説明

処理装置

【課題】処理容器内の高圧流体からシール部材を保護して、長期間、清浄な状態で使用することが可能な処理装置を提供する。
【解決手段】処理装置は搬入出領域2を介して処理容器1内に搬入された被処理基板Wに対して高圧流体を用いて処理を行い、蓋体3は処理容器1に当接して、搬入出領域2を気密に塞ぐ。規制機構26は蓋体3が処理容器1内の圧力により後退することを規制し、シール部材12は、蓋体3が搬入出領域2を塞いだときに、この搬入出領域2を囲んだ状態で蓋体3と処理容器1との間に介在する。保護シート13は、シール部材12を高圧流体との接触から保護するために、当該シール部材12を覆うように設けられ、前記高圧流体に対する耐食性を有する材料により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧流体を用いて処理容器内の被処理基板の処理を行うにあたり、被処理基板の搬入出領域を気密に塞ぐ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ(以下「ウエハ」と言う)などの被処理基板に対してデバイスを形成する一連の処理のうち、例えば超臨界流体や亜臨界流体などの高圧流体を用いることにより、パターン倒れの発生を防ぎつつ、液体が付着したウエハの乾燥処理を行う工程が知られている。この乾燥処理を行う処理装置は、例えばウエハを内部に収納して処理を行う処理容器と、この処理容器対してウエハが搬入出される搬送口(搬入出領域)を気密に塞ぐ蓋体とを備えた構成が採られる。
【0003】
これら蓋体と処理容器との間には、超臨界流体が外部に流出することを防止するために、前記搬送口の周囲を囲むように例えばフッ素ゴムなどからなるO-リング(シール部材)が設けられる。そして、ウエハに対して処理を行うときには、超臨界流体の圧力によって蓋体が後退しないように当該蓋体を処理容器側に押し付け、これによりO-リングを押し潰して処理容器内の気密を保ち、超臨界流体の外部流出を防止する手法などが採用される。
【0004】
ここで処理容器の搬送口を囲むように設けられたO-リングは、処理容器と蓋体との間の僅かな隙間を介して流出しようとする超臨界流体と接触する位置に配置されている。O-リングに超臨界流体が接触すると、その材質によっては、当該O-リングの内部に超臨界流体が浸透する場合がある。一方で、ウエハの処理を終えると超臨界流体は処理容器から排出され、処理容器内は減圧される。このときO-リング内に超臨界流体が浸透していると、減圧に伴ってO-リング内で超臨界流体が膨張し、O-リングにクラックを発生させ、強度低下の原因となるおそれがある。
【0005】
また超臨界流体は物質の抽出能力が高いため、O-リングと接触したときにフッ素ゴム内の低重合成分や不純物などが抽出されて処理容器内に運ばれ、ウエハに付着して汚染(コンタミネーション)の原因となってしまうおそれもある。
【0006】
ここで特許文献1には、エッチングや成膜などのプロセスで使用される減圧チャンバをシールするシール部材として、耐熱性を有するシリコーンゴムを用いる場合に、水素やヘリウムなどの軽い元素が当該シリコーンゴムの細孔を透過してしまうため、高真空環境を作り出す上での問題となる旨が記載されている。そこで特許文献1には、O-リング状のシリコーンゴムに、数ミクロンの厚さのポリイミド製の被膜を設けたり、断面がU字形状で、リング状のポリイミド製のカバー部材内に、O-リング状のシリコーンゴムをはめ込んだりした構成のシール部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−241155号公報:段落0006、段落0022〜0023、図3〜4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のシール部材によれば、シリコーンゴムを覆うポリイミド製の被膜やカバー部材により、軽い元素の透過を抑え、減圧チャンバの真空度の低下を抑えることができる。
一方で本発明が課題としている上述の処理装置では、被処理基板を処理するたびに蓋体の開閉動作が発生し、シール部材への加重、開放が繰り返される。このため、高圧流体が浸透しにくい被膜でカバー部材を覆ったとしても被膜に大きな力が加わり、シール部材の形状変化が繰り返されることにより、被膜の割れや剥がれが生じてしまうおそれがある。また断面がU字形状のカバー部材についても繰り返しの変形で割れなどが発生するおそれがあるほか、U字の開口部を介して高圧流体がシール部材を嵌め込んだ領域に進入する可能性もあり、特許文献1に記載の各シール部材は、高圧流体を用いる処理装置に適用するうえで難点がある。
【0009】
本発明はこのような背景の下になされたものであり、処理容器内の高圧流体から、蓋体と処理容器との間に介在するシール部材を保護して、長期間、清浄な状態で使用することが可能な処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る処理装置は、搬入出領域を介して処理容器内に搬入された被処理基板に対して高圧流体を用いて処理を行う処理装置において、
前記処理容器に当接して、前記搬入出領域を気密に塞ぐための蓋体と、
前記蓋体が前記処理容器内の圧力により当該処理容器側から後退することを規制するための規制機構と、
前記蓋体が前記搬入出領域を塞いだときに前記蓋体と前記処理容器との間に前記搬入出領域を囲んだ状態で介在するように設けられたシール部材と、
このシール部材を前記処理容器内の高圧流体との接触から保護するために、前記シール部材を覆うように設けられ、前記高圧流体に対する耐食性を有する材料により構成された保護シートと、を備えることを特徴とする。
【0011】
上述の処理装置は以下の特徴を備えていてもよい。
(a)前記保護シートの厚さは、1μm以上、1000μm以下の範囲内であること。
(b)前記処理容器内の高圧流体からの圧力を受けて前記保護シートに引張応力が発生することによる前記シール部材の位置ずれを低減するために、この保護シートは、当該処理装置に取り付けられた後、被処理基板に対する処理が開始される前に、100℃以上の温度、1MPa以上の圧力の雰囲気に晒す馴らし操作が行われていること。
(c)前記保護シートはポリイミド材料からなること、及び、このポリイミド材料は、熱可塑性であること。
(d)前記保護シートはフッ素樹脂材料からなること。
(e)前記保護シートは、フッ素樹脂材料からなり、前記馴らし操作が行われた第1の保護シートと、この第1の保護シートを、前記シール部材と接する面の反対側から覆い、ポリイミド材料からなると共に前記馴らし操作が行われていない第2の保護シートと、を含むこと。
(f)気密に塞がれた前記搬入出領域を開放する動作に伴って、前記シール部材が設けられている面から保護シートが剥がれること防止するために、前記処理容器から蓋体を離間させる際に、当該保護シートの前記シール部材と接する面とは反対側の面に加圧ガスを供給する加圧ガス供給部を備えること。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、耐食性を有する材料にて構成された保護シートを用いて、処理容器とその蓋体との間に介在するように設けられたシール部材を覆うので、シール部材が配置されている位置まで高圧流体が進入しにくくなり、高圧流体との接触からシール部材を保護する効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係わる処理装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】前記処理装置の縦断側面図である。
【図3】前記処理装置の分解斜視図である。
【図4】前記処理装置に設けられている蓋体及びウエハホルダーの構成を示す斜視図である。
【図5】前記蓋体の縦断側面図である。
【図6】前記蓋体に保護シートを取り付けた後の馴らし操作の説明図である。
【図7】前記処理装置の第1の動作説明図である。
【図8】前記処理装置の第2の動作説明図である。
【図9】前記蓋体に設けられている保護シートの作用説明図である。
【図10】前記処理装置の処理容器から蓋体を離間させる際の動作説明図である。
【図11】保護シートの取り付け位置の他の例を示す説明図である。
【図12】保護シートの他の構成例を示す説明図である。
【図13】保護シートの取り付け方法の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の処理装置の実施の形態の一例について図1〜図5を参照しながらその構成を説明する。この処理装置は、高圧流体である超臨界流体を用いてウエハWの乾燥処理を行うための処理容器1と、この処理容器1の側面側に形成されたウエハWの搬送口(搬入出領域)2を気密に塞ぐ概略角棒形状の蓋体3と、を備えている。蓋体3の、処理容器1に対向する側面には、ウエハWを下方側から支持して処理容器1に対して搬入出するための板状の部材であるウエハホルダー4が設けられている。なお、図3では蓋体3及びウエハホルダー4の描画を省略しており、処理容器1はその一部を切り欠いて表示してある。
【0015】
処理容器1は、概略箱型の耐圧容器であり、内部にはウエハWを水平に収納して処理を行うための空間である処理領域8が形成されている。以下、処理容器1に対するウエハWの搬入出方向(図1中のX方向)において、処理容器1側及び蓋体3側を夫々奥側及び手前側と呼ぶ。既述の搬送口2は、この処理領域8と連通するように、処理容器1の手前側の側面に、処理容器1の幅方向(前記搬入出方向と直交する方向)に伸びるように形成されている。
【0016】
例えば直径寸法が300mmのウエハWを被処理基板として処理する場合には、当該処理領域8内に供給された超臨界流体がウエハWに速やかに接触するように、処理領域8は高さ寸法が数mm〜十数mm程度、容積が300〜1500cm程度となっている。
【0017】
図2に示すように処理領域8の奥側の天井面には、例えばIPA(イソプロピルアルコール)の超臨界流体を処理領域8内に供給するための高圧流体供給路221が接続されている。この高圧流体供給路221は、バルブV1、流量調整部Mを介してIPAの貯留された高圧流体貯留部231と接続されている。一方、高圧流体供給路22の接続部に対向する処理領域8の床面には、高圧流体排出路222が接続されており、この高圧流体排出路222は、バルブV2を介してIPA回収部232に接続されている。
【0018】
処理容器1の手前側の側面における前記蓋体3が当接する領域の上部側及び下部側には、各々手前側に向かって水平方向に伸び出すように形成された突片部24、24が形成されている。これら突片部24、24の手前側には、概略矩形の開口部25、25が形成されており、処理容器1の搬送口2を蓋体3にて塞いだとき(以下、単に「処理容器1を蓋体3にて塞ぐ」と表記する)、これら開口部25、25内にロックプレート26を上下方向に貫挿させて蓋体3の移動を手前側から規制することができるようになっている。
【0019】
前記ロックプレート6は、蓋体3が処理容器2内の圧力によって手前側へ移動する(処理容器1側から見て蓋体3が後退する)ことを規制するための規制機構としての役割を果たす。ロックプレート26は、処理容器1の下方側に設けられた駆動部27により昇降自在に構成されている。また、前記開口部25、25は、ロックプレート26よりも一回り大きな開口寸法を備えており、開口部25に挿入されたロックプレート26との間には、例えば0.5mm程度の隙間領域28が形成される。なお、図3では、ロックプレート26の一部を切り欠いて表示してある。また、規制機構はロックプレート26により構成する場合に限られず、例えば蓋体3及び処理容器1を貫通する棒状の部材をロックピンなどで固定してもよく、規制機構の構成は適宜選択できる。さらに規制機構は、ロックプレート26などの他の部材を蓋体3に押し当てて係止することにより蓋体3の移動を規制する場合に限らない。例えば油圧シリンダーなどの駆動部より蓋体3を処理容器2に向けて押し当てる力を加え、これにより蓋体3の移動を規制する場合には、蓋体3の駆動部が規制機構としての機能を兼ね備えていることになる。
【0020】
処理容器1の上面側及び下面側には、後述の受け渡し位置におけるウエハWの乾燥を抑えるために、処理容器1を断熱する上プレート41及び下プレート42が夫々設けられている。各プレート41、42は、処理容器1と概略同じ平面形状に形成され、冷媒を通流させる冷媒路43が各々設けられている。なお図1では、冷媒路43の記載を省略し、図3では、上プレート41の冷媒路43のみを図示してある。さらに、図2、図7、図8等の縦断側面図では上プレート41、下プレート42の記載を省略してある。また、図3中、44は処理領域8を例えば100〜300℃、この例では270℃に加熱するためのヒーターであり、441はこれらのヒーター44に電力を供給する電力供給部である。ヒーター44は処理容器1の上下両面に設けられている。
【0021】
上プレート41の手前側における左右両側には、蓋体3で処理容器1を塞いだときに、当該蓋体3(詳しくはこの蓋体3に接続されている、後述のアーム部材50)を固定するためのロック部材45、45が各々設けられている。これらロック部材45、45は、ロックシリンダー46により、図3に示すアーム部材50の係止位置と、図1に示す開放位置との間を開閉(回転)自在に構成されている。
【0022】
下プレート42の上面の左右両側には、ウエハホルダー4を処理容器1に対して進退させるためのレール47、47が配置されており、各々のレール47、47には、アーム部材50を支持すると共に、レール47、47に沿って進退自在に構成されたスライダー48、48が設けられている。図3中、49はスライダー48を移動させるためのロッドレスシリンダーなどの駆動部である。また、上プレート41及び下プレート42における手前側の領域は、昇降動作時のロックプレート26と干渉しないように切り欠きが形成されている。
【0023】
図1に示すように角棒形状の蓋体3の左右両端部には、処理容器1側(奥側)に向けて水平方向に伸び出したアーム部材50が接続されている。各アーム部材50、50の手前側の部位は、既述のロック部材45、45により係止される被係止部をなしている。これらアーム部材50、50は、既述のスライダー48、48により下方側から支持されており、両スライダー48、48をレール47、47に沿って進退させることにより、蓋体3及びウエハホルダー4を移動させることができる。
【0024】
ウエハホルダー4は、処理容器1の内部にウエハWと一緒に収納されると共に、当該処理容器1の搬送口2が蓋体3により気密に閉じられる処理位置と、当該処理容器1の外部(手前側)において図示しない搬送アームによって当該ウエハホルダー4に対するウエハWの受け渡しが行われる受け渡し位置との間を進退する。
【0025】
また、図1に示すように、受け渡し位置におけるウエハホルダー4の上方側には、ウエハホルダー4に保持されたウエハWに対してIPAを供給するためのIPAノズル51が設けられている。また、当該受け渡し位置におけるウエハホルダー4の下方側には、ウエハホルダー4を冷却するために、例えば冷却用の清浄空気を上方に向かって吹き出す概略円板状のクーリングプレートを備えた冷却機構52が設けられている。この冷却機構52の外側には、ウエハWの表面から流れ落ちたIPAを受け止めて排出するためのドレイン受け皿53が設けられている。
【0026】
以上に説明した構成を備える処理装置において、蓋体3には、処理容器1の搬送口2に対向するの奥手側の側面に、処理容器1からの超臨界流体の流出を防止するためのシール部材12が設けられている。さらにこのシール部材12は、処理容器1内の超臨界流体と接触しないように保護シート13によって保護されている。図4、図5に示すようにシール部材12は例えばフッ素ゴムなどの弾性体からなるO-リングであり、蓋体3とウエハホルダー4との接続部を囲むように、断面が逆くさび形状に形成された溝部121内に収納されている。
【0027】
図5の断面図に示すようにシール部材12は、処理容器1に対向する面の一部が溝部121から突出しており、この突出部分押し当てることにより、当該シール部材12が潰れて処理容器1の側面に密着し、高圧流体の流出を防止する役割を果たす(図9参照)。
【0028】
このように搬送口2を囲むシール部材12は、搬送口2から流れ出てきた超臨界流体と接触し得る位置に配置されていることになる。そしてフッ素ゴムなどからなるシール部材12が超臨界流体と接触すると、背景技術にて説明したように、シール部材12への超臨界流体の浸透、減圧時の膨張の繰り返しによるクラックの発生、超臨界流体中に低重合成分や不純物が抽出されることによる汚染発生の原因となる。
【0029】
そこで本実施の形態に係わる処理装置は、シール部材12を超臨界流体との接触から保護するため、図4、図5に示すようにシール部材12が保護シート13によって覆われた状態となっている。保護シート13は、例えばポリイミド(例えばカプトン(登録商標)、ミドフィル(登録商標)など)やフッ素樹脂(例えばPTFE:ポリテトラフルオロエチレン、PFA:ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、PCTFE、ポリクロロトリフルオロエチレン三フッ化エチレン樹脂など)のように超臨界流体に対する耐性を有する材料により構成されている。
【0030】
この保護シート13は、処理容器1の搬送口2を塞いだときに処理容器1と蓋体3とが接触する当接部の全体を覆うように取り付けられており、超臨界流体との接触からシール部材12を保護する役割を果たしている。また、シール部材12は、当該保護シート13を介して処理容器1の側面に密着し、超臨界流体の流出を防止する作用が失われないようになっている。
【0031】
このように、処理容器1と当接する蓋体3の側面全体を保護シート13で覆うことにより、シール部材12の一部だけをカバー部材などで覆う場合(背景技術の特許文献1参照)に比べて、超臨界流体との接触からシール部材12を確実に保護できる。図4、図5中、14は、蓋体3に保護シート13を固定するためのネジであり、これらのネジ14は、例えば図9に示すように、蓋体3を処理容器1に当接させたときに、処理容器1内の気密を保つ際の邪魔にならない位置に配置されている。
【0032】
保護シート13の厚さは1〜1000μmの範囲が好ましく、この厚さが1μmよりも薄いと、十分な機械的強度を確保できず、蓋体3の開閉動作時に保護シート13の破れなどが発生するおそれがある。一方、保護シート13の厚さが1000μmを超えると、シール部材3の弾性力を処理容器1側へ十分に伝達することができなくなる結果、より強い力で蓋体3を押さえつけないと処理容器1内の気密が保てず、蓋体3の駆動機構(ロッドレスシリンダー49)などが大型化してしまう。
【0033】
このようにシール部材12を覆う保護シート13は、蓋体3を当接させたときに処理容器1に直に接し、当該処理容器1側に向かって強く押し付けられる部材である。このため、処理容器1を密閉している間に保護シート13と処理容器1の構成部材との間に、何らかの理由により密着力が生じる場合がある。処理容器1-保護シート13間に密着力が発生すると、密閉を解除して蓋体3を移動させる際に、シール部材12を覆う位置から保護シート13が引き剥がされて、浮いてしまったり、破れてしまったりして処理容器1の気密を十分に保てなくなってしまう場合がある。
【0034】
そこで本例の処理装置は、図2に示すように既述の高圧流体供給路221から分岐するように加圧ガス供給路223が設けられている。この加圧ガス供給路221は、バルブV3を介して加圧ガス供給部233に接続されている。加圧ガス供給部233は、蓋体3を処理容器1から離間させる際に、大気圧よりも高い圧力のガス(例えば窒素ガスなどの不活性ガスや清浄空気)を処理容器1内に供給することにより、密着している保護シート13と処理容器1との分離を補助する役割を果たす。
【0035】
以上に説明した構成を備えた処理装置は、制御部60と接続されている。制御部60は例えば図示しないCPUと記憶部とを備えたコンピュータからなり、記憶部には処理装置の作用、即ち洗浄を終えたウエハWを処理容器1に搬入して、超臨界流体を供給し、ウエハWに付着している液体を除去する処理を行ってからウエハWを搬出するまでの制御についてのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0036】
本例の処理装置の作用を説明する前に、蓋体3に保護シート13を取り付けてからウエハWの処理を行う前に行われる馴らし操作について説明しておく。図9に示すようにウエハWの処理中においては、処理容器1内(処理領域8)側から超臨界流体の圧力が保護シートに加わる。このとき保護シート13の材料として、例えばポリイミドのように柔軟性の低い材料を用いている場合には、保護シート13に加わった圧力がシール部材12を処理容器1の内側(搬送口2側)へ引き込もうとする引張応力に変換される。この結果、シール部材12の位置ずれが発生すると、処理容器1からの超臨界流体のリークが発生する原因となる。
【0037】
そこで本例の処理装置では、図4に示すように蓋体3に保護シート13を取り付けた後(図6のP1)、ウエハWの処理を開始する前に、蓋体3で処理容器1を塞いだ状態にて処理領域8内に超臨界流体を供給することなどにより、保護シート13に温度、圧力を加え、処理雰囲気に馴染ませる馴らし操作を行う(図6のP2)。保護シート13に加える温度、圧力は、保護シート13の材料や処理容器1の設計温度、設計圧力によって異なるが、例えば100℃以上の温度、1MPa以上の圧力で行うことが好ましい。
【0038】
高温、高圧の条件下で馴らし操作を行うことにより、保護シート13の伸びが生じ、蓋体3やシール部材12に密着することにより、ウエハWの処理時にシール部材12に加わる引張応力が軽減されるのではないかと考えられる。このように加熱や加圧により伸びを生じる材料としては、熱可塑性のある材料が好ましい。例えばフッ素樹脂は熱可塑性を有しているものが多いが、ポリイミドのなかには熱可塑性が無い(小さい)ものもあるので、ポリイミドを採用する場合には熱可塑性を有するものを採用するとよい。また、保護シート13が高分子材料からなる場合には、高分子材料の柔軟性を失わないようにするため、馴らし操作は当該高分子材料のガラス転移温度未満の温度条件にて行うことが好ましい。
【0039】
馴らし操作を行う時間(加熱、加圧を行う時間)は、処理中に超臨界流体のリークが発生しない十分な操作時間を事前の予備実験などにより把握しておけばよい。また、馴らし操作の要否は、ウエハWの処理条件によっても異なり、ウエハWの処理時にシール部材12に加わる引張応力がリークを発生させる程度に大きくない場合には、必ずしも馴らし操作を行わなくてもよい。
こうして馴らし操作を行い、蓋体3やシール部材12に対して保護シート13を十分に馴染ませたら、ウエハWの処理を開始する(図6のP3)。
【0040】
以下、処理装置の作用について説明する。先ず、処理対象のウエハWの表面には、半導体装置を構成する凹部と凸部とからなるパターンが形成されており、先行する洗浄処理にて、例えばアルカリ性薬液であるSC1液(アンモニア及び過酸化水素水の混合液)を用いたパーティクルや有機性の汚染物質の除去、酸性薬液である希フッ酸水溶液(Diluted HydroFluoric acid:DHF)を用いた自然酸化膜の除去、DIW(DeIonized Water)を用いたリンス洗浄などが行われる。そして最後にウエハWの表面に乾燥防止用のIPAが供給され、当該IPAが液盛りされた状態のウエハWが、外部の搬送アーム(不図示)により処理装置まで搬送されてくる。
【0041】
一方、処理装置はウエハホルダー4を受け渡し位置まで移動させた状態で待機しており、前記搬送アームはこのウエハホルダー4上にウエハWを載置する。次いで、前記搬送アームをウエハホルダー4の上方側から退避させた後、IPAノズル51からウエハWの表面にIPAを供給して、再度IPAの液盛りを行う。
【0042】
このとき、処理容器1のヒーター44には、電力供給部441から電力が供給され、不図示の温度コントローラにより処理領域8内の温度が例えば270℃となるように調整されている。そして、アーム部材50をレール47上でスライドさせ、ウエハホルダー4及び蓋体3を処理容器1側へ移動させることにより、処理容器1(処理領域8)内にウエハWが収容される。
【0043】
この結果、蓋体3はシール部材12及び保護シート13を介して処理容器1に当接し、処理容器1の搬送口2は蓋体3によって気密に塞がれた状態となる。続いて、ロック部材45を回転させてアーム部材50の手前側の部位を係止すると共に、図7に示すように、ロックプレート26を上昇させて、蓋体3の移動を手前側から規制する。
【0044】
こうして処理領域8にウエハWを搬入し、ロックプレート26にて蓋体3を規制したら、ウエハWに液盛りされたIPAが乾燥する前に、高圧流体供給路221のバルブV1を開き、例えば超臨界状態のIPA(臨界温度235℃、臨界圧力4.8MPa(絶対圧)以上の温度、圧力状態)を処理領域に供給する(図8)。
【0045】
ヒーター44で臨界温度以上の温度雰囲気(本例では270℃)に加熱されている処理領域8内に超臨界状態のIPAを供給すると、ウエハWに液盛りされたIPAは超臨界IPAと渾然一体となり、やがて液体IPAも超臨界状態となる。この結果、ウエハWの表面は液体のIPAから超臨界流体に置換されていくことになるが、平衡状態において液体IPAと超臨界流体との間には界面が形成されないので、パターン倒れを引き起こすことなくウエハW表面の流体を超臨界流体に置換することができる。
【0046】
このように処理領域8が超臨界流体で満たされると、図9に示すように搬送口2を介して処理領域8内に向け露出する蓋体3側にも超臨界流体の圧力が加わる。このとき超臨界流体は、蓋体3と処理容器1との隙間に進入するが、シール部材12は保護シート13によって覆われ、超臨界流体から保護されているので、背景技術にて説明した超臨界流体のシール部材12への浸透やシール部材12からの低重合成分、不純物などの抽出は発生しない。また保護シート13は、超臨界流体に対する耐食性を備えているので、当該流体と接触しても問題となる程度の上記浸透、抽出現象は発生しない。
【0047】
またこのとき、搬送口2の周辺の保護シート13に圧力が加わり、図9に示したシール部材12付した矢印のように、当該シール部材12を内側へ引き込もうとする引張応力が作用する。このような場合であっても、当該引張応力が軽減されるように事前の馴らし操作が行われているので、超臨界流体のリークが発生しない程度までシール部材12のずれ量を小さく抑えることができる。
【0048】
また、例えばO-リングからなるシール部材12をポリイミドの被膜で被覆する場合には、シール部材12を処理容器1に密着させたとき、当該被膜にはシール部材12が潰される変形に伴う応力が繰り返し加わる。この結果、被膜にはクラックなどが生じやすく、シール部材12の保護効果は高くない。これに比べて保護シート13を用いる場合には、処理容器1にシール部材12を密着させたときに生じる変形量は上述の被膜の場合に比べて小さい。このため、蓋体3の開閉を繰り返し行ってもより長期間シール部材12を使用することができる。
【0049】
またここで図9に示すように、ネジ14によって保護シート13を蓋体3に取り付けている場合には、保護シート13の下面と蓋体3との間から超臨界流体が進入してシール部材12に到達する懸念もある。しかしながら、処理を開始する前に馴らし操作を行い、保護シート13を蓋体3に十分に密着させておくことにより、保護シート13の下面側からの超臨界流体の進入を抑えることができることを確認している。また、後述する図13に示すように、ネジ14を用いる代わりに、保護シート13の端部を蓋部3の内部に埋め込むようにして固定し、前記下面側からの超臨界流体の進入を抑えてもよい。
【0050】
こうして処理領域8に超臨界流体を供給してから予め設定した時間が経過し、ウエハWの表面が超臨界流体にて置換された状態となったら、高圧流体供給路221のバルブV1を閉じる一方、高圧流体排出路222のバルブV2を開いて処理領域8から超臨界流体を排出する。この結果、処理容器1内の圧力は次第に低下し、超臨界流体は気体に変化しつつ排出されるが、処理容器1は、IPAの露点以上の270℃に加熱されているので、ウエハW表面への結露を避けつつIPAを排出できる。
【0051】
またこのとき、シール部材12には超臨界流体が浸透していないので、処理容器1内が減圧されてもシール部材12の内部で超臨界流体が膨張することに伴うクラックの発生もない。
【0052】
処理領域8内のIPAが排出されたら、蓋体3及びウエハホルダー4を受け渡し位置まで移動させてウエハWを処理容器1から搬出する動作を開始する。このとき既述のように蓋体3に取り付けられた保護シート13と処理容器1の側壁面との間に密着力が生じていると、既述のように蓋体3を移動させる際に保護シート13が蓋体3から浮いたり、破れたりする原因となる。
【0053】
そこで、本例の処理装置では、IPAの排出を行ったあと、高圧流体排出路222のバルブV2を閉じ、次いで加圧ガス供給路223のバルブV3を開いて加圧ガス供給部233から加圧ガスを供給し、処理容器内を加圧する。しかる後、ロックプレート26を下方側へ移動させて蓋体3の規制を解除し、ウエハWの受け渡し位置まで蓋体3及びウエハホルダー4を移動させる。
【0054】
このとき図10に示すように処理容器1内の加圧ガスが、保護シート13と処理容器1との間を通って外部へ流れ出ようとして、保護シート13を処理容器1から分離する力が作用する。この結果、保護シート13-処理容器1間に密着力が生じていても、加圧ガスの力を利用して両者を分離することにより、シール部材12や蓋体3が保護シート13により覆われた状態を維持しながら蓋体3を移動させることができる。一方、ウエハWが搬出されたら、加圧ガス供給部233からの加圧ガスの供給は停止する。
こうして受け渡し位置までウエハホルダー4を移動させたら、液体IPAが除去され、乾燥した状態のウエハWを外部の搬送アームに受け渡して一連の動作を終え、次のウエハWが搬入されてくるのを待つ。
【0055】
本実施の形態に係わる処理装置によれば以下の効果がある。耐食性を有する材料にて構成された保護シート13を用いて、処理容器1とその蓋体3との間に介在するように設けられたシール部材12を覆うので、シール部材12が配置されている位置まで超臨界流体が進入しにくくなる。この結果、シール部材12が超臨界流体から保護され、クラックの発生を防止し、また低重合成分や不純物の抽出に起因するウエハWの汚染を抑制できる。
【0056】
ここでシール部材12や保護シート13は蓋体3に設ける場合に限られない。例えば、図11に示すように処理容器1側の搬送口2の周囲にシール部材12及び保護シート13を設けてもよい。
【0057】
また、シール部材12を保護する保護シート13の枚数は1枚に限られるものではなく、2枚以上設けてもよい。図12は、シール部材12を覆うようにフッ素樹脂製の第1の保護シート13aを取り付け、この第1の保護シート13aのシール部材12に接している面とは反対側の面をさらにポリイミド製の第2の保護シート13bで覆って、保護シート13a、13bを2枚重ねにした例を示している。
【0058】
これらの保護シート13a、13bを取り付けるとき、第1の保護シート13aに対して馴らし操作行ってから第2の保護シート13bを取り付け、第2の保護シート13bに対しては馴らし操作を行わないようにしてもよい。馴らし操作を行わない場合には、熱可塑性ではなく、より高強度で破れ難いポリイミドを採用することができるのでシール部材12の保護効果が高まる。一方、超臨界流体がこれらの保護シート13a、13bを加圧してシール部材12を引き込もうとする引張応力は、より柔軟性の高い第1の保護シート13aにて吸収されるので、シール部材12の位置ずれ量は大きくならず、超臨界流体の流出を防ぐ効果は失われない。
【0059】
また、図4、図9などに示した例では、保護シート13をネジ14により蓋体3に固定しているため、蓋体3と処理容器1との当接部を避けてこれらのネジ14を配置している。この結果、当該当接部の全体が保護シート13で覆われた構造となっているが、必ずしも前記当接部の全体を保護シート13で覆う必要はない。例えば図13に示すように保護シート13の端部を蓋体3a、3bの部材内に埋め込むことにより処理容器1と干渉せずに保護シート13を固定できる場合などには、少なくとも処理容器1の搬送口2に露出している領域及びシール部材12の全体が保護シート13で覆うことにより、超臨界流体からシール部材12を保護することができる。
【0060】
また、高圧流体としては、超臨界状態のIPAに代えて、例えばHFE(Hydro Fluoro Ether)や二酸化炭素(CO)の超臨界流体を用いてもよいし、あるいはこれらの物質の亜臨界流体を用いてもよい。亜臨界状態とは、例えばIPAの場合には、温度及び圧力が夫々100〜300℃程度及び1〜3MPa程度の範囲の状態である。このように、本発明は、高圧流体(超臨界流体や亜臨界流体)を用いてウエハWに対して処理を行う場合に広く適用できる。
また、処理装置において行う処理としては、既述の乾燥処理以外にも、例えばウエハWの表面からのレジスト膜の除去(溶解)処理などであってもよい。
【符号の説明】
【0061】
W ウエハ
1 処理容器
12 シール部材
13 保護シート
2 搬送口
26 ロックプレート
3 蓋体
60 制御部
8 処理領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬入出領域を介して処理容器内に搬入された被処理基板に対して高圧流体を用いて処理を行う処理装置において、
前記処理容器に当接して、前記搬入出領域を気密に塞ぐための蓋体と、
前記蓋体が前記処理容器内の圧力により当該処理容器側から後退することを規制するための規制機構と、
前記蓋体が前記搬入出領域を塞いだときに前記蓋体と前記処理容器との間に前記搬入出領域を囲んだ状態で介在するように設けられたシール部材と、
このシール部材を前記処理容器内の高圧流体との接触から保護するために、前記シール部材を覆うように設けられ、前記高圧流体に対する耐食性を有する材料により構成された保護シートと、を備えることを特徴とする処理装置。
【請求項2】
前記保護シートの厚さは、1μm以上、1000μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記処理容器内の高圧流体からの圧力を受けて前記保護シートに引張応力が発生することによる前記シール部材の位置ずれを低減するために、この保護シートは、当該処理装置に取り付けられた後、被処理基板に対する処理が開始される前に、100℃以上の温度、1MPa以上の圧力の雰囲気に晒す馴らし操作が行われていることを特徴とする請求項1または2に記載の処理装置。
【請求項4】
前記保護シートはポリイミド材料からなることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一つに記載の処理装置。
【請求項5】
前記ポリイミド材料は、熱可塑性であることを特徴とする請求項4に記載の処理装置。
【請求項6】
前記保護シートはフッ素樹脂材料からなることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一つに記載の処理装置。
【請求項7】
前記保護シートは、フッ素樹脂材料からなり、前記馴らし操作が行われた第1の保護シートと、この第1の保護シートを、前記シール部材と接する面の反対側から覆い、ポリイミド材料からなると共に前記馴らし操作が行われていない第2の保護シートと、を含むことを特徴とする請求項3に記載の処理装置。
【請求項8】
気密に塞がれた前記搬入出領域を開放する動作に伴って、前記シール部材が設けられている面から保護シートが剥がれること防止するために、前記処理容器から蓋体を離間させる際に、当該保護シートの前記シール部材と接する面とは反対側の面に加圧ガスを供給する加圧ガス供給部を備えることを特徴とする請求項1ないし7の何れか一つに記載の処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−33815(P2013−33815A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168509(P2011−168509)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】