説明

分岐型化合物、並びにこれを用いた有機薄膜及び有機薄膜素子

【課題】電子輸送性の優れた有機n型半導体として利用可能な新規共役系化合物を提供する。
【解決手段】コア部と、コア部に結合した少なくとも3個の側鎖部と、側鎖部にそれぞれ結合した末端部とから構成され、側鎖部は、複数の共役系単位が連結した基であってこの共役系単位の少なくとも1個は2価の複素環基であり、末端部のうち少なくとも1個は、下記一般式(1)で表される基であり、側鎖部及び末端部は、コア部と共役している、分岐型化合物。


[式中、Arは3価の芳香族炭化水素基又は3価の複素環基を示し、Xは酸素原子、硫黄原子などで表される基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐型化合物、並びにこれを用いた有機薄膜及び有機薄膜素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機トランジスタ、有機太陽電池、光センサ等の有機薄膜素子の材料として、有機n型半導体である共役系化合物が種々開発されている。その具体例としては、オリゴチオフェンの末端にフルオロアルキル基を導入した化合物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2003/010778号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した化合物は、電子輸送性が十分な有機n型半導体として利用可能なものではない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、電子輸送性に優れた有機n型半導体として利用可能な新規分岐型化合物を提供することにある。本発明の目的はまた、この新規分岐型化合物を含む有機薄膜、及びこの有機薄膜を備える有機薄膜トランジスタ、有機太陽電池及び光センサ等の有機薄膜素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、コア部と、コア部に結合した少なくとも3個の側鎖部と、側鎖部のそれぞれに結合した末端部と、から構成される分岐型化合物であって、上記側鎖部は、複数の共役系単位が連結した基であって、この共役型単位のうち少なくとも1個が2価の複素環基であり、上記末端部のうち少なくとも1個は、下記一般式(1)で表される基であり、上記側鎖部及び上記末端部は、上記コア部と共役している、分岐型化合物を提供する。
【0007】
【化1】

【0008】
ここで、Arは置換基を有していてもよい3価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい3価の複素環基を示し、Xは酸素原子、硫黄原子又は下記一般式(a)で表される基を示す。複数存在するXは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0009】
【化2】

【0010】
式中、Aは水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、複数存在するAはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、少なくとも1個のAは電子吸引性の基である。
【0011】
本発明の分岐型化合物は、3個以上有する側鎖部に複素環構造が含まれ、側鎖部及び末端部がコア部と共役していることから、共役の広がりが平面的又は立体的に広がっており、分子同士の相互作用がし易くなる。また、末端に一般式(1)で表されるフッ素原子を含む電子吸引性の基を有していることから、十分に低いLUMOを示すことができる。そのため、上記分岐型化合物は、電子輸送性に優れたn型半導体として十分に好適なものとなる。また、このような化合物は、上記の電子吸引性の基において、フッ素原子が結合した炭素原子に隣接して「>C=X」で表される構造を有することから、化学的に安定で、また溶媒への溶解性にも優れているため、大面積で均質な有機薄膜を形成することができる。よって、上記分岐型化合物を用いて有機薄膜を形成させることで、性能の優れた有機薄膜素子が製造可能となる。
【0012】
上記分岐型化合物において、LUMOを一層低下させることができる観点から、上記一般式(1)で表される基が、下記一般式(2)で表される基であることが好ましい。
【0013】
【化3】

【0014】
ここで、Xは上記と同義であり、Rは水素原子又は1価の基を示し、jは、1からRが結合している環の置換可能な部位の数までの整数である。Rが複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。Zは、下記式(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、(vii)、(viii)及び(ix)(以下、「(i)〜(ix)」のように表記する場合がある)で表される基のいずれかを示し、これらの基中のR、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子又は1価の基を示し、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0015】
【化4】

【0016】
さらに、上記一般式(2)で表される基において、式中のZが上記式(ii)で表される基であることが好ましい。このような共役系化合物は、LUMOが十分に低く、電子輸送性により優れる。そのため、有機n型半導体として好適に使用できる。
【0017】
また、上記分岐型化合物において、上記側鎖部が、下記一般式(3)で表される基であることが好ましい。
【0018】
【化5】

【0019】
式中、m、n及びoは、同一又は異なり、0〜10の整数を示す、ただし、m+oは1以上の整数である。Arは置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい2価の複素環基を示し、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい1価の複素環基を示す。Ar、R、R、R又はRで表される基は、一部又は全部の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Z及びZ2’は、同一又は異なり、下記式(xi)〜(xix)で表される基のいずれかを示し、これらの基中のR、R10、R11及びR12は、同一又は異なり、水素原子又は1価の基を示し、RとR10とは互いに結合して環を形成していてもよい。Z、Z2’、Ar、R、R、R、R、R、R10、R11及びR12が複数存在するとき、これらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0020】
【化6】

【0021】
さらに、上記一般式(3)においては、上記Z及び上記Z2’の少なくとも一方が、上記式(xii)で表される基であることが好ましい。
【0022】
側鎖部が、上記の構成を有する分岐型化合物は、分子間の相互作用が一層顕著に得られ、LUMOが一層低下し、電子輸送性に優れたn型半導体として一層好適に使用できる。
【0023】
上記分岐型化合物において、上記コア部が、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)で表される基のいずれかであることが好ましい。
【0024】
【化7】

【0025】
式中、R13は、水素原子、アルキル基、アリール基又はシアノ基を示す。
【0026】
コア部が、上記の構成を有する分岐型化合物は、側鎖部とコア部が共役し易くなり、共役の広がりが平面的又は立体的に広がる傾向がある。
【0027】
また、本発明は上記分岐型化合物を含有する有機薄膜、それを備える有機薄膜素子、有機薄膜トランジスタ、有機太陽電池及び光センサを提供する。
【0028】
このような有機薄膜、有機薄膜トランジスタ、有機太陽電池及び光センサは、上述のように優れた電子輸送性を示す本発明の分岐型化合物を用いて形成されているため、優れた性能を得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、電子輸送性に優れる有機n型半導体として利用可能な新規の分岐型化合物を提供することができる。また、本発明によれば、この分岐型化合物を含有する有機薄膜及びこの有機薄膜を備える有機薄膜素子を提供することができる。この有機薄膜素子は、本発明の有機薄膜を備えるため、優れた電荷輸送性を発揮でき、しかも安定性にも優れたものとなり得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図2】第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図3】第3実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図4】第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図5】第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図6】第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図7】第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図8】実施形態に係る太陽電池の模式断面図である。
【図9】第1実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【図10】第2実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【図11】第3実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0032】
(分岐型化合物)
本実施形態に係る分岐型化合物は、コア部と、コア部に結合した少なくとも3個の側鎖部と、側鎖部にそれぞれ結合した末端部と、から構成される分岐型化合物であって、側鎖部は、複数の共役系単位が連結した基であって、この共役系単位の少なくとも1個は2価の複素環基であり、上記末端部のうち少なくとも1個は、上記一般式(1)で表される基であり、上記側鎖部及び上記末端部は、上記コア部と共役している。ここで、コア部は、x価の有機基であることが好ましい(xは3以上の整数であり、上記側鎖部の数に対応する。以下同様。)。
【0033】
本実施形態に係る分岐型化合物にいて、末端部の少なくとも1個は、上記一般式(1)で表される基であり、全ての末端部が上記一般式(1)で表される基であることが好ましい。このような末端部を備える上記分岐型化合物は、共役性が良好であり、化合物の安定性に優れ、十分に低いLUMOを示す。そのため、より電子輸送性に優れ、有機薄膜素子として適用したときに、優れた特性を発揮する。
【0034】
上記一般式(1)中、Arは置換基を有していてもよい3価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい3価の複素環基を示し、Xは酸素原子、硫黄原子又は上記一般式(a)で表される基を示す。ここで、Xとしては、酸素原子、上記一般式(a)で表される基が好ましく、酸素原子がより好ましい。上記一般式(1)で表される基は、フッ素原子を含む特定の構造を有することから、電子吸引性を示し、当該基を備える上記分岐型化合物は、LUMOが十分に低くなる。
【0035】
上記一般式(1)中、Arで表される3価の芳香族炭化水素基とは、ベンゼン環又は縮合環から水素原子3個を除いた残りの原子団をいい、好ましくは炭素数6〜60、より好ましくは炭素数6〜20の基である。上記縮合環としては、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、ピレン環、ペリレン環、ルブレン環、フルオレン環が挙げられる。3価の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環又はフルオレン環から水素原子3個を除いた残りの原子団が好ましい。なお、3価の芳香族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。ここで、3価の芳香族炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。なお、置換基としては、ハロゲン原子、飽和若しくは不飽和炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0036】
また、Arで表される3価の複素環基とは、複素環式化合物から水素原子3個を除いた残りの原子団をいい、好ましくは炭素数3〜60、より好ましくは炭素数3〜20の基である。複素環式化合物としては、チオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、ピロール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾチアゾール、ベンゾチアジアゾールが挙げられる。3価の複素環基としては、チオフェン、チエノチオフェンから水素原子3個を除いた残りの原子団が好ましい。なお、3価の複素環基は、置換基を有していてもよい。ここで、3価の複素環基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。なお、置換基としては、ハロゲン原子、飽和若しくは不飽和炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0037】
上記一般式(a)中、Aは水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示す。複数存在するAは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、少なくとも1個のAは電子吸引性の基であり、LUMOをより低くできる観点から、好ましくはすべてのAが電子吸引性の基である。電子吸引性の基としては、シアノ基、ニトロ基、アルデヒド基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン原子が例示され、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子が好ましく、シアノ基が特に好ましい。
【0038】
上記一般式(1)で表される基は、フッ素原子を含むことから電子吸引性を示し、このような基を末端部に有することにより、分子間で電子吸引性の基同士が相互作用し易くなり、LUMOが十分に低くなる。特に、Xが上記一般式(a)で表される基であると、電子求引性が高められる場合がある。そして側鎖部及び末端部がコア部と共役している、すなわち、コア部、側鎖部及び末端部が全体として共役していることから、分岐型化合物は、電子輸送性に優れた有機n型半導体として機能する。
【0039】
また、分岐型化合物において、上記一般式(1)で表される基以外の末端部としては、水素原子又は1価の基が挙げられる。この1価の基としては、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基が好ましい。置換基としては、ハロゲン原子、飽和又は不飽和炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基が挙げられる。これらの基における一部又は全部の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。これらのうち、分岐型化合物の安定性の観点から、フェニル基、置換フェニル基がより好ましく、フェニル基がさらに好ましい。
【0040】
上記式(1)で表される基としては、下記一般式(2)で表される基が好ましい。
【0041】
【化8】

【0042】
上記一般式(2)中、Xは上記と同義であり、Rは水素原子又は1価の基を示し、jは、1からRが結合している環の置換可能な部位の数までの整数である。Rが複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。Zは、下記式(i)〜(ix)で表される基のいずれかを示し、これらの基中のR、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子又は1価の基を示し、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0043】
【化9】

【0044】
、R、R、R及びRで表される1価の基としては、アルキル基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい1価の複素環基が好ましく、これらの基における一部又は全部の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。なお、上述したAで表される1価の基としても、これらと同様の基が挙げられる。また、Zとしては、上記式(ii)で表される基が好ましい。
【0045】
また、本実施形態に係る分岐型化合物における側鎖部は、複数の共役系単位が連結した基であり、この共役系単位として2価の複素環基を有しているが、この2価の複素環基としてチエニレン基を有していることが特に好ましい。
【0046】
このような側鎖部としては、下記一般式(3)で表される基が好ましい。
【0047】
【化10】

【0048】
式中、m、n及びoは、同一又は異なり、0〜10の整数を示す。ただし、m+oは1以上の整数である。Arは置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい2価の複素環基を示し、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい1価の複素環基を示す。Ar、R、R、R又はRで表される基は一部又は全部の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Z及びZ2’は、同一又は異なり、下記式(xi)〜(xix)で表される基のいずれかを示し、これらの基中のR、R10、R11及びR12は、同一又は異なり、水素原子又は1価の基を示し、RとR10とは互いに結合して環を形成していてもよい。Z、Z2’、Ar、R、R、R、R、R、R10、R11及びR12が複数存在するとき、これらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし、側鎖部は、少なくとも1個の2価の複素環基を含むので、Z及びZ’のうちの少なくとも1個は、式(xii)〜(xix)で表される基のいずれかとなる。
【0049】
【化11】

【0050】
上記一般式(3)において、m、n及びoは、同一又は異なり、0〜6の整数であることが好ましく、0〜3の整数であることがより好ましい。特に、m+n+oが、6以下の整数であることが好ましい。
【0051】
上記一般式(3)において、R、R10、R11及びR12で表される1価の基としては、アルキル基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよい1価の複素環基が好ましく、これらの基における一部又は全部の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。
【0052】
上記一般式(3)において、Arで表される2価の芳香族炭化水素基とは、ベンゼン環又は縮合環から水素原子2個を除いた残りの原子団をいい、好ましくは炭素数6〜60、より好ましくは炭素数6〜20の基である。縮合環としては、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、ピレン環、ペリレン環、ルブレン環、フルオレン環が挙げられる。2価の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、フルオレン環から水素原子2個を除いた残りの原子団が好ましい。なお、2価の芳香族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。ここで、2価の芳香族炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。なお、置換基としては、ハロゲン原子、飽和若しくは不飽和炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0053】
また、Arで表される2価の複素環基とは、複素環式化合物から水素原子2個を除いた残りの原子団をいい、好ましくは炭素数3〜60、より好ましくは炭素数3〜20の基である。複素環式化合物としては、チオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、ピロール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾチアゾール、ベンゾチアジアゾールが挙げられる。2価の複素環基としては、チオフェン、チエノチオフェンから水素原子2個を除いた残りの原子団が好ましい。なお、2価の複素環基は置換基を有していてもよく、2価の複素環基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。なお、置換基としては、ハロゲン原子、飽和若しくは不飽和炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0054】
また、Z及びZ’は、それらの少なくとも一方が上記一般式(xii)で表される基であると好ましい。すなわち、m及びoがいずれも1以上の整数であるとき、Z及びZ2’のいずれか一方が上記式(xii)で表される基であると好ましい。mが0であるときは、Z2’が式(xii)で表される基であると好ましく、一方、oが0であるときは、Zが式(xii)で表される基であると好ましい。
【0055】
本実施形態に係る分岐型化合物において、コア部は、側鎖部及び末端部と共役できる構造を有するx価の有機基であればよく、x価の芳香族炭化水素基、x価の複素環基、x価のアリールアミン及びその誘導体の残基、並びにそれらを組み合わせた有機基が例示される(ここで、xは3以上の整数であり、上記側鎖部の数に対応する。以下同様。)。
【0056】
x価の芳香族炭化水素基とは、ベンゼン環又は縮合環から水素原子x個を除いた残りの原子団をいい、その炭素数は、好ましくは6〜60、より好ましくは6〜20である。縮合環としては、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、ピレン環、ペリレン環、ルブレン環、フルオレン環が挙げられる。これらの中でもベンゼン環から水素原子x個以上を除いた残りの原子団が特に好ましい。なお、x価の芳香族炭化水素基は置換基を有していてもよい。ここで、x価以上の芳香族炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。なお、置換基としては、ハロゲン原子、飽和若しくは不飽和炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0057】
また、x価の複素環基とは、複素環式化合物から水素原子x個を除いた残りの原子団をいい、その炭素数は、好ましくは3〜60、より好ましくは3〜20である。複素環式化合物としては、チオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、ピロール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾチアゾール、ベンゾチアジアゾールが挙げられる。これらの中でもチオフェン、ピリジン、ピリミジン、トリアジンから水素原子x個を除いた残りの原子団が特に好ましい。なお、x価の複素環基は置換基を有していてもよく、x価の複素環基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。なお、置換基としては、ハロゲン原子、飽和若しくは不飽和炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0058】
x価のアリールアミン及びその誘導体の残基とは、アミンに1個以上のアリール基を置換した化合物及びその化合物を複数結合した化合物などの誘導体から水素原子x個除いた残りの原子団をいう。アリールアミン及びその誘導体としては、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、N,N’−テトラフェニル−フェニレンジアミン、N,N’−テトラフェニル−ビフェニレンジアミン等が例示され、トリフェニルアミンが好ましい。
【0059】
本実施形態に係る分岐型化合物において、コア部は、下記式(I)〜(V)で表される基のいずれかであることが好ましく、下記式(II)で表される基であることがより好ましい。
【0060】
【化12】

【0061】
なお、式中、R13は、水素原子、アルキル基、アリール基又はシアノ基を示す。
【0062】
上述のようなコア部から構成される分岐型化合物は、さらに共役性に優れるものとなり、電子輸送性に一層優れる有機n型半導体として利用可能となる。特に、コア部が上記構成を有し、且つ、側鎖部が一般式(3)で表される基である場合は、分子全体における共役が平面的・立体的に広がり、分子同士の相互作用がし易くなり、有機n型半導体として使用した場合の電子輸送性が大幅に向上する。
【0063】
ここで、上述した構造に含まれる置換基の好適例について詳細に説明する。上記式中、R〜R13としてのアルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロドデシル基などが挙げられる。なかでも、炭素数1〜12のアルキル基がより好ましく、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロヘキシル基がさらに好ましい。
【0064】
〜R12としてのアルコキシ基としては、上述のアルキル基をその構造中に含むアルコキシ基が例示される。
【0065】
〜R13としてのアリール基としては、炭素数6〜60のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、C〜C12アルコキシフェニル基(C〜C12は、炭素数1〜12であることを示す。以下も同様である。)、C〜C12アルキルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが例示される。なかでも、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、フェニル基、C〜C12アルコキシフェニル基、C〜C12アルキルフェニル基がより好ましく、フェニル基がさらに好ましい。
【0066】
〜R12としての1価の複素環基としては、炭素数4〜60の1価の複素環基が好ましく、チエニル基、C〜C12アルキルチエニル基、ピロリル基、フリル基、ピリジル基、C〜C12アルキルピリジル基などが例示される。なかでも、炭素数4〜20の1価の複素環基が好ましく、チエニル基、C〜C12アルキルチエニル基、ピリジル基、C〜C12アルキルピリジル基がより好ましい。
【0067】
次に、本実施形態に係る分岐型化合物について、更に詳細に説明する。本実施形態に係る分岐型化合物は、上述したように、コア部と、コア部に結合した少なくとも3個の側鎖部と、側鎖部に結合した末端部とから構成され、側鎖部及び該側鎖部に結合した末端部が、コア部と共役している。側鎖部は、共役系単位が複数連結して構成され、上記共役系単位として少なくとも1個の2価の複素環基を含み、上記一般式(3)で表される基であることが好ましい。分岐型化合物は、電子輸送性を向上させるという観点から、末端部に電子吸引性の基を有していることが好ましいことから、末端部の少なくとも1個が、上記一般式(1)で表される基であればよく、複数ある末端部は同一でも異なっていてもよい。製造の容易さ、分子間の相互作用のし易さの観点から、複数ある末端基は同一であることが好ましい。
【0068】
分岐型化合物としては、下記一般式(a)又は(b)で表される分岐型化合物が例示される。
【0069】
【化13】

【0070】
【化14】

【0071】
ここで、Xはコア部を示し、T(Lは1〜4の整数)は側鎖部を示し、Y(Lは1〜4の整数)は末端部を示す。T〜Tは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、製造の容易さの観点から、同一であることが好ましい。また、Y〜Yは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、製造の容易さの観点から、同一であることが好ましい。
【0072】
本実施形態に係る分岐型化合物は、電子輸送性をより高め、安定性に優れるという観点から、下記一般式(c)、(d)又は(e)で表される化合物であることがさらに好ましい。
【0073】
【化15】

【0074】
【化16】

【0075】
【化17】

【0076】
式(c)、(d)、(e)中、Z、X及びRは上記と同義であり、複数あるZ、X及びRは同一でも異なっていてもよい。Rは水素原子又はアルキル基を示し、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。複数連結した一連のチオフェン環の置換基Rの少なくとも1つは、水素原子でないことが好ましい。tは、2〜6の整数を示す。複数存在するtは、同一であっても異なっていてもよい。
【0077】
本実施形態に係る分岐型化合物は、電気化学測定(サイクリックボルタンメトリー)法によって測定されるフェロセンを基準とした還元電位が−2.0V〜+0.5Vであるものが好ましく、−1.8V〜+0.2Vであるものがより好ましい。上述の数値範囲の還元電位を有することで、分岐型化合物はより電子輸送性に優れるn型半導体として十分に好適なものとなる。還元電位は、例えば、以下に述べる方法によって測定することができる。
【0078】
還元電位の測定においては、支持電解質として、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロフォスファートを0.1mol/L程度含有する有機溶剤を準備し、これに測定対象材料を0.1〜2mM程度溶解させる。こうして得られた溶液から、乾燥窒素バブリング、減圧脱気、超音波照射などの手法により、酸素を除去する。その後、作用電極として白金電極やグラッシーカーボン電極を用い、対電極として白金電極を用い、掃引速度100mV/secにて電気的中性状態から電解還元する。そして、電解還元時に検出される最初のピーク値の電位を、フェロセン等の基準物質の酸化還元電位と比較することにより、測定対象材料の酸化(又は還元)電位を得る。こうして得られた酸化(又は還元)電位を、更にフェロセンを基準として換算した値を、還元電位とすることができる。
【0079】
次に、本実施形態に係る分岐型化合物の製造方法について説明する。上記分岐型化合物は、例えば、下記一般式(IX)〜(XIV)で表される化合物を原料として、これらを反応させることにより製造することができる。
【0080】
【化18】

【0081】
【化19】

【0082】
【化20】

【0083】
【化21】

【0084】
【化22】

【0085】
【化23】

【0086】
式(IX)〜(XIV)中、Ar、Ar、X、Z、Z、Z’、R、R〜R、m、n、o及びjは、上記と同義である。W及びWは、同一又は異なり、ハロゲン原子、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基(−B(OH))、ホルミル基、トリアルキルスタニル基又はビニル基を示す。ホウ酸エステル残基としては、ジメチルホウ酸、ジイソプロピルホウ酸、1,3,2−ジオキサボロラン、4,4,5,5−テトラエチル−1,3,2−ジオキサボロラン、1,3,2−ジオキサボロアンが挙げられる。
【0087】
一般式(IX)〜(XIV)で表される化合物の合成のしやすさ及び反応のし易さの観点から、W及びWは、同一又は異なり、ハロゲン原子、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、ホウ酸エステル残基、ホウ酸残基又はトリアルキルスタニル基であることが好ましい。これらのW又はWで表される基は、適当な反応を行うことにより結合を生じることができる重合反応性基である。
【0088】
なお、原料として、一般式(IX)又は(X)で表され、Xが酸素原子である化合物を用いる場合は、強い電子吸引性のため反応し難いことがある。その場合は、カルボニル基をアルキレンジオキシ基に変換した下記一般式(IX’)や(X’)で表される化合物を原料として用いて反応を行った後、適切な段階でこれらの化合物が有していたアルキレンジオキシ基をカルボニル基に変換してもよい。下記式(IX’)及び(X‘)中、Ar、Z、R及びWは上記と同義である。
【0089】
【化24】

【0090】
【化25】

【0091】
以下、これらの原料を用いた分岐型化合物の製造方法について、さらに詳しく説明する。
【0092】
上記一般式(IX)、好ましくは上記一般式(X)で表される化合物が、末端部の原料の好適例であり、上記一般式(XI)、(XII)又は(XIII)、好ましくは上記一般式(XIV)で表される化合物が、側鎖部の原料の好適例である。また、コア部の原料としては、上述したような好適なコア部の構造において、側鎖部との結合手をWやWで表される基に置き換えたものが挙げられる。そして、これらの原料を用い、WやWで表される基同士の反応によって原料同士を結合させることで、分岐型化合物を得ることができる。この際、目的とする分岐型化合物の構造に応じて、原料の化合物を、適当な中間化合物を形成しながら順次反応させてもよい。
【0093】
同士、W同士又はWとWとを結合させる反応としては、Suzukiカップリング反応を用いる方法、Grignard反応を用いる方法、Stille反応を用いる方法、脱ハロゲン化反応を用いる方法が挙げられる。
【0094】
これらのうち、Suzukiカップリング反応を用いる方法、Stille反応を用いる方法が、原料の入手しやすさと反応操作の簡便さから好ましい。
【0095】
Suzukiカップリング反応の場合は、触媒として、パラジウム[テトラキス(トリフェニルホスフィン)]、パラジウムアセテート類などを用い、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化バリウム等の無機塩基、トリエチルアミン等の有機塩基、フッ化セシウムなどの無機塩をモノマーに対して当量以上、好ましくは1〜10当量加えて反応させる。この場合、無機塩を水溶液として、2相系で反応させてもよい。溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、トルエン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどが例示される。反応温度は、使用する溶媒にもよるが50〜160℃が好ましい。溶媒の沸点近くまで昇温し、還流させてもよい。反応時間は1時間から200時間である。Suzukiカップリング反応については、ケミカル・レビュー(Chem.Rev.),第95巻,2457頁(1995年)に記載されている。
【0096】
Stille反応の場合は、触媒として、パラジウム[テトラキス(トリフェニルホスフィン)]、パラジウムアセテート類などを用い、有機スズ化合物をモノマーとして反応させる。溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、トルエン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどが例示される。反応温度は、使用する溶媒によるが、50〜160℃が好ましい。溶媒の沸点近くまで昇温し、還流させてもよい。反応時間は1時間から200時間である。
【0097】
重合反応性基W、Wとしては、ハロゲン原子、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基、ホルミル基、アルキルスタニル基、ビニル基が例示されるが、それらは用いる反応に応じて適宜組み合わせて用いることができる。ホウ酸エステル残基としては、下記式で示される基が挙げられる。
【0098】
【化26】

【0099】
活性官能基WとWとの組合せとして、Suzukiカップリング反応を用いる方法では、ハロゲン原子とホウ酸エステル残基又はホウ酸残基との組み合わせが好ましく、Stille反応を用いる方法では、ハロゲン原子とアルキルスタニル基との組み合わせが好ましい。
【0100】
上記反応を行う際には、所望の部位を保護基によって保護してもよい。保護基としては、保護したい部位及び用いる反応によって適した基を選択すればよく、例えば、「Protective Groupes in Organic Syntehesis, 3rd ed. T.W. GreeneandP.G. M.. Wuts, 1999 John Willey & Sons, Inc.」に記載されている保護基が好ましい。保護したい部位がアルキンの場合、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基などのトリアルキルシリル基、ビフェニルジメチルシリル基などのアリールジアルキルシリル基、2−ヒドロキシプロピル基などが挙げられ、なかでもトリメチルシリル基が好ましい。
【0101】
反応させる原料(モノマー)は、有機溶媒に溶解したり、アルカリや適当な触媒を用いたりして、有機溶媒の融点以上沸点以下で反応させてもよい。
【0102】
有機溶媒としては、用いる化合物や反応によっても異なるが、一般に副反応を抑制するために、十分に脱酸素処理を施したものを用い、不活性雰囲気下で反応を進行させることが好ましい。また、同様に、脱水処理を行うことが好ましい(ただし、Suzukiカップリング反応のような水との2相系での反応の場合には脱水処理を行わなくてもよい)。
【0103】
本実施形態に係る分岐型化合物を製造する際、適宜アルカリや適当な触媒を添加することができるが、これらは用いる反応に応じて選択すればよい。また、上記アルカリ又は触媒は、反応に用いる溶媒に十分に溶解するものを使用することが好ましい。
【0104】
本実施形態に係る分岐型化合物を有機薄膜素子用の材料として用いる場合、その純度が素子特性に影響を与える場合がある。そこで、反応前の原料を蒸留、昇華精製、再結晶等の方法で精製したのちに反応に用いることが好ましく、また合成後、昇華精製、再結晶、再沈精製、クロマトグラフィーによる分別等の純化処理をすることが好ましい。
【0105】
反応に用いられる溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の不飽和炭化水素、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、ブロモペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化不飽和炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン等のエーテル類、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸等が例示される。これらは、単一溶媒として用いてもよく、これらの混合溶媒として用いてもよい。
【0106】
反応後は、水でクエンチした後に有機溶媒で抽出し、溶媒を留去する等の通常の後処理で生成物を得ることができる。生成物の単離後及び精製は、クロマトグラフィーによる分取や再結晶等の方法により行うことができる。
【0107】
(有機薄膜)
次に、本実施形態に係る有機薄膜について説明する。本実施形態に係る有機薄膜は、上記分岐型化合物を含有することを特徴とする。
【0108】
有機薄膜の膜厚は、通常1nm〜100μmであり、好ましくは2nm〜1000nmであり、さらに好ましくは5nm〜500nmであり、特に好ましくは20nm〜200nmである。
【0109】
有機薄膜は、上記分岐型化合物の1種類を単独で含むものであってもよく、また上記分岐型化合物の2種類以上を含むものであってもよい。また、有機薄膜の電子輸送性又はホール輸送性を高めるため、上記分岐型化合物以外に電子輸送性材料、ホール輸送性材料を混合して用いることもできる。
【0110】
ホール輸送性材料としては、公知のものが使用でき、例えばピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリアリールジアミン誘導体、オリゴチオフェン及びその誘導体、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリアリーレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体等が例示される。電子輸送性材料としては公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン及びその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8−ヒドロキシキノリン及びその誘導体の金属錯体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、C60等のフラーレン類及びその誘導体等が例示される。
【0111】
また、本実施形態に係る有機薄膜は、有機薄膜中で吸収した光により電荷を発生させるために、電荷発生材料を含んでいてもよい。電荷発生材料としては公知のものが使用でき、アゾ化合物及びその誘導体、ジアゾ化合物及びその誘導体、無金属フタロシアニン化合物及びその誘導体、金属フタロシアニン化合物及びその誘導体、ペリレン化合物及びその誘導体、多環キノン系化合物及びその誘導体、スクアリリウム化合物及びその誘導体、アズレニウム化合物及びその誘導体、チアピリリウム化合物及びその誘導体、C60等のフラーレン類及びその誘導体が例示される。
【0112】
さらに、本実施形態に係る有機薄膜は、種々の機能を発現させるために必要なその他の材料を含んでいてもよい。その他の材料としては、吸収した光により電荷を発生させる機能を増感するためのため増感剤、安定性を増すための安定化剤、UV光を吸収するためのUV吸収剤等が挙げられる。
【0113】
また、本実施形態に係る有機薄膜は、機械的特性を高めるため、上記分岐型化合物以外の高分子化合物を高分子バインダーとして含んでいてもよい。高分子バインダーとしては、電子輸送性又はホール輸送性を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好ましく用いられる。
【0114】
このような高分子バインダーとして、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)及びその誘導体、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)及びその誘導体、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が例示される。
【0115】
本実施形態に係る有機薄膜の製造方法としては、上記分岐型化合物、必要に応じて混合する電子輸送性材料又はホール輸送性材料、高分子バインダーを含む溶液を用いた成膜による方法が例示される。また、分岐型化合物は真空蒸着法により薄膜に形成することもできる。
【0116】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、分岐型化合物及び混合する電子輸送性材料又はホール輸送性材料、高分子バインダーを溶解させるものであればよい。
【0117】
本実施形態に係る有機薄膜を溶液から成膜する場合に用いる溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、デカリン、ビシクロヘキシル、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン等の不飽和炭化水素系溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、ブロモペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化不飽和炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類系溶媒等が例示される。分岐型化合物は、その構造や分子量にもよるが、これらの溶媒に0.1質量%以上溶解させることができる。
【0118】
溶液からの成膜には、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法等の塗布法を用いることができ、スピンコート法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法を用いることが好ましい。
【0119】
本実施形態に係る有機薄膜は、成膜後にアニール処理が施されることが好ましい。アニール処理により、分岐型化合物間の相互作用が促進される等、有機薄膜の膜質が改善され、電子移動度又はホール移動度が向上する。アニール処理の処理温度としては、50℃から分岐型化合物のガラス転移温度(Tg)付近の間の温度が好ましく、(Tg−30℃)からTgの間の温度がより好ましい。アニール処理する時間としては、1分から10時間が好ましく、10分から1時間がより好ましい。アニール処理する雰囲気としては、真空中又は不活性ガス雰囲気中が好ましい。
【0120】
本実施形態に係る有機薄膜は、電子輸送性又はホール輸送性を有することから、電極から注入された電子若しくはホール、又は光吸収により発生した電荷を輸送制御することにより、後述するような有機薄膜トランジスタ、有機薄膜発光トランジスタ、有機太陽電池、光センサ等種々の有機薄膜素子に用いることができる。以下、好適な有機薄膜素子の例について説明する。
【0121】
(有機薄膜トランジスタ)
まず、好適な実施形態に係る有機薄膜トランジスタについて説明する。有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となり本発明の分岐型化合物を含む活性層(有機薄膜層であることが好ましく、以下同様である。)、電流経路を通る電流量を制御するゲート電極を備えた構造であればよく、電界効果型、静電誘導型などが例示される。
【0122】
電界効果型有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となり上述した好適な分岐型化合物を含む活性層、電流経路を通る電流量を制御するゲート電極、並びに、活性層とゲート電極との間に配置される絶縁層を備えることが好ましい。特に、ソース電極及びドレイン電極が、上記分岐型化合物を含む活性層に接して設けられており、さらに活性層に接した絶縁層を挟んでゲート電極が設けられていることが好ましい。
【0123】
静電誘導型有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となり分岐型化合物を含有する活性層、並びに電流経路を通る電流量を制御するゲート電極を有し、該ゲート電極が活性層中に設けられていることが好ましい。特に、ソース電極、ドレイン電極及び活性層中に設けられたゲート電極が、分岐型化合物を含有する活性層に接して設けられていることが好ましい。ゲート電極の構造としては、ソース電極からドレイン電極へ流れる電流経路が形成され、かつゲート電極に印加した電圧で電流経路を流れる電流量が制御できる構造であればよく、例えば、くし形電極が挙げられる。
【0124】
図1は第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図1に示す有機薄膜トランジスタ100は、基板1と、基板1上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を覆うようにして基板1上に形成された活性層2と、活性層2上に形成された絶縁層3と、ソース電極5とドレイン電極6との間の絶縁層3の領域を覆うように絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0125】
図2は第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図2に示す有機薄膜トランジスタ110は、基板1と、基板1上に形成されたソース電極5と、ソース電極5を覆うようにして基板1上に形成された活性層2と、ソース電極5と所定の間隔を持って活性層2上に形成されたドレイン電極6と、活性層2及びドレイン電極6上に形成された絶縁層3と、ソース電極5とドレイン電極6との間の絶縁層3の領域を覆うように絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0126】
図3は、第3の実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図3に示す有機薄膜トランジスタ120は、基板1と、基板1上に形成された活性層2と、活性層2上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を一部覆うようにして活性層2上に形成された絶縁層3と、ソース電極5が下部に形成されている絶縁層3の領域とドレイン電極6が下部に形成されている絶縁層3の領域とをそれぞれ一部覆うように、絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0127】
図4は第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図4に示す有機薄膜トランジスタ130は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を一部覆うように、絶縁層3上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を一部覆うように絶縁層3上に形成された活性層2と、を備えるものである。
【0128】
図5は第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図5に示す有機薄膜トランジスタ140は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を一部覆うように絶縁層3上に形成されたソース電極5と、ソース電極5を一部覆うようにして絶縁層3上に形成された活性層2と、活性層2の領域を一部覆うように、ソース電極5と所定の間隔を持って絶縁層3上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0129】
図6は第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図6に示す有機薄膜トランジスタ150は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を覆うように形成された活性層2と、活性層2の領域を一部覆うように絶縁層3上に形成されたソース電極5と、活性層2の領域を一部覆うように、ソース電極5と所定の間隔を持って絶縁層3上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0130】
図7は第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(静電誘導型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図7に示す有機薄膜トランジスタ160は、基板1と、基板1上に形成されたソース電極5と、ソース電極5上に形成された活性層2と、活性層2上に所定の間隔を持って複数形成されたゲート電極4と、ゲート電極4の全てを覆うようにして活性層2上に形成された活性層2a(活性層2aを構成する材料は、活性層2と同一でも異なっていてもよい)と、活性層2a上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0131】
第1〜第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタにおいては、活性層2及び/又は活性層2aは、上記の好適な分岐型化合物を含有しており、ソース電極5とドレイン電極6の間の電流通路(チャネル)となる。また、ゲート電極4は、電圧を印加することにより活性層2及び/又は活性層2aにおける電流通路(チャネル)を通る電流量を制御する。
【0132】
このような電界効果型有機薄膜トランジスタは、公知の方法、例えば特開平5−110069号公報記載の方法により製造することができる。また、静電誘導型有機薄膜トランジスタは、公知の方法、例えば特開2004−006476号公報記載の方法により製造することができる。
【0133】
基板1としては、有機薄膜トランジスタとしての特性を阻害しなければよく、ガラス基板やフレキシブルなフィルム基板やプラスチック基板を用いることができる。
【0134】
活性層2を形成する際には、有機溶媒に可溶性の化合物を用いることが製造上非常に有利であり好ましいが、上述した共役型化合物は、優れた溶解性を有していることから、上記で説明した有機薄膜の製造方法により、活性層2となる有機薄膜を形成することができる。
【0135】
活性層2に接した絶縁層3としては、電気の絶縁性が高い材料であればよく、公知のものを用いることができる。例えばSiOx,SiNx、Ta、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、有機ガラス等が挙げられる。低電圧化の観点から、誘電率の高い材料の方が好ましい。
【0136】
絶縁層3の上に活性層2を形成する場合は、絶縁層3と活性層2の界面特性を改善するため、シランカップリング剤等の表面処理剤で絶縁層3表面を処理して表面改質した後に活性層2を形成することも可能である。表面処理剤としては、長鎖アルキルクロロシラン類、長鎖アルキルアルコキシシラン類、フッ素化アルキルクロロシラン類、フッ素化アルキルアルコキシシラン類、ヘキサメチルジシラザン等のシリルアミン化合物等が挙げられる。表面処理剤で処理する前に、絶縁層表面をオゾンUV、Oプラズマで処理をしておくことも可能である。
【0137】
有機薄膜トランジスタを作製後、素子を保護するために有機薄膜トランジスタ上に保護膜を形成することが好ましい。これにより、有機薄膜トランジスタが、大気から遮断され、有機薄膜トランジスタの特性の低下を抑えることができる。また、保護膜により有機薄膜トランジスタの上に駆動する表示デバイスを形成するときの影響を低減することができる。
【0138】
保護膜を形成する方法としては、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂や無機のSiONx膜等でカバーする方法等が挙げられる。大気との遮断を効果的に行うため有機薄膜トランジスタを作成後保護膜を形成するまでの工程を大気に曝すことなく(例えば、乾燥した窒素雰囲気中、真空中等)行うことが好ましい。
【0139】
本発明の有機薄膜トランジスタは、両極性有機半導体として機能する上記分岐型化合物を活性層に用いることにより有機薄膜発光トランジスタとしても用いることができる。
【0140】
(有機太陽電池)
次に、本発明の有機薄膜の太陽電池(有機太陽電池)への応用を説明する。図8は、実施形態に係る太陽電池の模式断面図である。図8に示す太陽電池200は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された上記の好適な分岐型化合物を含有する有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0141】
本実施形態に係る太陽電池においては、第1の電極7a及び第2の電極7bの一方に透明又は半透明の電極を用いる。電極材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属又はそれらの半透明膜、透明導電膜を用いることができる。高い開放電圧を得るためには、それぞれの電極として、仕事関数の差が大きくなるように選ばれることが好ましい。活性層2(有機薄膜)中には光感度を高めるためにキャリア発生剤、増感剤等を添加して用いることができる。基材1としては、シリコン基板、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができる。
【0142】
(光センサ)
次に、本発明の有機薄膜の光センサへの応用を説明する。図9は、第1実施形態に係る光センサの模式断面図である。図9に示す光センサ300は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された上記の好適な分岐型化合物を含有する有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された電荷発生層8と、電荷発生層8上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0143】
図10は、第2実施形態に係る光センサの模式断面図である。図10に示す光センサ310は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された電荷発生層8と、電荷発生層8上に形成された本発明の分岐型化合物を含有する有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0144】
図11は、第3実施形態に係る光センサの模式断面図である。図11に示す光センサ320は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された本発明の分岐型化合物を含有する有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0145】
第1〜第3実施形態に係る光センサにおいては、第1の電極7a及び第2の電極7bの一方に透明又は半透明の電極を用いる。電荷発生層8は光を吸収して電荷を発生する層である。電極材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属又はそれらの半透明膜、透明導電膜を用いることができる。活性層2(有機薄膜)中には光感度を高めるためにキャリア発生剤、増感剤等を添加して用いることができる。また基板1としては、シリコン基板、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができる。
【実施例】
【0146】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0147】
(測定条件等)
核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、JEOL(日本電子株式会社)製の商品名JMN−270(H測定時270MHz)、又は同社製の商品名JMNLA−600(13C測定時150MHz)を用いて測定した。ケミカルシフトは百万分率(ppm)で表している。内部標準0ppmには、テトラメチルシラン(TMS)を用いた。結合定数(J)は、ヘルツで示しており、略号s、d、t、m及びbrは、それぞれ、一重線(singlet)、二重線(doublet)、三重線(triplet)、四重線(quartet)、多重線(multiplet)及び広幅線(broad)を表す。
【0148】
質量分析(MS)は、PerSeptive Biosystems社Voyager Linear DE−H MALDI−TOF MS(商品名)を用いて測定した。カラムクロマトグラフィー分離におけるシリカゲルは、関東化学株式会社製の商品名Silicagel60N(40〜50μm)を用いた。またアルミナは、Merck社製の商品名aluminium oxide 90standardizedを用いた。全ての化学物質は、試薬級であり、和光純薬工業株式会社、東京化成工業株式会社、関東化学株式会社、ナカライテスク株式会社、シグマアルドリッチジャパン株式会社より購入した。
【0149】
サイクリックボルタンメトリーは、BAS社製の装置を使用し、作用電極としてBAS社製Pt電極、対電極としてPt線、参照電極としてAg線を用いて測定した。この測定時の掃引速度は100mV/sec、走査電位領域は−2.8V〜1.6Vであった。還元電位及び酸化電位の測定は、化合物1×10−3mol/L、及び、支持電解質としてのテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート(TBAPF6)0.1mol/Lを塩化メチレン溶媒に完全に溶解し測定した。
【0150】
(合成例1)
下記のスキーム1に従って、式(23a)で表される化合物Aを出発原料に用いて、式(23b)で表される化合物B及び式(24)で表される化合物Cを経て、分岐型化合物の原料である、式(25)で表される化合物Dを合成した。以下に詳細を説明する。
【0151】
【化27】

【0152】
<化合物Bの合成>
上記式(23a)で表される化合物Aを、文献(J.Chem.Soc.Perkin Trans 1.Organic and Bio−Organic Chemistry 1992,21,2985−2988)に記載の方法で合成した。次いで、300mLの三口フラスコに化合物A(1.00g,6.58mol)、フッ素化剤「SelectfluorTM(登録商標)」(5.60g,15.8mol)を入れ、THF(65mL)を加えて溶かした。そこへテトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド(TBAH)(10%メタノール溶液)(3.76g,14.5mol)を加え、0℃で12時間撹拌した。溶媒を減圧留去して、次に水を加え、水層を酢酸エチルで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3/1(容積比))で精製し、上記式(23b)で表される化合物B(0.934g,収率75%)を淡黄色固体として得た。
【0153】
得られた化合物Bの評価結果を以下に示す。
mp 156−158℃;TLC R=0.29(2/1=ヘキサン/酢酸エチル(容積比));H−NMR(400MHz,CDCl)δ7.60(d,1H,J=4.8Hz),8.28(d,1H,J=4.8Hz);MS(EI)m/z=188(M+)
【0154】
<化合物Cの合成>
200mLの三口フラスコに化合物B(1.97g,10.48mmol)を入れ、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)(50mL)を加えて溶かし、さらに2−クロロメタノール(3.37g,41.91mmol)を加えた。そこへDMF(50mL)に溶かしたカリウムtert−ブトキシドを−60℃で滴下した。滴下終了後、室温で4時間撹拌し、水を加えて反応を停止した。次に、水層を酢酸エチルで抽出し、水で洗ってから有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ別し、減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3/1(容積比))で精製して、上記式(24)で表される化合物C(1.58g、収率55%)を白色固体として得た。
【0155】
得られた化合物Cの評価結果を以下に示す。
mp 117−122℃;TLC R=0.34(2/1=ヘキサン/酢酸エチル(容積比));H−NMR(400MHz,CDCl)δ4.26(s,8H),7.02(d,1H,J=4.8Hz),7.51(d,1H,J=5.1Hz);MS(EI)m/z=276(M
【0156】
<化合物Dの合成>
50mLの三口フラスコに化合物C(500mg,1.81mmol)を入れ、THF(18mL)を加えて溶かした。そこへn−ブチルリチウム(1.58Mヘキサン溶液,2.29mL,3.62mmol)を−78℃で加えた。0.5時間撹拌した後、塩化トリブチルスズ(1.09mL,3.98mmol)を加え、徐々に室温まで昇温した。1時間後、水を加えて反応を停止した。水層を酢酸エチルで抽出し、水で洗ってから有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ別し、減圧濃縮した。得られた濃縮物をアルミナカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1(容積比))で精製して、上記式(25)で表される化合物D(1.02g、収率99%)を無色液体として得た。
【0157】
得られた化合物Dの評価結果を以下に示す。
TLC R=0.30(ヘキサン);H−NMR(400MHz,CDCl)δ0.89(t,9H,J=7.2Hz),1.08−1.13(m,6H),1.24−1.38(m,6H),1.49−1.60(m,6H),4.23−4.28(m,8H),7.03(s,1H);MS(EI)m/z=566(M
【0158】
(合成例2)
次に、上記で得られた化合物Dを用い、化合物Eを経て中間化合物である化合物Fを合成した。
【0159】
<化合物Eの合成>
加熱乾燥した蓋付き試験管に2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェン(600mg,2.43mmol)、化合物D(1.51g,2.67mmol)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(281mg,0.243mmol)を入れ、トルエン(25mL)を加えて溶かした。これを120℃で12時間撹拌した後、室温で放冷した。次に溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1(容積比))で精製して、下記式(26)で表される化合物E(960mg,収率81%)を黄色液体として得た。
【0160】
得られた化合物Eの評価結果を以下に示す。
TLC R=0.46(5/1=ヘキサン/酢酸エチル(容積比));H−NMR(400MHz,CDCl)δ0.89(t,3H,J=3.6Hz),1.23−1.43(m,4H),1.53−1.69(m,4H),2.72(t,2H,J=8.0Hz),4.27(s,8H),6.94(d,1H,J=5.4Hz),6.97(s,1H),7.22(d,1H,J=5.4Hz);MS(EI)m/z442(M).
【0161】
【化28】

【0162】
<化合物Fの合成>
50mLの二口フラスコに化合物E(200mg,0.452mmol)を入れ、THF(6mL)に溶かした。そこにn−ブチルリチウム(1.66Mヘキサン溶液,0.30mL,0.498mmol)を−78℃で加えた。1時間撹拌した後、臭素(86 mg,0.542mmol)を加え、徐々に室温まで昇温した。0.5時間後、水を加えて反応を停止した。水層を酢酸エチルで抽出し、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗ってから有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去することで得られた粗生成物を50mLのナスフラスコに移し、THF(6mL)に溶かした。ここに室温で濃硫酸(20mL)をゆっくり加え、12時間撹拌した。反応混合物を氷に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗い、次に飽和食塩水で洗った後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去し、得られた固体をシリカカラムクロマトグラフィー(10/1 hexane/ethyl acetate(容積比))で精製して、下記式(27)で表される化合物F(122mg,2steps 収率62%)を茶色固体として得た。
【0163】
得られた化合物Fの評価結果を以下に示す。
H NMR(400MHz,CDCl)δ0.77−0.94(m,3H),1.17−1.33(m,8H),2.60(t,2H,J=7.8Hz),7.06(s,1H),7.28(s,1H);MS(EI)m/z 433(M).
【0164】
【化29】

【0165】
(合成例3)
次に、化合物Gを合成した後、これを用いて中間化合物である化合物Hを合成した。
【0166】
<化合物Gの合成>
窒素置換した20mL二つ口フラスコに2−トリブチルスタニルチオフェン(4.27g,11.43mmol)、1,3,5−トリブロモベンゼン(1.0g,3.18mmol)を入れ、乾燥トルエン(5mL)を加えた。バブリングによる脱気後、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(92mg,0.080mmol)を加え12時間加熱還流した。セライトろ過により固形物を取り除き、減圧濃縮し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/ジクロロメタン=10/1(容積比))で精製することにより、下記式(28)で表される化合物G(964mg,収率93%)を得た。
【0167】
【化30】

【0168】
<化合物Hの合成>
加熱乾燥し窒素置換した50mL二つ口フラスコに化合物G(964mg,2.97mmol)を入れ、乾燥THF(10mL)を加えた後、−78℃まで冷却し1.6Mのn−ブチルリチウム/ヘキサン(6.2mL,9.80mmol)を滴下した。30分間撹拌した後、塩化トリブチルスズ(3.48g,10.69mmol)を一度に加えた。得られた溶液を室温まで昇温した後、3時間撹拌した。得られた反応溶液に水(20mL)及びヘキサン(20mL)を加え、有機層を水(20mL)で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。不溶物を濾過して除いた後、減圧濃縮し、カラムクロマトグラフィー(アルミナ、ヘキサン)で精製することにより、下記式(29)で表される化合物H(2.33g,収率87%)を得た。
【0169】
【化31】

【0170】
(実施例1;分岐型化合物の合成)
<化合物Iの合成>
50mLのナスフラスコに化合物F(40mg,0.0926mmol)、化合物H(28mg,0.0232mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(3mg,0.00232mmol)を入れ、トルエン(1mL)に溶かした。120℃で12時間撹拌した後、室温で放冷した。溶媒を減圧留去し、粗精製物をシリカカラムクロマトグラフィー(CHCl)に通してからGPC(CHCl)で精製して、分岐型化合物である下記式(30)で表される化合物Iを得た(9mg,収率31%).
【0171】
得られた化合物Iの評価結果を以下に示す。
TLC R=0.55(ethyl acetate:hexane=2:1(容積比));H NMR(400MHz,CDCl)δ0.88−0.99(m,9H),1.10−1.44(m,18H),1.50−1.69(m,6H),2.80−2.90(m,6H),7.18(d,3H,J=3.2Hz),7.22(s,3H),7.48(s,3H),7.54(d,3H,J=3.2Hz)、7.74(s,3H).
【0172】
【化32】

【0173】
(実施例2)
<有機薄膜トランジスタの作製及びトランジスタ特性の評価>
熱酸化膜(シリコン酸化膜)付の低抵抗シリコンウエハー(ゲート電極/絶縁層となる)を、エタノール、蒸留水、アセトンの順でそれぞれに浸漬し、超音波洗浄を行う。その後、このシリコンウエハーをUV−オゾン洗浄して、表面が親水性である基板を得る。この基板を、ヘキサメチルジシラザン:クロロホルムに室温で浸漬し、クロロホルムで超音波洗浄し、表面処理された基板を得る。
【0174】
次いで、実施例1で合成した化合物Iをクロロホルムに溶解した塗布溶液を調製する。この溶液を表面処理した基板上にスピンコート法により成膜し、有機薄膜を形成する。この有機薄膜上に、メタルマスクを用いて真空蒸着により金電極(ソース電極、ドレイン電極)を形成して、有機薄膜トランジスタを作製する。
【0175】
得られた有機薄膜トランジスタを、半導体パラメータアナライザー(keithley社製、商品名「4200−SCS」)を用いて、ゲート電圧Vg、ソース−ドレイン間電圧Vsdを変化させ、有機トランジスタ特性を測定すると、良好なn型半導体のId−Vg特性が得られる。このことから、分岐型化合物である化合物Iは、優れた電子輸送性を持つことが分かる。
【符号の説明】
【0176】
1…基板、2…活性層、2a…活性層、3…絶縁層、4…ゲート電極、5…ソース電極、6…ドレイン電極、7a…第1の電極、7b…第2の電極、8…電荷発生層、100…第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、110…第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、120…第3実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、130…第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、140…第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、150…第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、160…第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、200…実施形態に係る太陽電池、300…第1実施形態に係る光センサ、310…第2実施形態に係る光センサ、320…第3実施形態に係る光センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、該コア部に結合した少なくとも3個の側鎖部と、該側鎖部のそれぞれに結合した末端部と、から構成される分岐型化合物であって、
前記側鎖部は、複数の共役系単位が連結した基であって、前記共役系単位のうち少なくとも1個が2価の複素環基であり、
前記末端部のうち少なくとも1個は、下記一般式(1)で表される基であり、
前記側鎖部及び前記末端部は、前記コア部と共役している、分岐型化合物。
【化1】

[式中、Arは置換基を有していてもよい3価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい3価の複素環基を示し、Xは酸素原子、硫黄原子又は下記一般式(a)で表される基を示す。複数存在するXは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【化2】

[式中、Aは水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、複数存在するAはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、少なくとも1個のAは電子吸引性の基である。]
【請求項2】
前記一般式(1)で表される基が、下記一般式(2)で表される基である、請求項1記載の分岐型化合物。
【化3】

[式中、Xは前記と同義であり、Rは水素原子又は1価の基を示し、jは、1からRが結合している環の置換可能な部位の数までの整数である。Rが複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。Zは、下記式(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、(vii)、(viii)及び(ix)で表される基のいずれかを示し、これらの基中のR、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子又は1価の基を示し、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよい。]
【化4】

【請求項3】
前記Zが、前記式(ii)で表される基である、請求項2に記載の分岐型化合物。
【請求項4】
前記側鎖部が、下記一般式(3)で表される基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分岐型化合物。
【化5】

[式中、m、n及びoは、同一又は異なり、0〜10の整数を示す。ただし、m+oは1以上の整数である。Arは置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい2価の複素環基を示し、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい1価の複素環基を示す。Ar、R、R、R又はRで表される基は一部又は全部の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Z及びZ2’は、同一又は異なり、下記式(xi)、(xii)、(xiii)、(xiv)、(xv)、(xvi)、(xvii)、(xviii)及び(xix)で表される基のいずれかを示し、これらの基中のR、R10、R11及びR12は、同一又は異なり、水素原子又は1価の基を示し、RとR10とは互いに結合して環を形成していてもよい。Z、Z2’、Ar、R、R、R、R、R、R10、R11及びR12が複数存在するとき、これらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【化6】

【請求項5】
前記Z及び前記Z2’の少なくとも一方が、前記式(xii)で表される基である、請求項4に記載の分岐型化合物。
【請求項6】
前記コア部が、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)で表される基のいずれかである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の分岐型化合物。
【化7】

[式中、R13は、水素原子、アルキル基、アリール基又はシアノ基を示す。]
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の分岐型化合物を含有する、有機薄膜。
【請求項8】
請求項7記載の有機薄膜を備える、有機薄膜素子。
【請求項9】
請求項7記載の有機薄膜を備える、有機薄膜トランジスタ。
【請求項10】
請求項7記載の有機薄膜を備える、有機太陽電池。
【請求項11】
請求項7記載の有機薄膜を備える、光センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−209026(P2010−209026A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58664(P2009−58664)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】