説明

分析走査電子顕微鏡

【課題】 走査電子顕微鏡本体側と外部分析装置側に同等の回路を備えることなく、簡単な構成により、試料の特定領域の元素分析や元素マッピングを正しい分析位置(電子ビーム一致)で正確に行うことができる分析機能を有した分析走査電子顕微鏡を実現する。
【解決手段】 図8は電子ビームが試料の分析位置に移動中の非直線応答期間には走査ウェイト信号に基づき電子ビームの試料への照射を停止する際の各信号波形を示している。(j)は走査ウェイト信号を示している。この図8から明らかなように、電子ビームが移動する際に生じる非直線応答の時間を適切に設定することで、電子ビームの正しい位置における分析データを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料上で電子ビームを2次元的に走査し、試料の2次電子像や反射電子像を観察する走査電子顕微鏡であって、試料像から試料の特定箇所を選択し、選択した試料の特定箇所のX線分析を行うことができる分析走査電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡では、電子銃から発生し加速された電子ビームをコンデンサレンズ、対物レンズによって試料上に細く集束させ、更に、電子ビームの試料上の照射位置を2次元的に走査するようにしている。試料への電子ビームの照射によって、試料からは2次電子や反射電子が発生するが、2次電子や反射電子は、それぞれ2次電子検出器、反射電子検出器によってその強度が検出される。2種類の検出器によって検出された信号は、画像信号として、フレームメモリーに記憶させ、フレームメモリーから画像信号を陰極線管などの表示装置に供給し、あるいは、検出信号を画像信号として直接表示装置に供給し、試料の特定領域の像を表示するようにしている。
【0003】
上記した走査電子顕微鏡では、電子ビームは、走査電子顕微鏡内の走査信号発生回路からの2次元走査信号が供給される電磁コイルや静電型偏向器により、2次元走査される。この走査信号発生回路を含む電子ビーム走査回路は、2次電子像や反射電子像を得るために最適な走査を行うために使用される。
【0004】
一方、試料の表面の像を走査電子顕微鏡像や反射電子像で取得し、この取得した像を観察して、試料中の特殊な領域を見いだし、その特殊な領域のX線分析を行っている。この場合、走査電子顕微鏡の電子ビームを走査しながら、試料から発生するX線を検出して、そのエネルギーを分析し、電子ビームの走査領域の元素マップを描くことを行っている。
【0005】
通常このようなX線分析には、エネルギー分散型X線分析装置が使用される。この装置では、走査電子顕微鏡のカラム内にX線検出器を配置し、試料から発生した特性X線を検出する。この検出器は、入射したX線光子のエネルギーに応じた高さのパルスを発生する。この高さの異なったパルス信号は、波高分析器に供給され、異なった高さのX線強度分布から電子ビームが照射された領域の元素が判明する。このようなX線分析を試料の全面に渡って行えば、試料表面の元素マップが作成される。なお、このようなX線分析装置をエネルギー分散型X線分析装置(通称EDS)と称している。
【0006】
図1にEDSが付属された走査電子顕微鏡における電子ビームの走査に関連した構成を示しており、この図1を用いてEDSを備えた走査電子顕微鏡における電子ビームの走査の詳細について説明する。図において、1は走査電子顕微鏡本体であり、本体1内部の電子ビームの走査関連部分が示されている。走査電子顕微鏡カラム(図示せず)内の上部には電子銃2が配置されており、電子銃2から発生し加速された電子ビームは、図示していないコンデンサレンズ、対物レンズによって試料3上に細く集束される。
【0007】
電子ビームは、走査コイル4によって偏向を受け、走査コイル4に供給される走査信号に応じて偏向量と方向が変化し、試料3の特定領域が電子ビームによって走査される。この電子ビームを走査するためには、走査コイル4に走査信号を供給することになるが、走査コイル4には、スイッチ5によって、走査電子顕微鏡本体1内に備えられた内部走査信号発生器6からか、走査電子顕微鏡本体1とは別に設けられたX線分析装置7内に設けられた外部走査信号発生器からか、何れかの走査信号が供給される。
【0008】
図1では、スイッチ5は内部走査信号発生器6(NC端子)に接続されており、内部走査信号発生器6からの走査信号がスイッチ5を介して走査コイル4に供給される。この場合の電子ビームの走査は、画像信号を得るに最適な条件とされており、試料3は電子ビームによって2次元走査される。
【0009】
この際、ラスター走査の始まりには主として偏向コイルが電気的スピードに追従できない応答性に起因する非直線領域が存在する。このため、電子ビームの走査領域をそのまま画像表示した場合は、ラスター走査の始まり部分の画像にゆがみが生じることになる。このため、試料3上に薄い直線の囲みで示した所望の走査領域R1より広い領域を走査して、表示は所望の走査領域R1とすることで非直線領域による画像歪みが生じないようにしている。
【0010】
また、電子ビームは上記したようにラスター走査されているが、1回の水平走査が終了すると、電子ビームは次のラスター水平走査のために図中点線で示すように、帰線期間における電子ビームの照射が生じる。試料3への電子ビームの照射に基づいて、試料3からは2次電子や反射電子が発生する。この2次電子あるいは反射電子は、検出器8によって検出され、検出信号は、X線分析装置7に接続されている表示装置に供給され、走査信号と同期して表示装置には、試料の所定の領域の2次電子像あるいは、反射電子像が表示されることになる。
【0011】
一方、試料への電子ビームの照射により、試料3からは、電子ビームの照射点における元素に応じた波長(エネルギー)の特性X線が発生する。この特性エックス線光子は、X線検出器9によって検出される。検出器9によって検出された各エックス線光子は、その波長に応じた高さのパルスに変換される。検出されたパルス信号は、波高分析器9に供給されて波高ごとのX線光子の強度分布が得られる。したがって、波高分析器9で特定の元素を指定すれば、その元素に応じた高さのパルス信号のみが検出され、その検出されたパルス信号は、X線分析装置7に供給されて、特定元素のマップが得られる。
【0012】
この場合、電子ビームの走査は、走査電子顕微鏡の内部の走査回路6によらず、X線分析装置7に付属する走査回路によって行う。このような試料のX線分析を行うことができる走査電子顕微鏡については、特許文献1を挙げることができる。
【特許文献1】特開2003−7245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
試料の元素分析や元素マッピングには、電子ビームの位置情報と観察像のデータ、および、分析データが確実に対応して表示される必要がある。しかし、一般的にには、走査電子顕微鏡本体1の走査信号発生器6からの走査信号は、観察像が最良になるよう考慮されていて、試料の元素分析や元素マッピングを最適に行うように設計されていない。例えば、電子ビーム走査のブランキングは、分析データを収集しないようにする必要があるが、EDS等の分析装置を接続することに配慮がなされていないことから、次のような問題が生じる。
【0014】
まず、電子ビーム走査のブランキング期間(帰線期間)においても、図1の点線で示したように走査電子顕微鏡の電子ビームは出力されたまま、すなわち、電子ビームは試料に照射された状態で電子ビームの走査の始点に戻される。この結果、電子ビーム走査のブランキング期間においてもX線は試料3から発生しており、そのX線信号は分析データとして取り込まれることになる。この分析データは、電子ビームの正規の走査においては電子ビームの照射位置(座標)に合わせて取り込まれるが、ブランキング期間においては、電子ビームの照射位置に同期されずに分析データとして取り込まれることから、分析結果にエラーとして記録される。
【0015】
また、試料の特定領域の2次電子像を表示し、その像を観察して特定領域中の分析領域を設定し、電子ビームを分析領域で走査し、X線分析を行う場合がある。図2はこのような分析方式を更に詳細に説明するための図である。図2において、領域R1は、走査電子顕微鏡の内部走査信号発生器6に基づいて電子ビームにより走査された像表示領域である。観察者は、この走査像を観察し、分析すべき領域R2を指定する。
【0016】
分析領域の指定の後、電子ビームは、初期ビーム位置(2次電子像取得のための電子ビームの走査開始点、すなわち、電子ビームの停止点)P1に位置される。ところで、この電子ビームの停止点P1から分析領域R2における電子ビームの走査開始点(分析始点)P2までの距離Dが長い場合がある。このような場合、電気的に分析開始点P2から電子ビームの走査が開始されているにもかかわらず、実際の電子ビームの試料上の照射位置は、電気的な分析始点P2に到達していない場所で走査が開始されることがある。一般的に、この現象は電子ビームが停止点P1から分析領域R2の分析開始点P2に移動する最初の電子ビームの分析領域への移動の時だけ発生する。
【0017】
この現象は、電子ビーム走査用の偏向コイルやドライブ増幅器が電気的なスピードに追従できない応答性に起因する。この現象は、電子ビームの停止点P1から分析領域R2における電子ビームの走査開始点(分析始点)P2までの距離Dが長いほど顕著になる。
【0018】
この結果、分析領域R2で電子ビームの走査が行われず、分析領域とは異なった領域において電子ビームの走査が行われるため、所望のX線分析データを得ることができなくなる。
【0019】
このような問題点を解決するための方式として、試料の元素分析や元素マップの取得の際には、図1に示したように、外部の分析装置内に設けられた走査信号発生器から走査信号を発生させ、外部よりの分析に適した走査信号を偏向コイルに供給するようにし、分析に適した電子ビームの走査と制御を行うことが考えられる。しかしながら、このような方式は、電子ビームの走査回路はもちろんのこと、像の取り込み回路を含めて走査電子顕微鏡側と同等の制御回路を走査電子顕微鏡本体と分析装置の両者に備える必要があり、コストアップの要因となる。
【0020】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたもので、その目的は、走査電子顕微鏡本体側と外部分析装置側に同等の回路を備えることなく、簡単な構成により、試料の特定領域の元素分析や元素マッピングを正しい位置で正確に行うことができる分析機能を有した分析走査電子顕微鏡を実現するにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
請求項1の発明に基づく分析走査電子顕微鏡は、電子銃と、電子銃から発生し加速された電子ビームを試料上に集束するためのレンズと、試料上で電子ビームの照射位置を2次元走査するための電子ビーム偏向器と、試料への電子ビームの照射により発生した2次電子や反射電子を検出する検出器と、検出器からの検出信号に基づき試料上の電子ビームの2次元走査に同期して試料像を表示する表示手段と、試料への電子ビームの照射により発生する特性X線を検出する検出器と、X線検出器によって検出されたパルス信号を分析するX線分析装置と、走査電子顕微鏡に設けられた電子ビームの走査信号発生器と、走査電子顕微鏡の外部に設けられ、走査電子顕微鏡とX線分析装置との間で信号の受渡を行う制御装置とを備えており、制御装置は、走査信号発生器より少なくとも水平同期信号、水平ブランキング信号、垂直同期信号、垂直ブランキング信号及び走査クロックが供給され、制御装置は、分析時に走査電子顕微鏡に設けられた電子ビームの走査信号発生器を制御し、分析用に電子ビームの走査を行うようにしたことを特徴としている。
【0022】
請求項2の発明に基づく分析走査電子顕微鏡は、走査電子顕微鏡の外部の制御装置が、電子ビームの走査ウェイト要求信号を走査電子顕微鏡に設けられた電子ビームの走査信号発生器に供給し、走査信号発生器を制御し、電子ビームの走査を停止させ、あるいは、走査をスタートさせるように構成したことを特徴としている。
【0023】
請求項3の発明に基づく分析走査電子顕微鏡は、走査電子顕微鏡の外部の制御装置は、走査ウェイト時間が可変とされ、電子ビームの走査ウェイト要求信号を走査電子顕微鏡に設けられた電子ビームの走査信号発生器に供給し、走査信号発生器を制御し、電子ビームの停止点から分析領域の始点までの非直線動作時間が過ぎるまで電子ビームの走査を停止させるように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に記載の本発明に基づく分析走査電子顕微鏡は、走査電子顕微鏡に設けられた電子ビームの走査信号発生器と、走査電子顕微鏡の外部に設けられ、走査電子顕微鏡とX線分析装置との間で信号の受渡を行う制御装置とを備えており、制御装置は、走査信号発生器より少なくとも水平同期信号、水平ブランキング信号、垂直同期信号、垂直ブランキング信号及び走査クロックが供給され、制御装置は、分析時に走査電子顕微鏡に設けられた電子ビームの走査信号発生器を制御し、分析用に電子ビームの走査を行うようにしている。
【0025】
その結果、電子ビームの走査回路を走査電子顕微鏡内部と走査電子顕微鏡外部に重複して設けることが不要となり、コストダウンに貢献することができる。また、像観察と分析時とでは、走査信号のレベルが異なっており、今までは走査電子顕微鏡側と外部分析側とで取り込み像の像合わせが必要であったが、走査信号が単一となったので、像合わせ作業が不要となる。更に、走査電子顕微鏡側電子ビーム走査回路が有している各制御信号を走査電子顕微鏡外部に出力し、且つ走査の一時停止の機能は、若干の回路変更だけで簡単に分析用走査に適用することができる。
【0026】
請求項2の発明に基づく分析走査電子顕微鏡は、走査電子顕微鏡の外部の制御装置が、電子ビームの走査ウェイト要求信号を走査電子顕微鏡に設けられた電子ビームの走査信号発生器に供給し、走査信号発生器を制御し、電子ビームの走査を停止させ、あるいは、走査をスタートさせるように構成した。この構成により、走査ウェイト要求信号を設けて電子ビームの一次停止を可能とすることができ、電子ビームが停止点から分析始点に移動する際の時間遅れで生じる座標と分析データの相関エラーを解消することができる。また、表示期間のみX線データの取り込みを有効とさせたことで電子ビームのオーバースキャンや帰線期間に発生するX線データの取り込みを防ぐことができる。
【0027】
請求項3の発明に基づく分析走査電子顕微鏡は、走査電子顕微鏡の外部の制御装置は、走査ウェイト時間が可変とされ、電子ビームの走査ウェイト要求信号を走査電子顕微鏡に設けられた電子ビームの走査信号発生器に供給し、走査信号発生器を制御し、電子ビームの停止点から分析領域の始点までの非直線動作時間が過ぎるまで電子ビームの走査を停止させるように構成した。この結果、非直線動作時間における電子ビームの試料の走査を停止でき、不要な試料領域からのX線データの取り込みを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図3は本発明の第1の実施の形態を示しているが、図1に示した従来のシステムとほぼ同様なハードウェアの構成となっている。しかしながら、各構成要素間で転送されるデータや信号の種類が異なり、全体として異なった動作がなされている。すなわち、図3の構成では、1は走査電子顕微鏡本体であり、走査電子顕微鏡カラム(図示せず)内の上部には電子銃2が配置されている。電子銃2から発生し加速された電子ビームは、図示していないコンデンサレンズ、対物レンズによって試料3上に細く集束される。
【0029】
電子ビームは、走査コイル4によって偏向を受け、走査コイル4に供給される走査信号に応じて偏向量と方向が変化し、試料3の特定領域が電子ビームによって走査される。この電子ビームを走査するためには、走査コイル4に走査信号を供給することになるが、走査コイル4には、走査電子顕微鏡本体1内に備えられた内部走査信号発生器6から常に供給される。
【0030】
図1では、スイッチ5は内部走査信号発生器6に接続されており、内部走査信号発生器6からの走査信号がスイッチ5を介して走査コイル4に供給される。この場合の電子ビームの走査は、画像信号を得るに最適な条件とされており、試料3は電子ビームによって2次元走査される。試料3への電子ビームの照射に基づいて、試料3からは2次電子や反射電子が発生する。この2次電子あるいは反射電子は、検出器8によって検出され、検出信号は、X線分析装置(図示せず)と走査電子顕微鏡との間のインターフェースとしての役割を果たす制御装置10に接続されている表示装置に供給され、走査信号と同期して表示装置には、試料の所定の領域の2次電子像あるいは、反射電子像が表示されることになる。
【0031】
一方、試料への電子ビームの照射により、試料3からは、電子ビームの照射点における元素に応じた波長(エネルギー)の特性X線が発生する。この特性エックス線光子は、X線検出器9によって検出される。検出器9によって検出された各エックス線光子は、その波長に応じた高さのパルスに変換される。検出されたパルス信号は、波高分析器9に供給されて波高ごとのX線光子の強度分布が得られる。したがって、波高分析器9で特定の元素を指定すれば、その元素に応じた高さのパルス信号のみが検出され、その検出されたパルス信号は、制御装置10を介してX線分析装置に供給され、特定元素のマップが得られる。
【0032】
図3に示したシステムと、図1に示した従来装置との違いは、図3の形態では、試料の画像を得るための走査も、試料の特定領域のX線分析を行うための電子ビームの走査も、走査電子顕微鏡本体1内の走査信号発生器6からの走査信号に基づいて行う点である。このため、走査信号発生器6から制御装置10には、制御装置10で電子ビームの照射座標を検出するために最小限必要な信号が供給される。最小限必要な信号とは、水平ブランキング信号、垂直ブランキング信号、水平同期信号、垂直同期信号、走査クロック信号の各デジタル信号である。逆に、制御装置10から走査電子顕微鏡本体1内の内部走査信号発生器6には、電子ビームの走査を一時停止させるための走査ウェイト要求信号が転送される。このような構成の動作を次に説明する。
【0033】
最初に試料の走査2次電子像や反射電子像を取得して観察し、X線分析を行う部位が選択される。次にオペレータは、分析を開始するにあたり、必要な電子ビームの走査条件を走査電子顕微鏡本体1内の走査信号発生器6に指示する。指示は、図示していないが、走査電子顕微鏡本体1の各制御を行うPC(パーソナルコンピュータ)によって行う。具体的には、キーボードにより、PCのディスプレイに表示されたメニュー画面に沿って、走査速度や、走査始点、走査終点などの座標値が入力される。
【0034】
上記した走査信号発生器6に指示した走査条件は、分析用制御インターフェース14にも設定される。この走査条件の指示が終わると、分析用制御インターフェース14は、走査電子顕微鏡本体1の内部走査信号発生器6が動作されるのを待つ。最後に、内部走査信号発生器6の電子ビーム走査信号発生器6に走査開始が指示されると、走査条件にしたがった制御信号を出力し、更に、2次電子検出器8、あるいは、X線検出器9からの信号を出力する。
【0035】
これらの制御信号や検出器からの信号は、制御装置10に供給されるが、制御装置10はこれらの信号を受けて電子ビームの座標を検出すると共に、2次電子検出器8からの信号をA/D変換器(図示せず)でディジタル信号に変換し、更に、波高分析器9からのX線データを検出された電子ビームの座標データに貼付して、制御装置10を介してPC等のデータメモリに送出する。
【0036】
次に、制御装置10において電子ビーム座標を検出する方法を説明する。図4に示した論理回路が電子ビーム座標を検出するが、この検出回路は、制御装置10内に設けられている。図4において、分析動作を実行する前段階で、レジスタ15には画面解像度データが格納され、レジスタ16には水平走査始点が格納され、レジスタ17には水平走査終点が格納され、レジスタ18には垂直走査始点が格納され、レジスタ19には垂直走査終点が格納される。水平走査始点のデータは、水平カウンタ/レジスタ20に供給され、垂直走査始点のデータは、垂直カウンタ/レジスタ21に供給されるように構成されている。
【0037】
このような座標検出回路は、次のように動作する。まず画面解像度に応じて、各カウンタ/レジスタ20,21をインクリメントさせるビット位置が選択される。また、水平ブランキング信号と垂直ブランキング信号とはAND回路22に供給されており、2種のブランキング信号が共にハイの期間(ブランキングされていない期間)走査クロックを有効にして各カウンタ/レジスタ20,21をインクリメントさせる。走査の終点は、次のようにして行う。
【0038】
水平カウンタ/レジスタ20と垂直カウンタ/レジスタ21には走査クロックが供給され、それぞれのカウンタ/レジスタ20,21は走査クロックをカウントする。水平カウンタ/レジスタ20は、水平走査始点データに走査クロック信号をカウントした値と加算され、加算されたデータは、コンパレータ22の一方の端子に供給される。コンパレータ22の他方の端子には、水平走査終点データが格納されているレジスタ17が接続されており、コンパレータ22は、水平走査始点データにクロック信号をカウントして加算したデータ(A)と、水平走査終点データ(B)と比較し、A≧Bとなったとき、水平走査を終了させる。
【0039】
同様に、垂直カウンタ/レジスタ21は、垂直走査始点データに走査クロック信号をカウントした値と加算され、加算されたデータは、コンパレータ23の一方の端子に供給される。コンパレータ23の他方の端子には、垂直走査終点データが格納されているレジスタ19が接続されており、コンパレータ23は、垂直走査始点データにクロック信号をカウントして加算したデータ(A)と、水平走査終点データ(B)と比較し、A≧Bとなったとき、垂直走査を終了させる。
【0040】
上記した動作により、走査の終点に達すると、カウンタ/レジスタ20,21のsld入力をイネーブルにして、始点情報をカウンタ/レジスタに再セットする。これは走査を始点に戻して、次の分析のための走査に備えるためである。また、バッファメモリ24には、検出された各種データが格納される。なお、上記説明で用いた画面解像度とは、CRT表示領域におけるグリッドサイズのことであり、グリッドサイズが小さいほど分析密度は高くなり、大きいほど低くなる。
【0041】
図5〜図8は、上記分析走査を実行した際の各段階における各種信号の波形図である。図5は、電子ビームの水平座標の検出(カウントアップ)と水平座標の読み出しを行う際の各波形図である。図5(a)は水平走査信号であり、(b)はその水平同期信号、(c)は水平ブランキング信号である。また、図5(d)は水平カウンタ/レジスタ20に供給される走査クロック信号であり、例えば,48MHzの周波数の信号である。(e)はカウンタ20の出力信号であり、Sは水平走査の開始点、Eは水平走査の終了点である。、(f)は水平sld信号、(g)は水平カウンタ読み出し信号である。この図5から明らかなように、水平カウンタ/レジスタ20は水平ブランキング信号(c)がハイの期間における走査クロック(d)の立ち上がり時にインクリメントされ、又水平座標が読み出される。
【0042】
図6は、電子ビームの垂直座標の検出(カウントアップ)と垂直座標の読み出しを行う際の各波形図である。図6(a)は水平走査信号であり、(b)はその水平同期信号、(c)は水平ブランキング信号である。また、図6(d)は水平sld信号、(e)は垂直同期信号、(f)は垂直ブランキング信号、(g)は垂直カウンタの出力、(h)は垂直走査信号、(i)は垂直カウンタ読み出し信号である。
【0043】
垂直カウンタ/レジスタ21は垂直ブランキング信号(f)がハイの期間における水平SLD信号(d)が発生した時にインクリメントされ、又、水平ブランキング信号(c)の立ち上がり時に垂直座標が読み出される。
【0044】
図7は走査ウェイト信号により、走査の途中で走査を一時的に停止させるようにしたときの各波形図である。図中(a)は水平走査信号であり、(b)は水平同期信号、(c)は水平ブランキング信号を示している。また、図7(d)は水平カウンタ/レジスタ20に供給される走査クロック信号であり、(e)は水平カウンタ20の出力信号、(f)は水平sld信号、(g)は走査ウェイト信号を、(h)は水平カウンタ読み出し信号を示している。(f)は水平sld信号、(g)は水平カウンタ読み出し信号である。この図7から明らかなように、走査ウェイト信号(g)をローにすると、走査クロック(d)出力は停止される。これにより水平カウンタ/レジスタ20はカウントアップが中断される。
【0045】
図8は電子ビームが試料の分析位置に移動中の非直線応答期間には走査ウェイト信号に基づき電子ビームの試料への照射を停止する際の各信号波形を示している。図中(a)は水平走査信号であり、(b)は水平同期信号、(c)は水平ブランキング信号を示している。また、図8(d)は水平sld信号、(e)は垂直同期信号、(f)は垂直ブランキング信号、(g)は垂直カウンタ出力信号、(h)は垂直カウンタ読み出し信号を示している。更に、(i)は垂直走査信号を、(j)は走査ウェイト信号を示している。この図8から明らかなように、走査ウェイト信号(j)をローにして分析をスタートすると走査ウェイト信号(j)がハイに戻るまで走査が停止される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】従来の分析走査電子顕微鏡を示す図である。
【図2】陰極線管などの表示領域中の分析領域を示す図である。
【図3】本発明に基づく分析走査電子顕微鏡の一例を示す図である。
【図4】電子ビームの照射位置座標の検出回路を示す図である。
【図5】本発明に基づいて行う分析走査時の各信号波形図である。
【図6】本発明に基づいて行う分析走査時の各信号波形図である。
【図7】本発明に基づいて行う分析走査時の各信号波形図である。
【図8】本発明に基づいて行う分析走査時の各信号波形図である。
【符号の説明】
【0047】
1 走査電子顕微鏡本体
2 電子銃
3 試料
4 走査コイル
6 内部走査信号発生器
8 検出器
9 X線検出器
10 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子銃と、電子銃から発生し加速された電子ビームを試料上に集束するためのレンズと、試料上で電子ビームの照射位置を2次元走査するための電子ビーム偏向器と、試料への電子ビームの照射により発生した2次電子や反射電子を検出する検出器と、検出器からの検出信号に基づき試料上の電子ビームの2次元走査に同期して試料像を表示する表示手段と、試料への電子ビームの照射により発生する特性X線を検出する検出器と、X線検出器によって検出されたパルス信号を分析するX線分析装置と、走査電子顕微鏡に設けられた電子ビームの走査信号発生器と、走査電子顕微鏡の外部に設けられ、走査電子顕微鏡とX線分析装置との間で信号の受渡を行う制御装置とを備えており、制御装置は、走査信号発生器より少なくとも水平同期信号、水平ブランキング信号、垂直同期信号、垂直ブランキング信号及び走査クロックが供給され、制御装置は、分析時に走査電子顕微鏡に設けられた電子ビームの走査信号発生器を制御し、分析用に電子ビームの走査を行うようにした分析走査電子顕微鏡。
【請求項2】
走査電子顕微鏡の外部の制御装置は、電子ビームの走査ウェイト要求信号を走査電子顕微鏡に設けられた電子ビームの走査信号発生器に供給し、走査信号発生器を制御し、電子ビームの走査を停止させ、あるいは、走査をスタートさせるように構成した請求項1記載の分析走査電子顕微鏡。
【請求項3】
走査電子顕微鏡の外部の制御装置は、走査ウェイト時間が可変とされ、電子ビームの走査ウェイト要求信号を走査電子顕微鏡に設けられた電子ビームの走査信号発生器に供給し、走査信号発生器を制御し、電子ビームの停止点から分析領域の始点までの非直線動作時間が過ぎるまで電子ビームの走査を停止させるように構成した請求項1記載の分析走査電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−107870(P2006−107870A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−291341(P2004−291341)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【出願人】(000232324)日本電子エンジニアリング株式会社 (11)
【Fターム(参考)】