説明

切削装置

【課題】切削ブレードを径方向に伝達される超音波振動によるスピンドルシャフトの破損を防止しつつ、被切削物の加工を効果的に行うことができる切削装置を提供すること。
【解決手段】切削ブレード27と、先端側に切削ブレード27が取り付けられたスピンドルシャフト26と、スピンドルシャフト26の軸方向に超音波振動を発生させる超音波振動子43と、切削ブレード27とスピンドルシャフト26との間に介在されたスペーサ部材28とを備え、スピンドルシャフト26は、スペーサ部材28側の端面36を超音波振動の軸方向圧力が最小となる最大振動振幅点P1に位置付けており、スペーサ部材28は、スピンドルシャフト26の端面36に当接して、切削ブレード27を振動変換点となる最小振動振幅点P2に位置付ける構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動する切削ブレードによって被加工物を切削する切削装置に関し、特に、金属や厚めのガラス等の難削材の切削に好適な切削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属や厚めのガラス等の難削材を切削する切削装置として、切削ブレードを径方向に超音波振動させて切削するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された切削装置は、スピンドルシャフトの前端側に固定した切削ブレードに、スピンドルシャフトの後端側に設けた超音波振動子からの超音波振動を伝達することで被加工物を切削する。切削ブレードは、スピンドルシャフトの軸方向に伝達される超音波振動の最小振動振幅点、すなわち、超音波振動の伝達方向を軸方向から径方向に変換する振動伝達方向変換点に配置されている。
【0003】
このため、超音波振動子から発せられた超音波振動は、スピンドルシャフトから切削ブレードに軸方向に伝達され、切削ブレードにおいて伝達方向が軸方向から径方向に変換される。研削ブレードに伝達された超音波振動は、スピンドルシャフトに当接されたボス部からボス部の径方向外側に取り付けられた円環状の切削刃に径方向に伝達される。このように、切削装置は、切削刃の刃先に対して超音波振動を径方向に伝達させることにより、研削砥石を径方向に瞬間的に繰り返し伸縮させて、被加工物を切削するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−15095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、最小振動振幅点付近においては、軸方向の超音波振動の圧力が高く、超音波振動が径方向に伝達されるため、スピンドルシャフトの先端側の端面と切削ブレードのボス部の端面とが径方向に擦れ、スピンドルシャフトの端面を傷付けてしまっていた。特に、切削ブレードのボス部がアルミニウム等で形成されると、ボス部とスピンドルシャフトとの擦れによって発生する摩擦熱により、切削ブレードのボス部の一部がスピンドルシャフトの端面に溶着されていた。このため、最悪の場合には、ボス部の端面とスピンドルシャフトの端面とが全体的に付着され、切削ブレードをスピンドルシャフトから取り外せないおそれがあった。
【0006】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、切削ブレードを径方向に伝達される超音波振動によるスピンドルシャフトの破損を防止しつつ、被切削物の加工を効果的に行うことができる切削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の切削装置は、超音波振動子が後端側に配設されて軸方向に延伸するスピンドルシャフト及び該スピンドルシャフトの先端部の端面に固定部材により挟持固定された切削ブレードを含む切削手段と、上面に被加工物を保持するためのチャックテーブルとを具備し、前記チャックテーブルに保持された前記被加工物を径方向に超音波振動させた前記切削ブレードにて切削するための切削装置であって、前記切削手段は、前記超音波振動子から発せられ且つ前記スピンドルシャフトの軸方向に伝達される超音波振動の振幅が最大になり軸方向圧力が最小になる最大振動振幅点に、前記スピンドルシャフトの前記端面が位置するように前記スピンドルシャフトの長さが規定され、前記切削ブレードが前記スピンドルシャフトの前記端面に前記固定部材で挟持固定されると、前記超音波振動の伝達方向が軸方向から径方向へ変換する位置である前記超音波振動の最小振動振幅点に前記切削ブレードが位置するように、前記切削ブレードと前記スピンドルシャフトの前記端面と間を超音波振動の波長λ/4の奇数倍の長さに調整する長さ調整部が、前記切削ブレードと前記スピンドルシャフトの端面との間に位置される、ことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、軸方向圧力が最小となる最大振動振幅点にスピンドルシャフトの端面が位置されるため、超音波振動の軸方向圧力によりスピンドルシャフトが傷付けられることがない。また、長さ調整部により最大振動振幅点から軸方向に超音波振動の波長λ/4の奇数倍の長さだけ離れた最小振動振幅点に切削ブレードが合わせられるため、超音波振動の伝達方向が軸方向から径方向に変換され、切削ブレードにより被加工物を効果的に振動切削することができる。このように、超音波振動によるスピンドルシャフトの破損を防止しつつ、切削ブレード対して径方向に伝達された超音波振動により被加工物を効果的に振動切削することができる。
【0009】
また本発明は、上記切削装置において、前記長さ調整部を、前記切削ブレードと前記スピンドルシャフトの前記端面との間に装着されたスペーサ部材で構成することができる。
【0010】
また本発明は、上記切削装置において、前記長さ調整部を、前記切削ブレードのボス部の前記スピンドルシャフト側を伸長したボス伸長部で構成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、切削ブレードを径方向に伝達される超音波振動によるスピンドルシャフトの破損を防止しつつ、被切削物の加工を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る切削装置の実施の形態を示す図であり、切削装置の斜視図である。
【図2】本発明に係る切削装置の実施の形態を示す図であり、切削ユニットの断面図である。
【図3】本発明に係る切削装置の実施の形態を示す図であり、切削ユニットにおける超音波振動の伝達方向の説明図である。
【図4】本発明に係る切削装置の実施の形態を示す図であり、スピンドルシャフトと切削ブレードとの位置関係の説明図である。
【図5】本発明に係る切削装置の実施の形態を示す図であり、長さ調整部の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。図1を参照して、本発明の実施の形態に係る切削装置について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る切削装置の斜視図である。
【0014】
図1に示すように、切削装置1は、ハウジング2上のチャックテーブル3に保持された被加工物Wを、チャックテーブル3の上方に設けられた切削ユニット4(切削手段)により切削するように構成されている。被加工物Wは、略円盤状に形成されており、表面に格子状に配列されたストリート71によって複数の領域に区画され、この区画された領域にIC、LSI、LED等のデバイス72が形成されている。また、被加工物Wは、貼着テープ73を介して環状フレーム74に支持され、カセット8(図1では二点鎖線で示している)内に収容された状態で切削装置1に搬入および搬出される。
【0015】
なお、被加工物Wとしては、半導体パッケージ、シリコン、ガリウム砒素、セラミック、ガラス、サファイヤ(Al2O3)系の無機材料基板、LCDドライバー等の各種電気部品やミクロンオーダーの加工位置精度が要求される各種加工材料が含まれる。
【0016】
チャックテーブル3は、被加工物Wを吸着保持するものであり、ハウジング2内の図示しない移動機構により加工送り方向となるX軸方向に左右動される。このチャックテーブル3の図示右端側の移動位置は、チャックテーブル3に対して被加工物Wが受け渡される受け渡し位置に設定され、切削ユニット4に臨む移動位置は、被加工物Wが切削加工される加工位置に設定されている。図1では、チャックテーブル3を受け渡し位置で待機させた状態を示している。
【0017】
ハウジング2には、受け渡し位置のチャックテーブル3に隣接して、カセット載置テーブル11が設けられている。カセット載置テーブル11は、被加工物Wを収納したカセット8が載置され、昇降可能に構成されている。カセット載置テーブル11は、カセット8を載置した状態で昇降することにより、高さ方向において被加工物Wの引出位置および押込位置を調整している。
【0018】
カセット載置テーブル11の後方には、搬入搬出手段12および仮置きテーブル13が配置されている。搬入搬出手段12は、カセット載置テーブル11でカセット8の高さが調整された状態で、カセット8から被加工物Wを仮置きテーブル13に引き出す他、仮置きテーブル13上の被加工物Wをカセット8内に押し込むように構成されている。仮置きテーブル13は、一対のガイドレールを有し、搬入搬出手段12による被加工物Wの引き出し及び押し込みを側方からガイドする。
【0019】
仮置きテーブル13の近傍には、第一の搬送アーム14が配置されている。第一の搬送アーム14は、仮置きテーブル13とチャックテーブル3との間で被加工物Wを搬送する。また、受け渡し位置のチャックテーブル3の後方には、仮置きテーブル13に隣接して洗浄手段15が設けられている。洗浄手段15は、スピンナー洗浄テーブル21を有し、スピンナー洗浄テーブル21に被加工物Wを保持させた状態でスピンナー洗浄する。
【0020】
ハウジング2の図示左側方部分には、モニタ16を載せる支持台7が設けられており、支持台7の側面22には第二の搬送アーム17が設けられている。第二の搬送アーム17は、チャックテーブル3と洗浄手段15との間で被加工物Wを搬送する。
【0021】
また、切削ユニット4は、支持台7内に設けられた図示しない移動機構により割出送り方向となるY軸方向及び切り込み方向となるZ軸方向に移動される。このように、切削装置1では、X軸方向に加工送りされるチャックテーブル3とY軸方向に割出送りされる切削ユニット4とを相対移動させて、チャックテーブル3上の被加工物Wを格子状に加工可能となっている。なお、切削ユニット4の詳細については後述する。
【0022】
支持台7には、チャックテーブル3の移動経路の上方において、保持部23が設けられている。保持部23には、撮像部18が下方に突出して配設され、被加工物Wの上面を撮像するように構成されている。撮像部18による撮像結果は、切削ユニット4とチャックテーブル3上の被加工物Wとのアライメントに利用される。モニタ16は、支持台7上に配置され、撮像部18によって撮像された撮像画像や加工条件等を表示する。
【0023】
図2を参照して、切削ユニットについて詳細に説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る切削ユニットの断面図である。
【0024】
図2に示すように、切削ユニット4は、スピンドルハウジング25と、スピンドルハウジング25に回転可能に支持されたスピンドルシャフト26と、スピンドルシャフト26の先端にスペーサ部材28を介して取り付けられた切削ブレード27とを有している。スピンドルハウジング25は、略円筒状に形成され、内側にスピンドルシャフト26を回転可能に支持している。スピンドルハウジング25の内周面は、スピンドルシャフト26の外周面との間に僅かな隙間を有しており、この隙間に供給された高圧エアによりエア軸受けとして機能する。
【0025】
スピンドルシャフト26は、例えば、ステンレス等で形成されており、スピンドルハウジング25に支持される中央部分が大径に形成され、先端部分及び後端部分が小径に形成されている。スピンドルシャフト26の大径部分には、径方向に突出したフランジ部31が形成されている。スピンドルハウジング25には、このフランジ部31に対応して環状溝32が形成されており、フランジ部31と環状溝32との間にも高圧エアが介在する僅かな隙間が形成される。この構成により、スピンドルシャフト26は、スピンドルハウジング25に対して軸ブレが抑制された状態で支持される。
【0026】
スピンドルシャフト26の先端側の小径部分は、切削ブレード27が取り付けられる取付部33となっており、スピンドルハウジング25の先端側から突出されている。取付部33には、先端の端面36から軸中心にネジ穴34が形成されており、固定ボルト41により環状のスペーサ部材28を介して切削ブレード27が取り付けられる。
【0027】
スピンドルシャフト26の後端側の小径部分の一部は、永久磁石が取り付けられて、電動モータ42のロータ46を構成している。電動モータ42は、このロータ46と、ロータ46を囲うようにスピンドルハウジング25に配設されたステータ47とを有している。電動モータ42は、ステータ47に対して交流電圧が印加されることで、ロータ46が固定されたスピンドルシャフト26を回転させる。
【0028】
また、スピンドルシャフト26の後端側の小径部分には、ロータ46の後端側に超音波振動子43が設けられている。超音波振動子43は、電歪振動子であり、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛等の圧電セラミックス材料で形成される。超音波振動子43は、所定周波数の交流電圧が印加されることで、スピンドルシャフト26の軸方向に超音波振動(縦波、粗密波)を発生させる。この超音波振動子43には、非接触式給電部44から交流電圧が印加される。なお、超音波振動子43は、スピンドルシャフトの軸方向に超音波振動を発生させる構成であればよく、例えば、磁歪振動子であってもよい。
【0029】
非接触式給電部44は、スピンドルシャフト26において超音波振動子43の後端側に設けられた受電部48と、受電部48を囲うようにスピンドルハウジング25に配設された送電部49とを有している。受電部48及び送電部49は、受電コイルと送電コイルとを対向配置して構成されている。送電部49は、外部からの電力を電磁誘導方式により非接触で受電部48に送電し、受電部48を介して超音波振動子43に給電する。
【0030】
切削ブレード27は、被加工物Wを研削する切削刃51と、切削刃51を保持する基台部52とを有している。切削刃51は、例えば、ダイヤモンド等の砥粒をボンド材で結合して円環状に形成されている。基台部52は、例えば、スピンドルシャフト26に固定されるボス部53と、ボス部53の外周面から径方向に延在するフランジ部54とで構成されている。ボス部53及びフランジ部54は、例えば、アルミニウム等で形成され、軸中心に固定ボルト41のネジ部分を挿通可能な貫通孔56が形成されている。
【0031】
スペーサ部材28は、スピンドルシャフト26と切削ブレード27との間に配置され、スピンドルシャフト26の先端側の端面36と切削ブレード27との位置関係を調整する長さ調整部として機能する。また、スペーサ部材28は、例えば、ステンレスまたはアルミニウムで形成され、軸中心に貫通孔61を形成した円筒状であり、固定ボルト41のネジ部分を挿通可能としている。なお、詳細については後述するが、スペーサ部材28の軸方向における長さは、スピンドルシャフト26の端面36と切削ブレード27との間隔を超音波振動の波長λの1/4にするように形成されている。
【0032】
切削ブレード27は、固定ボルト41のネジ部をボス部53及びスペーサ部材28に挿通させて、取付部33のネジ穴34に締め付けることでスピンドルシャフト26の先端に固定される。固定ボルト41は、例えば、ステンレスで形成されている。このように構成された切削ブレード27は、振動変換部材として機能し、スピンドルシャフト26の軸方向に伝達された超音波振動の振動方向を径方向に変換して、切削刃51の刃先に伝達する。この場合、取付部33の端面36、スペーサ部材28の両端面62、63、ボス部53の両端面65、66、及び固定ボルト41の押圧面67は、それぞれ平坦に形成されているため、固定ボルト41の締付により部材間の密着性が高められる。この構成により、スピンドルシャフト26から切削ブレード27に安定した超音波振動が伝達される。
【0033】
このように、切削ユニット4は、切削ブレード27を高速回転させつつ、切削刃51を径方向に超音波振動させることで、被加工物Wを加工している。すなわち、切削ユニット4は、切削刃51を径方向に瞬間的に伸縮させ、切削刃51の砥粒を大きな加速度で被加工物Wに繰り返し衝突させることで、金属や厚めのガラス等の難削材で形成された被加工物Wであっても効果的に切削可能となっている。
【0034】
ここで、図3を参照して、切削ユニットにおける超音波振動の伝達について説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る切削ユニットにおける超音波振動の伝達方向の説明図である。なお、図3においては、W1がスピンドルシャフトを軸方向に伝達される超音波振動の振幅波形、W2が切削ブレードを径方向に伝達される超音波振動の振幅波形をそれぞれ示している。
【0035】
図3に示すように、振幅波形W1は、スピンドルシャフト26内を縦波(粗密波)で軸方向に伝達される波形を示し、最大振動振幅点P1と最小振動振幅点P2とを含む一定周期で振幅している。最大振動振幅点P1では、スピンドルシャフト26の軸方向の変位が最大となり、最小振動振幅点P2では、スピンドルシャフト26の軸方向の変位が最小となる。最小振動振幅点P2は、超音波振動の伝達方向を軸方向から径方向に変換する振動方向変換点となっており、この振動方向変換点に切削ブレード27が配置される。
【0036】
したがって、超音波振動子43から発生された超音波振動は、スピンドルシャフト26からスペーサ部材28を介して切削ブレード27に向けて軸方向に伝達され、切削ブレード27において径方向に変換される。振幅波形W2は、切削ブレード27内を縦波(粗密波)で径方向に伝達される波形を示し、最大振動振幅点P3と最小振動振幅点P4とを含む一定周期で振幅している。最大振動振幅点P3では、切削刃51の径方向の変位が最大となり、最小振動振幅点P4では、切削刃51の径方向の変位が最小となる。
【0037】
このとき、振幅波形W2の最大振動振幅点P3が、切削刃51の刃先に合うように、切削刃51の径や超音波振動子43の周波数が調整される。この構成により、切削刃51を径方向に瞬間的に伸縮させることが可能となっている。なお、固定ボルト41の頭部68の厚みは、頭部68の開放端側の端面36が振幅波形W1の最大振動振幅点P1となるように設定される。
【0038】
なお、本実施の形態においては、振動変換部材としての切削ブレード27を、振幅波形W1の最小振動振幅点(振動方向変換点)P2に合わせるようにしたが、この構成に限定されるものではない。切削ブレード27は、切削刃51に対して所望の超音波振動を得られる範囲であれば、振幅波形W1の最小振動振幅点P2から位置ズレしてもよい。同様に、切削刃51の刃先を、振幅波形W2の最大振動振幅点P3に合わせるようにしたが、この構成に限定されるものではない。切削刃51の刃先は、切削刃51に対して所望の超音波振動を得られる範囲であれば、振幅波形W2の最大振動振幅点P3から位置ズレしてもよい。
【0039】
次に、図4を参照して、スペーサ部材によって調整されるスピンドルシャフトと切削ブレードとの位置関係について説明する。図4は、本実施の形態に係るスピンドルシャフトと切削ブレードとの位置関係の説明図である。なお、図4においては、W1がスピンドルシャフトを軸方向に伝達される超音波振動の振幅波形、W3がスピンドルシャフトを軸方向に伝達される超音波振動の圧力波形をそれぞれ示している。また、ここでは、スペーサ部材を設けない構成を比較例として、この比較例と比較しつつ説明する。
【0040】
図4に示すように、上記した振幅波形W1は、最大振動振幅点P1と最小振動振幅点P2とを含む一定周期で振幅している。一方、圧力波形W3は、スピンドルシャフト26及び切削ブレード27に伝達される超音波振動の軸方向圧力を示し、最大振動振幅点P1にで軸方向圧力が最小となり、最小振動振幅点P2で軸方向圧力が最大となる。すなわち、圧力波形W3は、振幅波形W1に対して波長λ/4分だけシフトされている。
【0041】
比較例に係るスピンドルシャフト81は、先端側の取付部82の長さにより、切削ブレード83が振動変換点である最小振動振幅点P2(最大圧力)に位置されている。よって、切削ブレード83は、スピンドルシャフト81から軸方向に伝達された超音波振動の伝達方向を径方向に変換し、超音波振動を切削刃84に向けて伝達する。この場合、スピンドルシャフト81の端面85は、切削ブレード83のボス部87が薄厚なため、軸方向圧力が最大となる最小振動振幅点P2の近傍においてボス部87に当接する。このため、スピンドルシャフト81の端面85は、超音波振動の大きな軸方向圧力を受け、傷付きやすくなっている。
【0042】
一方、本実施の形態に係るスピンドルシャフト26は、比較例に係るスピンドルシャフト26よりも取付部33の長さが短く形成され、軸方向圧力が最小となる最大振動振幅点P1に端面36を位置付けている。このため、スピンドルシャフト26の端面36は、超音波振動から大きな軸方向圧力を受けることがなく、摩擦熱によってスペーサ部材28の一部がスピンドルシャフト26の端面36に溶着されることが防止される。
【0043】
また、本実施の形態においては、スピンドルシャフト26と切削ブレード27との間にスペーサ部材28が介在される。このスペーサ部材28は、スピンドルシャフト26と切削ブレード27との間隔を波長λ/4の長さに調整している。よって、切削ブレード27は、スペーサ部材28により、スピンドルシャフト26の端面36の位置する最大振動振幅点P1から波長λ/4だけ離れた最小振動振幅点P2、すなわち、振動変換点に位置される。
【0044】
このように、本実施の形態に係る切削ユニット4においては、スピンドルシャフト26と切削ブレード27との間にスペーサ部材28を介在させたため、スピンドルシャフト26を短く形成して、軸方向圧力が最小となる最大振動振幅点P1にスピンドルシャフト26の端面36を位置付けることが可能となる。また、スペーサ部材28がスピンドルシャフト26の端面36と切削ブレード27との間隔を波長λ/4の長さに調整するため、スピンドルシャフト26の端面36を最大振動振幅点P1に位置付けた状態で、切削ブレード27を振動変換点(最小振動振幅点P2)に位置付けることが可能となる。したがって、スピンドルシャフト26の破損を防止しつつ、切削ブレード27に対して径方向に伝達された超音波振動により被加工物Wを効果的に振動切削することが可能となる。
【0045】
なお、本実施の形態においては、スピンドルシャフト26の端面36を最大振動振幅点P1に位置付ける構成としたが、この構成に限定されるものではない。スピンドルシャフト26の端面36は、超音波振動の軸方向圧力により傷付かない範囲であれば、圧力波形W2の最大振動振幅点P1から位置ズレしてもよい。
【0046】
また、長さ調整部としてのスペーサ部材28は、スピンドルシャフト26の端面36と切削ブレード27との間隔を波長λ/4の長さに厳密に一致させる構成に限定されるものではない。スペーサ部材28は、切削ブレード27を振動変換点の近傍に位置させて、所望の超音波振動を伝達させることが可能であればよい。すなわち、波長λ/4とは、厳密に解釈されるものではなく、スピンドルシャフト26の端面36に対して切削ブレード27を、所望の超音波振動が伝達される位置に離間させる長さであればよい。
【0047】
また、本実施の形態においては、長さ調整部としてのスペーサ部材28をスピンドルシャフト26と切削ブレード27との間に介在させる構成としたが、この構成に限定されるものではない。長さ調整部は、最大振動振幅点P1に位置されたスピンドルシャフト26の端面36に当接して、切削ブレード27を振動変換点(最小振動振幅点P2)に位置させることが可能な構成であれば、どのような構成でもよい。例えば、図5に示すように、長さ調整部は、切削ブレード27のボス部53のスピンドルシャフト26側を伸長させたボス伸長部59で構成されてもよい。
【0048】
ここで、切削装置1の切削動作の流れについて簡単に説明する。切削装置1が稼働されると、搬入搬出手段12が進退移動して、カセット載置テーブル11上のカセット8から仮置きテーブル13上に被加工物Wを引き出す。このとき、被加工物Wは、仮置きテーブル13にガイドされてX軸方向で位置決めされると共に、搬入搬出手段12の移動量によりY軸方向で第一の搬送アーム14に対して位置合わせされる。
【0049】
次に、第一の搬送アーム14が仮置きテーブル13上の被加工物Wをピックアップして、受け渡し位置のチャックテーブル3上に載置する。次に、チャックテーブル3が被加工物Wを吸引保持した状態で、切削ブレード27に臨む加工位置に向けて移動される。このとき、チャックテーブル3が撮像部18の下方に移動されて、撮像部18により被加工物Wの一部が撮像される。
【0050】
次に、チャックテーブル3が加工位置に移動されると、撮像部18に撮像された撮像画像に基づいて被加工物Wのストリート71と切削ブレード27の切削刃51とが位置合わせされる。そして、切削ユニット4が下降されることで高速回転した切削刃51により被加工物Wが切り込まれる。このとき、切削刃51は、ボス部53内を径方向に伝達される超音波振動により、加工負荷が低減されている。
【0051】
切削ブレード27により被加工物Wが切り込まれると、チャックテーブル3がX軸方向に加工送りされ、被加工物Wの1本のストリート71が加工される。続いて、切削ユニット4がY軸方向に数ピッチ分だけ移動され、切削ブレード27の切削刃51が隣接するストリート71が加工される。この動作が繰り返されて被加工物WのX軸方向の全てのストリート71が加工される。次に、チャックテーブル3が図示しない移動機構により90度回転され、被加工物WのY軸方向のストリート71の加工が開始される。
【0052】
加工済みの被加工物Wは、第二の搬送アーム17によって洗浄手段15に搬送され、洗浄手段15においてスピンナー洗浄された後、チャックテーブル3上に戻される。次に、第一の搬送アーム14が、チャックテーブル3上の被加工物Wをピックアップして仮置きテーブル13上に載置する。そして、搬入搬出手段12が進退移動して、カセット載置テーブル11上のカセット8内に被加工物Wを押し込む。切削装置1では、この動作が繰り返される。
【0053】
以上のように、本実施の形態に係る切削装置1によれば、軸方向圧力が最小となる最大振動振幅点P1にスピンドルシャフト26の端面36が位置付けられるため、超音波振動の軸方向圧力によりスピンドルシャフト26の端面36が傷付けられることがない。また、スペーサ部材28により最大振動振幅点から軸方向に超音波振動の波長λ/4の長さだけ離れた最小振動振幅点P2に切削ブレード27が合わせられるため、超音波振動の伝達方向が軸方向から径方向に変換され、切削ブレード27により被加工物Wを効果的に振動切削することができる。このように、超音波振動によるスピンドルシャフト26の破損を防止しつつ、切削ブレード27対して径方向に伝達された超音波振動により被加工物Wを効果的に振動切削することができる。
【0054】
なお、上記した実施の形態においては、長さ調整部は、スピンドルシャフトの端面と切削ブレードとの間を波長λ/4に調整する構成としたが、この構成に限定されるものではない。長さ調整部は、最大振動振幅点P1に位置付けられたスピンドルシャフトの端面に当接して切削ブレードを最小振動振幅点P2に位置付ける構成であればよい。すなわち、長さ調整部は、スピンドルシャフトの端面と切削ブレードとの間隔を波長λ/4の奇数倍の長さにする構成であれば、どのような構成でもよい。
【0055】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明は、切削ブレードを径方向に伝達される超音波振動によるスピンドルシャフトの破損を防止しつつ、被切削物の加工を効果的に行うことができるという効果を有し、特に、超音波振動する切削ブレードによって金属や厚めのガラス等の難削材の切削に好適な切削装置に有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 切削装置
2 ハウジング
3 チャックテーブル
4 切削ユニット(切削手段)
25 スピンドルハウジング
26 スピンドルシャフト
27 切削ブレード
28 スペーサ部材(長さ調整部)
33 取付部
36 端面
41 固定ボルト(固定部材)
42 電動モータ
43 超音波振動子
44 非接触式給電部
51 切削刃
52 基台部
53 ボス部
54 フランジ部
59 ボス伸長部(長さ調整部)
W 被加工物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動子が後端側に配設されて軸方向に延伸するスピンドルシャフト及び該スピンドルシャフトの先端部の端面に固定部材により挟持固定された切削ブレードを含む切削手段と、上面に被加工物を保持するためのチャックテーブルとを具備し、
前記チャックテーブルに保持された前記被加工物を径方向に超音波振動させた前記切削ブレードにて切削するための切削装置であって、
前記切削手段は、前記超音波振動子から発せられ且つ前記スピンドルシャフトの軸方向に伝達される超音波振動の振幅が最大になり軸方向圧力が最小になる最大振動振幅点に、前記スピンドルシャフトの前記端面が位置するように前記スピンドルシャフトの長さが規定され、
前記切削ブレードが前記スピンドルシャフトの前記端面に前記固定部材で挟持固定されると、前記超音波振動の伝達方向が軸方向から径方向へ変換する位置である前記超音波振動の最小振動振幅点に前記切削ブレードが位置するように、前記切削ブレードと前記スピンドルシャフトの前記端面と間を超音波振動の波長λ/4の奇数倍の長さに調整する長さ調整部が、前記切削ブレードと前記スピンドルシャフトの端面との間に位置される、ことを特徴とする切削装置。
【請求項2】
前記長さ調整部は、前記切削ブレードと前記スピンドルシャフトの前記端面との間に装着されたスペーサ部材である、ことを特徴とする請求項1記載の切削装置。
【請求項3】
前記長さ調整部は、前記切削ブレードのボス部の前記スピンドルシャフト側を伸長したボス伸長部である、ことを特徴とする請求項1記載の切削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−218483(P2011−218483A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90020(P2010−90020)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】