説明

分光分析用試料容器、及び分光分析方法

【課題】不活性雰囲気における試料の分光分析を容易にし、且つ/又は試料の分析を行っている状態で試料と雰囲気との反応を開始させることができる分光分析用試料容器を提供する。
【解決手段】分光分析用試料容器10の内側領域と外側領域とを隔てる試料容器壁、及び分光分析を行うための分析窓16を有し、且つ分析される試料1を試料容器の内側領域に密封できる、分光分析用試料容器10であって、試料容器壁及び/又は分析窓16の少なくとも一部が、樹脂フィルムによって形成されていることを特徴とする、分光分析用試料容器とする。また、(a)本発明の分光分析用試料容器10の内側領域に、試料1を密封し、(b)この試料容器を、分光分析装置の試料ステージ上に配置し、そして(c)この試料容器の樹脂フィルム16を開封することを含む、分光分析方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光分析用試料容器、及び分光分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の分光学的特性を利用して行なう分光分析方法としては、試料に光を照射して得られる透過光について分析する吸収分光分析;光照射、電気、化学反応等によって試料から光を放出させ、その光について分析する発光分析;試料に光を照射し、得られる散乱光について分析する光散乱分光分析等がある。ここでこの光散乱分光分析としては、ラマン散乱分光法を挙げることができる(特許文献1及び2)。またこれらの分光分析を経時的に行う時間分解分光も行われており、例えばパルスレーザーを使用することによって、極めて速い反応であっても、その反応過程を観察できることが知られている。
【0003】
試料に光を照射する分光分析のための装置は通常、光源;試料を配置する試料ステージ;並びに光源から試料に光を照射することによって得られる散乱光及び/又は透過光を検出する検出器から構成される。分光分析のために使用される光源は、赤外光、可視光、紫外光等を発生させることができる装置であり、レーザー光を用いることも多い。
【0004】
分光分析において分析される試料は通常、分光光学セル又はキュベットとも呼ばれる分光分析用試料容器に格納して観測される。このような分光分析用試料容器では、少なくとも分析窓が、分析に使用する光を有意に吸収、散乱、反射等しない材質で作られており、又は開口部である必要がある。したがって例えば可視光を用いた分光分析では、分析窓は、石英セル、ガラス等で作られている必要がある。
【0005】
【特許文献1】特開2000−329682号
【特許文献2】特表2006−517987号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分光分析によって分析されるある種の試料、例えばリチウムイオン二次電池の正極材料のような電池材料は、不活性雰囲気において分析する必要がある。また、反応の時間分解分析を行うために、試料の分析を行っている状態で、分析される試料と周囲雰囲気との反応を開始させる必要があることがある。したがって、このような分析を可能にする分光分析用試料容器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の第(1)項〜第(6)項に示すようなものである。
【0008】
(1)分光分析用試料容器の内側領域と外側領域とを隔てる試料容器壁、及び分光分析のための光を通す分析窓を有し、且つ分析される試料を上記内側領域に密封できる、分光分析用試料容器であって、
上記試料容器壁及び/又は上記分析窓の少なくとも一部が、樹脂フィルムによって形成されていることを特徴とする、分光分析用試料容器。
【0009】
(2)上記樹脂フィルムが、引っ張り応力を有する、上記第(1)項に記載の試料容器。
【0010】
(3)上記分析窓が上記樹脂フィルムによって形成されている、上記第(1)又は第(2)項に記載の試料容器。
【0011】
(4)上記試料容器壁の一部が上記樹脂フィルムによって形成されており、且つ上記樹脂フィルムと上記内側領域との間にフィルターが配置されている、上記第(1)又は第(2)項に記載の試料容器。
【0012】
(5)(a)上記第(1)項に記載の分光分析用試料容器の内側領域内に、試料を密封し、
(b)上記試料容器を、分光分析装置の試料ステージ上に配置し、そして
(c)上記試料容器の樹脂フィルムを開封すること、
を含む、分光分析方法。
【0013】
(6)工程(c)において、上記分光分析用試料容器を大気雰囲気から遮断した後で、且つ/又は上記試料の分光分析を行いながら、上記樹脂フィルムを開封する、請求項5に記載の分光分析方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<本発明の分光分析用試料容器>
本発明の分光分析用試料容器は、分光分析用試料容器の内側領域と外側領域とを隔てる試料容器壁、及び分光分析のための光を通す分析窓を有し、且つ分析される試料を密封できる。この本発明の分光分析用試料容器は、試料容器壁及び/又は分析窓の少なくとも一部が、樹脂フィルムによって形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の分光分析用試料容器によれば、所望の雰囲気のグローブボックス等で試料容器の内側領域内に試料を密封した後で、試料と周囲雰囲気との接触を避けた状態で、この試料容器を分光分析装置まで持ち運び、そして試料ステージ上に配置することができる。また、その後、試試料ステージ上において、料容器壁及び/又は分析窓の少なくとも一部を形成する樹脂フィルムを開封することができる。
【0016】
したがって本発明の分光分析用試料容器によれば特に、分光分析装置が、試料ステージを所望の雰囲気、圧力、温度等にできる分析チャンバーを有する場合に、試料容器壁及び/又は分析窓の少なくとも一部を形成する樹脂フィルムを開封することによって、試料ステージ上において、試料を、不活性雰囲気、反応性雰囲気等の所望の雰囲気と接触させることができる。
【0017】
分光分析用試料容器の試料容器壁は、試料を密封することができる任意の材料で作ることができ、例えば鉄、アルミニウム、白金、ステンレス等の金属、ポリエチレン等の樹脂、ガラス等の無機材料で作ることができる。分光分析用試料容器の分析窓は、分光分析のための光を透過させ、且つ試料を密封することができる任意の材料で作ることができ、例えばガラス、石英等の透明材料で作ることができる。分光分析用試料容器の容器壁及び/又は分析窓の少なくとも一部は、樹脂フィルムによって形成されており、すなわち容器壁及び/又は分析窓を構成する材料の一部又は全てが、樹脂フィルムによって置き換えられている。
【0018】
容器壁及び/又は分析窓の少なくとも一部を形成する樹脂フィルムは、分光分析用試料容器を分光分析装置の試料ステージ上に配置した後で開封することができる範囲で、任意の材料で作ることができ、また任意の厚さを有するようにすることができる。したがって例えば、樹脂フィルムは、フッ素系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、アクリル樹脂又はそれらの組み合わせから作ることができ、またその厚さは、1μm〜1mm、特に1μm〜100μm、より特に1μm〜50μm、更により特に5μm〜20μmであってよい。また随意に、樹脂フィルムは、着色されており、それによって、フィルムを開封するためにレーザー光を用いたときに、レーザー光を吸収しやすくなるようにしてもよい。
【0019】
本発明の分光分析用試料容器では、この樹脂フィルムは、引っ張り応力を有していてもよい。この場合、樹脂フィルムの一部を開封したときに、開封部分を引っ張り張力によって拡大することが可能になる。
【0020】
本発明の分光分析用試料容器の1つの態様では、分光分析用試料容器の分析窓は、樹脂フィルムによって形成されている。この場合、分光分析用試料容器を分光分析装置の試料ステージ上に配置した後で、分析窓を形成する樹脂フィルムを開封することによって、試料ステージ上において、分析窓を通さずに、試料を直接に観察することが可能になる。
【0021】
上記のように、従来の分光分析用試料容器の分析窓は、分析において照射又は観察する光を有意に吸収、散乱、反射等しない材料で作られている。しかしながら、このような材料で作られている分析窓であっても、場合によっては吸収、散乱、反射等によって、分析を妨げる可能性があることが考えられる。したがって、この態様でのように、分析窓を通さずに、試料を直接に観察することは、分析の精度等に関して好ましいことがある。
【0022】
本発明の分光分析用試料容器の他の態様では、試料容器壁の一部が樹脂フィルムによって形成されており、且つ樹脂フィルムと内側領域との間にフィルターが配置されている。この場合、樹脂フィルムを開封したときに、試料容器の内側領域に配置されている試料が散乱することを防ぎつつ、試料容器内の試料を周囲雰囲気と接触させることが可能になる。この態様の分光分析用容器では例えば、分析窓が、分光分析のための光を透過させる材料の筒状体によって提供されており、且つ試料容器壁が、この筒状体の端部を密封している。
【0023】
本発明の分光分析用試料容器は例えば、図1又は図2に示すようなものであってよい。
【0024】
図1で示される分光分析用試料容器10は、容器本体12と容器蓋14とを有している。ここで、容器本体12は、分光分析用試料容器の内側領域17と外側領域とを隔てる試料容器壁からなっている。また容器蓋14は、樹脂フィルムによって形成されている分析窓16と、試料容器壁からなっている他の部分15とを有する。この図1で示される分光分析用試料容器10の使用においては、例えばグローブボックス内で、容器蓋14を開けて、分析される試料1を容器本体12内の内側領域17に入れ(図1(A))、その後、容器蓋14によって試料1を密封する(図1(B))。
【0025】
図2で示される分光分析用試料容器20は、円筒状容器本体26と、容器蓋22とを有している。ここでこの円筒状容器本体26は、分析用のレーザー光等の透過を可能にする透明材料、例えばガラスで作られており、それによって分析窓として機能する。また、容器蓋22は、分析される試料1をこの円筒状容器本体26内に封入するための容器壁として機能する。この容器蓋22は、樹脂、金属等で作られていてよい蓋本体23、樹脂フィルム25、及び樹脂フィルム25を開封したときに試料の飛散を防ぐフィルターとしてのガラスウール24を有している。
【0026】
この図2で示される分光分析用試料容器20の使用においては、例えばグローブボックス内で、容器蓋22のいずれか一方を容器本体26から取り外して、分析される試料1を容器本体26の内側領域に入れ、その後、容器蓋22によって試料1を密封する。
【0027】
<本発明の分光分析方法>
本発明の分光分析方法は、下記の工程(a)〜(c)を含むことができる:
(a)本発明の分光分析用試料容器の内側領域内に、試料を密封し、
(b)試料容器を、分光分析装置の試料ステージ上に配置し、そして
(c)試料容器の樹脂フィルムを開封すること。
【0028】
本発明の分光分析方法としては、吸収分光分析、発光分析、及び光散乱分光分析(例えばラマン散乱分光法)を挙げることができる。また、本発明の分光分析方法としては、これらの分光分析を経時的に行う時間分解分光分析であってもよく、この場合には、パルスレーザーを使用することができる。
【0029】
樹脂フィルムの開封は、試料容器の樹脂フィルムを開封できる任意の手段によって行うことができ、例えば熱的開封手段、又は機械的開封手段であってよい。熱的開封手段としては、レーザー光源及びヒーターを挙げることができ、機械的開封手段としては、ナイフ及び針のような切開器具を挙げることができる。レーザーを用いる分光分析装置では、開封手段として用いられるレーザー光源は、分析において用いる分析用レーザー光源であっても、別個の開封用レーザー光源、例えばNd−YAGパルスレーザーであってもよい。
【0030】
本発明の分光分析方法の1つの態様では、工程(c)において、試料容器を大気雰囲気から遮断した後で、試料容器の樹脂フィルムを開封することができる。この場合、試料を、試料ステージの周囲の所望の雰囲気、例えば不活性雰囲気又は反応性雰囲気に露出させることができる。なお、試料ステージの周囲の所望の雰囲気は、試料ステージを収容する分析チャンバーを提供することによって達成できる。
【0031】
また、本発明の分光分析方法の他の態様では、工程(c)において、試料の分光分析を行いながら、試料容器の樹脂フィルムを開封することができる。この場合、試料容器の開封に伴う試料の変化、すなわち例えば試料と周囲雰囲気との反応による試料の変化を、変化の開始から経時的に観察することができる。
【0032】
試料にレーザー光を照射してラマン散乱分光分析のような光散乱分光分析を行う本発明の分光分析方法は、例えば、図3又は図4に示すような機構を用いて達成することができる。
【0033】
本発明の分光分析用方法を実施するための図3で示される機構では、図1で示される分光分析用試料容器10内に試料を密封し、そして試料を密封している分光分析用試料容器10を、分光分析装置の分析チャンバー34内の試料ステージ(図示せず)上に配置する。ここで、分析チャンバー34は、それぞれバルブ35a及び36aによって制御することができる雰囲気ガス37のための供給口35及び排出口36を有し、それによって分析チャンバー34内の雰囲気を所望の雰囲気及び圧力にできるようにされている。
【0034】
その後、図3で示される機構では、随意に試料容器10を大気雰囲気から遮断した後で、且つ/又は試料の分光分析を行いながら、試料に分析用レーザー光を照射するための分析用レーザー光源31から、ハーフミラー32にレーザー光33を照射し、それによって分析用レーザー光33を、ハーフミラー32で反射させ、分析チャンバー34の分析窓34aを通して、分光分析用試料容器10の分析窓16に向かわせる。分光分析用試料容器10の分析窓16に照射された分析用レーザー光33は、分析窓16を形成している樹脂フィルムを熱によって開封することができる。ただし、分析窓16を形成している樹脂フィルムを開封するために、試料に分析用レーザー光を照射するための分析用レーザー光源31の他に、分析窓16を形成している樹脂フィルムを開封するための別個の開封用レーザー光源を用いることも当然に可能である。
【0035】
分光分析用試料容器10の分析窓16を開封した分析用レーザー光は、分光分析用試料容器10内の試料1を照射し、それによってラマン散乱光38をもたらす。このラマン散乱光38は、分析チャンバー34の分析窓34a、そしてハーフミラー32を通して、散乱光検出器39によって検出する。
【0036】
本発明の分光分析用方法を実施するための図4で示される機構では、図2で示される分光分析用試料容器20内に試料1を密封し、そして試料1を密封している分光分析用試料容器20を、分光分析装置の分析チャンバー44内の試料ステージ(図示せず)上に配置する。分析チャンバー44は、図3で示したのと同様に、分析チャンバー44内を所望の雰囲気及び圧力にできるようにされている。
【0037】
図4で示される機構では、試料容器20を大気雰囲気から遮断した後で、且つ/又は試料1の分光分析を行いながら、分光分析用試料容器20の樹脂フィルム25a及びbを開封するための開封用レーザー光源41から、ハーフミラー42にレーザー光43を照射し、それによって開封用レーザー光の一部43aを、ハーフミラー42、そして分析チャンバー44の側面窓44aを透過させて、分光分析用試料容器20の樹脂フィルム25aに照射する。また他方で、開封用レーザー光源41からの開封用レーザー光43のうちのハーフミラー42で反射させた部分43bは、ミラー45a、45b及び45cで反射させ、そして分析チャンバー44の側面窓44bを通して、分光分析用試料容器20の樹脂フィルム25bに照射する。
【0038】
分光分析用試料容器20の樹脂フィルム25a及びbを照射する開封用レーザー光43a及びbは、樹脂フィルム25a及びbを熱によって開封することができる。
【0039】
図4で示される機構では、開封用レーザー光43a及びbによって樹脂フィルム25a及びbを開封する前から又はその後で、図3に関して説明したのと同様に、分析用レーザー光源31からの分析用レーザー光33を、分光分析用試料容器20内の試料1に照射し、それによってラマン散乱光38をもたらす。このラマン散乱光38は、散乱光検出器39によって検出する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の分光分析用試料容器の1つの態様を示す斜視図である。
【図2】本発明の分光分析用試料容器の他の態様を示す断面図である。
【図3】図1に示す本発明の分光分析用試料容器を用いて、本発明の分光分析用方法を実施するための機構の1つの態様を示す断面図である。
【図4】図2に示す本発明の分光分析用試料容器を用いて、本発明の分光分析用方法を実施するための機構の1つの態様を示す断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 試料
10、20 本発明の分光分析用試料容器
12、26 試料容器本体
14、22 試料容器蓋
16、25 樹脂フィルム
24 フィルター
31 分析用レーザー光源
34、44 分析チャンバー
37 雰囲気ガス
39 検出器
41 開封用レーザー光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光分析用試料容器の内側領域と外側領域とを隔てる試料容器壁、及び分光分析のための光を通す分析窓を有し、且つ分析される試料を前記内側領域に密封できる、分光分析用試料容器であって、
前記試料容器壁及び/又は前記分析窓の少なくとも一部が、樹脂フィルムによって形成されていることを特徴とする、分光分析用試料容器。
【請求項2】
前記樹脂フィルムが、引っ張り応力を有する、請求項1に記載の分光分析用試料容器。
【請求項3】
前記分析窓が前記樹脂フィルムによって形成されている、請求項1又は2に記載の分光分析用試料容器。
【請求項4】
前記試料容器壁の一部が前記樹脂フィルムによって形成されており、且つ前記樹脂フィルムと前記内側領域との間にフィルターが配置されている、請求項1又は2に記載の分光分析用試料容器。
【請求項5】
(a)請求項1に記載の分光分析用試料容器の内側領域内に、試料を密封し、
(b)前記試料容器を、分光分析装置の試料ステージ上に配置し、そして
(c)前記試料容器の樹脂フィルムを開封すること、
を含む、分光分析方法。
【請求項6】
工程(c)において、前記分光分析用試料容器を大気雰囲気から遮断した後で、且つ/又は前記試料の分光分析を行いながら、前記樹脂フィルムを開封する、請求項5に記載の分光分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−162618(P2009−162618A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547(P2008−547)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】