説明

分析用試料の作製方法

【課題】極めて容易に短時間で軟質合金の分析用試料を作製することを可能とする。
【解決手段】成型容器1に入れられた軟質合金2を表面3Aが鏡面仕上げされた成型部材3の表面3Aに接した状態で加圧成型することにより、軟質合金2の分析用試料2を作製する。成型部材1は、表面の凹凸が1μm以下に鏡面仕上げされている。軟質合金2を加圧成型する際の加圧力が、60kg重/cm2以上である。軟質合金2は、展性を有する金属材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用試料の作製方法に関し、より詳しくは、柔らかい金属の製造工程で不純物の管理分析をするための分析用試料の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属の中には、展延性、特に展性の高い、金、銀、鉛、銅、アルミニウム、インジウム、スズなどの金属(以下、「軟質金属」という。)がある。これら軟質金属を含め純度の高い非鉄金属を製造する際に、所定の工程毎に不純物品位を測定することが、後工程の操業効率や最終製品の品質を維持するために重要である。
【0003】
また、非鉄金属の不純物品位に限らず、鉄鋼、スラグ、メッキ鋼板のメッキ厚さなど、操業上、工程管理上の測定には、他の分析方法に比べて所要時間が短いことから、蛍光X線分析方法が広く利用されている。
【0004】
蛍光X線分析は、試料表面に一次X線を照射し、試料中の元素から発生する固有X線(特性X線)を分光結晶により分光して固有X線の強度を測定し、元素の定性及び定量を行う分析方法である。一次X線の照射面は、直径20mm以上の大きさが必要であり、特に、不純物品位を測定する場合は、一般的に試料表面の平坦性が必要となる。
【0005】
特に、Pb、Cd、Sn、Cu、As、Feのうち少なくとも一つ以上の元素を不純物として含んだ軟質金属の不純物分析では、蛍光X線分析装置で分析を行う際、表面の凹凸の粗さにより、不純物元素の測定値が本来の値よりも低く出る現象が起こる。そのため、不純物元素の測定値が本来の値よりも低く出る影響を受けないように、不純物を含んだ軟質金属において、数μm以下の凹凸に抑えた平滑面を形成する必要がある。
【0006】
軟質合金の分析用試料を作製する場合の一例として、インジウムメタルの製造工程における中間物の粗インジウムメタルを、蛍光X線分析装置を用いて分析する場合について説明する。ここで、粗インジウムメタルとは、インジウム品位が90重量%以上、主として98重量%程度ものをいう。
【0007】
まず、製造工程の途中で粗インジウムメタルが融解された状態の時に、分析装置のサンプルホルダーに収容できる形状の鋳型に流し込む(鋳造する)。続いて、鋳造した粗インジウムメタルを常温まで冷却する。続いて、旋盤を用いて、冷却した粗インジウムメタルの分析を行う面及びその反対側を切削加工して分析試料とする。このように、軟質合金の分析用試料を作製するためには、鋳造、冷却、切削加工という作業の時間を要する。また、粗インジウムメタルは、鋳型成型できない形状、すなわち、切子状若しくは粒状などの帯状又は断片状になった形状で産出される場合がある。このように帯状又は断片状になった形状で粗インジウムメタルが産出された場合には、分析試料を得るための作業とは別に、融点以上の高温で融解する作業が余分に必要となる。これらの一連の工程には、数時間を要する。
【0008】
さらに、インジウムメタル等の軟質合金は、常温で柔らかいので、切削作業を行うことが難しい。そのため、軟質合金について蛍光X線分析装置の測定面の条件を満たすには、経験を多く積んだ熟練者による作業が必要であるという問題点があった。
【0009】
特許文献1には、分析試料表面の表面粗さと蛍光X線分析結果との関連性から回帰計算によって補正し、表面仕上げの状態の影響を排除する技術が記載されている。
【0010】
しかし、特許文献1に記載された技術は、ステンレス鋼中のCr、Niといった高含有量成分の分析方法であり、また、表面粗さ測定作業や補正係数の維持校正などに手間がかかってしまう。そのため、特許文献1に記載された技術では、上述した軟質合金の分析用試料を作製する場合の問題点を解決することができない。すなわち、特許文献1に記載された技術では、不慣れな作業者であっても極めて容易に短時間で軟質合金の分析用試料を作製することはできない。
【0011】
また、非特許文献1には、蛍光X線分析の標準試料を作製する際に、高分子材料中に金属粉末又は金属塩を加えて、熱プレス、すなわち、高分子材料の粉末を加熱し軟化させてプレス成型する方法や、未硬化の不飽和ポリエステルに有機金属を溶解させた後に硬化剤で固める方法が記載されている。
【0012】
しかし、非特許文献1に記載された技術は、高分子製品に関する特有の方法であるので、上述した軟質合金の分析用試料を作製する場合の問題点を解決することができない。すなわち、非特許文献1に記載された技術では、不慣れな作業者であっても極めて容易に短時間で軟質合金の分析用試料を作製することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平09−021767号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】大阪府立産業技術総合研究所報告「高分子製品中の有害物質のスクリーニング」(No.21 2007 29〜32頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、不慣れな作業者であっても極めて容易に短時間で軟質合金の分析用試料を作製することが可能な分析用試料の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、軟質合金を適切な方法で冷間プレス(以下、単に「加圧成型」という。)することにより、極めて容易に軟質合金の分析用試料を作製することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明に係る分析応試料の作製方法は、成型容器に入れられた軟質合金を、表面が鏡面仕上げされた成型部材の表面に接した状態で加圧成型することにより、軟質合金の分析用試料を作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、極めて容易に短時間で軟質合金の分析用試料を作製することができるので、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】軟質合金の分析用試料の作製方法を説明するための図である。
【図2】軟質合金の分析用試料の作製方法を説明するための図である。
【図3】成型容器の一例を示す斜視図である。
【図4】(A)は、加圧成型前の軟質合金の一例を示す図であり、(B)は、加圧成型後の軟質合金の一例を示す図である。
【図5】軟質合金の分析用試料の他の作製方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1〜図4に示すように、本実施の形態に係る分析用試料の作製方法では、成型容器1に入れられた軟質合金2を、表面3Aが鏡面仕上げされた成型部材3の表面3Aに接した状態で加圧成型することにより、軟質合金2の分析用試料2’を作製する。
【0022】
例えば、図1に示すように、成型容器1と、表面3Aが鏡面仕上げされた成型部材3の表面3Aとの間に形成された空間内に軟質合金2をほぼ均一に入れる。続いて、図2に示すように、鏡面仕上げされた成型部材3の表面3A上で、成型容器1と成型部材3の表面3Aとの間に配置された軟質合金2を、加圧成型装置を用いて加圧成型することにより、軟質合金2の分析用試料2’を作製する。
【0023】
成型容器1は、例えば図1及び図3に示すように有底の管状(カップ状)に形成されたものや、リング状のものを用いることができる。成型容器1としてカップ状のものを使用する場合には、例えば、成型容器1に軟質合金2をほぼ均一に入れた後、軟質合金2が成型部材3の表面3Aと接するように成型容器1を反転させ、成型容器1の開口側を表面3A上に配置した後に加圧成型を行う。また、成型容器1としてリング状のものを使用する場合には、成型部材3の表面3A上に成型容器1を置き、成型容器1内に軟質合金2をほぼ均一に入れた後に加圧成型を行う。成型容器1の材質は、特に限定されないが、例えば鉄製ものを使用することができる。成型容器1の大きさは、分析に必要な大きさの軟質合金2の分析用試料2’を作製することができれば特に限定されず、例えば図1に示すように、成型部材3の外径よりも小さな内径を有するものとすることができる。
【0024】
軟質合金2は、被加圧物であり、展延性、特に展性の高い、金、銀、鉛、銅、アルミニウム、インジウム、スズ等が用いられる。軟質合金2の形状は、成型容器1に入る大きさであれば特に限定されず、例えば、帯状、塊状、粒状が挙げられる。例えば、図4(A)に示すように、軟質合金2としては、切子状若しくは粒状などの帯状又は断片状のものを使用することができる。軟質合金2として、このような形状のものを使用した場合でも、図4(B)に示すような分析用試料2’を得るために融点以上の高温で融解することなく、そのまま加圧成型して表面2Aの凹凸が数μm以下である分析用試料2’を得ることができるので、作業時間を短縮することができる。
【0025】
成型部材3は、例えば図1に示すように、円柱状に形成されている。成型部材3の大きさは、特に限定されないが、例えば図1に示すように成型容器1の内径よりも大きく形成されている。成型部材3の材質は、表面3Aを鏡面仕上げすることができるものであれば特に限定されないが、表面3Aが鏡面仕上げされた状態を維持できる期間、すなわち、鏡面仕上げされた表面3Aの寿命を考慮して工具鋼製(例えばSK1(SK140))が好ましい。また、軟質合金2を例えば蛍光X線分析用の試料として用いる場合には、蛍光X線分析装置の精度にもよるが、0.1重量%程度までの不純物を測定したい場合には、成型部材3の材質として工具鋼製を用いることができる。0.1重量%以下の非常に微量な不純物を測定する場合には、成型部材3の材質としては、測定対象となる不純物元素を含有する材質を避けて、測定結果に影響を与えない材質を選択することが好ましい。例えば、軟質合金2中の鉄(Fe)を測定対象とする場合には、成型部材3の材質としてアルミニウムや高分子(ポリ塩化ビニル)を選択することが好ましい。
【0026】
また、成型部材3は、被加圧物である軟質合金2と接する表面3Aが鏡面仕上げされている。このように、表面3Aが鏡面仕上げされていることにより、軟質合金2を表面3Aに接するように成型部材3上に載置して加圧成型することで図4(B)に示す成型部材3の表面3Aと接して加圧成型された分析用試料2’の表面2Aの凹凸を数μm以下にすることができる。これにより、図4(B)に示す分析用試料2’の表面2Aは、例えば蛍光X線分析装置の測定面として好適に用いることができ、分析用試料2’の不純物を蛍光X線分析装置で分析した場合に、その測定値が、本来の値よりも低く出る現象を防止することができる。
【0027】
このように、成型容器1に入れられた軟質合金2を、表面3Aが鏡面仕上げされた成型部材3の表面3Aに接した状態で加圧成型することにより、表面2Aの凹凸が数μm以下である分析用試料2’を作製することができる。したがって、本実施の形態に係る分析用試料の作製方法では、軟質合金2を鋳造、冷却、切削加工する作業が不要となるので、作業効率を向上させることができる。特に、軟質合金2の切削加工という、経験を多く積んだ熟練作業者による作業を省くことができるので、極めて容易に短時間で分析用試料2’を作製することができる。
【0028】
ここで、成型部材3は、表面3Aの凹凸、すなわち、表面3Aの粗さが1μm以下となるように鏡面仕上げが施されていることが好ましい。これにより、分析用試料2’の表面2Aをより平滑かつ均一に加工することができるので、軟質合金2の不純物を蛍光X線分析装置で分析する場合に、その測定値が、本来の値よりも低く出る現象をより効果的に防止することができる。
【0029】
成型部材3の表面3Aの鏡面仕上げは、例えばアルミナ粉を用いた湿式バフ研磨処理により行うことができる。成型部材3の表面3Aの鏡面仕上げは、軟質合金2の加圧成型を行う毎に行う必要はなく、表面3Aの凹凸が粗くなってきたときに行えばよい。また、成型部材3の表面3A全体を鏡面仕上げする必要はなく、例えば、軟質合金2と接触する部分についてのみ鏡面仕上げすればよい。成型部材3の表面3Aの凹凸は、例えばJISB0601に規定する表面粗さの測定法により測定することができる。具体的に、表面3Aの凹凸が連続している場合には、算術平均粗さRaにより測定することができる。
【0030】
軟質合金2を加圧成型するための加圧成型装置としては、例えば一般に市販されているプレス機を用いることができる。加圧成型装置は、例えば図2に示すような加圧成型冶具4を用いて、被加圧体となる軟質合金2に60kg重/cm以上の力をかけることができるものが好ましい。このように、軟質合金2を加圧成型する際の加圧力を60kg重/cm以上とすることにより、分析用試料2’の試料測定面である表面2Aの凹凸を数μm以下にすることができる。なお、60kg重/cm以上の加圧力が必要であれば、その加圧力に対応可能な加圧成型装置を用いればよい。
【0031】
なお、加圧成型に際しては、成型部材3において成型容器1を置いた場所の表面3Aの鏡面仕上げ精度が悪化してしまうが、例えば、成型部材3の表面3Aの広範囲に亘って鏡面仕上げを行っておき、作業ごとに鏡面仕上げ精度が良好な位置に場所を変えることで、表面3Aの鏡面仕上げ精度の悪化を防止するようにしてもよい。
【0032】
また、同一形状の成型容器1を使用し、成型部材3上に置く成型容器1の位置を固定するようにしてもよい。これにより、成型部材3の表面3Aの鏡面仕上げ精度の悪化を抑制することができる。
【0033】
以上のように、本実施の形態に係る分析用試料の作製方法では、成型容器1に入れられた軟質合金2を、表面3Aが鏡面仕上げされた成型部材3の表面3Aに接した状態で加圧成型する。これにより、軟質合金2の分析用試料2’を作製するために従来必要であった、鋳造作業、冷却作業、切削加工作業を行うことなく、分析の測定面となる表面2Aの凹凸が数μm以下である分析用試料2’を作製することができ、不純物を蛍光X線分析装置で分析する際に、不純物の測定値が本来の値よりも低く出る現象を防止することができる。したがって、極めて容易に短時間で軟質合金2の分析用試料2’を作製することができる。
【0034】
特に、本実施の形態に係る分析用試料の作製方法では、軟質合金2の切削加工という、経験を多く積んだ熟練作業者による作業が不要となる。そのため、作業者が加圧成型装置を操作できさえすれば良いので、極めて容易に軟質合金2の分析用試料を作製することができる。したがって、作業者配置を含めた作業効率を大幅に向上させることができる。
【0035】
なお、上述した分析用試料の作製方法は、蛍光X線分析用試料の用途に限定されるものではなく、分光分析用の分析用試料等の他の分析用試料の作製方法に適用してもよい。
【0036】
また、上述した分析用試料の作製方法では、図2に示すように、成型部材3の表面3A上で成型容器1と成型部材3の表面3Aとの間に配置された軟質合金2に対して、加圧成型冶具4を成型部材3側に向けて押圧することにより、軟質合金2を加圧成型して分析用試料2’を作製するものとしたが、この例に限定されるものではない。例えば、加圧成型冶具4を成型部材3側に向けて押圧するのではなく、成型容器1と表面3Aとの間に軟質合金2が配置された成型部材3を、加圧成型冶具4側に向けて押圧することにより、分析用試料2’を作製してもよい。
【0037】
また、図5に示すように、軟質合金2が入れられた成型容器1の底面側を加圧成型冶具4上に置き、加圧成型冶具4を成型部材3の表面3A側に向けて押圧することにより、分析用試料2’を作製するようにしてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は、下記のいずれかの実施例に限定されるものではない。
【0039】
本実施例では、実施例、比較例及び参照例において、それぞれ成型容器に入れられた軟質合金を、表面が鏡面仕上げされた成型部材の表面に接した状態で加圧成型して、軟質合金の分析用試料を作製した。また、作製した軟質合金の分析用試料について、蛍光X線分析により軟質合金中の不純物品位を測定した。
【0040】
(実施例)
成型容器としては、鉄製の管状体のカップ(内径50mm、深さ10mm)を用いた。
【0041】
軟質合金としては、インジウム品位が約98重量%の粗インジウム合金であって、測定対象となる不純物元素としてPb、Cd、Sn、Cu、As、Feが含有されたものを準備した。また、軟質合金は、図4(A)に示すように切子状であり、最大長が3mm程度のものを用いた。
【0042】
成型部材としては、図1に示す工具鋼製(SK1)の台座(外径70mm、高さ20mmの円柱ブロック体)を用いた。蛍光X線分析の測定面となる軟質合金の表面と相対する成型部材の表面は、凹凸が1μm以下となるように鏡面仕上げした。鏡面仕上げは、アルミナ粉を用いた湿式バフ研磨処理により行った。
【0043】
加圧成型に用いる加圧成型装置としては、内径50mmの成型容器に対して約1.2トン重の加圧能力を有するプレス機(前川試験機製作所製)を使用した。
【0044】
蛍光X線分析には、蛍光X線分析装置(リガク製、型番 ZSX PrimusII)を使用した。
【0045】
鏡面仕上げした成型部材の表面上に置かれた成型容器内に、切子状の軟質合金をほぼ均一に入れ、この軟質合金を加圧成型装置により60kg重/cm(1トン重程度)の加圧力で成型し、軟質合金の分析用試料を作製した。作製した軟質合金の分析用試料において、鏡面仕上げした成型部材の表面と接した表面を測定面として、蛍光X線分析を行った。以上の操作を異なる軟質合金の分析用試料を用いて10回実施し、Pb、Cd、Sn、Cu、As、Feの不純物品位を測定した。軟質合金の分析用試料を作製するために要した時間は、試料ごとに約10分であった。表1には、実施例で作製した軟質合金の分析用試料中の不純物品位(重量%)を測定した結果を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
(比較例)
比較例では、成型部材として、表面が鏡面仕上げされていないものを使用したこと以外は、実施例と同様に軟質合金の分析用試料を作製して、分析用試料の表面について蛍光X線分析を行った。すなわち、比較例は、成型部材として表面の凹凸が10〜15μm程度のものを使用したこと以外は、実施例と同様である。表2には、比較例で作製した軟質合金の分析用試料中の不純物品位(重量%)を測定した結果を示す。
【0048】
【表2】

【0049】
(参考例)
参考例では、実施例及び比較例と同じ軟質合金を使用して、従来の試料作製方法、すなわち、融解、鋳造、冷却、切削加工という作業を行って軟質合金の分析用試料を作製し、作製した分析用試料の不純物品位を測定した。この操作を異なる軟質合金の分析用試料を用いて10回実施し、Pb、Cd、Sn、Cu、As、Feの不純物品位を測定した。なお、参考例において、軟質合金の分析用試料を作製するために要した時間は、試料ごとに約3時間であった。表3には、参考例で作製した分析用試料中の不純物品位(重量%)を測定した結果を示す。
【0050】
【表3】

【0051】
表面が鏡面仕上げされていない成型部材を使用した比較例では、軟質金属の不純物分析において不純物元素の測定値が本来の値、すなわち、実施例及び参照例の場合よりも低く出る現象が起こった。
【0052】
一方、表面が鏡面仕上げされた成型部材の表面に接した状態で軟質合金を加圧成型した実施例では、比較例の場合のように、不純物元素の測定値が本来の値よりも低く出ることなく、参考例の場合と同程度の精度で蛍光X線分析を行うことができた。
【0053】
また、実施例では、参考例の場合のように、融解、鋳造、冷却、切削加工という作業を行うことなく、表面が鏡面仕上げされた成型部材の表面に接した状態で軟質合金を加圧成型するだけで蛍光X線分析用の分析用試料を作製することができた。そのため、実施例では、参考例の場合のように軟質合金の分析用試料を作製するために数時間も掛からず、10分程度の作業時間で分析用試料を作製することができることが分かった。
【0054】
さらに、実施例では、軟質合金の切削加工という、経験を多く積んだ熟練作業者による作業を省くことができたので、極めて容易に分析用試料を作製することができることが分かった。
【符号の説明】
【0055】
1 成型容器、2 軟質合金、2’ 分析用試料、3 成型部材、4 加圧成型冶具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成型容器に入れられた軟質合金を、表面が鏡面仕上げされた成型部材の該表面に接した状態で加圧成型することにより、該軟質合金の分析用試料を作製することを特徴とする分析用試料の作製方法。
【請求項2】
前記成型部材は、表面の凹凸が1μm以下に鏡面仕上げされていることを特徴とする請求項1記載の分析用試料の作製方法。
【請求項3】
前記軟質合金を加圧成型する際の加圧力が、60kg重/cm以上であることを特徴とする請求項2記載の分析用試料の作製方法。
【請求項4】
前記軟質合金は、展性を有する金属材料であることを特徴とする請求項3記載の分析用試料の作製方法。
【請求項5】
前記成型部材は、工具鋼製であることを特徴とする請求項4記載の分析用試料の作製方法。
【請求項6】
前記軟質合金は、切子状もしくは粒状等の帯状又は断片状であることを特徴とする請求項1記載の分析用試料の作製方法。
【請求項7】
前記分析用試料は、蛍光X線分析用試料として用いられることを特徴とする請求項1記載の分析用試料の作製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−255737(P2012−255737A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129829(P2011−129829)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】