説明

分波装置

【課題】各LCフィルタ回路間の電磁干渉を低減できるとともに小型化が容易な積層構造を有する分波装置を提供する。
【解決手段】LPF51は、導体層340〜345の内の導体層340〜344が時計回り方向に巻回することによって構成されるインダクタL1と、導体層340〜345の内の導体層345が反時計回り方向に巻回することによって構成されるインダクタL2と、を含んでいる。また、HPF30は、導体層440〜445がインダクタL1と同じ時計回り方向へ巻回することによって構成されるインダクタL3を含んでいる。そのため、高周波信号がLPF51を通過する時、巻回方向が逆になるため、インダクタL2とインダクタL3の間で不要な結合が起こりにくい。また、高周波信号がHPF30を通過する時、同じ理由により、インダクタL3とインダクタL2の間でも不要な結合が起こりにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の周波数帯域における高周波信号を処理する分波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、簡単にネットワーク構築できる技術として、電波を用いてLANを構成する無線LANが注目されている。この無線LANには、周波数帯域として2.4GHz帯を使用するIEEE802.11bや、周波数帯域として5GHz帯を使用するIEEE802.11aのように、複数の規格が存在している。そのため、無線LAN用の通信装置は、アンテナに接続され、複数の周波数帯域における高周波信号を処理する分波装置を内蔵する。
【0003】
例えば、特許文献1には、受信側の第1ダイプレクサと送信側の第2ダイプレクサと1つのスイッチ回路とを備える分波装置(高周波モジュール)が開示されている。この分波装置において、スイッチ回路は、1つのアンテナに対して、第1、第2ダイプレクサのうちの一方を切り替えて接続する。受信側の第1ダイプレクサは、所定の周波数帯域内の高周波信号を通過させる第1バンドパスフィルタを有する。送信側の第2ダイプレクサは、特定の周波数帯域内の高周波信号を通過させる第2バンドパスフィルタを有する。第1、第2バンドパスフィルタは、導体パターンが形成された誘電体層を積層した積層基板において構成されている。
【0004】
図1(A)は、特許文献1の積層基板における12層目の誘電体層612の上面を示す平面図であり、図1(B)は、特許文献1の積層基板における13層目の誘電体層613の上面を示す平面図であり、図1(C)は、特許文献1の積層基板における14層目の誘電体層614の上面を示す平面図である。
【0005】
図1(A)に示した導体層739は、ビアホールを介して、図1(B)に示した導体層740に接続されている。また、図1(B)に示した導体層740も、ビアホールを介して、図1(C)に示した導体層741に接続されている。これにより、図1(A)〜図1(C)に示した導体層739〜741は、受信側の第1バンドパスフィルタに含まれるインダクタL7を構成している。
【0006】
同様に、図1(A)に示した導体層839は、ビアホールを介して、図1(B)に示した導体層840に接続されている。また、図1(B)に示した導体層840も、ビアホールを介して、図1(C)に示した導体層841に接続されている。これにより、図1(A)〜図1(C)に示した導体層839〜841は、送信側の第2バンドパスフィルタに含まれるインダクタL8を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−352532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、高周波信号が受信側の第1バンドパスフィルタを通過する時、インダクタL7で磁界が発生するため、発生した磁界が第2バンドパスフィルタのインダクタL8に干渉する。同様に、高周波信号が送信側の第2バンドパスフィルタを通過する時、インダクタL8で磁界が発生するため、発生した磁界が第1バンドパスフィルタのインダクタL7に干渉する。特に、特許文献1ではインダクタL7とインダクタL8が同一の誘電体層上に構成されているため、互いの磁界による不要な干渉が一層発生しやすい。
【0009】
そのため、分波装置では、各LCフィルタ回路を通過する信号が互いに不要な干渉を起こさないよう(特に送受信間における)各LCフィルタ回路間のアイソレーション特性を良好にすることが重要である。具体的には特許文献1の積層構造では、インダクタL7、L8間の電磁干渉を低減させるため、導体層652を介してグランド端子G1、G4に接続されたビア電極VがインダクタL7,L8間に設けられている。しかしながら、この場合、ビア電極Vを設けるための十分なスペースがインダクタL7,L8間に必須となる。
【0010】
よって、特許文献1の分波装置の積層構造では、電磁干渉を低減させるために小型化が困難であるという問題がある。従って、携帯電話機などの移動体通信装置に特許文献1の分波装置を搭載する場合、移動体通信装置が大型化するという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、各LCフィルタ回路間の電磁干渉を低減できるとともに小型化が容易な積層構造を有する分波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の分波装置は、前記課題を解決するために以下の構成を備えている。
【0013】
(1)アンテナに接続されるアンテナ端子と、
少なくとも二つ以上の信号端子と、
前記アンテナ端子と各信号端子との間に接続され、いずれかの端子から入力された信号の内、第1の周波数帯域の信号を通過させる第1LCフィルタ回路と、
前記アンテナ端子と各信号端子との間に接続され、いずれかの端子から入力された信号の内、第2の周波数帯域の信号を通過させる第2LCフィルタ回路とを備え、
前記第1LCフィルタ回路および前記第2LCフィルタ回路は、導体パターンが形成された誘電体層を積層した積層基板において構成される、分波装置であって、
前記第1LCフィルタ回路は、前記導体パターンにより形成された形成された第1コイル導体の一部が所定方向に巻回することによって構成される第1インダクタと、前記導体パターンにより形成された前記第1コイル導体の残りの部分が前記所定方向と反対方向に巻回することによって構成される第2インダクタとを含み、
前記第2LCフィルタ回路は、前記導体パターンにより形成された第2コイル導体が前記所定方向に巻回することによって構成される第3インダクタを含む。
【0014】
この構造では、高周波信号が第1LCフィルタ回路を通過する時、巻回方向が逆になる。このため、第2インダクタと第3インダクタの間で不要な結合が起こりにくい。また、高周波信号が第2LCフィルタ回路を通過する時、同じ理由により、第3インダクタと第2インダクタ間でも不要な結合が起こりにくい。
従って、この構造によれば、第1LCフィルタ回路と第2LCフィルタ回路の間の電磁干渉を低減できる。また、この構造によれば、特許文献1のように第2インダクタと第3インダクタとの間にスペースを設ける必要も無いため、分波装置を小型化できる。
【0015】
(2)前記第3インダクタの少なくとも一部は、前記第2インダクタと同じ誘電体層上で巻回することによって構成されている。
【0016】
2つのインダクタが同じ誘電体層上に導体パターンが同じ方向へ巻回することによって構成されている場合、両インダクタ間の電磁干渉が強くなる。
この構造では、同じ誘電体層上に導体パターンが巻回することによって構成された第2、第3インダクタの巻回方向が逆であるため、高周波信号が第1LCフィルタ回路を通過する時、第2インダクタと第3インダクタの間で不要な結合が起こりにくい。また、高周波信号が第2LCフィルタ回路を通過する時、同じ理由により、第3インダクタと第2インダクタの間でも不要な結合が起こりにくい。
従って、この構造によれば、第1LCフィルタ回路と第2LCフィルタ回路の間の電磁干渉を一層低減できる。
【0017】
(3)前記第2インダクタは、前記第1インダクタよりインダクタンスの値が小さい。
【0018】
この積層構造では、第2インダクタのインダクタンス値が第1インダクタのインダクタンス値に比べて小さければ小さい程、次の作用効果を生じる。即ち、高周波信号が第1LCフィルタ回路を通過する際において、逆巻きの第2インダクタが第1LCフィルタ回路の高周波信号の通過特性および高周波ノイズ除去特性に与える影響は極めて小さく、無視できる。
【0019】
(4)前記第1LCフィルタ回路は、前記信号端子から入力された信号の内、前記第1の周波数帯域の信号を通過させて前記アンテナ端子へ出力するフィルタ回路であり、
前記第2LCフィルタ回路は、前記アンテナ端子で受信され、前記アンテナ端子から入力された信号の内、前記第2の周波数帯域の信号を通過させて前記信号端子へ出力するフィルタ回路である。
【0020】
この積層構造では、第1LCフィルタ回路が送信側のフィルタ回路であり、第2LCフィルタ回路が受信側のフィルタ回路である。そのため、この積層構造によれば、送信側の第1LCフィルタ回路と受信側の第2LCフィルタ回路との間の電磁干渉を低減できる。
【0021】
(5)前記第1LCフィルタ回路は、前記アンテナ端子で受信され、前記アンテナ端子から入力された信号の内、前記第1の周波数帯域の信号を通過させて前記信号端子へ出力するフィルタ回路であり、
前記第2LCフィルタ回路は、前記信号端子から入力された信号の内、前記第2の周波数帯域の信号を通過させて前記アンテナ端子へ出力するフィルタ回路である。
【0022】
この積層構造では、第1LCフィルタ回路が受信側のフィルタ回路であり、第2LCフィルタ回路が送信側のフィルタ回路である。そのため、この積層構造によれば、受信側の第1LCフィルタ回路と送信側の第2LCフィルタ回路との間の電磁干渉を低減できる。
【0023】
(6)前記第1の周波数帯域は、前記第2の周波数帯域と同じ周波数帯域である。
【0024】
第1、第2の周波数帯域が同じである場合、第1、第2LCフィルタ回路間の電磁干渉が強くなる。そのため、この構成では、第1LCフィルタ回路と第2LCフィルタ回路の間の電磁干渉を一層低減できる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、各LCフィルタ回路間の電磁干渉を低減できるとともに小型化が容易な分波装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1(A)は、特許文献1の積層基板における12層目の誘電体層612の上面を示す平面図であり、図1(B)は、特許文献1の積層基板における13層目の誘電体層613の上面を示す平面図であり、図1(C)は、特許文献1の積層基板における14層目の誘電体層614の上面を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る分波装置1が実装される無線LAN用の通信装置における高周波回路部の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る分波装置1の回路図である。
【図4】本発明の実施形態に係る分波装置1の外観斜視図である。
【図5】本発明の実施形態に係る分波装置1の平面図である。
【図6】図4に示した積層基板200における1層目の誘電体層201の上面を示す平面図である。
【図7】図4に示した積層基板200における2層目の誘電体層202の上面を示す平面図である。
【図8】図4に示した積層基板200における3層目の誘電体層203の上面を示す平面図である。
【図9】図4に示した積層基板200における4層目の誘電体層204の上面を示す平面図である。
【図10】図4に示した積層基板200における5層目の誘電体層205の上面を示す平面図である。
【図11】図4に示した積層基板200における6層目の誘電体層206の上面を示す平面図である。
【図12】図4に示した積層基板200における7層目の誘電体層207の上面を示す平面図である。
【図13】図4に示した積層基板200における8層目の誘電体層208の上面を示す平面図である。
【図14】図4に示した積層基板200における9層目の誘電体層209の上面を示す平面図である。
【図15】図4に示した積層基板200における10層目の誘電体層210の上面を示す平面図である。
【図16】図4に示した積層基板200における11層目の誘電体層211の上面を示す平面図である。
【図17】図4に示した積層基板200における12層目の誘電体層212の上面を示す平面図である。
【図18】図4に示した積層基板200における13層目の誘電体層213の上面を示す平面図である。
【図19】図4に示した積層基板200における14層目の誘電体層214の上面を示す平面図である。
【図20】図4に示した積層基板200における15層目の誘電体層215の上面を示す平面図である。
【図21】図4に示した積層基板200における16層目の誘電体層216の上面を示す平面図である。
【図22】図4に示した積層基板200における17層目の誘電体層217の上面を示す平面図である。
【図23】図4に示した積層基板200における18層目の誘電体層218の下面を示す平面図である。
【図24】本発明の実施形態に係る分波装置1のアイソレーション特性と当該分波装置1の変形例のアイソレーション特性とを示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態に係る分波装置について説明する。本発明の実施形態に係る分波装置は、無線LANの通信に用いられる。同分波装置は、第1の周波数帯域における第1の受信信号および第1の送信信号と、この実施形態では第1の周波数帯域よりも高周波側の第2の周波数帯域における第2の受信信号および第2の送信信号と、を処理するものである。第1の周波数帯域は、例えばIEEE802.11bにおいて使用される2.4GHz帯である。第2の周波数帯域は、例えばIEEE802.11aやにおいて使用される5GHz帯である。なお、実施の際は、第1、第2の周波数帯域に加え、その他の周波数帯域における高周波信号を処理する回路構成を同分波装置に付加しても構わない。
【0028】
まず、本発明の実施形態に係る分波装置が実装される無線LAN用の通信装置における高周波回路部の構成について説明する。
図2は、同高周波回路部の構成を示すブロック図である。同高周波回路部は、分波装置1と、この分波装置1に接続されたアンテナ101と、を備えている。
【0029】
高周波回路部は、さらに、入力端が分波装置1の受信信号端子RxGに接続されたローノイズアンプ111と、一端がローノイズアンプ111の出力端に接続されたバンドパスフィルタ(以下、BPFと記す。)112と、不平衡端子がBPF112の他端に接続されたバラン113と、を備えている。受信信号端子RxGより出力された第1の受信信号は、ローノイズアンプ111によって増幅された後、BPF112を通過し、バラン113によって、平衡信号に変換されて、バラン113の2つの平衡端子より出力される。
【0030】
高周波回路部は、さらに、入力端が分波装置1の受信信号端子RxAに接続されたローノイズアンプ114と、一端がローノイズアンプ114の出力端に接続されたBPF115と、不平衡端子がBPF115の他端に接続されたバラン116と、を備えている。受信信号端子RxAより出力された第2の受信信号は、ローノイズアンプ114によって増幅された後、BPF115を通過し、バラン116によって、平衡信号に変換されて、バラン116の2つの平衡端子より出力される。
【0031】
高周波回路部は、さらに、出力端が分波装置1の送信信号端子TxGに接続されたパワーアンプ121と、一端がパワーアンプ121の入力端に接続されたBPF122と、不平衡端子がBPF122の他端に接続されたバラン123と、を備えている。第1の送信信号に対応する平衡信号は、バラン123の2つの平衡端子に入力され、バラン123によって不平衡信号に変換され、BPF122を通過し、パワーアンプ121によって増幅された後、第1の送信信号として送信信号端子TxGに伝送される。
【0032】
高周波回路部は、さらに、出力端が分波装置1の送信信号端子TxAに接続されたパワーアンプ124と、一端がパワーアンプ124の入力端に接続されたBPF125と、不平衡端子がBPF125の他端に接続されたバラン126と、を備えている。第2の送信信号に対応する平衡信号は、バラン126の2つの平衡端子に入力され、バラン126によって不平衡信号に変換され、BPF125を通過し、パワーアンプ124によって増幅された後、第2の送信信号として送信信号端子TxAに伝送される。
【0033】
なお、高周波回路部の構成は、図2に示した構成に限定されず、種々変更が可能である。例えば、高周波回路部は、バラン113,116を含まず、BPF112,115を通過した信号を、不平衡信号のまま出力するものであっても構わない。
また、ローノイズアンプ111とBPF112の位置関係、およびローノイズアンプ114とBPF115の位置関係は、それぞれ、図2に示した位置関係とは逆であってもよい。また、BPF112,115,122,125の代わりに、ローパスフィルタまたはハイパスフィルタが設けられていても構わない。
【0034】
次に、本発明の実施形態に係る分波装置1の構成について説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る分波装置1を示す回路図である。分波装置1は、アンテナ101に接続されるアンテナ端子ANTと、第1の周波数帯域における第1の受信信号を出力する第1の受信信号端子RxGと、第2の周波数帯域における第2の受信信号を出力する第2の受信信号端子RxAと、第1の周波数帯域における第1の送信信号が入力される第1の送信信号端子TxGと、第2の周波数帯域における第2の送信信号が入力される第2の送信信号端子TxAと、を備えている。
【0035】
分波装置1は、さらに、アンテナ端子ANTに接続されたスイッチ回路10と、受信信号端子RxG,RxAおよびスイッチ回路10に接続された第1のダイプレクサ11と、送信信号端子TxG,TxAおよびスイッチ回路10に接続された第2のダイプレクサ12と、を備えている。
【0036】
スイッチ回路10は、直流成分をカットするためのキャパシタ13を介してアンテナ端子ANTに接続されている。また、スイッチ回路10は、ダイプレクサ11とダイプレクサ12に接続されている。また、スイッチ回路10は、キャパシタを介してグランドに接続されている。さらに、スイッチ回路10は、不図示の制御回路に接続されている。スイッチ回路10は、この制御回路からの切替信号に基づいてスイッチを切替え、ダイプレクサ11及びダイプレクサ12のいずれか一方とアンテナ端子ANTとを接続する。
【0037】
ダイプレクサ11は、ローパスフィルタ(以下、LPFとも記す。)20と、詳細を後述するインダクタL3を含むハイパスフィルタ(以下、HPFとも記す。)30と、を有している。LPF20の一端は、スイッチ回路10に接続されている。LPF20の他端は、キャパシタ14を介して受信信号端子RxGに接続されている。一方、HPF30の一端は、スイッチ回路10に接続されている。HPF30の他端は、インダクタを介して受信信号端子RxAに接続されている。
【0038】
LPF20は、第1の周波数(例えば、2.4GHz帯の無線信号)帯域内の受信信号を通過させ、第1の周波数帯域外の高周波数側の受信信号を遮断する。これにより、LPF20は、アンテナ端子ANTに入力されスイッチ回路10を通過した受信信号をフィルタリングし、受信信号端子RxGに第1の受信信号を出力する。
【0039】
HPF30は、第2の周波数(例えば、5GHz帯の無線信号)帯域内の受信信号を通過させ、第2の周波数帯域外の低周波側の受信信号を遮断する。これにより、HPF30は、アンテナ端子ANTに入力されスイッチ回路10を通過した受信信号をフィルタリングし、第2の受信信号端子RxAに出力する。
【0040】
ダイプレクサ12は、互いに直列に接続された3つのLPF50、51、52と、HPF60と、LPF70と、を有している。LPF50の一端は、スイッチ回路10に接続されている。LPF51は、詳細を後述するインダクタL1、L2を含み、一端がLPF50の他端に接続し、他端がLPF52の一端に接続する。LPF52の他端は、キャパシタ15を介して送信信号端子TxGに接続されている。一方、HPF60の一端は、スイッチ回路10に接続されている。HPF60の他端は、LPF70の一端に接続されている。LPF70の他端は、送信信号端子TxAに接続されている。
【0041】
LPF50、51、52は、第1の周波数帯域内の送信信号を通過させ、第1の周波数帯域外の送信信号を遮断する。詳述すると、LPF52が、第1の送信信号の第3高調波を遮断する。そして、LPF50、51が、第1の送信信号の第2高調波を遮断する。これにより、LPF50、51、52は、送信信号端子TxGに入力された送信信号をフィルタリングし、第1の送信信号をスイッチ回路10に出力する。
【0042】
HPF60及びLPF70は、第2の周波数帯域内の送信信号を通過させ、第2の周波数帯域外の送信信号を遮断する。詳述すると、LPF70が、第2の送信信号の第2、第3高調波を遮断する。そして、HPF60が、第2の周波数帯域よりも低周波側の送信信号を遮断する。これにより、HPF60およびLPF70は、送信信号端子TxAに入力された送信信号をフィルタリングし、スイッチ回路10に第2の送信信号を出力する。
【0043】
以上の構成の分波装置1では、アンテナ端子ANTに入力された第1の周波数帯域の受信信号は、スイッチ回路10およびLPF20を通過して、第1の受信信号として受信信号端子RxGに伝送される。また、アンテナ端子ANTに入力された第2の周波数帯域の受信信号は、スイッチ回路10およびHPF30を通過して、第2の受信信号として受信信号端子RxAに伝送される。また、送信信号端子TxGに入力された第1の周波数帯域の送信信号は、LPF50〜52およびスイッチ回路10を通過してアンテナ端子ANTに伝送される。また、送信信号端子TxAに入力された第2の周波数帯域の送信信号は、LPF70、HPF60およびスイッチ回路10を通過してアンテナ端子ANTに伝送される。
【0044】
なお、LPF51が、本発明の「第1LCフィルタ回路」に相当し、HPF30が、本発明の「第2LCフィルタ回路」に相当する。また、インダクタL1が、本発明の「第1インダクタ」に相当し、インダクタL2が、本発明の「第2インダクタ」に相当し、インダクタL3が、本発明の「第3インダクタ」に相当する。
【0045】
次に、図4および図5を参照して、分波装置1の構造について説明する。
図4は、分波装置1の外観斜視図である。図5は、分波装置1の平面図である。
【0046】
分波装置1は、分波装置1の上記各要素を一体化する積層基板200を備えている。積層基板200は、交互に積層された誘電体層と導体層とを有している。分波装置1における回路は、積層基板200の内部または表面上の導体層と、積層基板200の上面に搭載された素子とを用いて構成されている。ここでは、図2、図3に示したスイッチ回路10およびキャパシタ13〜15が、積層基板200に搭載されている。スイッチ回路10は、1個の部品の形態を有している。積層基板200は、例えば低温同時焼成セラミック多層基板になっている。そして、積層基板200の各層における導体パターンの形成は、例えばスクリーン印刷版を用いたスクリーン印刷法で行われる。
【0047】
次に、図6〜図23を参照して、積層基板200の構成について説明する。
図6〜図22は、それぞれ、上から1層目ないし17層目の誘電体層の上面を示している。図23は、上から18層目の誘電体層の下面を示している。図6〜図23において、丸印はビアホールを表している。
【0048】
図6に示した1層目の誘電体層201の上面には、キャパシタ13が接続される導体パターン311,312と、キャパシタ14が接続される導体パターン313,314と、キャパシタ15が接続される導体パターン315,316と、が形成されている。さらに、誘電体層201の上面には、スイッチ回路10の各端子が接続される6つの導体パターン301〜306が形成されている。
【0049】
図7〜図22に示した2層目以降の誘電体層202〜217の各上面と、図23に示した18層目の誘電体層218の下面とについても、導体層やビアホールが形成されている。
【0050】
ここで、本実施形態の特徴部である、図12〜図17に示した7層目〜12層目の誘電体層207〜212について詳述する。
図12に示した導体層440は、ビアホールを介して、図13に示した導体層441に接続されている。また、図13に示した導体層441も、ビアホールを介して、図14に示した導体層442に接続されている。以後同様に、図14〜図16に示した導体層442〜444も、各ビアホールを介して、図15〜図17に示した導体層443〜445に接続されている。これにより、図12〜図17に示した導体層440〜445は、図3に示したインダクタL3を構成する。
【0051】
一方、図12に示した導体層340は、ビアホールを介して、図13に示した導体層341に接続されている。また、図13に示した導体層341も、ビアホールを介して、図14に示した導体層342に接続されている。以後同様に、図14〜図16に示した導体層342〜344も、各ビアホールを介して、図15〜図17に示した導体層343〜345に接続されている。これにより、図12〜図16に示した導体層340〜344は、図3に示したインダクタL1を構成する。また、図17に示した導体層345は、図3に示したインダクタL2を構成する。
なお、導体層340〜345が、本発明の「第1コイル導体」に相当し、導体層440〜445が、本発明の「第2コイル導体」に相当する。
【0052】
ここで、図3に示したLPF51は、図12〜図16に示したように導体層340〜345の内の導体層340〜344が時計回り方向に巻回することによって構成されるインダクタL1と、図17に示したように導体層340〜345の内の導体層345が反時計回り方向に巻回することによって構成されるインダクタL2と、を含んでいる。
【0053】
また、図3に示したHPF30は、図12〜図17に示したように導体層440〜445がインダクタL1と同じ時計回り方向へ巻回することによって構成されるインダクタL3を含んでいる。さらに、インダクタL3の一部は、インダクタL2と同じ誘電体層212上に導体層445が時計回り方向へ巻回することによって構成されている。
【0054】
そのため、高周波信号がLPF51を通過する時、巻回方向が逆になるため、インダクタL2とインダクタL3の間で不要な結合が起こりにくい。また、高周波信号がHPF30を通過する時、同じ理由により、インダクタL3とインダクタL2の間でも不要な結合が起こりにくい。
【0055】
従って、この実施形態の積層基板200の構造によれば、LPF51とHPF30の間の電磁干渉を低減できる。また、この実施形態の積層基板200の構造によれば、特許文献1のようにインダクタL2とインダクタL3との間にビアホールVを形成するためのスペースを設ける必要も無いため(図1参照)、分波装置1を小型化できる。
【0056】
なお、インダクタL2は、インダクタL1に比べて巻回数が極めて少なく、自己インダクタンスの値や相互インダクタンスの値がインダクタL1に比べて極めて小さい。そのため、高周波信号がLPF51を通過する際において、逆巻きのインダクタL2がLPF51の高周波信号の通過特性および高周波ノイズ除去特性に与える影響は極めて小さく、無視できる。
【0057】
ここで、逆巻きのインダクタL2を設けた分波装置1のアイソレーション特性と、特許文献1のようにインダクタL2を、インダクタL1と同じ時計回り方向へ巻回したインダクタに置き代えてLPF51を構成した分波装置1の変形例のアイソレーション特性と、を比較する。
【0058】
図24は、本発明の実施形態に係る分波装置1のアイソレーション特性と分波装置1の変形例のアイソレーション特性とを示す特性図である。ここで、アイソレーション特性とは、送信信号端子TxGから受信信号端子RxAへ漏洩する信号の減衰量を表し、この減衰量が大きいほどアイソレーション特性が良好となる。両アイソレーション特性を測定した結果、分波装置1においてLPF51に逆巻きのインダクタL2を設けることにより、所望の周波数帯域Bにおいて、送信信号端子TxGと受信信号端子RxA間の信号の減衰量が大幅に改善されていることが明らかとなった。即ち、LPF51からHPF30への電磁干渉が大幅に低減することが明らかとなった。
【0059】
《その他の実施形態》
以上の実施形態では、図3に示したように逆巻きのインダクタL2をLPF51に設けているが、実施の際は、インダクタL2をその他のLCフィルタ回路に設けても構わない。同様に、インダクタL3をその他のLCフィルタ回路に設けても構わない。ここで、例えば、インダクタL2をLPF20に設けてインダクタL3をHPF30に設けた場合、LPF20が本発明の「第1LCフィルタ回路」に相当し、HPF30が本発明の「第2LCフィルタ回路」に相当する。また、インダクタL2をLPF70に設けてインダクタL3をHPF30に設けた場合、LPF70が本発明の「第1LCフィルタ回路」に相当し、HPF30が本発明の「第2LCフィルタ回路」に相当する。この場合、LPF70及びHPF30は、同じ周波数帯域の信号を通過させる。同様に、インダクタL2をLPF70に設けてインダクタL3をLPF20に設けた場合、LPF70が本発明の「第1LCフィルタ回路」に相当し、LPF20が本発明の「第2LCフィルタ回路」に相当する。
【0060】
また、以上の実施形態では、インダクタL2の巻回数をインダクタL1に比べて少なくすることで、インダクタンスをインダクタL1に比べて小さくしているが、実施の際は、インダクタL2の巻線の太さや透磁率を、インダクタL1に比べて細くしたり低くしたりすることで、インダクタンスをインダクタL1に比べて小さくするようにしても構わない。
【0061】
なお、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
1…分波装置
10…スイッチ回路
11、12…ダイプレクサ
13、14、15…キャパシタ
20…LPF
30…HPF
50、51、52…LPF
60…HPF
70…LPF
101…アンテナ
111、114…ローノイズアンプ
112、115、122、125…BPF
113、116…バラン
121、124…パワーアンプ
123、126…バラン
200…積層基板
201〜218…誘電体層
301〜306…導体層
311〜316…導体層
340〜345…導体層
440〜444…導体層
445…導体層
612〜614…誘電体層
652…導体層
739〜741…導体層
839〜841…導体層
G1、G4…グランド端子
L1、L2、L3、L7、L8…インダクタ
RxG、RxA…受信信号端子
TxG、TxA…送信信号端子
ANT…アンテナ端子
V…ビア電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナに接続されるアンテナ端子と、
少なくとも二つ以上の信号端子と、
前記アンテナ端子と各信号端子との間に接続され、いずれかの端子から入力された信号の内、第1の周波数帯域の信号を通過させる第1LCフィルタ回路と、
前記アンテナ端子と各信号端子との間に接続され、いずれかの端子から入力された信号の内、第2の周波数帯域の信号を通過させる第2LCフィルタ回路とを備え、
前記第1LCフィルタ回路および前記第2LCフィルタ回路は、導体パターンが形成された誘電体層を積層した積層基板において構成される、分波装置であって、
前記第1LCフィルタ回路は、前記導体パターンにより形成された第1コイル導体の一部が所定方向に巻回することによって構成される第1インダクタと、前記導体パターンにより形成された前記第1コイル導体の残りの部分が前記所定方向と反対方向に巻回することによって構成される第2インダクタとを含み、
前記第2LCフィルタ回路は、前記導体パターンにより形成された第2コイル導体が前記所定方向に巻回することによって構成される第3インダクタを含む、分波装置。
【請求項2】
前記第3インダクタの少なくとも一部は、前記第2インダクタと同じ誘電体層上で巻回することによって構成されている、請求項1に記載の分波装置。
【請求項3】
前記第2インダクタは、前記第1インダクタよりインダクタンスが小さい、請求項1又は2に記載の分波装置。
【請求項4】
前記第1LCフィルタ回路は、前記信号端子から入力された信号の内、前記第1の周波数帯域の信号を通過させて前記アンテナ端子へ出力するフィルタ回路であり、
前記第2LCフィルタ回路は、前記アンテナ端子で受信され、前記アンテナ端子から入力された信号の内、前記第2の周波数帯域の信号を通過させて前記信号端子へ出力するフィルタ回路である、請求項1から3のいずれかに記載の分波装置。
【請求項5】
前記第1LCフィルタ回路は、前記アンテナ端子で受信され、前記アンテナ端子から入力された信号の内、前記第1の周波数帯域の信号を通過させて前記信号端子へ出力するフィルタ回路であり、
前記第2LCフィルタ回路は、前記信号端子から入力された信号の内、前記第2の周波数帯域の信号を通過させて前記アンテナ端子へ出力するフィルタ回路である、請求項1から3のいずれかに記載の分波装置。
【請求項6】
前記第1の周波数帯域は、前記第2の周波数帯域と同じ周波数帯域である、請求項1から5のいずれかに記載の分波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−80246(P2012−80246A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222228(P2010−222228)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】