説明

制振合金及び免震装置

【課題】 環境に負荷を与えずに従来と同等以上の特性を有する制振合金及び免震装置を得る。
【解決手段】 一対の連結板12、14の間に円筒状に形成されて弾性変形し得るゴム体16が配置される。ゴム体16の中心に存在する円形の穴部16Aに、円筒状に形成された制振合金22が嵌まり込むように配置される。制振合金22は、それぞれ螺旋状に形成された複数の金属片24を焼結によってポーラス状の双晶としたものである。ポーラス状にされるのに伴って内部に生じる空隙にポリマーが充填された構造に、この制振合金22はなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に負荷を与えずに従来と同等以上の特性を有する制振合金及び、このような制振合金を採用した免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地震の揺れを低減する為に、建築物とこの建築物を支持する地盤との間に配置される免震装置が知られている。そして、この免震装置には、弾性体とされるゴム体だけでなく、揺れに伴う振動を抑える為の制振合金が内蔵されていて、これらの部材の複合的な作用で地震の揺れを低減し、建築物側に地震の揺れを伝達し難くしていた。
【0003】
しかし、従来の免震装置の制振合金として、制振特性の面から一般に鉛材が使用されていたが、環境面への配慮が近年重要視されるのに伴い、他の材料に置き換えることが検討されるようになった。
【特許文献1】特開昭58−44137号公報
【特許文献2】特開昭61−200276号公報
【特許文献3】特開昭63−125745号公報
【特許文献4】特開平8−260755号公報
【特許文献5】登録実用新案第3030228号公報
【特許文献6】特開平9−264079号公報
【特許文献7】特開平10−54441号公報
【特許文献8】特開平10−238160公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
つまり、免震装置に採用される制振合金として、環境に負荷を与えずに従来の制振合金と同等以上の制振特性を有するものを開発する必要が生じていた。
本発明は上記事実を考慮し、環境に負荷を与えずに従来と同等以上の特性を有する制振合金及び、このような制振合金を採用した免震装置を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る制振合金は、焼結によってポーラス状の双晶に形成されることを特徴とする。
【0006】
請求項1に係る制振合金の作用を以下に説明する。
本請求項によれば、焼結によって制振合金がポーラス状である多孔質状の双晶により形成されているので、単純な双晶の合金と比較して、バネ定数が低くなると共に減衰係数が高くなって、大きな制振特性を有するようになる結果、従来技術の制振合金と同等以上の制振特性を有するようになる。
【0007】
一方、本請求項の制振合金はポーラス状の双晶に形成されたことで、鉛材を用いずとも上記のような制振特性を得られるようになる。この為、環境に負荷を与えることもない。
【0008】
請求項2に係る制振合金の作用を以下に説明する。
本請求項では発泡体が焼結されて制振合金がポーラス状の双晶に形成されるという構成を有している。この為、請求項1と同様に従来技術の制振合金と同等以上の制振特性を有するようになる。さらに、本請求項の制振合金はポーラス状の双晶に形成されたことで、請求項1と同様に環境に負荷を与えることもない。
【0009】
請求項3に係る制振合金の作用を以下に説明する。
本請求項では請求項1と同様の構成を有して同様に作用するが、さらに、内部の空隙にポリマーを充填したという構成を有している。
【0010】
つまり、ポーラス状の双晶の内部に存在する空隙に、ポリマーを充填したことで、この制振合金に引張力や剪断力が加わった際に、空隙の必要以上の収縮をポリマーの存在によって防止できるようになる。この結果、ポリマーにより制振合金の必要以上に大きな変形が抑制されて、制振合金の耐久性が高まるようになる。
【0011】
請求項4に係る制振合金の作用を以下に説明する。
本請求項では請求項1と同様の構成を有して同様に作用するが、さらに、それぞれ螺旋状に形成された複数の金属片を焼結してポーラス状の双晶にしたという構成を有している。この為、個々の金属片が螺旋状に形成されてより変形し易くなるので、より一層、バネ定数が低くなると共に減衰係数が高くなって、より大きな制振特性を有するようになる。
【0012】
請求項5に係る制振合金の作用を以下に説明する。
本請求項では請求項1と同様の構成を有して同様に作用するが、さらに、Cu−Al−Mn合金、Mg−Zr合金、Mn−Cu合金、Mn−Cu−Ni−Fe合金、Cu−Al−Ni合金、Ti−Ni合金、Al−Zn合金、Cu−Zn−Al合金、Mg合金、Cu−Al−Co合金、Cu−Al−Mn−Ni合金、Cu−Al−Mn−Co合金、Cu−Si合金、Fe−Mn−Si合金、Fe−Ni−Co−Ti合金、Fe−Ni−C合金、Fe−Cr−Ni−Mn−Si−Co合金、Ni−Al合金の内の何れかを制振合金として使用するという構成を有している。
【0013】
つまり、これらの合金の内の何れかを制振合金として使用することで、環境に負荷を与えずに従来と同等以上の特性を有する制振合金がより確実に得られるようになる。
【0014】
請求項6に係る免震装置は、焼結によってポーラス状の双晶に形成される制振合金と、
制振合金と並列的に配置されて弾性変形し得るゴム体と、
を有したことを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る免震装置の作用を以下に説明する。
本請求項によれば、焼結によってポーラス状の双晶に制振合金が形成され、この制振合金と並列的にゴム体が配置されている。
【0016】
従って、本請求項では、制振合金がポーラス状の双晶とされたものを採用しているので、単純な双晶の合金と比較して、制振合金のバネ定数が低くなると共に減衰係数が高くなり、従来の制振合金と同等以上の大きな制振特性を有するようになる。つまり、外部から応力がこの制振合金に付与されると、この制振合金に歪みが生じて双晶に効果的に変形が生じることで、良好な制振特性が得られるようになる。
【0017】
これに伴い、本請求項に係る免震装置によれば、地震が生じた場合でも、制振合金と並列的に配置されて弾性変形するゴム体とこの制振合金との間の複合的な作用で地震の揺れを低減し、建築物側に地震の揺れが伝達し難くなる。
【0018】
一方、本請求項の免震装置に用いられる制振合金は、ポーラス状の双晶に形成されたことで、鉛材を用いずとも上記のような良好な制振特性を得られる。この為、本請求項の免震装置によれば環境に負荷を与えることもない。
【0019】
請求項7に係る免震装置の作用を以下に説明する。
本請求項では請求項6と同様の構成を有して同様に作用するが、さらに、制振合金の内部の空隙にポリマーを充填したという構成を有している。
【0020】
つまり、ポーラス状の双晶の内部に存在する空隙に、ポリマーを充填したことで、免震装置に引張力や剪断力が加わった際に、空隙の必要以上の収縮をポリマーの存在によって防止できるようになる。この結果、ポリマーにより制振合金の必要以上に大きな変形が抑制されて、制振合金の耐久性が高まるのに伴い、免震装置の耐久性も高まるようになる。
【0021】
請求項8に係る免震装置の作用を以下に説明する。
本請求項では請求項6と同様の構成を有して同様に作用するが、さらに、制振合金が、それぞれ螺旋状に形成された複数の金属片を焼結してポーラス状の双晶にされるという構成を有している。この為、個々の金属片が螺旋状に形成されてより変形し易くなるので、制振合金のバネ定数がより一層低くなると共に減衰係数がより一層高くなって、より良好な制振特性を有するようになる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明の上記構成によれば、環境に負荷を与えずに従来と同等以上の特性を有する制振合金及び、このような制振合金を採用した免震装置を提供できるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る制振合金及び免震装置の一実施の形態を、図1から図4に基づき説明する。図1及び図2に示すように、本実施の形態に係る免震装置10の上下部分をそれぞれ円板状に形成された連結板12、14が構成している。この内の下側の連結板12が地盤と当接し、また上側の連結板14が建築物の下部に当接するような構造になっている。
【0024】
また、これら一対の連結板12、14の間には、中心部分に円形の穴部16Aを有しつつ円筒状に形成されたゴム体16が配置されている。このゴム体16は、リング状に形成されて弾性変形し得るゴム製のゴムリング18と、リング状に形成されて剛性を維持する為の金属製の金属リング20とが、交互に複数枚ずつ配置された形の構造になっている。
【0025】
一方、これら一対の連結板12、14は、ゴム体16の上下端にそれぞれ加硫接着されて取り付けられており、また、これら一対の連結板12、14の中心には、それぞれ途中に段部を有した円形の貫通穴12A、14Aが形成されている。但し、これら貫通穴12A、14Aに対応した大きさであって外周側にフランジを有した蓋材30が、ボルト32によるねじ止めによって、一対の連結板12、14にそれぞれ固定されることで、貫通穴12A、14Aがそれぞれ閉鎖されている。
【0026】
このゴム体16の中心に存在する円形の穴部16Aには、円筒状に形成された制振合金22が嵌まり込むように配置されている。この制振合金22は、図2に示すようにそれぞれ螺旋状に形成された複数の金属片24を焼結によってポーラス状の双晶としたものである。そして、ポーラス状にされるのに伴って内部に生じる空隙に、ポリマーが充填された構造に、この制振合金22はなっている。
【0027】
つまり、本実施の形態では、弾性変形し得るゴム体16が、焼結によりポーラス状であって双晶にされた制振合金22と、並列的に配置された構造になっている。そして、図1に示すように、これらの内のゴム体16の大きさは、直径D1が例えば1.5m程度とされ、高さH1が40cm程度とされている。また、制振合金22の大きさは、直径D2が30cm程度とされ、高さH2が45cm程度とされている。さらに、個々の金属片24の大きさは、長さが2〜10mm程度とされ、直径が1〜5mm程度とされている。
【0028】
次に、本実施の形態に係る免震装置10の製造を以下に説明する。
この免震装置10を作製する際には、まずそれぞれ螺旋状に形成された複数の金属片24を旋盤等の機械加工によって作製する。そして、螺旋状に形成された多数の金属片24を集めて円筒形状に成形した状態としてから、この金属片24の融点より50℃〜100℃程度低い温度で1時間から5時間程度保持することで、バインダー無しで焼結されてポーラス状で双晶の制振合金22とすることができる。
【0029】
さらに、ポーラス状となっている制振合金22の内部に存在する空隙に、ポリマーを充填する。つまり、この制振合金22を真空中に置いて、エポキシ樹脂等のポリマーをこの制振合金22に注入するように、内部の空隙に充填する。
【0030】
これとは別に、ゴムリング18と金属リング20とが積層されて形成されるゴム体16を作製するが、この際に、ゴム体16の上下に一対の連結板12、14を加硫接着してそれぞれ取り付けておくことにする。
【0031】
この後、連結板12、14の貫通穴12A、14Aを通過させて、ゴム体16の穴部16A内にこの制振合金22を挿入すると共に、これら連結板12、14に蓋材30をそれぞれ取り付けてねじ止めすることにより、免震装置10が完成される。
【0032】
次に、本実施の形態に係る制振合金22及び免震装置10の作用を以下に説明する。
本実施の形態の免震装置10によれば、焼結によってポーラス状の双晶に制振合金22が形成され、この制振合金22と並列的にゴム体16が配置されている。但し、本実施の形態の制振合金22は、それぞれ螺旋状に形成された複数の金属片24を焼結してポーラス状の双晶にされ、その内部の空隙にポリマーを充填した構造にされている。
【0033】
従って、本実施の形態では、制振合金22がポーラス状の双晶とされているので、単純な双晶の合金と比較して、制振合金22のバネ定数が低くなると共に減衰係数が高くなり、従来の制振合金22と同等以上の大きな制振特性を有するようになる。つまり、外部から応力がこの制振合金22に付与されると、この制振合金22に歪みが生じて双晶に効果的に変形が生じることで、良好な制振特性が得られるようになる。
【0034】
これに伴い、本実施の形態に係る免震装置10によれば、地震が生じた場合でも、制振合金22と並列的に配置されて弾性変形するゴム体16とこの制振合金22との間の複合的な作用で地震の揺れを低減し、建築物側に地震の揺れが伝達し難くなる。
【0035】
一方、本実施の形態の免震装置10に用いられる制振合金22は、ポーラス状に形成されたことで、鉛材を用いずとも上記のような良好な制振特性を得られる。この為、本実施の形態の免震装置10によれば環境に負荷を与えることもない。
【0036】
他方、本実施の形態では、制振合金22がより変形し易くなるように、それぞれ螺旋状に形成された複数の金属片24を焼結してポーラス状の双晶にした為、より一層、バネ定数が低くなると共に減衰係数が高くなって、より良好な制振特性を有するようになる。
【0037】
さらに、本実施の形態では、制振合金22の内部に存在する空隙にポリマーを充填したことで、免震装置10に引張力や剪断力が加わった際に、空隙の必要以上の収縮をポリマーの存在によって防止できるようになる。この結果、ポリマーにより制振合金22の必要以上に大きな変形が抑制されて、制振合金22の耐久性が高まるのに伴い、免震装置10の耐久性も高まるようになる。
【0038】
また、本実施の形態では、制振合金22として例えば、Cu−Al−Mn合金、Mg−Zr合金、Mn−Cu合金、Mn−Cu−Ni−Fe合金、Cu−Al−Ni合金、Ti−Ni合金、Al−Zn合金、Cu−Zn−Al合金、Mg合金、Cu−Al−Co合金、Cu−Al−Mn−Ni合金、Cu−Al−Mn−Co合金、Cu−Si合金、Fe−Mn−Si合金、Fe−Ni−Co−Ti合金、Fe−Ni−C合金、Fe−Cr−Ni−Mn−Si−Co合金、Ni−Al合金の内の何れかの合金を使用することが考えられる。
【0039】
つまり、これらの合金の内の何れかを使用することで、環境に負荷を与えずに従来と同等以上の特性を有する制振合金22がより確実に得られるようになる。
【0040】
例えば、Mn−Cu合金、Mn−Cu−Ni−Fe合金等のマンガン系の合金を使用した場合、800℃〜930℃の温度で0.5時間から2時間程度の時間保持して、10時間から20時間程度の時間をかけて徐冷することで、双晶の制振合金が得られる。
【0041】
また、Cu−Al−Mn合金、Cu−Al−Ni合金、Cu−Zn−Al合金、Cu−Al−Co合金、Cu−Al−Mn−Ni合金、Cu−Al−Mn−Co合金、Cu−Si合金等の銅系の合金を使用した場合、約900℃の温度で15分から1時間程度の時間保持し、急冷した後、約200℃の温度に再加熱して15分から30分程度の時間保持することで、双晶の制振合金が得られる。
【0042】
次に、発泡体が焼結されてポーラス状の双晶に制振合金が形成された場合について、説明する。つまり、上記実施の形態では、制振合金22として単に焼結によりポーラス状の双晶に形成されたものを用いたが、発泡体が焼結されてポーラス状の双晶に形成された制振合金を用いると言う変形例を採用するようにしても良い。
【0043】
本変形例のように、発泡体が焼結されて制振合金をポーラス状である多孔質状の双晶により形成した場合も、単純な双晶の合金と比較して、バネ定数が低くなると共に減衰係数が高くなって、大きな制振特性を有するようになる結果、上記実施の形態と同様に、従来技術の制振合金と同等以上の制振特性を有するようになる。
【0044】
一方、本変形例の制振合金もポーラス状の双晶に形成されることで、鉛材を用いずとも上記のような制振特性を得られるようになる為、上記実施の形態と同様に、環境に負荷を与えることもなくなる。
【0045】
以下に、発泡体が焼結されて制振合金をポーラス状の双晶に形成する手法について、具体的に説明する。
発泡体を作製するには例えば3種類あるが、まず、この内の第1の手法を以下に説明する。つまり、MgH2 等の水素化合物金属の粒子とPVA(ポリビニルアルコール)と双晶金属を混合して成形し、成形後に乾燥し加熱することで、PVAが分解して成形物に穴が開いた構造となる。更に加熱に伴い高温でMgH2 が分解することで、H2 が発生して膨張する結果、加熱後に双晶金属同士の焼結が進み、ポーラス状の合金からなる発泡体が得られる。この発泡体を熱処理することで双晶合金が得られる。
【0046】
第2の手法として、発泡スチロールのボールの表面にPVAと双晶金属粒子を塗布して乾燥した後、このボールを集積して成形体を作成する。この後にこの成形体を昇温して、スチロールとPVAを分解し、更に高温で双晶金属同士を焼結することで、ポーラス状の双晶とされる発泡体が得られる。
【0047】
第3の手法として、溶解した双晶金属に、高圧炉中において加圧したArガスを入れ、鋳型の底部から冷却できる構造として、減圧下で注入させることで、インゴットの下部から上方へじょじょにポーラスが形成されて、ポーラス状の合金からなる発泡体が得られる。この発泡体を熱処理することで双晶合金が得られる。
【0048】
以上の各手法のより具体的な内容としては、以下に記載のようなものがあるが、まずこの内で水素化合物を利用することが考えられる。この場合、TiH2 、FeCo2 、ZrH2 等の発泡剤のうち、TiH2 (粒径20μm以下)を、Cuを73.5at%、Alを17at%、Mnを9at%、Coを0.5at%としたCu−Al−Mn−Co合金の溶融金属に、0.5wt%の割合で投入して攪拌して、外部から冷却して凝固することが考えられる。これにより気孔率80%のポーラス状の金属が得られた。
【0049】
次に、発泡スチロール法を採用することが考えられる。この場合、上記のCu−Al−Mn−Co合金と同成分で粒径50μm以下の粉体20g、PVA8wt%を含む溶液3gを混合し、多数の直径1mmの発泡スチロールの表面にこの混合物を塗布して、固形物を作成する。さらに、90℃で5時間保持して乾燥後に、真空中900℃で6時間保持して焼結する。これにより気孔率80%のポーラスの金属が得られた。
【0050】
さらに、スラリー法を採用することが考えられる。この場合、上記のCu−Al−Mn−Co合金と同成分で粒径50μm以下の粉体20g、PVA8wt%を含む溶液3gを混合し、これを減圧して全体にポーラス状の成形物とした後、90℃で5時間保持して乾燥後に真空中900℃で6時間保持して焼結する。これにより気孔率80%のポーラスの金属が得られた。
【0051】
また、ロータス型発泡によることが考えられる。この場合、上記のCu−Al−Mn−Co合金と同成分の合金を、1.0MPaのH2 と1.0MPaのArガスを混合した混合ガスの雰囲気を有する溶解炉内において溶かした後、下部側から冷却される鋳型内にこの溶融物を注入して冷却することで、ロータス型ポーラスの金属が得られた。
【0052】
次に、双晶とすることによる制振合金の変形のメカニズムを以下に説明する。
図3(A)に示す金属の原子が均一に整列したマルテンサイト相に横方向から応力を加えることで、図3(B)に示すように変形が始まる。さらに、応力が加わり続けると図3(C)に示すような形に変形する。そして、この図3(C)に示す状態では寸法Sの変形量が生じたことになる。
【0053】
これに対して、図4(A)に示す一般的な金属では原子が均一に整列しているものの、横方向から応力を加えた場合、図4(B)に示すように原子の配列にずれが生じて、欠陥が発生する。つまり、一般的な金属において原子の配列にずれが生じると、塑性変形することになるので、図4(B)に示す状態に一旦成ると、図4(A)に示す状態に戻ることはない。
【0054】
以上より、一般的な金属と異なり、双晶の制振合金では、比較的小さな応力で変形が開始するものの、図4(C)に示す状態まで変形しても塑性変形することが無いので、応力を逆にかければ図4(A)に示す状態に戻るようになる。更に、制振合金の断面積を小さくして全体へかかる応力が低い段階から変形が発生するようにすることで、全体へかかる応力歪み曲線におけるヒステリシスのバネ定数が上昇しないようになる。
【0055】
尚、上記実施の形態では、ポーラス状となっている制振合金22の内部に存在する空隙に、ポリマーを充填したが、ポリマーはエポキシ樹脂だけでなく、他の種類の樹脂材料であっても良く。また、必要な特性が得られれば、制振合金22の内部にポリマーを充填しなくとも良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態に係る免震装置の分解斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る免震装置の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る制振合金の原子配列を表す説明図であって、(A)はマルテンサイト相を表す図であり、(B)はマルテンサイト相に変形が始まった状態を表す図であり、(C)はマルテンサイト相の変形が終わった状態を表す図である。
【図4】一般的な金属の原子配列を表す説明図であって、(A)は原子が均一に整列した状態を表す図であり、(B)は原子の配列の一部にずれが生じた状態を表す図である。
【符号の説明】
【0057】
10 免震装置
16 ゴム体
22 制振合金
24 金属片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結によってポーラス状の双晶に形成されることを特徴とする制振合金。
【請求項2】
発泡体が焼結されてポーラス状の双晶に形成されることを特徴とする請求項1記載の制振合金。
【請求項3】
内部の空隙にポリマーを充填したことを特徴とする請求項1記載の制振合金。
【請求項4】
それぞれ螺旋状に形成された複数の金属片を焼結してポーラス状の双晶にしたことを特徴とする請求項1記載の制振合金。
【請求項5】
Cu−Al−Mn合金、Mg−Zr合金、Mn−Cu合金、Mn−Cu−Ni−Fe合金、Cu−Al−Ni合金、Ti−Ni合金、Al−Zn合金、Cu−Zn−Al合金、Mg合金、Cu−Al−Co合金、Cu−Al−Mn−Ni合金、Cu−Al−Mn−Co合金、Cu−Si合金、Fe−Mn−Si合金、Fe−Ni−Co−Ti合金、Fe−Ni−C合金、Fe−Cr−Ni−Mn−Si−Co合金、Ni−Al合金の内の何れかを使用したことを特徴とする請求項1記載の制振合金。
【請求項6】
焼結によってポーラス状の双晶に形成される制振合金と、
制振合金と並列的に配置されて弾性変形し得るゴム体と、
を有したことを特徴とする免震装置。
【請求項7】
制振合金の内部の空隙にポリマーを充填したことを特徴とする請求項6記載の免震装置。
【請求項8】
制振合金が、それぞれ螺旋状に形成された複数の金属片を焼結してポーラス状の双晶にされることを特徴とする請求項6記載の免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−28557(P2006−28557A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206403(P2004−206403)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】