に除去するために内燃機関の熱効率が低くなっている場合があった。
【0009】
上記の特開2007−247545号公報に開示されている内燃機関においては、シリンダ部の壁面に配置されるシリンダライナをピストンのストローク位置に応じて熱伝導率が異なる部材で構成している。ところが、このシリンダライナは、熱伝導率が上部から下部に沿って変化する部分が生じる。この内燃機関では、ピストンからシリンダヘッドへの伝熱が悪化する部分を有していた。このために、ピストンの冷却が不十分になる虞があった。または、ピストンの温度が上昇することにより、シリンダ部の壁面に配置されている油膜が除去される場合がある。この場合には、ピストンリングがシリンダ部の壁面に直接的に接触し、シリンダ部の壁面に傷が生じる虞があった。すなわち、いわゆるスカッフが生じる虞があった。または、ピストンの冠面の温度が上昇してノッキング等の異常燃焼が発生する虞があった。
【0010】
本発明は、圧縮比が可変に形成されており、優れた熱効率を有する内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の内燃機関は、クランクケースを含み、クランクシャフトを回転可能に支持する下部構造物と、下部構造物の上側に配置され、ピストンが内部に配置されているシリンダ部、燃焼室に通じる吸気通路および排気通路を有する上部構造物と、下部構造物に対して上部構造物が上端位置と下端位置との間で相対移動するように形成され、下部構造物に対して上部構造物が上昇することにより、燃焼室の容積が大きくなって圧縮比が小さくなる圧縮比可変手段とを備える。シリンダ部の周りの領域において、下部構造物と上部構造物との間には、潤滑油が供給される第1の油貯留部と、第1の油貯留部の下側に配置され、第1の油貯留部に連通する第2の油貯留部とが形成されている。第1の油貯留部と第2の油貯留部との間には潤滑油の流量を制限する第1の流量制限部が形成され、第2の油貯留部の下端部には第2の油貯留部から流出する潤滑油の流量を制限する第2の流量制限部が形成されている。第1の流量制限部は、下部構造物に対して上部構造物が上昇することにより、第1の油貯留部から第2の油貯留部に流れる流量が小さくなるように形成されている。第2の流量制限部は、下部構造物に対して上部構造物が下降することにより、第2の油貯留部から流出する流量が小さくなるように形成されている。上部構造物が上端位置に配置されているときには、第1の油貯留部に潤滑油が貯留する。上部構造物が下端位置に配置されているときには、第1の油貯留部に潤滑油が貯留せずに第2の油貯留部に潤滑油が貯留する。
【0012】
上記発明においては、上部構造物は、機関冷却水が流れる水路を有し、シリンダ部の周りの領域を上死点に到達したピストンに対向する上部領域、下死点に到達したピストンに対向する下部領域、および上部領域と下部領域との間の中間領域に分割したときに、上部領域に水路が形成され、中間領域に第1の油貯留部が形成され、および下部領域に第2の油貯留部が形成されていることが好ましい。
【0013】
上記発明においては、クランクシャフトの回転力を駆動源として潤滑油を加圧するオイルポンプを備え、下部構造物は、オイルポンプに接続され、第2の油貯留部の内壁に向かって潤滑油を噴射する噴射ノズルを含むことが好ましい。
【0014】
上記発明においては、上部構造物は、シリンダ部の一部が内部に形成され、下部構造物の内部に向かって突出する突出部を含み、下部構造物は、突出部を内部に配置する開口部を有し、突出部の外面と開口部の壁面とに挟まれる空間により第1の油貯留部および第2の油貯留部が形成されることができる。
【0015】
上記発明においては、上部構造物は、シリンダ部、吸気通路および排気通路が、一つの部材に一体的に形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、圧縮比が可変に形成されており、優れた熱効率を有する内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態における内燃機関の概略図である。
【図2】実施の形態における内燃機関の機関本体の分解斜視図である。
【図3】実施の形態における内燃機関の機関本体を燃焼室の部分で切断したときの概略断面図である。
【図4】実施の形態における内燃機関の偏心軸シャフトを回転させる回転装置の概略斜視図である。
【図5】実施の形態における偏心軸シャフトと平歯車との位置関係を説明する概略平面図である。
【図6】実施の形態における機関本体を支持部材の部分で切断したときの第1の概略断面図である。
【図7】実施の形態における機関本体を支持部材の部分で切断したときの第2の概略断面図である。
【図8】実施の形態における機関本体のモノブロックが上端位置および下端位置に配置されたときの概略断面図である。
【図9】実施の形態における潤滑油供給装置の系統図である。
【図10】実施の形態における潤滑油供給装置の油路を説明する機関本体の第1の概略断面図である。
【図11】実施の形態における潤滑油供給装置の油路を説明する機関本体の第2の概略断面図である。
【図12】実施の形態において、内燃機関の圧縮比が低圧縮比になったときのオイルジャケットの部分の拡大概略断面図である。
【図13】実施の形態において、内燃機関の圧縮比が高圧縮比になったときのオイルジャケットの部分の拡大概略断面図である。
【図14】実施の形態の機関本体のシリンダ部の周りの領域を説明する内燃機関の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1から図14を参照して、実施の形態における内燃機関について説明する。本実施の形態においては、車両に配置されている内燃機関を例に取り上げて説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態における内燃機関の概略図である。本実施の形態における内燃機関は、火花点火式である。内燃機関は、機関本体1を備える。本実施の形態における機関本体1は、下部構造物と上部構造物とを含む。本実施の形態における下部構造物は、クランクシャフトを回転可能に支持するクランクケース4を含む。上部構造物は、気筒を構成するシリンダ部71を有するモノブロック2を含む。本実施の形態におけるシリンダ部71は、円柱状の穴部である。シリンダ部71の内部には、ピストン3が配置されている。ピストン3とシリンダ部71とに囲まれる空間により燃焼室5が形成されている。燃焼室5は、それぞれの気筒ごとに形成されている。
【0020】
モノブロック2は、燃焼室5に通じる機関吸気通路としての吸気ポート7を有する。モノブロック2は、燃焼室5に通じる機関排気通路としての排気ポート9を有する。機関吸気通路は、燃焼室5に空気または燃料と空気との混合気を供給するための通路である。機関排気通路は、燃焼室5における燃料の燃焼により生じた排気ガスを排出するための通路である。吸気弁6は吸気ポート7の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関吸気通路を開閉可能に形成されている。排気弁8は、排気ポート9の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関排気通路を開閉可能に形成されている。モノブロック2には、点火装置としての点火プラグ10が固定されている。点火プラグ10は、燃焼室5にて燃料を点火するように形成されている。
【0021】
吸気ポート7は、吸気枝管11を介してサージタンク12に連結されている。吸気枝管11には、吸気ポート7内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置されている。燃料噴射弁13は、この形態に限られず、燃焼室5に直接的に燃料を噴射するように配置されていても構わない。サージタンク12は、吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結されている。吸気ダクト14の内部には、アクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17が配置されている。また、吸気ダクト14の内部には、吸入空気量を検出するための吸入空気量検出器18が配置されている。
【0022】
燃料噴射弁13は、燃料供給管26により燃料タンク22に接続されている。燃料供給管26の途中には、電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ24が配置されている。本実施の形態においては、燃料タンク22にはガソリンが貯留されている。燃料タンク22内に貯蔵されている燃料は、燃料ポンプ24が駆動することにより、燃料供給管26を通じて燃料噴射弁13に供給される。
【0023】
一方で、排気ポート9は、排気マニホールド19を介して、例えば三元触媒を内蔵した触媒コンバータ20に連結されている。機関吸気通路、燃焼室、または機関排気通路に供給された排気ガスの空気および燃料(炭化水素)の比を排気ガスの空燃比(A/F)と称すると、触媒コンバータ20の上流側の機関排気通路内には、排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ21が配置されている。
【0024】
本実施の形態における内燃機関は、制御装置を備える。本実施の形態における制御装置は、電子制御ユニット30を含む。電子制御ユニット30は、デジタルコンピュータを含む。電子制御ユニット30は、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34を備える。電子制御ユニット30は、双方向性バス31に接続されている入力ポート35および出力ポート36を備える。
【0025】
吸入空気量検出器18の出力信号および空燃比センサ21の出力信号は、それぞれが対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40には、アクセルペダル40の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続されている。負荷センサ41の出力信号は、対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に、入力ポート35には、クランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。クランク角センサ42の出力により、機関本体1の回転数を検出することができる。
【0026】
一方で、出力ポート36は、対応する駆動回路38を介して点火プラグ10、燃料噴射弁13、燃料ポンプ24およびアクチュエータ16に接続されている。本実施の形態における電子制御ユニット30は、燃料噴射制御や点火制御を行うように形成されている。すなわち、燃料を噴射する時期および燃料の噴射量が電子制御ユニット30により制御される。更に点火プラグ10の点火時期が電子制御ユニット30により制御されている。
【0027】
図2に、本実施の形態における内燃機関の機関本体の概略分解図を示す。本実施の形態における内燃機関の機関本体1は、モノブロック2と、クランクケース4とが分離可能に形成されている。本実施の形態における機関本体1は、クランクケース4に対してモノブロック2が相対移動するように形成されている。モノブロック2とクランクケース4との間には、シール部材61が配置される。モノブロック2は、矢印131に示すように、クランクケース4の上側に配置される。
【0028】
図3に、本実施の形態における内燃機関の機関本体を燃焼室の部分で切断したときの概略断面図を示す。図2および図3を参照して、本実施の形態における上部構造物としてのモノブロック2は、1つの部材から形成されている。本実施の形態においては、モノブロック2の内部に空洞が形成されることにより、吸気ポート7、排気ポート9およびシリンダ部71が形成されている。すなわち、吸気ポート7、排気ポート9およびシリンダ部71は、1つの部材に一体的に形成されている。シリンダ部71は、ピストン3が上死点と下死点との間で往復運動するときに、ピストン3を内部に配置するように形成されている。
【0029】
本実施の形態におけるモノブロック2は、クランクケース4の内部に向かって突出する突出部2aを含む。突出部2aの内部には、シリンダ部71が延びている。突出部2aは、シリンダ部71の周りの油貯留部を構成する部分が板状に形成されており、薄肉になるように形成されている。
【0030】
本実施の形態における内燃機関は、機関冷却水を供給するための冷却水供給装置を備える。モノブロック2の内部には、機関冷却水が流れる水路としてのウォータジャケット81が形成されている。本実施の形態においては、シリンダ部71の上部領域を冷却するようにウォータジャケット81が形成されている。
【0031】
内燃機関の機関本体1は、吸気弁6を駆動するための吸気カム55を有する。吸気カム55は、吸気カムシャフト56により支持されている。吸気カムシャフト56が回転することにより吸気カム55が回転する。吸気カム55が吸気弁6を押圧することにより、吸気弁6が開閉する。内燃機関の機関本体1は、排気弁8を駆動するための排気カム57を有する。排気カム57は、排気カムシャフト58により支持されている。排気カムシャフト58が回転することにより、排気カム57が回転する。排気カム57が排気弁8を押圧することにより排気弁8が開閉する。
【0032】
モノブロック2の内部には、軸受64が配置されている。軸受64の内部には、シャフト65が配置されている。シャフト65がモノブロック2に対して回転するように形成されている。
【0033】
ピストン3は、コネクティングロッド51により支持されている。コネクティングロッド51は、クランクシャフト52に支持されている。クランクシャフト52は、クランクケース4に支持されている。本実施の形態におけるクランクケース4は、2つの部材から形成されている。クランクケース4は、この形態に限られず、1つの部材から一体的に形成されていても構わない。
【0034】
クランクケース4は、上面に開口部4aを有する。モノブロック2の突出部2aは、開口部4aの内部に配置されている。モノブロック2の突出部2aの外面と、クランクケース4の開口部4aの壁面とが互いに離れている。モノブロック2の突出部2aと、クランクケース4の開口部4aとの間には、潤滑油が貯留する油貯留部としての空間が形成されている。本実施の形態における油貯留部は、第1の油貯留部としての上部オイルジャケット73と、第2の油貯留部としての下部オイルジャケット74とを含む。下部オイルジャケット74は、上部オイルジャケット73の下側に配置されている。
【0035】
クランクケース4の上面とモノブロック2の下面との間には、隙間部72が形成されている。この隙間部72は、潤滑油が流れる油路として機能する。隙間部72は、上部オイルジャケット73に連通している。上部オイルジャケット73は、下部オイルジャケット74に連通している。また、下部オイルジャケット74は、クランクケース4の内部に連通するように形成されている。
【0036】
ピストンが上死点に達したときのピストンの冠面と、ピストンの上側に形成されている上部構造物の凹部とに囲まれる空間を燃焼室と称すると、本実施の形態における内燃機関は、燃焼室の容積が変化するように形成されている圧縮比可変手段を備える。本実施の形態における圧縮比可変手段は、圧縮比可変装置を含む。圧縮比可変装置は、下部構造物に対して上部構造物が上端位置と下端位置との間で相対移動するように形成されている。
【0037】
下部構造物は、偏心軸受62を含む。本実施の形態における偏心軸受62は、クランクケース4の側面に配置されている。偏心軸受62は、シャフト63を支持するように形成されている。偏心軸受62には、矢印133に示すようにシャフト63が挿入される。偏心軸受62は、シャフト63の中心軸から離れた回転軸で回転するように形成されている。偏心軸受62は、シャフト63を支持しながらシャフト63全体を回転できるように形成されている。本実施の形態における偏心軸受62は、矢印132に示すように、クランクケース4の側方から取り付けられる。
【0038】
図4に、本実施の形態の内燃機関の偏心軸受に支持されたシャフトを回転させる回転装置の概略斜視図を示す。本実施の形態における圧縮比可変装置は、シャフト63を回転させる回転装置を備える。回転装置は、モータ69を備える。モータ69は、ウォームギヤ67に接続されている。モータ69は、ウォームギヤ67を回転させる。ウォームギヤ67は、平歯車68に係合している。平歯車68は、回転軸68aを有する。回転装置は、ウォームギヤ67を回転させることにより、平歯車68が回転軸68aの周りに回転するように形成されている。
【0039】
本実施の形態における回転装置は、平歯車68と偏心軸受62に支持されているシャフト63とを接続するカップリング部材66を含む。カップリング部材66は、円板状に形成されている。カップリング部材66は、シャフト63と平歯車68との間に配置されている。回転装置のモータ69は、対応する駆動回路38を介して電子制御ユニット30の出力ポート36に接続されている(図1参照)。回転装置は、電子制御ユニット30により制御されている。
【0040】
図5に、偏心軸受に支持されているシャフト、カップリング部材および平歯車の位置関係を説明する概略平面図を示す。カップリング部材66は、平歯車68と同軸状に配置されている。偏心軸受62の回動軸は、平歯車68の回転軸68aと一致するように形成されている。これに対して、偏心軸受62に支持されているシャフト63は、中心軸が回転軸68aから離れて配置されている。
【0041】
図6に、本実施の形態の内燃機関において、支持部材が配置されている部分で機関本体を切断したときの第1の概略断面図を示す。図6は、クランクケース4に対してモノブロック2が最も近接した位置、すなわちモノブロック2が下端位置に配置されているときの概略断面図である。図2および図6を参照して、本実施の形態における機関本体1は、モノブロック2とクランクケース4とを互いに接続する支持部材60を含む。
【0042】
支持部材60は、長手方向を有する棒状に形成されている。本実施の形態においては、複数の支持部材60が、機関本体1の幅方向の両側に配置されている。支持部材60は、モノブロック2とクランクケース4との間に配置されている。支持部材60の長手方向の両側の端部には、貫通孔60aが形成されている。支持部材60の一方の貫通孔60aの内部には、モノブロック2を支持するシャフト65が挿通されている。支持部材60の他方の貫通孔60aには、クランクケース4に係合するシャフト63が挿通されている。支持部材60は、貫通孔60aの内部でシャフト65,63が回転するように形成されている。
【0043】
シール部材61は、機関本体1を取り囲むように外周部に配置されている。シール部材61は、モノブロック2とクランクケース4とが対向する部分に配置されている。シール部材61は、伸縮するように形成されている。シール部材61は、隙間部72の外側の端部を密閉する。シール部材61は、隙間部72を通る潤滑油が外部に流出しないように、モノブロック2とクランクケース4とに固定されている。
【0044】
図4から図6を参照して、モータ69が作動することにより、平歯車68が矢印134に示す向きに回転する。2つの平歯車68は、互いに逆方向に回転する。平歯車68が回転すると、回転軸68aを回転中心にしてシャフト63が回転する。シャフト63が回転することにより、シャフト63の中心軸がモノブロック2に向かって移動する。支持部材60に支持されているシャフト65は、クランクケース4から離れる向きに移動する。
【0045】
図7に、本実施の形態の内燃機関において、支持部材が配置されている部分で機関本体を切断したときの第2の概略断面図を示す。図7は、クランクケース4に対してモノブロック2が最も離れた位置、すなわちモノブロック2が上端位置に配置されているときの概略断面図である。シャフト63が偏心した回転軸で回転することにより、矢印135に示すように、モノブロック2はクランクケース4に対して離れる向きに移動する。モノブロック2とクランクケース4との間の隙間部72の高さが大きくなる。
【0046】
モノブロック2が上端位置に配置されている状態からシャフト63を矢印134に示す向きに回転させることにより、クランクケース4に対してモノブロック2を近づけることができる。このように、本実施の形態における内燃機関は、クランクケース4に対してモノブロック2が相対移動するように形成されている。
【0047】
図8に、本実施の形態におけるモノブロックとクランクケースとが相対移動したときのシリンダ部の部分の拡大概略断面図を示す。図8には、クランクケース4に対してモノブロック2が下端位置に配置されている時と、クランクケース4に対してモノブロック2が上端位置に配置されている時の概略断面図が示されている。また、ピストン3が圧縮上死点に到達したときの概略断面図を示している。
【0048】
通常の圧縮比は、燃焼室やピストンの上死点の位置に依存して定まり、吸気弁の動作等に依存しない。この圧縮比は、機械圧縮比とも言われる。内燃機関の圧縮比は、(圧縮比)=(燃焼室の容積+ピストンの行程容積)/(燃焼室の容積)で示される。
【0049】
クランクケース4に対してモノブロック2が下端位置に配置されているときには、モノブロック2の突出部2aがクランクケース4の内部に向かって移動した状態である。このために、燃焼室5の容積が小さくなる。すなわち、圧縮比を大きくすることができる。
【0050】
一方で、クランクケース4に対してモノブロック2が上端位置に配置されているときには、突出部2aがクランクケース4から離れる向きに移動した状態である。このために、燃焼室5の容積が大きくなる。すなわち、圧縮比を小さくすることができる。
【0051】
本実施の形態の内燃機関は、燃焼室5の容積を変化させることにより、圧縮比を変更可能に形成されている。シリンダ部71を有する上部構造物が、ピストン3を支持するクランクケース4に対して相対的に移動することにより、圧縮比を変更することができる。
【0052】
本実施の形態における内燃機関は、運転状態検出装置を備える。運転状態検出装置は、たとえば、スロットル弁の開度、アクセルペダルの踏み込み量、または機関回転数等の内燃機関の運転状態を検出するように形成されている。また、本実施の形態における内燃機関は、運転状態検出装置にて検出された運転状態に応じて圧縮比を定めることができる。本実施の形態における内燃機関は、定められた圧縮比に応じて、下部構造物と上部構造物との相対的な位置を変化させる制御を行うことができる。この構成により、それぞれの運転状態に応じて最適な圧縮比を選定することができて、異常燃焼の発生を抑制しながら熱効率を向上させることができる。
【0053】
本実施の形態における内燃機関は、ノッキング現象などの異常燃焼が発生しやすい運転状態においては、圧縮比を低くして異常燃焼の発生を抑制することができる。ここで、内燃機関の出力トルクを高出力領域、中出力領域および低出力領域に分割する。さらに機関回転数を高回転数領域、中回転数領域および低回転数領域に分割する。異常現象が発生しやすい運転状態としては、高負荷での運転状態を例示することができる。または、内燃機関の出力トルクが高出力領域および機関回転数が高回転領域である場合を例示することができる。この場合には、クランクケース4に対してモノブロック2を上昇させて、低圧縮比にする制御を行う。例えば、モノブロック2を上端位置に配置する制御を行うことができる。このような運転状態においては、例えば、従来の技術における圧縮比可変装置を備えていない内燃機関とほぼ同じ圧縮比に制御することができる。
【0054】
一方で、異常現象が発生しにくい運転状態においては、圧縮比を大きくする制御を行うことができる。熱効率が向上して燃料消費を抑制することができる。異常燃焼が発生しにくい運転状態としては、低負荷での運転状態を例示することができる。または、内燃機関の出力トルクが低出力領域または中出力領域であり、機関回転数が中回転数領域および低回転数領域である場合を例示することができる。この場合には、クランクケース4に対してモノブロック2を下降させて高圧縮比にする制御を行う。たとえば、モノブロック2を下端位置に配置する制御を行うことができる。
【0055】
ところで、内燃機関には、吸気弁を開閉する時期を調整できる可変バルブタイミング機構を備えるものがある。吸気弁を閉じる時期を遅らせることにより、圧縮行程においてシリンダ部が密閉された時の容積を小さくすることができる。吸気弁が開弁している間は圧縮作用が行なわれないために、実際の圧縮比を小さくすることができる。内燃機関の構造により定まる前述の圧縮比、すなわち機械圧縮比よりも実際の圧縮比を小さくすることができる。ここで、実際の圧縮比は、(実際の圧縮比)=(燃焼室の容積+吸気弁が閉じた位置から上死点までのピストンの行程容積)/(燃焼室の容積)で示すことができる。
【0056】
一方で、燃料が燃焼して膨張する時の膨張比は機械圧縮比と等しくなる。このように、機械圧縮比を高くして吸気弁を閉じる時期を遅らせる高膨張制御を行なうことにより、熱効率を向上させることができる。高膨張制御は、例えば内燃機関が低負荷の時に採用することができる。本実施の形態における内燃機関が可変バルブタイミング機構を備え、高膨張制御を行う場合には、機械圧縮比が高くなるように圧縮比可変装置を制御する。すなわち、クランクケース4に対してモノブロック2を下降させた状態にする制御を行ことができる。
【0057】
次に、本実施の形態における内燃機関の潤滑油供給装置について説明する。本実施の形態における内燃機関は、構成部品に潤滑油を供給する潤滑油供給装置を備える。
【0058】
図9に、本実施の形態における潤滑油供給装置の系統図を示す。図9には、潤滑油供給装置の一部分を示している。本実施の形態における潤滑油供給装置は、潤滑油を貯留するためのオイルパン101を備える。オイルパン101は、例えば、クランクケース4の下部に配置されている。オイルパン101には、オイルストレーナ102を介してオイルポンプ103が接続されている。オイルポンプ103は、オイルフィルタ105を介して、メインオイルホール82に接続されている。
【0059】
オイルポンプ103は、潤滑油を加圧する。オイルストレーナ102およびオイルフィルタ105は、潤滑油に含まれる異物を除去する。オイルポンプ103の出口には、オイルパン101に潤滑油を戻す戻り流路が接続されている。戻り流路には、リリーフ弁104が配置されている。リリーフ弁104は、オイルポンプ103の出口圧力が許容値を超えた時に、潤滑油をオイルパン101に戻すように制御されている。
【0060】
メインオイルホール82は、潤滑油を一時的に貯留する部分である。潤滑油は、メインオイルホール82から、それぞれの構成部品に供給されている。メインオイルホール82には、それぞれの構成部品に潤滑油を供給するための油路が接続されている。それぞれの構成部品に供給された潤滑油は、最終的にオイルパン101に戻る。
【0061】
図10に、本実施の形態の内燃機関の機関本体における油路を説明するための機関本体の第1の概略断面図を示す。本実施の形態の機関本体1においては、クランクケース4の内部にメインオイルホール82が形成されている。メインオイルホール82は、クランクケース4の内部で延びるように形成されている。
【0062】
本実施の形態における機関本体1は、下部オイルジャケット74の内部に潤滑油を噴出する噴射ノズルとしてのオイルジェット管83を備える。オイルジェット管83は、下部オイルジャケット74の上部に配置されている。オイルジェット管83は、モノブロック2の突出部2aの外面に向かって潤滑油を噴出するように形成されている。本実施の形態においては、突出部2aの周りに複数のオイルジェット管83が配置されている。オイルジェット管83は、メインオイルホール82に接続されている。
【0063】
本実施の形態においては、支持部材60を支持するシャフト63の内部には、空洞部63aが形成されている。空洞部63aは、油路として機能する。空洞部63aは、シャフト63の延びる方向に沿って延びるように形成されている。また、モノブロック2を支持するシャフト65の内部には、空洞部65aが形成されている。空洞部65aは、油路として機能する。空洞部65aは、シャフト65が延びる方向に沿って延びるように形成されている。
【0064】
本実施の形態の機関本体1のクランクケース4は、メインオイルホール82と、シャフト63の空洞部63aとを接続する油路84aを有する。また、シャフト65とシャフト63とを互いに支持する支持部材60は、シャフト63の空洞部63aと、シャフト65の空洞部65aとを連通する油路84bを有する。油路84bは、支持部材60の内部に形成されている。また、モノブロック2は、空洞部65aから、吸気カムシャフト56または排気カムシャフト58のカムジャーナル(軸受)に潤滑油を供給するための油路84cを有する。
【0065】
図9および図10を参照して、メインオイルホール82に貯留する潤滑油は、油路84aを通ってシャフト63の空洞部63aに供給される。空洞部63aに供給された潤滑油は、支持部材60の内部の油路84bを通って、矢印136に示すようにシャフト65の空洞部65aに供給される。本実施の形態においては、支持部材60の内部を通って、クランクケース4の内部からモノブロック2の内部に潤滑油が供給される。シャフト65の空洞部65aに供給された潤滑油は、油路84cを通ってカムジャーナル106に供給される。カムジャーナル106が潤滑される。または、潤滑油は、吸気弁6および排気弁8を駆動するための他の構成部材に供給される。
【0066】
図11に、本実施の形態の機関本体の油路を説明する機関本体の第2の概略断面図を示す。図9および図11を参照して、モノブロック2の内部には、吸気弁6および排気弁8を駆動する構成部品を潤滑した潤滑油が流入する油路85aが形成されている。油路85aは、油路85bを介して軸受64に接続されている。潤滑油は、軸受64に流入する。さらに、油路85aは、シャフト65と支持部材60との摺動部分に潤滑油を供給するように形成されている。また、モノブロック2の内部には、軸受64を潤滑した潤滑油を隙間部72に流出させるための油路85dが形成されている。
【0067】
油路85aは、油路85cに接続されている。油路85cは、モノブロック2の内部およびクランクケース4の内部に形成されている。油路85cは、シャフト63の偏心軸受62に接続されている。また、油路85cは、シャフト63と支持部材60との摺動部分に潤滑油を供給するように形成されている。クランクケース4の内部には、偏心軸受62を潤滑した潤滑油をクランクケース4の内部に流出させるための油路85eが形成されている。
【0068】
クランクケース4の内部には、下部オイルジャケット74とクランクケース4の内部の空間とを連通するオーバーフロー油路86が形成されている。オーバーフロー油路86は、下部オイルジャケット74の上部に接続されている。オーバーフロー油路86は、下部オイルジャケット74に潤滑油が貯留する時に、下部オイルジャケット74に貯留する潤滑油が上部オイルジャケット73に侵入しないように形成されている。本実施の形態においては、上部オイルジャケット73にオーバーフロー油路が接続されていないが、この形態に限られず、上部オイルジャケット73にオーバーフロー油路が接続されていても構わない。
【0069】
図9および図11を参照して、カムジャーナル106等の吸気弁6および排気弁8を駆動するための構成部品を潤滑した潤滑油は、矢印137に示すように、油路85aおよび油路85bを通って軸受64に供給される。軸受64を潤滑した潤滑油は、油路85dを通って隙間部72に流入する。隙間部72に流入した潤滑油は、上部オイルジャケット73に流入する。また、油路85aを流れる潤滑油は、シャフト65と支持部材60との摺動部分に供給される。シャフト65と支持部材60との摺動部分を潤滑した潤滑油は、オイルパン101に落下する。
【0070】
油路85aを流れる潤滑油の一部は、油路85cに流入する。油路85cに流入した潤滑油は、偏心軸受62に供給される。また、油路85cに流入した潤滑油は、シャフト63と支持部材60との摺動部分に供給される。偏心軸受62を潤滑した潤滑油は、油路85eに流入する。油路85eに流入した潤滑油は、矢印138に示すように、クランクケース4の内部に流入してオイルパン101に落下する。支持部材60とシャフト63との摺動部分を潤滑した潤滑油は、オイルパン101に落下する。このように、潤滑油は、圧縮比可変装置の構成部品を潤滑した後に、オイルパン101に戻る。
【0071】
上部オイルジャケット73に流入した潤滑油は、下部オイルジャケット74に流入する。下部オイルジャケット74に潤滑油が貯留する場合に、過剰な潤滑油は、矢印139に示すように、オーバーフロー油路86を通ってクランクケース4の内部に流入し、オイルパン101に戻る。
【0072】
図12に、本実施の形態における内燃機関の油貯留部の拡大概略断面図を示す。上部オイルジャケット73と下部オイルジャケット74との間には、上部オイルジャケット73から下部オイルジャケット74に向かう潤滑油の流量を制限する第1の流量制限部が形成されている。本実施の形態における第1の流量制限部は、モノブロック2の突出部2aに形成され、外側に向かって突出する堰部87aを有する。第1の流量制限部は、クランクケース4に形成され、開口部4aの壁面から内側に向かって突出する堰部88aを有する。堰部87aおよび堰部88aは、互いに近づくことにより、堰部87aと堰部88aとの間の隙間が狭くなり、堰部87aと堰部88aとの間を流れる潤滑油の流量が小さくなるように形成されている。
【0073】
下部オイルジャケット74の下部には、下部オイルジャケット74からクランクケース4の内部に流出する潤滑油の流量を制限する第2の流量制限部が形成されている。本実施の形態における第2の流量制限部は、モノブロック2の突出部2aに形成され、外側に向かって突出する堰部87bを有する。第2の流量制限部は、クランクケース4の開口部4aの壁面に形成され、内側に向かって突出する堰部88bを有する。堰部87bおよび堰部88bは、互いに近づくことにより、堰部87bと堰部88bとの間の隙間が狭くなり、堰部87bと堰部88bとの間を流れる潤滑油の流量が小さくなるように形成されている。
【0074】
図12は、モノブロック2が上端位置に配置されている時の概略断面図である(図8参照)。このときには、圧縮比が最小になっている。クランクケース4とモノブロック2との間の隙間部72は大きくなっている。第1の流量制限部においては、堰部87aと堰部88aとが接近している。堰部87aと堰部88aとの間の隙間が小さくなっている。第1の流量制限部を流れる潤滑油の流量が小さくなるように制限される。上部オイルジャケット73から下部オイルジャケット74に流入する潤滑油の流量が少なくなる。潤滑油91は、矢印140に示すように、隙間部72を通って上部オイルジャケット73に流入する。ところが、上部オイルジャケット73においては、流入する潤滑油の流量が流出する潤滑油の流量よりも多くなり、潤滑油91が貯留する。第1の流量制限部を通る潤滑油の流量が少なくなるために、上部オイルジャケット73に潤滑油91が貯留する。
【0075】
一方で、第2の流量制限部においては、堰部87bと堰部88bとが離れる。堰部87bと堰部88bとの間の隙間が大きくなる。第2の流量制限部を流れる潤滑油の流量が大きくなる。下部オイルジャケット74に流入した潤滑油は、下部オイルジャケット74に貯留せずに、矢印141に示すようにクランクケース4の内部の空間に流出する。クランクケース4の内部に流出した潤滑油91は、オイルパンに戻る。
【0076】
本実施の形態における内燃機関は、低圧縮比の時には上部オイルジャケット73に潤滑油が貯留する。特に圧縮比が最小の時には、上部オイルジャケット73に潤滑油91が貯留する。潤滑油91は、下部オイルジャケット74に貯留せずにクランクケース4の内部に向かって流れる。
【0077】
また、本実施の形態の内燃機関において、低圧縮比の時には、たとえば機関本体の出力トルクが大きく機関回転数が高い状態である。本実施の形態における潤滑油供給装置のオイルポンプ103は、クランクシャフト52の回転力を駆動源として駆動するように形成されている。オイルポンプ103から吐出される潤滑油の油圧は高くなり、オイルジェット管83に高圧の潤滑油が供給される。オイルジェット管83からは、矢印142に示すように、突出部2aの外面に向かって潤滑油が噴射される。すなわち、下部オイルジャケット74の内壁に向かって潤滑油が噴射される。オイルジェット管83から噴出された潤滑油は、下部オイルジャケット74を通って、矢印141に示すようにクランクケース4の内部に流入する。
【0078】
図13に、本実施の形態における内燃機関の油貯留部の他の拡大概略断面図を示す。図13は、モノブロック2が下端位置に配置された時の概略断面図である(図8参照)。この時には、圧縮比が最大になっている。クランクケース4とモノブロック2との間の隙間部72は小さくなっている。第1の流量制限部においては、堰部87aと堰部88aとが互いに離れて、堰部87aと堰部88aとの隙間が大きくなる。第1の流量制限部を流れる潤滑油の流量が大きくなる。隙間部72を通って上部オイルジャケット73に流入した潤滑油は、上部オイルジャケット73に貯留せずに、下部オイルジャケット74に流入する。
【0079】
第2の流量制限部においては、堰部87bと堰部88bとが接近する。堰部87bと堰部88bとの間の隙間が小さくなっている。第2の流量制限部を流れる潤滑油の流量が小さくなるように制限される。このために、矢印141に示すように下部オイルジャケット74からクランクケース4の内部の空間に流出する潤滑油の流量は小さくなる。下部オイルジャケット74においては、流入する潤滑油の流量が流出する潤滑油の流量よりも多くなり、潤滑油91が貯留する。本実施の形態においては、潤滑油91の油面が徐々に高くなる。下部オイルジャケット74に貯留する潤滑油91の油面がオーバーフロー油路86まで到達した時には、潤滑油91は、矢印139に示すようにオーバーフロー油路86を通ってクランクケース4の内部の空間に放出される。
【0080】
本実施の形態における内燃機関は、圧縮比が高い時には、下部オイルジャケット74に潤滑油91が貯留するように形成されている。また、上部オイルジャケット73には、潤滑油91が貯留しないように形成されている。本実施の形態の内燃機関においては、圧縮比が高い場合には、たとえば、機関本体の出力トルクが小さく機関回転数が低い状態であり、オイルポンプ103からは低圧の潤滑油91が吐出される。このために、オイルジェット管83からは、潤滑油が放出されないか又は少量の潤滑油が放出される。または、下部オイルジャケット74に潤滑油が貯留する場合には、オイルジェット管83に流入する潤滑油を遮断するように形成されていても構わない。
【0081】
図14に、本実施の形態の内燃機関において、シリンダ部71の周りを冷却するための水路および油貯留部を説明する概略断面図を示す。シリンダ部71の周りの領域を、上部領域、中間領域および下部領域に分割している。本実施の形態における上部領域は、ピストン3が上死点に到達した時にピストン3に対向する領域である。本実施の形態における下部領域は、ピストン3が下死点に到達した時にピストン3に対向する領域である。中間領域は、上部領域と下部領域との間の領域である。
【0082】
本実施の形態においては、上部領域には、機関冷却水が流れるウォータジャケット81が形成されている。上部領域には、ピストン3が上死点に到達した時のピストンリング3aの位置が含まれる。下部領域には、下部オイルジャケット74が形成されている。下部領域には、ピストン3が下死点に到達した時のピストンリング3aの位置が含まれる。中間領域には、上部オイルジャケット73が形成されている。
【0083】
シリンダ部71の周りの上部領域は、機関冷却水によって冷却される。上部領域は、シリンダ部71において燃料の燃焼が開始される領域である。上部領域を機関冷却水にて冷却することにより、燃焼が開始される部分の周りの領域を十分に冷却することができて、異常燃焼の発生を抑制できる。
【0084】
図12および図14を参照して、低圧縮比の時には、内燃機関は異常燃焼が発生しやすい運転状態にて運転を行なっている。たとえば、高負荷で運転を行なっている。燃料が燃焼した時にシリンダ部71の周りの領域は高温になるために、十分に冷却することが好ましい。本実施の形態において低圧縮比で運転を行なっている場合には、上部オイルジャケット73に潤滑油91が貯留される。シリンダ部71の周りの中間領域を十分に冷却することができる。
【0085】
さらに、下部オイルジャケット74においては、オイルジェット管83から潤滑油が噴出されることにより、突出部2aの外面を冷却することができる。シリンダ部71の周りの下部領域を十分に冷却することができる。このように、内燃機関を低圧縮比で運転している場合には、上部領域に加えて中間領域および下部領域を十分に冷却することができて、異常燃焼の発生を抑制することができる。
【0086】
本実施の形態における内燃機関は、シリンダ部71の周りの領域のうち下部領域において、ピストン3の冷却を効果的に行なうことができる。ピストン3の熱は、多くがピストンリング3aを介してモノブロック2に放出される。また、ピストン3の熱は、ピストン3のスカート部3bからモノブロック2に放出される。下部領域においては、ピストン3の移動速度が中間領域に比べて遅くなる。このために、ピストン3の冷却時間を長くすることができて効果的にピストンを冷却することができる。
【0087】
図13および図14を参照して、高圧縮比の時には内燃機関は異常燃焼が発生しにくい運転状態にて運転を行なっている。たとえば、低負荷で運転を行なっている。上部オイルジャケット73には潤滑油91が貯留せずに、下部オイルジャケット74に潤滑油が貯留する。下部オイルジャケット74に貯留する潤滑油91により、シリンダ部71の周りの下部領域を冷却することができる。モノブロック2の突出部2aを介してピストン3を冷却することができる。
【0088】
高圧縮比で運転を行なう場合には、シリンダ部の周りの温度およびピストンの温度が低圧縮比で運転を行なう場合に比べて低くなる。低圧縮比の時の運転と比較して異常燃焼が発生しにくいために、シリンダ部の周りの領域の冷却を抑制することができる。本実施の形態においては、高圧縮比の時には上部オイルジャケット73に潤滑油91が貯留しないように形成されている。このために、シリンダ部71の周りの中間領域の冷却を抑制することができる。シリンダ部71からの除熱量を減少させることができて、冷却損失を低減することができる。すなわち、内燃機関の熱効率を向上させることができる。このように、高圧縮比で運転を行なう場合には、燃料の燃焼が開始する上部領域、およびピストンの冷却を行なう下部領域は十分に冷却する一方で、中間領域の冷却を抑制することができる。異常燃焼の発生を抑制しながら冷却損失を抑制することができる。
【0089】
本実施の形態の潤滑油供給装置のオイルポンプは、クランクシャフトの回転力を駆動源として駆動されている。このため、内燃機関の圧縮比が高くなる運転状態では、例えば、内燃機関の回転数が低回転である。このために、オイルジェット管83から噴出される潤滑油の流量が少なくなる。この場合においても、第2の流量制限部において、下部オイルジャケット74から流出する潤滑油を制限することができる。下部オイルジャケット74に潤滑油91が貯留して、ピストン3を十分に冷却することができる。
【0090】
ピストンを冷却する他の装置では、クランクケースの内部にオイルジェット管を配置し、ピストンの裏面に向かって直接的に潤滑油を噴出することができる。ピストンの裏面に多量の潤滑油を供給してピストンを冷却することができる。しかしながら、この装置においては、シリンダ部の壁面にも多量の潤滑油が供給されるために、ピストンリングまたはオイルリングとシリンダ部の壁面との間をすり抜けて燃焼室に侵入する潤滑油が多くなってしまう。このために、潤滑油の消費量が多くなる。
【0091】
これに対して、本実施の形態の内燃機関においては、ピストン3の側方から突出部2aを介してピストン3を冷却することができる。低圧縮比の時にはオイルジェット管83から噴出されるオイルにより、または高圧縮比の時には下部オイルジャケット74に貯留する潤滑油により冷却を行なうことができる。このために、ピストン3の裏面に直接的にオイルを噴出しなくても十分にピストンの冷却を行なうことができる。シリンダ部の壁面に供給する潤滑油を少なくすることができて、燃焼室に侵入する潤滑油の量を少なくすることができる。この結果、潤滑油の消費量を少なくすることができる。
【0092】
シリンダ部71の壁面には、任意の装置により適量の潤滑油を供給することができる。本実施の形態の内燃機関においては、クランクシャフト52の内部およびコネクティングロッド51の内部に潤滑油の油路が形成されている。また、ピストン3の内部には油路が形成され、シリンダ部71の壁面に潤滑油を供給する。潤滑油は、クランクシャフト52の内部の油路およびコネクティングロッド51の内部の油路を通って、ピストン3の内部の油路に供給される。ピストン3の内部の油路からシリンダ部71の壁面に潤滑油が供給されている。本実施の形態の内燃機関では、適切な量の潤滑油をシリンダ部71の壁面に供給することができる。
【0093】
このように、本実施の形態の内燃機関では、圧縮比の領域を低圧縮比および高圧縮比に分割したときに、低圧縮比のときにはシリンダ部の周りの領域全体を冷却することができる。また、高圧縮比の時には中間領域の冷却を抑制して、冷却損失を小さくすることができる。
【0094】
本実施の形態におけるオイルジェット管に潤滑油を供給するオイルポンプは、クランクシャフトの回転力を駆動源にして駆動されているが、この形態に限られず、機関本体の運転状態に係わらずにオイルジェット管から潤滑油が噴出されるように形成されていても構わない。内燃機関の運転状態に係わらずに潤滑油がオイルジェット管から噴出されるように形成することにより、常にシリンダ部の周りの下部領域を十分に冷却することができる。この場合には、下部オイルジャケットの下端の第2の流量制限部が形成されていなくても構わない。すなわち、下部オイルジャケットに潤滑油が貯留せずに、クランクケースの内部に流出するように形成されていても構わない。または、第2の流量制限部は、高圧縮比運転時および低圧縮比運転時の両方の場合において下部オイルジャケットに潤滑油が貯留するように形成されていても構わない。
【0095】
本実施の形態の内燃機関は、上部構造物および下部構造物を備え、上部構造物は、シリンダ部、吸気通路および排気通路が、1つの部材から一体的に形成されている。上部構造物としては、この形態に限られず、複数の部材から形成されていても構わない。例えば、上部構造物は、シリンダ部を含むシリンダブロックと、吸気ポートおよび排気ポートを含むシリンダヘッドが個別に形成されていても構わない。上部構造物がシリンダブロックとシリンダヘッドとを含む場合には、シリンダブロックとシリンダヘッドとを互いに固定するボルト等の締結部材が必要になる。上部構造物が一体的に形成されていることにより、締結部材および上部構造物の締結部材を配置する領域が不要になる。上部構造物のシリンダ部の上部の周りの領域において構成部材の配置の自由度が向上する。たとえば、支持部材を支持するシャフトを適切な位置に配置することができて、適切な連桿比で上部構造物を支持することができる。
【0096】
また、上部構造物が、例えばシリンダブロックとシリンダヘッドとを含む場合には、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に気密を形成するためのガスケット等の密閉部材を配置する必要がある。上部構造物が一体的に形成されていることにより、密閉部材を排除することができて、上部構造物の内部の熱伝導性を向上させることができる。このために、シリンダ部の周りにおける冷却効率が向上する。
【0097】
本実施の形態の内燃機関における圧縮比可変手段は、支持部材を用いて上部構造物を下部構造物に対して支持し、支持部材に挿通されたシャフトを偏心軸にて回転させることにより、下部構造物に対して上部構造物を相対移動するように形成されているが、この形態に限られず、圧縮比可変手段は、下部構造物に対して上部構造物を移動させることにより圧縮比を変更可能に形成されていれば構わない。
【0098】
また、本実施の形態における潤滑油供給装置は、上部構造部および下部構造部の内部に油路が形成されているが、この形態に限られず、潤滑油供給装置は、内燃機関の構成部品の潤滑油を供給することができて、さらに上部オイルジャケットに潤滑油が供給されるように形成されていれば構わない。
【0099】
本実施の形態における機関本体は、上死点に到達したピストンに対向する領域に、機関冷却水の水路が形成され、下死点に到達したピストンに対向する領域に第2の油貯留部が形成され、その間の領域に第1の油貯留部が形成されているが、この形態に限られず、シリンダ部の周りの領域において第1の油貯留部と、第1の油貯留部に連通する第2の油貯留部が形成されていれば構わない。
【0100】
また、本実施の形態における第1の流量制限部および第2の流量制限部は、互いに近づいたり離れたりする堰部を含むが、この形態に限られず、第1の流量制限部は、下部構造物に対して上部構造物が上昇することにより、上部オイルジャケットから下部オイルジャケットに流れる流量が小さくなるように形成されていれば構わない。また、第2の流量制限部は、下部構造物に対して上部構造物が下降することにより、下部オイルジャケットから流出する潤滑油の流量が小さくなるように形成されていれば構わない。たとえば、第1の流量制限部は、上部オイルジャケットと下部オイルジャケットとを接続する油路を形成して、油路の途中に圧縮比に応じて流量が可変の流量調整弁が配置されていても構わない。
【0101】
流量制限部におけるそれぞれの堰部は、任意の形状を採用することができる。たとえば、互いに対向する堰部の表面に傾斜を形成し、圧縮比に応じて流量制限部を流れる潤滑油の流量が調整されていても構わない。すなわち、圧縮比に応じて、上部オイルジャケットに貯留する潤滑油の油面の高さ又は下部オイルジャケットに貯留する潤滑油の油面の高さが変化する様に形成されていても構わない。
【0102】
本実施の形態においては、内燃機関のうち火花点火式の内燃機関を例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、自着火式の内燃機関にも本発明を適用することができる。自着火式の内燃機関においても、シリンダ部が過剰に冷却されることを抑制することができて、冷却損失を抑制することができる。特に、高圧縮比の時の運転状態において冷却損失を抑制することができる。
【0103】
上述のそれぞれの図において、同一または相当する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に含まれる変更が意図されている。
【符号の説明】
【0104】
1 機関本体
2 モノブロック
2a 突出部
3 ピストン
4 クランクケース
4a 開口部
5 燃焼室
30 電子制御ユニット
51 コネクティングロッド
52 クランクシャフト
60 支持部材
62 偏心軸受
63 シャフト
64 軸受
65 シャフト
71 シリンダ部
72 隙間部
73 上部オイルジャケット
74 下部オイルジャケット
81 ウォータジャケット
83 オイルジェット管
87a,87b 堰部
88a,88b 堰部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースを含み、クランクシャフトを回転可能に支持する下部構造物と、
下部構造物の上側に配置され、ピストンが内部に配置されているシリンダ部、燃焼室に通じる吸気通路および排気通路を有する上部構造物と、
下部構造物に対して上部構造物が上端位置と下端位置との間で相対移動するように形成され、下部構造物に対して上部構造物が上昇することにより、燃焼室の容積が大きくなって圧縮比が小さくなる圧縮比可変手段とを備え、
シリンダ部の周りの領域において、下部構造物と上部構造物との間には、潤滑油が供給される第1の油貯留部と、第1の油貯留部の下側に配置され、第1の油貯留部に連通する第2の油貯留部とが形成されており、
第1の油貯留部と第2の油貯留部との間には潤滑油の流量を制限する第1の流量制限部が形成され、第2の油貯留部の下端部には第2の油貯留部から流出する潤滑油の流量を制限する第2の流量制限部が形成されており、
第1の流量制限部は、下部構造物に対して上部構造物が上昇することにより、第1の油貯留部から第2の油貯留部に流れる流量が小さくなるように形成されており、
第2の流量制限部は、下部構造物に対して上部構造物が下降することにより、第2の油貯留部から流出する流量が小さくなるように形成されており、
上部構造物が上端位置に配置されているときには、第1の油貯留部に潤滑油が貯留し、
上部構造物が下端位置に配置されているときには、第1の油貯留部に潤滑油が貯留せずに第2の油貯留部に潤滑油が貯留することを特徴とする、内燃機関。
【請求項2】
上部構造物は、機関冷却水が流れる水路を有し、
シリンダ部の周りの領域を上死点に到達したピストンに対向する上部領域、下死点に到達したピストンに対向する下部領域、および上部領域と下部領域との間の中間領域に分割したときに、上部領域に水路が形成され、中間領域に第1の油貯留部が形成され、および下部領域に第2の油貯留部が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
クランクシャフトの回転力を駆動源として潤滑油を加圧するオイルポンプを備え、
下部構造物は、オイルポンプに接続され、第2の油貯留部の内壁に向かって潤滑油を噴射する噴射ノズルを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の内燃機関。
【請求項4】
上部構造物は、シリンダ部の一部が内部に形成され、下部構造物の内部に向かって突出する突出部を含み、
下部構造物は、突出部を内部に配置する開口部を有し、
突出部の外面と開口部の壁面とに挟まれる空間により第1の油貯留部および第2の油貯留部が形成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項5】
上部構造物は、シリンダ部、吸気通路および排気通路が、一つの部材に一体的に形成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−163317(P2011−163317A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30330(P2010−30330)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】