説明

内燃機関

【課題】簡素な構造であっても燃焼室に混合機を隈無く充填し得る内燃機関を提供する。
【解決手段】本発明に係るエンジンは、自動車に搭載される直列二気筒エンジンであり、第1気筒1aの行程と第2気筒1bの行程とがちょうど360°CA(クランク角度)の位相差を持って同期するものである。また、第1の気筒1aの排気ポート21aと第2気筒1bの排気ポート21bとが接続されており、排気カム27の隆起部29によって排気バルブ23a、23bが吸気下死点(BDC)近傍で一時的に開弁するようにしている。そして排気ポート21a、21bがシリンダ軸であるピストン31の動作方向に沿って設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置を有する内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載される内燃機関では、排気ガスの一部を吸気系に還流する排気ガス再循環を行っているものがある。そのなかには、吸気系と排気系とを外部EGR通路を介して連通し、当該EGR通路を通じて排気ガスの一部を吸気系に還流する排気ガス再循環を行っている、いわゆる外部EGRと呼ばれるものの他、吸気行程の期間に排気バルブを開弁するように構成し、排気ポートから排気ガスを燃焼室に導入する内部EGRと呼ばれるものがある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら上述した特許文献1記載のものであると、排気ポートの下流側に排気制御弁を設けるなどにより構造が複雑なものとなってしまうという不具合がある。
【0003】
ところで、これまでの内燃機関では、燃焼室に導入される混合機を燃焼室内に均質に行き渡らせ、少ない燃料でも正常に燃焼し得るものとすべく、燃焼室内の縦方向の気流であるタンブル流や、燃焼室内の横方向の気流であるスワール流を強くする技術等が種々提案されてきた。
【0004】
そして現在でも、上述したような内部EGRを行なう内燃機関において、燃焼室に導入される混合気を隈無く充填することが、燃費の向上という観点からも要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平1−136666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述したような点に着目したものであり、簡素な構造であっても燃焼室に混合機を隈無く充填し得る内燃機関を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0008】
すなわち本発明に係る内燃機関は、多気筒の内燃機関であって、前記気筒に少なくとも1つ以上の吸気バルブと排気バルブとを設け、膨張行程にある一の気筒の排気ポートと吸気行程にある他の気筒の排気ポートとが接続されており、接続された排気ポートに連続する排気バルブが、排気行程とは別に吸気下死点近傍若しくは吸気行程中で他の気筒で排気を開始するタイミングで開弁し、前記排気ポートをシリンダ軸方向に沿って設けることを特徴する。
【0009】
このようなものであれば、吸気行程にある一の気筒の排気ポートに連続する排気バルブが開弁したときには排気工程にある他の気筒の排気ポートからの排気ガスが勢い良く導入されるとともに、排気ポートをシリンダ軸方向に沿って設けてあるので排気ポートから導入された排気ガスはシリンダの軸方向に沿って吸気とともに勢い良く流れ、その結果燃焼室内に強いタンブル流が形成される。この強いタンブル流により混合気が燃焼室内に隈無く且つ速やかに行き渡るようになる。その結果、燃焼速度が向上するとともに、少ない燃料であっても燃焼室内で確実に行き渡り、正常な燃焼を可能となるので、燃費の向上に資するものとなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡素な構造であっても燃焼室に混合気を隈無く充填し得る内燃機関を提供する内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一実施形態に係る内燃機関の模式的な構成図。
【図2】同実施形態に係る模式的な他の構成図。
【図3】同実施形態に係る要部の正面図。
【図4】図3に係る平面図。
【図5】図3に係る斜視図。
【図6】同実施形態に係るタイムチャート。
【図7】同他のタイムチャート。
【図8】同実施形態に係る作用説明図。
【図9】同実施形態に係る他の作用説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1に何れかの気筒1a、1bの構成を概略的に示したこの実施形態の内燃機関たるエンジンは、自動車に搭載される直列二気筒エンジンであり、第1気筒1aの行程と第2気筒1bの行程とがちょうど360°CA(クランク角度)の位相差を持って同期する。
【0014】
具体的には、吸気系3において図示しないサージタンクに供給された吸入空気は、吸気ポート5及び吸気バルブ7a、7bを介して燃焼室9内に吸入される。燃焼室9の天井にはインジェクタ11及び点火プラグ13が設けてある。また本実施形態ではインジェクタ11を、燃焼室9に対し横方向又は傾斜方向に燃料を噴射し得る、所謂横置き式としている。また吸気バルブ7a、7bは吸気カムシャフト15に設けられた吸気カム17にその上部がそれぞれ摺接しており、吸気カムシャフト15の回転により吸気カム17の回転に応じて所定のタイミングで開閉する。
【0015】
一方排気系19には、燃焼室9から排気ポート21a、21b及び排気バルブ23a、23bを介して排気ガスが排出される。そして排気バルブ23a、23bは排気カムシャフト25に設けられた一対のリフト手段である排気カム27にその上部がそれぞれ摺接しており、排気カムシャフト25の回転により排気カム27の回転に応じて所定のタイミングで開閉する。そして本実施形態の排気カム27は、排気カムシャフト25を軸方向へ移動させることにより、内部EGRを実行するための隆起部29を23a、23bの上部に摺接させて一時的に排気ガスを環流させ得る環流領域27aと、隆起部を吸気バルブの上部に摺接させずに環流させない非環流領域27bと有するものである。当該排気カム27の具体的な構成については後に詳述する。
【0016】
そして図2において当該エンジンの各気筒1a、1b及び吸気系3、排気系19を平面視で模式的に示している。同図に示す通り、このエンジンは吸気ポート5、排気ポート21をそれぞれ気筒1a、1bに対して1つずつ、点火プラグ13を境に対向するように設けたものとしている。すなわち第1気筒1aは排気バルブ23a及び吸気バルブ7aを有している。第2気筒1bも同じく、排気バルブ23b及び吸気バルブ7bを有している。また、第1の気筒1aの排気ポート21aと第2気筒1bの排気ポート21bとが接続されている。
【0017】
このような構成において、吸気バルブ7a、7bのバルブタイミングは、図示しない電子制御装置から出力される開閉タイミング信号により可変バルブタイミング機構が作動して変更されるものである。すなわち、可変バルブタイミング機構は、開閉タイミング信号を受けると、ハウジングに流出入する作動油の方向及び量をオイルコントロールバルブにより制御する。これにより、ロータに対するハウジングの相対角度が変化し、吸気カムシャフト15と排気カムシャフト27との間に所望の回転位相差を生じさせて、バルブタイミングを可変制御するものである。つまり、クランクシャフトの回転に対して、排気バルブ2a、23bを常に一定のタイミングで開閉させつつ、吸気バルブ7a、7bの開閉タイミングを変化させることにより、吸気バルブ7a、7bの開閉タイミングと排気バルブ2a、23bの開閉タイミングとの相対位相差を所定角度範囲内で自在に変化させることができる。
【0018】
可変バルブタイミング機構は、例えば作動油により作動する機械式のもので、電子制御装置により制御されて、吸気バルブ7a、7bの開閉タイミング(バルブタイミング)を制御できるものである。すなわち、電子制御装置が出力する信号により、作動油が制御されて作動するものである可変バルブタイミング機構は、吸気バルブ37を全開にする作動中心を、ピストン31が最上位置となる排気上死点に対して進角及び遅角する。可変バルブタイミング機構は、排気バルブ23a、23bと吸気バルブ7a、7bとの開弁期間が重なり合うバルブオーバーラップを、吸気バルブ7a、7bのバルブタイミングを制御することにより達成する。
【0019】
しかして本実施形態では、排気カム27の形状を以下のようにすることにより、排気バルブ23a、23bが、排気行程とは別に吸気下死点近傍若しくは吸気行程中で他の気筒1b、1aで排気を開始するタイミングで開弁するようにしている。以下、排気カム27の具体的な構成について説明する。
【0020】
排気カム27は上述したように、排気カムシャフト25を軸方向へ移動させることにより、内部EGRを実行するための隆起部29を排気バルブ7の上部に摺接させて一時的に排気ガスを環流させ得る環流領域27aと、隆起部29を排気バルブの上部に摺接させずに環流させない非環流領域27bと有するものである。
【0021】
図3乃至図5に示すように、隆起部29は、排気カム27のカム本体33から長手方向において約半分の領域すなわち環流領域27aにおいて、角度位相がカム本体33の頂部35よりも90°異ならせて設けてある、そしてこの隆起部29の隆起量は、カム本体33の頂部35の隆起量よりも小さい寸法に設定してある。つまり隆起部19によって開弁する排気バルブ23a、23bのバルブリフト量は、排気行程にある排気カム27のそれよりも小さい。
【0022】
続いて、図6及び図7が各気筒1a、1bにおける吸気バルブ7a、7b、排気バルブ23a、23bのバルブリフト曲線を示している。以下、各バルブ7a、7b、23a、23bの動作について具体的に説明する。なお同図では、エンジンが中負荷時におけるバルブリフト曲線を示している。この中負荷時には、吸気バルブ7a、7b、開弁タイミングと排気バルブ23a、23bの開弁タイミングとが一時的に重なるバルブオーバーラップを実現するとともに、排気カム27の隆起部29によって排気バルブ23a、23bが吸気下死点(BDC)近傍で一時的に開弁するようにしている。これにより速やかな吸気の充填とより高いEGR率又はEGR量の達成を両立させている。
【0023】
まず第1気筒1aにおいて、膨張行程中に排気バルブ23aが開く。他方、排気バルブ23aが開くと同じタイミングで第2気筒1bの排気バルブ23bに対し排気カム27が環流領域27aで摺接するようにして隆起部29に摺接させ、開弁するようにしている。このとき第2気筒1bは吸気行程中で吸気バルブ7bも開状態である。そして第2気筒1bの排気バルブ23bの開弁量が、吸気下死点(BDC)で最大となるようにしている。第1気筒1aの排気工程中に第2気筒1bの排気バルブ23bは閉じるが、第1気筒の排気バルブ23aはそのまま通常の排気バルブと同じ動作を続ける。一方第2気筒1bで開いた吸気バルブ7b及び排気バルブ23bは圧縮行程中にほぼ同時に閉じる。
【0024】
このようにすると、上記の第1気筒1aの排気バルブ23aからの排気ガスは、吸気行程中の第2気筒1bの排気バルブ23bを通じて直接吸入される。第1気筒1aの排気バルブ23aは膨張行程による高圧、第2気筒1bの排気バルブ23bはピストンが下降することによる吸入圧で、両排気ポート21a、21bで間大きな差圧が得られ、その結果、多量の排気ガスを導入することができる。
【0025】
そして第2気筒1bにおいても第1気筒1a同様、膨張行程中に排気バルブ23bが開く。他方、排気バルブ23aが開くと同じタイミングで第1気筒1aの排気バルブ23bも上部が隆起部29に当接することによって開くようにしている。そして第2気筒1bの排気工程中に第1気筒1aの排気バルブ23aは閉じるが、第2気筒の排気バルブ23bはそのまま通常の排気バルブと同じ動作を続ける。一方第1気筒1aで開いた排気バルブ23aは圧縮行程中に吸気バルブ7aとほぼ同時に閉じる。
【0026】
すなわち、上記の第2気筒1bの排気バルブ23bから導入された排気ガスは、吸気行程中の第1気筒1aの排気バルブ23aを通じて直接吸入される。第2気筒1bの排気バルブ23bは膨張行程による高圧、第1気筒1aの排気バルブ23aはピストンが下降することによる吸入圧で、大きな差圧が得られ、その結果上記同様両排気ポート21a、21bで間大きな差圧が得られ、やはり多量のEGRガスを外部配管無しに導入している。
【0027】
この図6及び図7では、バルブオーバーラップ及び隆起部29による排気バルブの開弁とを同時に実行する中負荷時の態様を図示したものであるが、本実施形態に係るエンジンでは、低負荷時及び高負荷時では同図に破線で示すように、吸気バルブのバルブタイミングを破線で示すタイミングとしてバルブオーバーラップを行なわないようにして異常燃焼を抑制している。また高負荷時では、排気カムが排気バルブ23a、23bに対し非環流領域27bで摺接するようにして、さらに隆起部29による排気バルブ23a、23bの開弁を行なわないようにしている。
【0028】
ここで、本実施形態に係るエンジンは、排気ポート21a、21bをシリンダ軸であるピストン31の動作方向に沿って設けることにより、低負荷時並びに中負荷時では、燃焼室9内で起こるタンブル流tb及びスワール流swをより強化せしめていることを特徴とするものである。
【0029】
図8では第1気筒1aが吸気下死点にある状態を平面から模式的に示し、図9では第2気筒1bが吸気下死点にある状態を平面から模式的に示している。
【0030】
先ず図8に示すように吸気下死点において排気バルブ23aが開くと、膨張下死点にある第1気筒の排気バルブ23bから排気ポート21a、21bを介して高温のEGRガスegが多量に導入される。この高温のEGRガスegは燃焼室9の外周部9aを伝って導入される。これにより、吸気バルブ7aから導入された吸気により起こるタンブル流tbが排気バルブ21a側の外周部9aでのEGRガスegの流れに促され、より強いものとなる。またこのとき、インジェクタ11から噴射された燃料fuはタンブル流tb及びEGRガスegの流れによって排気バルブ23a側の外周部9aに付着することが抑制される。また既に外周部9aに付着した燃料fuも高温のEGRガスegに触れることによって気化することで再び混合気と混ざることとなり燃焼に供される。そのため、付着した燃料がオイルと混ざってしまうことが有効に回避されるとともに、燃料fuの消費が抑えられる。
【0031】
続いて図9に平面視で示すように、第2気筒1bにおいて吸気ポート7bから導入された吸気は燃焼室9の外周部9aを伝って図示反時計回りのスワール流swを形成する。このとき、排気ポート21bから導入される排気ガスも同じく図示反時計回りに流れる補助スワール流sw2を形成する。これにより上記のスワール流sw1がより強いものとなる。
【0032】
以上のような構成とすることにより、本実施形態に係るエンジンは、吸気行程にある第1気筒1aの排気ポート21aに連続する排気バルブ23aが開弁したときには排気工程にある第2気筒1bの排気ポート21bからの排気ガスつまりEGRガスegが勢い良く導入されるとともに、排気ポート21aの形状をシリンダ軸方向つまりピストン31の動作方向に沿った形状に設けてあるので排気ポート21aから導入されたEGRガスegは下方向沿って吸気とともに勢い良く流れ、その結果燃焼室9内に強いタンブル流tbが形成される。この強いタンブル流tbにより混合気が燃焼室9内に隈無く且つ速やかに行き渡るようになる。その結果、燃焼速度が向上するとともに、少ない燃料であっても燃焼室9内で確実に行き渡り、正常な燃焼を可能となる。すなわち、燃費の向上に資するものとなる。
【0033】
特に本実施形態では、気筒1a、1b毎に1つずつ設けた吸気ポート7a、7b及び排気ポート21a、21bを、平面視で点火プラグ13を境に対向するように設けているので、排気ポート21a、21bから導入されるEGRガスeg(図8)による補助スワール流sw2(図9)が吸気ポート7a、7bから導入される吸気によるスワール流swをより強いものとしている。これにより、混合気はより速やかに燃焼室9内に充填されるとともに、より安定した燃焼を実現せしめている。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0035】
例えば、上記実施形態では筒内噴射式のエンジンとしたが、勿論ポート噴射型のエンジンに本発明を適用しても良い。また上記実施形態では直列二気筒エンジンに対して本発明を適用した態様を開示したが、勿論、二気筒のエンジンに限られるものではない。例えば直列4気筒エンジンであれば、点火順序を第1気筒、第3気筒、第2気筒そして第4気筒の順とするとともに、隣り合う第1気筒、第2気筒及び第3気筒、第4気筒の行程とがちょうど360°CA(クランク角度)の位相差を持って同期するものとすれば、上記実施形態の如く本発明を適用することができる。
【0036】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置を有する内燃機関として利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1a、1b…気筒
7a、7b…吸気バルブ
23a、23b…排気バルブ
21a、21b…排気ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒の内燃機関であって、
前記気筒に少なくとも1つ以上の吸気バルブと排気バルブとを設け、
膨張行程にある一の気筒の排気ポートと吸気行程にある他の気筒の排気ポートとが接続されており、
接続された排気ポートに連続する排気バルブが、排気行程とは別に吸気下死点近傍若しくは吸気行程中で他の気筒で排気を開始するタイミングで開弁し、
前記排気ポートをシリンダ軸方向に沿って設けることを特徴する内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−50032(P2013−50032A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186867(P2011−186867)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】