説明

刃先交換型切削チップおよびその製造方法

【課題】 本発明の目的は、被削材の外観や表面平滑性を害することなく、かつ目視しやすい注意喚起機能を有効に示すことができる刃先交換型切削チップを提供することにある。
【解決手段】 本発明は、多面体である本体を有する刃先交換型切削チップであって、該本体は、その表面に基層が形成されており、かつ該本体は、その少なくとも1つの面がすくい面となり、別の少なくとも1つの面が逃げ面となるとともに、該すくい面の上記基層上に上記基層の色と異なる色の使用状態表示層を少なくとも一部に形成したことを特徴とする刃先交換型切削チップに係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切削加工用の切削工具に使用される刃先交換型切削チップおよびその製造方法に関する。より詳細には、ドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップおよびクランクシャフトのピンミーリング加工用チップ等として特に有用な刃先交換型切削チップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
旋削加工用工具やフライス加工用工具は、単数または複数の刃先交換型切削チップを備えている。このような刃先交換型切削チップは、切削加工時において被削材の切り屑を持ち上げる側に存在するすくい面と、被削材自体に対面する側に存在する逃げ面とを有している(図1参照)。
【0003】
このような刃先交換型切削チップは、工具寿命に達すると刃先を交換しなければならない。この場合、切れ刃が1個のみのチップでは、そのチップ自体を交換しなければならない。しかし、複数個の切れ刃を持つ刃先交換型切削チップは同じ座面で何回も向きを変え、すなわち、未使用の切れ刃を切削位置に設置するようにして、別の切削位置で使用することができる。場合によっては、切れ刃を別の座面に付け直してここで未使用の切れ刃を利用することもできる。
【0004】
ところが切削作業現場では、切れ刃をまだ使用していないのに刃先交換型切削チップが取り替えられたり向きを変えられたりする場合がある。これは刃先交換または切れ刃の方向転換の際に使用済の切れ刃か未使用の切れ刃かが認識されずに実施されるのが原因である。したがって、前述の操作は切れ刃が未使用であるか使用済であるかを十分に確認した上で行なう必要がある。
【0005】
使用済の切れ刃を容易に識別する方法として、逃げ面とすくい面とにおいて色を変えた刃先交換型切削チップが提案されている(特許文献1)。具体的には、この刃先交換型切削チップは、本体上に減摩被膜と呼ばれる耐摩耗性の基層を形成し、逃げ面上に摩耗し易い材料からなる使用状態表示層を形成した構成を有している。
【0006】
しかしながら、このような構成を有する刃先交換型切削チップにおいては、切れ刃が使用済か否かの注意を喚起する作用は有するものの、逃げ面上に形成された使用状態表示層が被削材と溶着しやすく、このため被削材表面に使用状態表示層が溶着し、切削後の被削材の外観および表面平滑性を害するという問題があった。
【0007】
さらに、この刃先交換型切削チップのように逃げ面に使用状態表示層が設けられている場合、該チップが収納ケースに収められている状態や、工作機械周辺の作業台に置かれている状態において、どの切れ刃が使用済であるかを容易に識別しにくいという問題があった。なぜなら、通常逃げ面はすくい面より面積が小さいため、すくい面を上にして収納ケースに収められ、また作業台でもすくい面を上にして置かれることが多く、このため該逃げ面は目視しにくい位置にくるためである。
【特許文献1】特開2002−144108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、被削材の外観や表面平滑性を害することなく、かつ目視しやすい注意喚起機能を有効に示すことができる刃先交換型切削チップおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、切削加工時における刃先交換型切削チップと被削材との接触状態を鋭意研究したところ、図1に示したように刃先交換型切削チップ1の切れ刃9が被削材18に接し、その上面6(すくい面)が切り屑19側に位置するのに対し、側面5(逃げ面)が被削材18と対面することになることから、使用状態表示層をすくい面側に形成すると切削後の被削材表面に溶着することを防止できるのではないかという知見を得、この知見に基づきさらに研究を重ねることによりついに本発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、多面体である本体を有する刃先交換型切削チップであって、該本体は、その表面に基層が形成されており、かつ該本体は、その少なくとも1つの面がすくい面となり、別の少なくとも1つの面が逃げ面となるとともに、該すくい面の上記基層上に上記基層の色と異なる色の使用状態表示層を少なくとも一部に形成したことを特徴とする刃先交換型切削チップに係る。
【0011】
また、上記使用状態表示層は、上記すくい面の切削に関与する部位の少なくとも一部に形成されたものとすることができ、また上記基層に比し、摩耗し易い層であることが好ましい。
【0012】
また、上記刃先交換型切削チップは、複数個の利用可能な切れ刃を有することができ、上記本体は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、窒化硅素焼結体、または酸化アルミニウムと炭化チタンとからなる混合体のいずれかにより構成されることが好ましい。
【0013】
また、上記基層は、その最外層がAl23層またはAl23を含む層で構成されることが好ましく、上記使用状態表示層は、その最外層が元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物によって形成される層で構成されることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、多面体である本体を有する刃先交換型切削チップの製造方法であって、該本体上に基層を形成するステップと、該基層上に該基層と異なる色の使用状態表示層を形成するステップと、該本体の逃げ面の少なくとも一部を含む所定の区域に対して、そこに形成されている上記使用状態表示層を除去するステップと、を含むことを特徴とする刃先交換型切削チップの製造方法に係る。
【0015】
このような本発明に係る刃先交換型切削チップは、上述のように単数個または複数個の逃げ面と、単数個または複数個のすくい面とを有し、逃げ面に形成された層の色と異なる色の使用状態表示層をすくい面に備えている。また、この使用状態表示層は、この層の下に存在する基層(ただしこの基層は、通常逃げ面にも形成されるものである)の色と異なるものである。
【0016】
この場合、使用状態表示層は逃げ面または上記基層となるべく大きな色コントラストを持つ層であるのが望ましい。すくい面に形成されたこの使用状態表示層は、刃先交換型切削チップをなるべく短い時間たとえば数秒〜数分間切削作業した後に明瞭な加工痕を示し、少なくとも部分的に摩滅して、色の異なる下地が見えるようになる性質を有するのが望ましい。可能な実施形態では使用状態表示層は耐摩耗性に乏しく、基層と比べて摩滅し易く、また下地への付着力が弱くなっているものが好ましい。
【0017】
この使用状態表示層は、刃先交換型切削チップが使用されると直ちに変色するようになっているものでもよい。さらに、この使用状態表示層は、切屑が付着したり、切削油等が付着することにより、変色(あたかも変色したかのような外観を与える場合を含む)するものであっても良い。
【0018】
さらにまたはその代わりに、当該隣接する切れ刃がすでに使用されたことを表示するために、使用状態表示層は色変化するものであってもよい。たとえば、使用状態表示層は、200℃を超える温度で切れ刃の近傍だけが変色する感熱性のものであってもよい。そして、変色は酸化その他の変化に基づくもので、不可逆的であることが望ましい。隣接する切れ刃が短時間だけ使用された時でも、この切れ刃に隣接するすくい面区域が少なくとも短時間所定の温度を超えると、使用状態表示層が変色し、それが持続的にはっきり認識される。熱の作用による変色は、使用中に被削材と直接接触する部位のみではなく高温となった切り屑と接触するすくい面の広い区域でも変色するので使用済の切れ刃が容易に識別できるという利点がある。
【0019】
上記の使用状態表示層に加工痕または変色が生じているか否かによって、刃先交換型切削チップがすでに使用されたか、どの切れ刃が未使用であるかを簡単かつ容易に識別することができる。すなわち、上記使用状態表示層は注意喚起機能を持つものである。これにより、刃先交換型切削チップを適宜に交換しまたはその向きを適宜に変えることができる。特にすでに使用済の刃先交換型切削チップを交換しなければいけないのにそれに気が付かなかったり、未使用の刃先交換型切削チップを使用せずに新しいものに交換してしまったり、刃先交換型切削チップの向きを変えるときにすでに使用済の切れ刃を切削位置に設定してしまったり、または未使用の切れ刃を使用せずに未使用のままにしてしまったりすることが回避される。従って、本発明に係る刃先交換型切削チップによって当該切削工具の保守が大幅に簡素化される。
【0020】
さらに本発明の刃先交換型切削チップは、このような注意喚起機能を発揮するだけではなく、使用状態表示層がすくい面に形成されていることから、従来技術が有していたような切削加工後の被削材の外観および表面平滑性を害するという問題を一掃したという顕著な作用効果を備えたものである。従来の注意喚起機能を備えた刃先交換型切削チップは、使用状態表示層が逃げ面に形成されていたため、刃先の使用状態表示層に被削材が溶着し、切削加工後の被削材の外観を害し、またその表面面粗度をも劣化させる。加えて切削抵抗が増加することで刃先が欠損する場合もある。このため、被削材の種類や用途が限定されるのみならず、このような刃先交換型切削チップを用いて切削できない場合もあった。本発明は、このような問題点を悉く解決したものであり、その産業上の利用性は極めて大きいものである。
【0021】
加えて、本発明の刃先交換型切削チップは、このように使用状態表示層がすくい面に形成されているため、該チップが収納ケースに収められている状態や、工作機械周辺の作業台に置かれている状態においても、どの切れ刃が使用済であるかを容易に識別できるという優れた効果を有するものである。
【0022】
ここで、このような使用状態表示層は淡色に、たとえば、黄色にまたは黄色味がかった光沢(たとえば金色)を有するように形成し、逃げ面(基層)は黒ずんだ色に形成することが望ましい。たとえば、逃げ面(基層)は酸化アルミニウム(Al23)の被膜にすることが望ましい。また、このAl23層の上にも下にも別の層を設けても良い。
【0023】
こうして本発明の刃先交換型切削チップを多重に形成することができ、その際Al23層は耐摩耗層となる。本発明でいう耐摩耗層とは、切削加工使用時において刃先の耐摩耗性を高め、これにより工具寿命の延長や切削速度を高める機能を持った被膜をいう。
【0024】
一方、このような耐摩耗層は、さらに補助表面層を保持してもよい。また、Al23層の代わりに、同じまたは更によりよい性質を有する耐摩耗層を設けることもできる。
【0025】
本発明に係る刃先交換型切削チップを製造するために、まず、本体の全面に、すなわち側面と上面および場合によっては底面をも含むような多面体の全面に対して、耐摩耗層としてAl23層を含む被膜を基層として形成する。そして、一番上の層としてたとえば窒化物層(たとえばTiN)を使用状態表示層として形成することができる。この窒化物層は側面と上面、場合によっては底面を含む多面体の全面を覆うように形成してからすくい面以外の面から除去するようにするとよい。
【0026】
特に使用状態表示層として使用する窒化物層は、切削に関与する部分の少なくとも一部の逃げ面から取り除かれている必要がある。これは機械的除去、たとえば、ブラシ操作またはブラスト加工で行なうことができる。
【0027】
ブラシまたはブラスト加工操作は同時に切れ刃の後処理をも行なうことになって、それによって切れ刃および逃げ面の区域の被覆が平滑化される。このことは被削材に対する溶着を減少させ、刃先交換型切削チップの寿命の向上にも寄与する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の刃先交換型切削チップは、上述の通りの構成を有することにより、被削材の外観や表面平滑性を害することなく、かつ目視しやすい注意喚起機能を有効に示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。また、各図面はあくまでも説明用の模式的なものであって、コーティングの膜厚と本体とのサイズ比やコーナーのアール(R)のサイズ比は実際のものとは異なっている。
【0030】
<刃先交換型切削チップおよび本体>
図2に上面が正方形の形状として形成された刃先交換型切削チップ1が示されている。刃先交換型切削チップ1は、たとえば、超硬合金製の本体2を有する。すなわち、本体2は焼結炭化タングステンまたはその他の超硬合金材料にすることが好ましい。また、本体2をセラミック材料で形成することも可能である。
【0031】
このように、本体を構成する材料としては、このような刃先交換型切削チップの本体(基材)として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができ、たとえば超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭窒化物を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、窒化硅素焼結体、または酸化アルミニウムと炭化チタンとからなる混合体等を挙げることができる。また、これらの本体(基材)は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていても良く、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。
【0032】
そして、本発明の刃先交換型切削チップ1は本体2を有するものであって、この本体2は多面体の形状を有するものである。たとえばこの多面体は、図2に示したように少なくとも底面3、複数の側面4、5および上面6を有する形状を含むことができるが、このような形状のみに限られるものではなく、あらゆる形状の多面体が含まれる。そして、この本体2の上記各面の少なくとも1つの面が後述のすくい面となり、別の少なくとも1つの面が逃げ面となる。
【0033】
なお、本発明の刃先交換型切削チップにおいては、刃先交換型切削チップ1を工具に取り付ける固定孔として使用される貫通孔7が、上面6と底面3を貫通するように形成されていても良い。必要に応じ、この固定孔の他にまたはその代わりに、別の固定手段を設けることもできる。
【0034】
このような本発明の刃先交換型切削チップは、ドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップおよびクランクシャフトのピンミーリング加工用チップとして特に有用である。
【0035】
なお、本発明は、ネガタイプまたはポジタイプのいずれの刃先交換型切削チップに対しても有効であり、またチップブレーカが形成されているチップであってもそれが形成されていないチップであってもいずれに対しても有効に適用できる。
【0036】
<すくい面、逃げ面および切れ刃>
本実施の形態において、上記上面6は刃先交換型切削チップ1を所定通りに取り付ける場合にすくい面となり、側面4、5は逃げ面となる。すなわち、本体2は、その少なくとも1つの面がすくい面となり、別の少なくとも1つの面が逃げ面となる。
【0037】
また、すくい面(上面6)と逃げ面(側面4、5)との間(すなわちこれらの面と面が接する辺)に切れ刃8、9、10、11が形成される。切れ刃は、被削材を切削する中心的作用点を構成する。本実施の形態では切れ刃は直線状に形成されているが、これのみに限られるものではない。また、本発明の刃先交換型切削チップは、このような切れ刃として複数個の利用可能な切れ刃を有していることが好ましい。刃先交換型切削チップ自体を交換する手間を低減することができるからである。
【0038】
また図2においては、すくい面(上面6)は平坦な面として示されている。必要に応じ、すくい面は他の構造、たとえば、チップブレーカ等を有していてもよい。同じことが逃げ面(側面4、5)にも当てはまる。また、逃げ面は図2において平坦な面として示されているが、必要に応じ、(複数の面区域に区分する)面取りをしまたは別の仕方で平坦な面と異なる形状にすることもできる。
【0039】
必要に応じ、切れ刃8、9、10、11は、縦方向に直線形状と異なる湾曲または屈折した形状に形成することができる。また、切れ刃9を切れ刃の代表として示している図5より明らかなように、たとえば切れ刃は面取り加工が施されていたり、コーナーR(アール)が付けられていても良く、またこれら両者が複合された状態であっても良い。
【0040】
<切れ刃の面粗度>
本発明の切れ刃は、被削材の溶着を阻止するために平滑なものとすることが特に好ましい。このような平滑性は、前述の通り、逃げ面を構成する基層の表面を機械的処理、たとえば、ブラシ操作またはブラスト加工を行なうことにより得ることができる。このような機械的処理は、通常基層上に形成された使用状態表示層を除去する場合に行なわれるが、これのみに限られるものではなく、逃げ面に対して独立した処理操作として行なうことも可能である。なお、上記平滑性は、このような機械的処理だけではなく、たとえば化学的処理や物理的処理によっても得ることができる。
【0041】
このように、本発明の刃先交換型切削チップにおいては、切れ刃の面粗度が良好であることが望まれるが、特に上記逃げ面の面粗度、より好ましくは切削に関与する部位の面粗度、さらに好ましくは被削材と接触する部位の面粗度が、被削材の溶着防止の観点や、被削材の加工面の面粗度または面光沢の観点から良好なものが望ましい。
【0042】
<基層>
刃先交換型切削チップ1に施したコーティング12の構造を図5に示す。側面5と上面6とに延びる基層14がコーティング12に含まれる。このように本体2は、その表面に基層14が形成されており、このような基層14は、少なくとも上記逃げ面に形成することができ、さらに上記すくい面および上記逃げ面に形成することもできる。すなわち、基層14は本体2の全面に形成することが特に好ましい。
【0043】
なお、このような基層は、公知の化学的蒸着法(CVD法)、物理的蒸着法(PVD法)またはスパッタリング法等により形成することができ、その形成方法は何等限定されるものではない。たとえば、刃先交換型切削チップ1がドリルやエンドミルとして用いられる場合、基層は抗折力を低下させることなく形成できるPVD法により形成するのが好ましい。また、基層の膜厚の制御は、成膜時間により調整を行なうと良い。
【0044】
また、公知のCVD法を用いて基層を形成する場合には、MT−CVD(medium temperature CVD)法により形成された層を備えることが好ましい。特にその方法により形成した耐摩耗性に優れる炭窒化チタン(TiCN)層を備えることが最適である。従来のCVD法は、約1020〜1030℃で成膜を行なうのに対して、MT−CVD法は約850〜900℃という比較的低温で行なうことができるため、成膜の際加熱による本体のダメージを低減することができる。したがって、MT−CVD法により形成した層は、本体に近接させて備えることがより好ましい。また、成膜の際に使用するガスは、ニトリル系のガス、特にアセトニトリル(CH3CN)を用いると量産性に優れて好ましい。
【0045】
一方、このような基層14は複数の層を積層して構成することもでき、また耐摩耗層としての作用を示すものとすることが好ましい。基層14としては、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物により形成することができ、優れた性能が示される。
【0046】
たとえば、基層14は、そのような化合物としてAl3層であるかこれを含むことができる。本体2の上にまずTiN層を形成し、その上にTiCN層を形成し、この上にAl23層を形成することもできる。この3層系は全体として基層14を構成し、耐摩耗層としての作用を示す。
【0047】
このように、基層14が複数の層を積層して構成される場合は、その最外層がAl23層またはAl23を含む層で構成されることが特に好ましい。Al23層またはAl23を含む層は、耐摩耗層として優れるとともに黒ずんだ色(正確にはそれ自身が黒色を呈するものではなく下地の色の影響を受けやすいものであるが、本願では単に黒色と表現することもある)を呈するため、その上に形成される使用状態表示層との間で特に顕著なコントラストを形成することができるからである。
【0048】
また、このような基層14を構成する化合物の具体例としては、上記のAl3以外に(あるいはAl3とともに)使用できるものとして、たとえばTiCN、TiN、TiCNO、TiBN、ZrO2、AlN等を挙げることができる。たとえば、基層14として、本体2の全面にまず厚み数μmのTiN層を形成し、その上に厚み数μmのTiCN層を形成し、さらにその上に厚み数μmのAl3層を形成したものを好適な例としてあげることができ、耐摩耗層としての作用を示す。
【0049】
このように基層14として耐摩耗層を採用することにより、当該刃先交換型切削チップの工具寿命は飛躍的に延長される。加えて、切削速度を高める等のより過酷な使用環境にも耐えうる機能を発揮するという利点を有し、これを少なくとも逃げ面、またはすくい面および逃げ面の両者に形成することにより、この利点をより有効に享受することができる。
【0050】
このような基層14の厚みは、0.05μm以上20μm以下であることが好ましい。厚みが0.05μm未満では耐摩耗性の向上が見られず、逆に20μmを超えても大きな耐摩耗性の改善が認められないことから経済的に有利ではない。このような厚みの測定方法としては、たとえば刃先交換型切削チップを切断し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより測定することができる。
【0051】
<使用状態表示層>
本発明の刃先交換型切削チップは、上記すくい面の上記基層上に上記基層の色と異なる色の使用状態表示層を少なくとも一部に形成したことを特徴としている。その一例を挙げると、たとえば図5に示したようにコーティング12には、少なくとも切れ刃9に続いてすくい面(上面6)に形成された使用状態表示層15が設けられている。なお、このような使用状態表示層は、公知の化学的蒸着法、物理的蒸着法またはスパッタリング法等により形成することができ、その形成方法は何等限定されるものではない。
【0052】
本発明の使用状態表示層の形成の態様を切れ刃近傍部を中心として検討した場合、その態様には種々のものが含まれる。たとえば、このような態様には、まず上記図5に示したように、使用状態表示層15が切れ刃9の直前まで形成されているような態様が含まれる。また、図6に示したように、使用状態表示層15がほぼ切れ刃9まで延びるようにして形成される場合も含まれ、さらに図7に示したように切れ刃9を完全に覆い逃げ面の直前まで回り込むようにして形成されている場合も含まれる。一方、図8に示したように、使用状態表示層15は、切れ刃9まで少しの距離(切削チップのサイズにもよるが使用状態表示機能を大きく損なわない距離、たとえば内接円12.7mmの切削チップならば約3.0mm以下の距離)をおいて形成される場合も含まれる。
【0053】
そして本発明の使用状態表示層は、上記すくい面の切削に関与する部位の少なくとも一部に形成されていることが特に好ましい。ここで切削に関与する部位とは、具体的には切れ刃部分だけではなく、切れ刃部分の近傍部(切れ刃から垂直方向に0mm〜3.0mm程度の距離をもって広がった領域)を含む領域をいう。これにより、当該切れ刃が使用済か否かを確実に識別することができる。
【0054】
本実施の形態では、使用状態表示層15は黄色または黄銅色(金色)の外観を呈する窒化チタン層である。これに対して、その下層の基層14はAl3(基層中の最上層)による黒色または黒ずんだ色である。なお、このような使用状態表示層は、上記基層に比し摩耗し易い層であることが好ましい。切削加工時に削除されやすく、下層の基層が露出することにより、その部分が使用されていることを容易に表示することができるからである。また、すくい面以外に形成された使用状態表示層を除去することにより刃先交換型切削チップ自体を製造することを容易化することにもつながる。
【0055】
このように使用状態表示層15は、すくい面(本実施の形態では上面6)上に形成され、上記基層と異なる色を呈するものである。このような構成を採用することにより、結果的にすくい面は逃げ面との間で大きな色コントラストが生じるようにされる。なぜなら逃げ面の表面には、上述の通り、通常、耐摩耗層としての基層14が形成されるからである。
【0056】
そして、このように使用状態表示層15がすくい面(上面6)上に形成されることにより、切削加工時においてこの使用状態表示層15が被削材に溶着し、被削材の外観および表面平滑性を害することがなく、以ってこのようなデメリットを伴うことなく注意喚起機能を示すことができる。このような使用状態表示層は、すくい面上の一部分に形成することができるとともに、上記すくい面の全面に形成することもできる。そして、上述の通り、本発明の使用状態表示層は、すくい面の切削に関与する部位の少なくとも一部に形成されていることが好ましい。
【0057】
ここで、このような使用状態表示層15は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、Si、Cu、Pt、Au、Ag、Pd、Fe、CoおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(元素)またはその金属を含む合金によって形成されるか、または元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物によって形成される1または2以上の層である。
【0058】
そして、このような使用状態表示層は、その最外層が元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物によって形成される層で構成されることが好ましい。当該化合物は、黄色、ピンク色、黄銅色、金色等鮮やかな色を呈し、意匠性に優れるとともに基層との間で明瞭なコントラストを形成することができるからである。なお、使用状態表示層が一層のみで形成される場合にはその層が最外層となる。
【0059】
このような使用状態表示層は、より具体的には本実施の形態で用いられているTiNの他、たとえばZrN、TiCN、TiSiCN、TiCNO、VN、Cr等の元素または化合物により形成することができる。
【0060】
また使用状態表示層15は、強力な耐摩耗性の改善の機能を持つものでなく(すなわち摩耗し易い層であることが好ましく)、かつ比較的薄い厚みを有する。好ましい厚みは0.05μm以上2μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。0.05μm未満では、本体全体に均一に被覆することが工業的に困難となり、このためその外観に色ムラが発生し外観を害することがある。また、2μmを超えても使用状態表示層としての機能に大差なく、却って経済的に不利となる。この厚みの測定方法としては、上記基層と同様の測定方法を採用することができる。
【0061】
<刃先交換型切削チップの製造方法>
本発明の刃先交換型切削チップの製造方法は、多面体である本体を有する刃先交換型切削チップの製造方法であって、該本体上に基層を形成するステップと、該基層上に該基層と異なる色の使用状態表示層を形成するステップと、該本体の逃げ面の少なくとも一部を含む所定の区域に対して、そこに形成されている上記使用状態表示層を除去するステップと、を含むことを特徴とするものである。これにより、極めて生産効率良く刃先交換型切削チップを製造することができる。
【0062】
このように使用状態表示層15は、刃先交換型切削チップ1の製造の際に一旦基層14の上に形成されるが、その後逃げ面の少なくとも一部を含む所定の区域から取り除かれる。この所定区域は、切削に関与する部位の少なくとも一部でも本発明の効果は発揮されるが、より容易に使用済切れ刃の識別をするためには、好ましくは逃げ面の全面である。これにより、すくい面と逃げ面との間で、上記のような大きな色コントラストを持った刃先交換型切削チップを製造することができる。
【0063】
逃げ面から使用状態表示層15を除去する方法としては、化学的方法、物理的方法および機械的方法のいずれをも採用することができる。好ましくは、ブラシ掛けまたはその他の摩滅による除去、たとえばサンドブラストによる除去(ブラスト加工)などの物理的または機械的方法を採用することができる。その上、このようなブラスト加工は、前述の通り、こうして再び露出した基層14および切れ刃9を平滑にする効果がある。
【0064】
<作用等>
以上述べた刃先交換型切削チップ1は、図2に示すように未使用状態では無傷のままであるすくい面(上面6)を有する。特に切れ刃8、9に続くすくい面はなお元の使用状態表示層の色を有し、それによって切れ刃8、9が未使用であることを示す。たとえば、上面6がTiNでコーティングされている場合は、切れ刃8、9に続く使用状態表示層15の部分は、未使用状態では輝く黄銅色(金色)になっている。これに対して逃げ面6は基層14であるAl23からなり刃先交換型切削チップの代表的な比較的黒ずんだ色またはほぼ黒色の外観を呈する。
【0065】
以下の説明のために、刃先交換型切削チップ1は切削工具の工具本体に取付けられており、切れ刃9が有効切れ刃を成す場合を考える。切削工具が使用されると直ちに切れ刃9が被削材に接触し、被削材を切削加工し始める。特に、切れ刃9と逃げ面(側面5)の区域では基層14により刃先交換型切削チップ1の摩耗は少ない。
【0066】
ところが、切れ刃9による切削が開始すると、この切れ刃9に隣接する区域の使用状態表示層15が変色して、すくい面(上面6)のうち切れ刃9の隣接部分に比較的大きな初期変化を生じる。変色した区域では使用状態表示層15とは別の色になり、場合によってはこれより遙かに黒ずんだ基層14が見えるようになる。
【0067】
このため、図3に示すように切れ刃9に続いて黒ずんで変色した変色区域16が生じる。この変色区域16は直ちにかつ容易に識別され、注意喚起機能を示す。この変色は、上記のように基層14が露出することにより生じるものの他、熱に原因する変化、たとえば、酸化現象の結果起こるものであっても良い。
【0068】
たとえば、図3に示したようにこの切れ刃9に隣接する区域の使用状態表示層15が、焼もどし色を呈することによって、ここに変色区域16が形成される。これは切れ刃9による被削材の切削加工の結果起こる切れ刃の温度上昇に由来する。
【0069】
刃先交換型切削チップ1を長時間の使用の後(切削位置を変更させた後)においては、すくい面(上面6)は図4に示す外観を呈するようになるが、最初の数分の切削作業の後に早くも図3に示す外観に達するから、たとえば切れ刃9は既に使用されたが、切れ刃8はまだ全く未使用であることを取扱者は一見して確認することができる。切れ刃8が初めて使用されると、図4に示す外観を呈する。この場合、切れ刃8に隣接する区域の使用状態表示層15が変色し、変色区域17を生じることにより切れ刃8が使用されたことを示す。
【0070】
なお、図2〜4に示されている刃先交換型切削チップ1は、4個の使用可能な切れ刃8、9、10、11を有するスローアウェイ刃先交換型切削チップである。切れ刃8、9、10、11の内のどれが既に使用され、どれがまだ使用されていないかが使用状態表示層15の色によって一目で分かる。従って、このような刃先交換型切削チップを装備した切削工具の保守は特に簡単に行なうことができる。
【0071】
上述のように、刃先交換型切削チップ1には、基層14と使用状態表示層15から成る複合のコーティング12が施されている(図5)。なお、使用状態表示層は単数個または複数個のすくい面に、すなわち、たとえばISO規格SNGN120408等のような一般的な刃先交換型切削チップでは底面または上面に、「縦使い」等と呼ばれる前者以外の例外的な刃先交換型切削チップでは側面にそれぞれ形成することが望ましい。
【0072】
使用状態表示層15は、隣接する切れ刃8、9、10、11を短時間でも使用するとこの使用状態表示層15に明瞭な痕跡が残って、この使用状態表示層15が変色乃至は変質する。このように使用状態表示層15は非常に敏感であるから、その下にある別色の層または材料が見えるようになることがある。このようにして使用状態表示層15の作用により、明瞭な色コントラストまたは明るさコントラストが生じ、使用した切れ刃を直ちに簡単に識別することができる。すくい面にこのように摩擦的に不利かもしれないコーティングを施すことにより、これを逃げ面に施す場合よりも、被削材の外観および表面平滑性を害することがないことは勿論のこと、より大きな色コントラストを得ることができるため、すくい面を使用状態表示面として利用することが特に有利であることが判明した。さらに加えて、このような刃先交換型切削チップを収納ケースに収納した状態や、作業台に置かれている状態においても、いずれの切れ刃が使用済かということを極めて容易に識別することができるという優れた機能を有している。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
<実施例1>
87質量%のWC、2.5質量%のTaC、1.0質量%のNbC、2.0質量%のTiCおよび7.5質量%のCoからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1400℃、1時間焼結し、その後平坦研磨処理および刃先処理を行なうことにより、ISO型番CNMG120408の形状の超硬合金製チップを作製し、これを本体とした。この本体は多面体であり、底面、側面および上面を有し、上面がすくい面となり、側面が逃げ面となるものであった。
【0075】
この本体の全面に対して、下層から順に下記の層を公知の熱CVD法により形成した。すなわち、本体の表面側から順に、0.5μmのTiN、5.5μmのTiCN(MT−CVD)、1.5μmのαアルミナ(Al23)そして最外層として0.5μmのTiNをコーティングした(総膜厚8.0μm)。このコーティング(コーティングNo.1とする)において、0.5μmのTiN(本体表面側のもの)と5.5μmのTiCNと1.5μmのαアルミナ(Al23)が基層であり、最外層の0.5μmのTiNが使用状態表示層である。
【0076】
以下同様にして、このコーティングNo.1に代えて下記の表1に記載したコーティングNo.2〜6をそれぞれ本体の全面に対して被覆した。
【0077】
【表1】

【0078】
上記表1において、基層は左側のものから順に本体の表面上に積層させた。また各層は、コーティングNo.6のCr層を除き、全て公知の熱CVD法により形成した。該Cr層はスパッタリング法により形成した。
【0079】
そしてこのコーティングを施した本体のそれぞれに対して、公知のブラスト法を用いて次の4種類の処理方法A〜Dを各々実施した。
【0080】
(処理方法A)
コーティングに対してブラスト法による処理を行なわなかった。したがって、本体の表面は、全面において使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈した。
【0081】
(処理方法B)
コーティングに対して、すくい面である上面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、逃げ面である側面は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈し、すくい面である上面は基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した。
【0082】
(処理方法C)
コーティングに対して、逃げ面である側面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、すくい面である上面は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面である側面は基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した。
【0083】
(処理方法D)
コーティングに対して、本体表面全面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、本体表面の全面(すくい面および逃げ面の両面)は基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した。
【0084】
このようにして、以下の表2に記載した24種類の刃先交換型切削チップNo.1〜No.24を製造した。No.3、7、11、15、19および23が本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。
【0085】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.1〜No.24について、下記条件で旋削切削試験を行ない、被削材の面粗度と刃先交換型切削チップの切れ刃摩耗量(逃げ面摩耗量)を測定した。その結果を以下の表2に示す。被削材の面粗度(Rz)は、小さい数値のもの程、平滑性が良好であることを示し、逃げ面摩耗量は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示している。
【0086】
(旋削切削試験の条件)
被削材:SCM415
切削速度:100m/min
送り:0.15mm/rev.
切込み:1.0mm
切削油:無し
切削時間:30分
【0087】
【表2】

【0088】
表2中、「※」の印を付したものが本発明の実施例である。なお、基層の最外層はコーティングの種類に拘わらず全て黒色であり、使用状態表示層はTiNとZrNが金色であり、TiCNはピンク色であり、Crは銀色である。
【0089】
表2より明らかなように、本発明の実施例である刃先交換型切削チップNo.3、7、11、15、19および23は、切れ刃の使用状態の判別が容易で極めて注意喚起機能に優れるものであり、且つ刃先に被削材が溶着することもなく、切削後の被削材の状態も鏡面に近いものであり面粗度にも優れるものであった。
【0090】
これに対して、刃先交換型切削チップNo.1、2、5、6、9、10、13、14、17、18、21および22は、切れ刃の使用状態の判別は可能であるものの、刃先に被削材が多量に溶着し、且つ切削後の被削材は白濁し、面粗度も劣っていた。また、刃先交換型切削チップNo.4、8、12、16、20および24は、切削後の被削材の状態は良好であるものの、刃先交換型切削チップの切れ刃の使用状態の判別が困難であり、注意喚起機能を有さないものであった。
【0091】
以上の結果、本発明の実施例である各刃先交換型切削チップが、各比較例の刃先交換型切削チップに比し、優れた効果を有していることは明らかである。なお、本実施例は、チップブレーカが形成されていない刃先交換型切削チップの場合について示したが、チップブレーカが形成されている刃先交換型切削チップに対しても有効である。
【0092】
<実施例2>
刃先交換型切削チップの本体の形状をISO型番SPGN120408とすることを除き、他は実施例1と同様にして本体を得た。この本体は実施例1のものと同様に多面体であり、底面、側面および上面を有し、上面がすくい面となり、側面が逃げ面となるものであった。
【0093】
この本体の全面に対して、下層から順に下記の層を公知の熱CVD法により形成した。すなわち、本体の表面側から順に、0.5μmのTiN、3.0μmのTiCN(MT−CVD)、1.0μmのαアルミナ(Al23)そして最外層として0.5μmのTiNをコーティングした(総膜厚5.0μm)。このコーティング(コーティングNo.7とする)において、0.5μmのTiN(本体表面側のもの)と3.0μmのTiCNと1.0μmのαアルミナ(Al23)が基層(黒色)であり、最外層の0.5μmのTiNが使用状態表示層(金色)である。
【0094】
以下同様にして、このコーティングNo.7に代えて下記の表3に記載したコーティングNo.8〜12をそれぞれ本体の全面に対して被覆した。
【0095】
【表3】

【0096】
上記表3において、基層は左側のものから順に本体の表面上に積層させた。またコーティングNo.8〜9は、コーティングNo.7と同様、全て公知の熱CVD法により形成した。コーティングNo.10〜12については、公知のPVD法により形成した。
【0097】
そして、このコーティングを施した本体のそれぞれに対して、実施例1と同じ処理方法A〜Dを各々実施することにより、以下の表4に記載した24種類の刃先交換型切削チップNo.25〜No.48を製造した。No.27、31、35、39、43および47が本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。
【0098】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.25〜No.48について、下記条件でフライス切削試験を行ない、被削材の面粗度と刃先交換型切削チップの切れ刃摩耗量(逃げ面摩耗量)を測定した。その結果を以下の表4に示す。被削材の面粗度(Rz)は、小さい数値のもの程、平滑性が良好であることを示し、逃げ面摩耗量は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示している。
【0099】
(フライス切削試験の条件)
被削材:FC250
切削速度:150m/min
送り:0.3mm/rev.
切込み:1.0mm
切削油:無し
切削距離:10m
【0100】
【表4】

【0101】
表4中、「※」の印を付したものが本発明の実施例である。なお、基層の最外層はコーティングの種類に拘わらず全て黒色であり、使用状態表示層はTiNが金色であり、TiCNはピンク色である。
【0102】
表4より明らかなように、本発明の実施例である刃先交換型切削チップNo.27、31、35、39、43および47は、切れ刃の使用状態の判別が容易で極めて注意喚起機能に優れるものであり、且つ刃先に被削材が溶着することもなく、切削後の被削材の状態も鏡面に近いものであり面粗度にも優れるものであった。
【0103】
これに対して、刃先交換型切削チップNo.25、26、29、30、33、34、37、38、41、42、45および46は、切れ刃の使用状態の判別は可能であるものの、刃先に被削材が多量に溶着し、且つ切削後の被削材は白濁し、面粗度も劣っていた。また、刃先交換型切削チップNo.28、32、36、40、44および48は、切削後の被削材の状態は良好であるものの、刃先交換型切削チップの切れ刃の使用状態の判別が困難であり、注意喚起機能を有さないものであった。
【0104】
以上の結果、本発明の実施例である刃先交換型切削チップが、各比較例の刃先交換型切削チップに比し、優れた効果を有していることは明らかである。
【0105】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】切削加工時における刃先交換型切削チップと被削材との接触状態を模式的に示した概略図である。
【図2】使用前の本発明の刃先交換型切削チップの一実施形態の概略斜視図である。
【図3】1つの切れ刃を使用した後の本発明の刃先交換型切削チップの概略斜視図である。
【図4】2つの切れ刃を使用した後の本発明の刃先交換型切削チップの概略斜視図である。
【図5】図2の刃先交換型切削チップの主要部分の拡大断面図である。
【図6】使用状態表示層を別の形態で形成した刃先交換型切削チップの主要部分の拡大断面図である。
【図7】使用状態表示層をさらに別の形態で形成した刃先交換型切削チップの主要部分の拡大断面図である。
【図8】使用状態表示層をさらに別の形態で形成した刃先交換型切削チップの主要部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0107】
1 刃先交換型切削チップ、2 本体、3 底面、4,5 側面、6 上面、7 貫通孔、8,9,10,11 切れ刃、12 コーティング、14 基層、15 使用状態表示層、16,17 変色区域、18 被削材、19 切り屑。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多面体である本体を有する刃先交換型切削チップであって、
前記本体は、その表面に基層が形成されており、
かつ前記本体は、その少なくとも1つの面がすくい面となり、別の少なくとも1つの面が逃げ面となるとともに、
前記すくい面の前記基層上に前記基層の色と異なる色の使用状態表示層を少なくとも一部に形成したことを特徴とする刃先交換型切削チップ。
【請求項2】
前記使用状態表示層は、前記すくい面の切削に関与する部位の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ。
【請求項3】
前記使用状態表示層は、前記基層に比し、摩耗し易い層であることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ。
【請求項4】
前記刃先交換型切削チップは、複数個の利用可能な切れ刃を有することを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ。
【請求項5】
前記本体は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、窒化硅素焼結体、または酸化アルミニウムと炭化チタンとからなる混合体のいずれかにより構成されることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ。
【請求項6】
前記基層は、その最外層がAl23層またはAl23を含む層で構成されることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ。
【請求項7】
前記使用状態表示層は、その最外層が元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物によって形成される層で構成されることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ。
【請求項8】
多面体である本体を有する刃先交換型切削チップの製造方法であって、
前記本体上に基層を形成するステップと、
前記基層上に前記基層と異なる色の使用状態表示層を形成するステップと、
前記本体の逃げ面の少なくとも一部を含む所定の区域に対して、そこに形成されている前記使用状態表示層を除去するステップと、を含むことを特徴とする刃先交換型切削チップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−102875(P2006−102875A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292825(P2004−292825)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】