説明

円周溶接用内治具装置及びこれを用いた円周溶接方法

【課題】 密閉型のドラム缶等を外方から円周溶接する際に、余分な熱を吸収して溶接による溶接部の熱歪を抑制し、又、ビードの溶け落ちや穴あき等を防止する。
【解決手段】 一端が注入口aを有する蓋体Waにより閉塞された胴体Wbの他端に蓋体Wcを突き合せてその突合せ部を外方から円周溶接する際に用いる円周溶接用内治具装置であり、円周溶接用内治具装置は、胴体Wb内に着脱自在に装着される内張り治具11と、内張り治具11に支持され、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部の内周面に面接触状態で圧接して突合せ部の内周面側にシールドガスを流す環状の裏当て治具12と、先端が裏当て治具12に連結され、基端が注入口aから引き出された索条13とから成り、前記裏当て治具12を、溶接時に胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部を内方から保持する環状に保持される環状形態と、溶接終了後に略直線状になって蓋体Waの注入口aから取り出される棒状形態とに亘って変形可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に石油製品や化学薬品、医薬品、食品等の各種液体や各種粉体を保管、運搬するのに適した密閉型のドラム缶やタンクを溶接により作製する際に用いる円周溶接用内治具装置及びこれを用いた円周溶接方法に係り、特に、一端部が液体や粉体等の注入口を形成した蓋体により閉塞された円筒状の胴体の他端部と皿状の蓋体との突合せ部を外方から円周溶接して密閉型のドラム缶やタンクを作製する際に用いるものであり、溶接時に円筒状の胴体と皿状の蓋体の突合せ部を治具により内方から保持し、当該治具によりドラム缶やタンクの溶接部の余分な熱を吸収して溶接による熱歪の抑制、ビードの溶け落ちや穴あきの防止、溶接部の酸化防止等を夫々図れると共に、溶接終了後に蓋体に形成した注入口からドラム缶内やタンク内の治具を円滑且つスムースに取り出せるようにした円周溶接用内治具装置及びこれを用いた円周溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、石油製品や化学薬品、医薬品等の各種液体や粉体の保管、運搬には、ステンレス鋼板等から成る密閉型のドラム缶やタンクが使用されている。この密閉型のドラム缶やタンクは、一度内容物を入れて使用した後、内部を洗浄してから繰り返して使用するのが一般的である。
【0003】
例えば、密閉型のドラム缶は、ステンレス鋼板により形成した円筒状の胴体の下端部に皿状の蓋体(地板)及び筒状のスカート(リング)を内方から手溶接又は自動溶接機で突合せ溶接すると共に、前記胴体の上端部に注入口及び換気口を形成した円板状の蓋体(天板)の外周縁部を巻き締めすることにより作製されている。
尚、胴体と蓋体及びスカートを内方から突合せ溶接するのは、胴体と蓋体との突合せ部を確実に溶接すると共に、内容物が入り込んで残存し易い環状の隙間を無くすためである。
【0004】
しかし、密閉型のドラム缶を内方から溶接する際には、作業員がドラム缶内に入って溶接作業をしたり、或いはドラム缶内で自動溶接機の組み立てや操作等を行わなければならず、作業性や操作性等に劣ると云う問題があった。
又、内容物が残存し難い密閉型のドラム缶を作製する際には、胴体と蓋体(地板)とを突合せ溶接しなければならないため、胴体や蓋体(地板)の寸法精度や加工精度を高めなければならないうえ、精度の高いクランプ装置が必要であり、設備費が高く付くと云う問題があった。
【0005】
一方、円周溶接の技術分野に於いては、密閉型の円筒状のタンク等を外方から溶接して作業性や操作性等を高めるようにした周溶接装置が開発され、特開平8−224693号公報(特許文献1)として公開されている。
【0006】
即ち、前記周溶接装置は、図示していないが、エアタンクの胴部をその中心軸回りに回転自在に保持する開閉自在なクランプ台と、エアタンクの鏡板を吸着してエアタンクの胴部の端部開口部に押し付け、鏡板と胴部とをその中心軸回りに回転駆動する鏡板取付機構と、胴部の端部開口部を挾持して胴部の端部開口部の形状を保持する開閉自在な環状の形状保持部材と、胴部の端部開口部と鏡板との突合せ部を外方から周溶接する溶接トーチ等から構成されており、エアタンクの胴部をクランプ台に回転自在に保持させた後、胴部の端部開口部を形状保持部材で挾持して胴部の端部開口部の歪を直すと共に、胴部の端部開口部に鏡板取付機構により吸着したエアタンクの鏡板を押し付け、この状態で胴部と鏡板を鏡板取付機構により回転させながら、胴部と鏡板の突合せ部を溶接トーチにより外方から円周溶接するようにしたものである。
【0007】
然し乍ら、このような構成の周溶接装置を用いて密閉型のタンクやドラム缶の溶接を行うと、作業性や操作性等は良くなるものの、加熱中の膨張及び冷却中の収縮によって溶接終了後に収縮や変形を生じ、製品の仕上り精度を著しく低下させると云う問題があった。即ち、タンクやドラム缶を外方から円周溶接すると、溶接部に比較的大きな「くびれ」が生じることになる。その結果、製品の仕上り精度を著しく低下させ、商品価値を著しく損なうと云う問題があった。特に、前記周溶接装置に於いては、エアタンクの胴部をクランプ装置や形状保持部材により外側から保持するようにしているため、溶接時の熱収縮によって前記「くびれ」がより一層顕著に現れることになる。
【特許文献1】特開平8−224693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、一端部が蓋体により閉塞された円筒状の胴体の他端部と皿状の蓋体との突合せ部を外方から円周溶接する際に、円筒状の胴体と皿状の蓋体の突合せ部を環状の裏当て治具により内方から保持し、当該裏当て治具により溶接時にドラム缶やタンクの溶接部の余分な熱を吸収して溶接による熱歪を抑制すると共に、ビードの溶け落ちや穴あきの防止し、又、胴体と蓋体の突合せ部の内周面側にシールドガスを流して溶接部の酸化を防止し、然も、溶接終了後には蓋体に形成した注入口からドラム缶内やタンク内の裏当て治具を円滑且つスムースに取り出せるようにした円周溶接用内治具装置及びこれを用いた円周溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1の発明は、一端部が液体等の注入口を形成した蓋体により閉塞された円筒状の胴体の他端部と皿状の蓋体とを突き合せてその突合せ部を外方から円周方向に溶接する際に用いる円周溶接用内治具装置であって、前記円周溶接用内治具装置は、胴体の内周面に着脱自在に装着される内張り治具と、内張り治具に支持され、胴体と蓋体の突合せ部の内周面に面接触状態で圧接し得ると共に、胴体と蓋体の突合せ部の内周面側にシールドガスを流す複数の円弧形状の裏当て治具片を揺動自在に連結して成る環状の裏当て治具と、先端部が裏当て治具に連結され、基端部が蓋体の注入口から外部へ引き出される長い索条とから成り、前記裏当て治具は、胴体と蓋体との突合せ溶接時に胴体と蓋体の突合せ部の内周面に面接触状態で圧接して胴体と蓋体の突合せ部を内方から保持する環状に保持固定される環状形態と、胴体と蓋体の突合せ溶接終了後に長い索条を引っ張ることにより略棒状になって蓋体の注入口から取り出される棒状形態とに亘って変形可能に構成され、又、前記内張り治具は、裏当て治具を環状形態にした後に胴体内から取り出せる構成としたことに特徴がある。
【0010】
本発明の請求項2の発明は、裏当て治具が、胴体と蓋体の突合せ部の内方位置に円周方向へ環状に配置され、前記突合せ部の内周面に面接触状態で当接してシールドガスを流す複数の円弧形状の裏当て治具片と、環状に配置された各裏当て治具片の隣接する端部同士を少なくとも一個所を除いて揺動自在に連結する連結機構と、長い索条の先端部に連結され、裏当て治具片の連結されていない個所に抜き差し自在に挿入されて環状に配置された各裏当て治具片を環状形態に保持固定する楔体と、楔体を一つの裏当て治具片に遊動自在に連結する短い索条とから成り、前記楔体を裏当て治具片の連結されていない個所へ挿入したときに各裏当て治具片が胴体と蓋体の突合せ部の内周面に面接触状態で圧接して環状に保持固定される環状形態と、長い索条を引っ張って楔体を裏当て治具片間から引き抜いたときに環状形態が解除されて略棒状になり得る棒状形態とに亘って変形可能に構成されていることに特徴がある。
【0011】
本発明の請求項3の発明は、各裏当て治具片が、円弧形状の本体と、本体の円弧状外周面に本体の厚み方向に一定の隙間を空けて設けられ、胴体と蓋体の突合せ部の内周面側へシールドガスを流すガス溝を形成すると共に、前記突合せ部近傍の内周面に面接触する銅材により形成された二枚の円弧状のバックバーとから成り、前記二枚のバックバーを本体に交換可能に取り付けたことに特徴がある。
【0012】
本発明の請求項4の発明は、各裏当て治具片の本体に冷却水が流れる冷却水通路を形成すると共に、隣接する裏当て治具片の冷却水通路同士を連結ホースで連通状に接続したことに特徴がある。
【0013】
本発明の請求項5の発明は、連結機構が、両端部に裏当て治具片の長手方向へ沿う長孔を有し、当該両端部が隣接する裏当て治具片の両端部に対向する連結板と、連結板の各長孔に夫々遊嵌状態で挿入され、隣接する裏当て治具片の両端部に挿通支持される連結軸と、隣接する裏当て治具片の対向する端面に夫々形成した凹部内に遊嵌状態で挿入され、隣接する裏当て治具片が段違い状態になるのを阻止する連結ピン及びコイルスプリングとから成ることに特徴がある。
【0014】
本発明の請求項6の発明は、内張り治具が、軸部及びフランジ部を備えた金具本体と、金具本体のフランジ部に放射状で且つ回動自在に取り付けられ、先端部が胴体の内周面に圧接状態で係止される複数本の折り畳み自在な支持バーとから成り、複数本の支持バーが放射状に拡がってその先端部が胴体の内周面に圧接状態で係止されて胴体内に装着される開放位置と、複数本の支持バーが金具本体の軸部に沿う姿勢に折り畳まれて胴体内から取り出せる折り畳み位置とに亘って開閉自在に構成されていることに特徴がある。
【0015】
本発明の請求項7の発明は、内張り治具の各支持バーを長さ調整可能に構成すると共に、各支持バーの先端部にクッション材を設けたことに特徴がある。
【0016】
本発明の請求項8の発明は、内張り治具の各支持バーを磁性のある金属材により形成し、金具本体の軸部に各支持バーを磁力により折り畳み位置に吸着保持する永久磁石を埋設したことに特徴がある。
【0017】
本発明の請求項9の発明は、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7又は請求項8に記載の円周溶接用内治具装置を用いて、一端部が液体等の注入口を形成した蓋体により閉塞された円筒状の胴体の他端部と皿状の蓋体との突合せ部を外方から円周方向に溶接する円周溶接方法に於いて、先ず、縦向きに配置した胴体の上端部内周面に内張り治具を装着し、次に、内張り治具に裏当て治具を環状にして水平姿勢で載せると共に、当該裏当て治具をその厚み方向の略半分が胴体の上端から上方へ突出する状態で環状形態に保持させてその外周面の厚み方向の略半分を胴体の上端部内周面に圧接させ、その後、裏当て治具を支持していた内張り治具を胴体内から取り出し、そして、皿状の蓋体を胴体の上端から突出する環状形態の裏当て治具に被せて胴体と蓋体とを突き合せると共に、その突合せ部の内周面に環状の裏当て治具の外周面を面接触状態で圧接させて胴体と蓋体の突合せ部を環状形態の裏当て治具により内方から保持し、この状態で胴体と蓋体を裏当て治具と一緒に回転させながら、胴体と蓋体の突合せ部の内周面側に裏当て治具からシールドガスを流しつつ、胴体と蓋体の突合せ部を溶接装置により外方から円周方向に溶接し、溶接終了後に蓋体の注入口から引き出された長い索条を引っ張って裏当て治具を棒状形態にして蓋体の注入口から取り出すようにしたことに特徴がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明の円周溶接用内治具装置は、次のような優れた効果を奏することができる。
(1)即ち、本発明の円周溶接用内治具装置は、胴体の内周面に着脱自在に装着される内張り治具と、内張り治具に支持されて環状形態に保持固定される裏当て治具と、裏当て治具に連結される長い索条とを備えており、胴体と蓋体の突合せ部を外方から円周溶接する際に、裏当て治具を環状形態に保持させて胴体と蓋体の突合せ部の内周面に面接触状態で圧接させるようにしているため、円周溶接するときに環状の裏当て治具により溶接部が冷却され、溶接部の熱歪が大幅に抑制されると共に、ビードの溶け落ちや穴あきが防止されることになる。
又、本発明の円周溶接用内治具装置は、胴体と蓋体の溶接時に胴体と蓋体の突合せ部を環状形態に保持固定された裏当て治具により内方から保持するようにしているため、溶接部の熱歪による収縮をより確実に抑制することができると共に、胴体と蓋体は正確に突き合された状態で確実に保持され、円周溶接する際に位置ずれを起こすことなく接合されることになる。
その結果、本発明の円周溶接用内治具装置を用いて密閉型のドラム缶やタンクを作製すれば、外方から円周溶接しても、溶接部に「くびれ」や溶接欠陥が生じると云うことがなく、製品の仕上り精度や商品価値を高めることができる。
(2)本発明の円周溶接用内治具装置は、裏当て治具を構成する複数の円弧形状の裏当て治具片の本体に冷却水が流れる冷却水通路を夫々形成し、隣接する裏当て治具片の冷却水通路同士を連結ホースで接続しているため、溶接時に冷却水通路を備えた裏当て治具により溶接部が確実且つ良好に冷却され、溶接部の熱歪がより抑制されると共に、ビードの溶け落ちや穴あきが確実に防止されることになる。
(3)本発明の円周溶接用内治具装置は、環状の裏当て治具が胴体と蓋体の突合せ部の内周面側へシールドガスを流すガス溝を備えているため、溶接部の酸化を防止することができる。
(4)本発明の円周溶接用内治具装置は、裏当て治具を構成する複数の円弧形状の裏当て治具片が、円弧形状の本体と、本体の円弧状外周面に設けた銅材により形成された二枚の円弧状のバックバーとから成り、前記二枚のバックバーを本体に交換可能に取り付ける構成としているため、長期間の使用によりバックバーのエッジ部分に溶融や腐食が発生してエッジ部分の形状が変化して最適な突合せ溶接が困難になった場合、バックバーのみを新しいバックバーに交換するだけで良い。その結果、裏当て治具全体を交換したりする必要もなく、コストの低減を図れる。又、裏当て治具のバックバーのみを熱伝導率の高い銅材により形成しているため、材料費が高くつくと云うこともない。
(5)本発明の円周溶接用内治具装置は、裏当て治具が、環状に保持固定される環状形態と、略棒状になって蓋体に形成した液体等の注入口から取り出せる棒状形態とに亘って変形可能に構成されているため、溶接終了後に裏当て治具を棒状形態にすることによって、蓋体の注入口からドラム缶内やタンク内の外方へ円滑且つスムースに取り出すことができる。
(6)本発明の円周溶接用内治具装置は、複数の円弧形状の裏当て治具片を揺動自在に連結する連結機構が、両端部に裏当て治具片の長手方向へ沿う長孔を有し、当該両端部が隣接する裏当て治具片の両端部に対向する連結板と、連結板の長孔に夫々遊嵌状態で挿入され、隣接する裏当て治具片の両端部に挿通支持された連結軸と、隣接する裏当て治具片の対向する端面に夫々形成した凹部内に遊嵌状態で挿入され、隣接する裏当て治具片が段違い状態になるのを阻止する連結ピン及びコイルスプリングとから成るため、裏当て治具が棒状形態になったときに隣接する裏当て治具片が段違い状態になるのを阻止することができ、棒状形態になった裏当て治具を蓋体の注入口から円滑且つスムースに引き出すことができる。
(7)本発明の円周溶接用内治具装置は、裏当て治具を支持する内張り治具が金具本体と金具本体に放射状に取り付けられた開閉自在な複数本の支持バーとから成り、複数本の各支持バーを長さ調整可能に構成すると共に、各支持バーの先端部にクッション材を設けているため、各支持バーを放射状に拡げたときにその先端部が胴体の内周面に確実且つ良好に係止されると共に、胴体の内周面に傷が付くのを防止することができる。
(8)本発明の円周溶接用内治具装置は、内張り治具の各支持バーを磁性のある金属材により形成し、内張り治具の金具本体に各支持バーを磁力により折り畳み位置に吸着保持する永久磁石を埋設しているため、各支持バーを折り畳み位置で保持することができ、取扱性に優れたものとなる。
【0019】
本発明の円周溶接用内治具装置を用いた円周溶接方法は、先ず、縦向きに配置した胴体の上端部内周面に内張り治具を装着し、次に、内張り治具に裏当て治具を環状にして水平姿勢で載せると共に、当該裏当て治具をその厚み方向の略半分が胴体の上端から上方へ突出する状態で環状形態に保持させてその外周面の厚み方向の略半分を胴体の上端部内周面に圧接させ、その後、裏当て治具を支持していた内張り治具を胴体内から取り出し、そして、皿状の蓋体を胴体の上端から突出する環状形態の裏当て治具に被せて胴体と蓋体とを突き合せると共に、その突合せ部の内周面に環状の裏当て治具の外周面を面接触状態で圧接させて胴体と蓋体の突合せ部を環状形態の裏当て治具により内方から保持し、この状態で胴体と蓋体を裏当て治具と一緒に回転させながら、胴体と蓋体の突合せ部の内周面側に裏当て治具からシールドガスを流しつつ、胴体と蓋体の突合せ部を溶接装置により外方から円周方向に溶接するようにしているため、裏当て治具により溶接部の余分な熱が吸収させて溶接部が冷却され、溶接部の熱歪が大幅に抑制されると共に、ビードの溶け落ちや穴あきが防止されることになる。又、胴体と蓋体の突合せ部の内周面側にシールドガスを流しているため、溶接部の酸化を防止することができる。
更に、溶接終了後に蓋体の注入口から引き出された長い索条を引っ張って環状形態の裏当て治具を棒状形態にして蓋体の注入口から取り出せるようにしているため、裏当て治具により胴体と蓋体との突合せ部を内方から保持した状態で胴体と蓋体との突合せ部を外方から円周溶接することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は本発明の実施の形態に係る円周溶接用内治具装置を用いて溶接によりステンレス製の密閉型のドラム缶(又はタンク)を作製する円周溶接装置の概略正面図を示し、当該円周溶接装置は、一端部(上端部)が液体や粉体等の注入口aを形成した蓋体Wa(天板)で閉塞された円筒状の胴体Wbの他端部(下端部)と皿状の蓋体Wc(地板)とを突き合せると共に、その外側に筒状のスカートWdを被せ、前記突合せ部を外方から円周方向に溶接して密閉型のドラム缶を作製するものであり、基台1上に設けた左回転台2と、左回転台2に鉛直回転自在に支持された円盤状の左回転テーブル3と、左回転テーブル3の前面(図1に示す左回転テーブル3の右側面)に取り付けられ、皿状の蓋体Wc(地板)及び筒状のスカートWdを保持する地板側保持治具4と、基台1上に左回転台2と対向状に設けられ、左回転台2に対して進退移動自在な右回転台5と、左回転台2と右回転台5との間の基台1上に昇降自在且つ左回転台2に対して進退移動自在に設けた作業テーブル6と、作業テーブル6上に設けられ、一端部(上端部)が蓋体Wa(天板)で閉塞された円筒状の胴体Wbを水平姿勢で支持する開閉自在な材料受け7と、右回転台5に鉛直回転自在に支持された円盤状の右回転テーブル8と、右回転テーブル8の前面(図1に示す右回転テーブル8の左側面)に取り付けられ、材料受け7に支持された胴体Wbの天板側端部を保持する天板側保持治具9と、胴体Wbと蓋体Wc(地板)の突合せ部の上方位置に配設され、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部を外方から円周溶接する昇降自在な溶接用トーチ10を備えたTIG溶接装置(溶接用トーチ10のみ図示)等から構成されている。
【0021】
尚、ドラム缶の胴部を形成する筒状の胴体Wbとドラム缶の天板を形成する蓋体Waとは、予めまき締めにより結合されている。又、ドラム缶の天板を形成する蓋体Waには、ドラム缶内に液体や粉体等を出し入れするための注入口aと、換気の役目をする換気口bとが夫々形成されている。
【0022】
本発明の実施の形態に係る円周溶接用内治具装置は、一端部が蓋体Wa(天板)により閉塞された円筒状の胴体Wbと皿状の蓋体Wc(地板)とを突き合せると共に、その突合せ部の外側に筒状のスカートWdを被せ、前記突合せ部を外方から円周方向に溶接する際に用いるものであり、胴体Wbの内周面に着脱自在に装着される内張り治具11と、内張り治具11に支持され、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部の内周面に面接触状態で圧接し得ると共に、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部の内周面側にシールドガスを流す複数の円弧形状の裏当て治具片20を揺動自在に連結して成る環状の裏当て治具12と、先端部が裏当て治具12に連結され、基端部が蓋体Waの注入口aから外部へ引き出される長い索条13とから成り、前記裏当て治具12は、胴体Wbと蓋体Wcとの突合せ溶接時に胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部の内周面に面接触状態で圧接して胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部を内方から保持する環状に保持固定される環状形態(図5、図12及び図13参照)と、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ溶接終了後に略棒状になって蓋体Waの注入口aから取り出される棒状形態(図6参照)とに亘って変形可能に構成され、又、前記内張り治具11は、裏当て治具12を環状形態にした後に胴体Wb内から取り出せる構成となっている。
【0023】
即ち、前記内張り治具11は、図2、図3、図4及び図11に示す如く、軸部14a及びフランジ部14bを備えた金具本体14と、金具本体14のフランジ部14bに放射状で且つ回動自在に取り付けられ、先端部が胴体Wbの他端部内周面に圧接状態で係止される複数本の折り畳み自在な支持バー15とから成り、複数本の支持バー15が放射状に拡がってその先端部が胴部の他端部内周面に圧接状態で係止されて胴部内に装着される開放位置(図11参照)と、複数本の支持バー15が金具本体14の軸部14aに沿う姿勢に折り畳まれて胴体Wb内から取り出せる折り畳み位置(図4参照)とに亘って開閉自在に構成されている。
【0024】
具体的には、前記金具本体14は、アルミ合金等の金属材により一体的に形成されており、テーパ状に形成された軸部14aと、軸部14aの大径部側の外周縁部に連設されたフランジ部14bとを備えている。
又、金具本体14の軸部14aの先端部には、各支持バー15を磁力により折り畳み位置に吸着保持するための永久磁石16が埋設されている。
更に、金具本体14のフランジ部14bには、複数本の支持バー15をフランジ部14bに放射状で且つ回動自在に取り付けるための支持金具17が等角度毎に設けられている。各支持金具17は、一端部に二股部17aを有すると共に、他端部に雄ネジ部17bを備えており、雄ネジ部17bがフランジ部14bに挿通されてナット18により固定されている。
【0025】
前記各支持バー15は、基端部が金具本体14のフランジ部14bに設けた支持金具17の二股部17aにピン19により回動自在に連結され、磁性を有する鋼材等の金属材により棒状に形成された内側部材15aと、基端部に内側部材15aの先端部端面に形成した雌ネジ穴15a′に移動調整自在に螺挿される雄ネジ部15b′を有し、磁性を有する鋼材等の金属材により棒状に形成された外側部材15bと、外側部材15bの先端部に設けられ、胴体Wbの他端部内周面に圧接状態で係止されるウレタン製のクッション材15cとから成り、外側部材15bを雌ネジ穴15a′及び雄ネジ部15b′により内側部材15aに対して移動調整することによって、全体の長さを調整できるように構成されている。
【0026】
而して、前記内張り治具11は、複数本の支持バー15を放射状に拡げてその先端部に設けたクッション材15cを胴体Wbの内周面に圧接状態で係止させることにより胴体Wb内に装着される開放位置となり、又、複数本の支持バー15を金具本体14の軸部14aに沿う姿勢に折り畳むことにより胴体Wb内から取り出せる折り畳み位置となる。
【0027】
尚、内張り治具11の各支持バー15は、開放位置のときには胴体Wbの軸心に直交する垂直面に対して3°傾斜する傾斜姿勢でもってその先端部のクッション材15cが胴体Wbの内周面に圧接状態で係止されるようにその長さが調整されている(図11(B)参照)。このようにすると、内張り治具11は、各支持バー15が胴体Wbの内周面を突っ張った状態で胴体Wbの内周面に装着されるため、胴体Wbの内周面から簡単に外れると云うことがない。
又、内張り治具11は、折り畳み位置のときに蓋体Waに形成した注入口aを通過できる大きさに形成されている。
【0028】
一方、前記裏当て治具12は、一端部が閉塞された胴体Wbと皿状の蓋体Wcとを突き合せてその外方に筒状のスカートWdを被せ、この状態で胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部を外方から円周方向に溶接する際に、環状形態に保持固定されて前記胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部を内方から保持するものであり、又、胴体Wbと蓋体Wcの溶接終了後には、棒状形態になって蓋体Waに形成した注入口aから取り出せるようにしたものである。
【0029】
即ち、前記裏当て治具12は、図5乃至図10に示す如く、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部の内方位置に円周方向へ環状に配置され、前記突合せ部の内周面に面接触状態で当接してシールドガスを流す複数の円弧形状の裏当て治具片20と、環状に配置された各裏当て治具片20の隣接する端部同士を少なくとも一個所を除いて揺動自在に連結する連結機構21と、長い索条13の先端部に連結され、裏当て治具片20の連結されていない個所に抜き差し自在に挿入されて環状に配置された各裏当て治具片20を環状形態に保持固定する楔体22と、楔体22を一つの裏当て治具片20に遊動自在に連結する短い索条23とから成り、前記楔体22を裏当て治具片20の連結されていない個所へ挿入したときに各裏当て治具片20が胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部の内周面に面接触状態で圧接して環状に保持固定される環状形態(図5、図12及び図13参照)と、長い索条13を引っ張って楔体22を裏当て治具片20間から引き抜いたときに環状形態が解除されて略棒状になり得る棒状形態(図6参照)とに亘って変形可能に構成されている。
この裏当て治具12は、胴体Wbと蓋体Wcを突合せ溶接する際に、溶接部を冷却して溶接部の熱歪を抑制すると共に、ビードの溶け落ちや穴あきを防止し、又、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部の内周面側にシールドガスを流して溶接部の酸化を防止するものである。
【0030】
具体的には、前記各裏当て治具片20は、図8に示す如く、円弧形状に形成された厚肉板状のアルミ合金製の本体20Aと、本体20Aの円弧状外周面に本体20Aの厚み方向に一定の隙間の空けて設けられ、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部の内周面側へシールドガスを流すガス溝20aを形成すると共に、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部近傍の内周面に面接触する二枚の円弧状のバックバー20Bとから成る。
又、各裏当て治具片20の本体20Aには、冷却水が流れる冷却水通路20bが本体20Aの長手方向に沿って形成されている。この冷却水通路20bは、本体20Aの内周面に本体20Aの長手方向へ沿う溝を形成し、当該溝を蓋20Cで閉塞してこれをネジ20Dで本体20A側へ止めることにより形成されている。
更に、二枚のバックバー20Bは、熱伝導性に優れた銅材(無酸素銅)により細幅板状の円弧状に形成されており、本体20Aに円弧状外周面に複数本の皿ビス20Eにより着脱自在に取り付けられ、長期間の使用によりバックバー20Bのエッジ部分に溶融や腐食が発生した場合に交換できるようになっている。二枚のバックバー20Bのうち、一方のバックバー20B(胴体Wbの端部から突出する方のバックバー20B)の外側外周面は、胴体Wbの端部に突出状態で装着された裏当て治具12に蓋体Wcを被せるときに蓋体Wcを円滑且つ容易に被せられるように斜めに15°程度カットされた傾斜面に形成されている。
【0031】
尚、この実施の形態に於いては、円弧形状の裏当て治具片20は、八個使用されている。これら八個の裏当て治具片20の長さは、各裏当て治具片20を環状に配置して隣接する裏当て治具片20の端面同士を面接触状態で当接させたときに、一個所だけ楔体22が抜き差し自在に挿入される隙間が形成されるように設定されている。この隙間の幅は、10mm程度に設定されている。
又、八個の裏当て治具片20の円弧形状は、各裏当て治具片20を環状に配置して隣接する裏当て治具片20の端面同士を面接触状態で当接させて一個所だけ楔体22が挿入される隙間を形成したときに、環状に配置された各裏当て治具片20の外周面が真円状になるように設定されている。これにより、各裏当て治具片20は、胴体Wbの内周面に面接触状態で当接することになる。
更に、楔体22が挿入される隙間を形成する隣接する裏当て治具片20の対向する端面は、裏当て治具片20の内周面側から外周面側へ向って漸次狭くなる傾斜面に形成されている。この傾斜面の傾斜角度は、3°に設定されている。
【0032】
そして、八個の裏当て治具片20は、後述する連結機構21により四個ずつ揺動自在に連結されて直径方向で二つに分割された格好になっており、夫々両端に位置する裏当て治具片20の一方の対向する裏当て治具片20の端部同士は、短い索条24(短い金属製のチェーン又は短いワイヤーロープ)で揺動自在に連結され、他方の対向する裏当て治具片20の端部間には、楔体22が抜き差し自在に挿入される隙間が形成されるようになっている。
又、連結機構21により揺動自在に連結された隣接する四個の裏当て治具片20の冷却水通路20b同士は、可撓性を有する連結ホース25により連通状に接続されており、両端に位置する裏当て治具片20の一方の裏当て治具片20の冷却水通路20bの一端部が冷却水の入口20cになっていると共に、他方の裏当て治具片20の冷却水通路20bの一端部が冷却水の出口20dとなっている。
更に、連結機構21により揺動自在に連結された四個の裏当て治具片20の両端に位置する裏当て治具片20の一方の裏当て治具片20には、ガス溝20aへアルゴンガス等の不活性ガスを供給するためのガス入口20eが形成されている。
【0033】
前記連結機構21は、隣接する裏当て治具片20が段違いにならないように隣接する裏当て治具片20の端部同士を揺動自在に連結するものであり、図5、図6及び図10に示す如く、両端部に裏当て治具片20の長手方向へ沿う長孔21a′を有し、当該両端部が隣接する裏当て治具片20の両端部に対向する一対の連結板21aと、両連結板21aの長孔21a′に遊嵌状態で挿入され、隣接する裏当て治具片20の両端部に挿通支持される連結軸21bと、隣接する裏当て治具片20の対向する端面に夫々形成した凹部21f内に遊嵌状態で挿入され、隣接する裏当て治具片20が段違い状態になるのを阻止する連結ピン21c及びコイルスプリング21dとから成る。
尚、連結板21aの両端部が対向する裏当て治具片20の両端部側面には、連結機構21を構成する部材(連結板21aや連結軸21b等)が裏当て治具片20の両側面から外方へ大きく突出しないように連結板21aの両端部が収納される切欠部20gが形成されている。これにより、各裏当て治具片20は、隣接する裏当て治具片20が連結機構21により連結されていても、蓋体Waの注入口aに引っ掛かることなく、円滑且つスムースに引き出されることになる。
又、連結機構21を設けていない両端に位置する裏当て治具片20の端面及び両端部側面には、連結ピン21c及びコイルスプリング21dを挿入するための凹部20fや連結板21aが納まる切欠部20gを形成する必要がないため、凹部20f及び切欠部20gを省略している。
【0034】
前記楔体22は、図5乃至図7に示す如く、裏当て治具片20の連結されていない個所(裏当て治具片20間の隙間)に抜き差し自在に挿入されて環状に配置された各裏当て治具片20を環状形態に保持固定するものであり、楔体22が挿入される隙間を形成する二つの裏当て治具片20の一方の裏当て治具片20に短い索条23(短い金属製のチェーン又は短いワイヤーロープ)により遊動自在に連結されている。
この楔体22の先端部の形状は、楔体22の先端部を連結されていない裏当て治具片20間に円滑且つスムースに挿入できて各裏当て治具片20を環状形態に確実且つ良好に保持でき、且つ楔体22の先端部を裏当て治具片20間から簡単に円滑且つスムースに引き抜けるように形成されている。この実施の形態に於いては、楔体22の先端部は、その両面が3°の傾斜角度を有する傾斜面に夫々形成されたテーパ面となっている。
又、楔体22の先端部には、裏当て治具片20に形成したガス溝20aに連通する凹状の溝22aが形成されている。
【0035】
前記長い索条13は、先端部が裏当て治具12の楔体22に連結されていると共に、基端部が蓋体Waの注入口aから外部へ引き出されており、胴体Wbと蓋体Wcの溶接終了後に裏当て治具片20間に挿入されている楔体22を裏当て治具片20間から引き抜いて裏当て治具12の環状形態を解除すると共に、棒状形態になった裏当て治具12を蓋体Waの注入口aから外方へ取り出すものである。この実施の形態に於いては、索条13には、金属製のむチェーンが使用されている。
【0036】
尚、円周溶接用内治具装置の内張り治具11及び裏当て治具12には、直径の異なる数種類のドラム缶を作製することができるように数種類の大きさの内張り治具11及び裏当て治具12が用意されている。
又、裏当て治具12の各裏当て治具片20の長さ、幅及び厚み、楔体22の大きさ、連結機構21の大きさや構造等は、何れも蓋体Waに形成した注入口aを通過できる大きさや構造に設定されていることは勿論である。
【0037】
次に、上述した円周溶接用内治具装置を用いて図1に示す円周溶接装置により一端部が注入口a及び換気口bを形成した蓋体Wa(天板)により閉塞されたステンレス製の胴体Wbと同じくステンレス製の皿状の蓋体Wc(地板)を円周溶接して密閉型のドラム缶を作製する場合について説明する。
尚、胴体Wb及び蓋体Wcには、厚みが0.6mm〜1.5mm程度のステンレスや鋼板等が使用されている。又、溶接電流、アーク長さ、胴体Wb及び蓋体Wcの回転速度、シールドガスの供給量、タングステン電極棒の先端形状等の溶接条件は、胴体Wb及び蓋体Wcの材質、板厚等に応じて最適の条件下に設定されていることは勿論である。
【0038】
先ず、一端部が注入口a等を形成した蓋体Waで閉塞された胴体Wbの他端部(開放側端部)が上を向く姿勢で胴体Wbを縦向きに配置し、胴体Wbの上端部内周面に内張り治具11を装着する。
即ち、内張り治具11の各支持バー15を放射状に広げてその先端部に設けたクッション材15cを胴体Wbの内周面に圧接状態で係止させ、内張り治具11を開放位置にする。これにより、内張り治具11は、胴体Wbの上端部内周面に装着される(図11参照)。
このとき、内張り治具11の胴体Wbへの装着位置は、胴体Wbに装着された内張り治具11に裏当て治具12を載せたときに、裏当て治具12の厚み方向の略半分が胴体Wbの上端から上方へ突出するように設定されている。
又、胴体Wbに装着された内張り治具11は、複数本の支持バー15が胴体Wbの軸心に直交する垂直面に対して3°傾斜する傾斜姿勢となっているため、各支持バー15が胴体Wbの内周面を突っ張った状態で胴体Wbの内周面に装着されることになり、胴体Wbの内周面から簡単に外れると云うことがない。
【0039】
次に、胴体Wbの上端部内周面に装着した内張り治具11に裏当て治具12を環状にして水平姿勢で載せ、裏当て治具片20の連結されていない個所(裏当て治具20間の隙間)に楔体22を挿入して裏当て治具12を環状形態に保持固定する。これにより、裏当て治具12の外周面の厚み方向の略半分が胴体Wbの上端部内周面に面接触状態で圧接される(図12参照)。
このとき、各裏当て治具片20の外周面を斜めにカットしていないバックバー20Bが胴体Wbの上端部内周面に面接触状態で圧接される。
又、裏当て治具12の各裏当て治具片20は、真円の状態で環状に配置された格好になる。そのため、各裏当て治具片20のガス溝20aも環状になる。この環状のガス溝20aに胴体Wbの上端が臨むようになっている。
【0040】
裏当て治具12を環状形態に保持固定したら、裏当て治具12を支持していた内張り治具11の各支持バー15を折り畳み、内張り治具11を胴体Wb内から取り外すと共に、裏当て治具12の楔体22に連結されている長い索条13の基端部側を蓋体Waに形成した注入口aから外方へ引き出す。
【0041】
引き続き、地板となる皿状の蓋体Wcに筒状のスカートWdを被せて蓋体Wc及びスカートWdを円周溶接装置の地板側保持治具4に保持させると共に、裏当て治具12を装着した胴体Wbを材料受け7にセットして保持させた後、作業テーブル6を上昇させて材料受け7に保持された胴体Wbを地板側保持治具4に保持された蓋体Wcに対向させる。
このとき、裏当て治具12の冷却水の入口20cに冷却水供給ホース(図示省略)を接続すると共に、裏当て治具片20の冷却水の出口20dに冷却水排水ホース(図示省略)を接続し、各ホースの端部を蓋体Waの注入口aから外方へ引き出す。
又、裏当て治具12のガス入口20eにシールドガスを供給するシールドガス供給ホース(図示省略)を接続し、その端部を蓋体Waの注入口aから外方へ引き出す。
【0042】
その後、右回転台5を左回転台2側へ前進させて天板側保持治具9により材料受け7に保持された胴体Wbの天板側を保持し、この状態で更に右回転台5を前進させて右回転テーブル8及び天板側保持治具9により胴体Wbを地板側保持治具4に保持された蓋体Wc及びスカートWd側へ押圧し、皿状の蓋体Wcを胴体Wbの一端から突出する環状形態の裏当て治具12に被せて蓋体Wcの端面と胴体Wbの端面とを密着状態で突き合せる。これにより、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部は、環状形態に保持固定された裏当て治具12により内方から保持された状態となる。
このとき、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部近傍の内周面に裏当て治具12のバックバー20Bが面接触状態で当接した状態となっている。
尚、皿状の蓋体Wcを胴体Wbの一端から突出する環状形態の裏当て治具12に被せる際に、裏当て治具12の胴体Wbの端部から突出する方のバックバー20Bの外周面が斜めにカットされた傾斜面に形成されているため、裏当て治具12に蓋体Wcを円滑且つスムースに被せられる。
【0043】
胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部が裏当て治具12により内方から保持されたら、材料受け7が胴体Wbを開放して作業テーブル6が下降し、この状態で溶接装置と左回転テーブル3及び右回転テーブル8が作動して胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部が外方から円周方向に溶接される。
即ち、TIG溶接装置の溶接用トーチ10が下降してアークを発生させると共に、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部の内周面側に環状形態の裏当て治具12のガス溝20aによりシールドガスを供給しつつ、左回転テーブル3及び右回転テーブル8により胴体Wbと蓋体Wcが一定の速度で同期的に同じ方向へ回転する。これによって、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部が外方から円周溶接される(図13及び図14参照)。
このとき、環状形態の裏当て治具12が胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部の内周面に面接触状態で圧接させているため、円周溶接するときに裏当て治具12により溶接部が冷却され、溶接部の熱歪が大幅に抑制されると共に、ビードの溶け落ちや穴あきが防止されることになる。然も、胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部を内方から保持するようにしているため、溶接部の熱歪による収縮をより確実に抑制することができる。又、裏当て治具12のガス溝20aから胴体Wbと蓋体Wcの突合せ部の内周面側へシールドガスを流しているため、溶接部の酸化を防止することができる。更に、裏当て治具12の冷却水通路20bに冷却水を流しているため、溶接部が確実且つ良好に冷却され、前記効果がより一層顕著に現れる。
【0044】
そして、胴体Wbと蓋体Wcの円周溶接が終了すれば、左回転テーブル3及び右回転テーブル8の回転が停止されると共に、アーク、シールドガス及び冷却水がストップされてTIG溶接装置の溶接用トーチ10が元の位置へ復帰する。
【0045】
その後、作業テーブル6が上昇して材料受け7によりドラム缶が受け取られると共に、この状態で右回転台5が後退してドラム缶の天板側が天板側保持治具9から引き抜かれる。又、ドラム缶の地板側を手作業により地板側保持治具4から引き抜く。
【0046】
最後に、作業テーブル6を下降させて材料受け7を開放し、材料受け7からドラム缶を取り出して注入口a側が上を向く姿勢で床面へ縦向きに配置し、この状態で蓋体Waの注入口aから外方へ出ている長い索条13を引っ張って裏当て治具12を棒状形態にし、棒状形態の裏当て治具12を索条13により蓋体Waの注入口aから取り出す。
即ち、蓋体Waの注入口aからドラム缶の外方へ出ている長い索条13を引っ張ると、裏当て治具片20の連結されていない個所(裏当て治具片20間の隙間)に挿入されていた楔体22が裏当て治具片20間から引き抜かれ、裏当て治具12の環状形態が解除される。この状態で長い索条13を更に引っ張ると、楔体22に短い索条23を介して連結されている裏当て治具片20が引っ張られると共に、この裏当て治具片20に連結機構21を介して順次連結されている裏当て治具片20が引っ張られ、裏当て治具12が棒状形態になる。その結果、裏当て治具12を蓋体Waの注入口aから取り出すことができる(図6参照)。
【0047】
尚、上記の実施の形態に於いては、八個の裏当て治具片20を使用し、各裏当て治具片20を四個ずつ連結機構21により揺動自在に連結して裏当て治具12を直径方向に二分割する構成としたが、全ての裏当て治具片20を連結機構21により順次揺動自在に連結し、両端に位置する裏当て治具片20間に楔体22が抜き差し自在に挿入される空間を形成するようにしても良い。
【0048】
上記の実施の形態に於いては、八個の裏当て治具片20を使用するようにしたが、裏当て治具片20の数は上記の実施の形態に係るものに限定されるものではなく、八個以下又は八個以上の裏当て治具片20を使用するようにしても良い。この場合には、各裏当て治具片20の長さ等は裏当て治具片20の数に応じて変わることは勿論である。
【0049】
上記実施の形態に於いては、長い索条13に金属製のチェーンを使用するようにしたが、他の実施の形態に於いては、長い索条13にワイヤーロープを使用するようにしても良い。
【0050】
上記実施の形態に於いては、連結機構21を連結板21a、連結軸21b、連結ピン21c及びコイルスプリング21d等から構成したが、連結機構21は上記実施の形態に係るものに限定されるものではなく、隣接する裏当て治具片20の端部同士を揺動自在に連結し且つ隣接する裏当て治具片20が段違い状態になるのを阻止することができれば、如何なる構造のものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に係る円周溶接用内治具装置を用いて密閉型のドラム缶を作製する場合に使用する円周溶接装置の概略正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る円周溶接用内治具装置の内張り治具を示し、開いた状態の内張り治具の一部省略正面図である。
【図3】同じく開いた状態の内張り治具の一部省略縦断面図である。
【図4】折り畳んだ状態の内張り治具の縦断面図である。
【図5】円周溶接用内治具装置の裏当て治具を示し、環状形態に保持された裏当て治具の正面図である。
【図6】棒状形態になった裏当て治具の一部省略正面図である
【図7】環状形態に保持された裏当て治具の側面図である。
【図8】裏当て治具の裏当て治具片を示し、(A)は裏当て治具片の正面図、(B)は裏当て治具片の平面図、(C)は裏当て治具片の底面図、(D)は裏当て治具片の縦断面図である。
【図9】裏当て治具片を環状に配置した状態の正面図である。
【図10】裏当て治具の連結機構を示し、(A)は連結機構の正面図、(B)は連結機構の底面図、(C)は連結機構の縦断面図である。
【図11】胴体の端部内周面に内張り治具を装着した状態を示し、(A)はその平面図、(B)は縦断面図である。
【図12】内張り治具に裏当て治具を載せ、裏当て治具を環状形態に保持固定した状態を示し、(A)はその平面図、(B)はその縦断面図である。
【図13】円周溶接装置及び裏当て治具を用いて円筒状の胴体と皿状の蓋体及び筒状のスカートを円周溶接する状態の一部省略縦断面図である。
【図14】図13の要部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0052】
11は内張り治具、12は裏当て治具、13は長い索条、14は金具本体、14aは金具本体の軸部、14bは金具本体のフランジ部、15は支持バー、15cは支持バーのクッション材、16は永久磁石、20は裏当て治具片、20Aは裏当て治具片の本体、20Bは裏当て治具片のバックバー、20aは裏当て治具片のガス溝、20bは裏当て治具片の冷却水通路、21は連結機構、21aは連結板、21a′は連結板の長孔、21bは連結軸、21cは連結ピン、21dはコイルスプリング、22は楔体、23は短い索条、25は連結ホース、Waは天板側の蓋体、Wbは胴体、Wcは地板側の蓋体、aは注入口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部が液体等の注入口(a)を形成した蓋体(Wa)により閉塞された円筒状の胴体(Wb)の他端部と皿状の蓋体(Wc)とを突き合せてその突合せ部を外方から円周方向に溶接する際に用いる円周溶接用内治具装置であって、前記円周溶接用内治具装置は、胴体(Wb)の内周面に着脱自在に装着される内張り治具(11)と、内張り治具(11)に支持され、胴体(Wb)と蓋体(Wc)の突合せ部の内周面に面接触状態で圧接し得ると共に、胴体(Wb)と蓋体(Wc)の突合せ部の内周面側にシールドガスを流す複数の円弧形状の裏当て治具片(20)を揺動自在に連結して成る環状の裏当て治具(12)と、先端部が裏当て治具(12)に連結され、基端部が蓋体(Wa)の注入口(a)から外部へ引き出される長い索条(13)とから成り、前記裏当て治具(12)は、胴体(Wb)と蓋体(Wc)との突合せ溶接時に胴体(Wb)と蓋体(Wc)の突合せ部の内周面に面接触状態で圧接して胴体(Wb)と蓋体(Wc)の突合せ部を内方から保持する環状に保持固定される環状形態と、胴体(Wb)と蓋体(Wc)の突合せ溶接終了後に長い索条(13)を引っ張ることにより略棒状になって蓋体(Wa)の注入口(a)から取り出される棒状形態とに亘って変形可能に構成され、又、前記内張り治具(11)は、裏当て治具(12)を環状形態にした後に胴体(Wb)内から取り出せる構成としたことを特徴とする円周溶接用内治具装置。
【請求項2】
裏当て治具(12)は、胴体(Wb)と蓋体(Wc)の突合せ部の内方位置に円周方向へ環状に配置され、前記突合せ部の内周面に面接触状態で当接してシールドガスを流す複数の円弧形状の裏当て治具片(20)と、環状に配置された各裏当て治具片(20)の隣接する端部同士を少なくとも一個所を除いて揺動自在に連結する連結機構(21)と、長い索条(13)の先端部に連結され、裏当て治具片(20)の連結されていない個所に抜き差し自在に挿入されて環状に配置された各裏当て治具片(20)を環状形態に保持固定する楔体(22)と、楔体(22)を一つの裏当て治具片(20)に遊動自在に連結する短い索条(23)とから成り、前記楔体(22)を裏当て治具片(20)の連結されていない個所へ挿入したときに各裏当て治具片(20)が胴体(Wb)と蓋体(Wc)の突合せ部の内周面に面接触状態で圧接して環状に保持固定される環状形態と、長い索条(13)を引っ張って楔体を裏当て治具片(20)間から引き抜いたときに環状形態が解除されて略棒状になり得る棒状形態とに亘って変形可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の円周溶接用内治具装置。
【請求項3】
各裏当て治具片(20)は、円弧形状の本体(20A)と、本体(20A)の円弧状外周面に本体(20A)の厚み方向に一定の隙間を空けて設けられ、胴体(Wb)と蓋体(Wc)の突合せ部の内周面側へシールドガスを流すガス溝(20a)を形成すると共に、前記突合せ部近傍の内周面に面接触する銅材により形成された二枚の円弧状のバックバー(20B)とから成り、前記二枚のバックバー(20B)を本体(20A)に交換可能に取り付けたことを特徴とする請求項2に記載の円周溶接用内治具装置。
【請求項4】
各裏当て治具片(20)の本体(20A)に冷却水が流れる冷却水通路(20b)を形成すると共に、隣接する裏当て治具片(20)の冷却水通路(20b)同士を連結ホース(25)で連通状に接続したことを特徴とする請求項3に記載の円周溶接用内治具装置。
【請求項5】
連結機構(21)は、両端部に裏当て治具片(20)の長手方向へ沿う長孔(21a′)を有し、当該両端部が隣接する裏当て治具片(20)の両端部に対向する連結板(21a)と、連結板(21a)の各長孔(21a′)に夫々遊嵌状態で挿入され、隣接する裏当て治具片(20)の両端部に挿通支持される連結軸(21b)と、隣接する裏当て治具片(20)の対向する端面に夫々形成した凹部(20f)内に遊嵌状態で挿入され、隣接する裏当て治具片(20)が段違い状態になるのを阻止する連結ピン(21c)及びコイルスプリング(21d)とから成ることを特徴とする請求項2に記載の円周溶接用内治具装置。
【請求項6】
内張り治具(11)は、軸部(14a)及びフランジ部(14b)を備えた金具本体(14)と、金具本体(14)のフランジ部(14b)に放射状で且つ回動自在に取り付けられ、先端部が胴体(Wb)の内周面に圧接状態で係止される複数本の折り畳み自在な支持バー(15)とから成り、複数本の支持バー(15)が放射状に拡がってその先端部が胴体(Wb)の内周面に圧接状態で係止されて胴体(Wb)内に装着される開放位置と、複数本の支持バー(15)が金具本体(14)の軸部(14a)に沿う姿勢に折り畳まれて胴体(Wb)内から取り出せる折り畳み位置とに亘って開閉自在に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の円周溶接用内治具装置。
【請求項7】
内張り治具(11)の各支持バー(15)を長さ調整可能に構成すると共に、各支持バー(15)の先端部にクッション材(15c)を設けたことを特徴とする請求項6に記載の円周溶接用内治具装置。
【請求項8】
内張り治具(11)の各支持バー(15)を磁性のある金属材により形成し、金具本体(14)の軸部(14a)に各支持バー(15)を磁力により折り畳み位置に吸着保持する永久磁石(16)を埋設したことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の円周溶接用内治具装置。
【請求項9】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7又は請求項8に記載の円周溶接用内治具装置を用いて、一端部が液体等の注入口(a)を形成した蓋体(Wa)により閉塞された円筒状の胴体(Wb)の他端部と皿状の蓋体(Wc)との突合せ部を外方から円周方向に溶接する円周溶接方法に於いて、先ず、縦向きに配置した胴体(Wb)の上端部内周面に内張り治具(11)を装着し、次に、内張り治具(11)に裏当て治具(12)を環状にして水平姿勢で載せると共に、当該裏当て治具(12)をその厚み方向の略半分が胴体(Wb)の上端から上方へ突出する状態で環状形態に保持させてその外周面の厚み方向の略半分を胴体(Wb)の上端部内周面に圧接させ、その後、裏当て治具(12)を支持していた内張り治具(11)を胴体(Wb)内から取り出し、そして、皿状の蓋体(Wc)を胴体(Wb)の上端から突出する環状形態の裏当て治具(12)に被せて胴体(Wb)と蓋体(Wc)とを突き合せると共に、その突合せ部の内周面に環状の裏当て治具(12)の外周面を面接触状態で圧接させて胴体(Wb)と蓋体(Wc)の突合せ部を環状形態の裏当て治具(12)により内方から保持し、この状態で胴体(Wb)と蓋体(Wc)を裏当て治具(12)と一緒に回転させながら、胴体(Wb)と蓋体(Wc)の突合せ部の内周面側に裏当て治具(12)からシールドガスを流しつつ、胴体(Wb)と蓋体(Wc)の突合せ部を溶接装置により外方から円周方向に溶接し、溶接終了後に蓋体(Wa)の注入口(a)から引き出された長い索条(13)を引っ張って裏当て治具(12)を棒状形態にして蓋体(Wa)の注入口(a)から取り出すようにしたことを特徴とする円周溶接用内治具置を用いた円周溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−82929(P2009−82929A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252277(P2007−252277)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(391018019)JFEコンテイナー株式会社 (15)
【出願人】(501423861)JFE協和容器株式会社 (4)
【出願人】(591286823)
【Fターム(参考)】