説明

分散剤、偏光性粒子の製造方法、分散樹脂組成物、硬化性組成物及び懸濁粒子デバイス用フィルム

【解決課題】高温や光に暴露された環境下で長時間使用した場合に、そのコントラスト低下が極めて小さくなる耐熱性及び耐光性に優れた懸濁粒子デバイス用フィルムが得られる偏光性粒子を提供する。
【解決手段】沃化カルシウム、沃素、ピラジン−2,5−ジカルボン酸とを分散剤の存在下溶媒中で反応させて分子間化合物とする、懸濁粒子デバイスの偏光性粒子の製造方法において、前記分散剤として、日本工業規格(JIS)K−6703により定められる窒素分が11.5〜12.2%であり、重量平均分子量20,000〜60,000のニトロセルロースを用いることを特徴とする沃素と沃化カルシウムからなるポリ沃化物とピラジンジカルボン酸とから構成された分子間化合物からなる、懸濁粒子デバイスの偏光性粒子の製造方法、及びこうして得られた偏光性粒子を含有する懸濁粒子デバイス用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
光弁(Light Valve)のうち、電圧により配向を変える粒子を懸濁した組成物を利用したデバイスを懸濁粒子デバイス(Suspended Particle Device、以下、SPDという場合がある)という。本発明は、この懸濁粒子デバイスに用いられる、偏光性粒子を製造するための分散剤、偏光性粒子の製造方法、懸濁粒子デバイス用硬化性組成物及び懸濁粒子デバイス用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
SPDは、電界印加の有無により光の透過率が変化することによって、全体入射光量の調整が可能な光弁である。つまりSPDは光の遮蔽、透過を制御する働きを有する。SPDのマトリクス中において、無秩序な懸濁状態となっていた偏光性粒子は、電圧を加えると電場が形成され、粒子自体の配向性によって、配向する。電界印加下で配向した偏光性粒子を有する液泡は光を透過する。ここで、電圧をかけない状態に戻すと、配向していた偏光性粒子は再度無秩序に分散し、液泡は光透過性を失う。例えば透明導電性基板を通じて偏光性粒子に電界印加することによって、光の透過/遮断を制御するデバイスとすることができる。このような電圧のON/OFFによって、光の透過、遮断を行う材料は次世代調光材料として期待されている。
【0003】
SPDのマトリックスは、例えば、第一に光の透過、遮断を可能とする、アルカリ土類金属過沃化物と含窒素複素環式化合物との分子間化合物からなる偏光性粒子及びラウリル(メタ)アクリレートのような長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルを主成分として重合した液状で透明な(メタ)アクリレート樹脂とからなる液泡と、第二に、液泡に対して相溶し難い、シリコーン樹脂からなる分散媒とから構成されている。
【0004】
このようなSPDを所望の形状で得るための偏光性粒子の製造方法としては、各種の方法が用いられている(例えば特許文献1〜3)。
【0005】
しかしながら、これらの方法で得られた偏光性粒子を用いてSPDを製造した場合、常温では長時間の使用においては、SPDのコントラスト低下は小さいものの、高温や光に暴露された環境下で長時間使用した場合には、そのコントラストが著しく低下するという欠点を有している。このコントラストの低下は、より過酷な条件下でSPDを使用した場合の、光透過と光遮断の濃淡差の低下、即ちシャッター効果の劣化に繋がるものである。
【0006】
【特許文献1】特開平7−168211号公報
【特許文献2】特開2004−189736公報
【特許文献3】特開2004−307486公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、SPDを調製するための偏光性粒子の状態に着目し、高温や光に暴露された環境下で長時間使用した場合に、そのコントラスト低下が極めて小さくなる偏光性粒子を提供することを課題とする。
また本発明は、この様な好適な偏光性粒子を製造するのに適した分散剤を提供し、このような分散剤を用いて調製した偏光性粒子を液泡に含有させることで、耐熱性及び耐光性低下が小さいSPD用フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した課題に鑑みて、従来から偏光性粒子を製造するための分散剤として用いるニトロセルロースの組成と、製造された偏光性粒子の表面状態等の関係につき鋭意検討した結果、窒素含有率が比較的低いニトロセルロースを用いて製造した偏光性粒子を用いた場合に、耐熱性及び耐光性が不充分なSPDが得られることを見い出した。
そして、種々の組成のニトロセルロースを分散剤として用いて偏光性粒子を製造して、それからSPDを調製して耐熱性及び耐光性を評価した結果、窒素含有率が特定範囲であり、かつ特定分子量のニトロセルロースを用いて得た偏光性粒子からは、選択的に耐熱性及び耐光性に優れたSPDが得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、日本工業規格(JIS)K−6703により定められる窒素分が11.5〜12.2%であり、重量平均分子量20,000〜60,000のニトロセルロースからなる懸濁粒子デバイスの偏光性粒子の製造用分散剤を提供する。
また本発明は、沃化カルシウム、沃素、ピラジン−2,5−ジカルボン酸とを分散剤の存在下溶媒中で反応させて分子間化合物とする、懸濁粒子デバイスの偏光性粒子の製造方法において、前記分散剤として、日本工業規格(JIS)K−6703により定められる窒素分が11.5〜12.2%であり、重量平均分子量20,000〜60,000のニトロセルロースを用いることを特徴とする沃素と沃化カルシウムからなるポリ沃化物とピラジンジカルボン酸とから構成された分子間化合物からなる、懸濁粒子デバイスの偏光性粒子の製造方法を提供する。
また本発明は、沃化カルシウム、沃素、ピラジン−2,5−ジカルボン酸との分子間化合物、上記の分散剤及び液状(メタ)アクリレート樹脂を含有する懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物を提供する。
また本発明は、沃化カルシウム、沃素、ピラジン−2,5−ジカルボン酸とを、分散剤として日本工業規格(JIS)K−6703により定められる窒素分が11.5〜12.2%であり、重量平均分子量20,000〜60,000のニトロセルロースの存在下で反応させて分子間化合物とした、分散剤で被覆された懸濁粒子デバイスの偏光性粒子、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂及び液状(メタ)アクリレート樹脂を含有する懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を提供する。
また本発明は、上記の分散樹脂組成物或いは硬化性組成物を用いた懸濁粒子デバイス用フィルムを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明における製造対象の偏光性粒子は、カルシウム過沃化物とピラジンジカルボン酸(粒子の前駆体)との分子間化合物である(以下、分子間化合物と略記する。)。この沃素と沃化カルシウムからなるポリ沃化物とピラジンジカルボン酸とから構成された分子間化合物は、一般式 CaI(C・ZHO(x:3〜7、y:1〜2、Z:1〜3)で表される。
【0012】
このカルシウム過沃化物は、沃素(i)〔以下、成分(i)と略記する。〕と沃化カルシウム(ii)〔以下、成分(ii)と略記する。〕との結合により得ることができ、一方、最終生成物の分子間化合物は、このカルシウム過沃化物とピラジン−2,5−ジカルボン酸(iii)〔以下、成分(iii)と略記する。〕との結合により得ることができる。
【0013】
成分(i)は沃素であり、溶媒に迅速に溶解させるため、結晶化度の低いものが好ましい。成分(ii)は、後記成分(iii)と分子間化合物を形成しやすい沃化カルシウムである。沃化カルシウムは大気中で潮解するため、減圧下加熱乾燥により結晶水を除き、且つ、乾燥剤の入った密閉容器中で保存された、含水率ができるだけ低いものを選択して用いることが好ましい。
【0014】
カルシウム過沃化物は、モル数換算で成分(ii)1モル当たり、成分(i)1〜6モルとなる様な仕込み比率で結合させることで得ることができる。結合の終点は、成分(i)の消費量により決定することができる。一般的には、この結合は温度5〜90℃において、3分間〜5時間を要するものである。
【0015】
本発明における分子間化合物は、成分(i)と、成分(ii)と、成分(iii)とを溶媒中で結合させることにより得られる。調光材料として光学・電気特性に優れた前記分子間化合物を製造する際には、前記成分(i)と成分(ii)とを溶媒に均一に溶解させてから、この混合物と前記複素環式化合物(iii)とを混合して結合させることが好ましい。具体的な手段として、特別な装置を必要とせず、しかも手間がより少なく、より短時間で成分(i)、(ii)を溶媒に充分に溶解させることが出来る点で、成分(i)、(ii)及び溶媒の少なくとも一つを加熱してから、残りの成分を混合し、加熱して溶解させる方法がより好ましい。温度30〜80℃、なかでも、40〜60℃となる様にして成分(ii)、(i)を溶解することが、次工程の成分(iii)との結合へ速やかに移行することが出来る点で特に好ましい。
【0016】
前記結合形成に当たっては、混合物の温度が一様に一定となる様に、攪拌を行うことが好ましい。この過沃化物の形成に要する時間は、温度30〜80℃で5分間〜3時間の範囲から選択することができ、温度40〜60℃の場合には15分間〜2時間とすることが好ましい。
【0017】
前記混合物を調製する際の溶媒は、成分(i)、成分(ii)、及び後記する高分子型分散安定剤をより溶解しやすく、かつ後記する成分(iii)及び最終生成物たる分子間化合物がより溶解しにくいものを選択して用いることが好ましい。この際の溶媒としては、有機溶媒を必須として用いることがより好ましい。溶媒の量は、質量換算で、成分(i)と成分(ii)と後記する成分(iii)の合計量の7〜20倍量とすることが好ましい。
【0018】
前記有機溶媒としては、公知慣用の有機溶媒がいずれも挙げられるが、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル等の酢酸エステル系有機溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のモノアルコール系有機溶媒等が挙げられる。
【0019】
後記する調光材料の偏光性粒子として用いる前記分子間化合物を得る場合には、結合を円滑に進め、且つ粒子径を制御するために、水を併用することが好ましい。水の量は、質量換算で、成分(i)と成分(ii)と後記する成分(iii)の合計量の1〜20%相当量とすることが好ましい。
【0020】
また、水を併用する場合には、水と有機溶媒の親和性を高めるために、前記モノアルコール系有機溶媒を必須として用いることが好ましい。後記する高分子型分散安定剤がモノアルコール系有機溶媒に溶解しない場合には、他の有機溶媒を併用することが好ましいが、この際のモノアルコール系有機溶媒の添加量は、質量換算で、成分(i)と成分(ii)と後記する成分(iii)の合計量の1〜150%相当量とすることが好ましい。
【0021】
後記する成分(iii)、及び前記過沃化物と成分(iii)との結合によって形成する分子間化合物を溶解または沈降させることなく混合物中に安定に分散させるために、分散剤として、溶媒に溶解するニトロセルロースが多用されている。
【0022】
本発明は、このニトロセルロースとして、窒素分が11.5〜12.2%であり、かつ重量平均分子量20,000〜60,000のニトロセルロースを用いることを特徴とする。本発明者らの知見では、前記分子量の範囲であっても、窒素分が低いニトロセルロースを用いて得た分子間化合物を偏光性粒子として用いSPDを調製した場合には、耐熱性及び耐光性が低いSPDしか得られない。
【0023】
この際の窒素分とは、日本工業規格(JIS)K−6703(1995)「工業用ニトロセルロース」により定められる窒素分であり、重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法により測定される分子量である。
【0024】
ニトロセルロースの量は、質量換算で、成分(i)と成分(ii)と後記する成分(iii)の合計量の1〜200%相当量とすることが好ましく、なかでも20〜150%相当量とすることがより好ましい。
【0025】
こうして得られた過沃化物からなる一次生成物と、成分(iii)とを混合して結合させる様に反応させることで、目的の分子間化合物を得ることができる。この様な成分(iii)は、前記カルシウム過沃化物と分子間化合物を形成しやすい、ピラジン−2,5−ジカルボン酸である。
【0026】
成分(iii)は、一次生成物たるカルシウム過沃化物1モル当たり、1〜4モルとなる様に仕込むことが好ましく、なかでも2モルとなる様に仕込むことがより好ましい。
【0027】
前記一次生成物たるカルシウム過沃化物と成分(iii)との結合の反応は、温度30〜80℃で5分間〜10時間の範囲から選択することができる。攪拌によりこの結合をより促進することができる。この際の溶媒として、成分(iii)が溶解しないものを選択して用いた場合には、混合物の経時サンプリングの顕微鏡観察により、成分(iii)の存在しないことを確認できた点をこの結合の終点と判断することが可能となる。一般的には、この結合は温度40〜60℃の場合には30分間〜5時間を要する。
【0028】
本発明の偏光性粒子の製造方法においては、超音波照射しながら前記した結合を形成させるか、または前記の様に結合を形成させた後に超音波照射して反応させて、カルシウム過沃化物とピラジン−2,5−ジカルボンからなる分子間化合物を製造する。これにより、結合の形成を完結させたり、偏光性粒子の液媒体中での分散性を改良することが出来る。
【0029】
超音波とは、日本工業規格JIS Z 2300で、周波数20kHz以上の音波と定義されている。結合を形成させる温度がより高い程、照射時間を短縮でき、生産性をより向上させることができるが、本発明の分子間化合物は、結合させる混合物中で微量ながら熱分解する性質があるために、前記した温度範囲で製造することが好ましい。超音波照射による液媒体の温度上昇は予想以上に激しいので、前記した温度範囲となる様にすることが好ましい。
【0030】
溶媒種とその使用量、ニトロセルロース種とその使用量等を適正化して本発明を実施することで、分子間化合物のみが混合物に溶解しなくなる様にすることができる。本発明者らの知見では、分子間化合物からなる偏光性粒子に吸着していない残存するニトロセルロースが多いほど、また残存する未反応の沃素が多いほど、SPDの耐熱性が好ましくないことがわかった。
【0031】
本発明の製造方法で得られた、分子間化合物からなる偏光性粒子と分散剤と溶媒とを含む混合物は、高純度で粒度分布の幅が非常に狭い分子間化合物からなる偏光性粒子の分散体であるが、未結合溶解物や微粒、未結合固形物や粗粒を除くことによって、純度を更に向上し、且つ粒度分布を更に狭めることができる。未結合固形物や粗粒は、分散体の遠心分離により除去することができる。未結合溶解物や微粒は、分散体から必要な偏光性粒子のみ遠心沈降させることによって上澄みとして除去することができる。遠心沈降した粒子は、粒子を溶解せず、ニトロセルロースを溶解する溶媒に再分散させることによって分散体に戻すことができる。
【0032】
本発明においては、前記した様な目的のために、さらに、清浄な溶媒を用いて繰り返し遠心分離を行い、分子間化合物に吸着していない沃素と分散剤とを除去した偏光性粒子を用いることで、より耐熱性に優れるSPDを調製出来る。特にこの繰り返し遠心分離を行なうことによるSPDの耐熱性の改良効果は、ニトロセルロースの重量平均分子量が25,000〜47,000である場合に顕著である。
【0033】
具体的には次の様な処理を行うことによって、極めて高純度、かつ極めて粒度分布が狭い分子間化合物からなる偏光性粒子のみを選択的に得ることができる。まず、分子間化合物の偏光性粒子を含む反応混合物に超音波照射し、一次粒子レベルまで完全に分散させる。次に5,000〜20,000Gの強い遠心力で遠心分離を行い、大部分の粒子を沈降させる。上澄みを廃棄後、沈降物に清浄な溶媒を加え、再度、超音波照射して再分散させる。この操作を2〜3回繰り返すことで、分子間化合物を形成しなかった固形物、粗粒ばかりでなく、未反応の沃素及び分子間化合物の偏光性粒子に吸着していないニトロセルロースを除去する。
【0034】
前記した様な本発明の製造方法の実施により、分子間化合物からなる偏光性粒子の大きさ(平均粒子径)が長径で1000nm以下、好ましくは100〜1000nm、より好ましくは200〜500nm、且つ粒子のアスペクト比が1.1〜10.0、好ましくは2.0〜7.0の棒状の分子間化合物を高収率で得ることができる。尚、粒子の大きさ及びそのアスペクト比は、透過型電子顕微鏡の測定値より算出することができる。具体的には、前者は無作為に選んだ50個の同粒子の長径の平均値、後者は無作為に選んだ50個の同粒子の長径と短径の比の平均値としてそれぞれ算出することができる。
【0035】
こうして得られた分子間化合物からなる偏光性粒子と分散剤と溶媒とを含み、分散剤が吸着した偏光性粒子の溶媒分散液は、そのまま、例えば、調光材料の調製に用いることができる。
【0036】
次に本発明における懸濁粒子デバイス用硬化性組成物について説明する。本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂、偏光性粒子及び液状(メタ)アクリレート樹脂を必須成分として、必要に応じて乳化剤をも含有するものである。
【0037】
SPDを作製する際の分散媒としては、液泡の分散安定性、フィルム化した後の液泡との相分離状態の安定性、透明性、液泡成分との屈折率差、硬化性、ないしは硬化後の柔軟性の点から、従来シリコーン樹脂が用いられている。特に、分子中に(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、例えば光重合開始剤の存在下で紫外線を照射すると硬化する性質を有しているので、硬化成形可能な分散媒となる。
【0038】
この様な(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、SPDマトリックスにおいて後記する液泡の分散媒を構成するものであり、例えば直鎖状オルガノポリシロキサンの末端に(メタ)アクリロイル基を有する構造のオルガノポリシロキサンが挙げられる。(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、それ自体では流動性があるが(メタ)アクリロイル基の重合による硬化で流動性のないSPDマトリックスを形成する。
【0039】
ここで用いる(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂の直鎖状分子の有機基としては、炭素原子数1〜6の直鎖また分岐アルキル基、フェニル基等が挙げられる。(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂としては、SPDの分散媒として適切な屈折率に容易に調整できる点において、ジメチルシロキサン構造と、ジフェニルシロキサン構造とを同時に含有しているオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0040】
(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂としては、重量平均分子量30,000〜100,000であるものが好ましい。
【0041】
一方、液胞は、偏光性粒子及び液状(メタ)アクリレート樹脂とからなる。液状(メタ)アクリレート樹脂は、上記した(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂と出来るだけ同一の屈折率となる様にすることで、両者間の屈折率差を無くし、透明性を高めることが出来る。液状(メタ)アクリレート樹脂としては、例えばアルキル(メタ)アクリレート単独重合体やアルキル(メタ)アクリレートとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体からなる(メタ)アクリレート樹脂等を使用することが出来る。尚、本発明において(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【0042】
この液状(メタ)アクリレート樹脂を調製する際のアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。乳化剤として用いる共重合体(X)が、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルを用いた共重合体である場合には、この液状(メタ)アクリレート樹脂も、同様に、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルの単独重合体やそれとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体とすることが、乳化剤との親和性を高め、より安定性の高い懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を調製する上で好ましい。
【0043】
液状(メタ)アクリレート樹脂が、側鎖に、炭素原子数8〜18という様な長鎖アルキル基を含有する重合体である場合には、それによって樹脂粘度を低く抑えることができるため、それを用いた際のSPDにおける偏光性粒子の応答速度を速くすることが出来る。液状(メタ)アクリレート樹脂が、側鎖にヒドロキシル基を含有する重合体である場合には、偏光性粒子をより安定に分散できる。
【0044】
こうして得られる液状(メタ)アクリレート樹脂に対して、上記した本発明の分散剤を用いて製造した偏光性粒子を分散させることで懸濁粒子デバイス用硬化性組成物において液泡を形成することのできる懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物を調製することが出来る。偏光性粒子としてその溶媒分散液を用いた場合は、この液状(メタ)アクリレート樹脂と偏光性粒子の溶媒分散液とを混合した後に、溶媒の除去を行なって、懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物とする。
【0045】
本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物からなる液泡が分散媒中に分散した形態がとれれば、どちらにどちらを加えて分散を行なっても良い。つまり、本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、液状(メタ)アクリレート樹脂中に、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂を加える様にして分散させても、その逆に、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂中に液状(メタ)アクリレート樹脂を加える様にして分散させても、調製することが出来る。
【0046】
これら各成分を混合するに当たっては、通常の混合機、攪拌機、分散機でも十分安定な硬化性組成物が得られるが、分散時間と分散物の乳化安定性の面から、乳化機として市販されているホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、スタティックミキサーなどを用いることが好ましい。
【0047】
尚、分散媒である(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂と、液泡である偏光性粒子が分散した液状(メタ)アクリレート樹脂とは、任意の割合で用いることが出来るが、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂の硬化物が連続相を形成し、その連続相中に液泡が点在して分散する様な構造形態にすることで、調光特性の良好なSPDを作製出来ることから、質量換算で(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂100部当たり、液胞(偏光性粒子と液状(メタ)アクリレート樹脂との合計)は20〜100部となる様に用いることが好ましい。硬化後の連続相に分散した点在する個々の液泡は、硬化物の固体マトリックス中に液状で存在しているため、液泡中の偏光性粒子も何ら拘束はされておらず流動性を維持しており、電界印加により配向が出来るようになっている。
【0048】
分散媒中における液泡の平均径は、1〜10μmとなる様にすることが好ましい。この平均径は、光学顕微鏡で確認することができる。液泡は偏光性粒子により着色しており、一方、分散媒が無色透明である場合には、着色した液泡の径を測定することが出来る。この液泡は時間と共に合一して径が増加するため、その時間変化を追跡することで乳化安定性を評価することが可能である。
【0049】
懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、任意の方法にて硬化させることが出来る。この硬化により、分散媒である(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂が重合硬化し、偏光性粒子が分散した液状(メタ)アクリレート樹脂からなる液泡が重合硬化物に固定されSPDが作製される。(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂を硬化させるためには、熱や、紫外線や電子線の様な活性エネルギー線を用いることができる。熱源よりも光源を用いた活性エネルギー線硬化のほうが、省エネルギーに貢献でき短時間での硬化が容易であるため、光源を用いて活性エネルギー線を照射して硬化することが好ましい。紫外線を用いる場合は、照射光の波長でラジカルを発生するエネルギー線重合開始剤を併用したり窒素パージしたりすることで、硬化性はより良好になる。
【0050】
活性エネルギー線重合開始剤としては、水素引き抜き型、直接開裂型のいずれも使用できるが、硬化速度の面から直接開裂型のアリールアルキルケトン系、オキシム系、アシルフォスフィンオキサイド系、メタロセン系が好ましい。特に分散媒が(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂の場合は、アシルフォスフィンオキシド系重合開始剤を用いることが好ましい。アシルフォスフィンオキサイド系としてはビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(同IRGACURE 819),2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製Lucirin TPO),2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルフォスフィンオキサイド(同Lucirin TPO−L)が挙げられる。また、上記重合開始剤は二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0051】
本発明のSPD用硬化性組成物には、後記するSPD用フィルムの効果を阻害しない範囲で、前記した活性エネルギー線重合開始剤の他、紫外線吸収剤や酸化防止剤、安定剤、粘着付与剤、離型剤等の添加剤を添加することが出来る。
【0052】
本発明のSPD用硬化性組成物の性状は、25℃において液状であり、流動性を示すものであることがSPDを作製する際の作業性が良好であるため好ましい。
【0053】
本発明のSPD用硬化性組成物は、液状であると、塗布、吐出、あるいは注型等の方法で容易に任意形状とすることができ、これを硬化すれば所望の形状のSPDを容易に得ることが出来る。
【0054】
本発明のSPD用硬化性組成物の、硬化後の硬化物の性状は、全体として25℃において固体状であり流動性を示さないことが、取扱いが良好であるため好ましい。
【0055】
本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、例えば透明電極を蒸着した透明プラスチックフィルムの間で硬化させることで、SPD用フィルムとすることが出来る。この様な透明プラスチックフィルムとしてはPETフィルムを、透明電極としてはITO電極をそれぞれ用いることが出来る。
【0056】
この場合、本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を、透明電極を蒸着した透明プラスチックフィルムに塗布した後、その上に透明電極を蒸着した透明プラスチックフィルムを重ね合わせてから、その外側から活性エネルギー線や熱によって、透明フィルムと透明電極の間にある(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂を硬化させて、SPD用フィルムとすることが出来る。透明プラスチックフィルムを用いることで、透明ガラスを用いるよりも可撓性に優れたSPDを作製することが出来る。これを成型加工し、調光材料として使用することができる。
【0057】
こうして得られた調光フィルムは、例えば、室内外の仕切り(パーティション)、建築物用の窓硝子/天窓、電子産業及び映像機器に使用される各種平面表示素子、各種計器板と既存の液晶表示素子の代替品、光シャッター、各種室内外広告及び案内表示板、航空機/鉄道車両/船舶用の窓硝子、自動車用の窓硝子/バックミラー/サンルーフ、眼鏡、サングラス、サンバイザー等の用途に使用することが出来る。
【0058】
以下、実施例、比較例により本発明を詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、(%)および(部)は質量基準である。
【実施例1】
【0059】
温度センサーを備えた500mL4つ口フラスコに10%のニトロセルロースA(エス・エヌ・ピー・イー・ジャパン(株)製HIG1/16。窒素分11.9%、重量平均分子量29,000)を酢酸イソアミルに溶解した溶液265g、メタノール4.00g、純水(所要量は1.77gからニトロセルロースの酢酸イソアミル溶液、沃化カルシウム、メタノール中の水分を差し引き算出した)、沃化カルシウム5.30g、沃素9.00gを加え、45℃に保持した湯浴に漬けて1時間攪拌することによって沃化カルシウム、沃素を完全に溶解した。この溶液に、ピラジン− 2,5 −ジカルボン酸2水和物6.00gを投入し、同温度で攪拌を3時間継続し、さらに超音波分散機で2時間分散した(予備分散液A)。
得られた分散液を遠心分離機に入れ、12,000Gの重力で3時間遠心分離し、偏光性粒子を沈降させた。上澄みを廃棄し、沈降物に酢酸イソアミルを75g加えて超音波分散機で2時間分散し、偏光性粒子分散液Aを製造した。
【実施例2】
【0060】
ニトロセルロースAに代えてニトロセルロースB(エス・エヌ・ピー・イー・ジャパン(株)製HIG1/4。窒素分12.1%、重量平均分子量49,000)の同量を用いる以外は、実施例1と同様の操作を行ない、偏光性粒子分散液Bを製造した。
【0061】
〔比較例1〕
ニトロセルロースAに代えてニトロセルロースC(エス・エヌ・ピー・イー・ジャパン(株)製LIG1/8。窒素分11.3%、重量平均分子量35,000)の同量を用いる以外は、実施例1と同様の操作を行ない、偏光性粒子分散液Cを製造した。
【実施例3】
【0062】
実施例1と同様にして予備分散液Aを得た、得られた予備分散液Aを遠心分離機に入れ、12,000Gの重力で3時間遠心分離し、偏光性粒子を沈降させた。上澄みを廃棄し、沈降物に酢酸イソアミルを75g加えて超音波分散機で2時間分散し、再度遠心分離機に入れ、12,000Gの重力で2時間遠心分離し、偏光性粒子を沈降させた。上澄みを廃棄し、沈降物に酢酸イソアミルを75g加えて超音波分散機で2時間分散し、偏光性粒子分散液Dを製造した。
【実施例4】
【0063】
以下の要領に従って、液状(メタ)アクリレート樹脂、懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物(液泡)、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂及び懸濁粒子デバイス用硬化性組成物をそれぞれ製造し、それらから懸濁粒子デバイス用フィルムを製造した。
【0064】
<液状(メタ)アクリレート樹脂の製造例>
滴下ロート、温度センサー、窒素導入管、ジムロートコンデンサーを備えた500mL4つ口フラスコにトルエン(国産化学(株)製試薬一級)を50mL仕込み、磁気攪拌子を用い攪拌しながら、室温にて窒素を30分間トルエンにバブリングさせ、系内を窒素置換した。ついで窒素導入管を少し引き上げてバブリングさせずに導入するようにすると同時に、オイルバスによる加熱を開始した。オイルバス温度が142〜145℃に達し系内が還流状態になったのを確認した後、ドデシルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)122.10g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)2.60g、N−オクチル3−メルカプトプロピオネート(日油(株)製連鎖移動剤、品名NOMP)16.00g、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート(日油(株)製有機過酸化物系重合開始剤、品名パーブチルO)12.50gの混合液を1時間かけて滴下した。さらに加熱還流を4時間継続し、重合反応を進行させた。加熱を止め、60℃、2hPa、1時間の条件にて、エバポレーターを用いてトルエンを除去した。こうして、透明の油状物が147.85g得られた。ついで得られた油状物を、200℃、2Paの条件下で薄膜蒸留により揮発性不純物を除去して、炭素原子数12のアルキル基とヒドロキシルエチル基とを側鎖に有する液状のメタクリレート樹脂を得た。
【0065】
こうして得られた液状のメタクリレート樹脂は、以下の構造である。直鎖状末端基は解列後の重合開始剤末端である。
【0066】
式1
【0067】
【化1】

【0068】
<懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物(液泡)の製造例>
200mLビーカーに上記で得たメタクリレート樹脂25g、トリメリット酸トリイソデシル13g、パーフルオロスベリン酸ジメチル1g、実施例1で得た偏光性粒子分散体A 33gを加え、攪拌機により30分間混合した。次いで、酢酸イソアミルをロータリーエバポレーターにて1330Paの真空で70℃、3時間減圧除去し、粒子沈降および凝集現象のない、安定な偏光性粒子を含む液状のメタアクリレート樹脂の液胞を得た。
これは、沃化カルシウム、沃素、ピラジン−2,5−ジカルボン酸との分子間化合物からなる偏光性粒子、特定の窒素分と重量平均分子量を有するニトロセルロースからなる分散剤及び液状(メタ)アクリレート樹脂を含有する懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物である。
【0069】
<(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂の製造例>
温度センサー、ディーンスタークトラップを備えた2Lの4つ口フラスコに未精製量末端シラノール基ジメチルジフェニルシロキサンコポリマー158g、3−アクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン20g、ヘプタン800mlを投入し、磁気攪拌子を用い攪拌しながら、75分間加熱還流を行なった。留出水は0.4mlであった。一旦90℃に冷却し、2−エチルヘキサン酸スズ(II)66mgを少量のヘプタンに溶解した溶液に加え、再び105分間加熱還流し脱水を行なった。留出水は1.6mlであった。次いで、ディーンスタークトラップの冷却管上部より、メトキシトリメチルシラン120mlを注意深く加えた。2時間還流を継続後、冷却・部分的に脱溶剤を行い、無色透明油状の粗シリコーン樹脂316gを得た。該粗シリコーン樹脂を560gのメタノールで4回洗浄し、脱溶剤を行って、無色透明油状のアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂166gを得た。
このアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、ジメチルポリシロキサンとジフェニルポリシロキサンの両方の構造を同時に含有しているオルガノポリシロキサンであり、その重量平均分子量は52,000であった。
【0070】
こうして得られたアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、以下の構造である。
【0071】
式2
【0072】
【化2】

【0073】
<懸濁粒子デバイス用硬化性組成物の調製>
上記で得られたアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂5gに、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカル社製 Irgacure 819)0.03gを溶解させた後、さらに上記で得た懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物2gを加え、スパチュラで良く攪拌した。
【0074】
<懸濁粒子デバイス用フィルムの調製>
得られたSPD用紫外線硬化性組成物を直ちにITO蒸着PETフィルムのITO蒸着面に3milのアプリケーターで塗布し、窒素雰囲気下で2J/cmの紫外線を照射して分散媒のアクリロイル基を重合させた。硬化した塗膜上にもう一枚のITO蒸着PETフィルムを貼り合わせ、SPD用フィルムAを作製した。
【実施例5】
【0075】
実施例1で得た偏光性粒子分散体Aに代えて、実施例2で得た偏光性粒子分散体Bの同量を用いる以外は上記実施例4と同様の原料と手順にてSPD用フィルムBを作製した。
【0076】
〔比較例2〕
実施例1で得た偏光性粒子分散体Aに代えて、比較例1で得た偏光性粒子分散体Cを用いる以外は上記実施例4と同様にしてSPD用フィルムCを作製した。
【実施例6】
【0077】
実施例1で得た偏光性粒子分散体Aに代えて、実施例3で得た偏光性粒子分散体Dを用いる以外は上記実施例4と同様の原料と手順にてSPD用フィルムDを作製した。
【0078】
こうして得られた各SPD用フィルムA〜Dについて、コントラスト、耐熱性及び耐光性を下記の要領で測定した。
コントラスト;
SPD用フィルムは、二つの電極の間に挟持した状態で電圧をかけることによって偏光性粒子が配向し、光の非透過の状態から光が透過する状態とすることができる。この方法において、電圧をかける状態をON、電圧をかけない状態をOFFと定義すると、ONとOFFのそれぞれの状態で得られる光の透過率の差をコントラストと称し、ΔT(%)にて表した(常態におけるコントラスト)。SPDとして実用上利用可能なコントラスト(ΔT)は50%以上であることが好ましい。ON−OFF時のそれぞれの光透過率は、(株)東洋精機製作所製Haze−Gard IIで測定した。尚、コントラスト測定時の印加電圧は100V、400Hzとした。
【0079】
耐熱性;
上記で得られた各SPD用フィルムA〜Dを、110℃の乾燥機に3時間放置した後、取り出して放冷し、上記と同様にして乾燥機放置による熱履歴後のコントラストΔTを求めた。熱履歴前後のコントラストの差ΔΔT(%)が小さいSPD用フィルムほど耐熱性に優れる。
【0080】
耐光性;
上記で得られた各SPD用フィルムA〜Dに対して、Atlas社製Ci4000 Xenon Weather-OmeterにてSAE J1960kJ(加湿、スプレー無し)の条件で暴露を行い、任意の時間間隔で、暴露中の各SPD用フィルムA〜Dを同時に取り出し、ヘイズメーターにて、コントラストΔTをそれぞれ測定し、時間−コントラストをXY座標として、グラフ用紙にプロットを行なった。
そして、それぞれのSPD用フィルムA〜Dについて、常態におけるコントラスト(ΔT)値からコントラストが10%減少するまでの時間を求めた。常態におけるコントラスト(ΔT)値からコントラストが10%減少するまでの暴露時間が長いほど耐光性に優れる。
【0081】
こうして測定されたそれぞれの項目について、測定値を表1に示した。
【0082】
【表1】

【0083】
上記表1の結果からわかる通り、本発明の分散剤を用いて製造した偏光性粒子を含むSPD用硬化性組成物から作製した実施例4のSPD用フィルムは、従来の分散剤を用いて得たSPD用硬化性組成物から作製した比較例2のSPD用フィルムに比べて、耐熱性試験後のコントラスト低下が1/4に改善しており、耐熱性が格段に高いことがわかる。
また、実施例4と実施例6との対比からわかる通り、偏向性粒子の製造方法の過程で、繰り返し遠心分離を行なって、未反応の沃素、未吸着のニトロセルロースを取り除いた実施例6のSPD用フィルムは、遠心分離を1回しか行なわなかった実施例4のSPD用フィルムに比べて、耐熱性試験後のコントラスト低下がさらに半減しており、耐熱性が著しく高いことがわかる。
そして、これら実施例のSPD用フィルムは、いずれも高い耐光性を有しており、従来よりも厳しい環境において長時間使用しても優れたコントラストが保持されることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
日本工業規格(JIS)K−6703により定められる窒素分が11.5〜12.2%であり、重量平均分子量20,000〜60,000のニトロセルロースからなる懸濁粒子デバイスの偏光性粒子の製造用分散剤。
【請求項2】
沃化カルシウム、沃素、ピラジン−2,5−ジカルボン酸とを分散剤の存在下溶媒中で反応させて分子間化合物とする、懸濁粒子デバイスの偏光性粒子の製造方法において、前記分散剤として、日本工業規格(JIS)K−6703により定められる窒素分が11.5〜12.2%であり、重量平均分子量20,000〜60,000のニトロセルロースを用いることを特徴とする沃素と沃化カルシウムからなるポリ沃化物とピラジンジカルボン酸とから構成された分子間化合物からなる、懸濁粒子デバイスの偏光性粒子の製造方法。
【請求項3】
さらに、清浄な溶媒を用いて繰り返し遠心分離を行い、分子間化合物に吸着していない沃素と分散剤とを除去する請求項2の偏光性粒子の製造方法。
【請求項4】
沃化カルシウム、沃素、ピラジン−2,5−ジカルボン酸との分子間化合物、請求項1記載の分散剤及び液状(メタ)アクリレート樹脂を含有する懸濁粒子デバイス用分散樹脂組成物。
【請求項5】
沃化カルシウム、沃素、ピラジン−2,5−ジカルボン酸とを、分散剤として日本工業規格(JIS)K−6703により定められる窒素分が11.5〜12.2%であり、重量平均分子量20,000〜60,000のニトロセルロースの存在下で反応させて分子間化合物とした、分散剤で被覆された懸濁粒子デバイスの偏光性粒子、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂及び液状(メタ)アクリレート樹脂を含有する懸濁粒子デバイス用硬化性組成物。
【請求項6】
請求項4に記載の分散樹脂組成物を用いた懸濁粒子デバイス用フィルム。
【請求項7】
請求項5記載の硬化性組成物を用いた懸濁粒子デバイス用フィルム。

【公開番号】特開2010−126624(P2010−126624A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302331(P2008−302331)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】