説明

刺繍データ処理装置、刺繍縫製システム、刺繍データ処理プログラム及び記録媒体

【課題】 複数の糸色別の部分模様からなる刺繍模様を、多針刺繍ミシンを複数台使用して、糸交換することなく、しかも縫製時間を合わせるようにして縫製できるようにすることである。
【解決手段】 2台の多針刺繍ミシンの糸色情報が読込まれ(S11)、部分模様の縫い順を変更するか否かが設定され(S12)、読込んだ刺繍データに含まれる部分模様毎の縫製時間が演算される(S13,S14)。刺繍模様に使用する糸色の全てが揃っているときには(S15,S16:Yes)、糸色が重複しない上糸で縫製する部分模様が割当てられ(S17)、糸色が重複する部分模様の組合せが演算され(S18:Yes、S19)、2台の多針刺繍ミシンで縫製する刺繍データが夫々作成される(S20)。最終的に、子機の第2多針刺繍ミシンで縫製する刺繍データが第2多針刺繍ミシンに送信される(S21)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は刺繍データ処理装置、刺繍縫製システム、刺繍データ処理プログラム及び記録媒体に関し、特に、複数台の多針刺繍ミシンにより、糸色の異なる複数の上糸を用いて、複数の糸色別の部分模様からなる刺繍模様を縫製するようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、実用的な縫目模様に加えて、種々の飾り縫い模様、ワンポイント模様等の刺繍データを、刺繍ミシンの制御装置に予め記憶しておき、ディスプレイに表示された複数種類の刺繍模様のうちから所望の1つを選択し、糸色の異なる部分模様部を、上糸を交換しながら縫製することにより、複数色からなる刺繍模様を縫製するようにしていた。しかし、1本の針棒を有する刺繍ミシンでは、1本の上糸で1色分の部分模様を縫製する毎に、面倒な糸交換作業が必要となり、縫製時間が長くなって作業の能率が悪かった。
【0003】
そこで、近年では、1本の針棒を有する刺繍ミシンを複数台並設し、これらの刺繍ミシンを同時に駆動して縫製したり、複数本の針棒を備えた多針刺繍ミシンで、多色の部分模様からなる刺繍模様を、上糸を交換することなく一気に縫製するようにしている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の多色模様のパターン縫いが可能な縫製システムは、1種類の糸(1色の糸)で縫製可能な4台のミシン(「赤」の糸色で縫製するミシン1、「黄」の糸色で縫製するミシン2、「緑」の糸色で縫製するミシン3、「青」の糸色で縫製するミシン4)を並設し、夫々をメイン制御装置に接続してある。
【0005】
メイン制御装置に記憶した4色(赤、黄、緑、青)からなるパターン模様を縫製する場合、「赤」の縫糸カラーデータと位置データ群がミシン1に、「黄」の縫糸カラーデータと位置データ群がミシン2に、「緑」の縫糸カラーデータと位置データ群がミシン3に、「青」の縫糸カラーデータと位置データ群がミシン4に、夫々個別に送信されるので、各ミシン1〜4により、各ミシン1〜4に分配された刺繍模様部(赤色部、黄色部、緑色部、青色部)が夫々同時に縫製される。
【0006】
また、例えば、特許文献2に記載の刺繍模様表示可能な縫製データ処理装置は、刺繍縫製が可能なミシンで刺繍模様を縫製する場合に、ディスプレイに表示された複数の刺繍模様のうちから、異なる色の複数の部分模様からなる刺繍模様が選択されたとき、その刺繍模様の模様データに基づいて、複数の部分模様の各々を刺繍縫製するのに要する縫製時間を演算し、部分模様毎の縫製時間をディスプレイに表示させるようにして、次の糸交換までの待ち時間を他の作業に有効に活用できるようにしてある。
【0007】
また、例えば、特許文献3に記載の刺繍縫製装置用生産管理システムは、縫製に供する刺繍模様の模様データと、その刺繍模様の模様群である1ロットを構成する模様数のデータとに基づいて、その1ロットを縫製するのに要する縫製期間を演算し、この縫製期間のデータに基づいてロットを複数の刺繍縫製装置M1〜M4のうちの何れかに割当て、各刺繍縫製装置M1〜M4に割当てられたロットの縫製期間をディスプレイに表示させるようにしてある。
【0008】
更に、例えば、特許文献4に記載の縫製システムは、第一,第二自動縫製ミシンを備え、第一自動縫製ミシンに縫製データ記憶用のRAMと、縫製データを加工してRAMに再び記憶するデータ編集手段と、この加工されたデータを第二自動縫製ミシンに送信するデータ送信装置を有し、第二自動縫製ミシンは第一自動縫製ミシンのデータ送信装置から送信されたデータを受信し、この受信したデータに基づいて縫製作業を行うようにしてある。
【特許文献1】特開昭59−82891号公報 (第3〜7頁、図3〜図5)
【特許文献2】特開平9−111638号公報 (第4〜6頁、図5,図7)
【特許文献3】特開平11−253676号公報 (第6〜7頁、図7〜図8)
【特許文献4】特開平6−304372号公報 (第3〜4頁、図1〜図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の多色模様のパターン縫いが可能な縫製システムにおいては、1本の針棒を有するミシンを複数台並設して刺繍模様を縫製するので、例えば10色の部分模様からなる刺繍模様の場合には、糸色数に相当する10台分のミシンが必要となり、設置スペースが大きくなるという問題がある。また、これらの部分模様の大きさが異なる場合には、小さな部分模様を縫製するミシンは縫製時間が短く、大きな部分模様を縫製するミシンは縫製時間が長くなるので、縫製時間が短い方のミシンの稼働率が低下するという問題がある。
【0010】
特許文献2に記載の刺繍模様表示可能な縫製データ処理装置においては、選択された刺繍模様の部分模様毎の縫製時間が模様部に対応させて表示されるだけであり、縫製時間が短い部分模様の縫製から順次縫製したり、その逆に、縫製時間が長い部分模様の縫製から順次縫製する等、縫製時間を何ら縫製制御に活かすようにはなっていない。
【0011】
特許文献3に記載の刺繍縫製装置用生産管理システムにおいては、縫製に供する刺繍模様の1ロットを縫製するのに要する縫製期間を求め、1ロットの作業量を分割することなく、縫製作業を1ロット単位で何れかの刺繍縫製装置M1〜M4に割当てるようにしてあるため、刺繍縫製装置M1〜M4に割当てる複数のロットの縫製時間の差が大きい場合には、刺繍縫製装置M1〜M4に割当てる生産管理が難しくなるという問題がある。
【0012】
特許文献4に記載の縫製システムにおいては、第一自動縫製ミシンのRAMに記憶した縫製データを第二自動縫製ミシンに送信できるようにし、第一及び第二自動縫製ミシンで同一の縫製作業又は異なる縫製作業を同時に行うのであり、これら第一及び第二自動縫製ミシンにおける縫製作業の作業量や縫製時間が異なるという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、複数の糸色別の部分模様からなる刺繍模様を、複数本の針棒を備えた多針刺繍ミシンを複数台使用して、糸交換をすることなく、しかも夫々の多針刺繍ミシンの縫製時間を等しくするか、差が小さくなるようにして縫製できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の刺繍データ処理装置は、異なる糸色の複数の上糸を用いて刺繍縫製に供する加工布を保持する刺繍枠を所定の2方向に移動させる刺繍枠駆動機構を有する多針刺繍ミシンを複数台使用して刺繍模様を縫製する際の刺繍データを処理する刺繍データ処理装置において、刺繍模様を構成する複数の糸色別の部分模様に関する部分模様刺繍データに基づいて、部分模様毎の縫製時間を演算する縫製時間演算手段と、縫製時間演算手段の演算結果に基づいて、複数の部分模様を複数台の多針刺繍ミシンに割当てて縫製する際に、多針刺繍ミシンの縫製時間が夫々等しくなるか又は差が小さくなるように複数の部分模様を複数台の多針刺繍ミシンに割当てる割当てパターンを演算する割当て手段とを備えたものである。
【0015】
所望の刺繍模様が指定されると、この指定された刺繍模様を構成する複数の糸色別の部分模様に関する部分模様刺繍データに基づいて、部分模様毎の縫製時間が演算される。このように、部分模様毎の縫製時間が演算されると、複数の部分模様を複数台の多針刺繍ミシンに割当てて縫製するために、多針刺繍ミシンの縫製時間が夫々等しくなるか又は差が小さくなるように、複数の部分模様が複数台の多針刺繍ミシンに割当てる割当てパターンが演算される。そこで、この割当てパターンに基づいて複数台の多針刺繍ミシンが刺繍模様を縫製するので、糸交換をすることなく、しかも複数台の多針刺繍ミシンによる縫製時間が夫々等しくなるか又は差が小さくなるように刺繍模様を縫製することができる。
【0016】
請求項2の刺繍データ処理装置は、請求項1において、前記刺繍データに含まれる糸色の色数は、1台の多針刺繍ミシンに装備可能な上糸の色数よりも多いものである。
【0017】
請求項3の刺繍データ処理装置は、請求項1又は2において、前記割当て手段は、複数台の多針刺繍ミシンに装備された上糸について複数の糸色が重複する場合に、これら重複する上糸で縫製する複数の部分模様を複数の多針刺繍ミシンに割当てる複数通りの組合せを演算する組合せ演算手段と、組合せ演算手段で演算された複数通りの組合せを加味した複数の割当てパターンにおける複数の多針刺繍ミシン毎の縫製時間を演算するミシン別縫製時間演算手段とを備えたものである。
【0018】
請求項4の刺繍データ処理装置は、請求項3において、前記割当て手段は、複数の部分模様の縫製順序の変更を設定可能な設定手段と、設定手段で縫製順序の変更を設定した場合、ミシン別縫製時間演算手段により演算された演算結果に基づいて、少なくとも一方の多針刺繍ミシンにおける複数の部分模様の縫製順序を変更する縫製順序変更手段とを有するものである。
【0019】
請求項5の刺繍データ処理装置は、請求項1〜4の何れかにおいて、先に縫製を行う部分模様刺繍データの縫い終点から、次に縫製する部分模様刺繍データの縫い始点に刺繍枠を移動させるためのフィードデータを修正するフィードデータ修正手段と、刺繍模様の縫製終了を指令する終了コードを変更する終了コード変更手段とを有するものである。
【0020】
請求項6の刺繍縫製システムは、請求項1〜5の何れかの刺繍データ処理装置と、刺繍データ処理装置で処理された各種のデータを外部に通信可能な通信手段とを有する第1の多針刺繍ミシンと、第1の多針刺繍ミシンから送信されたデータを受信可能な受信手段を有する第2の多針刺繍ミシンとを備えたものである。
【0021】
第1の多針刺繍ミシンは、刺繍データ処理装置で処理した各種のデータに基づいて、刺繍枠に保持された加工布に刺繍模様を縫製すると共に、処理した各種のデータを通信手段を介して第2の多針刺繍ミシンに送信する。第2の多針刺繍ミシンは第1の多針刺繍ミシンから送信されたデータを受信し、この受信したデータに基づいて、第1の多針刺繍ミシンから取外して装着した刺繍枠の加工布に刺繍模様を縫製する。
【0022】
請求項7の刺繍縫製システムは、請求項1〜5の何れかの刺繍データ処理装置であって処理した各種のデータを外部に通信可能な通信手段を有する刺繍データ処理装置と、刺繍データ処理装置から送信されたデータを受信可能な受信手段を夫々有する第1及び第2の多針刺繍ミシンとを備えたものである。
【0023】
刺繍データ処理装置は処理した各種のデータを通信手段を介して第1及び第2の多針刺繍ミシンに夫々送信する。第1及び第2の多針刺繍ミシンは刺繍データ処理装置から送信されたデータを夫々受信し、この受信したデータに基づいて刺繍模様を夫々縫製する。
【0024】
請求項8の刺繍データ処理プログラムは、請求項1〜5の何れかに記載の刺繍データ処理装置又は請求項6若しくは請求項7に記載の刺繍縫製システムとしてコンピュータを機能させるものである。
【0025】
請求項9の記録媒体は、請求項8に記載の刺繍データ処理プログラムをコンピュータで読み取り可能に記録したものである。
【発明の効果】
【0026】
請求項1の発明によれば、異なる糸色の複数の上糸を用いて刺繍縫製に供する加工布を保持する刺繍枠を所定の2方向に移動させる刺繍枠駆動機構を有する多針刺繍ミシンを複数台使用して刺繍模様を縫製する際の刺繍データを処理する刺繍データ処理装置において、縫製時間演算手段と、割当て手段とを備え、部分模様毎に演算された縫製時間に基づいて、多針刺繍ミシンの縫製時間が夫々等しくなるか又は差が小さくなる割当てパターンにより、刺繍模様を構成する複数の糸色別の部分模様が複数台の多針刺繍ミシンに割当てられるので、この割当てパターンに基づいて縫製することにより、糸交換をすることなく、しかも複数台の多針刺繍ミシンの縫製時間が夫々等しくなるか又は差が小さくなるように刺繍模様を縫製することができる。
【0027】
これにより、例えば、2台の多針刺繍ミシンを使用して、指定された刺繍模様をTシャツ等の加工布に縫製して同じ物を複数枚作製するような場合には、加工布を保持した刺繍枠を複数個準備しておき、まず1つ目の刺繍枠を第1の多針刺繍ミシンに装着して、前記割当てパターンに基づいて割当てられた部分模様を縫製する。次にこれを第2の多針刺繍ミシンに装着して、前記割当てパターンに基づいて割当てられた残りの部分模様を縫製するのと同時に、第1の多針刺繍ミシンで2つ目の刺繍枠を装着して1つ目と同様に部分模様を縫製するという縫製作業を繰返すことで、2台の多針刺繍ミシンを効率良くフル活用でき、縫製時間の短縮化を図ることができる。また、3台以上の多針刺繍ミシンで同様の縫製作業を行うようにしても同様の効果を奏する。
【0028】
請求項2の発明によれば、前記刺繍データに含まれる糸色の色数は、1台の多針刺繍ミシンに装備可能な上糸の色数よりも多いので、複数台の多針刺繍ミシンを使用することにより、上糸の交換回数を皆無に或いは少なくして、刺繍模様を縫製することができる。例えば、10色の糸色からなる刺繍模様を縫製する場合に、5本以上の針棒を有する多針刺繍ミシンを2台使用すれば、加工布を保持した刺繍枠を第1の多針刺繍ミシンに装着して縫製した後、第2の多針刺繍ミシンに装着して縫製するだけで、糸交換をしないで、一気に刺繍縫製することができる。その他請求項1と同様の効果を奏する。
【0029】
請求項3の発明によれば、前記割当て手段は、複数台の多針刺繍ミシンに装備された上糸について複数の糸色が重複する場合に、組合せ演算手段と、ミシン別縫製時間演算手段とを備えたので、複数台の多針刺繍ミシンの縫製時間が等しくなるか、又は、たとえ等しくならなくても、その差がより小さくなる組合せ割当てパターンに基づいて刺繍模様を縫製することができる。その他請求項1又は2と同様の効果を奏する。
【0030】
請求項4の発明によれば、前記割当て手段は、設定手段と、縫製順序変更手段とを有するので、少なくとも一方の多針刺繍ミシンにおける複数の部分模様の縫製順序を変更することにより、多針刺繍ミシン毎の縫製時間が等しくなるか、又は、たとえ等しくならなくても、その差を極力小さくすることができる。その他請求項3と同様の効果を奏する。
【0031】
請求項5の発明によれば、先に縫製を行う部分模様刺繍データの縫い終点から、次に縫製する部分模様刺繍データの縫い始点に刺繍枠を移動させるためのフィードデータを修正するフィードデータ修正手段と、刺繍模様の縫製終了を指令する終了コードを変更する終了コード変更手段とを有するので、複数の部分模様刺繍データの縫製順序が適宜変更された場合でも、フィードデータの修正と、終了コードの変更により、複数台の多針刺繍ミシンによる各部分模様を所定の縫製位置に確実に且つ正確に縫製することができる。その他請求項1〜4の何れかと同様の効果を奏する。
【0032】
請求項6の発明によれば、請求項1〜5の何れかの刺繍データ処理装置と、刺繍データ処理装置で処理された各種のデータを外部に通信可能な通信手段とを有する第1の多針刺繍ミシンと、第1の多針刺繍ミシンから送信されたデータを受信可能な受信手段を有する第2の多針刺繍ミシンとを備えたので、第1の多針刺繍ミシンは、刺繍データ処理装置で処理した各種のデータに基づいて、このミシンに割当てられた刺繍模様を縫製することができるのに加えて、第2の多針刺繍ミシンも同様に、送信されたデータに基づいて、このミシンに割当てられた刺繍模様を縫製することができる。
【0033】
請求項7の発明によれば、請求項1〜5の何れかの刺繍データ処理装置であって処理した各種のデータを外部に通信可能な通信手段を有する刺繍データ処理装置と、刺繍データ処理装置から送信されたデータを受信可能な受信手段を夫々有する第1及び第2の多針刺繍ミシンとを備えたので、第1及び第2の多針刺繍ミシンは、刺繍データ処理装置から送信されたデータを夫々受信し、この受信したデータに基づいて、割当てられた刺繍模様を夫々縫製することができる。
【0034】
請求項8の発明によれば、請求項1〜5の何れかに記載の刺繍データ処理装置又は請求項6若しくは請求項7に記載の刺繍縫製システムとして機能させるための刺繍データ処理プログラムをコンピュータに実行させることにより、請求項1〜7の何れかと同様の効果を奏することができる。
【0035】
請求項9の発明によれば、請求項8に記載の刺繍データ処理プログラムを記録した記録媒体を、コンピュータで読み取らせて実行させることにより、請求項8と同様の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の刺繍データ処理装置、刺繍縫製システム、刺繍データ処理プログラム及び記録媒体は、糸交換することなく、複数の部分模様からなる1つの刺繍模様を2台の多針刺繍ミシンで協働して縫製するようにし、しかも、これら2台の多針刺繍ミシンによる縫製時間が夫々等しくなるか又は差が小さくなるように、複数の部分模様を2台の多針刺繍ミシンに割当てるようにしてある。
【実施例1】
【0037】
図1に示すように、刺繍縫製システムHS1は、親機である第1多針式刺繍ミシンM1と、この第1多針式刺繍ミシンM1に接続線16で接続された子機である第2多針刺繍ミシンM2を有している。第1多針刺繍ミシンM1は刺繍データ処理装置を装備している。これら第1,第2多針式刺繍ミシンM1,M2は、基本的に同様に構成されているので、一括して説明する。但し、第1多針刺繍ミシンM1を構成するものについては符号「A」を夫々付与し、第2多針刺繍ミシンM2を構成するものについては符号「B」を夫々付与してある。
【0038】
第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2は、このミシン全体を支持する左右1対の脚部1A,1Bと、その脚部1A,1Bの後端部から立設された脚柱部2A,2Bと、その脚柱部2A,2Bの上部から前方に延びるアーム部3A,3Bと、アーム部3A,3Bの前端部に装着された針棒ケース4A,4Bと、脚柱部2A,2Bの下端部から前方に延びるシリンダベッド5A,5Bと、操作パネル6A,6B等から構成されている。
【0039】
脚部1A,1Bの上側に左右方向向きのキャリッジ7A,7Bが設けられ、このキャリッジ7,7Bの内部には、X軸駆動モータ32A,32B(図2参照)でキャリッジ7A,7Bの前側に一体的に設けられた枠取付台8A,8BをX方向(左右方向)に駆動するX方向駆動機構(図示略)が設けられている。左右の脚部1A,1B内には、Y軸駆動モータ33A,33B(図2参照)でキャリッジ7A,7BをY方向(前後方向)に駆動するY方向駆動機構(図示略)が夫々設けられている。ここで、X方向駆動機構とY方向駆動機構等から刺繍枠駆動機構が構成されている。
【0040】
刺繍縫製に供する加工布は図示しないが、図1に2点鎖線で示す矩形枠状の刺繍枠9A,9Bに保持され、この刺繍枠9A,9Bが左右1対の枠取付台8A,8Bに夫々取付けられる。枠取付台8A,8Bは、X方向駆動機構によりX方向へ移動駆動され、キャリッジ7A,7BはY方向駆動機構によりY方向へ移動駆動される。このようにして、刺繍枠9A,9Bが、キャリッジ7A,7Bの移動によりY方向に移動し、枠取付台8A,8Bの移動によりX方向に移動されるので、刺繍枠9A,9Bに保持された加工布が2方向に移動される。
【0041】
アーム部3A,3Bの前端部に設けられた針棒ケース4A,4Bには、6本の針棒10A,10Bが上下動可能に横一直線状に配設され、各針棒10A,10Bの下端部に縫針11A,11Bが夫々装着されている。針棒ケース4A,4Bには各針棒10A,10Bの各々に対応して6つの天秤12A,12Bが上下動可能に夫々装着されている。針棒ケース4A,4Bの上端部には、少し後方上側へ傾斜する合成樹脂製の糸調子台13A,13Bが固定され、この糸調子台13A,13Bには、各縫針11A,11Bの各々に供給される上糸の為の6つの糸調子器14A,14Bが夫々設けられている。
【0042】
アーム部3A,3Bの内部には、針棒変更モータ31A,31B(図2参照)で駆動される針棒選択機構(図示略)が設けられている。縫製する上糸を変更する(糸交換をする)に際して、針棒変更モータ31A,31Bが駆動されると、針棒ケース4A,4Bは、針棒選択機構により糸調子台13A,13Bと一体的にX方向へ移動駆動され、6組の針棒10A,10Bと天秤12A,12Bのうちの1組の針棒10A,10Bと天秤12A,12Bだけが択一的に駆動位置に移動される。
【0043】
そこで、ミシンモータ30A,30B(図2参照)が駆動されると、駆動位置の針棒10A,10B及び天秤12A,12Bが同期して上下駆動され、シリンダベッド5A,5Bの前端部に設けられた回転釜(図示略)と協働して、シリンダベッド5A,5Bの上側で刺繍枠9A,9Bに保持される加工布に刺繍縫目が形成される。更に、アーム部3A,3Bの右側面には、タッチパネル式の操作パネル6A,6Bが折り畳み式に設けられている。
【0044】
この操作パネル6A,6Bには、図1に示すように、横長の液晶ディスプレイ6aが設けられ、液晶ディスプレイ6aの表面部には、液晶ディスプレイ6aに表示された複数種類の模様画像や機能名に対応するように、透明な複数のタッチキーを有するタッチパネル6bが設けられている。更に、この液晶ディスプレイ6aの下側に、縫製の開始と停止を指示する起動停止スイッチ6c等の複数のスイッチが設けられている。
【0045】
次に、第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2の制御系について説明する。
図2に示すように、縫製制御装置20A,20Bは、CPU21A,21Bと、ROM22A,22Bと、RAM23A,23Bと、フラッシュメモリ(F/M)24A,24Bと、送受信部25A,25B等を含むマイクロコンピュータで夫々構成されている。ここで、送受信部25Aが通信手段に相当し、送受信部25Bが受信手段に相当する。
【0046】
フラッシュメモリ24A,24Bは、電気的に書換え可能で、電源がオフされても記憶内容を記憶保持可能な不揮発性メモリである。送受信部25Aは第2多針刺繍ミシンM2に有する縫製制御装置20Bに対して各種のデータを送受信可能な通信部であり、送受信部25Bは第1多針刺繍ミシンM1に有する縫製制御装置20Aに対して各種のデータを送受信可能な通信部である。
【0047】
縫製制御装置20A,2Bには、更に、操作パネル6A,6Bと、主軸の回転位相角を検出する位相角検出センサ26A,26Bと、ミシンモータ30A,30Bの為の駆動回路35A,35Bと、針棒変更モータ31A,31Bの為の駆動回路36A,36Bと、X軸駆動モータ32A,32Bの為の駆動回路37A,37Bと、Y軸駆動モータ33A,33Bの為の駆動回路38A,38Bとが夫々接続されている。
【0048】
第1多針刺繍ミシンM1のROM22Aには、本願特有の刺繍データ処理制御プログラム、等が格納されている。RAM23A,23Bには、各種のメモリに加えて、CPU21A,21Bで演算された演算結果を一次的に格納する各種のバッファやカウンタやメモリ等が必要に応じて夫々設けられている。それ故、縫製制御装置20Aが刺繍データ処理装置として機能する。
【0049】
フラッシュメモリ24Aには、図3に示すように、6本の針棒10A(針棒1〜針棒6)と、各針棒10Aに糸掛けされている上糸の糸色番号(糸色1〜糸色6)とが対応付けて登録されている。また、フラッシュメモリ24BAには、図4に示すように、6本の針棒10B(針棒1〜針棒6)と、各針棒10Bに糸掛けされている上糸の糸色番号(糸色5〜糸色10)とが対応付けて登録されている。この場合、「糸色5」と「糸色6」が、2台の第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2で重複している。
【0050】
ところで、ROM22Aに予め記憶されている刺繍データは、例えば、図5に示すように構成されている。この刺繍データは、10個の部分模様(第1〜第10部分模様)からなり、10色の上糸により縫製されるものである。即ち、これら第1〜第10部分模様刺繍データは糸色別に分割されている。最初の第1部分模様刺繍データには、上糸の糸色番号「糸色1」と、「フィードデータ(Fxa、Fya)」と、複数の針落ち位置データからなる「刺繍データ」と、「停止コード」とが含まれている。
【0051】
次の第2〜第9部分模様刺繍データにも同様に、上糸の糸色番号「糸色2」〜「糸色9」と、「フィードデータ(Fxb、Fyb)」〜「フィードデータ(Fxi、Fyi)」と、複数の針落ち位置データからなる「刺繍データ」と、「停止コード」とが夫々含まれている。そして、最後の第10部分模様刺繍データは、上糸の糸色番号「糸色10」と、「フィードデータ(Fxj、Fyj)」と、複数の針落ち位置データからなる「刺繍データ」と、「終了コード」とが含まれている。
【0052】
第1部分模様刺繍データの先頭部に含まれるフィードデータ(Fxa、Fya)は、縫製開始に際して、刺繍枠9Aを所定の原点位置から第1部分模様の縫製開始位置へ移動させるためのフィードデータである。第2〜第10部分模様刺繍データの各先頭部に含まれるフィードデータ(Fxb、Fyb)〜(Fxj、Fyj)の夫々は、刺繍枠9A,9Bを1つ前の第1〜第9部分模様の縫製終了位置から次の第2〜第10部分模様の縫製開始位置へ夫々移動させるためのフィードデータである。
【0053】
次に、第1多針刺繍ミシンM1の縫製制御装置20Aにより実行される刺繍データ処理制御について、図6のフローチャートに基づいて説明する。但し、図中符号Si(i=11、12、13・・・)は各ステップである。
【0054】
作業者は、第1多針刺繍ミシンM1の操作パネル6Aを用いて、液晶ディスプレイに6aに表示された複数の刺繍模様のうちから所望の刺繍模様を選択し、タッチパネル6bの縫製キーを操作すると、この制御が実行される。この制御が開始されると、先ず、送受信部25Aを介して、第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2のフラッシュメモリ24A,24Bに予め設定されている糸色情報(図3,図4参照)が読込まれる(S11)。
【0055】
次に、液晶ディスプレイに6aに、「縫い順を変更する」と「縫い順を変更しない」の選択項目を有する縫い順設定画面が表示されるので、作業者により何れかの選択項目が選択され、部分模様の縫い順を変更するか否かが設定される(S12)。即ち、「縫い順を変更する」が選択されると、縫い順を変更するように設定される。「縫い順を変更しない」が選択されると、縫い順を変更しないように設定される。
【0056】
次に、選択された刺繍模様の刺繍データがROM22Aから読み込まれてRAM23Aの刺繍データメモリに展開される(S13)。次に、この刺繍模様が複数の部分模様から構成されている場合には、部分模様毎の縫製時間が演算され、部分模様に対応して記憶される(S14)。この縫製時間演算は、部分模様毎の部分模様刺繍データと設定縫製速度とに基づいて、各針落ち点間の距離に対応する1縫製サイクル時間の総和を求めることにより、部分模様を縫製する縫製時間が演算される。
【0057】
次に、選択された刺繍模様の刺繍データに基づいて、この刺繍模様を縫製するのに必要な糸色の全てが、第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2の何れかに装備されているか否かを照合する照合処理が実行される(S15)。この照合処理の結果、縫製するのに必要な糸色の全てが揃っていない場合には(S16:No)、液晶ディスプレイに6aに警告メッセージが表示され(S22)、この制御を終了する。
【0058】
刺繍模様を縫製するのに必要な糸色の全てが揃っている場合には(S16:Yes)、糸色が重複しない上糸により縫製する部分模様を、第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2の何れかに割り振る割当て処理が実行される(S17)。次に、割当てしていない部分模様があるか否か、つまり2台の第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2に重複した糸色が存在する場合であって、S17で割当てられていない部分模様がある場合(S18:Yes)、糸色が重複する部分模様の組合せを演算する組合せ演算制御(図7参照)が実行される(S19)。
【0059】
この制御が開始されると、先ず、未割当ての部分模様の組合せが演算される(S31)。即ち、第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2に重複している上糸の糸色と、2台の第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2とをパラメータとする複数通りの組合せが演算される。但し、この複数通りの組合せには、部分模様の縫い順を変更した組合せが含まれる場合がある。次に、このように演算された複数通りの組合せの各々について、第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2毎の縫製時間が夫々演算される(S32)。
【0060】
次に、S12で設定された縫い順変更に関する設定結果に基づいて、縫い順を変更する場合には(S33:Yes)、S31で演算された全ての組合せのうちから、縫製時間が等しくなるか又は差が小さくなる組合せが選択され(S34)、刺繍データ処理制御のS20にリターンする。一方、S12の設定結果に基づいて、縫い順を変更しない場合には(S33:No)、S31で演算された全ての組合せのうちから、縫い順を変更している組合せが削除され(S35)、縫い順を変更しない組合せのうちから、縫製時間が等しくなるか又は差が小さくなる組合せが選択される(S34)。
【0061】
次に、刺繍データ処理制御において、各多針刺繍ミシンM1,M2で縫製する部分模様刺繍データを演算する演算制御(図8参照)が実行される(S20)。
この制御が開始されると、先ず、多針刺繍ミシンM1,M2の各々に部分模様を割当てる割当てパターン演算が実行される(S41)。
【0062】
この割当てパターン演算では、S34により決定された理想的な組合せに基づいて、第1多針刺繍ミシンM1で縫製する複数の部分模様を割当てる第1多針刺繍ミシン用割当てパターンが演算されるとともに、第2多針刺繍ミシンM2で縫製する複数の部分模様を割当てる第2多針刺繍ミシン用割当てパターンが演算される。即ち、この割当てパターン演算に際して、縫製する部分模様の縫製順序を変更する組合せの場合には、この組合せに基づいて、縫製する部分模様の順序が適宜変更される。
【0063】
次に、S41で演算された第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2の割当てパターン(割当てられた複数の部分模様)に基づいて、縫製が途切れる、つまり 不連続になる部分模様の終点座標が演算される(S42)。即ち、縫製順序が予め決められている複数の部分模様配列に対して、第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2で縫製するようにS41で決定された割当てパターンにおいて、途中の部分模様から縫製を開始したり、部分模様の縫製順序が連続しない、所謂縫製順序が途切れる場合の部分模様に関する終点座標が演算される。
【0064】
次に、第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2の割当てパターンと、S42で演算された終点座標に基づいて、第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2により途中から縫製開始する部分模様の先頭にフィードデータが追加される(S43)。即ち、先に縫製を行う部分模様刺繍データの縫い終点から、次に縫製する部分模様刺繍データの縫い始点に刺繍枠9A,9Bを移動させるためにフィードデータが修正される。次に、元々最終の部分模様でないが、今回の割当てパターンにより最終に縫製される部分模様刺繍データの末尾に終了コードが追加され(S44)、刺繍データ処理制御のS21にリターンする。
【0065】
次に、刺繍データ処理制御において、第1多針刺繍ミシンM1に対して割当てパターンで縫製するように指示された部分模様刺繍データはRAM23Aの刺繍データメモリに格納される一方、第2多針刺繍ミシンM2に対して割当てパターンで縫製するように指示された部分模様刺繍データは、送受信部25A,25Bを介して、子機の第2多針刺繍ミシンM2に送信される(S21)。それ故、第2多針刺繍ミシンM2においては、送受信部25Bを介して受信した部分模様刺繍データがRAM23Bの刺繍データメモリに格納される。
【0066】
次に、図5に示す刺繍データの各部分模様を2台の多針刺繍ミシンM1,M2に割当てて刺繍縫製する刺繍データ処理の作用について説明する。この場合、第1多針刺繍ミシンM1には、6色の糸色(糸色1〜糸色6)の上糸が装備され、第2多針刺繍ミシンM2には、6色の糸色(糸色5〜糸色10)の上糸が装備されている。
【0067】
作業者により、10個の部分模様を有する刺繍模様(図5の刺繍データ参照)が選択された場合、部分模様毎の縫製時間が夫々演算され、図9に示すように、部分模様(1〜10)の夫々に対応して記憶される。次に、刺繍データに基づいて、糸色が重複しない糸色(糸色1〜糸色4)を有する第1〜第4部分模様の刺繍データに関して、第1多針刺繍ミシンM1に割当てられ、糸色が重複しない糸色(糸色7〜糸色10)を有する第7〜第10部分模様の刺繍データに関して、第2多針刺繍ミシンM2に割当てられる。
【0068】
ところで、重複する「糸色5」の「部分模様5」と、「糸色6」の「部分模様6」に関して、図10に示すように、4通りの組合せ(組合せ番号1〜4)が演算される。この場合、組合せ番号「3」については、第1多針刺繍ミシンM1において、部分模様「5」に代えて部分模様「6」を縫製するように縫製順序が変更されるとともに、第2多針刺繍ミシンM2において、部分模様「6」に代えて部分模様「5」を縫製するように縫製順序が変更される。
【0069】
次に、図11に示すように、これら4通りの組合せ(組合せ番号1〜4)の各々について、親機である第1多針刺繍ミシンM1による縫製時間と、子機である第2多針刺繍ミシンM2による縫製時間が夫々演算される。このとき、S12において、縫い順を変更しないように設定された場合には、4通りの組合せのうちから、縫い順を変更する「組合せ番号3」が削除され、残りの3通りの組合せ(組合せ番号1,2,4)のうちから、縫製時間の差が小さく、「2分」である「組合せ番号4」に決定される。
【0070】
それ故、図13に示すように、第1多針刺繍ミシンM1に、「部分模様5」と「部分模様6」とが割当てられる。次に、このように決定された「組合せ番号4」に基づいて、第1多針刺繍ミシンM1で縫製する刺繍データとして、6つの部分模様(部分模様1〜部分模様6)が割当てられ(図14−1参照)、第2多針刺繍ミシンM2で縫製する刺繍データとして、4つの部分模様(部分模様7〜部分模様10)が割当てられる(図14−2参照)。
【0071】
次に、図12−1に示すように、これら第1,第2多針刺繍ミシンM1,M2で割当てパターンに基づいて刺繍模様を縫製する際に縫製が途切れる、つまり不連続になる部分模様(第6部分模様)の終点座標「X6E,Y6E」が演算される。そして、図14−1に示すように、第1多針刺繍ミシンM1用の刺繍データとして、第6部分模様の末尾に、「終了コード」が追加される。
【0072】
また、図14−2に示すように、第2多針刺繍ミシンM2用の刺繍データとして、最初の「第7部分模様」の先頭に、1つ前の第6部分模様の終点座標「X6E,Y6E」へのフィードデータFDが追加される。この場合、第7部分模様は第2多針刺繍ミシンM2で最初に縫製されるデータであるので、フィードデータFDは、原点座標から「X6E,Y6E」へのフィードデータ「Fx6E,Fy6E」となる。そして、最終的に、図14−2に示す第2多針刺繍ミシンM2用の刺繍データが第2多針刺繍ミシンM2に送信される。
【0073】
そして、第1多針刺繍ミシンM1は、図14−1に示す第1多針刺繍ミシンM1用の刺繍データに基づいて、刺繍枠9Aにセットされた加工布に、部分模様1〜部分模様6まで一気に縫製される。その後、刺繍枠9Aが第1多針刺繍ミシンM1から取外されて第2多針刺繍ミシンM2に装着される。そして、第2多針刺繍ミシンM2により、図14−2に示す第2多針刺繍ミシンM2用の刺繍データに基づいて、残りの部分模様7〜部分模様10が一気に縫製される。
【0074】
ところで、重複する「糸色5」の「部分模様5」と、「糸色6」の「部分模様6」に関して、4通りの組合せ(組合せ番号1〜4)が演算(図10参照)され、S12において、縫い順を変更するように設定された場合には、演算された4通りの組合せの全てが有効になる。この場合には、図11の縫製時間情報に基づいて、4通りの組合せのうちから、縫製時間が等しくなる、つまり縫製時間の差が「0分」である「組合せ番号3」に決定される。
【0075】
そして、図15に示すように、「部分模様6」が第1多針刺繍ミシンM1に割当てられ、「部分模様5」が第2多針刺繍ミシンM2に割当てられる。次に、このように決定された「組合せ番号3」に基づいて、第1多針刺繍ミシンM1で縫製する刺繍データとして、5つの部分模様(部分模様1〜4,6)が割当てられ(図16−1参照)、第2多針刺繍ミシンM2で縫製する刺繍データとして、5つの部分模様(部分模様5,7〜10)が割当てられる(図16−2参照)。
【0076】
このとき、「部分模様5」と「部分模様6」の縫製順序が変更される。それ故、先の「部分模様5」は第2多針刺繍ミシンM2用の刺繍データに変更され、後の「部分模様6」は第1多針刺繍ミシンM1用の刺繍データに変更される。
【0077】
次に、前述したように、縫製が途切れる、つまり不連続になる部分模様(第4〜第6部分模様)の終点座標「X4E,Y4E」、「X5E,Y5E」、「X6E,Y6E」が夫々演算される(図12−2参照)。そして、図16−1に示すように、第1多針刺繍ミシンM1用の刺繍データとして、最後に縫製する「第6部分模様」の先頭に、第4部分模様の終点座標「X4E,Y4E」から第5部分模様の終点座標「X5E,Y5E」へのフィードデータFD「Fx4E5E,Fy4E5E」が追加され、この「第6部分模様」の末尾に、「終了コード」が追加される。
【0078】
また、図16−2に示すように、第2多針刺繍ミシンM2用の刺繍データとして、最初に縫製する「第5部分模様」の先頭に、原点座標から1つ前の第4部分模様の終点座標「X4E,Y4E」へのフィードデータFD「Fx4E,Fy4E」が、既にあるフィードデータ「Fxe,Fye」の前に追加される。更に、次の「第7部分模様」の先頭に、第5部分模様の終点座標「X5E,Y5E」から1つ前の第6部分模様の終点座標「X6E,Y6E」へのフィードデータFD「Fx5E6E,Fy5E6E」が、既にあるフィードデータ「Fxg,Fyg」の前に追加される。そして、最終的に、図16−2に示す第2多針刺繍ミシンM2用の刺繍データが第2多針刺繍ミシンM2に送信される。
【0079】
そして、第1多針刺繍ミシンM1は、図16−1に示す第1多針刺繍ミシンM1用の刺繍データに基づいて、刺繍枠にセットされた加工布に、部分模様1〜部分模様4,部分模様6まで一気に縫製される。その後、刺繍枠が第1多針刺繍ミシンM1から取外されて第2多針刺繍ミシンM2に装着される。そして、第2多針刺繍ミシンM2により、図16−2に示す第2多針刺繍ミシンM2用の刺繍データに基づいて、残りの部分模様5,部分模様7〜部分模様10が一気に縫製される。
【実施例2】
【0080】
図17に示すように、刺繍縫製システムHS2は、マイクロコンピュータからなる刺繍データ処理装置40と、この刺繍データ処理装置40に接続線16A,16Bで夫々接続された2台の第1,第2多針式刺繍ミシンM1A、M2Aとを有している。これら第1,第2多針式刺繍ミシンM1A,M2Aは、前記実施例1の第1,第2多針式刺繍ミシンM1,M2と基本的に同様に構成されているので、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0081】
次に、刺繍データ処理装置40は、図17に示すように、PC制御部41と、ディスプレイ42と、キーボード43と、マウス44等を有している。図18に示すように、PC制御部41は、CPU50と、ROM51と、RAM52と、ハードディスク53a(HD)を備えたハードディスクドライブ53(HDD)と、送受信部54と、これらを接続するバス(図示略)とを含むマイクロコンピュータと、このバスに接続されたキーボード43と、マウス44と、CDドライブ45、DVDドライブ46、ディスプレイ42等を装備している。更に、刺繍データ処理装置40には、接続線16A,16Bを介して第1,第2多針刺繍ミシンM1A、M2Aが、データ通信可能に接続されている。
【0082】
送受信部54は、第1,第2多針式刺繍ミシンM1A,M2Aに有する縫製制御装置20A,20Bに対して、夫々各種のデータを個別に送受信可能な通信部である。ROM51には、PC制御部41の電源ON時にPC制御部41を起動する起動プログラム等、種々のプログラムが格納されている。ハードディスク53aには、OS(オペレーティングシステム)や、ディスプレイ42、キーボード43、マウス44等を使用可能とする為の各種ドライバが組み込まれている。更に、ハードディスク53aには、本願特有の後述する刺繍データ処理制御の制御プログラム(図19参照)が記憶されている。
【0083】
そこで、PC制御部41により実行される刺繍データ処理制御(図19参照)について説明する。但し、この刺繍データ処理制御のS51〜S60、S62については、前述した実施例の図6に示す刺繍データ処理制御のS11〜S20、S22と同様なのでその説明を省略し、異なるS61について説明する。ここで、刺繍データは接続線16Aを介してミシンM1AからPC制御部41に読み込まれるものとする。
【0084】
即ち、S60において、前述したように、各第1,第2多針刺繍ミシンM1A,M2Aで縫製する部分模様刺繍データが夫々演算される。それ故、縫製順序を変更しない場合には、第1多針刺繍ミシンM1A用に図14−1(又は図16−1)に示す刺繍データが作成されるとともに、第2多針刺繍ミシンM2A用に図14−2(又は図16−2)に示す刺繍データが作成される。
【0085】
そこで、次に、刺繍データ処理装置40の送受信部54を介して、図14−1(又は図16−1)に示す第1多針刺繍ミシンM1A用の刺繍データが送受信部54を介して第1多針刺繍ミシンM1Aの縫製制御装置20Aに送信され、図14−2(又は図16−2)に示す第2多針刺繍ミシンM2A用の刺繍データが送受信部54を介して第2多針刺繍ミシンM2Aの縫製制御装置20Bに送信される(S61)。
【0086】
そして、第1多針刺繍ミシンM1Aは、刺繍データ処理装置40から受信した第1多針刺繍ミシンM1A用の刺繍データに基づいて、刺繍枠9Aにセットされた加工布に、部分模様1〜部分模様6まで(又は部分模様1〜部分模様4,部分模様6まで)一気に縫製される。
【0087】
その後、刺繍枠9Aが第1多針刺繍ミシンM1Aから取外されて第2多針刺繍ミシンM2Aに装着される。そして、第2多針刺繍ミシンM2Aは、刺繍データ処理装置40から受信した第2多針刺繍ミシンM2A用の刺繍データに基づいて、刺繍枠9Aにセットされた加工布に、残りの部分模様7〜部分模様10(又は部分模様5,部分模様7〜部分模様10)が縫製される。
【0088】
ここで、図6の刺繍データ処理制御のS14を実行する縫製制御装置20Aと、図19のS54を実行するPC制御部41が夫々縫製時間演算手段に相当する。図6の刺繍データ処理制御のS12,S17〜S20を実行する縫製制御装置20Aと、図19のS52,S57〜S60を実行するPC制御部41が夫々割当て手段に相当する。図7に示す部分模様の組合せ演算制御のS31を実行する縫製制御装置20A及びPC制御部41が夫々組合せ演算手段に相当する。
【0089】
図7に示す部分模様の組合せ演算制御のS32を実行する縫製制御装置20A及びPC制御部41が夫々ミシン別縫製時間演算手段に相当する。図6の刺繍データ処理制御のS12を実行する縫製制御装置20Aと、図19のS52を実行するPC制御部41が夫々設定手段に相当する。図8に示す部分模様刺繍データ演算制御のS41を実行する縫製制御装置20A及びPC制御部41が夫々縫製順序変更手段に相当する。
【0090】
図8に示す部分模様刺繍データ演算制御のS42,S43を実行する縫製制御装置20A及びPC制御部41が夫々フィードデータ修正手段に相当する。図8に示す部分模様刺繍データ演算制御のS44を実行する縫製制御装置20A及びPC制御部41が夫々終了コード変更手段に相当する。
【0091】
ところで、第1多針刺繍ミシンM1のROM22A、或いはハードディスク53aに記憶した本願特有の刺繍データ処理制御プログラムを、CD−ROM、フレキシブルディスク、DVD、メモリーカード等、各種のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録するようにしてもよい。この場合、この記録媒体を種々の多針刺繍ミシンや刺繍データ処理装置により読み込んで実行させることにより、この場合にも、前述したのと同様の作用及び効果を奏することができる。
【0092】
次に、前記実施例を部分的に変更した変更形態について説明する。
1)刺繍縫製システムHS1は、1台の親機である多針式刺繍ミシンと、この第1多針式刺繍ミシンM1に接続線で接続された3台以上の子機である多針刺繍ミシンとにより構成するようにしてもよい。また、各多針刺繍ミシンは、7色以上の上糸を交換可能に装備するように構成されていてもよい。
【0093】
2)刺繍縫製システムHS2は、1台の刺繍データ処理装置と、この刺繍データ処理装置に接続線で接続された3台以上の多針式刺繍ミシンとにより構成するようにしてもよい。また、各多針刺繍ミシンは、7色以上の上糸を交換可能に装備するように構成されていてもよい。
【0094】
3)刺繍データはROM22Aに記憶されているのでなく、CD−ROM、フレキシブルディスク、DVD、メモリーカード、USBメモリ等の外部記憶媒体に記憶されているものであってもよい。
【0095】
4)縫製時間の演算方法については、各部分模様の総針数に標準1縫製サイクル時間を掛けた値を用いてもよい。
【0096】
5)本発明は、以上説明した実施例に限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を付加して実施することができ、本発明はそれらの変更形態をも包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】実施例1に係る刺繍縫製システムの概略図である。
【図2】第1,第2多針刺繍ミシンの制御系のブロック図である。
【図3】第1多針刺繍ミシンに有する糸色情報の図表である。
【図4】第2多針刺繍ミシンに有する糸色情報の図表である。
【図5】刺繍データのデータ構成を説明する図表である。
【図6】刺繍データ処理制御のフローチャートである。
【図7】部分模様の組合せ演算制御のフローチャートである。
【図8】部分模様刺繍データ演算制御のフローチャートである。
【図9】10個の部分模様を有する刺繍データのデータ構成を説明する図表である。
【図10】複数の糸色が重複する複数通りの組合せを示す図表である。
【図11】複数通りの組合せに対する縫製時間と縫製時間の差を示す図表である。
【図12−1】縫製が不連続になる部分模様6の終点座標を示す図表である。
【図12−2】縫製が不連続になる部分模様4〜6の終点座標を示す図表である。
【図13】2台の多針刺繍ミシンに割当てる割当てパターンを示す図表である。
【図14−1】第1多針刺繍ミシン用の刺繍データを示す図表である。
【図14−2】第2多針刺繍ミシン用の刺繍データを示す図表である。
【図15】2台の多針刺繍ミシンに割当てる割当てパターンを示す図表である。
【図16−1】第1多針刺繍ミシン用の刺繍データを示す図表である。
【図16−2】第2多針刺繍ミシン用の刺繍データを示す図表である。
【図17】実施例2に係る刺繍縫製システムの概略図である。
【図18】刺繍データ処理装置の制御系のブロック図である。
【図19】実施例2に係る図6相当図である。
【符号の説明】
【0098】
M1 第1多針刺繍ミシン(刺繍データ処理装置)
M2 第2多針刺繍ミシン
6A 操作パネル
6b タッチパネル
9A 刺繍枠
9B 刺繍枠
M1A 第1多針刺繍ミシン
M2A 第2多針刺繍ミシン
40 刺繍データ処理装置(パーソナルコンピュータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる糸色の複数の上糸を用いて刺繍縫製に供する加工布を保持する刺繍枠を所定の2方向に移動させる刺繍枠駆動機構を有する多針刺繍ミシンを複数台使用して刺繍模様を縫製する際の刺繍データを処理する刺繍データ処理装置において、
前記刺繍模様を構成する複数の糸色別の部分模様に関する部分模様刺繍データに基づいて、部分模様毎の縫製時間を演算する縫製時間演算手段と、
前記縫製時間演算手段の演算結果に基づいて、前記複数の部分模様を前記複数台の多針刺繍ミシンに割当てて縫製する際に、前記多針刺繍ミシンの縫製時間が夫々等しくなるか又は差が小さくなるように前記複数の部分模様を前記複数台の多針刺繍ミシンに割当てる割当てパターンを演算する割当て手段と、
を備えたことを特徴とする刺繍データ処理装置。
【請求項2】
前記刺繍データに含まれる糸色の色数は、前記1台の多針刺繍ミシンに装備可能な上糸の色数よりも多いことを特徴とする請求項1に記載の刺繍データ処理装置。
【請求項3】
前記割当て手段は、
前記複数台の多針刺繍ミシンに装備された上糸について複数の糸色が重複する場合に、これら重複する上糸で縫製する複数の部分模様を前記複数の多針刺繍ミシンに割当てる複数通りの組合せを演算する組合せ演算手段と、
前記組合せ演算手段で演算された複数通りの組合せを加味した複数の割当てパターンにおける前記複数の多針刺繍ミシン毎の縫製時間を演算するミシン別縫製時間演算手段とを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の刺繍データ処理装置。
【請求項4】
前記割当て手段は、
前記複数の部分模様の縫製順序の変更を設定可能な設定手段と、
前記設定手段で縫製順序の変更を設定した場合、前記ミシン別縫製時間演算手段により演算された演算結果に基づいて、少なくとも一方の多針刺繍ミシンにおける前記複数の部分模様の縫製順序を変更する縫製順序変更手段と、
を有することを特徴とする請求項3に記載の刺繍データ処理装置。
【請求項5】
先に縫製を行う部分模様刺繍データの縫い終点から、次に縫製する部分模様刺繍データの縫い始点に前記刺繍枠を移動させるためのフィードデータを修正するフィードデータ修正手段と、前記刺繍模様の縫製終了を指令する終了コードを変更する終了コード変更手段とを有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の刺繍データ処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの刺繍データ処理装置と、前記刺繍データ処理装置で処理された各種のデータを外部に通信可能な通信手段とを有する第1の多針刺繍ミシンと、前記第1の多針刺繍ミシンから送信されたデータを受信可能な受信手段を有する第2の多針刺繍ミシンとを備えたことを特徴とする刺繍縫製システム。
【請求項7】
請求項1〜5の何れかの刺繍データ処理装置であって処理した各種のデータを外部に通信可能な通信手段を有する刺繍データ処理装置と、前記刺繍データ処理装置から送信されたデータを受信可能な受信手段を夫々有する第1及び第2の多針刺繍ミシンとを備えたことを特徴とする刺繍縫製システム。
【請求項8】
請求項1〜5の何れかに記載の刺繍データ処理装置又は請求項6若しくは請求項7に記載の刺繍縫製システムとしてコンピュータを機能させるための刺繍データ処理プログラム。
【請求項9】
請求項8に記載の刺繍データ処理プログラムをコンピュータで読み取り可能に記録したことを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15】
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【図16−1】
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【図16−2】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−22400(P2009−22400A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186572(P2007−186572)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】