説明

制震構造

【課題】建物の地震や風による外力に対する性能を向上させ、建物の揺れを低減するための制震構造を提供する。
【解決手段】耐震構造で構成された中層または高層の第1の建物200と、免震構造で構成され低層の第2の建物100を含み、当該第1の建物200と第2の建物100が前記免震層よりも上部に設けられた接合部材300によって水平力を伝達するように接合された制振建物であって、前記第2の建物100単独の一次固有周期は、前記第1の建物200単独の固有周期より長く設定されている制震建物。前記接合部材300と前記免震支持位置との間には、複数の階が存在するのが好ましい。前記接合部材300は、曲げモーメントを伝達しないものが好ましく、ダンパーからなるか、あるいはダンパーを有するものであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の地震や風による外力に対する性能を向上させ、建物の揺れを低減するための制震構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地震や風等に対する建物の安全性を向上させるために、種々の免震・制震構造が提案され、実用化に至っている。一般に、免震構造とは建物の基礎部分や途中階に積層ゴムや滑り支承を用いた免震装置を設置した免震層を設け、入力される外力を低減させて建物の応答を低減するものである。これによって建物全体が長周期化されるため、一般に免震構造は短周期が卓越する剛性の高い低層のRC造に適用されることが多かったが、近年では高層の鉄骨造建物や超高層建物等にも適用されている。また、制震構造とは建物に入力されたエネルギーをダンパーで吸収することで応答を低減しようとするもので、この両方を適用した高仕様の建物も現在では珍しくなくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3677706号公報
【特許文献2】特許第3425609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許第3425609号公報に記載された発明は、アスペクト比が大きく偏平形状の主たる免震化建物は、水平力によって生じる転倒モーメントにより免震システムの設計が困難となるため、免震層に発生する水平力と同程度の大きさで同じ向きの水平力を補助建築物から付与することで、転倒モーメントを極力小さくすることを目的としたものである。
【0005】
しかしながら、免震構造は建物の1層全体を免震層として構築するため、免震装置に関わる工種が増えて工期が長くなる上に、アスペクト比が大きく偏平形状な主たる高層部を免震構造とすると、転倒モーメントを極力小さくしても、主たる部分を免震化するため、免震装置自体の値段も高くなってしまう。
【0006】
この発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、耐震架構で設計された高層建物に免震構造建物を併設し、この免震建物を高層建物の応答低減に利用する制震構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、耐震構造で構成された中層または高層の第1の建物と、免震構造で構成され低層の第2の建物を含み、当該第1の建物と第2の建物が前記免震層よりも上部に設けられた接合部材によって水平力を伝達するように接合された制振建物であって、前記第2の建物単独の一次固有周期は、前記第1の建物単独の固有周期より長く設定されている制震建物を提供する。
【0008】
本明細書において耐震架構とは、免震装置によって支持されたもので無い架構の意味で用いる。第1の建物と第2の建物は、平面視において独立した建物であるが、共通の地下階または基礎構造の上に建設されたものであっても良い。建物の躯体とは、柱、梁、耐震壁のような荷重支持部材をいう。第1の建物と第2の建物が接合される位置は、第2の建物の最上階でもよいし、途中階でも良い。また、接合部材は複数階に設けられていても良い。水平力を伝達するように接合されているとは、接合部材が第1の建物と第2の建物に剛に接合されている場合のほか、接合部材の両端または一端のみが水平方向の相対変位に対してピン接合されている場合、粘性または履歴ダンパーで接続されている場合などがある。また、粘性または履歴ダンパーは免震層に設置してもよい。
【0009】
第1(第2)の建物単独の固有周期とは、前記結合部材が仮に存在しないと仮定した場合の第1(第2)の建物の固有周期の意味である。本明細書では、特に限定せずに「固有周期」と記載した場合は1次の固有周期を指すものとする。
上記の構成を有する制震建物においては、刺激係数の最も大きな1次の固有モードは、第1の建物が一方に変形すると同時に、第2の建物の免震層が同方向に変形する(図1参照、第1の建物と第2の建物の変形は接合部材の位置では実質的に同一である)モードである。このモードの場合、第2の建物の免震層の変形が大きくなるので、免震装置による振動エネルギーの吸収が有効に行われて、全体として制振建物の振動は抑制される。そのためには、第2の建物の免震装置として、摩擦係数が0.01程度の滑り支承、転がり支承を用いて、免震装置部分のシアー係数を通常の半分以下である0.05以下にするのが有効である。なお、装置部分のシアー係数とは、免震装置部分のせん断力の合計を2つの建物の全重量で割った値である。
【0010】
前記接合部材は、各建物の地震や風などの外力による応答の相違に起因して生じる力を伝達するもので、所定の耐力と剛性を備えていれば、鉄骨やRC造など、構造の種類は問はない。またダンパーを備えていれば、第1と第2の建物をダンパーによって接合した構造であり、備えてなければ、所定の耐力と剛性を有する部材を用いた接合構造となる。
【0011】
接合部材がダンパーである場合には、接合部材を除いた状態での、第1の建物と第2の建物の固有周期、固有振動モードが異なるために、両建物間に相対変位が生じる結果、地震時あるいは風荷重時の応答変位を抑制することができる。
【0012】
本発明は、単独建物では免震化しなければ周期の短い建物の応答を十分低減すべく免震化した上で、単独建物では比較的周期が長い主たる建物に前者の免震化建物を連結し、2つの建築物間の相対変形差が生じる部分(免震部分・連結部分)にダンパーを配することで、構造安全性を向上させるものである。
【0013】
前記接合部材は、曲げモーメントを伝達しないのが好ましい。接合部材そのものが曲げモーメントを伝達しない構造である場合のほか、少なくとも端部がピン接合されている場合が該当する。
【0014】
上記の構成を有する場合、接合部材から第1の建物または第2の建物の躯体にモーメントが加わらないので、建物躯体の応力設計が緩和され、一層合理的な制震設計が可能になる。
【0015】
接合部材にダンパーを用いることによって、第1と第2の建物の相対変位を許容しつつ、該相対変位に起因して振動エネルギーを吸収することができるので、合理的な耐震設計あるいは耐風設計が可能になる。
【0016】
前記第1の建物と第2の建物は同じ高さの建物であってもよいが、第1の建物は、前記第2の建物よりも高層であってもよい。また、第2の建物が第2の建物よりも高層であっても良い。第1の建物が高層で第2の建物が低層である場合は、免震支持された第2の建物の変位を耐震架構を有する第1の建物の低層部で抑制することになり、第1の建物が低層で第2の建物が高層である場合は、免震支持された第2の建物の下層部の変位を第1の建物が抑制することになる。いずれの場合にも、地震時あるいは風荷重時の挙動が異なる2つの建物を連結することによって相互に変位を抑制する結果となる。本明細書において中層又は高層の建物とは、低層の建物との高低差を表すためのもので、階数や高さが大きく異ならない場合も含まれる。例えば、相対的な高さの差が10m以上あれば、あるいは3層以上の差が有れば、一方を低層建物、他方を中層または高層建物と考えることができる。また、単独での固有周期に実質的な差(例えば、10%以上の差)が有れば、固有周期の短い建物を低層建物、他方を中層又は高層建物と考えてもよい。
【0017】
前記第1と第2の建物の構造躯体は同種のものであってもよいが、前記第1の建物は鉄骨構造であり、前記第2の建物は鉄筋コンクリート構造または鉄骨鉄筋コンクリート構造であってもよい。特に、第1と第2の建物が同時期に建設されたもので無いような場合、両建物の構造躯体は同種のものである必要は無いので、設計の自由度が大きい。
【0018】
前記接合部材と前記免震支持位置との間には、複数の階が存在してもよい。すなわち、第2の建物が基礎部分で免震支持されており、4階の床位置で接合部材によって第1の建物と接合されているような場合であってもよいし、接合位置は第2の建物の最上階位置であってもよい。免震支持位置と接合位置の階高が離れていることによって、第2の建物の免震支持位置と接合位置との間の躯体の水平変形能力を有効に生かすことができるので、第1および第2の建物の設計上有利である。
【0019】
前記接合部材は第1の建物と第2の建物の梁を接合しており、該梁の構面には壁またはブレースが設置されていてもよい。地震時には接合部材を介して、第1の建物または第2の建物からの外力が加わるので、梁の構面には壁またはブレースを設置し、その架構の剛性を高め、免震層に変形を集めて減衰を取るのが好ましい。また、接合部材位置ではスラブの剛性を上げて隣接する架構へ水平力を効率よく伝達するために、鉛直荷重とともに水平力を考慮し、通常よりも厚いスラブにするのが好適である。
【0020】
また、接合部材位置ではスラブの剛性を上げて隣接する架構へ水平力を効率よく伝達するために、鉛直荷重とともに水平力を考慮し、通常よりも厚いスラブにするのが好適である。
【0021】
前記接合部材は、前記第1の建物および/または第2の建物と非剛接合されているのが好ましい。ここで、非剛接合とは、水平、鉛直方向の力とモーメントを完全に伝達する接合方法以外の接合を含む意味で、鉄骨部材のウェブのみを接合する方法、ピンまたはローラ支持部材を用いる方法、ダンパーによって接合する方法等によることができる。
【0022】
本発明はまたは、耐震架構で構成された既存建物を免震構造に改修して長周期化し、これに隣接して中高層建物を建設するとともに、前記既存建物の免震支持位置よりも上部で、地震時水平力が伝達されるように前記既存建物と前記中高層建物を接合する制震建物の構築方法を提案する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、添付の図面を参照して本発明の実施例について説明するが、添付の図面と実施例は本発明の理解を助けるために記載したものに過ぎず、本発明が添付の図面や実施例に限定される趣旨で無いことは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1は、本発明に基づく制振構造建物の1実施例を示す平面図である。耐震架構で構成された第1の建物200の3方を取り囲むように免震支持された第2の建物100が建設されており、両者は特定の階の床レベルにおいて接合部材300によって接合されている。接合部材300は、平面図においては耐震壁120またはブレースを有する躯体の延長上に設けられており、両端部は第1の建物200に剛に接合され、第2の建物100にピン接合されている結果、両建物の間で水平力を伝達するが曲げモーメントを伝達しない構造である。
【0025】
上記実施例は、第1の建物200の3方を第2の建物が囲んだ平面構成であるが、第2の建物は第1の建物の1方または2方にだけ設けられていてもよく、四方を取り囲んでも良い。第1の建物200と第2の建物の関係は逆でも良い。つまり、第1の建物が第2の建物の3方または四方を取り囲む平面構成であっても良いし、第1の建物と第2の建物は一対一で隣接するものであっても良い。また、接合部材300は、両端がピン指示されたものであってもよく、ダンパーを内蔵又は併設したものであっても良い。
【0026】
図2は、本発明の第2の実施例において地震時の変形を誇張して示した縦断面図である。第2の実施例においては、耐震架構で構成された第1の建物200の両側に、免震装置110によって免震支持された第2の建物100、140が隣接して建設されており、第1の建物と第2の建物は、接合部財300、302、304によって接合されている。第1の建物200と第2の建物100を接合する接合部材300の位置は、第1の建物200の下から6層の床レベル、第2の建物100の屋上(下から第3層の屋根)位置である。第1の建物200と第2の建物140は、第2の建物140の下から第3層と第4層の床レベルで接合部材300によって接合されている。
【0027】
図から明らかなように、第2の建物100は、1階床下位置で免震支持され、3階屋根で第1の建物200と接合されているので、その間には3層分の距離がある。免震装置110と接合部材300との間に3層分の距離があることによって、第2の建物は、一方では第1の建物100によって屋根位置において地震時の変形を拘束される(耐震支持される)と同時に、3層分の変形能力を有効に生かすことができる。図に示した構造とすることによって、例えば、第2の建物の1階床位置あるいは2階の床位置に接合部材を設けたような構造と比較して、第2の建物の変形能力および免震装置の変形能力を有効に生かすことになる。
【0028】
第2の建物140は、図示されているように、3階床位置と4階床位置の2箇所で第1の建物200と接合されている。接合位置は複数でもよく、最上階でなくても良い。上記実施例では、第1の建物200が比較的高層の建物で、第2の建物が比較的低層の建物であるが、建物の高さはこれらに限定されない。また、第1の建物と第2の建物はそれぞれ建設の時期が異なっていても良い。例えば、在来建物である第2の建物を新たに免震支持すると共に、新規に建設された第1の建物と接合することであっても良い。
【図1】本発明に基づく制振構造建物の1実施例を示す平面図
【図2】本発明の第2の実施例において地震時の変形を誇張して示した縦断面図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐震構造で構成された中層または高層の第1の建物と、免震構造で構成され低層の第2の建物を含み、当該第1の建物と第2の建物が前記免震層よりも上部に設けられた接合部材によって水平力を伝達するように接合された制振建物であって、前記第2の建物単独の固有周期は、前記第1の建物単独の固有周期より長く設定されている制震建物。
【請求項2】
前記接合部材は前記第1の建物と前記第2の建物の梁を接合しており、前記水平力が下層階や他の構面に伝達されるように、接合された前記第2の建物の梁に隣接して、垂直または水平方向にブレースまたは面材が設置されて剛性が高められている、前記請求項1に記載の制震建物。
【請求項3】
前記接合部材は、前記第1の建物および/または第2の建物と非剛接合されている、請求項1または2に記載の制震構造建物。
【請求項4】
前記第1の建物は鉄骨構造であり、前記第2の建物は鉄筋コンクリート構造または鉄骨鉄筋コンクリート構造である、請求項1ないし3の何れかに記載の制震構造建物。
【請求項5】
前記接合部材と前記免震支持位置との間には、複数の階が存在する、請求項1ないし4の何れかに記載の制震構造建物。
【請求項6】
耐震架構で構成された既存建物を免震構造に改修して長周期化し、これに隣接して中高層建物を建設するとともに、前記既存建物の免震支持位置よりも複数階上部で、地震時水平力が伝達されるように前記既存建物と前記中高層建物を接合する制震建物の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−174513(P2010−174513A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18428(P2009−18428)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】