説明

分光光度計

【課題】外部光源の放射スペクトルを測定する分光光度計において、外部光を導入するための専用の導入開口及び光軸を切り換えるための光軸切換機構を必要としない分光光度計を提供する。
【解決手段】内部光源を交換可能な分光光度計において、内部光源を取り外した後、図示しない光源位置決め部品に着脱可能な、外部ミラー5及び内部ミラー6により構成される外部光導入光学装置4が装着されることを特徴とする。また、外部ミラー5に、その鏡面を外部光源の方向に向けるための光軸調整軸7を備えさせることにより、外部光源を専用の保持機構に取り付けることなく、設置状態のままで測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ヒータや加熱炉などの発熱体、LEDや電灯などの照明器具等の放射率又は放射スペクトルを測定する分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
分光光度計は、測定試料に光を照射し、その各波長における吸収スペクトルを測定する分析装置である。分光光度計の光源には、X線、紫外光、可視光、赤外光等の様々な波長の光が用いられるが、このうち赤外光を光源として用いた分光光度計に、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)がある。
【0003】
FTIRでは、固定鏡及び移動鏡を含むマイケルソン型干渉計により時間的に振幅が変動する干渉波を生成し、これを試料に照射してその透過光又は反射光をインターフェログラムとして検出する。そして、これをフーリエ変換することにより、横軸に波数、縦軸に強度(吸光度又は透過率など)をとった吸収スペクトルを得る(例えば特許文献1を参照)。
【0004】
FTIR等の赤外分光光度計は、試料の吸収スペクトルの測定のみならず、ヒータ等の発熱体や電灯等の発光体の熱放射(赤外放射)の放射スペクトル測定にも利用することができる。しかしながら、これらの発熱体や発光体を光源として分光光度計の内部に組み込むことは、サイズや(特に発熱体では)温度などの問題から困難であることが多い。従って、通常は分光光度計とは別に、発熱体や発光体を分光光度計の外部の所定位置に保持する保持機構と、該所定位置に保持された発熱体や発光体(以下、「外部光源」と称す)の発する光を、分光光度計の内部に導入する外部光導入光学装置と、を用意することにより、外部光源の放射スペクトル測定が行われる。
【0005】
従来用いられる、外部光の放射率又は放射スペクトルを測定するための装置の一構成例を、図5の概略上面図により示す。この装置は、分光光度計(FTIR)10と、分光光度計10の側面に隣接して設置された外部光導入光学装置11と、外部光源13を保持する保持機構12と、から構成されている。
【0006】
図5の従来例では、外部光源13からの光(外部光)は、外部光導入光学装置11の光学系を通過して、分光光度計10の側面から入射される。従って、外部光を分光光度計10の内部に導入するためには、分光光度計10の筐体側壁の一部を開口する必要がある。
【0007】
また、分光光度計10は、通常、装置の内部に収容された光源(以下、「内部光源」と称す)の発する光が干渉計20に入射されるように光軸が設計されている。従って、分光光度計10の内部に導入された外部光がさらに干渉計20に入射されるには、光軸を適切に変更する必要がある。図5に記載の分光光度計10は、光軸切換機構22を別途設けることにより、筐体側壁の導入開口から導入された外部光が干渉計20に入射されるよう設計されている。
【0008】
しかしながら、図5の装置では、光軸を切り換えたことによって、分光光度計10に内蔵された検出器への光路が遮られてしまっている。そのため、この例では、干渉計20を通過したのち外部光導入光学装置11に戻ってきた光を、外部光導入光学装置11内に設けられた検出器21を用いて検出することにより、放射スペクトルの測定を行っている。
【0009】
また、図6に、外部光の放射率又は放射スペクトルを測定する装置の別の構成例を示す。この図の装置は、図5のものと異なり、分光光度計に内蔵された検出器を用いて放射スペクトルを検出できるようにしたものである。しかしながら、分光光度計に外部光を導入するための導入開口と光軸切換機構が必要であることは、図5の装置と同じである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−14543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、外部光源の放射率や放射スペクトルを分光光度計を用いて測定する場合、従来では外部光導入光学装置及び保持機構が別途必要であるだけでなく、分光光度計自体にも、外部光を分光光度計内部の光学系に導入するための導入開口及び光軸を切り換えるための光軸切換機構が必要となる。また、前記導入開口を普段塞いでおくための蓋も必要となる。従って、分光光度計の製造コストが増大してしまうという問題が生じる。
【0012】
また、赤外分光光度計に用いられる光学系は水分(湿気)に弱いという問題がある。これは、赤外光を透過させるレンズ等の光学部品が潮解性を有することと、赤外光が水分に吸収されやすく、これにより測定精度が低下してしまうこと、が原因である。このため、分光光度計内部の光学系は、一般的に湿気の侵入を防止するシールケース等により保護されている。しかしながら、外部光を分光光度計内部の光学系に導入するには、分光光度計の筐体と共に、光学系を保護するシールケースも開口する必要がある。この導入開口から湿気が侵入すると、レンズ等の光学部品を損なう他、赤外光が水分に吸収されることによって測定精度が低下してしまうことになる。また、分光光度計ではシールケース内にパージガスを流すことにより、水蒸気などの測定阻害物質を排除し、精密測定を行うことがあるが、分光光度計の筐体及び光学系を保護するシールケースが開口されていると、パージガスが漏れてしまうため、パージの効率が悪くなってしまう。
【0013】
また、分光光度計に隣接して外部光導入光学装置を設置すると、設置面積が増えてしまうという問題もある。設置面積が限られている場合、外部光導入光学装置が設置できないことがある。一方、この設置面積に関する問題を解消するために、光ファイバーなどの光伝導体を外部光導入光学装置として用いることもできるが、一般的に光ファイバーのような光伝導体は赤外光など特定の領域の波長の光に対して透過率が低く、光量損失が生じてしまうため、放射スペクトルが測定できなくなることがある。
【0014】
また、外部光源が高温の発熱体である場合には、保持機構に取り付ける際に危険を伴うという問題もある。
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、これらの問題点を解決する分光光度計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分光光度計は、
内部光源を交換可能な開口部を有する分光光度計において、
前記内部光源を分光光度計の所定の位置に取り付けるための位置決め手段と、
前記内部光源を取り外した後、前記位置決め手段により前記所定の位置に取り付け可能な、反射鏡により構成される外部光導入手段と、
を備えることを特徴とする。
【0017】
前記開口部は分光光度計の上方に設けられていることが望ましい。これにより、外部光導入手段を取り付けた際に、設置面積が増えることを防ぐことができる。
【0018】
また、前記外部光導入手段は、外部光を分光光度計内部に導入するための外部ミラーと、前記外部ミラーにより内部に導入された光を、分光光度計内部に設けられた光学系に入射させるための内部ミラーと、を備えることが望ましい。
【0019】
さらに、前記外部ミラー及び/又は内部ミラーには、光軸を調整するための光軸調整軸を1つ又は複数個設けることができる。これにより、外部ミラーを外部光源の方に向け、その光軸を光軸調整軸により調整するだけで、外部光を分光光度計内部の光学系に導入することができる。従って、従来のものと異なり、外部光源を専用の保持機構に取り付けることなく、設置状態そのままの測定が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の分光光度計は、分光光度計に具備された、内部光源を交換するための開口部から外部光を導入する構成としている。これにより、分光光度計の筐体及び内部の光学系を保護するシールケースに別途開口を設ける必要がなくなり、通常測定時に開口を塞いでおく部品が不要になる。また、内部光源と同じ光軸を用いることができるため、光軸切換機構が不要になる。従って、分光光度計の製造コストを抑えることができる。
【0021】
また、前記開口部が分光光度計の上方に設けられている場合には、外部光導入手段を設置するための面積が不要になる。さらに外部光導入手段が外部ミラーと内部ミラーの2枚の反射鏡で構成される場合には、この外部ミラーを外部光源の方向に向けるだけで良いため、専用の保持機構が必要でなくなる。また、導入光学系が反射鏡のみで構成されているため、光ファイバーなどの光伝導体とは異なり、光量損失がないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】交換可能な内部光源を有する分光光度計を示す斜視図。
【図2】交換可能な内部光源を有する分光光度計において、光源周辺の構成を示す斜視図。
【図3】交換可能な内部光源を有する分光光度計において、内部光源を除去した後の光源位置決め部品周辺の構成を示す斜視図。
【図4】本発明に係る分光光度計の一実施例を示す斜視図。
【図5】外部光源の放射スペクトルを測定する従来の装置の一構成例を示す概略上面図。
【図6】外部光源の放射スペクトルを測定する従来の装置の別の構成例を示す概略上面図。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0023】
本発明に係る分光光度計の一実施例について、図1〜図4を参照して説明する。
図1は、交換可能な内部光源を有する分光光度計を示す斜視図である。この分光光度計では、筐体上面に開口部が設けられており、この開口部を覆う光源蓋1を取り外すことで、筐体内部に装着された内部光源の交換が可能となる。このような分光光度計として、例えば島津製作所製のIRAffinity-1やIRPrestige-21がある。なお、図1の分光光度計は内部光源が端側に位置しているため、外部光源を分光光度計の近くに配置させることができ、その放射エネルギーを効率良く分光光度計に導入できる。従って、効率の良い放射スペクトルの測定を行うには、このような分光光度計を用いることが望ましい。
【0024】
図2及び図3は、光源蓋1を取り外した後の、内部光源及び光源位置決め部品(位置決め手段)周辺を示す斜視図である。図2の内部光源2は、図3に示す光源位置決め部品3によって分光光度計内部の所定の位置に固定されている。これにより、内部光源2の発する光が分光光度計内部の光学系に適切に導入される。なお、内部光源2及び光源位置決め部品3は、工具を用いることなく、容易に内部光源2を着脱できるように、それぞれ設計されている。
【0025】
図4は、本実施例の分光光度計における外部光導入光学装置周辺の構成を示す斜視図である。この図の分光光度計は、内部光源2を取り外した図3の光源位置決め部品3に、2枚の反射鏡を有する外部光導入光学装置(外部光導入手段)4を装着したものである。この外部光導入光学装置4は、光源位置決め部品3に工具なしで容易に着脱できるよう、装置下部に図示しない着脱部(着脱手段)が設けられている。また、上記の2枚の反射鏡はそれぞれ、外部光を分光光度計内部に導入するための外部ミラー5と、この外部ミラー5により内部に導入された光を、分光光度計内部に設けられた光学系に入射させるための内部ミラー6、である。ここで、外部ミラー5は、その鏡面を外部光源の方向に向けるための光軸調整軸7を備えている。この光軸調整軸7を用いることにより、外部光源を専用の保持機構に取り付けることなく、設置状態のままで測定することができる。
【0026】
なお、上記の外部光導入光学装置に用いられる反射鏡の数は2個に限定されない。例えば、照明のように分光光度計の上方に設置されているものに対しては、照明の真下に分光光度計を配置すれば、一枚の反射鏡のみで分光光度計内部の光学系に外部光を導入することができる。また、反射鏡や光軸調整軸の数を増やすことにより、様々な位置に配置された外部光源を、分光光度計本体を移動することなく測定することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1…光源蓋
2…内部光源
3…光源位置決め部品
4、11…外部光導入光学装置
5…外部ミラー
6…内部ミラー
7…光軸調整軸
10…分光光度計
12…保持機構
13…外部光源
20…干渉計
21…検出器
22…光軸切換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部光源を交換可能な開口部を有する分光光度計において、
前記内部光源を分光光度計の所定の位置に取り付けるための位置決め手段と、
前記内部光源を取り外した後、前記位置決め手段により前記所定の位置に取り付け可能な、反射鏡により構成される外部光導入手段と、
を備えることを特徴とする分光光度計。
【請求項2】
前記開口部が、分光光度計の上方に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の分光光度計。
【請求項3】
前記外部光導入手段が、外部光を分光光度計内部に導入するための外部ミラーと、前記外部ミラーにより内部に導入された光を、分光光度計内部に設けられた光学系に入射させるための内部ミラーと、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の分光光度計。
【請求項4】
前記外部ミラー及び/又は内部ミラーが、光軸を調整するための光軸調整軸を1個又は複数個備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分光光度計。
【請求項5】
内部光源を交換可能な開口部と、前記内部光源を分光光度計の所定の位置に取り付ける位置決め手段と、を有する分光光度計に対し、その内部の光学系に外部光を導入する外部光導入光学装置において、
前記位置決め手段により、前記分光光度計の所定の位置に着脱可能な着脱手段と、
外部光を分光光度計内部の光学系に導入させる、1個又は複数個の反射鏡から成る外部光導入手段と、
を有することを特徴とする外部光導入光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−58898(P2011−58898A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207661(P2009−207661)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】