説明

制御装置を有する車両

【課題】電気式ブレーキのみで、車両を目標地点で所定の制限速度あるいは停止状態にすることができ、車両の運動エネルギーの有効利用及び省エネルギー化を効果的に図ることができる車両を提供する。
【解決手段】高速度領域において車両速度が高いほど最大ブレーキ力が小さくなる電気式ブレーキ手段と、機械式ブレーキ手段と、目標地点を所定の制限速度で通過あるいは停止するために必要なブレーキ力を出力する運転制御装置とを具備する車両において、前記運転制御装置は、前記電気式ブレーキ手段の最大ブレーキ力以下のブレーキ力を前記必要なブレーキ力として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式ブレーキ手段及び機械式ブレーキ手段を具備した鉄道車両(列車)等の車両において、定位置(目標地点)で制限速度にする(あるいは停止させる)制御を行う運転制御装置を有する車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、移動における走行抵抗が他の移動体と比べ低いという特長を持っている。この特長を更に向上させるため、車両を減速や停止させる際、車両の運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、この変換時に生じるエネルギーを電力として有効に利用する電気式ブレーキを採用している。
【0003】
しかし、電気式ブレーキは、速度が高い領域において、ブレーキ力が不足する。このため、この高速度領域で大きなブレーキ力を必要とする場合には、不足するブレーキ力を機械式ブレーキで補足するようにしていた。
【0004】
車両を目標地点で制限速度にする制御を行う従来の運転制御装置では、電気式ブレーキの特性をさほど考慮しておらず、特に高い速度領域においてもブレーキ力の制限を行っていなかった(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−274516号公報(第1〜14頁、図1〜図16)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の運転制御装置は、高い速度領域において、電気式ブレーキではブレーキ力が不足し機械式ブレーキが働くため、車両の運動エネルギーの一部が電気エネルギーに変換されず、運動エネルギーの有効利用及び省エネルギー化が充分には図れていなかった。
【0007】
本発明は、前記の如くの従来の問題を解消すべくなされたもので、その目的とするところは、高い速度領域においても機械式ブレーキを用いないで、なるべく電気式ブレーキのみで、車両を目標地点で所定の制限速度あるいは停止状態にすることができ、もって、車両の運動エネルギーの有効利用及び省エネルギー化を効果的に図ることができる車両の運転制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明に係る車両の運転制御装置は、基本的には、高速度領域において車両速度が高いほど最大ブレーキ力が小さくなる電気式ブレーキ手段と、機械式ブレーキ手段と、目標地点を所定の制限速度で通過あるいは停止するために必要なブレーキ力を出力する運転制御装置とを具備する車両において、前記運転制御装置は、前記電気式ブレーキ手段の最大ブレーキ力以下のブレーキ力を前記必要なブレーキ力として出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両の運転制御装置は、電気式ブレーキによる最大ブレーキ力が高速度領域では車両速度が高いほど小さくなることが考慮されており、高い速度領域から低い速度領域まで、電気式ブレーキだけで、車両を目標地点で所定の制限速度あるいは停止状態にすることができ、そのため、電気式ブレーキ(発電ブレーキ)による発電を最大限利用でき、その結果、回生できる電気エネルギーが増加するとともに、車両の減速、停止に消費される電気エネルギーが減少し、車両の運動エネルギーの有効利用及び省エネルギー化を効果的に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明に係る運転制御装置の第1実施形態をそれが搭載された車両と共に示す概略構成図である。図1において、レール6上を転動する車輪5、5、5、…を備えた車両50には、本実施形態の運転制御装置1Aの主要部を構成する、マイクロコンピュータ等からなる運転制御部10A、電気式(発電)ブレーキである電動機(兼発電機)4及び電気ブレーキ力制御装置3、ブレーキ受信部2、速度検出器7、機械式ブレーキ8、地上子検出器9等が設けられている。
【0011】
本実施形態では、電動機(電気式ブレーキ)及び機械式ブレーキが1個の構成を示しているが、これが複数個搭載された場合や複数の車両が連結された構成であっても差し支えない。
【0012】
運転制御部10Aは、速度検出器7が検出した車両50の現在速度va、及び地上子検出器9が地上子から受信した受信情報が入力され、ブレーキ受信部2へブレーキ力指令τ*を出力する。
【0013】
ブレーキ受信部2は、ブレーキ力指令τ*及び電気ブレーキ力制御装置3が出力している電気ブレーキ力τeを入力し、電気ブレーキ力指令τe*及び機械ブレーキ力指令τm*を出力する。電気ブレーキ力指令τe*はτ*と一致する。
【0014】
機械ブレーキ力指令τm*は、ブレーキ力指令τ*及び電気ブレーキ力τeから下記の式(1)に基づき演算する。
【0015】
【数1】

【0016】
電気ブレーキ力制御装置3は、電気ブレーキ力指令τe*に基づき、電動機4の運動エネルギーを電気ブレーキに変換することにより発生する電気ブレーキ力を制御するとともに、発生した電気ブレーキ力τeをブレーキ受信部2へ出力する。
機械式ブレーキ8は、機械ブレーキ力指令τm*に基づき、制輪子を車輪踏面に押し付けることにより、運動エネルギーを熱エネルギーに変換し、機械ブレーキ力を発生する。
【0017】
図2は、電気ブレーキ力τeの特性例を示す。横軸は車両50の速度、及び縦軸はブレーキ力である。太い実線で示す特性aは、電気ブレーキ力制御装置3と電動機4から構成される電気式ブレーキが発生し得る最大ブレーキ力τmaxである。電動機4に印加できる電圧の制限により高速域では速度が高いほど最大ブレーキ力τmaxは低下する。ブレーキ力指令τ*がτ0である場合、速度vaがv0以下であればブレーキ力指令τ*が最大ブレーキ力τmax以下であるため、機械ブレーキ力指令τm*は0である。
【0018】
一方、速度vaがv0より大きいときには、ブレーキ力指令τ*が最大ブレーキ力τmaxより大きいため、電気ブレーキ力制御装置3は、電気ブレーキ力τeとして最大ブレーキ力τmaxを出力し、不足するブレーキ力を機械ブレーキ力指令τm*として出力する。すなわち、機械式ブレーキを用いることなく減速するには、ブレーキ力指令τ*を常に最大ブレーキ力τmax以下に制御すれば良い。
【0019】
次に、図4を参照しながら地上子検出器9の機能を説明する。
図4において、42は地上子、Qは軌道上の目標地点、Pは軌道上のブレーキ操作開始地点である。なお、図1に示される各部と同一の構成部分には同一符号が付されている。
【0020】
地上子検出器9は、地上に設置された地上子42の上を通過するとき、地上子42を通過したことを示す通過情報tc、地上子42から目標地点Qまでの距離xp、目標地点Qにおける制限速度vp、及び目標ブレーキ力τ2を、地上子42から受信する。
【0021】
次に、図1の運転制御部10Aの詳細を説明する。
運転制御部10Aは、距離演算部11、最大ブレーキ力演算部12、ブレーキ開始地点演算部13、ブレーキ開始判断部14、一定ブレーキ力演算部15、ブレーキ力選択部16及びブレーキ力指令出力部17で構成される。
【0022】
距離演算部11は、通過情報tcを基準として現在速度vaにより式(2)を用いて、地上子42から現在位置までの距離xを演算する。
【0023】
【数2】

【0024】
最大ブレーキ力演算部12は、速度vaから図2の特性aに従って、最大ブレーキ力τmaxを演算する。
ブレーキ開始地点演算部13は、速度va、目標ブレーキ力τ2、制限速度vp、及び目標地点Qまでの距離xpから、テーブルT2を用いて、地上子42からブレーキ操作開始地点Pまでの距離x1を演算する。
【0025】
次にテーブルT2の詳細を説明する。車両50は、地上子42からブレーキ操作開始地点Pまでは惰行すなわちブレーキ力指令τ*=0で進行し、ブレーキ操作開始地点Pから目標地点Qまでは機械式ブレーキを用いずに制限速度vpに減速するため、最大ブレーキ力τmaxと目標ブレーキ力τ2のうちの小さい方をブレーキ力指令τ*として出力する。よって、時刻tにおける速度v(t)は、式(3)で求められる。
【0026】
【数3】

【0027】
ただし、時刻t1はブレーキ操作開始地点Pを車両50が通過する時刻、min(τ2,τmax(v(t)))はτ2とτmax(v(t))のうちの小さい方を表す。また、時刻tにおける地上子42から車両50までの距離x(t)は、式(4)で求める。
【0028】
【数4】

【0029】
目標地点通過時の時刻tpにおいて、速度は制限速度vpであり、距離xはxpである必要があるため、下記の式(5)、式(6)を満たす必要がある。
【0030】
【数5】

【0031】
【数6】

【0032】
よって、目標ブレーキ力τ2及びブレーキ操作開始時の速度v1を与えて、数式(5)及び数式(6)を解くことにより、x1を求めることができる。数式(5)及び数式(6)を解析的に解くことは難しいため、予めシミュレーション等でテーブルT2を作成する。
【0033】
ブレーキ開始判断部14は、入力した距離x1、及び距離xを比較する。x1>xの場合は、ブレーキ開始フラグDecとして0を出力し、x1<xの場合はブレーキ開始フラグDecとして1を出力する。
【0034】
一定ブレーキ力演算部15は、現在速度va、距離x、制限速度vp、及び距離xpに基づき、限定(所要)ブレーキ力指令τaを演算する。
【0035】
限定ブレーキ力指令τaは、現在位置から目標地点Qまで一定ブレーキ力で減速させた場合において、地点Qにおける速度がvpとなるブレーキ力指令値である。具体的には、式(7)に基づき演算する。
【0036】
【数7】

【0037】
ブレーキ力選択部16は、最大ブレーキ力τmaxと限定ブレーキ力指令τaを比較して、小さい方を目標ブレーキ力指令τkとして出力する。
ブレーキ力指令出力部17は、ブレーキ開始フラグDecが0の場合は、ブレーキ力指令τ*として0を出力し、ブレーキ開始フラグDecが1の場合は、τ*としてτkを出力する。
【0038】
次に、図3を用いて本実施形態の運転制御装置1Aの具体的動作について説明する。
図3は、上から順に、地上子42からの距離、車両の速度、及びブレーキ力を示している(横軸は時刻tを示す時間軸)。
【0039】
時刻t=0において、地上子検出器9が地上子42を通過する。このときの速度vaはv1である。地上子検出器9は、地上子42を基準とする通過情報tc、距離xp、制限速度vp、及び目標ブレーキ力τ2を、地上子42から受信する。
【0040】
距離演算部11は、通過情報tcにより距離xを0に初期化する。ブレーキ開始判断部14は、距離xがブレーキ開始地点演算部13で演算したブレーキ操作開始地点Pまでの距離x1より小さいため、ブレーキ開始フラグDecとして0を出力する。
【0041】
ブレーキ力指令出力部17は、ブレーキ開始フラグDecが0であるため、ブレーキ力指令τ*として0を出力する。
【0042】
時刻tが0からt1では、ブレーキ力指令τ*が0であるため、速度vaはv1一定であり、距離xは時刻に比例して増加する。
【0043】
時刻t1で距離xがブレーキ操作開始地点Pまでの距離x1に到達すると、ブレーキ開始判断部14の出力であるブレーキ開始フラグDecが1となり、ブレーキ力指令出力部17はブレーキ力指令τ*として目標ブレーキ力指令τkを出力する。
【0044】
速度vaがv1と高い速度であるため、図3中に破線で示されている限定ブレーキ力指令τaが最大ブレーキ力τmaxより大きく、ブレーキ力選択部16は目標ブレーキ力指令τkとして最大ブレーキ力τmaxを出力する。
【0045】
時刻t1からt2においても同様に、ブレーキ力指令τ*として最大ブレーキ力τmaxを出力する。よって、ブレーキ力指令τ*が最大ブレーキ力τmax以下であるため、機械式ブレーキ8は動作しない。
【0046】
時刻t2において、限定ブレーキ力指令τaが最大ブレーキ力τmaxとなる速度v2に達すると、時刻t2以降は目標ブレーキ力指令τk及びブレーキ力指令τ*は、限定(所要)ブレーキ力指令τaとなる。ここでも、ブレーキ力指令τ*が最大ブレーキ力τmax以下であるため、機械式ブレーキ8は動作しない。
【0047】
また、ブレーキ開始位置x1を上述のように決定しているため、このときのブレーキ力指令τ*はほぼ目標ブレーキ力τ2に一致する。
【0048】
さらに数式(7)に基づきブレーキ力指令τ*を操作するため、時刻tpにおいて距離xはxp、即ち車両50が目標地点Qに到達し、このときの速度vaは制限速度vpに一致する。
【0049】
以上により、本実施形態の運転制御装置1Aによれば、地上子42の通過から目標地点Qの到達まで機械式ブレーキが動作することなく電気式ブレーキのみで車両を制御することが可能である。
【0050】
また、制限速度vpを0とすることにより、距離xpで車両を停止させることが可能であるため、本実施形態の運転制御装置1Aは車両を目標位置で停止させることも可能である。
【0051】
そのため、電気式ブレーキ(電動機4)による発電を最大限利用できると同時に、機械式ブレーキ8の使用を最小限に止めることができ、その結果、回生できる電気エネルギーが増加するとともに、車両の減速、停止に消費される電気エネルギーが減少し、車両の運動エネルギーの有効利用及び省エネルギー化を効果的に図ることができる。
【0052】
[第2実施形態]
図5は、本発明に係る運転制御装置の第2実施形態をそれが搭載された車両と共に示す概略構成図である。図5において、図1の各部に対応する部分については同一符号を付してその説明を省略する。
【0053】
本実施形態の運転制御装置1Bでは、地上子検出器9が地上子(図示せず)を通過するとき、地上子検出器9は、通過情報tc、目標地点Qまでの距離xp、及び地点Qにおける制限速度vpに加えて、地点Qに到達する時刻指令tp*を地上子から受信する。
【0054】
運転制御部10Bに備えられている定時性ブレーキ開始地点演算部13aは、現在速度va、制限速度vp、距離xp、及び時刻指令tp*を入力し、ブレーキ距離テーブルT3より地上子を基準とするブレーキ操作開始地点Pまでの距離x1を演算する。
テーブルT3は、式(8)、式(9)に基づいて作成する。
【0055】
【数8】

【0056】
【数9】

【0057】
第1実施形態の運転制御装置1Aでは、目標ブレーキ力τ2を与えたが、本実施形態では、時刻指令tp*を与えてブレーキ開始地点x1を求める。x1は第1実施形態と同様に解析により求めることは難しいため、予めシミュレーション等により求める。時刻指令tp*を用いてブレーキ操作開始地点Pを決定しているため、目標地点Qにおいて、車両50は速度vaが制限速度vpであるだけでなく、通過時刻も時刻指令tp*に一致する。
【0058】
また、第1実施形態と同様に、ブレーキ力指令τ*は、最大ブレーキ力τmax以下であるため、機械式ブレーキは動作しない。
このような構成とされた第2実施形態の運転制御装置1Bにおいても、第1実施形態と略同様な作用効果が得られる。
【0059】
[第3、第4実施形態]
図6は、本発明に係る運転制御装置の第3実施形態をそれが搭載された車両と共に示す概略構成図である。図6において、図1、図5の各部に対応する部分については同一符号を付してその説明を省略する。
【0060】
本実施形態の運転制御装置1Cは、前記実施形態と同様な運転制御部10Cの他、マスタコントローラ101、表示器102、及び切換器103を備える。
【0061】
マスタコントローラ101は、速度va、及び運転者が選択したブレーキノッチに基づきブレーキノッチテーブルTBを用いて、ノッチブレーキ力指令τcを出力する。 ブレーキノッチテーブルTBは、速度-ブレーキ力のノッチ曲線より作成する。
【0062】
表示器102は、速度va、理想ブレーキ力指令τk*を入力し、理想ブレーキ力指令τk*を超えない最大のブレーキノッチを選択し、運転者が認識できる形態で伝達する。
【0063】
切換器103は、自動制御と運転者による手動制御を切り換える手段である。切換器103が自動制御モードの場合は、ブレーキ力指令τ*として理想ブレーキ力指令τk*を出力する。切換器103が手動制御モードの場合は、ブレーキ力指令τ*として、表示器102を見て運転者が操作するマスタコントローラの出力τcを出力する。自動制御モードの場合は、第1実施形態と同一の構成となり、同様の作用効果が得られる。手動制御モードの場合、表示器102に従い運転者がマスタコントローラ101を操作することにより、第1実施形態と略同様に、機械式ブレーキ8によるブレーキ力の補完なしで目標地点Qを通過するとき、速度を制限速度vpに制御できる。また、運転者がマスタコントローラ101を操作するため、状況に応じた柔軟な対応が可能となる。
【0064】
また、本実施形態では、第1実施形態にマスタコントローラ101、表示器102、切換器103を組み合わせたが、図7に示される如くに、第2実施形態と組み合わせることも可能である。かかる第2実施形態と組み合わせた運転制御装置10D(第4実施形態)の場合、自動制御モードでは第2実施形態と同様の作用効果が得られる。また、手動制御モードの場合、運転者が表示器に従ってマスタコントローラ101を操作することにより、第2実施形態と略同様の作用効果が得られるとともに、運転者がマスタコントローラ101を操作するため、状況に応じた柔軟な対応が可能となる。
【0065】
[第5実施形態]
図8は、本発明に係る運転制御装置の第5実施形態をそれが搭載された車両と共に示す概略構成図である。図8において、図1の各部に対応する部分については同一符号を付してその説明を省略する。
【0066】
本実施形態の運転制御部10Eは、パターン発生部13b、ブレーキ開始判断部14a、及びブレーキ力制御部15aを備える。
【0067】
パターン発生部13bは、現在速度va、制限速度vp、目標地点Qまでの距離xp、及び目標ブレーキ力τ2を入力し、式(10)、式(11)に基づいて目標速度パターンvptを作成し、速度指令va*を逐次演算する。
【0068】
【数10】

【0069】
【数11】

【0070】
図9に目標速度パターンvptの一例を示す。横軸は地上子42からの距離x、縦軸は現在速度vaである。
【0071】
実線は、時刻tにおける速度v(t)と距離x(t)の軌跡で、一点鎖線は上記で求めた目標速度パターンvptである。
破線は、目標ブレーキ力τ2で減速した場合の最大速度パターンvptmaxを表している。
【0072】
本実施形態で用いる速度パターンvptは、速度パターンvptmaxよりも目標地点に対し手前で減速することにより、高速域で必要なブレーキ力を減らすことができる。
【0073】
ブレーキ開始判断部14aは、入力した現在速度vaと速度指令va*を比較し、ブレーキ開始フラグDecを出力する。
【0074】
通過情報tcによりブレーキ開始フラグDecは0に初期化され、ブレーキ開始フラグDecが0のとき、速度指令va*が現在速度vaより大きい場合は、ブレーキ開始フラグDecとして0を出力する。また、速度指令va*が現在速度va以下の場合はブレーキ開始フラグDecとして1を出力する。ブレーキ開始フラグDec=1の時は、目標地点xpに到達するまでブレーキ開始フラグDecとして1を出力する。
【0075】
ブレーキ力制御部15aは、現在速度vaが速度指令va*に一致するよう式(12)に基づいて限定ブレーキ力指令τaを演算する。
【0076】
【数12】

【0077】
ただし、Kpは比例ゲイン、Kiは積分ゲインである。
【0078】
次に、図10を用いて本実施形態の運転制御装置1Eの具体的動作について説明する。
図10は、前述した図3と同様に、上から順に、地上子42からの距離、車両の速度、及びブレーキ力を示している(横軸は時刻tを示す時間軸)。
【0079】
時刻t=0において、地上子42を通過する。このときの速度vaはv1’である。パターン発生部13bは、目標速度パターンvptの演算を開始し、距離xから速度指令va*を演算する。
【0080】
このとき、車両50は目標地点より遠いため速度指令va*が大きいので、速度vaより大きい。よって、ブレーキ開始判断部14aは、ブレーキ開始フラグDecとして0を出力し、ブレーキ力出力指令部17はブレーキ力指令τ*として0を出力する。
【0081】
時刻tが0からt1’では、ブレーキ力指令τ*が0であるため、速度vaはv1’一定であり、距離xは時刻に比例して増加する。
【0082】
時刻t1’で速度vaが速度指令va*以上になる距離x=x1’の地点に到達すると、ブレーキ開始判断部14の出力であるブレーキ開始フラグDecが1となり、ブレーキ力指令出力部17はブレーキ力指令τ*として目標ブレーキ力指令τkを出力する。
【0083】
速度vaがv1’と高い速度であるため、図10中に破線で示される限定ブレーキ力指令τaは最大ブレーキ力τmax近傍の値である。ブレーキ力選択部16は限定ブレーキ力指令τaが最大ブレーキ力τmaxより小さいとき、目標ブレーキ力指令τkとして限定ブレーキ力指令τaを出力し、τaがτmax以上のときは、目標ブレーキ力指令τkとして最大ブレーキ力τmaxを出力する。
【0084】
すなわち、速度vaが速度指令va*よりも大きい場合でも、ブレーキ力指令τ*として最大ブレーキ力τmaxを出力するため、機械式ブレーキ8は動作しない。 また、このとき生じる速度偏差は後述する時刻t2’以降で補償する。
【0085】
時刻t2’以降では、速度vaの減少により、最大ブレーキ力τmaxが増加するため、速度vaが速度指令va*よりも大きい場合でも、限定ブレーキ力指令τaは最大ブレーキ力τmaxより小さくなる。よって、目標ブレーキ力指令τk及びブレーキ力指令τ*は、限定ブレーキ力指令τaとなり、速度vaは速度指令va*と一致するように制御される。時刻t1’からt2’で生じた速度偏差はここで補償される。
【0086】
ここでも、ブレーキ力指令τ*が最大ブレーキ力τmax以下であるため、機械式ブレーキ8は動作しない。
【0087】
時刻t2’以降は速度パターンvptに一致するように速度vaを制御するため、車両50が目標地点Qに到達する距離xはxp、vaは制限速度vpに一致する。
【0088】
以上により、本実施形態の運転制御装置1Eによれば、地上子42の通過から目標地点Qの到達まで機械式ブレーキ8が動作することなく、電気式ブレーキ4のみで車両50を制御することが可能である。また、制限速度vpを0とすることにより、距離xpで車両を停止させることが可能であるため、本実施形態の運転制御装置1Eは、車両50を目標位置で停止させることも可能である。
【0089】
なお、本実施形態では、vptはパターン発生部13bで作成しているが、地上子から受信する構成であってもよく、この場合においても同様の効果が得られる。
【0090】
また、目標ブレーキ力τ2の代わりに到達時刻指令tp*を地上子から受信する構成にすることにより、予定時刻に到達するよう制御することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係る運転制御装置の第1実施形態をそれが搭載された車両と共に示す概略構成図。
【図2】電気ブレーキ力の特性例を示す図。
【図3】第1実施形態の運転制御装置の具体的動作例を示す図。
【図4】地上子検出器の機能の説明に供される図。
【図5】本発明に係る運転制御装置の第2実施形態をそれが搭載された車両と共に示す概略構成図。
【図6】本発明に係る運転制御装置の第3実施形態をそれが搭載された車両と共に示す概略構成図。
【図7】本発明に係る運転制御装置の第4実施形態をそれが搭載された車両と共に示す概略構成図。
【図8】本発明に係る運転制御装置の第5実施形態をそれが搭載された車両と共に示す概略構成図。
【図9】目標速度パターンの一例を示す図。
【図10】第5実施形態の運転制御装置の具体的動作例を示す図。
【符号の説明】
【0092】
1A、1B、1C、1D、1E…運転制御装置
10A、10B、10C、10D、10E…運転制御部
2…ブレーキ受信部
3…電気ブレーキ力制御装置
4…電動機(電気式ブレーキ)
8…機械式ブレーキ
12…最大ブレーキ力演算部
13…ブレーキ開始地点演算部
13a…定時性ブレーキ開始地点演算部
13b…パターン発生部
14…ブレーキ開始判断部
14a…ブレーキ開始判断部
15…一定ブレーキ力演算部
15a…ブレーキ力制御部
16…ブレーキ力選択部
17…ブレーキ力指令出力部
50…車両
102…表示器
103…切換器
P…ブレーキ操作開始地点
Q…目標地点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速度領域において車両速度が高いほど最大ブレーキ力が小さくなる電気式ブレーキ手段と、
機械式ブレーキ手段と、
目標地点を所定の制限速度で通過あるいは停止するために必要なブレーキ力を出力する運転制御装置と
を具備する車両において、
前記運転制御装置は、前記電気式ブレーキ手段の最大ブレーキ力以下のブレーキ力を前記必要なブレーキ力として出力することを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−278751(P2008−278751A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209663(P2008−209663)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【分割の表示】特願2004−204327(P2004−204327)の分割
【原出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】