説明

制振インシュレータ

【課題】インジェクタの制振効果および偏心抑制効果を併せもつ制振インシュレータを提供すること。
【解決手段】本制振インシュレータ3は、インジェクタの円筒状のハウジングの外周に設けられ、当該ハウジングの外周面とシリンダヘッド2のインジェクタ取付孔との間に介在する環状の部材であって、コイルスプリング15の内周に弾性材料16を埋め込み、かつ、外周を当該弾性材料16で包囲し、さらにその外周を2枚の外装プレート17,18で上下方向から包み込んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジェクタの振動を制振するための制振インシュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特許文献1には、制振インシュレータが、その内周側に設けたインジェクタの軸方向後端側に向けてテーパ状に拡がる弧状断面の曲面でインジェクタと接触することで、インジェクタが偏心している際に調心することができる技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、高いシール機能とともに、良好な振動減衰特性を得ることができる制振ガスケットとして、環状に成形されたコイルスプリングをエラストマーで包埋し、荷重方向の上面および下面にエラストマーから露出するコイルスプリングの露出部を設けた構成が開示されている。
【特許文献1】特開2006−132437号公報
【特許文献2】特開2007−247893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の制振インシュレータは、弧状断面で材質がMn−Cu鋼系制振合金よりなるものである。このような制振インシュレータにおいては、弧状断面はインジェクタの偏心を抑制できるが、材質が上記の制振合金であり、高温時に制振効果が低下する。これは、上記の制振合金は、合金そのものが振動吸収する双晶型の合金であるものの、60℃以上で制振効果が減少し、120℃を超えると制振効果がなくなるからである。
【0005】
他方、上記特許文献2に記載の制振ガスケットは、平面で接触する仕様であり、制振効果は高いが、インジェクタの偏心が課題となる。これは、平面同士で圧縮される取付構造をとるため、偏心を調心する構造となっていないからである。
【0006】
本発明は、上記技術的課題に鑑みなされたもので、インジェクタの制振効果および偏心抑制効果を併せもつ制振インシュレータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明にかかる制振インシュレータは、インジェクタの円筒状のハウジングの外周に設けられ、当該ハウジングの外周面とインジェクタ取付孔との間に介在する環状の制振インシュレータであって、環状に形成されたコイルスプリングの内周に弾性材料を埋め込み、かつ、外周を当該弾性材料で包囲し、さらにその外周を2枚の外装プレートで包み込んだものである。
【0008】
上記構成において、コイルスプリングと弾性材料とが制振部となり、この制振部の低ばね定数および高強度によって、振動および騒音が低減される。
【0009】
ところで、上記制振部で吸収した振動をシリンダヘッドに逃がす必要がある。
【0010】
そこで、上記制振インシュレータにおいて、第1の外装プレートの一端部と第2の外装プレートの他端部とは重なり合う一方で第1の外装プレートの他端部と第2の外装プレートの一端部との間に隙間が形成されている。
【0011】
また、前記インジェクタのハウジングは、段付き円筒形状を有しており、その段差部にテーパ面が設けられ、前記制振インシュレータの前記テーパ面との接触面は、アール形状をなしていることにより、インジェクタの取付角度が自由となり、Oリングが調心され、インジェクタ後端部とデリバリーパイプとの偏心を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インジェクタの制振効果および偏心抑制効果を併せもつ制振インシュレータの提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の実施の形態にかかる制振インシュレータの取付状態を示す断面図である。
【0015】
図1において、参照符号1はインジェクタ、2はシリンダヘッド、3は制振インシュレータである。
【0016】
インジェクタ1は、段付き円筒形状を有するハウジング4を備えており、このハウジング4がシリンダヘッド2に貫通して形成されたインジェクタ取付孔5に収容される。
【0017】
インジェクタ取付孔5に収容されるハウジング4の部分には、インジェクタ1の先端側に向かって大径部6、中径部7および小径部8が形成されている。特に、ハウジング4の大径部6と中径部7との間に生じる段差部には、先端側に向けて先細りする円錐形状のテーパ面9が設けられている。このテーパ面9が制振インシュレータ3に着座してインジェクタ1の軸方向の位置決めが行なわれる。
【0018】
インジェクタ1は、その先端側、すなわち小径部8からインジェクタ取付孔5に挿入される。
【0019】
インジェクタ1の後端側は、インジェクタカップ11に挿入され、Oリング12によってインジェクタカップ11の内壁面との間のシール性が確保される。
【0020】
上記大径部6の後端側のほぼ円筒部13の側面には、図示しない電子制御ユニット(ECU)と電気的に接続するためのコネクタ14が径方向に突出して設けられている。
【0021】
シリンダヘッド2のインジェクタ取付孔5は、上記テーパ面9に対向する部分を除いてインジェクタ1の形状に沿った形状とされている。そして、上記テーパ面9に対向する部分は、インジェクタ取付孔5の軸心に対してほぼ直交する平面とし、この平面に制振インシュレータ3を着座させ、それによってテーパ面9と制振インシュレータ3とが接触するようにしている。
【0022】
図2は制振インシュレータの一部を拡大して示す断面図である。
【0023】
図2を参照して、制振インシュレータ3は、上述したように、インジェクタ1の円筒状のハウジング4の外周に設けられ、当該ハウジング4の外周面とシリンダヘッド2のインジェクタ取付孔5との間に介在する環状の部材であって、環状に形成されたコイルスプリング15の内周に弾性材料16を埋め込み、かつ、外周を当該弾性材料16で包囲し、さらにその外周を2枚の外装プレート17,18で包み込んで構成されている。
【0024】
コイルスプリング15は、ステンレス、ピアノ線に代表されるばね鋼を素材として作製されており、その断面形状は真円をなしている。
【0025】
弾性材料16としては、フッ素ゴム、ニトリルゴム、水素添加ゴム、フロロシリコーンゴムを主原料とし、カーボンブラック、シリカ、クレー、炭カルセライトなどの充填材、および各ゴムに適した老化防止剤、加工助剤、加硫剤を配合したゴム、あるいはTPEなどのエラストマーが採用されている。
【0026】
外装プレート17,18は、ステンレスなどの金属プレートからなる。上側の外装プレート17の一端部17aが下側の外装プレート18の他端部18b上にオーバーラップする一方で上側の外装プレート17の他端部17bと下側の外装プレート18の一端部18aとの間に隙間19が形成されている。また、上側の外装プレート17の折代基端と下側の外装プレート18の他端面とは、距離tを以ってして離間していいる。
【0027】
また、制振インシュレータ3のインジェクタ1のハウジング4に形成されたテーパ面9と接触する面は、アール形状をなしている。
【0028】
以上の説明から明らかな通り、本実施の形態では、制振インシュレータ3を、コイルスプリング15の内周の弾性材料16を埋め込み、かつ、外周を当該弾性材料16で包囲し、さらにその外周を2枚の外装プレート17,18で上下方向から包み込んで構成しているので、コイルスプリング15と弾性材料16とが制振部となり、この制振部の低ばね定数および高強度によって、振動および騒音が低減される。
【0029】
また、上側の外装プレート17の一端部17aを下側の外装プレート18の他端部18b上にオーバーラップさせる一方で上側の外装プレート17の他端部17bと下側の外装プレート18の一端部18aとの間に隙間19を形成しているので、上記制振部で吸収した振動をシリンダヘッド2に逃がすことができる。その結果、上記の効果をより顕著なものとなる。
【0030】
さらに、インジェクタ1のハウジング4は、段付き円筒形状を有しており、その大径部6と中径部7との間に生じる段差部にテーパ面9を設け、制振インシュレータ3のテーパ面9との接触面をR形状としているので、インジェクタ1の取付角度が自由となり、Oリング12が調心され、インジェクタ1の後端部とデリバリーパイプとの偏心を抑制することができる。
【0031】
さらにまた、上側の外装プレート17の折代基端およびお下側の外装プレート18の他端面同士を、距離tをあけて離間させているので、制振インシュレータ3は、その離間距離t分だけ収縮可能であり、その衝撃吸収機能が増す。
【0032】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0033】
上記実施の形態においては、上側の外装プレートの一端部を下側の外装プレートの他端部上にオーバーラップさせる一方で上側の外装プレートの他端部と下側の外装プレートの一端部との間に隙間を形成した例について記載した。しかし、本発明はそのような構成には限定されない。下側の外装プレートの他端部を上側の外装プレートの一端部上にオーバーラップさせる一方で上側の外装プレートの他端部と下側の外装プレートの一端部との間に隙間を形成してもよい。
【0034】
また、上記実施の形態においては、インジェクタのハウジングの大径部と中径部との間に生じる段差部にテーパ面を設け、制振インシュレータのテーパ面との接触面をアール形状とした例について記載した。しかし、本発明はそのような構成に限定されない。インジェクタのハウジングの中径部と小径部の間に生じる段差部にテーパ面を設け、制振インシュレータのテーパ面との接触面をアール形状としてもかまわない。
【0035】
その他、本明細書に添付の特許請求の範囲内での種々の設計変更および修正を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態にかかる制振インシュレータの取付状態を示す断面図である。
【図2】制振インシュレータの一部を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 インジェクタ
3 制振インシュレータ
4 ハウジング
5 インジェクタ取付孔
6 大径部
7 中径部
9 テーパ面
16 コイルスプリング
16 弾性材料
17,18 外装プレート
19 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジェクタの円筒状のハウジングの外周に設けられ、当該ハウジングの外周面とインジェクタ取付孔との間に介在する環状の制振インシュレータであって、
環状に形成されたコイルスプリングの内周に弾性材料を埋め込み、かつ、外周を当該弾性材料で包囲し、さらにその外周を2枚の外装プレートで包み込んだことを特徴とする制振インシュレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の制振インシュレータにおいて、
第1の外装プレートの一端部と第2の外装プレートの他端部とは重なり合う一方で第1の外装プレートの他端部と第2の外装プレートの一端部との間に隙間が形成されていることを特徴とする制振インシュレータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制振インシュレータにおいて、
前記インジェクタのハウジングは、段付き円筒形状を有しており、その段差部にテーパ面が設けられ、
前記制振インシュレータの前記テーパ面との接触面は、アール形状をなしていることを特徴とする制振インシュレータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−106759(P2010−106759A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279660(P2008−279660)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】